CROSS CAPTURE47 「三剣解説 2」
「反剣、私たち反剣士は心剣士と同じようで違う存在なの」
「同じようで…違う?」
「正確に言うと、ほっとんどの反剣士は『心剣士と違う方法で心剣を抜いた異端な心剣士』なのよ。……此処までは?」
ウィドへの確認に彼は頷き一つで、真摯に眼差しを見つめる。それに笑みで返して、話を続ける。
「心剣士って基本的に『自分』で『心の形を引き抜く』ことが最初の鍵なんだけどね、反剣士はケースは様々だけど大体が『他者』に『無理やり心の形を引き抜かれた』事が原因らしいのよ」
「他者に…」
「他者に引き抜いても心剣になるけど、それは引き抜くことが出来る状態…つまり『心の形』が出来上がっているから問題ないの。問題は『無理やり心の形』を出来上がらせてしまうこと」
「では…あなたも」
質問を耳にしたアトスは気にせずに頷き、一方の姉のクェーサーが何処か苦々しい表情を見せる。そんな様子に一瞥で注意する。
今ある自分は彼女のお陰でもある。だが、それを嘆き、呪う事は在り得なかった。それを否定してしまったら『自分は在り得ない』のだから。
視線で注意してから、ウィドへと問われた答えを言う。
「まあ、こうなった身でも悪くないわよ。
…オススメはしないけど。反剣士は一度なってしまうと二度と心剣士として目覚める事は無い。……ま、例外が今回いたけどいいわ」
その例外とはカルマに操られた男の一人ベルモンドと呼ばれる男だった。彼は心剣、反剣を両方を使う事が出来る異例の存在だった。
だが、その異例を除いて全ての反剣士は心剣士になることは在り得なかった。
「反剣士はどういうわけか、心剣を喰らう事で成長する事が出来るのよねー……心剣の『核』まで喰われた心剣は死ぬわ。もう二度とその心剣は使えない」
心剣の対の存在である反剣の最たる能力は心剣(特に心剣の『核』)を喰らう事による強化であった。
だが、心剣を喰らった反剣士は『拒絶反応』に見舞われ、暫くの間(喰らった心剣が反剣、自身の体に『なじむ』まで)猛烈な苦しみを受ける事から捕食による強化は少ない。
しかし、その拒絶の痛みもある程度『食べ慣れてしまう』と感じなくなるとアトスは遠い目で言った。恐らく彼女もそうしてきたのだろう、とウィドは心の内で呟く。
「……」
「後は『異端の回廊』ね」
「?」
「単純に言えば、反剣士専用の『闇の回廊』よ」
このセカイとウィドたちの居るセカイと大きく違う事はまさにそれであった。
このセカイには『旅人』と呼ばれる異世界を渡り歩く人間が数多存在している。
異なる世界同士の必要以上の干渉は大きな混乱と災厄を引き寄せてしまう危険性(ウィドたちのいる『セカイ』では)があった。しかし、こちら側(神無たちの居る『セカイ』)は『旅人』の存在もあり、その危険性が薄い。
当然、旅人全てが聖人君子の様な善人ではない。カルマのような『突如、セカイの害なる存在』になるものも居れば、元々、荒らす『旅人』も居た。
闇の回廊は闇の力を持たない者、闇に耐えない者が巻き込まれれば闇に飲まれてしまう。そうした危険性からか、様々な世界を移動する方法が『旅人』の中で自然と増えていった。
反剣士なら『異端の回廊』であった。反剣士自らが『狭間』に道を作り、世界を移動する方法。
そして、旅人も同じように『狭間』に道を作り、移動する方法『回廊』が生まれた。
「なんというか……凄いのですね」
「適当な言葉ありがとうね。まあ、反剣の大きなポイントはそこくらいかしらね。後は普通の心剣同様よ。以上ね」
そう言い切り、一通り言い終えたアトスは剣を収めてクェーサーと王羅に視線を向けた。
向けられた二人はそれぞれ応じるように頷き返し、二人して説明に入る。
「では、最後は心剣ですね」
「そうだな」
王羅は胸から出現した柄を、クェーサーは虚空よりそれぞれの方法で引き抜いた。
心剣士は一度、抜剣すればどのような方法でも問題なく取り出せるのである。王羅は『古めかしい方法』で、クェーサーが『一般的・基本的な方法』で魅せたのだった。
そして、心剣は万人が手に入れる可能性を秘めた剣であった。
「僕たちの心剣は文字通り『心の剣』と呼ばれているね。まあ、剣の形は基本的な『形』で、いろんな形があるんだよ」
「それは……他の武器の形になるということですか」
「そう。僕の嘗ての仲間に槍の心剣を使っていた者もいたし、この城にも『鎧』の形にしている者も居たね」
心に色、形は無い。『心が有れども』、その形態は未知数であった。
心剣は様々な条件や、きっかけで目覚める事が多々あった。
神無は守りたい心、無力を呪った事がきっかけで、神月は自分のコンプレックス(白髪)を許容し、自分を克服した覚醒が心剣を生み出した。
「一般的に感情の爆発、が定義になりつつありましたね。僕は―――どうだったでしょうか…」
「そうねえ、貴女も私も心剣の最上位『究極心剣』だから」
「究極心剣…」
