CROSS CAPTURE31 「始まりの予兆」
シルビアによってクウ達が『ビフロンス』に移動され、一夜が明けた。
新しい一日を迎えた城の中では、広間に用意された朝食を取ろうとさまざまな人達が集まり出す。
そんな中、チェル、シンク、ヘカテー、イブも広間に向かって廊下を歩いていた。
「んん〜、今日もいい朝ね〜!」
「昨日の今日で、よくそんな事言えるな……少し弛んでいるぞ」
気持ち良さそうに大きく背伸びするイブに、チェルは厳しい言葉を送る。
だが、そんな御小言にイブは気にする様子もなく軽く受け流した。
「いいじゃない、別に。別世界から来たって人達、敵って訳じゃなかったんでしょ?」
「確かにイブさんの言う通りですけど、何と言うか…」
「何かが起きそう、って感じだよね…」
「“何か”、か…」
神妙な面付きを浮かべるシンクとヘカテーに、チェルも思考に耽る。
レプセキアの戦いの後に、イリアドゥスの語った「そういうこと」。もしかしたら、彼らが来た事により自分達に与えられた休息が終わろうとしているのかもしれない…。
「レイアが寝込んだぁ!!?」
その時、廊下の先で聞き覚えの無い男の声が響き渡る。
四人が前を向くと、そこには見た事もない人物達が八人ほどいる。何人かは怪我が癒えてないのか、身体のあちこちに包帯を巻いている。
シンクとヘカテーはすぐに昨日来た別世界の人達だと理解する。だが、チェルとイブだけは目を疑った。彼らの中に、見覚えのある人物がいたからだ。
「う、うん。昨日、相当無理してたみたいで…その反動が今日になって来たんだって」
「行ってくる」
そうして四人が見ている中、カイリは今いるメンバーに事情を話す。
よほど心配なのかすぐさまクウが背を向けるが、アクアがやんわりと声をかけた。
「大丈夫よ。あくまでも疲労による体調不良だから、一日安静にしていればすぐに治るわ」
「そ、そうか…」
「テラ、あとで一緒にお見舞い行こうよ」
「そうだな。会議が終わった後にでも寄ろう」
大事ではない事で足を止めるクウに対し、ヴェンとテラは少し心配そうにベットで寝込んでいるレイアを思う。
リクも心配なのか同じように顔を俯かせていると、徐にカイリがポケットに手を入れた。
「それとね、クウ。これ…レイアが渡してって」
そう言うと、カイリはポケットから銀のロケットを取り出してクウに差し出す。
これを見たクウは、目の色を変えてカイリの手からロケットを奪った。
「スピカが大事に持ってたロケット…!! 何でレイアが!?」
何処か詰め寄る様にクウが聞くと、オパールが冷めた目をして半ば睨む様に話した。
「あんたのコートのポケットに入ってたんだって。で、返して置いてって」
「俺のポケットに!? でも、スピカから貰った覚えは――!!」
信じられないとばかりに、クウは焦りを浮かべて記憶を辿る。
だが、心当たりが見つかったのかハッとなって握ったロケットを見つめた。
「まさか、あの時か…?」
「あの時?」
リクが聞き返すと、クウはロケットを見ながら一つの記憶を思い返した。
「スピカが仮面に侵されていた時に、俺に何かを渡していたんだ。多分、これを…」
自分の腕の中で顔を押え仮面の浸食を防いでいた時に、彼女は確かにポケットに何かを滑らせていた。
スピカが何を思って、これを渡したのかは分からない。それでも手放すまいと強く握り締めていると、話を聞いていたシャオが笑みを浮かべた。
「こっちの世界のスピカさんも…師匠の事、凄く信頼していたんだね」
そう言って、シャオはクウに向けて笑顔を見せる。
しかし、どう言う訳かクウは表情を曇らせ目を逸らした。
「師匠?」
「なあ、シャオ…前から思ってたけど、俺の事を“師匠”って呼ぶの止めてくれないか? 確かにお前の師匠と俺は一緒だろうけど…別の存在だろ?」
クウの言う事は尤もで、シャオの師匠はあくまでも彼の世界に存在する“クウ”だ。例え外見が一緒でも、中身は別のモノだ。
