CROSS CAPTURE57 「思わぬ衝突・2」
「…あんな失礼な事言えば誰でも不快な気持ちになるのは解っていただろう。シムルグはからかったのはいいが、ブレイズ。お前はまだぶり返したか?」
そう問い詰める様に、鋭く怜悧に言い放ったアレスティアは二人の様子を見た。
シムルグは飄々としているが申し訳ない様子でいるが、ブレイズはふんぞり返るようにそっぽを向いた。
姉として、妹二人の面倒な性格は熟知している。
半神シムルグはビラコチャ同様、世界を巡って人の世界を学び、理解はある。風のように気ままな、飄々とした性格は無邪気と違って性質が悪い。
半神ブレイズは自分ら半神こそ、高位と自負を持ち、人を見下す。炎のように荒く、他者に厳しい気難すぎる性格は他者を気遣う訳が無い。
(…また、神無に灸でも据えてもらうか)
ブレイズの対応は彼女を打ち負かした神無が特効薬であった(イリアドゥスに叱ってもらう、は特効薬を通り過ぎて劇薬のため無理)。
シムルグは注意するだけで十分だった。人を理解しているし、あくまでもからかっているだけだ。本気で責めも、何もしない。
「後で、何か詫びの品でも用意しないとな。イリシア、品定めを頼んだわ」
「えっ!? ……わかりました」
末妹たる半神イリシアは驚き、涙目になりながら、拒否し切れずに了承する。
『――ほーーんと、チェルとかがいなくて良かったわね』
「む」
すると、聞き覚えるのある女性の声が聞こえ、その元へ視線を向けると淡い銀の毛並みをした猫がやって来た。
猫は光を帯びて、姿を変える。猫は女性にかわって―――彼らはやっと正体を理解した。
イヴ。
シンクらと同じ世界の住人であり、彼女もシンクらの肉親ではないが、彼らの保護者な立場であった。
イヴは肩を竦めて、心底呆れたように言う。
「チェルが居たら、本気で銃弾の雨が降るわよ? 少なくとも、この城を蜂の巣にするくらいには暴れるでしょうね」
「……その事は本気で申し訳ない。不躾なことをした」
とりあえずの対応を、アレスティアが請け負った。イリシアでは不安、シムルグでは面倒、ブレイズは火に油を注ぐレベルじゃないくらいにだめだからだ。
実の所、イヴはシンクらが部屋を出た所から後ろからついてきていたのだ。ついていくと、鉢合わせた半神らに口酸っぱく責められ、落ち込む彼と怒りを堪える彼女を見かけた。
糸を巻いて床に叩き付けてやろうかと本気で考えたが、彼女らが半神、しかも能力の高い4人である事に実力差を抱き、気付かれないように伺うことにした(アレスティアの性格をある程度知っている為この選択をした)。
「本当に、よ。せっかくお互いに仲良くなりはじめたんだから、些細な事で綻びを作っちゃいけないわよ」
「返す言葉も無い。後で改めて侘びをするので…できればこの事は他言無用に」
アレスティアの対応に、ほか3人は口を出さなかった――否、出せなかった。漂う雰囲気はいたって平静だが、ひしひしと怒りが宿っている。
その怒りはブレイズとシムルグの失言、自分の失態への怒りである。
イヴも気ままな性格である。いつまでもこの件を引っ張るつもりは毛頭無いが、彼らの保護者として最後に、念入りの注意を促す。
「とりあえずはいいわ。気をつけてくれれば何より。――――さっき謝ってくれたからいいけど、詫びの品ならお菓子でいいわよ。シンクもヘカテーも好物だから」
「! ああ。すまない…」
イヴの意気に、深く感謝の意を声にもらし、身を翻す。
「―――行くぞ、城下町に確か菓子屋があった筈だ」
「い、今からだと…二人と会う可能性が…」
「シムルグ」
「はいはい。さくっと城下町の菓子屋に飛ばせばいいんでしょ?」
「お菓子は…どういう系がいいんだ……?」」
アレスティアの言葉に、イリシアが慌てて、シムルグが肩を竦め、ブレイズが生真面目にイヴに確認する。
「んー、基本的に何でもいいわよー。まだ、そういうところはあの二人も子どもだし」
「解った。失礼する」
そう言って4人は慌しく走り出し、イヴはそんな何だかんだ律儀な、お人好しな彼女らを手を振って見送った。
城門を出て、シンクとヘカテーは陽光の下、城下町へ向かっている。先の一件から彼女は彼の手を繋ぎっ放し、引っ張りっ放しで歩みを止めない。
