CROSS CAPTURE36 「僅かな一幕 その3」
敵との戦いに備え作られた修練場。しかし、立派な建造物も昨日のクウ達との戦いでは天井は大穴が空いており、瓦礫がまだ残っていた。
しかしベルフェゴル達のおかげで戦いの後が残らないほど修復された。そして今、広間では複数の音が鳴り響いていた。
「『ファイア・ボマー』!」
イオンがキーブレードを振るい、辺りに無数の炎弾をばら撒く。
数が多い攻撃だが、ヴェンは間を縫うように素早く避ける。
「よっと! 『ストライクレイド』!」
そうして距離を取ると共に、イオンに向かって一直線にキーブレードを投げつける。
回転するキーブレードがその場で漂う炎弾にぶつかり爆発するが、それでも威力を落とさずにイオンに向かう。
イオンはすぐにその攻撃を避けると、ヴェンに向かってキーブレードをまるで弓を引く様に構えた。
「『サンダー・アロー』!」
雷の力を宿し、弓矢のように放つ。
切先から雷の矢が拡散するが、狙うのはヴェンではなく周りにある炎弾だ。
ヴェンが気づいた時には、雷の矢を受けた炎弾は自身を巻き込む程の爆発を起こした。
「うわっ!?」
爆発に巻き込まれ、ヴェンの悲鳴が上がる。
しかし、イオンはこの作戦の成功に満足せず更なる一手を放った。
「念には念を! 『サンダガ・ランス』!」
即座に雷撃の槍を擲ち、ヴェンのいる場所に着弾し放電させる。
その余波で爆炎が晴れると、一筋の光がイオンに向かって飛び出した。
「これで! 『フォトンチャージ』!」
全身に光を纏いながら、イオンに向かって何度も突進を繰り出す。
「くっ…!」
次々と斬り付けられる中、イオンはどうにか『マティウス』の力を発動させる。
直後、時間が停止してヴェンは止まる。その間に、イオンは距離を取りキーブレードに炎を溜め込む。
「――エ…っ!?」
「終わりです! 『ファイガ・キャリバー』!!」
ヴェンの時間が動くと同時に、イオンは巨大な炎の剣を具現化させて一気に叩きつける。
まさに一刀両断の一撃をぶつけ、イオンは顔を上げてヴェンがいる場所を見る。
「目には目を――」
その時、何処からかヴェンの声が響く。
イオンが焦りを見せて動こうとするが、身体に異変を感じた時には遅かった。
「時間には時間を!! 『タイムスプライサー』!!」
そんな叫びと共に、瞬間移動しながら時間を止めたイオンを何度も斬り付ける。
やがて攻撃が終わってヴェンが着地すると同時に、時間が動き出してイオンに無数の斬撃が襲い掛かった。
「うわああっ!?」
成す術もなく体力が一気に削られ、限界が来たのかその場に倒れた。
「イオン、大丈夫?」
敗北したイオンに、離れた場所で観戦していたペルセが近づく。
その傍らで、すぐにヴェンも回復魔法をかけながらイオンに頭を下げた。
「ごめん…ちょっとやりすぎた」
「いえ、単に僕の実力不足ですから…強いんですね、ヴェントゥスさん」
「ヴェンでいいよ、みんなそう呼んでるし。それと、イオンと手合せ出来て良かった。俺、テラやアクア以外のキーブレード使いと手合せした事なかったから」
「それはボクもですよ。ボクも、と…知り合いぐらいしかキーブレード使いがいませんから」
若干言いよどむが、イオンが微笑むとヴェンもつられる様に笑顔を作る。
やがてイオンの傷を治すと、徐にヴェンが立ち上がって広間の入口を見た。
「テラ、遅いなぁ。まだ会議が続いているのかな?」
テラとアクアがクウを連れて会議に出席する間に、ヴェンは時間潰しも兼ねてここで様々な人と特訓をする事にした。
いろんな人と手合せをして、もうそれなりに時間が経っている。何時まで立っても来ないテラに思わず溜息を零していた時だった。
「せぃ!」
「はぁ!」
少し離れた場所で、何やら気合の入った掛け声が響く。
ヴェンが思わず目を向けると、紗那と白黒の翼を纏ったシャオが互いに拳を打ち合わせていた。
「だあぁ!!」
拳のぶつけ合いの中、シャオは一瞬の隙を見計らい蹴りを放つ。
紗那はとっさに心剣であるエクススレイヤーを具現化し、攻撃をガードする。
