CROSS CAPTURE65 「新たな目標と仲間」
「ちょっといい?」
城の下層にある大広間。そこで夢の世界に行かないメンバーであるテラ、アクア、ヴェン、カイリが思い思いに過ごしていた時、オパールから声をかけられた。
「あたし達があいつを助けに行ってる間、皆にはこれを作って欲しいの」
そう言うと、数枚のレポートを取り出す。
すぐにアクアが受けとり、残りの人にも見せる様にレポートの内容に目を通した。
「これは…」
「これもデータを解析してて見つけたの。シルビアが残した追加データの一部」
「3つの素材で作られる剣―――【心器】か…」
書いてある内容を見ながら、テラは難しい顔になる。
レポートに書いてあるのは、【心器】と呼ばれる剣の製造方法についてだ。ある3つの素材、鍛冶師にしか分からない専門的な用語。更に仕上げの工程には素材以外の『光』が必要と書かれてある。
少々複雑なレシピに誰もが首を傾げていると、オパールが不安そうに胸を押さえた。
「データの内容だと、本来シルビアを持っていた異世界のウィドはその剣を使っていたらしいの。今は何の武器も持っていないから、この剣を作ってあげたいんだけど…」
「でも、どうしてそんな事を? 今の彼は憎悪によって――」
「分かってる。最初はあたしも危険だって思って言わない事にした」
アクアの言葉を遮ると、オパールも胸の内にある不安を明かす。
ウィドにとって、クウは消したいほど憎い存在。それでも事を起していないのは、武器を失っているからだ。魔法を使わずに剣一つで戦ってきたからこそ、今の彼は何も出来ない無力な存在となっている。
逆を言えば…何かしらの武器を手にしてしまえば、すぐにでもクウに襲い掛かるだろう。
「でも…さっきのクウを見て思ったの。あいつがああして向き合えば、ウィドの憎しみ消えるんじゃないかって…」
ウィドの中にある憎しみが消えない限り、争いの種は生まれる。封じる事が出来たとしても、問題を先送りしただけで根本的な解決にはなってない。
そんな中、最も忌み嫌っているクウがウィドの憎しみを揺らがせたのだ。自分達が頑張れば完全とは行かないが、ある程度憎悪を消す事が出来るかもしれない。
このオパールの考えに、カイリは賛同するように頷いた。
「私も何となく分かるよ、そう言うの」
「とにかく、これは俺達に任せといて!」
「ああ、ここにいる人達にも協力してくれるように頼もう」
「ええ。彼も大事な仲間だもの」
カイリだけでなく、ヴェン、テラ、アクアも協力してくれるようで力強く頷く。
自分と同じように仲間を信じる彼らに、オパールも頷き返した。
「ありがと。あたしもリクと一緒に出来るだけウィドの憎しみを消すようにするわ…じゃ、あたし準備があるから!」
そう言って、オパールは【心器】のレシピを託してその場から去った。
場所は変わり、レイアが休養する部屋。
その扉の前で、クウは緊張した面付きで軽くノックした。
「あ〜…レイア、入るぞ?」
返事を待たず、クウは扉を開けて部屋の中に入る。
そうしてレイアを見ると、ベットから上半身を起こした状態でそっぽを向けている。
何故か顔を合わせようとしないレイアに、心の何処かに痛みを感じつつもクウは近づきながら声をかけた。
「えーと、ごめんな? こんな時間になって…」
「…カ…」
その時、微かにレイアから呟きが聞こえる。
「――バカ…クウさんのバカァァァ!!!」
突然クウを怒鳴るなり振り返ったレイアの顔は、表情を歪ませて睨んでいる。
怒っていると分かり思わずクウが距離を取ると、レイアは涙目になって八つ当たりとばかりに小さな火の玉や氷の塊などのさまざまな初級魔法を放ってきた。
「ちょ!? い、いででっ!! 悪かった!! 本当に悪かった!! 何て言うか、その心の整理だったり問題が起こったりで見舞いに行く暇が取れなくて!!」
「そう言う事で怒ってるんじゃありません!!」
魔法を避けたり掠ったりしながらクウが必死で謝っていると、レイアはピシャリと怒鳴り付ける。
