CROSS CAPTURE48 「芽生える渇望」
―――逃げろ!! 急げ!!
―――早くっ!!
銃と弓を手に前を走る二人の声、後ろから自分達を追いかける沢山の兵士。
―――いかん、《破魔石》の暴走だ!! 早く退け!!
迷い込んだ研究所での知られざる実験。部屋に響く大きな爆発。
―――いや! 一人だけ逃げるなんて絶対にいやぁ!
―――俺はこの物語の主人公だぞ? 主人公は絶対に助かるのさ。
闇の入口に呑まれる自分に、彼は崩れゆく通路の中で笑いかける。
彼らと出会ってから、ずっと一緒だった。機械はもちろん、さまざまな戦い方、秘境で何日も過ごしたし、時には思いもよらぬ冒険だってした。
だけど、別れの時は何も出来なかった。たった一つの魔石欲しさに、恩人達を巻き込んだ。一緒に故郷に逃げる事も出来たのに、見てるしか出来なかった。
昔と同じだ。無力だったせいで、闇に呑まれる家族を助けられなかった。リクとリリィの事だって、ソラやスピカと同じようにどうする事も出来ないまま見てるだけだった。
何も出来ない、何も変わらない。そんなの嫌。力が欲しい、力が…!
―――力が欲しいか? 餓えし者よ。
「――ッ!!」
頭に響いた声に、一気に眠りが払われる。
すぐにオパールが起き上って周りを見回すと家具のない簡素な室内で、自分はベットに横になっている。
休憩室にと当てられたモノマキアの一室だと思いだし、少しだけ精神が落ち着いた。
「はぁ…はぁ…! なに、今の…!」
ベットの上で頭を押さえ、悪夢を追い返そうとする。
それと同時に、軽い眩暈を起こした。
「っあ〜、まだ頭がクラクラする…」
長時間画面を見て起こす特有の眩暈が抜けず、再びベットに横になる。
若干目も痛むので俯せになって、目や精神の疲れを取る。
やがて痛みも和らぐと、寝返りを打って天井を見上げた。
「羨ましいな…こんな船作れるなんて」
素直な感想と共に、オパールの脳裏にシエラ号を思い浮かべる。
シドと共に設計から開発まで携わったグミシップは自信作と言っても良かった。
だが、この船は自分達が作り上げた船よりも更に上を行っている。
「あたし達が作ったグミシップも、結局はマーリン様のおかげで異空の海を飛べてる…――駄目だなー、全然届いてないよあたし…」
どうにか笑みを溢すが、どうしても悲しみが滲み出てしまう。
世界の壁がある以上、普通のグミシップでは他のワールドに降り立つ事は出来ない。その為、世界を渡る事の出来るマーリンに頼んでグミシップに世界を渡れるように魔法をかけて貰ったのだ。
オパールは横になったままポーチに手を入れる。そこから取り出したのは、掌サイズの機械に埋め込まれた青く不気味に光る魔石だった。
「バルフレア、フラン、ノノ…――世界って、本当に広いんだね。終着点に着いたかと思ったら、実際はまだまだ広がってた」
今は遠くにいる恩人に語りながら、魔石を上に掲げる。
鈍く光る魔石の光を眺め、さっきの夢を思い出す。
「この事件が終わって、元の世界に戻って、今回の経験生かしてまたグミシップで旅をして…そしたら、逢えるんだよね…?」
「これは珍しい石じゃな」
「うひゃあぁぁ!!?」
何の予兆も無くかけられた声に、感傷に浸っていたオパールは魚のように飛び跳ねる。
同時に手に持ってた魔石を手放してしまうが、すぐにベットに落ちる前に空中でキャッチする。
そのまま声の主に目を向けると、そこにはベルフェゴルがいた。
「すまないの、驚かせて。ふむ…魔力を吸収しその身に蓄える石か」
「分かるの?」
「見ただけで、物質に関する物は分かる。で、これは一体?」
「《破魔石》って言うらしいの…人工で作られたものだけどね」
ベルフェゴルに教えると、手の中にある魔石―――破魔石を見る。
同じようにベルフェゴルも魔石を見ると、興味が湧いたのか手を伸ばした。
「ほう、少し拝見を…」
