メモリー編6 「パンドラの箱」
「なっ――なんなんだ、お前はっ!?」
城のフロアの扉を開けて前へと進むリクだが、そこにいた人物に驚きを見せる。
そんなリクの様子に、それは自傷気味に笑いながら近づく。
「驚いたか? そりゃそうだよな――自分と同じ顔だからな!」
リクと同じ格好をしたレプリカはそう言うと、向かい合うように距離を置いて足を止める。
警戒心を露わにするリクに、レプリカは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「正体を教えてやるよ。俺はな、ヴィクセンに作られたお前のレプリカさ」
レプリカが正体をバラすと、リクは警戒心を緩めて軽く目の前の自分を睨みつけた。
「俺の偽物か」
「決めつけるなっ! 自分が本物だからって、いい気になりやがって!」
リクの言葉が癪に障ったようで、レプリカの機嫌は明らかに悪くなる。
「俺とお前は姿も力も同じさ。でも、一つだけ決定的な違いがある!」
確かな自信を放ち、鋭くリクへと指を突き付ける。
レプリカの言う事に思わずリクが眉を潜めると、不敵な笑みを浮かべた。
「俺はお前みたいに臆病じゃない」
「俺が、臆病だと!」
自分のプライドを傷つける言葉にリクが怒鳴ると、レプリカは笑いながら話を続ける。
「お前は闇に怯えている。自分の中にある闇が、怖くて怖くて仕方ない!」
「うっ――!」
図星を指され、リクが僅かに呻く。
これに少しだけ満足したのか、レプリカは得意げに胸に手を当てる。
「でも俺は違うぜ。闇を受け入れ、闇の力を自由に使いこなしている」
そうして全身を闇で包み込むと、一瞬でさっきの黒い服へと変わる。
すると、右手に闇を纏わせて剣を取り出し、リクに向かって構えた。
「そうさ…お前は俺に勝てないっ!!」
レプリカの口から放った宣言を皮切りに、二人の戦いが始まる。
だが、目の前で起きる戦いをオパールは複雑そうな表情を浮かべて目を逸らしていた。
「変な感じ…何か、直視できない」
「ああ、俺もだ」
気持ちは一緒なのか、リク本人も過去の戦いからオパールへと顔を向けている。
「これ、あいつと…ルキルと初めて会った記憶、だよね?」
「そうだ」
「でも意外。あんた、平気で闇の力使ってるのに…怖かった時期なんてあったんだ」
「そりゃあな」
何処かぶっきらぼうに言うと、あからさまに顔を歪めるリク。
地雷を踏んだと感づき、オパールは小さく頭を下げる。
「リク…ごめ――」
その時、甲高い金属音が辺りに響く。
見ると、勝負がついたのかレプリカが膝を付いている。
蹲りながらレプリカが肩で息をしていると、リクが構えていた剣を下ろして叫んだ。
「おい偽物! さっき言ってなかったか『お前は俺に勝てない』って」
「ふん! 俺は生まれたばかりなんだ、これからどんどん強くなる…次に戦う時が、お前の最後だ!」
「次なんてないっ!!」
リクは駆け出すと共に、レプリカへと跳躍して一気に剣を振り翳す。
その瞬間、レプリカは闇を纏わせると共に攻撃を防ぎ、逆にリクを吹き飛ばした。
「うあっ!?」
受け身を取れずに地面に倒れ込むリクに、レプリカは立ち上がって高笑いを上げた。
「っ――はははっ!! いい気分だ、闇を操るって言うのはさ!! お前絶対損してるぜ、こんなに楽しいのに闇を恐れるなんてな!!」
痛みを堪えてリクはどうにか起き上ると、レプリカを睨みつけた。
「黙れ…!」
「ふん、怖がりのくせに強がりか? じゃあな、本物! 次を楽しみにしてな!!」
最後にそう言うと、レプリカはリクに背を向けて走り出す。
「待て――!!」
背後からリクの呼び止める声が響き――目の前の光景が消えた。
