CROSS CAPTURE52 「浸透する闇」
「なに…これ…?」
「あちこち荒らされる…」
リクの家に辿り着くと、イオンとシャオは中に上がり込んで唖然としていた。
部屋の中はどう言う訳か荒らされており、壁や床の一部は戦った後なのか無残に壊されている。
軽く辺りを見回すが人の気配は感じず、すぐに三人は散開してあちこちの部屋を調べ始めた。
「まさか、本当にカルマが…!!」
「イオン、来て!」
焦りを浮かべるイオンに、別の部屋を調べていたペルセが叫ぶ。
イオンと同じように他の場所を調べていたシャオも駆け付けると、ペルセの手にはボロボロになった一枚の白い羽根が握られていた。
「白い羽根…ペルセ、これをどこで?」
「リクさんの部屋にあったの…これ以上傷つかないように、これで包んでたみたい」
そう言うと、もう片方の手に握っていた保存用の布を二人に見せる。
その時、ペルセが握る白い羽根を見ていたシャオが何かに気付いた。
「この羽根…もしかして、エン?」
「「エン!?」」
「確証はまだ出来ないけど…でも、師匠なら分かるかもしれない。とりあえず、その羽根はボクが持っておくよ」
白い羽根をペルセから受け取り、そのままポケットに入れ込むシャオ。
しかし、怪しい物を見つけたからと言って問題が解決した訳ではない。イオンの両親、それに加えリクまでも行方不明になっているのだ。この状況からして、何かに巻き込まれたのは確かだ。
「父さん…母さん…!」
「リクさんも、連れて行かれたのかな…?」
イオンが拳を震わせる横で、カルマの能力を思い出したのかペルセも不安を露わにする。
そんな二人にシャオも声をかけられず、口を閉ざして黙りこんだ時だった。
「イオン、帰ってたのか!?」
開きっぱなしの玄関からかけられた声に、三人が振り返る。
そこには、この島に住む男―――ワッカがいた。
「ワッカさん!」
「まさかとは思ったが…――いや、そんな事より早く病院に行ってやれ!」
「病院、ですか?」
急かすような言い方でイオンに告げるワッカに、思わずペルセが首を傾げる。
「今日の朝、ここでリクだけじゃなくお前の両親も倒れてたんだ。すぐに病院に運んだんだが、どう言う訳か意識不明で――って、うぉ!?」
「イオン!?」
「先輩!?」
ワッカの説明を聞くなり、突然イオンが押しのけるように玄関を飛び出していく。
これを見て、すぐに二人もワッカの横を通り過ぎてイオンを追って走り出す。
病院に駆け出す三人にワッカは茫然となって見送っていたが、不意にある疑問が浮上した。
「そういやイオン達と一緒に居たあの子、誰だ?」
本島に唯一存在する小さな病院。
イオンは病院に辿り着くなり、中にいた人達を無視して入院する人達がいる部屋へと進み一つ一つ扉に書いてあるプレートを調べる。
やがて一番奥の部屋にあるプレートに両親の名前を見つけ、イオンは飛び込む様に扉を開け放った。
「――父さんッ!!」
中に飛び込むと、視界に映ったのは3つの白いベット。
そして、そのベットの中にいる人物を見下ろすクウの姿だった。
「クウ…さん?」
「――やられたよ、本当に」
「え…?」
「イオン!!」
ポツリと呟いたクウの言葉に反応していると、続けてペルセが入ってくる。
同じくシャオも病室に入ると、途中で抜けさせた筈のクウがいる事に驚いた。
「師匠!? どうしてここに!?」
非情にマズい状況にシャオの表情が強張る中、イオンはクウの視線の先に気づいた。
「父さん、母さん!? リクさんまで…!!」
イオンがベットに駆け寄ると、この世界―――大人となってる三人が横になって眠っている。
外傷は特に見当たらないが、三人の不安は消えない。そんな気持ちが伝わったのか、クウはその場に立ったまま静かに言い聞かせた。
「焦るな。身体はちゃんと生きている」
「身体は?」
妙な言い方にペルセが聞き返すと、ソラ達を見ていたシャオがある事に気付いた。
「なに、この感じ…? 眠ってるだけの筈なのに…空っぽな感じがする」
呼吸は微かにしているから死んではいない。だが、どう言う訳か生きていると感じない。今の三人を例えるなら…人形。人の形をした器だ。