「ヘカテー…怒ってる?」
「怒るに…決まってる」
歩を緩めずに、簡潔に述べたそれは紛れも無い本心の塊だった。怒りを察していたが、暴発しなかった事を褒めたかった。
矢継ぎ早にヘカテーはシンクに問いかけた。
「シンクは……怒らないの? 何もしていないのに、唯通りかかって、いきなり怒られるって……おかしいと思わないの?」
「そう言われると……困るね」
シンク自身も唐突に責められた事には不可解に思っていた。シムルグのからかいはここ数日で過ごした中で在る程度理解していた。
が、ブレイズの叱責だけはどうしても仕方ないと片付ける事が出来ない――他者に厳しい性格である事を知っていても――のだ。
しかし、それでも律する気持ちがあの時、あの場面では上回っていた。
不和を招けば、いざという時に支障を来たす―――そんな理論然とした考えがあったが、それを彼女に言うのも言い訳に過ぎない。
「ヘカテー、僕は別にいいんだ。それより、君が我慢してくれた―――それが何よりも嬉しかったよ」
我慢する事は誰にもできるが、それを貫き通す事はとても難しい。
だからこそ、彼女の我慢を何よりも褒めてあげたかった。
「……」
一瞬だけ一瞥して直ぐに真っ直ぐ城下町へと向けて歩き出す。心なしか顔が赤かったような気がした。
そうして少し安堵した彼は彼女と一緒に並び、歩を揃える。
「さ、何かいいのあるかな」
もう城下町は目と鼻の先。城下町の市場で少しでも彼女の機嫌が直るだろうと信じて、歩を進める。
一方、真っ先に、密やかに、半神4姉妹の彼女らが城下町にたどり着いた。
「――菓子屋は此処だな」
城下町の市場の一角にあり、店の見た目も絵本で出てきそうな菓子の家に似ている。
店の大きさは普通、昼間なのかやはり、家族連れやら客の気配もある。
「さっそく入るか」
「待った」
アレスティアを止めに入ったのはシムルグだった。先の飄々さはなく、真面目な様子である。
「何か問題があるのか?」
「ほら、アタシらの服―――アタシやイリシアはともかく、姉さんとブレイズはちょっと着替えなおそうか」
アレスティアの衣装は胸元を強調したドレス基調のコートを身に纏い、
ブレイズはボディラインのハッキリしたライダースーツ基調の装束を身に包んでいる。
一般の往来には聊か目立ってしまう。言うや風が二人を纏うように現れ、瞬時に違和感の無い私服に着替えられていた。
「む、すまないな。シムルグ」
「あれで十分だと思うんだがな」
「はは……じゃあ、入りましょう!」
そうして4人は改めて店に入る。店内も外装と同じ雰囲気で、商品であるお菓子が多種多様にある。
更には家族連れの子どもたちがたくさんのお菓子に和気藹々と賑やかさを増している。
「いらっしゃいませー」
店の入り口で立っていた店員が挨拶し、
「4名様でよろしいですか?」
「ああ」
「では、トレイをどうぞ。中にお菓子を入れて、奥のレジで清算してください」
「解った」
店員からトレイを受け取り、お菓子を買うべく商品を見て回る。
子供向けから、大人が好む酒入りなど、様々な菓子があり、甘い匂いが鼻をくすぐる。
「……何を選べばいい? 何でも、と入っていたが」
店内に配置された菓子を半分ほど見てきたが、どれをシンクとヘカテーに差し出せばいいのかわからなかったのだった。
4人とも人間とは違う、半神。感覚もある程度異なっているため、選べずに居た。
一先ず休憩用の長椅子に揃って座り、疲労の色を強く醸し出していた。
「シムルグ…お前が選んで来い」
「えー、だったらこうして4人で来た意味ないじゃない」
「…そういう、問題…?」
「―――あれ? ブレイズたちじゃないの?」
彼らへと声をかけた女性の声に、4人は顔を上げる。声の主はトレイに菓子をいくつか乗せた半神サイキであった。
不思議そうに見やる彼女にアレスティアがまず戸惑いつつもたずねる。
「どうして、あなたが?」
「? だって、此処って私のお気に入りの店よ? こうしてお菓子を買って客人のみんなに馳走したり、アイネアスと一緒に食べるのよ」
