メモリー編7 「もう一つのセカイについて・1」
あの記憶によって無理にクウを気絶(攻撃とも言う)させた事で、休憩も兼ねてイオンは回復魔法で傷を治していた。
ペルセが殴った頭部に癒しの光を当てていたが、治療の最中にクウは徐に立ち上がる。
「――もういいぜ、さすがに疲れるだろ」
「でも…」
「大丈夫だって、痛みもそんなに残っちゃいない。お前が回復魔法使えて助かったぜ」
回復してくれたイオンにお礼を言うと、ペルセは不思議そうにクウを見る。
「クウさんは魔法使えないんですか? キーブレードを持ってるのに」
「俺は元々魔法は苦手でさ、どうにか攻撃魔法は使えるんだが…他は修行の段階でもう諦めた。セヴィルはあーだこーだ言って煩かったけど、師匠は許してくれたから…」
「煩かったのはスピカも、でしょう? 彼女も心配して、あなたの親友と共に基本的な魔法を習得させようとした。その甲斐あって、ある程度は属性魔法を扱えるようになった。尤も、作り出す羽根を媒介に、闇の属性も一緒にしないと使えないけど」
「……ああ、そうだな」
まるで見ていたかのように思い出を語るイリアに、クウは何とも言えない表情で顔を逸らす。
それは闇の中で出会った大切な人達との思い出であるにも関わらず。
「スピカって言えば、あの記憶の人…」
「ああ。あれはスピカだと思う……ただ、似てるのは顔だけだ」
「顔だけ?」
妙な回答にイオンが更に聞くと、クウは辛そうに頭を押さえる。
「あいつの髪は金色で、目も赤なんだ。今の記憶のような青い髪や目じゃないし…何よりあんな、異形な姿になんて…!!」
さっきの姿を思い出して堪えきれなくなったのか、顔を歪ませて歯を食い縛る。
これ以上は思い出させてはいけないと、イオンはすぐに謝った。
「すいません…辛い事思い出させてしまって」
「いいさ…きっと、あれはスピカに似た別人――」
「いいえ。あれは間違いなく、シャオの世界のスピカよ」
クウの推測を、即座にイリアが否定で斬り捨てた。
そんなイリアに、クウは反論する事なく黙って聞く体制に入る。
人々の記憶を知る彼女が語る事は、全て真実だと分かっているから。
「髪と目の色が変わっているのは、彼女が施した変化魔法の一種――そうして別人に変えると同時に、もう一つある魔法を施した」
「ある魔法?」
クウが聞くと、イリアは一つ頷いて答えた。
「変化の魔法が解けた際に、別人の姿の頃の記憶を人々から忘れさせる――忘却の魔法」
「忘却の魔法!?」
「もしかして、あのクウさんが言った名前が聞き取れなかった理由って…!!」
さっきの記憶の不可解な謎を思い出した、イオンとペルセが驚きを浮かべる。
しかし、クウは一人訝しげな表情でイリアを見ていた。
「だが、記憶を忘却するなんて魔法でどうにかなるものか?」
「あなたの言う通り、記憶を操作するのは難しいわ。だけど…彼女はその身に宿る全ての魔力を引き換えにその魔法を発動する事に成功した。代償として、発動する為に失った魔力は二度と彼女には還らなかった。それは戦う力を捨てるも同然」
「あっちの…俺の傍に、居る為か?」
スピカが自分の力を捨ててまで成し遂げたい理由は、今の記憶の事を含めるとそれしかクウには思いつかなかった。
しかし、ペルセとイオンにはどうしてもスピカの行動の意味が分からない。
「でも、忘れさせる意味なんてあるのかな?」
「そうですよ! どうしてスピカさんは姿を変えただけじゃなく、自分を忘れさせるような魔法まで…!」
「意味があった、だからそうしたんだろ」
平淡としてクウが答えると、ベルトに付いているロケットにそっと触れる。
「スピカは…意味のない事をする奴じゃないからな」
「クウさん…」
スピカの事を理解し、心から信頼するクウの言葉に、イオンは何処か羨ましそうな眼差しを送る。
その視線を浴びながらも、クウは話を続けていく。