それをシャオも分かっているのか、ゆっくりと頭を下げた。
「ごめん。でも…ボク、どうしても師匠の事を“師匠”って呼びたい。駄目、かな?」
シャオは自分の思いを率直に伝え、困ったように見上げてくる。
これにはクウも恥ずかしそうに顔を逸らすなり、何処かぶっきらぼうに言った。
「…分かったよ、好きにしろ」
「ありがと、師匠!」
「相変わらず、お前達は賑やかだな」
満面の笑みをシャオが浮かべると、声がかけられる。
全員が目を向けると、あちこちに包帯を巻いた無轟が腕を組み微笑を浮かべながらこちらに近づいていた。
「無轟!? 怪我はもういいのか!?」
「問題はない。身体が丈夫なのは分かっているだろう?」
「まあ、な…」
平然とテラに答える無轟に、クウは居心地が悪そうに顔を逸らす。
昨日、怪我を負った無轟と全力で戦った。全ては自分達の為なのは分かっているが、彼の体調を見抜けずに怪我を負わせてしまった負い目がない訳ではない。
それは他の人も一緒で、ヴェンは顔を俯かせながらも言葉を紡ごうとした。
「あの…昨日は、その…」
「おいおい、朝っぱらから何暗くなっているんだ?」
何とも言えない空気の中で、明るい声が飛んでくる。
目を向けると、そこには神無一家(と恋人)が割り込む様に輪の中に入ってきた。
「え? あ…」
「えっと…おじさん達、誰だっけ?」
突然割り込む神無達に、目覚めてすぐに部屋を出て行ったクウとシャオだけが困惑を浮かべる。
その事に神無も気づいたようで、気くさに笑いながら説明に入った。
「ああ、そう言えば二人はちゃんとした紹介がまだだったな。俺は神無だ! よろしくな!」
「妻のツヴァイよ。昨日は大変だったわね」
「で、こっちは息子の神月と娘のヴァイだ! それと、将来神月の嫁になる紗那ちゃん――」
「余計な事は言わないでくれないか、親父ぃ…!!」
「すいません」
何やら凄まじい覇気を纏いながら心剣を取り出して脅す神月に、即座に神無は平謝りする。
この光景に全員が苦笑を浮かべる中、何故かクウは冷や汗を掻いて神無を見ていた。
「テラ…俺、“神無”って名前に聞き覚えある気がするんだが…!?」
「クウ、否定したい気持ちは痛い程分かるが…目の前に起きている事は、事実だ」
まるで何かを悟る目をしながら、テラはクウの肩に手を置いた。
「そ、そんな訳ないだろ…そ、そうか! これは夢、夢に違いな――!」
「ふん!」
「ぐほっ!?」
現実逃避していると、突然後頭部を殴られる。
そこにはいつの間にか凛那が刀を持っており、蹲るクウを呆れの眼差しで見ていた。
「目は覚めたか?」
「凛那、さすがにやり過ぎ…」
思わずツヴァイが呟くと、クウは頭を押さえながら立ち上がり絶叫を上げた。
「嘘だぁぁぁーーーーーーっ!!! 何でオッサンの息子がこんなに年取ってんだよ!? しかもちゃっかり孫の世代までいるって異世界でもあり得ないだろぉぉぉ!!!」
「クウ、落ち着けっ!! 異世界のお前だってスピカと結婚して子供作ってるだろ!?」
(ボクの世界の師匠も結婚して子供いるけどね〜……何て言ったら、更に発狂しちゃうよね)
発狂するクウと宥めるテラを遠い目で見ながら、シャオは心に思った事を口に出さずにどうにか呑み込む。
テラの宥めが効いたのか、はたまた心から叫んだからか、荒い息をたてながらもようやくクウは落ち着いた。
「落ち着いたか?」
「ぜぇ…はぁ…。オッサン、あんた…なんで、そう平然と…?」
この中で一番驚くべきはずなのにどこまでも冷静な無轟に、クウは思わず半目になってしまう。
無轟は問いかけに答えずクウ達を見回すと、ある話題に触れた。
「ウィドとゼロボロスはいないようだが、どうした?」
その質問に、クウを除く男性達が一斉に俯いた。
「ウィドは俺達と一緒には起きたんだけど…『ほおって置いてくれ』って言って、そのままあいつの傍に…」
「ゼロボロスも『少し考えたい事がある』って言って、まだ俺達の部屋に…」