「何て言うか…結構、第一印象最悪だったのね…」
オパールが今の記憶の感想を呟くと、リクも軽く息を吐いた。
「当たり前だろ、あいつは俺のレプリカなんだ」
「でも、今は助けようとしてるじゃない」
「少なくとも、敵対する理由はもうないからな。あいつが俺を襲ったのだって――」
ここまで言うと、リクは微妙な顔つきになって口を閉ざした。
「――いや、そこは記憶を見ていけば分かる。次に行くぞ」
「あっ、待って!」
勝手に話を終わらせるなり、別の歪みへと入り込むリク。
突然の事について行けず、慌ててオパールも後を追って歪みに入った。
そこは、明かりもない薄暗い部屋。
そんな部屋に突如闇の回廊が開き、中から青い髪の青年―――ゼクシオンが苦しそうに胸を押さえ現れた。
「なんなんだ――なんなんだ、あいつは!! あんな形で闇を受け入れるとは――!」
よほど信じられない目にあったのか、ゼクシオンは苛立ちを露わにして壁を殴りつける。
ふと部屋に視線を感じたのか振り向くと、レプリカとアクセルが静かに佇んでいた。
「なっ――!」
ゼクシオンが驚いて壁に背を付けるが、すぐに冷静さを取り戻した。
「そ、そうか…レプリカですね。これをぶつければリクを倒せますね…」
こうしてリクを倒す算段を生み出すゼクシオン。
だが、ゼクシオンの考えにアクセルは何も言わない。
いや、何も反応しない。
「アクセル…?」
「本物になりたいか?」
まるでゼクシオンを無視するかのように、レプリカに向かって問いかける。
レプリカが口を閉ざしたまま頷くと、アクセルはゆっくりと笑みを浮かべた。
「だったら、本物のリクにない力を手に入れろよ。そうすれば、お前はリクでも誰でもない、新しい存在――誰かの偽物じゃない、本物の存在になれる」
「アクセル、何の話をしているのです!」
話が噛みあっておらずゼクシオンが怒鳴りつけると、ようやくアクセルはゼクシオンに目を向ける。
「見ろよ、ちょうどいい“エサ”がいるぜ」
「なにをバカな――ぬぅ、ぐおぉ…!!」
最後まで言葉を言う事は叶わず、レプリカがゼクシオンの首襟を掴んで持ち上げる。
苦しそうに抵抗をするゼクシオン、そしてレプリカが闇に包まれる。
「悪いな、ゼクシオン」
ゼクシオンからあふれ出す闇がレプリカの中へと吸収されるのを見ながら、アクセルはニヤリと笑いかけた。
「あんた知りすぎたんだよなぁ」
「ニセモノのあの力…まさか、アクセルが…」
記憶を見終わり、元の場所へ戻る。
アクセルが関わった記憶にリクが考えていると、オパールが顔を俯かせているのに気付いた。
「………」
「オパール…」
「――大丈夫。次、行こう」
短くそう言い、先へ進もうと歩き出すオパール。
「お、おい…」
「まだ二つしか見てないでしょ。そんな状態で人の事決める程、あたしは心狭くないから」
思わず手を伸ばしてリクが声をかけると、オパールは背を向けたまま腰に手を当てて話す。
「あたしの心は『まだ見なきゃ』って言ってる。全て見ないと、気が済まないって」
何処か強気にそう言うが、不意に顔を俯かせた。
「ううん…もしかしたら、探してるのかもしれない。リアの面影、アクセルって奴に。こんな事しなくても、あんたから全部聞けば済む話なのに……敵だったから、怖いの…」
不安で押し潰されるかのように、本音を吐くオパール。
アクセルを――リアの事を信じたい。しかし、突き付けるのは世界の敵と言う残酷な現実。そして、リクは勇者として彼らと敵として戦っていた。
そんな人の話を聞いてしまえば…きっと、信じている頃のリアの思い出が壊れるかもしれない。
「バカだよね、あたし! ノーバディだから、別人だからって割り切れば、楽なのに…――何でだろ、簡単に割り切れないよ…!」
