CROSS CAPTURE49 「思いがけぬ同行者」
互いに触れていた温もりが、急に消え失せる。
オパールがゆっくりと前を見ると、拒絶されたと勘違いしたのかリクは驚きを浮かべ固まっている。
これには二人の間に気まずい空気が流れ、オパールはすぐに顔を青ざめて手を振った。
「あ…ごめん、違うの! 今のは、その…!!」
「気にするな…こんな奴の顔で近づいたんだ。怖かっただろ?」
「だから違うの! 何て言うか、目が…!」
「目?」
誤解を解こうと説明すると、ようやくリクが反応する。
訝しながらも話を聞いてくれるリクに、得体のしれない感覚を思い出しながらオパールは頭を押さえて説明した。
「あたしでも、よく分かんないけど…前に、そんな金色の目を見た事あって…怖い訳じゃないんだけど何だろ…」
「ゼアノートじゃないのか?」
「違う、と思う…何時かは分かんないけど…自分でも、上手く思い出せなくて…」
「そうか…」
なかなか記憶を引き出せないオパールに、無理をさせまいとリクはそこで会話を終える。
誤解は解けたものの、再び気まずい空気が二人の間に流れる。すると、黙っていたオパールが遠慮がちに口を開いた。
今まで触れない様にして来た話題を。
「ねえ、リク……もし、リリスとまた戦う事になったら…どうする?」
「もし、じゃない。あいつは俺を憎んでいる…戦う事になるさ、必ず」
「そっか…」
何の迷いも見せずに答えるリクに、オパールは顔を俯かせる。
様子がおかしいと感じたのか、リクは笑みを浮かべると彼女の頭に手を置いた。
「大丈夫だ。ちゃんとリリィを助ける、絶対に」
リクが優しい言葉をかけるが、嬉しい所か胸の辺りがズキリと痛む。
思わずオパールの表情が歪みかけるが、とっさに笑みを取り繕って誤魔化した。
「あ、あたしデータの作業に戻るねっ!! もう終わってるかなー!?」
出来るだけリクに表情を見せないように顔を背け、コンピューターの前に移動する。
顔に張り付けている笑みとは裏腹に、オパールの心は何とも言えない痛みで軋んでいた。
(答えなんて、最初から分かってたのに…あたしのバカ…!)
溢れようとする涙を必死で堪えようと、下唇を強く噛み締めた。
心剣についての講座でウィドが出て行き、ビラコチャも居なくなり今はルキルだけが残された部屋。
ただ一人彼が眠る中、シャオは片隅にある大きな袋を漁っていた。
「えーと…――あった、これだ!」
袋から取り出したのは、旅に出る前にジャスから貰った道具袋だ。
すぐに袋の口を開くと、ゴチャゴチャした中身を整理しながら入っている道具を確かめた。
「中身は少ないけど…ま、何も無いよりいいよね!」
今まで補充もままならない状況だったため、袋に入っている回復薬は残り少ない状態だ。
だが、何も持たないよりもいいだろう。道具袋の整理も終わり、イオンの待つ城門に向かおうとした所である人物が目に映った。
「…まだ眠ってるんだ」
ベットで眠るルキルを見て、シャオは不安そうに近づいて顔を覗き込む。
この人の事はよく知っている。さすがに若い頃の姿は見た事ないが…少なくとも、髪は黒く無かったはずだ。
何より、この眠りは――明らかに“異質”だ。
「この人が眠る理由…“母さん”と関係あったりするのかな…?」
自分の母親を思い出していると、扉の開く音が響く。
慌てて振り返ると、部屋に戻ったウィドが目を見開いていた。
「お前は…!」
「ウィドおじ――」
「クウの弟子とやらが、何の用だ? ルキルに近づいて何をする気だった?」
シャオが挨拶しようとした矢先に、冷たい言葉を浴びせるウィド。
信頼してない所か敵意を見せつける眼差しに、怯えながらも正直に話した。
「ボク…別に、何も…」
「用が無いならとっとと出ていきなさい。居ても邪魔なだけだ」
怯えるシャオに対し、ウィドは関わりたくないとばかりに拒絶の言葉を浴びせる。
