CROSS CAPTURE39 「混沌世界へ」
城へ戻り、ツヴァイらは伽藍の素材集めのメンバーを決め合っていた。既に神月はその中から居なかった。
既に修練場はイリアドゥスの命でベルフェゴルら建築関連に優れた半神が直してくれていた。
と言う事で、クウと共に二刀流の修行に付き合う為、先日の修練場に向かったのだった。
「伽藍さんよ、その素材集めに行く場所ってどんだけ危険な場所なんだよ?」
「……その素材自体、俺が偶然見つけて、命からがら手に入れた物だからな。凛那を作った時の素材もそれを使った」
ゼツの問いかけに、包帯で顔を隠した顔ながらに険しい表情を作りながらに答える。
「だが、折れた凛那と同じ素材である可能性は――」
「折れた凛那も同じ素材で使っていた。だから、こうして集めるって言ったのさ」
凛那の言葉に重ねるように言った伽藍。素材を見抜いた慧眼にゼツらも納得した。
そうして、話が外れたので改めて問いただした。素材集めに赴く場所の危険度さを。
「…その場所自体は特に危険地域じゃねえ。問題はそこに棲んでいる……『竜』が厄介なんだよ」
「竜? おいおい、竜退治でもしろ……だと?」
突拍子に出てきた言葉にラクラは苦笑混じりに呆れるも、話をした伽藍の表情は険しい様相のままであった。
彼の様相にラクラは呆れた表情を止め、真剣に返答を待った。伽藍はその性格に険しかった表情を崩して言う。
「…いや、せめて撃退してくれるだけでいいさ。
狩りするわけでもない。素材を集めきるまでの時間稼ぎになってくれると助かる」
「あら……そっちが素材集めに必要な人員の最大の理由ね」
事の本題を知り、やれやれと肩を竦めながらフェンデルは言い、彼女は話を続ける。
「なら、人選は選りすぐった方がいいわね」
「ああ。最初に言っておく、危険だからな」
「私は行く」
真っ先に端然と言い放ったのは凛那である。
茜色の双眸を鋭く伽藍に向けながらに言い、その気迫に伽藍は息を呑む。
「……とはいえ、危険を承知っていうのは此処以外で何度も覚悟しているんでね」
重くなりつつあった空気に気さくに笑んだゼツがラクラらに視線を向ける。
向けられたラクラも察して、微笑交じりに頷いて同意する。
「そうだったな。今更、臆する事も無いな」
「なら、一緒に行くわ」
「わ、私も…!」
フェンデル、フィフェルも呼応し、ゼツたちは同行を示した。
そんな彼らの様子にヴァイが羨ましげに見ながら母に言う。
「母さん、アタシは……だめ?」
「私たちじゃあ足手まといになっちゃうでしょう? ―――って言いたい所だけど、凛那。ヴァイを任せても?」
「……任された」
静かに了承した彼女を、ヴァイは嬉しげに見つめ、同行を決意した。
現段階で決まったメンバーは凛那、ヴァイ、ゼツ、ラクラ、フェンデル、フィフェルの6名。
伽藍はその面子を見つつ、後2、3人ほどいないかたずねた。
ツヴァイは既に参加から辞退している。他のものたちから協力を求める事になる。
「皆さん、どうしたんですか? 集まったりして」
ツヴァイたちへと声をかけてきた青年――アダムがやって来た。傍にはシンクとヘカテーもいる。
3人とも、一同に集っている事に不思議そうな様子で伺っている。
ツヴァイは他の者らに目配せする。皆は小さく頷き、ツヴァイから口火を切った。
「実はね―――」
そうして、3人に事の経緯を話した。それは彼らの実力を買ってのことだ。
「だから、出来ればアダムたちに素材集めに同行して欲しいの。危険な場所だから……嫌だったらあきらめるわ」
「ふむ…シンク、ヘカテー。君たちはどうする?」
「アダムさんこそ、どうするんです?」
笑みと共に問いかけるアダムに返すようにからかうような笑みでシンクも言い返す。
シンクの傍に居るヘカテーも小さく笑んで、頷いてから口を開いた。
「――私たちの力なら、幾らでも」
「という事で、私たちもその素材集めの同行に加えて欲しい。危険な場所なら、尚更私も力になりましょう」
「よし、お前らの実力…お前らが良く知っているだろうし俺があーだこーだと言う気は無え。覚悟してついてきてくれ」
伽藍の言葉に皆が応じるように頷いた。ツヴァイも微笑みながら頷き、自分の今出来る事をする。
「それじゃあ、私はアイネアスに話をしてくるわね。皆、本当に気をつけてね?」
