CROSS CAPTURE46 「三剣解説 1」
「――王羅、私たちに何か用なの?」
ウィドに三剣に関する情報を教える事にした王羅は偶然居た二人――心剣士のクェーサー、反剣士のアトスの姉妹に声をかけてルキル居た部屋とはすぐ隣の別室に誘われた。
問われた王羅はにこやかにある程度の説明をする。彼女の説明を受けた姉妹は別段の反論も無い為、そのまま了承する事にした。
そして、もう一人が別室へと入ってきた。それは白い衣装を着た金髪の少年――永遠剣士の皐月だった。
「王羅さん。……兄はちょっと酔いつぶれているので代わりに僕が」
「また? ――とりあえず、来てくれてありがとう」
「……あなた達が、ですか」
「ええ。よろしくお願いします。ウィドさん」
入ってきた皐月に聊か驚きを隠しきれないウィドに微笑みで返して応じる。
そうして、王羅たちによる三剣の説明が始まったのだった。
「まずは永遠剣について話すよ。皐月、お願いします」
「はい」
そう言って、皐月は虚空から剣を取り出し見せ付けるように持った。
それは永遠剣。永遠を生き、喰らい続ける無間の象徴。
手に持つ黒金の剣は一目で異質な力の脈動を感じ入る程に強力な存在感を漂わせていた。
ウィドが皐月の現在掴んでいる永遠剣『ガヴェイン』をじっと見る中で皐月は話を切り出した。
「これは永遠剣と言うもので、所有者に永遠の時を齎す事が出来るんだ」
「…永遠の、時をですって…?」
途方も無い言葉を軽々と、さらりと言い放った事にウィドは疑問視する。皐月はその視線を苦笑で応じる。
「ははは……まあ、永遠を齎す事はできても死からは逃れられない。
でも、僕と兄さん…睦月もかれこれ長く生きている。今居る永遠剣士も指で数えるほどしかいないし」
永い人生の中で数え切れないほどの出会いと別れを繰り返してきた。自分たちを導いた虚ろなる者たちと過ごした永い日々を。
その永い日々を越え、永遠剣士の行き着く果てたる真の故郷『永遠城』に帰参した。
だが、今は感傷に浸る気は無かった。皐月は思い出したような口ぶりで永遠剣士の能力を打ち明ける。
「ああ、他にも永遠剣士特有の力が2つあります」
「2つ?」
「一つは『鎧』です。これはもう一つの能力と連動したもので、言葉通りの『鎧』を纏う事。端的に言うなら『進化に応じて変化する鎧』ですね」
「進化に応じて…」
永遠剣とそれによって作り出された『鎧』は永遠剣の進化に応じ、姿形を変化していく。
それは永遠に生きる彼らを文字通り守る『鎧』であり、戦う力になる『鎧』でもある。
「そう。もう一つの能力―――それは『捕食』。永遠剣士は永遠剣の力で様々な力を喰らって力を得る事が出来る。ある程度捕食を重ねると永遠剣、鎧は『進化』します。
このガヴェインも元は僕が最初に手に入れた永遠剣から進化したものです」
黒金の剣、ガヴェインの力の気配はそのためのものだったか、とウィドは内心で理解する。
彼の様子から理解している事に安心し、自分が言うべきことは終わった。
「何か質問とかあります? この際、王羅さんたちも如何ですか?」
「一つ。永遠剣士は永遠を生きる事が出来る。だが、さっき『指で数えるほど』しか言わなかった。死があるとはいえ、何故……」
「あ、やっぱり気になります?」
皐月はウィドの質問に実の無い笑顔を返す。それが何処か途轍もない程の冷笑に見えたのはウィド以外のものも感じ取った。
そんな怯んだ視線に、皐月はその冷たい笑顔のまま、彼の質問に緩やかに口を開いた。
「では、たとえ話を―――……『おめでとう、あなたは永遠を生きる力を手に入れました。ずっとずっとあなたは永遠に生きられます。死に悩む必要はありません。
なぜなら永遠に生きる力は、強大なのです。死に悩む必要は無い。そう、永遠に、永遠に、永遠に生き続けられます』――――ある日、唐突に永遠に目覚めた者たちは他にも何人も居ました。
でも、その殆どが……死んだ。何故でしょうね? 簡単ですよ、その殆どが『自分で自分を殺した』のです」
「……」
淡々と笑顔のままに言った彼の気迫は異様だった。その気迫に言葉を発する事が出来ないほどに。
否、言葉を返す事自体が許されなかった。皐月の言葉は続いた。
「永遠剣は壊れません。『永遠』の核そのものですから。――――『永遠剣は永遠剣でしか破壊できない』。『永遠剣士は自らの永遠剣で命を絶った』のです。
アビス、僕、兄さん――睦月はそんな彼らと違って結構永く生きていますよ。まあ、僕の場合は兄さんが居てくれた事が大きかった………本当、に」
言い終えると笑顔も気迫も消えていた。皐月は一息ついて、柔和に微笑んだ。
「永遠剣士は残念ながら『誰でもなれるわけじゃない』。カルマが永遠剣を手に入れたのは始祖ジェミニを利用して、永遠剣を作られた事が原因でしょう。――――僕が言えるのは大方これくらいですね」
「ありがとう、参考になりました」
「いえいえ」
ウィドの礼に微笑みながら返し、王羅たちに目配せする。
一先ず永遠剣に関する事は終わったという意味の視線で。
「なら、次は私からいくわね、姉さん」
「ええ」
剣を収めた皐月の次に話を切り出したのは反剣士のアトスであった。
姉クェーサーの了承を得て、彼女は白い流麗な刀身に青色の刻印が刻まれた剣を取り出す。
それは反剣。心剣の反存在、心剣を喰らう、深き業の象徴。