「あ、待って――!」
すぐにオパールが魔石を引っ込めようとするが、ベルフェゴルの手が早かった。
彼が魔石を入れている機械へと手を触れた瞬間、力が急激に魔石へと吸い取られ始める。
「ぬうっ…!?」
「早く放してっ!!」
「どうしたんです!?」
悲鳴に近い叫びを上げてベルフェゴルから魔石から引き剥がす。
と、騒ぎを聞きつけたのか一人の青年―――レギオンが部屋の中へと駆け込むと、ベルフェゴルは驚きを露わにしながらオパールの手にある魔石を見た。
「驚いた…触れた者の魔力を無造作に奪い取るのか」
「魔力を奪い取る石、ですか…? それなら、どうしてあなたは?」
「あー、あたし皆の言う魔力なんて持ってないの。持ってたとしても魔法も扱えない程微弱だから…こうして触っても反応しないんだと思う」
何でもない様にレギオンの質問に笑って答えていると、ベルフェゴルは険しい表情を浮かべる。
「しかし害が無いとはいえ、なぜそんな危険な代物を持っておるのだ?」
「確かにこれは危険すぎる――…それでも、あたしにとっては大事な物なの。これだけがあたしと恩人と繋ぐ、唯一のモノだから」
オパールはそう語ると、手の中にある魔石を見つめて強く握り締める。手放してはいけまいと。
どんな物であれ、それは大事な物だと伝わりレギオンは頭を下げた。
「何か済みません、聞いてはいけない事を聞いてしまったようですね」
「ううん、気にしないで。そう言えば、あんた誰?」
「僕はレギオンと言います。その…あなたにお話したい事があって…」
その時、ベットの横に置いてあった小型の機械から高いデシタルの音が鳴り響いた。
「バグデータの解析終わった! ごめん、話は後で聞くから!」
軽く謝るなり、オパールは小型の機械を取り上げて部屋を出ていってしまう。
そのまま部屋のドアが閉まると、レギオンは苦笑を浮かべてしまった。
「行ってしまいましたね」
「話と言うのは――彼女の故郷に使ったあのハートレス製造機の事か?」
ベルフェゴルの問いに、レギオンは表情を消す。
『KR』の開発を進めると共に、エンが何処からか入手したデータ。ハートレスを作ると言うのは『KR』の中身にも使えるので、カルマも開発は許していた。
そうして奪還戦の前に出来上がると、テスト起動を終えてすぐに何処かに転移していたのを二人は覚えている。何処かの世界に設置したと思っていたが、まさか異世界に使っているとは思いもしなかった。
「ええ…エンの命令とは言え、作ったのは事実ですから」
「そうじゃな。儂も、あの娘には謝らなければいけぬな…」
あくまでも、作った二人や道具に罪はない。悪いのは、使い方を悪用した者だろう。
それでも、二人の胸には作り手としての責任を感じていた。
その頃、下層のとある通路でイオンとペルセは頭を悩せていた。
「うーん…最低でもあと一人か…」
アイネアスに外出許可を取った所、最低でも三人以上でないと出かける事を認められないと言われてしまった。
確かに、里帰り中にカルマ達と出会ってしまう事になれば二人では心許無い。言い分は尤もなだけに、誰を誘うか悩んでいた。
「チェルさんはボコボコにされて、イブさんに看病して貰ってる。ハオスはまだ子供だから、下手をすれば話してしまう恐れがある…」
「オルガさんや凛那さんはそれぞれ別件で動いているから、クェーサーさんとか、皐月さん、シェルリアさんの誰かかなぁ…」
レプセキアでそれぞれ共闘した人物を思い浮かべるが、ハッキリ言って気が乗らない。
しかし時間は待ってくれない。もう、この三人から選ぶしかない。そう二人が腹を括っていると、後ろから声をかけられた。
「イオン先輩? どうしたの?」
二人が振り向くと、修練場から戻ってきたのかシャオが不思議そうにこちらを見ていた。
「シャオ。ちょっとメンバーの事で…」