イオンとペルセもその欠落に気付いて表情を強張らせていると、軽くクウが頷いて足りない物の正体を述べた。
「あぁ…三人共『心』を抜かれてる」
思いもしなかった答えに、三人は一斉にクウに顔を向けた。
「心を、抜かれてる…!?」
「まさか…キーブレードの力!?」
ベットに眠っている三人が陥っている状態に絶句するイオンとは別に、心を抜いた方法にシャオが思いついた推測を叫ぶ。
キーブレードマスター。あるいはそれと同等の力を持った者ならば、他者から心を抜きとる事が可能なのだ。エンと同じ力量を持つと言われるカルマなら、出来ても不思議じゃない。
すでに敵が手を出していた事にイオン達が悔やんでいると、一人冷静を保っていたクウはいつの間にか握っている拳を震わせていた。
「ッ――くそぉ!! どう足掻いてもあっちに先手打たれてばっかりだ!! 結局あいつらには追いつかないのかよ!!」
「師匠、落ち着いて!?」
怒りが抑え切れなくなったのか、感情を爆発させて怒鳴り散らすクウ。
どうにか落ち着かせようとシャオが腕を掴んでいると、ペルセはイオンに近づいた。
「イオン、一旦部屋から出よう。ね?」
これ以上ここにいても傷つくだけだと思い、ペルセは優しく声をかけてイオンの手を取り部屋を出ようとする。
だが次の瞬間、顔を俯かせたままイオンはペルセの手を振り払って病室を飛び出した。
「イオン!?」
「イオン先輩っ!!」
「おい、待て!?」
急に走り出したイオンに、慌てて三人も病室を出て追いかけた。
その頃、ビフロンスの城の一室―――療養の為に割り当てられたレイアの部屋。
一人きりとなった空間の中、レイアはベットに腰かけながら日課である日記を書いていた。
「――そうしてシルビアさんから全てを聞かされた後、あの人の力で私達は別の世界へと飛ばされたのでした――と。どうにか書き終わった…」
自分達の世界で起こった最後の日の出来事を日記に書き込むと、疲れたように大きく息を吐く。
そうして今書いたページを捲り、昨日の―――この世界で始めて過ごした出来事を書いたページにしおりを挟む。
パタンと音を立てて日記帳を閉じ、近くの机に置きながら窓の外を眺める。そこから見えるのは澄み切った青空に穏やかに流れる白い雲、その下には城下町が広がっている。
まさに平和そのものな光景を眺めながら、この世界の何処かにいるであろうシルビアを思う。
「私達はエンさんを止められなかった…――でもあの人は、私達をこの世界に送ってくれた。今も尚、シルビアさんは信じてくれているんですよね? 私達を、そしてここにいる人達を…」
「何一人でブツブツ言ってるのかしら?」
「ひみゃあ!?」
不意打ちでかけられた声に、レイアが妙な悲鳴を上げて飛び跳ねる。
慌てて目を向けると、一人の女性が部屋のドアを開けた状態でこちらを見ていた。
「あ、えっと…?」
「ミュロスよ。まったく、あれほど安静にって念を押したのに結局倒れるってどう言う事なのよ…ブツブツ…!」
不機嫌になっているのか、文句を言いながらミュロスは備え付けられたテーブルに料理を置く。
更にベットの枕元に数冊の本を置くので、レイアは困惑を浮かべた。
「あ、あの…これ…?」
「あなたのお仲間達から預かった物よ。今あの三人には食事を取らせてるから、代わりに私が届けに来たって訳。それ食べ終わったら軽く診察してあげるから、感謝しなさいよね」
「あ、ありがとうございます…」
言いつけを守らなかったのにも関わらず、こうして面倒を見てくれるミュロスに頭を下げてお礼を言うレイア。
これにはミュロスも軽く肩を竦めていると、先程レイアが置いた日記帳に気付く。
「この本は何?」
「あっ! み、見ないでくださーい!」
日記帳を手に取ったミュロスに、思わずレイアが顔を赤くして手を伸ばす。
しかし、ミュロスは片手で軽々とレイアの抵抗を払い除け、パラパラとページを捲ってしおりが挟んである項目に目を向けた。
「へー、日記? 何々…――『今日、目覚めたら』」
「いやー!?」
朗読を始めるミュロスに、思わずレイアが悲鳴を上げる。
しかし、ミュロスは口を閉じる事無く書いてある文章を読み上げ始めた。