そうしてリクに背を向けたまま心の内を明かすと、泣くのを堪えているのか目の部分を片手で押える。
すると、リクは徐に胸を押さえて話した。
「簡単には割り切れないさ。それが友達や大切な人と関わっているなら、尚更」
「それ…リリィの事?」
「それだけじゃないさ…」
脳裏に敵に乗っ取られた少女を思い浮かべるが、それは一瞬で別の人物へと塗り替わる。
存在してはいけないと言われていたナミネ。同じく機関の一員であり、親友のノーバディであるロクサスを。
胸の内に軽く後悔が押し寄せ、リクは軽く首を振って気持ちを追い出した。
「ほら、次に行くんだろ?」
「うん…」
―――その頃、ウィドとシーノはと言うと。
「――これ、ですよね?」
一面が白い大理石で出来た通路の奥。
ウィドの目の前には少し先の階段の上に、歪みのかかった大きな扉が存在していた。
「この気配、間違いない…これが潜在意識への入口だ」
「では、早くあの二人を呼びましょうか。こういう時、ゼロボロスの羽根があれば便利なのに…」
前に連絡用に使った黒い羽根を思い出しながら、元来た道を戻るウィド。
そんなウィドに、シーノはある質問をぶつけた。
「ねえ、ウィド。そんなにルキルの事が大切?」
「いまさら何を聞いているんですか?」
「だって、ルキルの事を思ってる割には…記憶を覗こうとしないんだなって」
シーノの何気ない言葉に、ウィドの足がピタリと止まる。
二人の間で妙な沈黙が過るが、唐突にウィドが溜息を吐いた事で破られた。
「…今は急いでいるんです。そんな暇、ない筈では?」
「急ぐとか暇とか関係ないよ。あんな記憶を見たんだ、ルキルの事をちゃんと知りたいと思わないの?」
「人は誰しも触れたくない過去を持ってる…その記憶を覗かない保証なんてないでしょう」
「ウィド…それが本音? 建前じゃないよね?」
逃げ道を作らないよう、思い切ってシーノが踏み込む。
この言葉が効いたのか、ウィドはまた口を閉ざして黙り始める。
さっきよりも長い沈黙が場を支配していると、ゆっくりとウィドが口を開いた。
「……シーノ、《パンドラの箱》と言う物を知っていますか?」
「パンドラの箱? えーと、確か…パンドラって女性が持っていた開けてはいけない災厄を閉じ込めた箱だよね? ある日、好奇心を押えられなくてその箱を開けたら箱から様々な災厄が飛び散ってしまった。それを見て慌てて蓋を閉めるけど、逆にその中に入っていた希望を閉じ込めてしまった…ってお話?」
シーノの話が合っていたのか、ウィドは一つ頷いて話を続ける。
「最後に箱の中に閉じ込めたのは、希望…もしくは未来の予兆。だけど、それは箱を開けるまで分からなかった事。その前に分かっていたのは、災厄を閉じ込めていたと言う事。だからその先の未来に怯え、女性は再び箱を開けようとしなかった」
世界に混沌を招いた箱。閉じ込めたのが希望だとしても、災厄の何かだと嫌でも勘違いするだろう。
「それに最後に残ったのが希望だとして…人によってそれは希望とはならない、全く別の物である可能性もある。それならいっそ、変わらない方が良いに決まってる……この気持ちが、揺らぐくらいなら…」
知っている。この城で何があったのかは、大体ルキルに聞いている。
記憶の歪みに足を踏み入れて、ルキルが憎んでいたソラを、リクを許せる記憶など…見たくない。
誰かを許せる光などいらない。誰かを憎む闇だけでいい、あいつを憎む闇だけを…。
「今、何て…?」
唖然としたシーノの呟きに、ウィドは我に返って口元を押える。
それからどうにか話を誤魔化そうと、冷静さを取り繕った。