これにはシャオも顔を俯かせるしかなかった。
「…ごめんなさい」
小さく謝るが、ウィドは眼中にないとばかりに無視して腕を組む様にルキルの傍に座る。
僅かに滲み出る苛立ちを感じ、これ以上声をかけられずにシャオは足早に部屋を出ていく。
そうして扉が閉まると、湧き上がる苛立ちのままにウィドは鼻を鳴らした。
「ふん…!」
ビフロンスの巨大な城門の前。
先に準備を終えたイオンとペルセが雑談をして待っていると、ようやくシャオが現れた。
「シャオ、こっち!」
イオンが大声で呼ぶと、声に気づいたシャオはすぐに駆け寄った。
「二人とも、遅れてごめん」
笑顔で謝るシャオだが、何処となく元気がない。
それに気付いたペルセは、すぐにシャオの顔を覗き見た。
「シャオ、大丈夫? 何か顔暗いよ?」
「き、気のせいだよ! それより、早く行こう!」
「…分かった。じゃあ、行くよ」
シャオの事は少し気になるが、イオンは本人の意思を尊重する事にする。
すぐにイオンはキーブレードを出現させると、切先を前に向けて光を放つ。
そうして世界の移動の為に使う異空の回廊を出すと、キーブレードを下ろして二人を見た。
「よし、二人とも行こうか――」
その時、城の一角で爆発音が続けざまに鳴り響く。
突然の事に敵襲かと三人が身構えていると、上から影が差した。
「おーい!」
聞き覚えのある声に見上げると、何と黒と白の双翼を纏ったクウがこちらに向かって急降下してくる。
予想しなかった人物に三人が目を丸くしている間にも、クウは急いで着地し必死な様子を見せて早口で話しかけてきた。
「お前ら、今からどっかに行くのか!? 俺も一緒にいいか!?」
「な、何なんですか急に!?」
同行しようと迫るクウにイオンが聞くと、急に態度を変えてかっこつけるように余裕の笑みを浮かべた。
「子供だけじゃ危険だ、大人の同伴は必須だろ?」
「師匠、本音は?」
「ヤバイ奴を怒らせた。助けてくれ」
ジト目でシャオが質問すると、冷や汗を掻きながら正直に答えるクウ。
簡単に聞き出せた妙な本音に、イオンは首を傾げた。
「ヤバイ奴って――」
直後、四人のすぐ傍に虹色の光線と巨大な炎が飛んできて爆発した。
「な、なんですかぁ!?」
「クウ、見つけたぞぉ!!!」
「大人しく俺達の業火に焼かれろぉ!!!」
イオンが悲鳴を上げていると、ザッと足を踏みしめる音が響く。
素早く目を向けると、そこには尋常じゃない怒りの炎を纏わせた神月とオルガが立っていた。手に持っている心剣を『神威開眼』までしている辺り、本気でクウを抹消しようとしているのが伝わる。
「ヒィイイっ!!? イイイイオン先輩!! 早く早くー!!」
「うわああああぁ!?」
「逃がすかぁ!!! 『セヴンス・オーバーレイ』!!!」
「『緋竜烈火』!!!」
二人のオーラに命の危険を感じ、シャオとイオンは悲鳴を上げながらペルセだけでなくクウと一緒に異空の回廊に逃げ込む。
その際に無数の虹色の破壊光や緋色の火炎が襲い掛かるが、攻撃が入り込む直前に即座に回廊の入口を閉じる事で攻撃を防いだ。
「あ、危なかった…!!」
無関係な自分達も確実に巻き添えにする攻撃にペルセが肝を潰す中、シャオは息を荒くしながら隣にいるクウに聞いた。
「師匠…何したの…!!」
「ちょっとした事故で、な…」
クウはそう前置きすると、こうなった経緯を説明し始めた…。
それは、イオン達と合流するちょっと前の事だった。
「はあっ!!」
「たあぁ!!」
「うらぁ!!」
「チィ…!」
用事を終えた神月が修練場に合流した事により、手合せの人数が二人から三人へと増えた状態でクウは双剣の修行に勤しんでいた。
お互いに技は使わないルールとはいえ、休む事も無く迫りくる六つの刃に軽く舌打ちしていると、ウラドが大声を張り上げる。