「だけど、その魔法は完璧じゃなかったんじゃないのか? じゃなかったら…今の記憶、シャオの中にある筈がない」
「ええ。魔法を使って記憶を操作するのは難しい。スピカの中にある膨大な魔力を使っても、関わった人達の記憶の全てを忘れ去る事は出来なかった。特に、繋がりが人一倍強かったあなたは偽名と大まかな記憶は忘れ……印象的な思い出だけが残った」
「そう、か…」
「――もう一つ、分からない事がある」
その時、ペルセが話に割り込んできた。
「あのスピカさん、どうしてあんな姿になっていたの? イリアドゥスは知ってるんでしょ?」
髪や目の色が違う事、名前が消えた理由も分かった。だが、どうして半分とは言え別の生物と化してしまったのかが分からない。
このペルセの指摘に、クウとイオンもイリアに視線を送る。
「――全てを隠す為よ」
「隠す? どういう事だ?」
「今見たあの場所は、一種の研究施設でもある。スピカだけでなく、あなたも“ある事”が原因でそこに所属していた。そこで行われた実験の中には、次元の壁で仕切られた異なるセカイに関する事もあった」
「それって、異世界の事か!?」
今の状況だからこそ分かる内容に、思わずクウが叫ぶ。
「ええ。そしてあちらの世界のスピカは、シルビアの力によって別世界の自分と繋がりを持っていたの。それが彼らに分かり、研究員だったスピカを利用されてしまい…――無理な実験によって心を砕かれた。いいえ…事故と見せかける為に彼女自身が砕いたの」
「…ッ…!?」
「自分で、心を…!?」
イリアの口から語られた信じがたい話に、クウは息を呑みイオンも無意識に胸を押さえる。
「スピカにしてみれば、もう一つの世界に関しては触れられたくない事。だから繋がりのある心を自ら壊したの。そうなった事で、研究者達は焦った。このままにしておけば、極秘裏に進めている計画が公になってしまう。だから彼女を別の実験――別の生物と合成する人体実験に使う事で隠蔽したの。あたかもそれで衰弱したように見せかける為に」
「だけど、それを俺が知った。だから暴れまくってスピカを利用したそいつら闇に沈めて、建物までぶっ壊したんだろ?」
思いがけぬ話の続きが、イリアではなくクウの口から飛び出した。
現状ではイリアとシャオしか知らない筈の記憶に、不可思議な顔をしてクウに目を向ける。
「あなた…」
「何となく、だよ。俺がもし、スピカがああなっているの見たら…絶対許さない、完膚なきまでに破壊する。そう思ったんだ」
あくまでも自分の推測と説明すると、段々と重い話についていけなくなったのかイオンが急に頭を押さえ出した。
「シャオの世界って、一体…」
「見ての通り、特別でありながら何処にでもある世界よ……理やルールが違おうと、光も闇も存在する世界。そして闇の部分でもあるあの施設は『外』からの干渉を直に受けた人間が大勢いた場所だから」
どんな世界にだって、光と闇は存在する。
シャオの世界も、本来の世界では敵が味方…協力者・指導者となっている。一見すれば平和な世界に見えるが、その裏で闇は確かに存在しているのだ。光だけでは困る人達がいたから。
イリアの語る言葉の重みに誰もが口を閉ざしていたが、不意にクウが質問をしてきた。
「なあ…さっき、あのスピカは別の世界のスピカと繋がってるって言ってたよな?」
「ええ」
「もしかして、シルビアの力を持つ俺も別の世界の俺と繋がったりするのか?」
「そうね」
「何だよ、それ…別の俺と繋がって、それで何をさせるんだよ!?」
淡々と質問に答えるイリアに、訳が分からずクウが癇癪を起こす。
すると、イリアは何でもない風に恐るべき答えを放った。
「融合した彼女達を“破壊”するのに必要だからよ」
「は…かい…?」
考えもしなかった言葉に思考が追いつかず、クウは茫然となって固まってしまう。
そんなクウに、イリアはどう言う訳か説明することなく顔を背けた。