「――話過ぎました。早く二人を呼びに行きましょう」
ウィドはそれだけ言うと、シーノの返事も聞かずに早歩きで二人の居る場所へと戻り出した。
城のフロアの扉を開けて前へと進むリクだが、そこにいた人物に驚きを見せる。
そんなリクの様子に、それは自傷気味に笑いながら近づく。
「驚いたか? そりゃそうだよな――自分と同じ顔だからな!」
リクと同じ格好をしたレプリカはそう言うと、向かい合うように距離を置いて足を止める。
警戒心を露わにするリクに、レプリカは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「正体を教えてやるよ。俺はな、ヴィクセンに作られたお前のレプリカさ」
レプリカが正体をバラすと、リクは警戒心を緩めて軽く目の前の自分を睨みつけた。
「俺の偽物か」
「決めつけるなっ! 自分が本物だからって、いい気になりやがって!」
リクの言葉が癪に障ったようで、レプリカの機嫌は明らかに悪くなる。
「俺とお前は姿も力も同じさ。でも、一つだけ決定的な違いがある!」
確かな自信を放ち、鋭くリクへと指を突き付ける。
レプリカの言う事に思わずリクが眉を潜めると、不敵な笑みを浮かべた。
「俺はお前みたいに臆病じゃない」
「俺が、臆病だと!」
自分のプライドを傷つける言葉にリクが怒鳴ると、レプリカは笑いながら話を続ける。
「お前は闇に怯えている。自分の中にある闇が、怖くて怖くて仕方ない!」
「うっ――!」
図星を指され、リクが僅かに呻く。
これに少しだけ満足したのか、レプリカは得意げに胸に手を当てる。
「でも俺は違うぜ。闇を受け入れ、闇の力を自由に使いこなしている」
そうして全身を闇で包み込むと、一瞬でさっきの黒い服へと変わる。
すると、右手に闇を纏わせて剣を取り出し、リクに向かって構えた。
「そうさ…お前は俺に勝てないっ!!」
レプリカの口から放った宣言を皮切りに、二人の戦いが始まる。
だが、目の前で起きる戦いをオパールは複雑そうな表情を浮かべて目を逸らしていた。
「変な感じ…何か、直視できない」
「ああ、俺もだ」
気持ちは一緒なのか、リク本人も過去の戦いからオパールへと顔を向けている。
「これ、あいつと…ルキルと初めて会った記憶、だよね?」
「そうだ」
「でも意外。あんた、平気で闇の力使ってるのに…怖かった時期なんてあったんだ」
「そりゃあな」
何処かぶっきらぼうに言うと、あからさまに顔を歪めるリク。
地雷を踏んだと感づき、オパールは小さく頭を下げる。
「リク…ごめ――」
その時、甲高い金属音が辺りに響く。
見ると、勝負がついたのかレプリカが膝を付いている。
蹲りながらレプリカが肩で息をしていると、リクが構えていた剣を下ろして叫んだ。
「おい偽物! さっき言ってなかったか『お前は俺に勝てない』って」
「ふん! 俺は生まれたばかりなんだ、これからどんどん強くなる…次に戦う時が、お前の最後だ!」
「次なんてないっ!!」
リクは駆け出すと共に、レプリカへと跳躍して一気に剣を振り翳す。
その瞬間、レプリカは闇を纏わせると共に攻撃を防ぎ、逆にリクを吹き飛ばした。
「うあっ!?」
受け身を取れずに地面に倒れ込むリクに、レプリカは立ち上がって高笑いを上げた。
「っ――はははっ!! いい気分だ、闇を操るって言うのはさ!! お前絶対損してるぜ、こんなに楽しいのに闇を恐れるなんてな!!」
痛みを堪えてリクはどうにか起き上ると、レプリカを睨みつけた。
「黙れ…!」
「ふん、怖がりのくせに強がりか? じゃあな、本物! 次を楽しみにしてな!!」
最後にそう言うと、レプリカはリクに背を向けて走り出す。
「待て――!!」