その時の事を思い出したのか、リクとヴェンが暗い顔で無轟に説明をする。
「俺の所為、だよな…ウィドがああなったのは」
二人の説明を聞き、一番の原因であるクウも顔を俯かせる。
昔の話とは言え、スピカの恋人でありながら二度も彼女の事を捨てたのだ。黙っていた事やエンの事も含めると、姉思い(悪く言えばシスコンだが)のウィドが自分に敵意を向けても仕方がない。
他のメンバー達も暗い雰囲気を醸し出していると、話を聞いていた神無が声をかけた。
「しんみりしたいのは分かるが、これから大勢の奴らと食事だ。食事する時は笑顔で頼むな」
「そうね…暗い顔で食事してちゃ、相手にも悪いもんね」
この城にいるほとんどが初対面だと言う事を考え、オパールはどうにか笑みを浮かべる。
周りもどうにか気を持ち直していると、不意にクウが神無達に質問した。
「なあ。この中で二刀流使える奴はいないか?」
「二刀流ですか? お兄ちゃんは使えるけど…どうして?」
ヴァイが答えていると、クウは居心地が悪そうな表情を浮かべ髪を掻き上げるように頭を押さえた。
「俺は今まで双剣を使った事ないからさ…少しでも戦えるようにしておきたいんだ。会議ってのが終わってからでいいから、教えて欲しいんだが…」
「俺は別に構わない。何だったら、他の奴も呼んでおくが?」
「助かる。それと、もう一つあるんだが」
「何だ?」
更なる頼みに神月が聞くと、クウは真剣な目をして拳を握り締めた。
「――武器が欲しい。拳を守る手袋の武器が」
「武器ならキーブレードがあるだろ? どうしてそんなのが必要なんだ?」
思わぬクウの頼みに、何処か呆れるようにリクが視線を送る。
彼の手袋はエンとの戦いでボロボロの布きれに変わり、無轟との戦いの後で処分している。だが、その代わりにキーブレードと言う武器を手に入れているのにどうして必要なのか。
そんなリクに、まるでクウは対抗するかのように軽く睨み返して質問に答えた。
「キーブレードが使えるからって、今まで使ってた格闘術を捨てたりしたらもったいないだろ。ある程度の足技は使えるけど、手数は出来るだけ多い方がいい」
「なるほどな……そこは私達ではどうにもならないから、他の奴に頼むと言い。きっと協力してくれる筈だ」
そうして凛那がアドバイスを送ると、話は終わりと言わんばかりにツヴァイが手を叩いた。
「さ、話も一段落した事だし食事に行きましょう。ここで出される料理、どれも美味しいのよ」
「ホント!? テラ、アクア、早くー!!」
「もう、ヴェン! 急がなくても料理は無くならないわよ!」
目を輝かせてヴェンが広間に向かって駆け出すのを見て、即座にアクアは叱り付ける。
そんな彼らのやりとりに、遠くで傍観していたヘカテーがクスクス笑いながらシンクに振り向いた。
「何か、賑やかな人達だね」
「そうだね…――あれ? 父さんどうしたの、さっきから黙り込んでない?」
「ちょっと、な…」
様子がおかしい事に気付いて声をかけるシンクに、チェルは顔を逸らす。
必死で平静を保とうとするチェルに、二人に気づかれない様にイブが不安げに囁いた。
「ねえ、チェル…『ヴェン』って子、ロクサスにそっくりだったよね。それに、『テラ』って人も心成しかゼムナスに似てる…」
「それだけじゃない。ナミネの本体であるカイリ、そしてゼアノート…いや、あいつはリクだろうな。ったく、俺達も神無と同じだったって事か…」
改めて別世界から来た彼らを見て、チェルはやるせない思いをぶつける様に自分の頭を乱暴に掻く。そんなチェルに、イブは何も言わずに複雑な顔をする。
自分達もまた、彼らと只ならぬ因縁を持つ者だったから。
新しい一日を迎えた城の中では、広間に用意された朝食を取ろうとさまざまな人達が集まり出す。
そんな中、チェル、シンク、ヘカテー、イブも広間に向かって廊下を歩いていた。
「んん〜、今日もいい朝ね〜!」
「昨日の今日で、よくそんな事言えるな……少し弛んでいるぞ」