今の状況をイオンが説明しようとして…閃いた。
「そうだ! シャオ、暇なら僕達と一緒に来て貰えないかな? これから行かないといけない世界があるんだけど…」
自分達とは別の世界の住人とは言え、シャオは自分達の事情を知っている数少ない人物。だからこその頼みだった。
突然の頼みにも関わらず、シャオは何の躊躇もなく笑顔で親指を突き付けた。
「うん、いいよ! それぐらいお安い御用さ!」
「ふふっ、頼もしいね」
返事一つで了解するシャオに、思わずペルセはクスリと笑ってしまう。
何がともあれどうにか条件を満たしていると、シャオが質問をぶつけた。
「でさ、何処に行くの?」
「僕の故郷―――【ディスティニーアイランド】だよ」
「――あった、最新のデータ。重いのは後回しにして、まずは軽い方から一気に…」
データ解析も終わり、モノマキアの操縦室で黙々とキーを叩くオパール。
そうして一通りの作業が終わり、後は待つだけとなり軽く背伸びをしていると視界にある人物が入った。
「リク?」
オパールの視線の先には備え付けられた椅子に座り、背凭れに寄り掛って目を閉じているリクがいた。
「こんな顔で寝て…どれだけ疲れてたのよ」
何処か呆れつつも、眠るリクの顔をじっと見つめる。
本来の少年の顔ではない、別の男の顔。それでも、オパールは戸惑う事無く髪を撫でる。
「呪い、か…」
リリスが放った言葉を思い出していると、ふとある話を思い出す。
(キスをすると、呪いは解ける…)
それはおとぎ話のようで、本当にある話。呪いをかけられた人間は、愛する人のキスで眠りから目覚め、人の姿に戻る事が出来る。
少しずつリクの閉じられた唇に視線を向け、すぐに我に返った。
「なっ、なに考えたのよあたしぃ!!?」
顔を真っ赤にしながら、首をブンブンと振って邪な考えを追い払おうとする。
だが、一度芽生えた思考はそう簡単には消えない。思いが強いのなら、尚更だ。
(試すくらいなら…いいかな…?)
そっとリクに目を向け、ゆっくりと顔を近づける。
(ど、どうか起きませんように…っ!!)
ドクドクと鳴る心臓。熱の上がる顔。自分がどれだけ緊張しているのかが伝わる。
やがて、互いの唇の距離があと少しとなった時だ。
「――リリィ…」
「ッ!?」
リクの口から洩れた言葉に、オパールは顔を強張らせ動きを止める。
すぐに距離を離して顔を逸らしていると、リクが目を覚ましたのが身動ぎした。
「…ん? 悪い、俺寝てたか…?」
「ホ、ホントよ! いくらここが安全だからって気を緩め過ぎ! もっとシャキッとしときなさい!」
「どうした? 何かおかしいぞ?」
「お、おかしいって何がよ!」
心配そうなリクに対し、オパールは半ば怒鳴りつけて必死で顔を逸らす。
リクの姿を直視出来ないでいると、急に彼に腕を引っ張られ顔を向かい合せられた。
「ちょ! 何を…!?」
「顔色はそれほどでもなさそうか。熱は?」
そう言うと、何とリクは互いのおでこをくっ付けて体温を測り出した。
(か、顔っ!! 顔が近い!?)
幾ら見た目が別人だとしても、中身は本人だ。先程の事も相まって、オパールの思考はショート寸前になる。
どうしようもない状況に固まっていると、自分を見るリクの瞳に何故か違和感を感じた。
(あれ…この金色の目、さっきの夢で…)
「熱はあるようだな…もう少し休んだ方が――オパール?」
自分を見る光る目。心の内を見透かす声。
脳裏に浮かぶは…人ならざる、何か。
「――いやぁ!!」
「ッ!?」
湧き上がった恐怖に耐え切れず、目の前にいるリクを思いっきり突き放した。
―――早くっ!!
銃と弓を手に前を走る二人の声、後ろから自分達を追いかける沢山の兵士。
―――いかん、《破魔石》の暴走だ!! 早く退け!!
迷い込んだ研究所での知られざる実験。部屋に響く大きな爆発。
―――いや! 一人だけ逃げるなんて絶対にいやぁ!