『今日、目覚めたら【ビフロンス】と言う世界のお城にいました。エンさんとの戦いで傷ついた私達は、そこに住む人達に助けて貰いました。私達にとって、そこは異世界と言う同じようでまったく違う世界なのに、私はその人達にちゃんとお礼を言えませんでした。
私達はそれぞれ大事な人を、仲間を、助けを求めていた人を救えなかったからです。私もみんなもとても悲しくて、周りを気にする余裕はありませんでした。
その中で一番に傷ついていたのは、クウさんでした。クウさんは誰よりも優しいから、誰よりも責任を感じてるから。自分を許せなくて、一人になってしまいました。
心を閉ざしたクウさんに私は何も出来なくて、すごく苦しかった。でも、落ち込んだ私を紗那さんやヴァイさん、キサラさんから元気をもらったように、クウさんも無轟さん達から元気をもらって立ち直る事が出来た。クウさんが持ったキーブレードを見て、そう確信しました。
その時のクウさんのキーブレード、初めて見たけどとてもかっこよかったです。黒の翼も好きでしたけど、半分だけ白って言うのも何だか似合ってました。もしエンさんの白の翼になったら、ちゃんとした天使みたいで美しくなるし、私と色が御揃いになるのに。それに白い翼なら温かい感じもするから、寄り掛ったら気持ちよく眠れそう。もちろん、クウさんの黒の翼だって大好きです。温かいしかっこいいし守ってくれる感じがするし――』
「凄いわぁ…ここから一ページ丸々、惚気で埋め尽くされてる…」
「見ないでぇ…!」
延々と書き綴られているクウの惚気にミュロスが呆れ顔になると、レイアは恥ずかしさで顔を真っ赤にする。
そうして布団で顔を隠すので、仕方なくミュロスは惚気の項目を一気に飛ばして最後の文章に目を向けた。
『まだ問題は山積みで、知らない事も不安になる事もたくさんあって。それでも、今は出来る事を一つ一つやっていこうと思います。そうすればきっと…』
「《そうすればきっと》…――この先は何なのかしらぁ、ん?」
「え〜ん…!」
ミュロスが意味ありげな笑みを浮かべて問うと、あまりの恥ずかしさにレイアは布団の中に隠れるように丸まって半泣きになったそうな。
「あちこち荒らされる…」
リクの家に辿り着くと、イオンとシャオは中に上がり込んで唖然としていた。
部屋の中はどう言う訳か荒らされており、壁や床の一部は戦った後なのか無残に壊されている。
軽く辺りを見回すが人の気配は感じず、すぐに三人は散開してあちこちの部屋を調べ始めた。
「まさか、本当にカルマが…!!」
「イオン、来て!」
焦りを浮かべるイオンに、別の部屋を調べていたペルセが叫ぶ。
イオンと同じように他の場所を調べていたシャオも駆け付けると、ペルセの手にはボロボロになった一枚の白い羽根が握られていた。
「白い羽根…ペルセ、これをどこで?」
「リクさんの部屋にあったの…これ以上傷つかないように、これで包んでたみたい」
そう言うと、もう片方の手に握っていた保存用の布を二人に見せる。
その時、ペルセが握る白い羽根を見ていたシャオが何かに気付いた。
「この羽根…もしかして、エン?」
「「エン!?」」
「確証はまだ出来ないけど…でも、師匠なら分かるかもしれない。とりあえず、その羽根はボクが持っておくよ」
白い羽根をペルセから受け取り、そのままポケットに入れ込むシャオ。
しかし、怪しい物を見つけたからと言って問題が解決した訳ではない。イオンの両親、それに加えリクまでも行方不明になっているのだ。この状況からして、何かに巻き込まれたのは確かだ。
「父さん…母さん…!」
「リクさんも、連れて行かれたのかな…?」
イオンが拳を震わせる横で、カルマの能力を思い出したのかペルセも不安を露わにする。
そんな二人にシャオも声をかけられず、口を閉ざして黙りこんだ時だった。
「イオン、帰ってたのか!?」
開きっぱなしの玄関からかけられた声に、三人が振り返る。
そこには、この島に住む男―――ワッカがいた。
「ワッカさん!」
「まさかとは思ったが…――いや、そんな事より早く病院に行ってやれ!」
「病院、ですか?」
急かすような言い方でイオンに告げるワッカに、思わずペルセが首を傾げる。
