CROSS CAPTURE69 「夢の世界へ、純粋な影」
それから夜も更けた時刻、シーノ達の準備がようやく出来た。
使用人の言伝を聞き、リク達は大部屋に集められる。部屋に入ると、ルキルの眠るベットの他に、自分達が眠る用のベットが三つ存在している。
いよいよ夢の世界への侵入に、部屋の中央にいたシーノが声をかけてきた。
「さて――準備はいいかい?」
「ええ…それで、この薬を飲むだけでいいのですか?」
「もちろんさ。ああ、その場で飲んで貰っても構わないよ。眠った後は三人共ベットに運んでおくから」
ウィドが先程貰った薬を見せると、シーノが笑いながらその後の事を話す。
それを聞き、リクはオパールに軽く目配せする。
「それじゃあ…行くぞ」
「うん…!」
オパールが軽く頷くと、二人も薬を取り出す。
覚悟を決めると同時に、三人は一斉に睡眠薬を飲み干した。
「三人共眠ったわね」
丁度その頃、別室の大部屋でイリアが静かに呟く。
彼女の前には、薬によって眠ったクウ、イオン、ペルセが床に倒れていた。
「まさかこんな事になるなんてな…」
「イオンもペルセも大丈夫かな…?」
夢の世界へと行くイオン達の見送りに来た、仲間であるオルガとアーファが心配そうに呟く。
そんな彼らの中に、同じくイリアを見送る為に来たヴェリシャナがいた。
「お母様…」
「大丈夫、必ず戻って来るわ。みんな、彼らの事をよろしくね」
心配するヴェリシャナにそう言って、ベットで眠るシャオに向き合う。
そのまま額に指を添えて光らせると、後を追うように意識を夢の世界へと沈めた。
「――なるほどな、お前達の事情は分かった」
一方、アイネアスの執務室では、テラ、ヴェン、アクア、カイリがオパールから貰った剣の製造の協力を仰いでいた。
全てを話してアイネアスが考え込むと、少しして大きく頷いた。
「いささか不安な部分はあるが、お前達が決めた事だ。私達も出来るだけ協力はしよう」
「ありがとうございます!」
交渉が成立し、アクアが頭を下げてお礼を述べる。
すぐにアイネアスは魔方陣で誰かしらと連絡を取り、物に精通しているキルレストを呼びつける。
そうして彼がやってくると、話は通しているのかキルレストはアクアに手を差し出した。
「で、剣を作るに当たって必要な素材とは何なんだ?」
「えっと…これです」
アクアではなく、持っていたカイリがレシピを手渡す。
受け取ったキルレストは、吟味するように書かれた内容に目を通していく。
「どうでしょうか?」
緊張の面付きでテラが声をかけると、キルレストは難しい表情で顔を上げた。
「これらに書かれている二つの素材は私の力で作れるが…《長年の時を過ごした朽ちた水晶の剣》だけは、どうにも出来そうにないな」
「どう言う事?」
ヴェンが首を傾げると、キルレストは軽く息を吐いた。
「水晶の剣と言うのは、恐らくアルカナの管理する【心剣世界】に存在する役割を失った心剣の事だろう。だが、あの世界では剣の形をしている物はあまり見かけない。ましてや、朽ちた状態ともなれば見つけるには骨がいる…」
「それでも、可能性があるのなら私達は探し出します」
「俺もアクアと同じです。大事な仲間の為にも、ここで引く訳にはいきません」
見つけるのが難しい素材だと聞かされても尚、アクアとテラは探し出す決意を見せる。
そんな二人に感化される様に、ヴェンも一歩前に出た。
「じゃあ、俺も行く!」
「「ヴェン!?」」
突然の言葉に保護者でもある二人が驚いていると、ヴェンは不満げに頬を膨らませた。
「何時までも子ども扱いしないでよ! 俺だってずっと戦ってきたんだし、今日だって他の人と鍛錬だってしたんだからさ!」
「でも…」
大丈夫な事をアピールするが、アクアは不安を見せる。
幾ら素材を見つけるだけとは言え、ここは自分達の知らない世界。何が起きるか分からない分、出来ればヴェンには安全なこの場所に残って貰いたい。
そんなアクアの不安を余所に、テラは衝撃の言葉を放った。
「いいじゃないか、アクア。ヴェンも連れて行こう」
「テラ!?」
ヴェンを連れていく事に迷いがないテラに、思わずアクアが叫ぶ。
しかし、テラは狼狽える事も無く笑って見せた。
「例え何かあっても、俺達がヴェンを守ればいいだろ? 俺達三人なら、きっと何とかなるさ」
自分達の絆を固く信じている言葉に、何時しかアクアは軽く溜息を吐いた。
「…そうね、ヴェン一人で行く訳じゃないものね」
「やった! テラ、ありがとう!」
「その代わり、無茶はするなよ?」
「もちろん!」
信じてはいるがちゃんと心配もしているようで、最後に釘を刺すテラ。
それに対しヴェンが笑顔で頷くと、執務室の扉が開く。
「私も…いいですか?」
同行を求める声に、全員が振り返る。