究極心剣。心剣の中でも神の力とでもいうべき、絶大な力を宿した心剣であった。
これを手にする者は極わずかであり、伝説の存在でもあった。
絶大な力の象徴である『権能』は神月の究極心剣『ヴァラクトゥラ』は『創造』、王羅の究極心剣『ホーリーコスモス』は『秩序』、クェーサーの究極心剣『トゥース・ギャラクシアン』は『星』などである。
だが、究極心剣は『最上位の心剣』であり、他の心剣もまたより高みへ極めることが出来る。
「心剣は第二の変化、とも言うべき能力『神威開眼』があります」
神威開眼。心剣に秘められた進化の可能性である。
究極心剣のような『権能』は与えられないが強大な力が覚醒し、進化する。
神無の『魔神剣バハムート』、あるいは『魔黒刀リンナ』、菜月の『七神剣陰陽道光陰』、刃沙羅の『鬼神装剣カオスオーガ』などがある。
究極心剣からの神威開眼は神月の『創神剣ユミル』である。
「結局の所……心剣、永遠剣、反剣を会得しても直ぐに強くなるわけじゃないですよ。それは誰でも言える揺ぎ無い真実」
王羅は何度も言った。それはウィドの視線に込められた意思に対してのものだった。
それはまさに燻る火のような、消えることも出来ない執念の火である。
そんな渇望の眼差しに、一色の怜悧さを混じった双眸を彼に向けながら言葉を続ける。
「…僕の心剣、秩序と言うのは厳密に言えば他者を支配する事なのかもしれない。そう思う時があります」
他者の荒ぶる感情――引いては心の全てを抑圧し、統率(コントロール)する。秩序とはそういうものなのだろうか。
明確な力ではないにも関わらず、絶大な力を有しているこれは、そういうものなのだろうか。
「僕自身、この心剣を得てもカルマのような支配者にはならなかった。『その気になったら、支配する事も出来るのに』……まあ、カルマが当初狙ったのもそれがあったんでしょうね」
「つまり……私に何を言いたいのですか」
「何度も言ってますよ。『何を得ても、何も変わりはしない』と。仮に、貴方の中にあるクウに対する憎悪だけで生まれる心剣もあるでしょう。
でも、それは言い換えれば―――それはどうしようもない、『あなた自身』の形です。もう、貴方が彼を赦す機会は永劫、ありません」
「…!」
「剣と言う形の己自身。自分を証明してしまう、そういうことです」
「――王羅、もう話す心剣のネタは無いわよ」
「ええ。必要なものは語りきったと思いますし……何かあったらまたお願いします」
怜悧な言葉から打って変わって、穏やかな表情のままに言うやぺこりと一礼する。
「此処からはウィドさん自身の問題です」
そう言って、クェーサーらを引き連れて、部屋を出て行った。一人残された彼はその言葉に険しい色を宿したまま、無言で座ったままだった。
時間は進み、ちょうど昼間になる。空間を切り開いて、ゼツらが帰還する。
全員が出てくると空間は閉じ、何も無い風景のままになる。
伽藍は手に持つ茜に輝く鉱石を一瞥してから、
「俺は早速、あの工房で凛那を作り直す。――ああ、炎産霊神を呼ばねえと」
『なら! さっさと行こうよ』
「そうだな。さっさと行くぞ、伽藍」
「おう、そうだなー……って、いつの間にっ!?」
「私も居るわよ」
突然割って入ってきた無轟、炎産霊神らの登場に大きく驚く伽藍たち。そして、彼の後ろにイリアドゥスが居た。
彼女は驚く彼らに丁寧に此処へと瞬時に現れた理由を説明した。
「ゼツが此処へと戻ってきた時の力を感じて瞬時に転移したのよ。記憶は取り込んであるから、『力の質』も理解できるわ」
「ある意味の逆探知かよ…」
驚きを隠そうと声を小さく漏らしたゼツにくすりと笑んでからイリアドゥスは続けて言う。
「まあ、素材捜索しに行ったと聞いたから戻ってくる間まで気配を鋭くしていただけよ。その間、彼らと一緒に雑談して暇を潰して」
『そういうこと。じゃあ、早く凛那を直しに行こう! もう、預けているんだろう?』
「ああ。ツヴァイさんに届けさせるように言いつけたからな。向こうに在るはずさ」
「では行こう。イリアドゥス、移動の駄賃というのもアレだが、これから生まれ変わる明王凛那を見てみるか?」
「ふふ。それは彼女に言うべきじゃあないかしら」
満足げに小さく笑み、その視線を彼女へと向ける。向けられた彼女―――こちら側の凛那は一瞬険しい表情を見せたが直ぐに凛としなおしてから。
「――無轟はいいのなら、同行する」
「そうだな。では―――二人とも来てくれるか?」
「ええ。いいわよ」
「了解した、直ぐに向かおう」
「んじゃあ、俺たちは解散だな。城に戻って何か食べるか」
こうして、無轟、炎産霊神、伽藍、凛那、イリアドゥスはアスラ・ロッテの工房へ明王凛那の修理へ向かい、
残ったゼツたちは城へ戻り、昼食・休憩など自由行動へと移って別れていった。
■作者メッセージ
三剣についての解説を書いてみましたが、うまく書ききっているか判らないです。もう一方の解説小説にも用意しておこうと思います…いつか。