「本来なら、ここであなたの力の意味を全て話しておくべきなのでしょうけど止めておく」
未だ茫然とするクウ、いまいち話がついていけないイオンとペルセを差し置いてイリアは勝手に話を収束へと進めていく。
「“破壊”という行為は、あくまでもどうにもならない状況になった際に使うもの。あなたがシルビアを取り戻したいと思うのなら、救える希望があるのならば……それに賭け続けると良い」
そう言って、イリアはクウに対して温かで優しい……まるで我が子を見守る様な笑顔を見せる。
「あなただけではない。世界を闇の脅威から救ったソラ達、テラ達だって…そうやって未来を歩んで来た。時に明らかな無茶をし、時に心から抗い、それでも変えられない運命(さだめ)に嘆くも、未来を諦めず約束にして…――世界を見守り、全てを託される立場である神理であったとしても、あなた達の選ぶ選択は私が決める事ではない」
全ての記憶…沢山の人達のさまざまな道のりを見ているからか、語ってくれた言葉に三人は瞬きすら出来ずにイリアを見る。
この三人の視線を浴びながら、話は終わりとばかりにイリアは背を向けた。
「そろそろ探索に戻りましょう。どうせ破壊する方法も、その時が来れば知る事になる」
「ま、待ってください!」
何の前触れもなく先に進むイリアに、慌ててイオンが追いかける。その後にペルセも続く。
クウも後を追おうとするが、数歩歩いた所で足を止めると刻印が刻まれた右腕に視線を映した。
「シルビア…」
イリアが語った事で分かった、融合と分離に隠された力。
自分の中で嫌な予感が渦巻いていると、ある少女の言葉が脳裏にフラッシュバックする。
(貴方の持つその力で、誰かを救うとな? そんな世界を揺るがす力で何をどうする気だ?)
ソラにそっくりな少女――ゼノの歪んだ笑みを思い浮かべ、思いっきり頭を振る。
それでも、胸の内にある不安はこびり付いて離れない。寧ろ、不安は大きくなっていき恐怖すら感じる。
沸々と湧き上がる闇の感情に、クウは抑えつけるかのように服越しに刻印が刻まれた部分を握り締める。
「なあ、もう一人の俺…繋がってるなら答えてくれよ…!! 俺、本当にシルビアを救えるのか……シャオを助けられるのか……スピカを取り戻せるのか…!? みんなを…――守れるのか…っ!?」
別の世界にいるであろう自分へと念じるが、答えなど返ってはこなかった。
ペルセが殴った頭部に癒しの光を当てていたが、治療の最中にクウは徐に立ち上がる。
「――もういいぜ、さすがに疲れるだろ」
「でも…」
「大丈夫だって、痛みもそんなに残っちゃいない。お前が回復魔法使えて助かったぜ」
回復してくれたイオンにお礼を言うと、ペルセは不思議そうにクウを見る。
「クウさんは魔法使えないんですか? キーブレードを持ってるのに」
「俺は元々魔法は苦手でさ、どうにか攻撃魔法は使えるんだが…他は修行の段階でもう諦めた。セヴィルはあーだこーだ言って煩かったけど、師匠は許してくれたから…」
「煩かったのはスピカも、でしょう? 彼女も心配して、あなたの親友と共に基本的な魔法を習得させようとした。その甲斐あって、ある程度は属性魔法を扱えるようになった。尤も、作り出す羽根を媒介に、闇の属性も一緒にしないと使えないけど」
「……ああ、そうだな」
まるで見ていたかのように思い出を語るイリアに、クウは何とも言えない表情で顔を逸らす。
それは闇の中で出会った大切な人達との思い出であるにも関わらず。
「スピカって言えば、あの記憶の人…」
「ああ。あれはスピカだと思う……ただ、似てるのは顔だけだ」
「顔だけ?」
妙な回答にイオンが更に聞くと、クウは辛そうに頭を押さえる。
「あいつの髪は金色で、目も赤なんだ。今の記憶のような青い髪や目じゃないし…何よりあんな、異形な姿になんて…!!」
さっきの姿を思い出して堪えきれなくなったのか、顔を歪ませて歯を食い縛る。
