CROSS CAPTURE64 「衝突・2」
その時、聞き覚えのある女性の声が部屋中に響く。
見ると、城下町にいたはずのイリアドゥスが扉の前に立っていた。
「母様!」
「イリア!?」
思いがけない人物の登場にシーノとクウが声をかける中、イリアドゥスは淡々と話し出す。
「シーノがどちらかに侵入してる間に、もう一人の方は私が夢の世界に侵入する。そうすれば同時に救出が行えるわよ」
「そ、そんな事出来るんですか…?」
「私は神理よ? 記憶があれば、どんな力も扱える」
唖然とする王羅に平然と言い切ると、イリアドゥスは全員を見回した。
「さて。私は誰と、どちらの夢に侵入すればいいのかしら?」
まさに救いの女神が降り立った瞬間に、歓喜ではなく沈黙が過る。
しかし、ただ一人クウだけはイリアを見つめ返していた。
「俺はシャオの方に行く。イリア、頼めるか?」
「なっ!? お前ぇ!!」
別の女性と共に行動するのが許せないのか、ウィドは再びクウに掴みかかる。
だが、逆にクウは呆れた目で見返した。
「勘違いすんなよ。お前はイリアの事を知らないし、今のお前じゃ俺なんかよりも罰当たりな事しでかす可能性が高い。当然の判断だろ」
「何訳の分からない事を!!」
「それに、行くのは俺とイリアだけって何時言った?」
「え…?」
逆に質問を返されてウィドが動きを止めていると、クウは近くにいたイオンの腕を掴み上げた。
「イオン、てめえも来い」
「僕もですか!? でも、僕が言ったって何も…!!」
「だったら、ここでグダグダ落ち込んでおくか? 誰かに任せっきりにして、自分はただ待つか? 俺は別にそれでもいいけどよ…――てめえはそれで納得するのか?」
「それは…」
「迷うくらいなら俺と一緒に来い。止まってたって…何も解決しない」
それだけ言うと、何処か悲しげに顔を逸らす。
シャオだけでなく自分の事を思って同行させようとしている。イオンがその事に気付いていると、ペルセがクウを見上げて来た。
「私も、駄目でしょうか?」
「ペルセ!?」
同行の申し出にイオンが驚いていると、イリアドゥスは軽く頷いていた。
「私は構わないわ。大人数で行っても邪魔になるけど、少なすぎても心許無い。三人ぐらいなら丁度いいわ」
「決まりだな。んで、そっちはどうする気だ?」
クウがウィドを見ると、不満げにルキルへと顔を向けた。
「どうするも何も、私一人でもルキルを救いに――!!」
「いや…俺も行く」
意地でも助けようとするウィドに、何とリクが同行を申し出る。
いきなり飛び出した話に、思わずカイリは驚いた。
「リク!?」
「夢の世界では、あいつの記憶を巡るんだろ。だったら、もうあんたに隠し事は出来ないからな」
「隠し事?」
オウム返しにテラが聞き返すと、何を思ったのかウィドは軽く溜息を零してリクへと向かい合った。
「それは…――ルキルがあなたの『レプリカ』だと言う事ですか? それとも、元はあなたの敵だった事ですか? まあ、両方…と言うのもありえますが」
「レプリカ!?」
「敵!? リク、どう言う事なの!?」
ウィドの口から語られた思いがけない事実にビラコチャとカイリが詰め寄る中、リクは一人茫然としていた。
「知ってたのか…!?」
「ルキルとはもう長い事一緒に暮らしているんです。何も知らない訳がないでしょう…あなたとルキルの関係は、とっくの昔に全て聞かせて貰っているんですよ」
そう語ると、再びルキルを優しげに見つめる。
「彼は【忘却の城】と言う場所で《機関》の手によって作られたあなたの人形(レプリカ)である事。ナミネと言う少女によって記憶を植え付けられた事も、あなたに勝負を挑んで負けた事も…全部、知ってましたよ」
「そこまで、知ってて…どうして…?」
「さあ、どうしてでしょうね? 自分でも分かりませんよ」
自傷気味に笑みを浮かべるウィドにクウですらも押し黙る中、成り行きを見守っていたオパールがゆっくりと口を開いた。
「ごめん…話戻すけどさ、こいつの中には二人で行く気?」
「…そうなるな」
「なら、あたしも行くっ!!」
オパールが叫ぶように同行を申し出るので、リクは半ば怒る様に向かい合った。
「っ…!? オパール、本気って言ってるのか!? 話を聞いただろ、危険なんだぞ!?」
「だから何よ!! そんな場所に二人で向かう方がよっぽど危険じゃない!? とにかく、あたしも一緒に行く!! 危険とか、あんたのレプリカとか…まったく関係ないんだから!!」
「だけど…!!」
頑なに同行しようとするオパールをどうにか思い留まらせようとするリクだが、その前にクウは話を進めた。
「メンバーも決定したな。で、こいつらの夢にはどうやって行くんだ?」
「勝手に話を進めるな!!」
リクが思わず怒鳴り付けるが、逆にクウとウィドは冷めた目で睨みつけた。
「俺達には時間が無い。ここでどうこう言ってる暇なんて無い筈だ、違うか?」
「それは…!」
「文句があるのなら、付いてこなくていいです。今は一刻を争うんですから」
「くっ…!」
二人の正論にリクも渋々身を引くと、シーノはポケットを漁りながら今後の計画を話した。
「とりあえず、二人を別室に移そう。そこでみんなには、コレを飲んでもらう」
そう言うと、ポケットから幾つもの小瓶を取り出す。よく見ると、小瓶の中には透明な液体が入っている。
すぐにシーノが一人一人に瓶を手渡すと、オパールが小瓶の中にある液体の正体に気付いた。
「これ、薬?」
「睡眠薬さ。眠らないと、夢にはいけないだろ?」
苦笑しながら薬を渡した理由を答えると、イリアドゥスが指示を出した。
「とにかく二人を別々の空き部屋へ。シーノ、準備は任せるわ」
「はい。夜までには準備を終わらせるから、それまで各自城の中で待機してて。準備が終わったら呼びに行かせるから」
シーノの指示を合図に、ルキルとシャオを救出する為の準備が始まった。