CROSS CAPTURE63 「衝突・1」
「皆、連れてきたわよ!!」
バンと勢いよく扉を開けると共に、オパールはシーノを部屋の中へと引っ張る。その後ろからカイリだけでなく、同行する事になったヴェンとヴァイも続く。
されるがままにシーノが部屋へ踏み込むと、中にはウィド、テラ、アクア、リク、王羅、ビラコチャが不安げになっている。そんな6人の視線の先には、ベットの上で苦しむルキルがいた。
「うう…ぐぅ、ああぁ…!!」
「ルキルは!? ルキルはどうなるんですか!!」
「落ち着いてよ! 今から調べるから!」
血相を変えて掴みかかるウィドに、シーノは肩を掴んで落ち着かせる。
すぐにシーノはルキルの隣に立つと、彼の額に指先を置く。その様子を見ながら、部屋にいた王羅はビラコチャに耳打ちした。
「あの…彼でいいんですか? レプセキアでの会議の話では、大して力を持っていないのでは?」
「彼は【夢】の半神だ。戦いには向かないが、何かあった際に調べる時には役に立つ」
「【夢】って事は…調べるのは《記憶》ですか」
「半分正解だ。記憶もそうだが…心にも関係があるからの」
そもそも『夢』と言うのは本人の記憶だけでなく、感情も含まれている。眠る間に起こる記憶と心の働きにより、夢が構築されるのだ。
二人がそうこう話していると、調べ終わったのかシーノの表情が変わった。
「これは…!」
「何か分かった――ッ!?」
即座にリクが近づいた時、急に袖を掴まれる。
見ると、苦しんでいた筈のルキルが袖を掴んでいた。
「――お願い、リク…“あたし”を止めて…」
自分の声で無い少女の声と共に、黒髪の少女がルキルと被る様に見えた。
「え…!?」
信じられない光景に思わずリクが目を擦る。
しかし、再び目を開けた時は少女の姿は何処にもなく、袖を掴んでいた手もベットに落ちた。
「今の、誰…?」
どうやら今の現象は他の人にも見えていた様で、カイリだけでなく部屋にいる全員が茫然としている。
その時、廊下に続く扉の向こう側から何やら騒がしい足音が聞こえてきた。
「何だ?」
思わずテラが扉に目を向けた直後だった。
「――入るぞっ!!」
大声と共に、思いっきり扉が蹴破られる。
そこに現れたのは、何とシャオを背負ったクウ、イオン、ペルセの四人だった。
「貴様…!?」
「クウ!? 何でここに来たの!?」
「悪い、文句は後にしてくれ。あんたがシーノだな」
睨みつけるウィドと咎めるアクアを横目に、シーノへと近づくクウ。
自分の力が必要だと見抜き、一つ頷いてクウへと質問した。
「僕に何の用があるの?」
「シャオが急に倒れたんだ。診て貰っていいか?」
「分かった。じゃあ、そこのベットに――」
シーノが空いたベットを指差すのを見て、クウが背中からシャオを降ろす。
だが次の瞬間、ウィドがクウの襟元を掴み上げて壁に叩きつけた。
「っ…!」
「貴様…私から何度大切なモノを奪えば気が済む!?」
今まで溜め込んでいた憎しみが爆発し、何度もクウを壁に叩きつけながら怒鳴り付けるウィド。
後ろでカイリやオパールの悲鳴が小さく上がる中、不意にウィドは顔を俯かせた。
「実の両親に見捨てられ、寒さと戦いながら雪山を彷徨って…! 絶望と厳しい環境の中、心の支えだったのが姉さんとの思い出だけだった…!」
ポツリポツリと肩を震わせながら自身の辛い過去を話すウィドに、クウだけでなく周りの人達も何も言えずに押し黙る。
「そんな時に、私と同じように何もかも失ったルキルと出会った…――守らなければ、助けなければって…この子は私に生きるキッカケを与えてくれたんです!!! それなのに姉さんを捨てて、今度はルキルまで見捨てる気か!? やはり、あなたもエンと同じですね!!! そうやって、全ての世界も見殺しに――!!!」
「消させないっ!!!」
まるで遮る様にクウが大声で叫ぶと、罵倒を浴びせていたウィドの口が止まる。
「シャオも、そいつも消させねぇ!!! 俺の手が届くのなら、もう誰も失わせないっ!!!」
まるで根拠も根も葉もない言葉だが、それでもクウの真剣な眼差しにウィドだけでなく誰もが釘付けになってしまう。
やがてクウはウィドが掴む手を取ってそっと下ろし、申し訳なさそうに頭を下げた。
「今は、時間が無いんだ…少しだけこいつを借りる」
「…勝手にしろっ!!」
無理やりクウの手を振り払うなり、目を合わせまいと背中を向ける。
そうして拒絶の姿勢を見せつつ、ウィドは静かに胸に手を当てた。
(今、胸に起こった得体の知れない感覚…――何だったと言うんだ?)