シャオの放った蹴りは強力だったのか、衝撃が走り後ろに下がった。
「凄いわ…こんなに強い格闘も使えるなんて」
「まだ序の口さ!! 第二段階、チェンジ―――『フィルアーム・モード』!!」
腕を交差すると共に、全身に光を纏うシャオ。
やがて光が弾けると、翼は無くなりガンブレード型のキーブレードを握っていた。
「また!?」
「『エリアブラスト』!!」
シャオの能力変化を何度も見せられたのか、驚く紗那に向かって回転切りで突進する。
即座に上空に飛んで回避するが、攻撃を終えたシャオは紗那に向かって素早く銃口を合わせる。
そのまま引き金を引くと共に、紗那に銃弾を命中させた。
「くっ!? ――なんてね」
攻撃を受けて顔を歪める紗那だったが、急にニヤリと笑う。
同時に、紗那の姿が幻のように掻き消えた。
「消えたっ!?」
「『幻破拳』!!」
幻術が消えるなり、横から紗那が疾風のように間合いを詰めて一撃を放った。
「ぐっ…第二段階、チェンジ!! 『ダーク・モード』!!」
吹き飛ばされながらも、シャオは全身に闇を纏う。
そうして闇に覆われると、赤と黒を基調としたスーツに変えて体制を立て直した。
「あの姿は…!?」
見覚えのあるシャオの衣装に、ヴェンが目を見開く。
そうしている間に、シャオは一気に跳躍して紗那との間合いを詰める。
「『ダークドロップ』!」
紗那に向かって闇の力を込めた踵落としを放つ。
だが、その攻撃はどう言う訳か紗那をすり抜けた。
「『幻龍閃拳』!!」
「うぎゃ!?」
幻術だと気づいた時には、シャオはすでに背後から拳を打ち込まれていた。
不意打ちの攻撃に俯せに倒れていると、シャオの首元に剣の切先が突きつけられた。
「はい、終わり」
「あう…」
ニコニコと笑う紗那を見上げながら、情けない声を上げるシャオ。
どうやらこれ以上は反撃出来ないようで、紗那の勝利で試合が終わる。
紗那が握る心剣を消すと、シャオも立ち上がりながら能力を解除して元の衣装に戻る。すると、二人の戦いを観戦していたイザウェルが声をかけた。
「それにしても、シャオの戦い方って凄いな。キーブレードを自在に変えて、その上で能力を変化させて」
「あはは…こんなの、褒められるほどのモノじゃないよ〜」
イザウェルに褒められ、シャオは笑みを浮かべつつも謙遜する。
普段のシャオなら鼻を高くして喜ぶのだが、下手に出るのには理由があった。
(そうだよ…みんなに比べたら、ボクは全然。なのに、どうして…)
それは昨日の夜。みんなと別れ、イリアドゥスとの二人きりの会話にまで遡る。
『ボクの世界が…消える?』
イリアドゥスの放った言葉に、シャオの表情が強張る。
『ええ。エンに奪われたシルビアはあなたの世界のモノ。もしこのままシルビアが戻らなければ…未来は変わり、下手をすれば世界は消える定めに変わってしまう』
『そんな!? ボク、過去の異世界に家出しただけだよ!? なのにどうして!!』
『あなたも薄々と分かっている筈よ。全ては偶然ではない、必然だと言う事に』
まるで宥める様な言い方に、混乱していた頭が静まる。
自分の世界で鍛えられた戦い方、異世界での物語、列車のチケット。今思えば、全てが繋がる。
『父さん、母さん…師匠…ウィドさん…ジャスさん…――みんな、ボクがここに来るように仕組んでいたの? ボクがシルビアを救わないといけないの? 世界を救えそうな人は沢山いるのに、どうしてボクが選ばれたの!?』
『そこまでは分からないわ。だけど、これだけは言える』
突然突きつけられた現実に癇癪を起すシャオに、イリアドゥスは優しく頭に手を置く。
彼女が浮かべる表情は、全てを愛しむ女神そのものだ。
『全ての事柄には、必ず意味がある。あなたがここに来た事だって、何らかの意味がある筈よ』
こうしてイリアドゥスとの会話を思い出すと、気づかれない様に心の中で溜息を吐く。
(あれからいろいろ考えたけど…サッパリだよ。それどころか、変にプレッシャーが圧し掛かってくる)
自身に重く圧し掛かる責任を感じていると、不意にある“友達”を思い出す。
(リズ達も、こんな重みを背負って戦っていたのかな…?)