「まったく…オルガの攻撃は最低限に避け、紗那の剣は右手だけでいなす! 神月の攻撃は自分で考えなさい!」
「注文が多い事…でぇ!!」
指導するウラドに作り笑いを浮かべつつも、言われた通りにオルガの刃を避け、紗那の太刀筋は右手のキーブレードでいなす。
そんなクウに真後ろから神月が剣を振りかぶる。それを見たクウは、一瞬で双翼を纏わせ背後の斬撃を凌いだ。
「なかなかやるわね。その調子で行きなさい!」
「らぁ!!」
ウラドから合格を貰い、クウは翼を大きく動かして神月を跳ね飛ばす。
更に剣を動かして紗那の剣を防御していると、横からオルガが迫る。
双剣を大きく振るって紗那を威嚇させて距離を置くと共に、オルガの持つ右の剣を上に弾き飛ばした。
どうにか三人の剣を防ぎきっていると、双剣を握る手に不思議な力が流れるを感じた。
「今の…?」
「隙ありだ!!」
急に流れてきた力に気を取られていると、神月が踏み込んで一気に間合いを詰める。
繰り出される一閃に慌てて双剣を前に交差するが、急ごしらえの防御では完全に防ぎきれずにそのまま吹き飛ばされた。
「ぬおぁ!?」
威力を殺しきれずにクウが広間の入口方面に飛ばされていると、丁度そこから沢山の弁当箱を持ったアーファと城の使用人達が現れた。
「みんなー! お昼ご飯持ってき――ふぎゅう!?」
「うぐっ!?」
飛んできたクウにアーファは避ける事が出来ずにぶつかり、縺れ合うように倒れ込むと同時に弁当箱も辺りに散乱してしまった。
「いってて――ん…?」
クウがアーファの上で起き上がろうとした時、右手に柔らかい何かを掴んでしまう。
目線を下に向けると、クウの右手は何とアーファの胸を掴んでしまっている。
男としてか思わずクウの口元が緩んでいると、アーファの目が鋭くなった。
「――どこ触ってんのよ変態ぃ!!?」
「へぶぅ!?」
「ちょ、きゃぁ!?」
起き上がると同時にアーファがクウの顔面に掌底を喰らわせて吹き飛ばすと、今度はたまたま近くに居た紗那にぶつかって倒れてしまう。
頭から飛んで行ってしまったので、倒れた時には紗那の胸に顔を埋める形になってしまう。さすがのクウも二の舞は起こさないと、すぐに起き上って弁解した。
「ち、違っ!? これは事故「『天乃舞・閃桜刃』ァ!!!」ごはぁ!!?」
クウの弁解も虚しく、紗那の繰り出した一閃で大きく吹き飛ばされてしまった。
「いっつ…うっ?」
続けざまに喰らったダメージに蹲って呻いていると、二つの足が視界に入る。
恐る恐る顔を上げると…神月とオルガが殺気の目でクウを睨みつけていた。
「てめぇ…よくもアーファの胸触りやがったなぁ…!!!」
「どうやらエンの前に、貴様を排除する必要があるようだな…っ!!?」
「だから! 今のはあくまでも事故「『ラスト・ノヴァ』ッ!!!」「『熾魂滅燼剣』っ!!!」弁解くらいさせてくれぇーーーーっ!!!」
容赦ない二人の攻撃に、クウは悲鳴を上げながら修練場から逃げ出したのであった…。
「――ってな訳だ」
こうしてクウは疲れた顔で説明を終えると、黙っていたペルセがボソリと呟いた。
「ラッキースケベ…」
「そんな言い方しないでくれないか!? て言うか、何処でそんな言葉を覚えたんだ!?」
「前に家に遊びに来たリクさんが「ペルセ!?」むぐ!?」
話の内容に危険を感じ、速攻でイオンがペルセの口を塞ぐ。
だが、完全に封じる事は出来ず、クウは訝しげにペルセを見た。
「リク? あいつと知り合ったの、昨日が初めてじゃねーのか?」
「き、気にしないでよ師匠!! それより、早く行こう!! 下手すればあの二人が追いかけてくるかもしれないし!!」
「そうだね! あ、あははは…!」
シャオの機転により、イオンもどうにか作り笑いを浮かべてペルセの口を塞いだまま先へ進む。
何処かワザとらしい笑い声を上げる二人に、さすがのクウもこれ以上口を突っ込む事は出来なかった。