クウを罵倒していた際に起こった、胸の中でザワリと揺れた不気味な感覚にウィドは不安を覚える。
彼が一人思考に耽っている間に、シーノはシャオの額に指を当てて目を閉じる。
それから僅か数秒で、シーノは目を見開いた。
「これは…!?」
「どうしたの?」
成り行きを見ていたペルセが問うと、シーノはルキルに顔を向けて答えた。
「…似ているんだ、今の彼と症状が」
「どういう事だ?」
訝しげにリクが聞くと、シーノは全員を見回しながら話し出した。
「二人には、共通して存在している記憶がある。一つは彼ら自身が刻んだ本来の記憶、次に他人の記憶、そして…何者かに植え付けられた偽の記憶」
「偽の記憶!?」
信じられないとばかりにカイリが叫ぶと、シーノは頷いて続きを話す。
「二人にある記憶が壊れて…内に潜む何かが、彼らの意識を喰らって目覚めようとしてる」
「内に潜む、何か…」
「目覚めたら、どうなっちゃうの…?」
アクアが顔を強張らせる隣で、恐る恐るヴァイが質問する。
「少なくとも…彼らは彼らで無くなる。心が消えるから、もう二度と…」
シーノの口から宣告された最悪の答えに、誰もが息を呑む。
そんな中、ウィドは血の気が引いた顔で彼に掴みかかった。
「助ける方法はあるんですか!?」
「あるには、ある。僕の力で彼らの記憶から作られる夢の世界に入り込んで、記憶に住み着いている意思を倒せばいい」
「「だったら俺(私)もっ!!」」
助けたい思いは一緒なのか、クウとウィドが申し出る。
今すぐにでも行動を起こそうとする二人に、シーノは辛そうに頭を下げた。
「ごめん。意気込んでいる所悪いんだけど、いろいろ問題があって…」
「問題…?」
不安げにヴェンが首を傾げると、すぐにシーノが説明を始めた。
「まず、夢の世界と言っても本人が核となって支配している。例え親しい人でも、その世界では僕らは招かれざる客だ。行動は制限されるし、下手な行動をすれば牙を向く危険な場所だ」
分かりやすく言い換えて説明すると、外との関わりを持たない他国に何の許可も無く踏み込む行為をする。その国民でない自分達は国中から怪しまれ、妙な行動をしないか監視される。そんな状態で敵と判断される行動を取ってしまえば、国全体が襲い掛かる事になってしまう。そうなれば、どんなに強い人でも一溜りも無いだろう。
こうして夢の世界の危険性を教えるていると、何故か顔を逸らした。
「これが一番大きな問題だけど…――さすがの僕も、二人同時に夢に侵入するのは不可能なんだ…ルキルかシャオ、どちらか一人しか入る事が出来ない」
「それって…どちらか一人しか助けられないって事なのか!?」
「…ッ…!?」
意味を理解してテラが叫ぶと、クウの表情が強張る。
彼が怯んだ隙に、素早くウィドが前に出た。
「だったら――!!」
「あるわ。二人を助ける方法」
バンと勢いよく扉を開けると共に、オパールはシーノを部屋の中へと引っ張る。その後ろからカイリだけでなく、同行する事になったヴェンとヴァイも続く。
されるがままにシーノが部屋へ踏み込むと、中にはウィド、テラ、アクア、リク、王羅、ビラコチャが不安げになっている。そんな6人の視線の先には、ベットの上で苦しむルキルがいた。
「うう…ぐぅ、ああぁ…!!」
「ルキルは!? ルキルはどうなるんですか!!」
「落ち着いてよ! 今から調べるから!」
血相を変えて掴みかかるウィドに、シーノは肩を掴んで落ち着かせる。
すぐにシーノはルキルの隣に立つと、彼の額に指先を置く。その様子を見ながら、部屋にいた王羅はビラコチャに耳打ちした。
「あの…彼でいいんですか? レプセキアでの会議の話では、大して力を持っていないのでは?」