さらっと答える彼女を見て、4人を顔を合わせる。そして、直ぐに結論を導き出す。
「サイキ、手伝って欲しいことがある」
「はい?」
そう問い詰める様に、鋭く怜悧に言い放ったアレスティアは二人の様子を見た。
シムルグは飄々としているが申し訳ない様子でいるが、ブレイズはふんぞり返るようにそっぽを向いた。
姉として、妹二人の面倒な性格は熟知している。
半神シムルグはビラコチャ同様、世界を巡って人の世界を学び、理解はある。風のように気ままな、飄々とした性格は無邪気と違って性質が悪い。
半神ブレイズは自分ら半神こそ、高位と自負を持ち、人を見下す。炎のように荒く、他者に厳しい気難すぎる性格は他者を気遣う訳が無い。
(…また、神無に灸でも据えてもらうか)
ブレイズの対応は彼女を打ち負かした神無が特効薬であった(イリアドゥスに叱ってもらう、は特効薬を通り過ぎて劇薬のため無理)。
シムルグは注意するだけで十分だった。人を理解しているし、あくまでもからかっているだけだ。本気で責めも、何もしない。
「後で、何か詫びの品でも用意しないとな。イリシア、品定めを頼んだわ」
「えっ!? ……わかりました」
末妹たる半神イリシアは驚き、涙目になりながら、拒否し切れずに了承する。
『――ほーーんと、チェルとかがいなくて良かったわね』
「む」
すると、聞き覚えるのある女性の声が聞こえ、その元へ視線を向けると淡い銀の毛並みをした猫がやって来た。
猫は光を帯びて、姿を変える。猫は女性にかわって―――彼らはやっと正体を理解した。
イヴ。
シンクらと同じ世界の住人であり、彼女もシンクらの肉親ではないが、彼らの保護者な立場であった。
イヴは肩を竦めて、心底呆れたように言う。
「チェルが居たら、本気で銃弾の雨が降るわよ? 少なくとも、この城を蜂の巣にするくらいには暴れるでしょうね」
「……その事は本気で申し訳ない。不躾なことをした」
とりあえずの対応を、アレスティアが請け負った。イリシアでは不安、シムルグでは面倒、ブレイズは火に油を注ぐレベルじゃないくらいにだめだからだ。
実の所、イヴはシンクらが部屋を出た所から後ろからついてきていたのだ。ついていくと、鉢合わせた半神らに口酸っぱく責められ、落ち込む彼と怒りを堪える彼女を見かけた。
糸を巻いて床に叩き付けてやろうかと本気で考えたが、彼女らが半神、しかも能力の高い4人である事に実力差を抱き、気付かれないように伺うことにした(アレスティアの性格をある程度知っている為この選択をした)。
「本当に、よ。せっかくお互いに仲良くなりはじめたんだから、些細な事で綻びを作っちゃいけないわよ」
「返す言葉も無い。後で改めて侘びをするので…できればこの事は他言無用に」
アレスティアの対応に、ほか3人は口を出さなかった――否、出せなかった。漂う雰囲気はいたって平静だが、ひしひしと怒りが宿っている。
その怒りはブレイズとシムルグの失言、自分の失態への怒りである。
イヴも気ままな性格である。いつまでもこの件を引っ張るつもりは毛頭無いが、彼らの保護者として最後に、念入りの注意を促す。
「とりあえずはいいわ。気をつけてくれれば何より。――――さっき謝ってくれたからいいけど、詫びの品ならお菓子でいいわよ。シンクもヘカテーも好物だから」
「! ああ。すまない…」
イヴの意気に、深く感謝の意を声にもらし、身を翻す。
「―――行くぞ、城下町に確か菓子屋があった筈だ」
「い、今からだと…二人と会う可能性が…」
「シムルグ」
「はいはい。さくっと城下町の菓子屋に飛ばせばいいんでしょ?」
「お菓子は…どういう系がいいんだ……?」」
アレスティアの言葉に、イリシアが慌てて、シムルグが肩を竦め、ブレイズが生真面目にイヴに確認する。
「んー、基本的に何でもいいわよー。まだ、そういうところはあの二人も子どもだし」
「解った。失礼する」
そう言って4人は慌しく走り出し、イヴはそんな何だかんだ律儀な、お人好しな彼女らを手を振って見送った。
城門を出て、シンクとヘカテーは陽光の下、城下町へ向かっている。先の一件から彼女は彼の手を繋ぎっ放し、引っ張りっ放しで歩みを止めない。
「ヘカテー…怒ってる?」