「何だよ、あいつら…?」
オパールがゆっくりと前を見ると、拒絶されたと勘違いしたのかリクは驚きを浮かべ固まっている。
これには二人の間に気まずい空気が流れ、オパールはすぐに顔を青ざめて手を振った。
「あ…ごめん、違うの! 今のは、その…!!」
「気にするな…こんな奴の顔で近づいたんだ。怖かっただろ?」
「だから違うの! 何て言うか、目が…!」
「目?」
誤解を解こうと説明すると、ようやくリクが反応する。
訝しながらも話を聞いてくれるリクに、得体のしれない感覚を思い出しながらオパールは頭を押さえて説明した。
「あたしでも、よく分かんないけど…前に、そんな金色の目を見た事あって…怖い訳じゃないんだけど何だろ…」
「ゼアノートじゃないのか?」
「違う、と思う…何時かは分かんないけど…自分でも、上手く思い出せなくて…」
「そうか…」
なかなか記憶を引き出せないオパールに、無理をさせまいとリクはそこで会話を終える。
誤解は解けたものの、再び気まずい空気が二人の間に流れる。すると、黙っていたオパールが遠慮がちに口を開いた。
今まで触れない様にして来た話題を。
「ねえ、リク……もし、リリスとまた戦う事になったら…どうする?」
「もし、じゃない。あいつは俺を憎んでいる…戦う事になるさ、必ず」
「そっか…」
何の迷いも見せずに答えるリクに、オパールは顔を俯かせる。
様子がおかしいと感じたのか、リクは笑みを浮かべると彼女の頭に手を置いた。
「大丈夫だ。ちゃんとリリィを助ける、絶対に」
リクが優しい言葉をかけるが、嬉しい所か胸の辺りがズキリと痛む。
思わずオパールの表情が歪みかけるが、とっさに笑みを取り繕って誤魔化した。
「あ、あたしデータの作業に戻るねっ!! もう終わってるかなー!?」
出来るだけリクに表情を見せないように顔を背け、コンピューターの前に移動する。
顔に張り付けている笑みとは裏腹に、オパールの心は何とも言えない痛みで軋んでいた。
(答えなんて、最初から分かってたのに…あたしのバカ…!)
溢れようとする涙を必死で堪えようと、下唇を強く噛み締めた。
心剣についての講座でウィドが出て行き、ビラコチャも居なくなり今はルキルだけが残された部屋。
ただ一人彼が眠る中、シャオは片隅にある大きな袋を漁っていた。
「えーと…――あった、これだ!」
袋から取り出したのは、旅に出る前にジャスから貰った道具袋だ。
すぐに袋の口を開くと、ゴチャゴチャした中身を整理しながら入っている道具を確かめた。
「中身は少ないけど…ま、何も無いよりいいよね!」
今まで補充もままならない状況だったため、袋に入っている回復薬は残り少ない状態だ。
だが、何も持たないよりもいいだろう。道具袋の整理も終わり、イオンの待つ城門に向かおうとした所である人物が目に映った。
「…まだ眠ってるんだ」
ベットで眠るルキルを見て、シャオは不安そうに近づいて顔を覗き込む。
この人の事はよく知っている。さすがに若い頃の姿は見た事ないが…少なくとも、髪は黒く無かったはずだ。
何より、この眠りは――明らかに“異質”だ。
「この人が眠る理由…“母さん”と関係あったりするのかな…?」
自分の母親を思い出していると、扉の開く音が響く。
慌てて振り返ると、部屋に戻ったウィドが目を見開いていた。
「お前は…!」
「ウィドおじ――」
「クウの弟子とやらが、何の用だ? ルキルに近づいて何をする気だった?」
シャオが挨拶しようとした矢先に、冷たい言葉を浴びせるウィド。
信頼してない所か敵意を見せつける眼差しに、怯えながらも正直に話した。
「ボク…別に、何も…」
「用が無いならとっとと出ていきなさい。居ても邪魔なだけだ」
怯えるシャオに対し、ウィドは関わりたくないとばかりに拒絶の言葉を浴びせる。
これにはシャオも顔を俯かせるしかなかった。