―――俺はこの物語の主人公だぞ? 主人公は絶対に助かるのさ。
闇の入口に呑まれる自分に、彼は崩れゆく通路の中で笑いかける。
彼らと出会ってから、ずっと一緒だった。機械はもちろん、さまざまな戦い方、秘境で何日も過ごしたし、時には思いもよらぬ冒険だってした。
だけど、別れの時は何も出来なかった。たった一つの魔石欲しさに、恩人達を巻き込んだ。一緒に故郷に逃げる事も出来たのに、見てるしか出来なかった。
昔と同じだ。無力だったせいで、闇に呑まれる家族を助けられなかった。リクとリリィの事だって、ソラやスピカと同じようにどうする事も出来ないまま見てるだけだった。
何も出来ない、何も変わらない。そんなの嫌。力が欲しい、力が…!
―――力が欲しいか? 餓えし者よ。
「――ッ!!」
頭に響いた声に、一気に眠りが払われる。
すぐにオパールが起き上って周りを見回すと家具のない簡素な室内で、自分はベットに横になっている。
休憩室にと当てられたモノマキアの一室だと思いだし、少しだけ精神が落ち着いた。
「はぁ…はぁ…! なに、今の…!」
ベットの上で頭を押さえ、悪夢を追い返そうとする。
それと同時に、軽い眩暈を起こした。
「っあ〜、まだ頭がクラクラする…」
長時間画面を見て起こす特有の眩暈が抜けず、再びベットに横になる。
若干目も痛むので俯せになって、目や精神の疲れを取る。
やがて痛みも和らぐと、寝返りを打って天井を見上げた。
「羨ましいな…こんな船作れるなんて」
素直な感想と共に、オパールの脳裏にシエラ号を思い浮かべる。
シドと共に設計から開発まで携わったグミシップは自信作と言っても良かった。
だが、この船は自分達が作り上げた船よりも更に上を行っている。
「あたし達が作ったグミシップも、結局はマーリン様のおかげで異空の海を飛べてる…――駄目だなー、全然届いてないよあたし…」
どうにか笑みを溢すが、どうしても悲しみが滲み出てしまう。
世界の壁がある以上、普通のグミシップでは他のワールドに降り立つ事は出来ない。その為、世界を渡る事の出来るマーリンに頼んでグミシップに世界を渡れるように魔法をかけて貰ったのだ。
オパールは横になったままポーチに手を入れる。そこから取り出したのは、掌サイズの機械に埋め込まれた青く不気味に光る魔石だった。
「バルフレア、フラン、ノノ…――世界って、本当に広いんだね。終着点に着いたかと思ったら、実際はまだまだ広がってた」
今は遠くにいる恩人に語りながら、魔石を上に掲げる。
鈍く光る魔石の光を眺め、さっきの夢を思い出す。
「この事件が終わって、元の世界に戻って、今回の経験生かしてまたグミシップで旅をして…そしたら、逢えるんだよね…?」
「これは珍しい石じゃな」
「うひゃあぁぁ!!?」
何の予兆も無くかけられた声に、感傷に浸っていたオパールは魚のように飛び跳ねる。
同時に手に持ってた魔石を手放してしまうが、すぐにベットに落ちる前に空中でキャッチする。
そのまま声の主に目を向けると、そこにはベルフェゴルがいた。
「すまないの、驚かせて。ふむ…魔力を吸収しその身に蓄える石か」
「分かるの?」
「見ただけで、物質に関する物は分かる。で、これは一体?」
「《破魔石》って言うらしいの…人工で作られたものだけどね」
ベルフェゴルに教えると、手の中にある魔石―――破魔石を見る。
同じようにベルフェゴルも魔石を見ると、興味が湧いたのか手を伸ばした。
「ほう、少し拝見を…」
「あ、待って――!」
すぐにオパールが魔石を引っ込めようとするが、ベルフェゴルの手が早かった。
彼が魔石を入れている機械へと手を触れた瞬間、力が急激に魔石へと吸い取られ始める。
「ぬうっ…!?」
「早く放してっ!!」
「どうしたんです!?」
悲鳴に近い叫びを上げてベルフェゴルから魔石から引き剥がす。
と、騒ぎを聞きつけたのか一人の青年―――レギオンが部屋の中へと駆け込むと、ベルフェゴルは驚きを露わにしながらオパールの手にある魔石を見た。