そのまま攻撃の手を止めると、肩を震わせて顔を俯かせた。
「他の方に聞きました…クウさん、シャオさんを助ける為に無茶しに行くんですよね…」
「無茶しにって…」
「だって!! これまでクウさんが無傷で済んだ事がありますか!? 今回の旅だって私や誰かを庇ったり助けに入って何度大怪我を負った事か…!! 昨日だって、すごく、心配したんですから…!!」
「レイア…」
ボロボロと涙を零して心配するレイアに、クウも居た堪れない気持ちになる。
何かある度に怪我を負ってはレイアに治してもらう。もはや習慣にもなっていたそれは、多少なりとも彼女に不安を与えていた行動だったのかもしれない。
「私だけ、倒れて何も出来なくて…だけど、明日から頑張ろうって……そう思っていたのに…クウさん、どうして遠くにいっちゃうんですか…? クウさんの傍にいられないなら…酷い怪我を負っても……私、治せないじゃないですか…――クウさんに何かあっても…私、何も…っ!!」
泣きながら胸の内にある寂しさや不安を吐き出すレイアを、クウは優しく抱きしめた。
「クウ、さん…?」
「大丈夫だ、こっちには女神様が付いてる。ちゃんと帰るさ…まだまだやらなきゃいけない事が沢山あるんだ」
そう優しく言い聞かせると、宥める様にレイアの頭を撫でる。
段々と穏やかな顔になるのを見て、クウの中にある迷いが罪悪感に変わる。
胸に小さな鈍い痛みを感じていると、急に腕の中にいたレイアはギュっと抱き返した。
「クウさん…大好きです」
「何だよ、突然…」
「スピカさんに、負けたくありませんから…」
「レイア…」
自分の気持ちを知っているレイアに、クウは何も言葉を返す事が出来なかった。
永夜の世界【タルタロス】。常夜に際立つ町は輝き、消えることを知らない。
この町では少し前に起きたカルマ達との戦闘で大規模な損傷を負い、今もあちこちで復興作業が行われている。
そんな町の広場の一角でアガレス、アルガ、ティオンが今後における重要な仲間であるソラを救出の為に必要な協力者を待っていた。
「アガレスさん、お久しぶりですっ!」
その時、ある少年がアガレスに声をかける。
ショートの金髪に青い瞳をした少年で、服装は白のシャツに黄色と青のラインが入っており、黒の長ズボンを着ている。
ニコニコとこちらに笑顔を向ける少年に、アガレスも笑みを返した。
「急な誘いで済まないね…――ルシフくん」
「あたしもいるよ」
アガレスが少年――ルシフに挨拶すると、少女の声が返ってきた。
奥の方を見ると、腰まであるストレートの黒の髪に黒み掛かった青の瞳の少女。服装は黒の腹出しのインナーに、膝元まであるスパッツ。腰には白の布を巻いている。
ルシフとは対象に不満げにアガレスを睨む少女に、思わず苦笑が漏れた。
「おや、どうしてフレイアさんまでここに?」
「すみません…アガレスさんに呼ばれた事、姉さんにバレてしまって…」
「でぇ? いきなりルシフの修行を休止にするのはいいとして…何の前触れもなくルシフを呼び出すわ、大規模に戦闘したようなこの町の惨状は何だってんだい? あんた、あたしの双子の弟に危険な事させるつもりじゃないだろうねぇ…!?」
よっぽどアガレスを目の敵にしているのか、少女――フレイアが睨みながら拳を鳴らす。
だが、そんな鋭い視線と殺気をアガレスは笑顔で受け流す。この一髪即発にルシフがオロオロとする中、話を進めようとアルガが声をかけた。
「この子が?」
「えぇ…彼は闇による耐性が非常に強いんだ。恐らく、彼の中にある【カオス】の力のおかげだろう」
「【カオス】?」
「アガレスさん…あの、この人達は…?」
疑問を浮かべるアルガとティオンに、不安そうにルシフはアガレスを見る。
フレイアはルシフを守る様にキッと二人を睨むと、アガレスが優しく諭した。
「フレイアさん、そんなに力まなくても大丈夫だ。ルシフくんも怯えなくていい。彼らは私の仲間だ、君を差別したりしない」