「…ごめんなさい」
小さく謝るが、ウィドは眼中にないとばかりに無視して腕を組む様にルキルの傍に座る。
僅かに滲み出る苛立ちを感じ、これ以上声をかけられずにシャオは足早に部屋を出ていく。
そうして扉が閉まると、湧き上がる苛立ちのままにウィドは鼻を鳴らした。
「ふん…!」
ビフロンスの巨大な城門の前。
先に準備を終えたイオンとペルセが雑談をして待っていると、ようやくシャオが現れた。
「シャオ、こっち!」
イオンが大声で呼ぶと、声に気づいたシャオはすぐに駆け寄った。
「二人とも、遅れてごめん」
笑顔で謝るシャオだが、何処となく元気がない。
それに気付いたペルセは、すぐにシャオの顔を覗き見た。
「シャオ、大丈夫? 何か顔暗いよ?」
「き、気のせいだよ! それより、早く行こう!」
「…分かった。じゃあ、行くよ」
シャオの事は少し気になるが、イオンは本人の意思を尊重する事にする。
すぐにイオンはキーブレードを出現させると、切先を前に向けて光を放つ。
そうして世界の移動の為に使う異空の回廊を出すと、キーブレードを下ろして二人を見た。
「よし、二人とも行こうか――」
その時、城の一角で爆発音が続けざまに鳴り響く。
突然の事に敵襲かと三人が身構えていると、上から影が差した。
「おーい!」
聞き覚えのある声に見上げると、何と黒と白の双翼を纏ったクウがこちらに向かって急降下してくる。
予想しなかった人物に三人が目を丸くしている間にも、クウは急いで着地し必死な様子を見せて早口で話しかけてきた。
「お前ら、今からどっかに行くのか!? 俺も一緒にいいか!?」
「な、何なんですか急に!?」
同行しようと迫るクウにイオンが聞くと、急に態度を変えてかっこつけるように余裕の笑みを浮かべた。
「子供だけじゃ危険だ、大人の同伴は必須だろ?」
「師匠、本音は?」
「ヤバイ奴を怒らせた。助けてくれ」
ジト目でシャオが質問すると、冷や汗を掻きながら正直に答えるクウ。
簡単に聞き出せた妙な本音に、イオンは首を傾げた。
「ヤバイ奴って――」
直後、四人のすぐ傍に虹色の光線と巨大な炎が飛んできて爆発した。
「な、なんですかぁ!?」
「クウ、見つけたぞぉ!!!」
「大人しく俺達の業火に焼かれろぉ!!!」
イオンが悲鳴を上げていると、ザッと足を踏みしめる音が響く。
素早く目を向けると、そこには尋常じゃない怒りの炎を纏わせた神月とオルガが立っていた。手に持っている心剣を『神威開眼』までしている辺り、本気でクウを抹消しようとしているのが伝わる。
「ヒィイイっ!!? イイイイオン先輩!! 早く早くー!!」
「うわああああぁ!?」
「逃がすかぁ!!! 『セヴンス・オーバーレイ』!!!」
「『緋竜烈火』!!!」
二人のオーラに命の危険を感じ、シャオとイオンは悲鳴を上げながらペルセだけでなくクウと一緒に異空の回廊に逃げ込む。
その際に無数の虹色の破壊光や緋色の火炎が襲い掛かるが、攻撃が入り込む直前に即座に回廊の入口を閉じる事で攻撃を防いだ。
「あ、危なかった…!!」
無関係な自分達も確実に巻き添えにする攻撃にペルセが肝を潰す中、シャオは息を荒くしながら隣にいるクウに聞いた。
「師匠…何したの…!!」
「ちょっとした事故で、な…」
クウはそう前置きすると、こうなった経緯を説明し始めた…。
それは、イオン達と合流するちょっと前の事だった。
「はあっ!!」
「たあぁ!!」
「うらぁ!!」
「チィ…!」
用事を終えた神月が修練場に合流した事により、手合せの人数が二人から三人へと増えた状態でクウは双剣の修行に勤しんでいた。
お互いに技は使わないルールとはいえ、休む事も無く迫りくる六つの刃に軽く舌打ちしていると、ウラドが大声を張り上げる。
「まったく…オルガの攻撃は最低限に避け、紗那の剣は右手だけでいなす! 神月の攻撃は自分で考えなさい!」