とある事情で異世界で知り合った友達であり、今の自分のように世界の命運を背負って戦った人達。
面白そう(危険とも言う)な事に首を突っ込んだり、黒さを滲ませて弄り倒したり、滅茶苦茶に暴走する所を抜かせば、本当にいい友達だと思ってる。こんなのが知れたら、問答無用で技と魔法のオンパレードに見舞われるだろうが。
「シャオ?」
「え? あ、ごめん!」
遠くにいる友人を思い出していた所為で、ヴェンが呼んでいたのにすぐに反応出来なかった。
慌ててヴェンを見ると、何処か真剣な表情でこちらを見ていた。
「なあ、シャオ。ちょっといいか?」
「う、うん!」
「シャオは、《ヴァニタス》って奴知ってるか?」
ヴェンの質問に、シャオの表情が強張る。
ヴァニタス。この世界では、ゼアノートの策略によりヴェントゥスの闇の部分から生まれた純粋な闇の心を持つ存在。アンヴァースの生産者であり親玉、そして純粋な光の心であるヴェントゥスと融合する事で【χブレード】を作り出す。
本来の物語とは異なる未来を歩んでいるとはいえ、こんな事教えれる訳がない。シャオは顔を俯かせ、申し訳なさそうに言った。
「…ごめん、知らない」
「そうか…じゃあさ、今変わった服は?」
「あー…何て言うか、ボクって『モード・スタイル』によってキーブレードだけじゃなくて衣装が変わる事があるんだ。それでさっきのように闇の力を引き出すと、あんな服に変わるんだ」
「闇の力で…」
何処か納得するようにヴェンが頷いていると、広間の入口からテラが入ってきた。
「待たせたな、ヴェン」
「テラっ!!」
ようやく来たテラを見て、ヴェンは笑みを浮かべて駆け出す。
そうしてテラの傍に来ると、同じようにテラも笑みを浮かべヴェンの頭を撫でた。
「悪いな。ここに来る際に、オルガ達にこの城の事を案内して貰ってたんだ」
よく見ると、テラの後ろではオルガがいた。彼以外にも、アーファや睦月と皐月もいる。
テラとヴェンが話をしていると、オルガは広間全体を見回した。
「紗那、クウは?」
「あの人なら、まだ来てないわ」
「そうか…まあいい。イオン、ちょっと話があるから来てくれないか?」
「え? はい」
イオンが返事をすると、オルガはアーファやペルセと一緒に広間の隅へと移動した。
しかしベルフェゴル達のおかげで戦いの後が残らないほど修復された。そして今、広間では複数の音が鳴り響いていた。
「『ファイア・ボマー』!」
イオンがキーブレードを振るい、辺りに無数の炎弾をばら撒く。
数が多い攻撃だが、ヴェンは間を縫うように素早く避ける。
「よっと! 『ストライクレイド』!」
そうして距離を取ると共に、イオンに向かって一直線にキーブレードを投げつける。
回転するキーブレードがその場で漂う炎弾にぶつかり爆発するが、それでも威力を落とさずにイオンに向かう。
イオンはすぐにその攻撃を避けると、ヴェンに向かってキーブレードをまるで弓を引く様に構えた。
「『サンダー・アロー』!」
雷の力を宿し、弓矢のように放つ。
切先から雷の矢が拡散するが、狙うのはヴェンではなく周りにある炎弾だ。
ヴェンが気づいた時には、雷の矢を受けた炎弾は自身を巻き込む程の爆発を起こした。
「うわっ!?」
爆発に巻き込まれ、ヴェンの悲鳴が上がる。
しかし、イオンはこの作戦の成功に満足せず更なる一手を放った。
「念には念を! 『サンダガ・ランス』!」
即座に雷撃の槍を擲ち、ヴェンのいる場所に着弾し放電させる。
その余波で爆炎が晴れると、一筋の光がイオンに向かって飛び出した。
「これで! 『フォトンチャージ』!」
全身に光を纏いながら、イオンに向かって何度も突進を繰り出す。
「くっ…!」
次々と斬り付けられる中、イオンはどうにか『マティウス』の力を発動させる。
直後、時間が停止してヴェンは止まる。その間に、イオンは距離を取りキーブレードに炎を溜め込む。
「――エ…っ!?」
「終わりです! 『ファイガ・キャリバー』!!」
ヴェンの時間が動くと同時に、イオンは巨大な炎の剣を具現化させて一気に叩きつける。
まさに一刀両断の一撃をぶつけ、イオンは顔を上げてヴェンがいる場所を見る。
「目には目を――」
