CROSS CAPTURE29 「黒と白が起こす災厄」
遠くを見ながら語るイリアドゥスの言葉に、オルガ達を除く全員が目を見開いていた。
【愚神】。それは、この世界に来る前の戦いでエンが言っていた言葉だから。
「エンが言ってた愚神って、あんたの事だったのか?」
「ちょっと、リク…!」
ストレートに問い質すリクに、思わずオパールが声を荒げる。
しかし、イリアドゥスは顔色一つ変えずに肯定した。
「そうね。私はかつて自分の思うままに行動して、大きな過ちを犯したもの……そして、大切なモノを失って長い年月を閉じ籠った…」
「イリアさん…」
何か悲しい事を思い出したように、イリアドゥスの表情に暗い影が落ちる。
どう声をかけていいか分からずにカイリがイリアドゥスを見ていると、一人の人物が動いた。
「例え大きな罪を犯したとしても、神が嘆いてたら周りだけでなく世界も暗いままだ。だから、笑って笑顔を見せてくれないか? あなたはこんなにも美しいのだから…」
何処か優しげに語りながら、クウはイリアドゥスの手を取るとそっと包み込む様に握り締める。
「って、クウ!? 何さりげに罰当たりな事をしているっ!?」
「神を口説くなど言語道断!! すぐに成敗を――!!」
目の前で神を口説きだすクウに、さすがのテラも怒鳴り声を上げる。
アクアも怒りを露わにしてキーブレードを取り出し、無礼な行為を止めさせようとする。
「ふふっ……アハハハッ!!」
ところが、予想に反して突然イリアドゥスは大声で笑い始める。
これには周りだけでなくクウですらも茫然としていると、イリアドゥスは尚も笑いながら喋り出した。
「あなた、なかなかね…っ! 私を口説くなんて、このセカイに産まれてから始めての事だわ!」
そう話すなり、再び笑うイリアドゥス。
口説かれた事に対して不快どころか好感を持つイリアドゥスに、我に返ったのかすぐにクウも取り繕い微笑みを浮かべた。
「やっぱり、あなたは女神だ。愚神なら笑顔なんて似合わないからな」
そう語りかけた直後、クウの横を蒼い炎弾が通り過ぎて激しい爆発と共に後ろの壁に大穴を開けた。
「な、何だぁ!?」
明らかに狙ってきた攻撃に、クウだけでなくイリアドゥスを除いた全員が飛んできた方向に顔を向ける。
そこには、恐ろしい光景が広がっていた。
「母様が心配で後を付けて正解だった……母様に付け入ろうとする蛆虫がいたのだからなぁぁーーーーーーっ!!!」
「アイネアス、サイキ…――敵を見つけました、すぐに城全体に結界を張りなさい。それと戦える者をこちらに……母様を誑かす愚か者に我らが半神の裁きを」
炎、そして維持と模倣の半神の筈なのに、鬼神と化したブレイズとヴェリシャナがそこにいた。
只ならぬオーラを纏いながらブレイズは武器である大剣を、ヴェリシャナに至っては通信用の魔法陣を使い増援を要請しながら、今もイリアドゥスの手を掴んでいるクウを睨みつけている。
「ブレイズさん、ヴェリシャナさん…もの凄く、ご立腹だね…!?」
半神の中でも母(イリアドゥス)に対して人一倍強く思っている二人の姿に、イオンは震え上がり壁際に後退りする。
もちろん、イオンだけでなくクウとイリアを除く全員が壁際に避難し始める。
「クウ…短い間だったがそれなりに楽しかったぜ」
「友として過ごした日々は忘れないからな…」
「師匠…ボクも命が惜しいから…」
『とりあえず、冥福を祈っておくわ…』
そう言いながら、菜月、テラ、シャオが何処か諦めの目でクウから距離を取る。
更に今の状況に憐みを感じたのか、イリアドゥスの口を借りてレプキアまでもが言葉を送るがイリアドゥス以外誰も気づかない。
ここにいる全員、恐怖と憤慨でそこまで思考を廻せないのだから。