開かれた扉には、部屋で休んでいる筈のレイアが立っていた。
「レイア!? 起きて大丈夫なの!?」
「はい。おかげさまで良くなりました」
驚くカイリに一つ頷きながら、何処か冷静に言葉を発する。
そのまま胸に手を当てると、目を伏せて顔を俯かせた。
「私はエンさんとの戦いだけじゃなくて、この世界に来てから何も出来ずに迷惑ばかりかけていましたから…――もう、見ているだけなのは嫌なんです!」
「レイア…」
「クウさんだって、今も誰かを助けようとしている! 私も、皆さんのお役に立ちたいんです!」
ヴェンが声をかけると、レイアは心の内を明かす様に叫ぶ。
この彼女の思いに、テラとアクアは顔を見合わせるとゆっくりと頷き合った。
「…いいわ、レイア。私達と一緒に行きましょう」
「だけど、無理はしないようにな?」
「ハイ…!」
同行が許可され、レイアは真剣な表情で頷く。
こうして話が纏まっていく中、アイネアスは軽く手を叩いて注目させた。
「意気込むのはいいが、今日はもう遅い。この件は明日、他の者達とも話し合おう…どちらにせよ、あの広い場所で素材を見つけるにはそれなりの人手がいる。四人では足りなすぎるからな」
今後の事も決まり、それぞれが明日への思いを胸に秘める。
そんな彼らを、執務室の窓から覗き見ているモノがいた。
首に丸い水晶を付けた、顔にノーバディの刻印を付けた梟が。
「あなたの言う通り…――彼らを張り込んでいて正解でした」
ビフロンスから――いや、どの世界からも遠く離れた場所にある大昔の戦争の跡地が残る荒野の世界。
砂埃の舞う中、クォーツは手に持つ水晶に映し出される映像を眺めて軽く横に視線を向ける。
その先には、セヴィルが悠然とした表情で腕を組んで笑っていた。
「だから言っただろう? 絆はそう簡単には壊れない…寧ろ、強固されようとしている」
「みたいです。キーブレード使い達がそれぞれ力に目覚める中、更に強化される人が増えてしまえば私達に取って厄介極まりないでしょう」
「そこに気付けただけでも良かっただろう。それにしても、神の力を持つ者達が大勢いる中で良くこのノーバディは気づかれないな」
「ノーバディの首にかけた水晶の力です。【浄化・純粋】の効果を引き出す事で、気配を遮断させるだけでなく視界にも映らない様にしているので」
クォーツがタネを明かすと、徐に手の内にある監視用の水晶を消し去る。
そうして踵を返す様に移動をするので、フッと笑ってセヴィルはクォーツに声をかける。
「今から乗り込んで妨害しに行くのか?」
「そんな自滅行為などしません。彼らが動くのが明日なら…今から行動すれば、それ相当の迎え撃つ準備が出来ると言うもの。場所も特定済みですし」
「なら、俺も手伝おうか?」
キーブレードを取り出して同行を求めるセヴィルだったが、クォーツは首を横に振って拒否した。
「私一人でも大丈夫です。あくまでも、時間稼ぎが目的ですし」
「そうだな…」
クォーツの放った言葉に納得を見せるセヴィル。
話が終わると、クォーツは手を広げて闇の回廊を出現させる。行き先は彼らの言っていた【心剣世界】だろう。
やがてクォーツの姿が闇と共に消えると、セヴィルは何処となく乾いた空を仰いだ。
「最低でも――あと数日。鍵を使ってシルビアの心の扉を開いたと言うのに…絆の力と言うのは、やはり強い」
カルマもエンも全てを手に入れた。だが、未だに事を起せない。
こちらのχブレードの融合を終わらせない限り……融合を不完全にする、シルビアの絆を断ち切らない限り。
「いや…もしかしたら、愛の力と言うべきかもしれないな」
クスリと一人笑うと、一人の青年を思い出す。
親友のように闇の力を行使せずともいろんな女性から愛される、自分の信念を取り戻したであろう親友の弟子を。
■作者メッセージ
バトン交代を承りました、NANAです。今回は導入部分でしたが、次からようやく夢の世界編を書いて行きます。
尚、素材集めの方は夢さんにお任せしています。前にも書いたかもしれませんが、私のパートはどうしても長くなってしまうので、恐らくは夢さんパートと並行しての作業になるかと思います。例えで言えば『3D』でのソラ・リクパートを交互にドロップして進める感じになるかと。
ちなみに、話の流れを断言できないのはその辺の事をまだ話しあってないからです(オイ
尚、素材集めの方は夢さんにお任せしています。前にも書いたかもしれませんが、私のパートはどうしても長くなってしまうので、恐らくは夢さんパートと並行しての作業になるかと思います。例えで言えば『3D』でのソラ・リクパートを交互にドロップして進める感じになるかと。
ちなみに、話の流れを断言できないのはその辺の事をまだ話しあってないからです(オイ