背後からリクの呼び止める声が響き――目の前の光景が消えた。
「何て言うか…結構、第一印象最悪だったのね…」
オパールが今の記憶の感想を呟くと、リクも軽く息を吐いた。
「当たり前だろ、あいつは俺のレプリカなんだ」
「でも、今は助けようとしてるじゃない」
「少なくとも、敵対する理由はもうないからな。あいつが俺を襲ったのだって――」
ここまで言うと、リクは微妙な顔つきになって口を閉ざした。
「――いや、そこは記憶を見ていけば分かる。次に行くぞ」
「あっ、待って!」
勝手に話を終わらせるなり、別の歪みへと入り込むリク。
突然の事について行けず、慌ててオパールも後を追って歪みに入った。
そこは、明かりもない薄暗い部屋。
そんな部屋に突如闇の回廊が開き、中から青い髪の青年―――ゼクシオンが苦しそうに胸を押さえ現れた。
「なんなんだ――なんなんだ、あいつは!! あんな形で闇を受け入れるとは――!」
よほど信じられない目にあったのか、ゼクシオンは苛立ちを露わにして壁を殴りつける。
ふと部屋に視線を感じたのか振り向くと、レプリカとアクセルが静かに佇んでいた。
「なっ――!」
ゼクシオンが驚いて壁に背を付けるが、すぐに冷静さを取り戻した。
「そ、そうか…レプリカですね。これをぶつければリクを倒せますね…」
こうしてリクを倒す算段を生み出すゼクシオン。
だが、ゼクシオンの考えにアクセルは何も言わない。
いや、何も反応しない。
「アクセル…?」
「本物になりたいか?」
まるでゼクシオンを無視するかのように、レプリカに向かって問いかける。
レプリカが口を閉ざしたまま頷くと、アクセルはゆっくりと笑みを浮かべた。
「だったら、本物のリクにない力を手に入れろよ。そうすれば、お前はリクでも誰でもない、新しい存在――誰かの偽物じゃない、本物の存在になれる」
「アクセル、何の話をしているのです!」
話が噛みあっておらずゼクシオンが怒鳴りつけると、ようやくアクセルはゼクシオンに目を向ける。
「見ろよ、ちょうどいい“エサ”がいるぜ」
「なにをバカな――ぬぅ、ぐおぉ…!!」
最後まで言葉を言う事は叶わず、レプリカがゼクシオンの首襟を掴んで持ち上げる。
苦しそうに抵抗をするゼクシオン、そしてレプリカが闇に包まれる。
「悪いな、ゼクシオン」
ゼクシオンからあふれ出す闇がレプリカの中へと吸収されるのを見ながら、アクセルはニヤリと笑いかけた。
「あんた知りすぎたんだよなぁ」
「ニセモノのあの力…まさか、アクセルが…」
記憶を見終わり、元の場所へ戻る。
アクセルが関わった記憶にリクが考えていると、オパールが顔を俯かせているのに気付いた。
「………」
「オパール…」
「――大丈夫。次、行こう」
短くそう言い、先へ進もうと歩き出すオパール。
「お、おい…」
「まだ二つしか見てないでしょ。そんな状態で人の事決める程、あたしは心狭くないから」
思わず手を伸ばしてリクが声をかけると、オパールは背を向けたまま腰に手を当てて話す。
「あたしの心は『まだ見なきゃ』って言ってる。全て見ないと、気が済まないって」
何処か強気にそう言うが、不意に顔を俯かせた。
「ううん…もしかしたら、探してるのかもしれない。リアの面影、アクセルって奴に。こんな事しなくても、あんたから全部聞けば済む話なのに……敵だったから、怖いの…」
不安で押し潰されるかのように、本音を吐くオパール。
アクセルを――リアの事を信じたい。しかし、突き付けるのは世界の敵と言う残酷な現実。そして、リクは勇者として彼らと敵として戦っていた。
そんな人の話を聞いてしまえば…きっと、信じている頃のリアの思い出が壊れるかもしれない。
