CROSS CAPTURE42 「混沌女神」
内側に禍々しく煌いている茜の銀河が広がっている緩やかな衣を身に包んだ妙齢の女性。
茜混じりに伸びた漆黒の黒髪、同じ色である茜の燃える炯眼を彼らに見下ろして、女は姿を現す。
「コレ以上ガ行為ヲ、コノ…アルヴァ、赦スト思ウテカ?」
その声に呼応するかのように何処に潜んでいたのか、玉座に2体の竜が現れる。それらはラクラと、シンクがそれぞれ戦った竜たちで戦闘の傷が残っている。
今すぐ襲う動きが無いのは、女―――アルヴァの命令なのだろうか、睨めつけているだけだった。
「伽藍! こいつは……!」
「俺も初めて見る…! お前は―――」
「我ハ、アルヴァ。コノ世界……『混沌世界』ニヨリ生マレシ、唯一無二ノ生命ナリ」
そう名乗る傍ら、周囲に燈った無数の光が剣の形になり、切っ先が動きを封じられた伽藍に全て向けられている。
「てめぇっ!」
ゼツは紫に影を映す黒炎を刀身に走らせ、伽藍を助けださんと駆け出した。空中へ跳ね上がり、攻撃が迫った伽藍を突き飛ばし、けん制の一撃を繰り出した。
同時に激突した攻撃は相殺され、爆風だけが周囲を吹き荒らした。伽藍はすぐさま凛那に救い出され、後方へと身を引いた。
「……あなたが何者だろうと、今、アタシたちはそれが必要なの!」
ヴァイはその勇ましい叫びと共に大きく跳躍し、アルヴァと名乗る女性へと挑みかかる。
同時に、拳へ力を込めると、黒い光が収束し、解き放つように突き出す。
「黒竜拳!!」
黒い光――闘気が呼応するかのように黒竜の牙が放射され、アルヴァに迫った。
だが、アルヴァはその攻撃を一瞥するや、
「フフッ」
冷笑に等しい、鼻で笑った。すると、黒竜の放射は彼女を『通り抜け』て、奥の壁に激突したのであった、
「え――?」
「無駄」
冷笑のまま、アルヴァは言うや、衣が緩やかに広がると内側は茜に煌く銀河のような星空が広がっていた。
その異様の衣から、光が幾つも収束し、連続して光弾となってヴァイを吹き飛ばす。
「キャァッ!!」
吹き飛ばされた彼女はギリギリ受身をとって、地面へ着地する。しかし、思わぬ反撃と理解しきれない事態に困惑の表情を拭いきれて居ない。
それは他の者達も同じだった。ヴァイの攻撃は『通り抜けた』のだった。他の誰からもそう見えたのだ。攻撃が外れたわけではない。
確実にヒットした筈の攻撃が『通り抜けてしまった』のだ。当惑する面々を、アルヴァは冷笑のままに緩やかに広げた衣から再び、光弾を具現化させる。
「理解スル必要ハ無イ。死ニヨッテ償エバ……イイ……ソレ、ダケダ」
無常の言葉と同じく、光弾はレーザーのように鋭く雨の様に降り注ごうとした瞬間、
入り口の方から怒涛の光刃が、流星の弾雨が、刃の烈風が放たれ、相殺するように全てが衝突しあって消滅する。
「!!」
「――シンクたちか!」
その光景に一瞬、呆然としていたゼツはその攻撃に嬉々として振り返る。
そうして入り口の方から、アルヴァへ銃を向けながら歩いてくるシンク、光を篭った杖を手にしているヘカテー、
青いハルバート――フェンデルが、本来の武器の姿になったそれを握り締め、やって来たラクラの来着だった。
「待たせた」
「最深部まで進んでいたので合流にちょっと遅れました…ごめんなさい」
「……で、彼女は一体……」
ラクラが頼もしく言い、シンクが遅参を詫び、ヘカテーが吹き飛ばされたヴァイを救い起こし、アルヴァを睨み据えるようにゼツらに問いかける。
異様をなし、中空を漂う禍々しい美麗の女性に遅れてきた『4人』は現状の把握を求める。
下がっていた伽藍が青ざめた様子で、自分でもわかるほどの早口で口走った。
「この世界の『親玉』さ。侵入してきた俺たちを敵とみなしている…!」
「……オ前タチカ。我ガ、分身体ヲ退ケタノハ」
「分身体…なるほど、竜の正体はそうだったわけか」
悠然と浮遊している女性の言葉に得心したようにラクラは言うや、武器を構える。
(ラクラ、アイツ……なんだかおかしいわよ)
「だろうな。だが、それでも突き進むだけだ!」
心の内でフェンデルと話し、危険を承知で言葉通りに斬りこもうとしたそれを見て、ゼツが静止を促すように吼えた。
「よせ、ラクラ! コイツに『攻撃が通用しなかった』!!」
「!?」
彼の一喝を受け、言葉を理解するやラクラは直ぐに斬りこまず、踏みとどまるように構えを直す。
「どういうことだ?」
「…わかならい」