「驚いた…触れた者の魔力を無造作に奪い取るのか」
「魔力を奪い取る石、ですか…? それなら、どうしてあなたは?」
「あー、あたし皆の言う魔力なんて持ってないの。持ってたとしても魔法も扱えない程微弱だから…こうして触っても反応しないんだと思う」
何でもない様にレギオンの質問に笑って答えていると、ベルフェゴルは険しい表情を浮かべる。
「しかし害が無いとはいえ、なぜそんな危険な代物を持っておるのだ?」
「確かにこれは危険すぎる――…それでも、あたしにとっては大事な物なの。これだけがあたしと恩人と繋ぐ、唯一のモノだから」
オパールはそう語ると、手の中にある魔石を見つめて強く握り締める。手放してはいけまいと。
どんな物であれ、それは大事な物だと伝わりレギオンは頭を下げた。
「何か済みません、聞いてはいけない事を聞いてしまったようですね」
「ううん、気にしないで。そう言えば、あんた誰?」
「僕はレギオンと言います。その…あなたにお話したい事があって…」
その時、ベットの横に置いてあった小型の機械から高いデシタルの音が鳴り響いた。
「バグデータの解析終わった! ごめん、話は後で聞くから!」
軽く謝るなり、オパールは小型の機械を取り上げて部屋を出ていってしまう。
そのまま部屋のドアが閉まると、レギオンは苦笑を浮かべてしまった。
「行ってしまいましたね」
「話と言うのは――彼女の故郷に使ったあのハートレス製造機の事か?」
ベルフェゴルの問いに、レギオンは表情を消す。
『KR』の開発を進めると共に、エンが何処からか入手したデータ。ハートレスを作ると言うのは『KR』の中身にも使えるので、カルマも開発は許していた。
そうして奪還戦の前に出来上がると、テスト起動を終えてすぐに何処かに転移していたのを二人は覚えている。何処かの世界に設置したと思っていたが、まさか異世界に使っているとは思いもしなかった。
「ええ…エンの命令とは言え、作ったのは事実ですから」
「そうじゃな。儂も、あの娘には謝らなければいけぬな…」
あくまでも、作った二人や道具に罪はない。悪いのは、使い方を悪用した者だろう。
それでも、二人の胸には作り手としての責任を感じていた。
その頃、下層のとある通路でイオンとペルセは頭を悩せていた。
「うーん…最低でもあと一人か…」
アイネアスに外出許可を取った所、最低でも三人以上でないと出かける事を認められないと言われてしまった。
確かに、里帰り中にカルマ達と出会ってしまう事になれば二人では心許無い。言い分は尤もなだけに、誰を誘うか悩んでいた。
「チェルさんはボコボコにされて、イブさんに看病して貰ってる。ハオスはまだ子供だから、下手をすれば話してしまう恐れがある…」
「オルガさんや凛那さんはそれぞれ別件で動いているから、クェーサーさんとか、皐月さん、シェルリアさんの誰かかなぁ…」
レプセキアでそれぞれ共闘した人物を思い浮かべるが、ハッキリ言って気が乗らない。
しかし時間は待ってくれない。もう、この三人から選ぶしかない。そう二人が腹を括っていると、後ろから声をかけられた。
「イオン先輩? どうしたの?」
二人が振り向くと、修練場から戻ってきたのかシャオが不思議そうにこちらを見ていた。
「シャオ。ちょっとメンバーの事で…」
今の状況をイオンが説明しようとして…閃いた。
「そうだ! シャオ、暇なら僕達と一緒に来て貰えないかな? これから行かないといけない世界があるんだけど…」
自分達とは別の世界の住人とは言え、シャオは自分達の事情を知っている数少ない人物。だからこその頼みだった。
突然の頼みにも関わらず、シャオは何の躊躇もなく笑顔で親指を突き付けた。
「うん、いいよ! それぐらいお安い御用さ!」
「ふふっ、頼もしいね」
返事一つで了解するシャオに、思わずペルセはクスリと笑ってしまう。
何がともあれどうにか条件を満たしていると、シャオが質問をぶつけた。