「今日の朝、ここでリクだけじゃなくお前の両親も倒れてたんだ。すぐに病院に運んだんだが、どう言う訳か意識不明で――って、うぉ!?」
「イオン!?」
「先輩!?」
ワッカの説明を聞くなり、突然イオンが押しのけるように玄関を飛び出していく。
これを見て、すぐに二人もワッカの横を通り過ぎてイオンを追って走り出す。
病院に駆け出す三人にワッカは茫然となって見送っていたが、不意にある疑問が浮上した。
「そういやイオン達と一緒に居たあの子、誰だ?」
本島に唯一存在する小さな病院。
イオンは病院に辿り着くなり、中にいた人達を無視して入院する人達がいる部屋へと進み一つ一つ扉に書いてあるプレートを調べる。
やがて一番奥の部屋にあるプレートに両親の名前を見つけ、イオンは飛び込む様に扉を開け放った。
「――父さんッ!!」
中に飛び込むと、視界に映ったのは3つの白いベット。
そして、そのベットの中にいる人物を見下ろすクウの姿だった。
「クウ…さん?」
「――やられたよ、本当に」
「え…?」
「イオン!!」
ポツリと呟いたクウの言葉に反応していると、続けてペルセが入ってくる。
同じくシャオも病室に入ると、途中で抜けさせた筈のクウがいる事に驚いた。
「師匠!? どうしてここに!?」
非情にマズい状況にシャオの表情が強張る中、イオンはクウの視線の先に気づいた。
「父さん、母さん!? リクさんまで…!!」
イオンがベットに駆け寄ると、この世界―――大人となってる三人が横になって眠っている。
外傷は特に見当たらないが、三人の不安は消えない。そんな気持ちが伝わったのか、クウはその場に立ったまま静かに言い聞かせた。
「焦るな。身体はちゃんと生きている」
「身体は?」
妙な言い方にペルセが聞き返すと、ソラ達を見ていたシャオがある事に気付いた。
「なに、この感じ…? 眠ってるだけの筈なのに…空っぽな感じがする」
呼吸は微かにしているから死んではいない。だが、どう言う訳か生きていると感じない。今の三人を例えるなら…人形。人の形をした器だ。
イオンとペルセもその欠落に気付いて表情を強張らせていると、軽くクウが頷いて足りない物の正体を述べた。
「あぁ…三人共『心』を抜かれてる」
思いもしなかった答えに、三人は一斉にクウに顔を向けた。
「心を、抜かれてる…!?」
「まさか…キーブレードの力!?」
ベットに眠っている三人が陥っている状態に絶句するイオンとは別に、心を抜いた方法にシャオが思いついた推測を叫ぶ。
キーブレードマスター。あるいはそれと同等の力を持った者ならば、他者から心を抜きとる事が可能なのだ。エンと同じ力量を持つと言われるカルマなら、出来ても不思議じゃない。
すでに敵が手を出していた事にイオン達が悔やんでいると、一人冷静を保っていたクウはいつの間にか握っている拳を震わせていた。
「ッ――くそぉ!! どう足掻いてもあっちに先手打たれてばっかりだ!! 結局あいつらには追いつかないのかよ!!」
「師匠、落ち着いて!?」
怒りが抑え切れなくなったのか、感情を爆発させて怒鳴り散らすクウ。
どうにか落ち着かせようとシャオが腕を掴んでいると、ペルセはイオンに近づいた。
「イオン、一旦部屋から出よう。ね?」
これ以上ここにいても傷つくだけだと思い、ペルセは優しく声をかけてイオンの手を取り部屋を出ようとする。
だが次の瞬間、顔を俯かせたままイオンはペルセの手を振り払って病室を飛び出した。
「イオン!?」
「イオン先輩っ!!」
「おい、待て!?」
急に走り出したイオンに、慌てて三人も病室を出て追いかけた。
その頃、ビフロンスの城の一室―――療養の為に割り当てられたレイアの部屋。
一人きりとなった空間の中、レイアはベットに腰かけながら日課である日記を書いていた。
「――そうしてシルビアさんから全てを聞かされた後、あの人の力で私達は別の世界へと飛ばされたのでした――と。どうにか書き終わった…」
自分達の世界で起こった最後の日の出来事を日記に書き込むと、疲れたように大きく息を吐く。
そうして今書いたページを捲り、昨日の―――この世界で始めて過ごした出来事を書いたページにしおりを挟む。