気持ち良さそうに大きく背伸びするイブに、チェルは厳しい言葉を送る。
だが、そんな御小言にイブは気にする様子もなく軽く受け流した。
「いいじゃない、別に。別世界から来たって人達、敵って訳じゃなかったんでしょ?」
「確かにイブさんの言う通りですけど、何と言うか…」
「何かが起きそう、って感じだよね…」
「“何か”、か…」
神妙な面付きを浮かべるシンクとヘカテーに、チェルも思考に耽る。
レプセキアの戦いの後に、イリアドゥスの語った「そういうこと」。もしかしたら、彼らが来た事により自分達に与えられた休息が終わろうとしているのかもしれない…。
「レイアが寝込んだぁ!!?」
その時、廊下の先で聞き覚えの無い男の声が響き渡る。
四人が前を向くと、そこには見た事もない人物達が八人ほどいる。何人かは怪我が癒えてないのか、身体のあちこちに包帯を巻いている。
シンクとヘカテーはすぐに昨日来た別世界の人達だと理解する。だが、チェルとイブだけは目を疑った。彼らの中に、見覚えのある人物がいたからだ。
「う、うん。昨日、相当無理してたみたいで…その反動が今日になって来たんだって」
「行ってくる」
そうして四人が見ている中、カイリは今いるメンバーに事情を話す。
よほど心配なのかすぐさまクウが背を向けるが、アクアがやんわりと声をかけた。
「大丈夫よ。あくまでも疲労による体調不良だから、一日安静にしていればすぐに治るわ」
「そ、そうか…」
「テラ、あとで一緒にお見舞い行こうよ」
「そうだな。会議が終わった後にでも寄ろう」
大事ではない事で足を止めるクウに対し、ヴェンとテラは少し心配そうにベットで寝込んでいるレイアを思う。
リクも心配なのか同じように顔を俯かせていると、徐にカイリがポケットに手を入れた。
「それとね、クウ。これ…レイアが渡してって」
そう言うと、カイリはポケットから銀のロケットを取り出してクウに差し出す。
これを見たクウは、目の色を変えてカイリの手からロケットを奪った。
「スピカが大事に持ってたロケット…!! 何でレイアが!?」
何処か詰め寄る様にクウが聞くと、オパールが冷めた目をして半ば睨む様に話した。
「あんたのコートのポケットに入ってたんだって。で、返して置いてって」
「俺のポケットに!? でも、スピカから貰った覚えは――!!」
信じられないとばかりに、クウは焦りを浮かべて記憶を辿る。
だが、心当たりが見つかったのかハッとなって握ったロケットを見つめた。
「まさか、あの時か…?」
「あの時?」
リクが聞き返すと、クウはロケットを見ながら一つの記憶を思い返した。
「スピカが仮面に侵されていた時に、俺に何かを渡していたんだ。多分、これを…」
自分の腕の中で顔を押え仮面の浸食を防いでいた時に、彼女は確かにポケットに何かを滑らせていた。
スピカが何を思って、これを渡したのかは分からない。それでも手放すまいと強く握り締めていると、話を聞いていたシャオが笑みを浮かべた。
「こっちの世界のスピカさんも…師匠の事、凄く信頼していたんだね」
そう言って、シャオはクウに向けて笑顔を見せる。
しかし、どう言う訳かクウは表情を曇らせ目を逸らした。
「師匠?」
「なあ、シャオ…前から思ってたけど、俺の事を“師匠”って呼ぶの止めてくれないか? 確かにお前の師匠と俺は一緒だろうけど…別の存在だろ?」
クウの言う事は尤もで、シャオの師匠はあくまでも彼の世界に存在する“クウ”だ。例え外見が一緒でも、中身は別のモノだ。
それをシャオも分かっているのか、ゆっくりと頭を下げた。
「ごめん。でも…ボク、どうしても師匠の事を“師匠”って呼びたい。駄目、かな?」
シャオは自分の思いを率直に伝え、困ったように見上げてくる。
これにはクウも恥ずかしそうに顔を逸らすなり、何処かぶっきらぼうに言った。
「…分かったよ、好きにしろ」
「ありがと、師匠!」
「相変わらず、お前達は賑やかだな」
満面の笑みをシャオが浮かべると、声がかけられる。