ヘカテーに助け起こされたヴァイは苦痛に、困惑を隠しきれない様子で呟いた。
現状を把握しきれないラクラに問いかけられたゼツもその一瞬しか見ていなかった。
しかし、沈黙で返すことはせずに、その問いかけを必死に言葉を捜して答える。
「ヴァイの攻撃が……透き通ったんだよ……竜の時もそうだったのか?」
「いや。俺とフェンデルが退けた竜は体表の硬い奴だ」
「僕らの場合は砲撃が主体の竜でした……透き通った、ですか」
そういうや、シンクは引き金を引き、無数に光刃を射出する。放たれた刃をアルヴァはかわそうともせずに悠然としていた。
そして、光刃の弾丸が彼女を撃ち抜くことはなく、彼女の後ろの壁を打ち砕いただけに終わる。
それらを見て、各々瞠目、脅威の事実に表情を引き締める。
「……フフフ、我ガ神体、貴様ラ如キガ届ク筈ガ無カロウ。
我ヲ構築スルハ……コノ『混沌神星核(カオティック・マテリア)』カラ創ラレタノダカラ……」
冷笑と共に、愛おしい様に茜色の鉱石を抱き寄せたアルヴァは言葉を続ける。
「我ニ傷ヲ与エル唯一無二ノ方法……ソレハ、同ジ『混沌神星核』ヲ素材ニシタ物ノミヨ……マア、オ前タチニ、無イ物ダロウガ」
「同じ……素材を基にした物か……」
凛那はアルヴァの言葉に感慨深く呟き、笑みを浮かべた。それを伽藍は怪訝そうに見ながら、内心で言葉を零した。
(思えば、あの子は『何処か見覚え』が在った。名前も同じと、思ったが、まさか……な)
その怪訝な眼差しに気づいた凛那は穏やかに微笑み返す。思わず伽藍は驚きを隠し切れなかった。
「!」
「隠す気は無かった……唯、知る必要は無いと思っただけだ」
そういい終えると、凛那の気迫が一変する。茜の炎が彼女の伸ばした掌中より渦巻き始め、次第に姿を露になる。
炎の様に茜に煌き、穢れの無い澄み切った刃をした刀。紛れも無い、『この世界側』の伽藍が此処『混沌世界』から入手した『混沌神星核』と呼ばれた素材で創り上げた無二にして至極の一刀。
その名こそは、
「―――明王・凛那……!!」
真なる己たる『凛那』を手に取った彼女の気迫、そして、『同じ』力の脈動を理解したアルヴァは驚嘆の表情を見せた。
悠然としていた余裕は無くなった無敵と思われた防御が完全に崩れ去ったのだから。
「ヨモヤ……オ前……『同ジ』ナノカ……!?」
茜混じりに伸びた漆黒の黒髪、同じ色である茜の燃える炯眼を彼らに見下ろして、女は姿を現す。
「コレ以上ガ行為ヲ、コノ…アルヴァ、赦スト思ウテカ?」
その声に呼応するかのように何処に潜んでいたのか、玉座に2体の竜が現れる。それらはラクラと、シンクがそれぞれ戦った竜たちで戦闘の傷が残っている。
今すぐ襲う動きが無いのは、女―――アルヴァの命令なのだろうか、睨めつけているだけだった。
「伽藍! こいつは……!」
「俺も初めて見る…! お前は―――」
「我ハ、アルヴァ。コノ世界……『混沌世界』ニヨリ生マレシ、唯一無二ノ生命ナリ」
そう名乗る傍ら、周囲に燈った無数の光が剣の形になり、切っ先が動きを封じられた伽藍に全て向けられている。
「てめぇっ!」
ゼツは紫に影を映す黒炎を刀身に走らせ、伽藍を助けださんと駆け出した。空中へ跳ね上がり、攻撃が迫った伽藍を突き飛ばし、けん制の一撃を繰り出した。
同時に激突した攻撃は相殺され、爆風だけが周囲を吹き荒らした。伽藍はすぐさま凛那に救い出され、後方へと身を引いた。
「……あなたが何者だろうと、今、アタシたちはそれが必要なの!」
ヴァイはその勇ましい叫びと共に大きく跳躍し、アルヴァと名乗る女性へと挑みかかる。
同時に、拳へ力を込めると、黒い光が収束し、解き放つように突き出す。
「黒竜拳!!」
黒い光――闘気が呼応するかのように黒竜の牙が放射され、アルヴァに迫った。
だが、アルヴァはその攻撃を一瞥するや、
「フフッ」
冷笑に等しい、鼻で笑った。すると、黒竜の放射は彼女を『通り抜け』て、奥の壁に激突したのであった、
「え――?」
「無駄」
冷笑のまま、アルヴァは言うや、衣が緩やかに広がると内側は茜に煌く銀河のような星空が広がっていた。
その異様の衣から、光が幾つも収束し、連続して光弾となってヴァイを吹き飛ばす。
「キャァッ!!」
吹き飛ばされた彼女はギリギリ受身をとって、地面へ着地する。しかし、思わぬ反撃と理解しきれない事態に困惑の表情を拭いきれて居ない。
それは他の者達も同じだった。ヴァイの攻撃は『通り抜けた』のだった。他の誰からもそう見えたのだ。攻撃が外れたわけではない。