「彼は【夢】の半神だ。戦いには向かないが、何かあった際に調べる時には役に立つ」
「【夢】って事は…調べるのは《記憶》ですか」
「半分正解だ。記憶もそうだが…心にも関係があるからの」
そもそも『夢』と言うのは本人の記憶だけでなく、感情も含まれている。眠る間に起こる記憶と心の働きにより、夢が構築されるのだ。
二人がそうこう話していると、調べ終わったのかシーノの表情が変わった。
「これは…!」
「何か分かった――ッ!?」
即座にリクが近づいた時、急に袖を掴まれる。
見ると、苦しんでいた筈のルキルが袖を掴んでいた。
「――お願い、リク…“あたし”を止めて…」
自分の声で無い少女の声と共に、黒髪の少女がルキルと被る様に見えた。
「え…!?」
信じられない光景に思わずリクが目を擦る。
しかし、再び目を開けた時は少女の姿は何処にもなく、袖を掴んでいた手もベットに落ちた。
「今の、誰…?」
どうやら今の現象は他の人にも見えていた様で、カイリだけでなく部屋にいる全員が茫然としている。
その時、廊下に続く扉の向こう側から何やら騒がしい足音が聞こえてきた。
「何だ?」
思わずテラが扉に目を向けた直後だった。
「――入るぞっ!!」
大声と共に、思いっきり扉が蹴破られる。
そこに現れたのは、何とシャオを背負ったクウ、イオン、ペルセの四人だった。
「貴様…!?」
「クウ!? 何でここに来たの!?」
「悪い、文句は後にしてくれ。あんたがシーノだな」
睨みつけるウィドと咎めるアクアを横目に、シーノへと近づくクウ。
自分の力が必要だと見抜き、一つ頷いてクウへと質問した。
「僕に何の用があるの?」
「シャオが急に倒れたんだ。診て貰っていいか?」
「分かった。じゃあ、そこのベットに――」
シーノが空いたベットを指差すのを見て、クウが背中からシャオを降ろす。
だが次の瞬間、ウィドがクウの襟元を掴み上げて壁に叩きつけた。
「っ…!」
「貴様…私から何度大切なモノを奪えば気が済む!?」
今まで溜め込んでいた憎しみが爆発し、何度もクウを壁に叩きつけながら怒鳴り付けるウィド。
後ろでカイリやオパールの悲鳴が小さく上がる中、不意にウィドは顔を俯かせた。
「実の両親に見捨てられ、寒さと戦いながら雪山を彷徨って…! 絶望と厳しい環境の中、心の支えだったのが姉さんとの思い出だけだった…!」
ポツリポツリと肩を震わせながら自身の辛い過去を話すウィドに、クウだけでなく周りの人達も何も言えずに押し黙る。
「そんな時に、私と同じように何もかも失ったルキルと出会った…――守らなければ、助けなければって…この子は私に生きるキッカケを与えてくれたんです!!! それなのに姉さんを捨てて、今度はルキルまで見捨てる気か!? やはり、あなたもエンと同じですね!!! そうやって、全ての世界も見殺しに――!!!」
「消させないっ!!!」
まるで遮る様にクウが大声で叫ぶと、罵倒を浴びせていたウィドの口が止まる。
「シャオも、そいつも消させねぇ!!! 俺の手が届くのなら、もう誰も失わせないっ!!!」
まるで根拠も根も葉もない言葉だが、それでもクウの真剣な眼差しにウィドだけでなく誰もが釘付けになってしまう。
やがてクウはウィドが掴む手を取ってそっと下ろし、申し訳なさそうに頭を下げた。
「今は、時間が無いんだ…少しだけこいつを借りる」
「…勝手にしろっ!!」
無理やりクウの手を振り払うなり、目を合わせまいと背中を向ける。
そうして拒絶の姿勢を見せつつ、ウィドは静かに胸に手を当てた。
(今、胸に起こった得体の知れない感覚…――何だったと言うんだ?)