パタンと音を立てて日記帳を閉じ、近くの机に置きながら窓の外を眺める。そこから見えるのは澄み切った青空に穏やかに流れる白い雲、その下には城下町が広がっている。
まさに平和そのものな光景を眺めながら、この世界の何処かにいるであろうシルビアを思う。
「私達はエンさんを止められなかった…――でもあの人は、私達をこの世界に送ってくれた。今も尚、シルビアさんは信じてくれているんですよね? 私達を、そしてここにいる人達を…」
「何一人でブツブツ言ってるのかしら?」
「ひみゃあ!?」
不意打ちでかけられた声に、レイアが妙な悲鳴を上げて飛び跳ねる。
慌てて目を向けると、一人の女性が部屋のドアを開けた状態でこちらを見ていた。
「あ、えっと…?」
「ミュロスよ。まったく、あれほど安静にって念を押したのに結局倒れるってどう言う事なのよ…ブツブツ…!」
不機嫌になっているのか、文句を言いながらミュロスは備え付けられたテーブルに料理を置く。
更にベットの枕元に数冊の本を置くので、レイアは困惑を浮かべた。
「あ、あの…これ…?」
「あなたのお仲間達から預かった物よ。今あの三人には食事を取らせてるから、代わりに私が届けに来たって訳。それ食べ終わったら軽く診察してあげるから、感謝しなさいよね」
「あ、ありがとうございます…」
言いつけを守らなかったのにも関わらず、こうして面倒を見てくれるミュロスに頭を下げてお礼を言うレイア。
これにはミュロスも軽く肩を竦めていると、先程レイアが置いた日記帳に気付く。
「この本は何?」
「あっ! み、見ないでくださーい!」
日記帳を手に取ったミュロスに、思わずレイアが顔を赤くして手を伸ばす。
しかし、ミュロスは片手で軽々とレイアの抵抗を払い除け、パラパラとページを捲ってしおりが挟んである項目に目を向けた。
「へー、日記? 何々…――『今日、目覚めたら』」
「いやー!?」
朗読を始めるミュロスに、思わずレイアが悲鳴を上げる。
しかし、ミュロスは口を閉じる事無く書いてある文章を読み上げ始めた。
『今日、目覚めたら【ビフロンス】と言う世界のお城にいました。エンさんとの戦いで傷ついた私達は、そこに住む人達に助けて貰いました。私達にとって、そこは異世界と言う同じようでまったく違う世界なのに、私はその人達にちゃんとお礼を言えませんでした。
私達はそれぞれ大事な人を、仲間を、助けを求めていた人を救えなかったからです。私もみんなもとても悲しくて、周りを気にする余裕はありませんでした。
その中で一番に傷ついていたのは、クウさんでした。クウさんは誰よりも優しいから、誰よりも責任を感じてるから。自分を許せなくて、一人になってしまいました。
心を閉ざしたクウさんに私は何も出来なくて、すごく苦しかった。でも、落ち込んだ私を紗那さんやヴァイさん、キサラさんから元気をもらったように、クウさんも無轟さん達から元気をもらって立ち直る事が出来た。クウさんが持ったキーブレードを見て、そう確信しました。
その時のクウさんのキーブレード、初めて見たけどとてもかっこよかったです。黒の翼も好きでしたけど、半分だけ白って言うのも何だか似合ってました。もしエンさんの白の翼になったら、ちゃんとした天使みたいで美しくなるし、私と色が御揃いになるのに。それに白い翼なら温かい感じもするから、寄り掛ったら気持ちよく眠れそう。もちろん、クウさんの黒の翼だって大好きです。温かいしかっこいいし守ってくれる感じがするし――』
「凄いわぁ…ここから一ページ丸々、惚気で埋め尽くされてる…」
「見ないでぇ…!」
延々と書き綴られているクウの惚気にミュロスが呆れ顔になると、レイアは恥ずかしさで顔を真っ赤にする。
そうして布団で顔を隠すので、仕方なくミュロスは惚気の項目を一気に飛ばして最後の文章に目を向けた。
『まだ問題は山積みで、知らない事も不安になる事もたくさんあって。それでも、今は出来る事を一つ一つやっていこうと思います。そうすればきっと…』
「《そうすればきっと》…――この先は何なのかしらぁ、ん?」
「え〜ん…!」
ミュロスが意味ありげな笑みを浮かべて問うと、あまりの恥ずかしさにレイアは布団の中に隠れるように丸まって半泣きになったそうな。