その時、何処からかヴェンの声が響く。
イオンが焦りを見せて動こうとするが、身体に異変を感じた時には遅かった。
「時間には時間を!! 『タイムスプライサー』!!」
そんな叫びと共に、瞬間移動しながら時間を止めたイオンを何度も斬り付ける。
やがて攻撃が終わってヴェンが着地すると同時に、時間が動き出してイオンに無数の斬撃が襲い掛かった。
「うわああっ!?」
成す術もなく体力が一気に削られ、限界が来たのかその場に倒れた。
「イオン、大丈夫?」
敗北したイオンに、離れた場所で観戦していたペルセが近づく。
その傍らで、すぐにヴェンも回復魔法をかけながらイオンに頭を下げた。
「ごめん…ちょっとやりすぎた」
「いえ、単に僕の実力不足ですから…強いんですね、ヴェントゥスさん」
「ヴェンでいいよ、みんなそう呼んでるし。それと、イオンと手合せ出来て良かった。俺、テラやアクア以外のキーブレード使いと手合せした事なかったから」
「それはボクもですよ。ボクも、と…知り合いぐらいしかキーブレード使いがいませんから」
若干言いよどむが、イオンが微笑むとヴェンもつられる様に笑顔を作る。
やがてイオンの傷を治すと、徐にヴェンが立ち上がって広間の入口を見た。
「テラ、遅いなぁ。まだ会議が続いているのかな?」
テラとアクアがクウを連れて会議に出席する間に、ヴェンは時間潰しも兼ねてここで様々な人と特訓をする事にした。
いろんな人と手合せをして、もうそれなりに時間が経っている。何時まで立っても来ないテラに思わず溜息を零していた時だった。
「せぃ!」
「はぁ!」
少し離れた場所で、何やら気合の入った掛け声が響く。
ヴェンが思わず目を向けると、紗那と白黒の翼を纏ったシャオが互いに拳を打ち合わせていた。
「だあぁ!!」
拳のぶつけ合いの中、シャオは一瞬の隙を見計らい蹴りを放つ。
紗那はとっさに心剣であるエクススレイヤーを具現化し、攻撃をガードする。
シャオの放った蹴りは強力だったのか、衝撃が走り後ろに下がった。
「凄いわ…こんなに強い格闘も使えるなんて」
「まだ序の口さ!! 第二段階、チェンジ―――『フィルアーム・モード』!!」
腕を交差すると共に、全身に光を纏うシャオ。
やがて光が弾けると、翼は無くなりガンブレード型のキーブレードを握っていた。
「また!?」
「『エリアブラスト』!!」
シャオの能力変化を何度も見せられたのか、驚く紗那に向かって回転切りで突進する。
即座に上空に飛んで回避するが、攻撃を終えたシャオは紗那に向かって素早く銃口を合わせる。
そのまま引き金を引くと共に、紗那に銃弾を命中させた。
「くっ!? ――なんてね」
攻撃を受けて顔を歪める紗那だったが、急にニヤリと笑う。
同時に、紗那の姿が幻のように掻き消えた。
「消えたっ!?」
「『幻破拳』!!」
幻術が消えるなり、横から紗那が疾風のように間合いを詰めて一撃を放った。
「ぐっ…第二段階、チェンジ!! 『ダーク・モード』!!」
吹き飛ばされながらも、シャオは全身に闇を纏う。
そうして闇に覆われると、赤と黒を基調としたスーツに変えて体制を立て直した。
「あの姿は…!?」
見覚えのあるシャオの衣装に、ヴェンが目を見開く。
そうしている間に、シャオは一気に跳躍して紗那との間合いを詰める。
「『ダークドロップ』!」
紗那に向かって闇の力を込めた踵落としを放つ。
だが、その攻撃はどう言う訳か紗那をすり抜けた。
「『幻龍閃拳』!!」
「うぎゃ!?」
幻術だと気づいた時には、シャオはすでに背後から拳を打ち込まれていた。
不意打ちの攻撃に俯せに倒れていると、シャオの首元に剣の切先が突きつけられた。
「はい、終わり」
「あう…」
ニコニコと笑う紗那を見上げながら、情けない声を上げるシャオ。
どうやらこれ以上は反撃出来ないようで、紗那の勝利で試合が終わる。
紗那が握る心剣を消すと、シャオも立ち上がりながら能力を解除して元の衣装に戻る。すると、二人の戦いを観戦していたイザウェルが声をかけた。
「それにしても、シャオの戦い方って凄いな。キーブレードを自在に変えて、その上で能力を変化させて」
「あはは…こんなの、褒められるほどのモノじゃないよ〜」