「…それならいいさ」
「分かりました…」
「あの、出来れば詳しい説明を聞きたいんだけど…」
フレイアとルシフが警戒を解くと、訳が分からずティオンが質問を投げつける。
すると、アガレスは軽く考え込んだ。
「そうだな…ここは、論より証拠と言った方が良いだろう。ルシフくん、シンクロは出来るかい?」
「ハ、ハイっ!! 少しの間なら大丈夫です!!」
緊張した面付きでルシフは答えると、すぐに目を閉じて瞑想する。
直後、ルシフの足元から闇が噴き出て彼を包み込む。
そのまま闇が払われて現れたのは、悪魔を思わせる異形な姿だった。
「こいつは…!?」
「これが【カオス】さ。あたしの弟ルシフは、カオスの魂を持ってこの世界に生まれた存在なんだ。あたしも同じ時間に一緒に産まれた双子だってのにね…」
姿を変えたルシフにアルガが驚くと、フレイアは淡々と説明する。
生まれた時から持っていた強大な力。それ故、ルシフは幼い頃から苦悩を強いられてきた。姉として、双子としてその辛さを分かち合う事も出来ずに。
「なるほど…姿を変えただけなのに凄い闇の力だな…!」
「ええ…これなら、闇の世界でも耐え切る事が出来そうね」
「それ故、カオスの力は強大です。私に出会う前は、ルシフくんはこの力を抑え込んで溜め込むしか出来なかった。だから、毎回何かある度に意思を乗っ取られて暴走を起こしていたんです。今は私の指導の下で力を扱う方法を学んでいるので、ある程度は扱えます」
「その方法をルシフから聞いた時は、ブチ切れて何発かこいつをぶん殴ってやったけどね」
((一体どんな修行を行ったの(たんだ)…?))
そうやってアガレスとフレイアの説明に半神の二人が疑問を浮かべている間に、再びカオスに変わったルシフに闇が包まれる。
やがて元の少年の姿に戻ると、ルシフはアガレスに目を向けた。
「それでアガレスさん。僕は何をすればいいんですか?」
「ルシフくん。ここに来る前に説明はしたが…これから私と共に行く場所は、簡単には帰って来られない非常に危険な場所だ。それでも、ある少年を助けるには君の力が必要なんだ」
そう語りかけると、アガレスはルシフに向かって右手を差し出した。
「出来れば、君に協力して欲しい。いいかな?」
このアガレスの誘いに、ルシフは迷うことなく大きく頷いた。
「…はい! それが、僕に出来る事なら!」
「頼もしい答えだ。では…行こうか」
アガレスの言葉を合図に、アルガとティオンが心剣を取り出して地面に突き刺す。
そうして異世界へ向かう為の魔法陣を出現させ、眩い光を発光させる。
次元の違う向こう側の世界へ行こうと、ルシフはアガレスの手を握――ろうとした所で、申し訳なさそうにフレイアを見る。
このルシフの視線の意味を瞬時に理解し、フレイアはやれやれと肩を竦めた。
「あたしは留守番すればいいんだろ…分かってるよ、それぐらい」
「ごめん、姉さん…」
「気にする事ないさ――いいかい!? うちのルシフに傷一つでも付けたら誰であろうと容赦しないからね!! 覚えときなっ!!」
指を突きつけて見送るフレイアに、ルシフだけでなくアガレスも小さく笑う。
姉の声援を受けて、ルシフは差し出されたアガレスの手を掴む。
同時に魔方陣は目が眩むほどの閃光を放ち、フレイアだけ残して消えてしまった。
■作者メッセージ
皆さん、お久しぶりです。NANAです。
今日からようやく自宅でネットを繋げられ、こうして投稿しました。ネカフェで投稿も出来たんですが、エクスプローラが危ないとニュースでの呼びかけに不安を覚え、極力避ける事にしまして。
ほぼ一ヶ月投稿不可能の状態だったので、6月で一気に取り返せればと思います。
今日からようやく自宅でネットを繋げられ、こうして投稿しました。ネカフェで投稿も出来たんですが、エクスプローラが危ないとニュースでの呼びかけに不安を覚え、極力避ける事にしまして。
ほぼ一ヶ月投稿不可能の状態だったので、6月で一気に取り返せればと思います。