全員が目を向けると、あちこちに包帯を巻いた無轟が腕を組み微笑を浮かべながらこちらに近づいていた。
「無轟!? 怪我はもういいのか!?」
「問題はない。身体が丈夫なのは分かっているだろう?」
「まあ、な…」
平然とテラに答える無轟に、クウは居心地が悪そうに顔を逸らす。
昨日、怪我を負った無轟と全力で戦った。全ては自分達の為なのは分かっているが、彼の体調を見抜けずに怪我を負わせてしまった負い目がない訳ではない。
それは他の人も一緒で、ヴェンは顔を俯かせながらも言葉を紡ごうとした。
「あの…昨日は、その…」
「おいおい、朝っぱらから何暗くなっているんだ?」
何とも言えない空気の中で、明るい声が飛んでくる。
目を向けると、そこには神無一家(と恋人)が割り込む様に輪の中に入ってきた。
「え? あ…」
「えっと…おじさん達、誰だっけ?」
突然割り込む神無達に、目覚めてすぐに部屋を出て行ったクウとシャオだけが困惑を浮かべる。
その事に神無も気づいたようで、気くさに笑いながら説明に入った。
「ああ、そう言えば二人はちゃんとした紹介がまだだったな。俺は神無だ! よろしくな!」
「妻のツヴァイよ。昨日は大変だったわね」
「で、こっちは息子の神月と娘のヴァイだ! それと、将来神月の嫁になる紗那ちゃん――」
「余計な事は言わないでくれないか、親父ぃ…!!」
「すいません」
何やら凄まじい覇気を纏いながら心剣を取り出して脅す神月に、即座に神無は平謝りする。
この光景に全員が苦笑を浮かべる中、何故かクウは冷や汗を掻いて神無を見ていた。
「テラ…俺、“神無”って名前に聞き覚えある気がするんだが…!?」
「クウ、否定したい気持ちは痛い程分かるが…目の前に起きている事は、事実だ」
まるで何かを悟る目をしながら、テラはクウの肩に手を置いた。
「そ、そんな訳ないだろ…そ、そうか! これは夢、夢に違いな――!」
「ふん!」
「ぐほっ!?」
現実逃避していると、突然後頭部を殴られる。
そこにはいつの間にか凛那が刀を持っており、蹲るクウを呆れの眼差しで見ていた。
「目は覚めたか?」
「凛那、さすがにやり過ぎ…」
思わずツヴァイが呟くと、クウは頭を押さえながら立ち上がり絶叫を上げた。
「嘘だぁぁぁーーーーーーっ!!! 何でオッサンの息子がこんなに年取ってんだよ!? しかもちゃっかり孫の世代までいるって異世界でもあり得ないだろぉぉぉ!!!」
「クウ、落ち着けっ!! 異世界のお前だってスピカと結婚して子供作ってるだろ!?」
(ボクの世界の師匠も結婚して子供いるけどね〜……何て言ったら、更に発狂しちゃうよね)
発狂するクウと宥めるテラを遠い目で見ながら、シャオは心に思った事を口に出さずにどうにか呑み込む。
テラの宥めが効いたのか、はたまた心から叫んだからか、荒い息をたてながらもようやくクウは落ち着いた。
「落ち着いたか?」
「ぜぇ…はぁ…。オッサン、あんた…なんで、そう平然と…?」
この中で一番驚くべきはずなのにどこまでも冷静な無轟に、クウは思わず半目になってしまう。
無轟は問いかけに答えずクウ達を見回すと、ある話題に触れた。
「ウィドとゼロボロスはいないようだが、どうした?」
その質問に、クウを除く男性達が一斉に俯いた。
「ウィドは俺達と一緒には起きたんだけど…『ほおって置いてくれ』って言って、そのままあいつの傍に…」
「ゼロボロスも『少し考えたい事がある』って言って、まだ俺達の部屋に…」
その時の事を思い出したのか、リクとヴェンが暗い顔で無轟に説明をする。
「俺の所為、だよな…ウィドがああなったのは」
二人の説明を聞き、一番の原因であるクウも顔を俯かせる。
昔の話とは言え、スピカの恋人でありながら二度も彼女の事を捨てたのだ。黙っていた事やエンの事も含めると、姉思い(悪く言えばシスコンだが)のウィドが自分に敵意を向けても仕方がない。
