CROSS CAPTURE55 「意思を持て歩き出せ」
一方、その様子をウラドは横になり、気だるげに見ていた。
それは彼女は吸血鬼ながらも日が昇っている間は行動できるが、本来の力を半減してしまう為だった。
鍛錬を始めた彼らの様子を、その眼差しで見据え、あきれ果てたように言った。
「……暇だからとはいえ、毎日鍛錬、鍛錬、鍛錬……脳みそまで筋肉じゃあないだろうな?」
「もう、ウラドちゃん。そんなこと言ってあげないの」
ウラドに諭すように注意する女性――ツヴァイが苦笑いのまま歩み寄り、その傍へと座る。
城で昼食を終え、娘のヴァイの怪我の具合を伺い、次に神月の居る修練場へとやって来た。
彼女は身を小さく動き、ツヴァイを一瞥するやまた振り戻って、納得していない不機嫌な様子で言う。
「ちゃん? お前よりも何百年も生きているのに?」
「ふふ。でも、見た目は子供でしょう?」
まだまだ子供ね、と内心で苦笑しながらもその頭を撫でて、ツヴァイは話を続ける。
「みんな、じっとしていられないのよ。カルマは今でも何かを目論んで動いているのではないか。
彼女と戦うその日はいつなのか、自分たちは彼女に勝てるのだろうか―――ってね」
「……」
その気持ちの吐露を静かに耳を傾けることで話の続きを促す。
そんな姿勢に、ツヴァイは続けて話す。
「…私は戦うってここまで来たけど、やっぱり実力不足だなーって実感しちゃうのよね」
此処へと集ってきた者たち―――心剣士、反剣士、永遠剣士やその仲間たち、半神、と綺羅星のような将星に眩さを覚えた。
戦う覚悟だけで来てしまった自分がとても不安になっていく。そう、感じていた。
「まあ、情けない話だけど」
内に在った劣情を一通り吐き、自嘲の笑みを零して話を切り上げようと一息ついた。
彼らの喧騒に包まれ、二人は沈黙する。ツヴァイは内心、申し訳ないと思って口火を切ろうとする。
「……いえ。それはない」
「?」
「意志あるものに、道はある。それが誰であろうとも」
ゆっくりと身を起こし、ウラドは真剣な表情と言葉で言い返した。その言葉に、ツヴァイは自嘲から安堵の笑みを返す。
「諭し返されちゃうとはね、ふふふっ」
再び彼女の頭を撫で、笑顔をこぼす。ウラドの凛とした表情が小さく崩れ、満更でもない喜びの微笑を浮かべる。
それを許しているウラドはそのまま撫でられ、ツヴァイは彼らの様子を眺めていた。
城内の庭園に用意されたテラスにて、金髪の女性――半神キサラ、黒茶の青年――アルビノーレがいた。
二人がこうして一緒にいるのは他でもないアルビノーレの誘いを受け、キサラが応じたのだ。
そこで彼の口から彼個人的な相談を聞いていた。その内容は聖域奪還戦以降の、憂鬱などの無気力の事態であった。
「あれから数日……心に穴が空いた気分だよ―――皆がカルマの戦いに心血を注ぐいでいるのに」
「仕方ないわ。今はゆっくり休めばいいと思うわ」
天井を仰ぎ、アルビノーレの自嘲すぎた笑みを浮かべる。に優しく宥める様に言う。
その状態の原因は明白だった。それは対の半神であったディザイアの戦死。
ディザイアとアルビノーレの仲は複雑ながらも、互いに信頼しあっていた。
彼女へ相談したのも互いに対の半神を喪った者同士と、キサラは内心思いながらも彼と親身に接している。
「それにしても、キサラこそ特に異変とかはないのか?」
彼の話が一先ず終わり、アルビノーレは彼女へと心配げに問いかける。
「え?」
「いや…元々が光を司る半神、それなのにも関わらず…闇の半神の力を取り込んだのだろう?」
「ああ…そうねえ」