イザウェルに褒められ、シャオは笑みを浮かべつつも謙遜する。
普段のシャオなら鼻を高くして喜ぶのだが、下手に出るのには理由があった。
(そうだよ…みんなに比べたら、ボクは全然。なのに、どうして…)
それは昨日の夜。みんなと別れ、イリアドゥスとの二人きりの会話にまで遡る。
『ボクの世界が…消える?』
イリアドゥスの放った言葉に、シャオの表情が強張る。
『ええ。エンに奪われたシルビアはあなたの世界のモノ。もしこのままシルビアが戻らなければ…未来は変わり、下手をすれば世界は消える定めに変わってしまう』
『そんな!? ボク、過去の異世界に家出しただけだよ!? なのにどうして!!』
『あなたも薄々と分かっている筈よ。全ては偶然ではない、必然だと言う事に』
まるで宥める様な言い方に、混乱していた頭が静まる。
自分の世界で鍛えられた戦い方、異世界での物語、列車のチケット。今思えば、全てが繋がる。
『父さん、母さん…師匠…ウィドさん…ジャスさん…――みんな、ボクがここに来るように仕組んでいたの? ボクがシルビアを救わないといけないの? 世界を救えそうな人は沢山いるのに、どうしてボクが選ばれたの!?』
『そこまでは分からないわ。だけど、これだけは言える』
突然突きつけられた現実に癇癪を起すシャオに、イリアドゥスは優しく頭に手を置く。
彼女が浮かべる表情は、全てを愛しむ女神そのものだ。
『全ての事柄には、必ず意味がある。あなたがここに来た事だって、何らかの意味がある筈よ』
こうしてイリアドゥスとの会話を思い出すと、気づかれない様に心の中で溜息を吐く。
(あれからいろいろ考えたけど…サッパリだよ。それどころか、変にプレッシャーが圧し掛かってくる)
自身に重く圧し掛かる責任を感じていると、不意にある“友達”を思い出す。
(リズ達も、こんな重みを背負って戦っていたのかな…?)
とある事情で異世界で知り合った友達であり、今の自分のように世界の命運を背負って戦った人達。
面白そう(危険とも言う)な事に首を突っ込んだり、黒さを滲ませて弄り倒したり、滅茶苦茶に暴走する所を抜かせば、本当にいい友達だと思ってる。こんなのが知れたら、問答無用で技と魔法のオンパレードに見舞われるだろうが。
「シャオ?」
「え? あ、ごめん!」
遠くにいる友人を思い出していた所為で、ヴェンが呼んでいたのにすぐに反応出来なかった。
慌ててヴェンを見ると、何処か真剣な表情でこちらを見ていた。
「なあ、シャオ。ちょっといいか?」
「う、うん!」
「シャオは、《ヴァニタス》って奴知ってるか?」
ヴェンの質問に、シャオの表情が強張る。
ヴァニタス。この世界では、ゼアノートの策略によりヴェントゥスの闇の部分から生まれた純粋な闇の心を持つ存在。アンヴァースの生産者であり親玉、そして純粋な光の心であるヴェントゥスと融合する事で【χブレード】を作り出す。
本来の物語とは異なる未来を歩んでいるとはいえ、こんな事教えれる訳がない。シャオは顔を俯かせ、申し訳なさそうに言った。
「…ごめん、知らない」
「そうか…じゃあさ、今変わった服は?」
「あー…何て言うか、ボクって『モード・スタイル』によってキーブレードだけじゃなくて衣装が変わる事があるんだ。それでさっきのように闇の力を引き出すと、あんな服に変わるんだ」
「闇の力で…」
何処か納得するようにヴェンが頷いていると、広間の入口からテラが入ってきた。
「待たせたな、ヴェン」
「テラっ!!」
ようやく来たテラを見て、ヴェンは笑みを浮かべて駆け出す。
そうしてテラの傍に来ると、同じようにテラも笑みを浮かべヴェンの頭を撫でた。
「悪いな。ここに来る際に、オルガ達にこの城の事を案内して貰ってたんだ」
よく見ると、テラの後ろではオルガがいた。彼以外にも、アーファや睦月と皐月もいる。
テラとヴェンが話をしていると、オルガは広間全体を見回した。
「紗那、クウは?」
「あの人なら、まだ来てないわ」
「そうか…まあいい。イオン、ちょっと話があるから来てくれないか?」
「え? はい」
イオンが返事をすると、オルガはアーファやペルセと一緒に広間の隅へと移動した。