「でさ、何処に行くの?」
「僕の故郷―――【ディスティニーアイランド】だよ」
「――あった、最新のデータ。重いのは後回しにして、まずは軽い方から一気に…」
データ解析も終わり、モノマキアの操縦室で黙々とキーを叩くオパール。
そうして一通りの作業が終わり、後は待つだけとなり軽く背伸びをしていると視界にある人物が入った。
「リク?」
オパールの視線の先には備え付けられた椅子に座り、背凭れに寄り掛って目を閉じているリクがいた。
「こんな顔で寝て…どれだけ疲れてたのよ」
何処か呆れつつも、眠るリクの顔をじっと見つめる。
本来の少年の顔ではない、別の男の顔。それでも、オパールは戸惑う事無く髪を撫でる。
「呪い、か…」
リリスが放った言葉を思い出していると、ふとある話を思い出す。
(キスをすると、呪いは解ける…)
それはおとぎ話のようで、本当にある話。呪いをかけられた人間は、愛する人のキスで眠りから目覚め、人の姿に戻る事が出来る。
少しずつリクの閉じられた唇に視線を向け、すぐに我に返った。
「なっ、なに考えたのよあたしぃ!!?」
顔を真っ赤にしながら、首をブンブンと振って邪な考えを追い払おうとする。
だが、一度芽生えた思考はそう簡単には消えない。思いが強いのなら、尚更だ。
(試すくらいなら…いいかな…?)
そっとリクに目を向け、ゆっくりと顔を近づける。
(ど、どうか起きませんように…っ!!)
ドクドクと鳴る心臓。熱の上がる顔。自分がどれだけ緊張しているのかが伝わる。
やがて、互いの唇の距離があと少しとなった時だ。
「――リリィ…」
「ッ!?」
リクの口から洩れた言葉に、オパールは顔を強張らせ動きを止める。
すぐに距離を離して顔を逸らしていると、リクが目を覚ましたのが身動ぎした。
「…ん? 悪い、俺寝てたか…?」
「ホ、ホントよ! いくらここが安全だからって気を緩め過ぎ! もっとシャキッとしときなさい!」
「どうした? 何かおかしいぞ?」
「お、おかしいって何がよ!」
心配そうなリクに対し、オパールは半ば怒鳴りつけて必死で顔を逸らす。
リクの姿を直視出来ないでいると、急に彼に腕を引っ張られ顔を向かい合せられた。
「ちょ! 何を…!?」
「顔色はそれほどでもなさそうか。熱は?」
そう言うと、何とリクは互いのおでこをくっ付けて体温を測り出した。
(か、顔っ!! 顔が近い!?)
幾ら見た目が別人だとしても、中身は本人だ。先程の事も相まって、オパールの思考はショート寸前になる。
どうしようもない状況に固まっていると、自分を見るリクの瞳に何故か違和感を感じた。
(あれ…この金色の目、さっきの夢で…)
「熱はあるようだな…もう少し休んだ方が――オパール?」
自分を見る光る目。心の内を見透かす声。
脳裏に浮かぶは…人ならざる、何か。
「――いやぁ!!」
「ッ!?」
湧き上がった恐怖に耐え切れず、目の前にいるリクを思いっきり突き放した。
■作者メッセージ
夢さんとバトンを交代し、今年最後の投稿を務めさせて頂きましたNANAです。
2013年をこうして思い返してみると、本当にさまざまな事がありました。こうして本格的にストーリーやキャラを合同で書くと言うのも今回初めての試みで。ギャグ作品とは違う難しさや楽しさを感じました。
固い話はここまでとして…新年も夢旅人共々頑張っていきますので、これからもよろしくお願い致します。
追記:バトンは交代したばかりなので、しばらくはNANAが書かせて頂きます。
2013年をこうして思い返してみると、本当にさまざまな事がありました。こうして本格的にストーリーやキャラを合同で書くと言うのも今回初めての試みで。ギャグ作品とは違う難しさや楽しさを感じました。
固い話はここまでとして…新年も夢旅人共々頑張っていきますので、これからもよろしくお願い致します。
追記:バトンは交代したばかりなので、しばらくはNANAが書かせて頂きます。