「怒るに…決まってる」
歩を緩めずに、簡潔に述べたそれは紛れも無い本心の塊だった。怒りを察していたが、暴発しなかった事を褒めたかった。
矢継ぎ早にヘカテーはシンクに問いかけた。
「シンクは……怒らないの? 何もしていないのに、唯通りかかって、いきなり怒られるって……おかしいと思わないの?」
「そう言われると……困るね」
シンク自身も唐突に責められた事には不可解に思っていた。シムルグのからかいはここ数日で過ごした中で在る程度理解していた。
が、ブレイズの叱責だけはどうしても仕方ないと片付ける事が出来ない――他者に厳しい性格である事を知っていても――のだ。
しかし、それでも律する気持ちがあの時、あの場面では上回っていた。
不和を招けば、いざという時に支障を来たす―――そんな理論然とした考えがあったが、それを彼女に言うのも言い訳に過ぎない。
「ヘカテー、僕は別にいいんだ。それより、君が我慢してくれた―――それが何よりも嬉しかったよ」
我慢する事は誰にもできるが、それを貫き通す事はとても難しい。
だからこそ、彼女の我慢を何よりも褒めてあげたかった。
「……」
一瞬だけ一瞥して直ぐに真っ直ぐ城下町へと向けて歩き出す。心なしか顔が赤かったような気がした。
そうして少し安堵した彼は彼女と一緒に並び、歩を揃える。
「さ、何かいいのあるかな」
もう城下町は目と鼻の先。城下町の市場で少しでも彼女の機嫌が直るだろうと信じて、歩を進める。
一方、真っ先に、密やかに、半神4姉妹の彼女らが城下町にたどり着いた。
「――菓子屋は此処だな」
城下町の市場の一角にあり、店の見た目も絵本で出てきそうな菓子の家に似ている。
店の大きさは普通、昼間なのかやはり、家族連れやら客の気配もある。
「さっそく入るか」
「待った」
アレスティアを止めに入ったのはシムルグだった。先の飄々さはなく、真面目な様子である。
「何か問題があるのか?」
「ほら、アタシらの服―――アタシやイリシアはともかく、姉さんとブレイズはちょっと着替えなおそうか」
アレスティアの衣装は胸元を強調したドレス基調のコートを身に纏い、
ブレイズはボディラインのハッキリしたライダースーツ基調の装束を身に包んでいる。
一般の往来には聊か目立ってしまう。言うや風が二人を纏うように現れ、瞬時に違和感の無い私服に着替えられていた。
「む、すまないな。シムルグ」
「あれで十分だと思うんだがな」
「はは……じゃあ、入りましょう!」
そうして4人は改めて店に入る。店内も外装と同じ雰囲気で、商品であるお菓子が多種多様にある。
更には家族連れの子どもたちがたくさんのお菓子に和気藹々と賑やかさを増している。
「いらっしゃいませー」
店の入り口で立っていた店員が挨拶し、
「4名様でよろしいですか?」
「ああ」
「では、トレイをどうぞ。中にお菓子を入れて、奥のレジで清算してください」
「解った」
店員からトレイを受け取り、お菓子を買うべく商品を見て回る。
子供向けから、大人が好む酒入りなど、様々な菓子があり、甘い匂いが鼻をくすぐる。
「……何を選べばいい? 何でも、と入っていたが」
店内に配置された菓子を半分ほど見てきたが、どれをシンクとヘカテーに差し出せばいいのかわからなかったのだった。
4人とも人間とは違う、半神。感覚もある程度異なっているため、選べずに居た。
一先ず休憩用の長椅子に揃って座り、疲労の色を強く醸し出していた。
「シムルグ…お前が選んで来い」
「えー、だったらこうして4人で来た意味ないじゃない」
「…そういう、問題…?」
「―――あれ? ブレイズたちじゃないの?」
彼らへと声をかけた女性の声に、4人は顔を上げる。声の主はトレイに菓子をいくつか乗せた半神サイキであった。
不思議そうに見やる彼女にアレスティアがまず戸惑いつつもたずねる。
「どうして、あなたが?」
「? だって、此処って私のお気に入りの店よ? こうしてお菓子を買って客人のみんなに馳走したり、アイネアスと一緒に食べるのよ」
さらっと答える彼女を見て、4人を顔を合わせる。そして、直ぐに結論を導き出す。
「サイキ、手伝って欲しいことがある」
「はい?」