「全員離れないでくれぇ!? だ、誰か助けて――!!」
「皆さーん、クウさんの事はもうほっといていいですからー」
クウが救援を求めていると、冷ややかな声が部屋に響く。
見ると、ベットで寝ていたレイアが起き上っていて、冷めた目をしてクウを見ていた。
「レイア、起きてたのか!? 丁度いい、二人を説得して――!!」
「知りません! 美人で胸が大きい人を選ぶクウさんなんて、地獄の炎に焼かれて反省すればいいんです!」
「反省じゃすまねーから!? 炭どころか灰にまで燃やされるレベルだぞこれぇ!!?」
「安心しろぉ…消し炭も残らぬほど貴様の存在をこの世から消し去ってくれるぅ!!!」
大声で怒鳴り散らすなり、ブレイズはクウに向かって激しい炎を纏った大剣を振り下ろす。
そうして大きな爆発が起こり、窓ガラスが吹き飛ぶと共に壁に開いた穴から勢いよく煙が噴き上がる。その煙の中から、白と黒の双翼を具現化させたクウが夜空に向かって飛び出した。
「すいませーーーーんっ!!?」
「待てぇ!!! この戯け者がぁぁぁ!!!!!」
上空へ逃げるクウを睨みつけながら、ブレイズもまた飛翔して後を追いかける。
ヴェリシャナもブレイズが開けた穴を通って部屋を去ると、ようやく部屋全体に圧し掛かっていた重圧が解けて全員が安堵の息を吐いた。
「自業自得ね」
「当然の報いだな」
「クウの方がよっぽど救いようのない人間だよね」
「あんな人が、どうしてキーブレードを持てたのかしら…」
三人が去った方向を見ながらオパール、リク、カイリ、アクアが呆れながら心に思った事を口にする。
「イリアドゥスをナンパするなんて、後にも先にもクウぐらいしか出てこないんじゃない?」
「だろうな、外見てみろよ…もの凄い光景が広がってるぜ」
同じくアーファも呆れを見せていると、オルガが青い顔で炎の爆発と破壊音の響く外を眺めている。
「でも、見て」
不意にペルセが声をかけると、彼女が笑いながらある方向に目を向ける。
見ると、さっきまでの暗い顔ではなく、笑顔を浮かべて三人の様子を眺めているイリアドゥスの姿がそこにはあった。
「イリアドゥスさんを笑顔にするなんて凄いですよ。僕の父さんみたい」
方法はどうあれ、イリアドゥスを笑顔にした事にイオンも嬉しそうに笑う。
そうして自身の父親を思い浮かべると、ある思考が芽生える。
(そう言えば…父さん達、今頃どうしてるんだろ?)
元々は神月達の住む世界に遊びに行った途中で、この騒動が起きてしまった。それから今まで家族に連絡一つしていなかった事を思い出す。
イオンが故郷の家族を思っていると、アクアが声をかけた。
「じゃあ、私達はそろそろ寝ましょうか」
「そうだね、明日もあるし」
「なら、俺達も退散するか」
カイリも頷くと、オルガも外の光景から目を外して軽く背伸びをする。
「レイアもあたし達と一緒に戻るでしょ?」
同じ部屋であるオパールが振り返って聞くと、レイアは少し恥ずかしそうに顔を俯かせた。
「あの…私はクウさんが帰って来てからでいいでしょうか…?」
「何だかんだ言って、結局クウが好きなのね」
「わ、私はそんな…!」
思わず顔を赤くしたレイアに、カイリがクスクスと笑いながら話を纏めた。
「はいはい。じゃあお休み、レイア」
「はい、お休みなさい」
こうして会話が一段落すると、レイア以外の全員が部屋を去って行った。
未だに激しい音が外から響く中、気にする事無くレイアはベットから降りようとした所で黒いコートを見つける。
何時もクウが着ている事を知っている為、自分の為に置いてくれたのが分かる。軽く持ち上げると、触れた部分に僅かな温もりを感じてギュっと抱きしめた。
「えへへ…いつ触っても温かいです」