他のメンバー達も暗い雰囲気を醸し出していると、話を聞いていた神無が声をかけた。
「しんみりしたいのは分かるが、これから大勢の奴らと食事だ。食事する時は笑顔で頼むな」
「そうね…暗い顔で食事してちゃ、相手にも悪いもんね」
この城にいるほとんどが初対面だと言う事を考え、オパールはどうにか笑みを浮かべる。
周りもどうにか気を持ち直していると、不意にクウが神無達に質問した。
「なあ。この中で二刀流使える奴はいないか?」
「二刀流ですか? お兄ちゃんは使えるけど…どうして?」
ヴァイが答えていると、クウは居心地が悪そうな表情を浮かべ髪を掻き上げるように頭を押さえた。
「俺は今まで双剣を使った事ないからさ…少しでも戦えるようにしておきたいんだ。会議ってのが終わってからでいいから、教えて欲しいんだが…」
「俺は別に構わない。何だったら、他の奴も呼んでおくが?」
「助かる。それと、もう一つあるんだが」
「何だ?」
更なる頼みに神月が聞くと、クウは真剣な目をして拳を握り締めた。
「――武器が欲しい。拳を守る手袋の武器が」
「武器ならキーブレードがあるだろ? どうしてそんなのが必要なんだ?」
思わぬクウの頼みに、何処か呆れるようにリクが視線を送る。
彼の手袋はエンとの戦いでボロボロの布きれに変わり、無轟との戦いの後で処分している。だが、その代わりにキーブレードと言う武器を手に入れているのにどうして必要なのか。
そんなリクに、まるでクウは対抗するかのように軽く睨み返して質問に答えた。
「キーブレードが使えるからって、今まで使ってた格闘術を捨てたりしたらもったいないだろ。ある程度の足技は使えるけど、手数は出来るだけ多い方がいい」
「なるほどな……そこは私達ではどうにもならないから、他の奴に頼むと言い。きっと協力してくれる筈だ」
そうして凛那がアドバイスを送ると、話は終わりと言わんばかりにツヴァイが手を叩いた。
「さ、話も一段落した事だし食事に行きましょう。ここで出される料理、どれも美味しいのよ」
「ホント!? テラ、アクア、早くー!!」
「もう、ヴェン! 急がなくても料理は無くならないわよ!」
目を輝かせてヴェンが広間に向かって駆け出すのを見て、即座にアクアは叱り付ける。
そんな彼らのやりとりに、遠くで傍観していたヘカテーがクスクス笑いながらシンクに振り向いた。
「何か、賑やかな人達だね」
「そうだね…――あれ? 父さんどうしたの、さっきから黙り込んでない?」
「ちょっと、な…」
様子がおかしい事に気付いて声をかけるシンクに、チェルは顔を逸らす。
必死で平静を保とうとするチェルに、二人に気づかれない様にイブが不安げに囁いた。
「ねえ、チェル…『ヴェン』って子、ロクサスにそっくりだったよね。それに、『テラ』って人も心成しかゼムナスに似てる…」
「それだけじゃない。ナミネの本体であるカイリ、そしてゼアノート…いや、あいつはリクだろうな。ったく、俺達も神無と同じだったって事か…」
改めて別世界から来た彼らを見て、チェルはやるせない思いをぶつける様に自分の頭を乱暴に掻く。そんなチェルに、イブは何も言わずに複雑な顔をする。
自分達もまた、彼らと只ならぬ因縁を持つ者だったから。
■作者メッセージ
えー、今回の話はNANAが更新させていただきました。
本来は夢さんが続けて投稿と言う話だったのですが、いろいろ忙しく執筆が滞っているとの事で急遽私が投稿をしました…(苦笑
解説をするなら、ここからは二日目に突入です。ある程度のプランはそれぞれ頭に構成はしている…つもりです(オイ
一話だけ投稿と言う形ですが、改めて夢さんにターンを回します。
本来は夢さんが続けて投稿と言う話だったのですが、いろいろ忙しく執筆が滞っているとの事で急遽私が投稿をしました…(苦笑
解説をするなら、ここからは二日目に突入です。ある程度のプランはそれぞれ頭に構成はしている…つもりです(オイ
一話だけ投稿と言う形ですが、改めて夢さんにターンを回します。