そうして、伽藍と素材集めのメンバーは異世界へと出立した。
彼らを見送り、ツヴァイは連絡用の魔法陣を展開してアイネアスとの話を始めた。
器師伽藍の先導の元、素材集めのメンバーたちは異界の回廊を進んでいた。
すると、先方を進んでいた伽藍が足を止める。
「――この先に目的地の世界がある。かなり面倒な道だ、最初に術を施しておくぞ」
そう言うや、彼は術を唱えて全員に力を施した。怪訝に思うも、あえて追求はしなかった。
この先にどんな世界があるのだろうかという好奇心の所為である。
そして、伽藍が歩を進め、その世界への入り口が現れる。緊張する面々の中で伽藍が入り、続いて他のもの達も入っていった。
「へ―――わわっ!?」
「大丈夫だ」
意気揚々と足を踏み入れたヴァイは慌てて混乱しかけたが、すぐに入ってきた凛那に支えられ、落ち着きを取り戻す。
改めてヴァイは踏み入れた世界を見渡した。そこはまさに上下左右に世界が広がっていた。
上を仰げば幻想的な水晶の隆起した山々が在り、下を見下ろせば近代的な摩天楼が無数に聳え、
右を見れば荒涼とした砂漠が広がり、左を見返すと古風の城や町々が悠々と並び続いていたのだ。
全員が圧巻の光景に戸惑いながらも踏み入った事を確認した伽藍は振り返って口を開いた。
「此処は『見てのとおり』、『無茶苦茶な世界』だ。さっきの術は、『感覚を定める』事。つまり、道を道と認識して歩けば何処だろうと道になる」
「……伽藍さん? 問題はこんな『無茶苦茶な世界』にその素材が何処にあるか、なんですが…」
若干青ざめていたシンクの質問に伽藍は問題ない、と前置いてから言葉を返した。
「この世界を進んだ先、大きく一つに『収束している』場所がある。その辺りに素材がある。…俺が回収する間、護衛と撃退よろしく頼むぜ」
そう言って伽藍は先導するように歩き出した。それに続いてシンクたちもついていった。
まさしく混沌の世界、そんな空の中を真っ直ぐに、踏み出した。
「それにしても滅茶苦茶な風景だね」
「うん…どうして…こんな世界が……?」
歩く中でシンクとヘカテーがそれぞれの片手で手を繋ぎながら、混沌とした光景に不思議そうに呟く。
勿論、他の者も思う所は同じであったこのような世界は何が原因で生じたのか。
そんな世界を知っていた男、伽藍へと視線が向けられる。
「……此処は狭間の世界の一つなんだが、どうも奇妙な構造している」
歩を止めず、振り返りもせずに言葉だけが彼らの視線に応じるのだった。
「どういえばいいのか……結論から言えばいろんな世界の一部がごちゃ混ぜになった世界、というものなのかね。
一つの世界に無数の世界の情報が混ざり合った場所なんだよ」
「色々と面倒な場所、ってのはわかったよ」
ゼツは詳しい説明を望まず、ただ直感で納得した。この様な世界をどう説明できるのかなどし難さ極まっている。
こうして進んでいく中でも最初に踏み入った光景から別の光景へと移ろいでいた。
そうして、奥へと進む中、異様な気配が漂い始めた。
「……なあ、伽藍」
ゼツはその気配を察し、伽藍に声をかける。伽藍は振り返らず、歩みを止めずに言葉を返した。
「感じるだろ、嫌な気配が。――3人、此処で足止めを頼むぞ」
その言葉に、皆は表情をきつく固め、臨戦態勢へ変わる。
誰が残るのか、そういった話は此処までしていなかった。しかし、その中でもラクラは小さく笑み、フェンデルを見遣る。
彼の目配せの意味に察したのか、くすりとフェンデルも笑い返して頷いた。ラクラはそれを了承し、ゼツへと声をかける。
「俺とフェンデルが残る。ゼツたちは先へ進んでくれ」
「! ラクラ……」
ゼツは深く抵抗する事をためらった。「こうなる事を前提とした」上での同行であった。
彼らの決意に泥をかぶせる気はない。ゼツは頷き返し、伽藍に声をかける。
「伽藍! さっさと奥に進むぞ!!」
「よし、ついて来い」
そういって伽藍は走り出した。それに続いてヴァイたちも走り出していった。
最期に、ゼツがラクラたちに言い返す。
「お前ら、無理はするなよ!?」
「ああ。任せておけ」
「ほら、置いて行かれるわよ?」
囃された彼は頷き、伽藍たちの下へと走り出していった。そこから振り向かず、走り去る姿にラクラは安堵の笑みを零し、彼らを見送った。