CROSS CAPTURE53 「奪った心とKR」
「どうしよう、見失った…!」
「イオン先輩…!」
あの後イオンを追って三人は病院を出たが、入り口の付近で完全に見失ってしまった。
ペルセとシャオが焦りを浮かべた時、一緒に居たクウが問いかけた。
「――お前らは、知ってたのか? あいつが…ソラとカイリの息子って事?」
この質問に、イオンの事で頭が一杯だった二人は恐る恐るクウの方を見る。
黙ったままじっとこちらを見つめる目は無表情に近く、小さな嘘すらも見透かされそうな視線を浴びせられる。
「師匠…えっと、その…!?」
「知ってたんだな?」
事実だけしか認めないとばかりに、淡々と質問を繰り返すクウ。
シャオが狼狽える横で、もう誤魔化せないと感じたのかペルセは小さく頭を下げて正直に答えた。
「ごめんなさい…あなた達の未来に影響が出ると思って…」
「気にするな。オッサンとは事情が違う、隠すのは当然だろ」
何処までも物事を冷静に受け入れるクウに、ペルセは違和感を感じた。
「クウさん、どうして驚いてないんですか?」
「これでも驚いてはいるぜ。まあ、ついさっきまでいろいろあったからな……あの出来事がなかったら、本気で混乱してた」
そう言うと、その時の出来事を思い出したのか何処か乾いた笑みを浮かべるクウ。
落ち着いていると言うより精神的に疲れているようにも思え、シャオは先程別の世界へと行った事件を思い出す。
(あの世界でボクが気絶してる間…師匠に何があったんだろう?)
軽く想像するが分かる筈もない。かと言って、クウに聞いてもどう言う訳か教えてはくれない。
そうやってシャオは黙って考えていたが、ペルセが一つの疑問を口にした事で思考を中断する事になる。
「でも、カルマ達は一体どうして三人の心を抜き取ったんでしょうか?」
「そうだよ…だって、ここの人達の話じゃ操って味方にする事も出来るんでしょ? わざわざ心だけを抜き取るって、ハートレスにする気なのかな?」
こちら側のソラ達の状態にシャオも考えを纏めてを口にしていると、突然クウがハッと顔を上げた。
「シルビアを解放する鍵――その為にKRの材料にするんだったら?」
「KR?」
「《キーブレード・レプリカ》。鎧の姿をしていて、ハートレスの心を核にして人工で作られたキーブレードを使うの」
初めて聞く言葉にシャオが首を傾げると、すぐにペルセが説明する。
「会議の時に聞いたんだ。エンは一部のKR開発に口を出していた。キーブレード使いの心を埋め込んだKR…――贋作じゃない、本物のキーブレードを使う人形を」
「聞いた事あります。でも、結局数体しか作られなかったし、中身も奪還戦までに手に入らなかったって…」
クウに続く様にペルセも他の人から聞いた事を言い合っていると、シャオにある考えが浮かんだ。
「ねえ、師匠…そのKRに使うキーブレード使いの心って、ボク達の事だったのかな?」
「ああ。中身は俺達を使うつもりだと、イリア達も俺達も考えた。だけど…本当はこっち側のソラ達が目的だとしたら?」
「どう言う事ですか?」
話が見えないのかペルセが問うと、クウは自分が立てた推測を語り出した。
「仮に俺達をKRにしたいとする。そうなると、ソラ達から心を抜き取る作業なんていちいちやってたら時間がかかるし、純粋に戦力欲しいならキーブレードを使えない俺達もスピカみたいに纏めて『Sin』化させればいいだろ? だけど、もし戦闘力が落ちてるキーブレード使いを操ってぶつけたらどうなる?」
「失礼な言い方になりますが…勝てます」
若干迷いがあるのか、淀みながら答えるペルセ。
こちらの戦力は神無や神月と言った強力な心剣士、ゼツ達や睦月達と言った反剣士と永遠剣士、更には半神と言う強力な戦力がいる。しかも、今ではクウ達キーブレード使いも加わって戦力は恵まれていると言ってもいい。生半端な戦闘力を持った人物がこの団体に戦いを挑むとなれば、もはや自滅行為に等しいだろう。
ここでクウが何を言いたいのか分かったのか、シャオも顔を上げた。
「この世界のソラさん達は年を取ってるし、戦いから手を引いている。そんな身体じゃまともに戦えないから…KRの身体にして、本来の戦闘力にしてボク達にぶつけるって事?」
「確かに、あれは普通の肉体とは違います。出来てもおかしくない…」
「あいつらが欲しがってるキーブレードも使えて、いざと言う時は強力な駒に出来る。そう考えれば、一石二鳥だろ」
青い顔になるペルセにクウが話を纏めると、シャオは誰にも聞こえない様にボソリと呟いた。
「…ゼアノートと同じ考えだ…」
己の野望の為に様々な人達の自由や未来を奪い、利用し、世界にすら闇や災いを齎した。それと同じ事をエンもしている。元は今目の前にいるクウ――自分の師匠なのに。
二人のギャップにシャオの心がざわめいていると、顔色の悪くなったペルセが身体を震わせた。
「もし、その考えが合ってたのなら…私達、こちら側のソラさん達と戦わないといけないって事ですよね?」
「どうしよう…! もしそうなったら、イオン先輩の事隠しきれないだけじゃなくて、いろんな問題が起こっちゃうよ!?」
最悪の状況に気付いてシャオもパニックを起こすと、クウも難しい顔をして腕を組む。
「もしそうなったら、出来る限りあいつらに接触させないようにするしかないが…テラ達の事も考えると厳しいな。オッサンやゼロならまだ相談は出来るが……仕方ない、その辺は後で神頼みしに行くか」
「神頼み、ですか?」
妙な提案に疑問を感じたペルセに対し、シャオは顔を輝かせて満面の笑みを浮かべた。
「別名、困った時のイリアさん頼みだよ! ピッタリな言い方でしょ?」
「半神達の前で言ったら袋叩きに遭いますよ?」
クウと自信満々に言うシャオに、冷酷に、そして呆れながら忠告を入れるペルセ。
何がともあれ今後の事を決めると、クウは辺りを見回した。
「とにかく、さっさとイオンを見つけて戻ろうぜ。とはいえ、何処を探せばいいんだ…?」
「私、イオンの家を探してみる。あと、寄り添うな場所」
「じゃあ、俺は適当にその辺りを探すか…」
「だったら、ボク海岸の方探してみるよ! 師匠は住宅地の方をお願い!」
それぞれ担当となる場所当てをすると、いなくなってしまったイオンを探す為に三人はその場で散開した。
■作者メッセージ
帰郷編(勝手に命名)もいい感じの所で区切りがつくので、今回で私のバトンは終了し夢さんにバトンタッチです。
夢さんがバトンを受け取っている間はχのストーリーが更新されたので、そちらの番外編を一気に書き上げつつ、リラさんの作品コラボである誕生日企画・『R企画』を進めていこうと思っています。
夢さんがバトンを受け取っている間はχのストーリーが更新されたので、そちらの番外編を一気に書き上げつつ、リラさんの作品コラボである誕生日企画・『R企画』を進めていこうと思っています。