コートに残るクウの温もりに、レイアの顔が綻ぶ。
身に染みてクウの優しさを感じていると、コートのポケットに固い感触を感じた。
「あれ…?」
不審に思い、すぐにレイアはコートのポケットに手を入れて探り出すと手に何かが当たる。
ポケットから取り出すと、それはシンプルな銀のロケットだった。今までクウと一緒にいたが、こんな物は一度も見た事もない。
レイアはロケットの部分を弄って蓋を開け…――大きく息を呑んだ。
「これ…スピカ、さん?」
中にあったのは、幼い頃のスピカとウィドと二人の男女が映った古びた家族写真。そして一枚の黒い羽根だった…。
「じゃあ、私達はここで。イリアさんはどうします?」
「私はこれから外にいる二人を止めに行くから、気にしないで」
「じゃあ、お休み!」
廊下が分かれている所で、カイリとイリアドゥスの会話を聞き終えるとオパールが手を振って女性陣の使う部屋の方へと去っていく。
アクアとカイリ、アーファとペルセも別れて去っていくのを男性陣は見送り、自分達もそれぞれの部屋へと戻ろうとした。
「シャオ、少しいいかしら?」
そうしてテラ達が自分達の当てられた部屋に戻ろうとした時。突然、イリアドゥスがシャオを呼び止める。
シャオは困惑しつつもテラ達を先に部屋に戻させると、二人きりになった廊下でイリアドゥスと向かい合った。
「なに?」
「あなたの事。そして、あなたの本来住んでいる世界についてよ」
何でもない様に話すイリアドゥスだが、その内容にシャオは大きく目を見開く。
「それって…!?」
「あなた中にある記憶を取り込んで知ったわ。その世界で起こった数々の事件、世界の真実。そして、あなた自身についても」
「…何を、言いたいの?」
淡々と語るイリアドゥスに、探りを入れるようにシャオが軽く睨みつける。
だが、内心は分かってた。きっとイリアドゥスは全てを知ってしまっている。自分の両親の事、自分の住む世界がどう言ったモノなのかも全て。
何を言われても受け止める覚悟をするシャオ。だが、イリアドゥスの放った言葉はシャオが予想したのとは全然違った。
「あなたにとってここは異世界であり、関係ない場所。それでも、全ては繋がっている。あなたがここに来る事は必然なの」
自分の事や世界の事について問われるとばかり思っていたシャオは、思わず眉を顰めてしまう。
だが、次の言葉を聞いてシャオは驚愕する事になる。
「――ここでシルビアを取り戻さないと、あなたの世界は消えてしまう。過去も今も…未来も全て」
場所は変わり、とある一つの世界。
この世界も月夜が広がり、海の波音も穏やかに響く。まさしく平穏そもそのだ。
とある民家からの激しい物音がなければ。
「――ッ…!!」
一人の男性が倒れ、呻き声を上げる。
激しい痛みを感じながらどうにか顔を上げようとした所で、胸の部分を刺されて意識を失う。
そうして気を失ってしまった男性の傍らには、何とカルマがいた。その手には、キーブレードを握っている。
「どうにか中身の回収は済んだわね。もう一人いたのは予想外だったけど」
そう言うと、カルマは笑いながら後ろを振り返る。
「………」
そこには、顔を露わにしているエンが無言で顔を逸らしていた。そんな彼の足元には、もう一人男性が床に倒れている。
思わずカルマがやれやれと肩を竦めていた時、扉の開く音がした。
「ヒッ…!」
小さな悲鳴が聞こえ二人が振り返ると、そこにはバスケットを持った一人の女性が顔を青くして立っている。
この現場を見られ、即座にカルマが動く。
「だ…だれ…!? 二人に何したの――!?」
必死になって叫び声を上げるが、カルマの一閃がその身に襲い掛かった。
【愚神】。それは、この世界に来る前の戦いでエンが言っていた言葉だから。