「バカだよね、あたし! ノーバディだから、別人だからって割り切れば、楽なのに…――何でだろ、簡単に割り切れないよ…!」
そうしてリクに背を向けたまま心の内を明かすと、泣くのを堪えているのか目の部分を片手で押える。
すると、リクは徐に胸を押さえて話した。
「簡単には割り切れないさ。それが友達や大切な人と関わっているなら、尚更」
「それ…リリィの事?」
「それだけじゃないさ…」
脳裏に敵に乗っ取られた少女を思い浮かべるが、それは一瞬で別の人物へと塗り替わる。
存在してはいけないと言われていたナミネ。同じく機関の一員であり、親友のノーバディであるロクサスを。
胸の内に軽く後悔が押し寄せ、リクは軽く首を振って気持ちを追い出した。
「ほら、次に行くんだろ?」
「うん…」
―――その頃、ウィドとシーノはと言うと。
「――これ、ですよね?」
一面が白い大理石で出来た通路の奥。
ウィドの目の前には少し先の階段の上に、歪みのかかった大きな扉が存在していた。
「この気配、間違いない…これが潜在意識への入口だ」
「では、早くあの二人を呼びましょうか。こういう時、ゼロボロスの羽根があれば便利なのに…」
前に連絡用に使った黒い羽根を思い出しながら、元来た道を戻るウィド。
そんなウィドに、シーノはある質問をぶつけた。
「ねえ、ウィド。そんなにルキルの事が大切?」
「いまさら何を聞いているんですか?」
「だって、ルキルの事を思ってる割には…記憶を覗こうとしないんだなって」
シーノの何気ない言葉に、ウィドの足がピタリと止まる。
二人の間で妙な沈黙が過るが、唐突にウィドが溜息を吐いた事で破られた。
「…今は急いでいるんです。そんな暇、ない筈では?」
「急ぐとか暇とか関係ないよ。あんな記憶を見たんだ、ルキルの事をちゃんと知りたいと思わないの?」
「人は誰しも触れたくない過去を持ってる…その記憶を覗かない保証なんてないでしょう」
「ウィド…それが本音? 建前じゃないよね?」
逃げ道を作らないよう、思い切ってシーノが踏み込む。
この言葉が効いたのか、ウィドはまた口を閉ざして黙り始める。
さっきよりも長い沈黙が場を支配していると、ゆっくりとウィドが口を開いた。
「……シーノ、《パンドラの箱》と言う物を知っていますか?」
「パンドラの箱? えーと、確か…パンドラって女性が持っていた開けてはいけない災厄を閉じ込めた箱だよね? ある日、好奇心を押えられなくてその箱を開けたら箱から様々な災厄が飛び散ってしまった。それを見て慌てて蓋を閉めるけど、逆にその中に入っていた希望を閉じ込めてしまった…ってお話?」
シーノの話が合っていたのか、ウィドは一つ頷いて話を続ける。
「最後に箱の中に閉じ込めたのは、希望…もしくは未来の予兆。だけど、それは箱を開けるまで分からなかった事。その前に分かっていたのは、災厄を閉じ込めていたと言う事。だからその先の未来に怯え、女性は再び箱を開けようとしなかった」
世界に混沌を招いた箱。閉じ込めたのが希望だとしても、災厄の何かだと嫌でも勘違いするだろう。
「それに最後に残ったのが希望だとして…人によってそれは希望とはならない、全く別の物である可能性もある。それならいっそ、変わらない方が良いに決まってる……この気持ちが、揺らぐくらいなら…」
知っている。この城で何があったのかは、大体ルキルに聞いている。
記憶の歪みに足を踏み入れて、ルキルが憎んでいたソラを、リクを許せる記憶など…見たくない。
誰かを許せる光などいらない。誰かを憎む闇だけでいい、あいつを憎む闇だけを…。
「今、何て…?」
唖然としたシーノの呟きに、ウィドは我に返って口元を押える。