「注文が多い事…でぇ!!」
指導するウラドに作り笑いを浮かべつつも、言われた通りにオルガの刃を避け、紗那の太刀筋は右手のキーブレードでいなす。
そんなクウに真後ろから神月が剣を振りかぶる。それを見たクウは、一瞬で双翼を纏わせ背後の斬撃を凌いだ。
「なかなかやるわね。その調子で行きなさい!」
「らぁ!!」
ウラドから合格を貰い、クウは翼を大きく動かして神月を跳ね飛ばす。
更に剣を動かして紗那の剣を防御していると、横からオルガが迫る。
双剣を大きく振るって紗那を威嚇させて距離を置くと共に、オルガの持つ右の剣を上に弾き飛ばした。
どうにか三人の剣を防ぎきっていると、双剣を握る手に不思議な力が流れるを感じた。
「今の…?」
「隙ありだ!!」
急に流れてきた力に気を取られていると、神月が踏み込んで一気に間合いを詰める。
繰り出される一閃に慌てて双剣を前に交差するが、急ごしらえの防御では完全に防ぎきれずにそのまま吹き飛ばされた。
「ぬおぁ!?」
威力を殺しきれずにクウが広間の入口方面に飛ばされていると、丁度そこから沢山の弁当箱を持ったアーファと城の使用人達が現れた。
「みんなー! お昼ご飯持ってき――ふぎゅう!?」
「うぐっ!?」
飛んできたクウにアーファは避ける事が出来ずにぶつかり、縺れ合うように倒れ込むと同時に弁当箱も辺りに散乱してしまった。
「いってて――ん…?」
クウがアーファの上で起き上がろうとした時、右手に柔らかい何かを掴んでしまう。
目線を下に向けると、クウの右手は何とアーファの胸を掴んでしまっている。
男としてか思わずクウの口元が緩んでいると、アーファの目が鋭くなった。
「――どこ触ってんのよ変態ぃ!!?」
「へぶぅ!?」
「ちょ、きゃぁ!?」
起き上がると同時にアーファがクウの顔面に掌底を喰らわせて吹き飛ばすと、今度はたまたま近くに居た紗那にぶつかって倒れてしまう。
頭から飛んで行ってしまったので、倒れた時には紗那の胸に顔を埋める形になってしまう。さすがのクウも二の舞は起こさないと、すぐに起き上って弁解した。
「ち、違っ!? これは事故「『天乃舞・閃桜刃』ァ!!!」ごはぁ!!?」
クウの弁解も虚しく、紗那の繰り出した一閃で大きく吹き飛ばされてしまった。
「いっつ…うっ?」
続けざまに喰らったダメージに蹲って呻いていると、二つの足が視界に入る。
恐る恐る顔を上げると…神月とオルガが殺気の目でクウを睨みつけていた。
「てめぇ…よくもアーファの胸触りやがったなぁ…!!!」
「どうやらエンの前に、貴様を排除する必要があるようだな…っ!!?」
「だから! 今のはあくまでも事故「『ラスト・ノヴァ』ッ!!!」「『熾魂滅燼剣』っ!!!」弁解くらいさせてくれぇーーーーっ!!!」
容赦ない二人の攻撃に、クウは悲鳴を上げながら修練場から逃げ出したのであった…。
「――ってな訳だ」
こうしてクウは疲れた顔で説明を終えると、黙っていたペルセがボソリと呟いた。
「ラッキースケベ…」
「そんな言い方しないでくれないか!? て言うか、何処でそんな言葉を覚えたんだ!?」
「前に家に遊びに来たリクさんが「ペルセ!?」むぐ!?」
話の内容に危険を感じ、速攻でイオンがペルセの口を塞ぐ。
だが、完全に封じる事は出来ず、クウは訝しげにペルセを見た。
「リク? あいつと知り合ったの、昨日が初めてじゃねーのか?」
「き、気にしないでよ師匠!! それより、早く行こう!! 下手すればあの二人が追いかけてくるかもしれないし!!」
「そうだね! あ、あははは…!」
シャオの機転により、イオンもどうにか作り笑いを浮かべてペルセの口を塞いだまま先へ進む。
何処かワザとらしい笑い声を上げる二人に、さすがのクウもこれ以上口を突っ込む事は出来なかった。
「何だよ、あいつら…?」