「エンが言ってた愚神って、あんたの事だったのか?」
「ちょっと、リク…!」
ストレートに問い質すリクに、思わずオパールが声を荒げる。
しかし、イリアドゥスは顔色一つ変えずに肯定した。
「そうね。私はかつて自分の思うままに行動して、大きな過ちを犯したもの……そして、大切なモノを失って長い年月を閉じ籠った…」
「イリアさん…」
何か悲しい事を思い出したように、イリアドゥスの表情に暗い影が落ちる。
どう声をかけていいか分からずにカイリがイリアドゥスを見ていると、一人の人物が動いた。
「例え大きな罪を犯したとしても、神が嘆いてたら周りだけでなく世界も暗いままだ。だから、笑って笑顔を見せてくれないか? あなたはこんなにも美しいのだから…」
何処か優しげに語りながら、クウはイリアドゥスの手を取るとそっと包み込む様に握り締める。
「って、クウ!? 何さりげに罰当たりな事をしているっ!?」
「神を口説くなど言語道断!! すぐに成敗を――!!」
目の前で神を口説きだすクウに、さすがのテラも怒鳴り声を上げる。
アクアも怒りを露わにしてキーブレードを取り出し、無礼な行為を止めさせようとする。
「ふふっ……アハハハッ!!」
ところが、予想に反して突然イリアドゥスは大声で笑い始める。
これには周りだけでなくクウですらも茫然としていると、イリアドゥスは尚も笑いながら喋り出した。
「あなた、なかなかね…っ! 私を口説くなんて、このセカイに産まれてから始めての事だわ!」
そう話すなり、再び笑うイリアドゥス。
口説かれた事に対して不快どころか好感を持つイリアドゥスに、我に返ったのかすぐにクウも取り繕い微笑みを浮かべた。
「やっぱり、あなたは女神だ。愚神なら笑顔なんて似合わないからな」
そう語りかけた直後、クウの横を蒼い炎弾が通り過ぎて激しい爆発と共に後ろの壁に大穴を開けた。
「な、何だぁ!?」
明らかに狙ってきた攻撃に、クウだけでなくイリアドゥスを除いた全員が飛んできた方向に顔を向ける。
そこには、恐ろしい光景が広がっていた。
「母様が心配で後を付けて正解だった……母様に付け入ろうとする蛆虫がいたのだからなぁぁーーーーーーっ!!!」
「アイネアス、サイキ…――敵を見つけました、すぐに城全体に結界を張りなさい。それと戦える者をこちらに……母様を誑かす愚か者に我らが半神の裁きを」
炎、そして維持と模倣の半神の筈なのに、鬼神と化したブレイズとヴェリシャナがそこにいた。
只ならぬオーラを纏いながらブレイズは武器である大剣を、ヴェリシャナに至っては通信用の魔法陣を使い増援を要請しながら、今もイリアドゥスの手を掴んでいるクウを睨みつけている。
「ブレイズさん、ヴェリシャナさん…もの凄く、ご立腹だね…!?」
半神の中でも母(イリアドゥス)に対して人一倍強く思っている二人の姿に、イオンは震え上がり壁際に後退りする。
もちろん、イオンだけでなくクウとイリアを除く全員が壁際に避難し始める。
「クウ…短い間だったがそれなりに楽しかったぜ」
「友として過ごした日々は忘れないからな…」
「師匠…ボクも命が惜しいから…」
『とりあえず、冥福を祈っておくわ…』
そう言いながら、菜月、テラ、シャオが何処か諦めの目でクウから距離を取る。
更に今の状況に憐みを感じたのか、イリアドゥスの口を借りてレプキアまでもが言葉を送るがイリアドゥス以外誰も気づかない。
ここにいる全員、恐怖と憤慨でそこまで思考を廻せないのだから。
「全員離れないでくれぇ!? だ、誰か助けて――!!」
「皆さーん、クウさんの事はもうほっといていいですからー」
クウが救援を求めていると、冷ややかな声が部屋に響く。
見ると、ベットで寝ていたレイアが起き上っていて、冷めた目をしてクウを見ていた。