自身の唇に指を添え、思案する姿勢を取り、その質問に適切な言葉を考える。
対極の力を取り込み、心身に影響や問題があるか不安ではあった。決戦後、イリアドゥスに相談した。
自身の記憶を読み込ませ、その経緯を彼女ならではの速さで理解し、淡々と話し出す。
「なるほど、確かに『異なる属性を取り込んだ』だけなら不安も抱くわね」
「はい……―――え?」
気になる一言だった。取り込んだだけ、という言葉に。
その不安の様相を気にする事無く母は続ける。
「あなたがダークネスと戦い、あなたは最後に『一撃』を受けて倒れた。その一撃が切っ掛け。
今に至るまでずっと内側に宿り続けた因子が今へ至った時、あなたは真に昇化した」
「つまり――」
「つまり、あなたは光の半神ではない。『光と闇の半神』となったのよ」
言い放たれた真実を、キサラは瞠目としながらも確りと受け止めた。戸惑いは確信へ。
それは、あの奪還戦の時に、あの瞬間に、既に受け入れていたのだから。
「―――っ」
不意に涙がキサラから流れる。
「大丈夫?」
「はい。彼から受け継いだこの力を―――大切にしていきます」
涙を指で払うように拭い、様子を伺う母へ健気に笑顔を返した。
「……だから、私は大丈夫なのよ」
一通り、彼にその話を語り、キサラは朗らかに笑った。漂う風格に、賜れた神位に、力に、心から誇りを持っている。
それを見たアルビノーレはその笑みに静かに頷き、また暗い表情になって黙る。
そんな表情に、心痛な気持ちになるも、心を鬼してでも折れている彼を立ち直さなければならない。
「いつまでもそんなのだと、ディザイアが報われない」
意を決し、静かにキサラは厳と言い放つ。
「……」
「その姿を晒すことで―――ディザイアを傷つくことなのよ」
その言葉にアルビノーレが沈痛の表情を愕然と砕く。その様をし続けること自体が死したディザイアを蔑ろにしているのだった。
強く反論することはなかった。それは彼の愕然とした表情から現れている。
言い逃れない事実ゆえに、受け止めるしかなかった。
脳裏にフラッシュバックするあの光景。玉座で眠りにつかされている囚われのレプキアを守らんと身を挺したディザイアを。
最後の瞬間まで半神として、子として満足した彼の死に行く顔を。その躯が消滅(け)される瞬間を。
「……ええ、そうでしょうね」
ゆっくりと吐息を吐くと共に口を開いた彼は言い逃れない事実に苦虫を噛みしめた様子で、続ける。
「結局、この無気力の理由を彼に押し付けているのも私自身。反する言葉は、無い」
「なら、改めるなら今からでいいのよ。みんな、そうして歩き出していくのだから」
その小さく震える肩に手を添え、
「……ええ」
此処に集ってきた者たちの多くもまた、心に何らかの因果を秘めている。
しかし、彼らはそれを呑み、己の意思で歩き続けている。
その中にも彼と同様に大切なものを喪ったものもいる。だが、彼らはそれを抱きながらも前を見据えている。
そういわれた彼は漸く、表情を和らいだように安らぐ。そして、彼は席を立つ。
「相談、ありがとう。少し休んだら鍛錬から始めます」
「ええ。頑張って」
歩き去っていく彼を優しく手を振って見送る。場内の回廊へと消えていくのを見届けてから彼女は手を下ろす。
そうして、一息をついた。その色は疲れではなく安堵のものであった。
■作者メッセージ
久方の更新、反比例のような短さですが申し訳ない。
次回の更新も未定…いろんなキャラを出したい、しかし、ネタが思いつかない
なんというジレンマ
次回の更新も未定…いろんなキャラを出したい、しかし、ネタが思いつかない
なんというジレンマ