確実にヒットした筈の攻撃が『通り抜けてしまった』のだ。当惑する面々を、アルヴァは冷笑のままに緩やかに広げた衣から再び、光弾を具現化させる。
「理解スル必要ハ無イ。死ニヨッテ償エバ……イイ……ソレ、ダケダ」
無常の言葉と同じく、光弾はレーザーのように鋭く雨の様に降り注ごうとした瞬間、
入り口の方から怒涛の光刃が、流星の弾雨が、刃の烈風が放たれ、相殺するように全てが衝突しあって消滅する。
「!!」
「――シンクたちか!」
その光景に一瞬、呆然としていたゼツはその攻撃に嬉々として振り返る。
そうして入り口の方から、アルヴァへ銃を向けながら歩いてくるシンク、光を篭った杖を手にしているヘカテー、
青いハルバート――フェンデルが、本来の武器の姿になったそれを握り締め、やって来たラクラの来着だった。
「待たせた」
「最深部まで進んでいたので合流にちょっと遅れました…ごめんなさい」
「……で、彼女は一体……」
ラクラが頼もしく言い、シンクが遅参を詫び、ヘカテーが吹き飛ばされたヴァイを救い起こし、アルヴァを睨み据えるようにゼツらに問いかける。
異様をなし、中空を漂う禍々しい美麗の女性に遅れてきた『4人』は現状の把握を求める。
下がっていた伽藍が青ざめた様子で、自分でもわかるほどの早口で口走った。
「この世界の『親玉』さ。侵入してきた俺たちを敵とみなしている…!」
「……オ前タチカ。我ガ、分身体ヲ退ケタノハ」
「分身体…なるほど、竜の正体はそうだったわけか」
悠然と浮遊している女性の言葉に得心したようにラクラは言うや、武器を構える。
(ラクラ、アイツ……なんだかおかしいわよ)
「だろうな。だが、それでも突き進むだけだ!」
心の内でフェンデルと話し、危険を承知で言葉通りに斬りこもうとしたそれを見て、ゼツが静止を促すように吼えた。
「よせ、ラクラ! コイツに『攻撃が通用しなかった』!!」
「!?」
彼の一喝を受け、言葉を理解するやラクラは直ぐに斬りこまず、踏みとどまるように構えを直す。
「どういうことだ?」
「…わかならい」
ヘカテーに助け起こされたヴァイは苦痛に、困惑を隠しきれない様子で呟いた。
現状を把握しきれないラクラに問いかけられたゼツもその一瞬しか見ていなかった。
しかし、沈黙で返すことはせずに、その問いかけを必死に言葉を捜して答える。
「ヴァイの攻撃が……透き通ったんだよ……竜の時もそうだったのか?」
「いや。俺とフェンデルが退けた竜は体表の硬い奴だ」
「僕らの場合は砲撃が主体の竜でした……透き通った、ですか」
そういうや、シンクは引き金を引き、無数に光刃を射出する。放たれた刃をアルヴァはかわそうともせずに悠然としていた。
そして、光刃の弾丸が彼女を撃ち抜くことはなく、彼女の後ろの壁を打ち砕いただけに終わる。
それらを見て、各々瞠目、脅威の事実に表情を引き締める。
「……フフフ、我ガ神体、貴様ラ如キガ届ク筈ガ無カロウ。
我ヲ構築スルハ……コノ『混沌神星核(カオティック・マテリア)』カラ創ラレタノダカラ……」
冷笑と共に、愛おしい様に茜色の鉱石を抱き寄せたアルヴァは言葉を続ける。
「我ニ傷ヲ与エル唯一無二ノ方法……ソレハ、同ジ『混沌神星核』ヲ素材ニシタ物ノミヨ……マア、オ前タチニ、無イ物ダロウガ」
「同じ……素材を基にした物か……」
凛那はアルヴァの言葉に感慨深く呟き、笑みを浮かべた。それを伽藍は怪訝そうに見ながら、内心で言葉を零した。
(思えば、あの子は『何処か見覚え』が在った。名前も同じと、思ったが、まさか……な)
その怪訝な眼差しに気づいた凛那は穏やかに微笑み返す。思わず伽藍は驚きを隠し切れなかった。
「!」
「隠す気は無かった……唯、知る必要は無いと思っただけだ」
そういい終えると、凛那の気迫が一変する。茜の炎が彼女の伸ばした掌中より渦巻き始め、次第に姿を露になる。
炎の様に茜に煌き、穢れの無い澄み切った刃をした刀。紛れも無い、『この世界側』の伽藍が此処『混沌世界』から入手した『混沌神星核』と呼ばれた素材で創り上げた無二にして至極の一刀。
その名こそは、
「―――明王・凛那……!!」
真なる己たる『凛那』を手に取った彼女の気迫、そして、『同じ』力の脈動を理解したアルヴァは驚嘆の表情を見せた。
悠然としていた余裕は無くなった無敵と思われた防御が完全に崩れ去ったのだから。
「ヨモヤ……オ前……『同ジ』ナノカ……!?」