「レイア、起きてたのか!? 丁度いい、二人を説得して――!!」
「知りません! 美人で胸が大きい人を選ぶクウさんなんて、地獄の炎に焼かれて反省すればいいんです!」
「反省じゃすまねーから!? 炭どころか灰にまで燃やされるレベルだぞこれぇ!!?」
「安心しろぉ…消し炭も残らぬほど貴様の存在をこの世から消し去ってくれるぅ!!!」
大声で怒鳴り散らすなり、ブレイズはクウに向かって激しい炎を纏った大剣を振り下ろす。
そうして大きな爆発が起こり、窓ガラスが吹き飛ぶと共に壁に開いた穴から勢いよく煙が噴き上がる。その煙の中から、白と黒の双翼を具現化させたクウが夜空に向かって飛び出した。
「すいませーーーーんっ!!?」
「待てぇ!!! この戯け者がぁぁぁ!!!!!」
上空へ逃げるクウを睨みつけながら、ブレイズもまた飛翔して後を追いかける。
ヴェリシャナもブレイズが開けた穴を通って部屋を去ると、ようやく部屋全体に圧し掛かっていた重圧が解けて全員が安堵の息を吐いた。
「自業自得ね」
「当然の報いだな」
「クウの方がよっぽど救いようのない人間だよね」
「あんな人が、どうしてキーブレードを持てたのかしら…」
三人が去った方向を見ながらオパール、リク、カイリ、アクアが呆れながら心に思った事を口にする。
「イリアドゥスをナンパするなんて、後にも先にもクウぐらいしか出てこないんじゃない?」
「だろうな、外見てみろよ…もの凄い光景が広がってるぜ」
同じくアーファも呆れを見せていると、オルガが青い顔で炎の爆発と破壊音の響く外を眺めている。
「でも、見て」
不意にペルセが声をかけると、彼女が笑いながらある方向に目を向ける。
見ると、さっきまでの暗い顔ではなく、笑顔を浮かべて三人の様子を眺めているイリアドゥスの姿がそこにはあった。
「イリアドゥスさんを笑顔にするなんて凄いですよ。僕の父さんみたい」
方法はどうあれ、イリアドゥスを笑顔にした事にイオンも嬉しそうに笑う。
そうして自身の父親を思い浮かべると、ある思考が芽生える。
(そう言えば…父さん達、今頃どうしてるんだろ?)
元々は神月達の住む世界に遊びに行った途中で、この騒動が起きてしまった。それから今まで家族に連絡一つしていなかった事を思い出す。
イオンが故郷の家族を思っていると、アクアが声をかけた。
「じゃあ、私達はそろそろ寝ましょうか」
「そうだね、明日もあるし」
「なら、俺達も退散するか」
カイリも頷くと、オルガも外の光景から目を外して軽く背伸びをする。
「レイアもあたし達と一緒に戻るでしょ?」
同じ部屋であるオパールが振り返って聞くと、レイアは少し恥ずかしそうに顔を俯かせた。
「あの…私はクウさんが帰って来てからでいいでしょうか…?」
「何だかんだ言って、結局クウが好きなのね」
「わ、私はそんな…!」
思わず顔を赤くしたレイアに、カイリがクスクスと笑いながら話を纏めた。
「はいはい。じゃあお休み、レイア」
「はい、お休みなさい」
こうして会話が一段落すると、レイア以外の全員が部屋を去って行った。
未だに激しい音が外から響く中、気にする事無くレイアはベットから降りようとした所で黒いコートを見つける。
何時もクウが着ている事を知っている為、自分の為に置いてくれたのが分かる。軽く持ち上げると、触れた部分に僅かな温もりを感じてギュっと抱きしめた。
「えへへ…いつ触っても温かいです」
コートに残るクウの温もりに、レイアの顔が綻ぶ。
身に染みてクウの優しさを感じていると、コートのポケットに固い感触を感じた。
「あれ…?」
不審に思い、すぐにレイアはコートのポケットに手を入れて探り出すと手に何かが当たる。