それからどうにか話を誤魔化そうと、冷静さを取り繕った。
「――話過ぎました。早く二人を呼びに行きましょう」
ウィドはそれだけ言うと、シーノの返事も聞かずに早歩きで二人の居る場所へと戻り出した。
■作者メッセージ
【パーティチャット】(シャオの世界)
リズ「シャオー、久しぶり! 元気にしてた!」
シャオ「リズ、何でここに!? って言うか一人!?」
リズ「そりゃあ任務の帰りだもん。それより――」(何かを話している)
クウ「あの子…確かにシャオの友達だったんだな」(記憶の幻影を見ながら)
イオン「あの女の子、知ってるんですか?」
クウ「ああ、リズって言うんだ。ある事件に巻き込まれた時に、妙な奴らに連れ去られそうになった所を俺が助けてな。結構可愛い子だったぜ〜、何て言うかこう、儚くて守ってやりたいって感じが――」
リズ「おらぁ!! シャオ待ちやがれーーーーーー!!! あんたなら耐えきる、って言うか耐えきろぉぉぉーーーーー!!!!!」(特大級の光の柱を打ち込む)
シャオ「うぎゃああああああああああ!!!??」(見事に攻撃に巻き込まれる)
イオン「…守って、やりたい? あんな子を?」(ジト目)
クウ「い、いや、その…! 俺が会った時はだな、もっとこう怯えて――!」(滝汗)
シャオ「もう…ダメ…!」(黒焦げ状態)
リズ「なにこれぐらいで倒れてるの!! まだ(私の新技の)特訓は始まったばっかりじゃあ!! 次は昨日編み出した風の魔法よ!!! 全力で受け止めなさーい!!!」(ハリケーン並みの竜巻を起こす)
シャオ「いだあああああああい!!? ボク死んじゃうぅぅぅーーーーーーーー!!!!!」(涙)
イオン「……クウさん、嘘つくのならもっとマシな嘘を吐いてください」(軽蔑の目)
ペルセ「違うよ、イオン。きっとクウさんの目が美化されておかしいだけなんだよ」(以下同文)
イリア「あらあら、変な誤解が生まれたわね」(クスクス)
クウ「笑ってないで俺の誤解解いてくれー!?」
リズ「シャオー、久しぶり! 元気にしてた!」
シャオ「リズ、何でここに!? って言うか一人!?」
リズ「そりゃあ任務の帰りだもん。それより――」(何かを話している)
クウ「あの子…確かにシャオの友達だったんだな」(記憶の幻影を見ながら)
イオン「あの女の子、知ってるんですか?」
クウ「ああ、リズって言うんだ。ある事件に巻き込まれた時に、妙な奴らに連れ去られそうになった所を俺が助けてな。結構可愛い子だったぜ〜、何て言うかこう、儚くて守ってやりたいって感じが――」
リズ「おらぁ!! シャオ待ちやがれーーーーーー!!! あんたなら耐えきる、って言うか耐えきろぉぉぉーーーーー!!!!!」(特大級の光の柱を打ち込む)
シャオ「うぎゃああああああああああ!!!??」(見事に攻撃に巻き込まれる)
イオン「…守って、やりたい? あんな子を?」(ジト目)
クウ「い、いや、その…! 俺が会った時はだな、もっとこう怯えて――!」(滝汗)
シャオ「もう…ダメ…!」(黒焦げ状態)
リズ「なにこれぐらいで倒れてるの!! まだ(私の新技の)特訓は始まったばっかりじゃあ!! 次は昨日編み出した風の魔法よ!!! 全力で受け止めなさーい!!!」(ハリケーン並みの竜巻を起こす)
シャオ「いだあああああああい!!? ボク死んじゃうぅぅぅーーーーーーーー!!!!!」(涙)
イオン「……クウさん、嘘つくのならもっとマシな嘘を吐いてください」(軽蔑の目)
ペルセ「違うよ、イオン。きっとクウさんの目が美化されておかしいだけなんだよ」(以下同文)
イリア「あらあら、変な誤解が生まれたわね」(クスクス)
クウ「笑ってないで俺の誤解解いてくれー!?」