クウを罵倒していた際に起こった、胸の中でザワリと揺れた不気味な感覚にウィドは不安を覚える。
彼が一人思考に耽っている間に、シーノはシャオの額に指を当てて目を閉じる。
それから僅か数秒で、シーノは目を見開いた。
「これは…!?」
「どうしたの?」
成り行きを見ていたペルセが問うと、シーノはルキルに顔を向けて答えた。
「…似ているんだ、今の彼と症状が」
「どういう事だ?」
訝しげにリクが聞くと、シーノは全員を見回しながら話し出した。
「二人には、共通して存在している記憶がある。一つは彼ら自身が刻んだ本来の記憶、次に他人の記憶、そして…何者かに植え付けられた偽の記憶」
「偽の記憶!?」
信じられないとばかりにカイリが叫ぶと、シーノは頷いて続きを話す。
「二人にある記憶が壊れて…内に潜む何かが、彼らの意識を喰らって目覚めようとしてる」
「内に潜む、何か…」
「目覚めたら、どうなっちゃうの…?」
アクアが顔を強張らせる隣で、恐る恐るヴァイが質問する。
「少なくとも…彼らは彼らで無くなる。心が消えるから、もう二度と…」
シーノの口から宣告された最悪の答えに、誰もが息を呑む。
そんな中、ウィドは血の気が引いた顔で彼に掴みかかった。
「助ける方法はあるんですか!?」
「あるには、ある。僕の力で彼らの記憶から作られる夢の世界に入り込んで、記憶に住み着いている意思を倒せばいい」
「「だったら俺(私)もっ!!」」
助けたい思いは一緒なのか、クウとウィドが申し出る。
今すぐにでも行動を起こそうとする二人に、シーノは辛そうに頭を下げた。
「ごめん。意気込んでいる所悪いんだけど、いろいろ問題があって…」
「問題…?」
不安げにヴェンが首を傾げると、すぐにシーノが説明を始めた。
「まず、夢の世界と言っても本人が核となって支配している。例え親しい人でも、その世界では僕らは招かれざる客だ。行動は制限されるし、下手な行動をすれば牙を向く危険な場所だ」
分かりやすく言い換えて説明すると、外との関わりを持たない他国に何の許可も無く踏み込む行為をする。その国民でない自分達は国中から怪しまれ、妙な行動をしないか監視される。そんな状態で敵と判断される行動を取ってしまえば、国全体が襲い掛かる事になってしまう。そうなれば、どんなに強い人でも一溜りも無いだろう。
こうして夢の世界の危険性を教えるていると、何故か顔を逸らした。
「これが一番大きな問題だけど…――さすがの僕も、二人同時に夢に侵入するのは不可能なんだ…ルキルかシャオ、どちらか一人しか入る事が出来ない」
「それって…どちらか一人しか助けられないって事なのか!?」
「…ッ…!?」
意味を理解してテラが叫ぶと、クウの表情が強張る。
彼が怯んだ隙に、素早くウィドが前に出た。
「だったら――!!」
「あるわ。二人を助ける方法」