ポケットから取り出すと、それはシンプルな銀のロケットだった。今までクウと一緒にいたが、こんな物は一度も見た事もない。
レイアはロケットの部分を弄って蓋を開け…――大きく息を呑んだ。
「これ…スピカ、さん?」
中にあったのは、幼い頃のスピカとウィドと二人の男女が映った古びた家族写真。そして一枚の黒い羽根だった…。
「じゃあ、私達はここで。イリアさんはどうします?」
「私はこれから外にいる二人を止めに行くから、気にしないで」
「じゃあ、お休み!」
廊下が分かれている所で、カイリとイリアドゥスの会話を聞き終えるとオパールが手を振って女性陣の使う部屋の方へと去っていく。
アクアとカイリ、アーファとペルセも別れて去っていくのを男性陣は見送り、自分達もそれぞれの部屋へと戻ろうとした。
「シャオ、少しいいかしら?」
そうしてテラ達が自分達の当てられた部屋に戻ろうとした時。突然、イリアドゥスがシャオを呼び止める。
シャオは困惑しつつもテラ達を先に部屋に戻させると、二人きりになった廊下でイリアドゥスと向かい合った。
「なに?」
「あなたの事。そして、あなたの本来住んでいる世界についてよ」
何でもない様に話すイリアドゥスだが、その内容にシャオは大きく目を見開く。
「それって…!?」
「あなた中にある記憶を取り込んで知ったわ。その世界で起こった数々の事件、世界の真実。そして、あなた自身についても」
「…何を、言いたいの?」
淡々と語るイリアドゥスに、探りを入れるようにシャオが軽く睨みつける。
だが、内心は分かってた。きっとイリアドゥスは全てを知ってしまっている。自分の両親の事、自分の住む世界がどう言ったモノなのかも全て。
何を言われても受け止める覚悟をするシャオ。だが、イリアドゥスの放った言葉はシャオが予想したのとは全然違った。
「あなたにとってここは異世界であり、関係ない場所。それでも、全ては繋がっている。あなたがここに来る事は必然なの」
自分の事や世界の事について問われるとばかり思っていたシャオは、思わず眉を顰めてしまう。
だが、次の言葉を聞いてシャオは驚愕する事になる。
「――ここでシルビアを取り戻さないと、あなたの世界は消えてしまう。過去も今も…未来も全て」
場所は変わり、とある一つの世界。
この世界も月夜が広がり、海の波音も穏やかに響く。まさしく平穏そもそのだ。
とある民家からの激しい物音がなければ。
「――ッ…!!」
一人の男性が倒れ、呻き声を上げる。
激しい痛みを感じながらどうにか顔を上げようとした所で、胸の部分を刺されて意識を失う。
そうして気を失ってしまった男性の傍らには、何とカルマがいた。その手には、キーブレードを握っている。
「どうにか中身の回収は済んだわね。もう一人いたのは予想外だったけど」
そう言うと、カルマは笑いながら後ろを振り返る。
「………」
そこには、顔を露わにしているエンが無言で顔を逸らしていた。そんな彼の足元には、もう一人男性が床に倒れている。
思わずカルマがやれやれと肩を竦めていた時、扉の開く音がした。
「ヒッ…!」
小さな悲鳴が聞こえ二人が振り返ると、そこにはバスケットを持った一人の女性が顔を青くして立っている。
この現場を見られ、即座にカルマが動く。
「だ…だれ…!? 二人に何したの――!?」
必死になって叫び声を上げるが、カルマの一閃がその身に襲い掛かった。
■作者メッセージ
とりあえず、自分なりに書きたい事は書いたので私のターンは終了です。
残り一日の時間帯ではこれ以上考えきれないので、私の次のバトンはおそらく翌日以降になった際だと思います。
残り一日の時間帯ではこれ以上考えきれないので、私の次のバトンはおそらく翌日以降になった際だと思います。