これ以上は思い出させてはいけないと、イオンはすぐに謝った。
「すいません…辛い事思い出させてしまって」
「いいさ…きっと、あれはスピカに似た別人――」
「いいえ。あれは間違いなく、シャオの世界のスピカよ」
クウの推測を、即座にイリアが否定で斬り捨てた。
そんなイリアに、クウは反論する事なく黙って聞く体制に入る。
人々の記憶を知る彼女が語る事は、全て真実だと分かっているから。
「髪と目の色が変わっているのは、彼女が施した変化魔法の一種――そうして別人に変えると同時に、もう一つある魔法を施した」
「ある魔法?」
クウが聞くと、イリアは一つ頷いて答えた。
「変化の魔法が解けた際に、別人の姿の頃の記憶を人々から忘れさせる――忘却の魔法」
「忘却の魔法!?」
「もしかして、あのクウさんが言った名前が聞き取れなかった理由って…!!」
さっきの記憶の不可解な謎を思い出した、イオンとペルセが驚きを浮かべる。
しかし、クウは一人訝しげな表情でイリアを見ていた。
「だが、記憶を忘却するなんて魔法でどうにかなるものか?」
「あなたの言う通り、記憶を操作するのは難しいわ。だけど…彼女はその身に宿る全ての魔力を引き換えにその魔法を発動する事に成功した。代償として、発動する為に失った魔力は二度と彼女には還らなかった。それは戦う力を捨てるも同然」
「あっちの…俺の傍に、居る為か?」
スピカが自分の力を捨ててまで成し遂げたい理由は、今の記憶の事を含めるとそれしかクウには思いつかなかった。
しかし、ペルセとイオンにはどうしてもスピカの行動の意味が分からない。
「でも、忘れさせる意味なんてあるのかな?」
「そうですよ! どうしてスピカさんは姿を変えただけじゃなく、自分を忘れさせるような魔法まで…!」
「意味があった、だからそうしたんだろ」
平淡としてクウが答えると、ベルトに付いているロケットにそっと触れる。
「スピカは…意味のない事をする奴じゃないからな」
「クウさん…」
スピカの事を理解し、心から信頼するクウの言葉に、イオンは何処か羨ましそうな眼差しを送る。
その視線を浴びながらも、クウは話を続けていく。
「だけど、その魔法は完璧じゃなかったんじゃないのか? じゃなかったら…今の記憶、シャオの中にある筈がない」
「ええ。魔法を使って記憶を操作するのは難しい。スピカの中にある膨大な魔力を使っても、関わった人達の記憶の全てを忘れ去る事は出来なかった。特に、繋がりが人一倍強かったあなたは偽名と大まかな記憶は忘れ……印象的な思い出だけが残った」
「そう、か…」
「――もう一つ、分からない事がある」
その時、ペルセが話に割り込んできた。
「あのスピカさん、どうしてあんな姿になっていたの? イリアドゥスは知ってるんでしょ?」
髪や目の色が違う事、名前が消えた理由も分かった。だが、どうして半分とは言え別の生物と化してしまったのかが分からない。
このペルセの指摘に、クウとイオンもイリアに視線を送る。
「――全てを隠す為よ」
「隠す? どういう事だ?」
「今見たあの場所は、一種の研究施設でもある。スピカだけでなく、あなたも“ある事”が原因でそこに所属していた。そこで行われた実験の中には、次元の壁で仕切られた異なるセカイに関する事もあった」
「それって、異世界の事か!?」
今の状況だからこそ分かる内容に、思わずクウが叫ぶ。
「ええ。そしてあちらの世界のスピカは、シルビアの力によって別世界の自分と繋がりを持っていたの。それが彼らに分かり、研究員だったスピカを利用されてしまい…――無理な実験によって心を砕かれた。いいえ…事故と見せかける為に彼女自身が砕いたの」
「…ッ…!?」
「自分で、心を…!?」
イリアの口から語られた信じがたい話に、クウは息を呑みイオンも無意識に胸を押さえる。
「スピカにしてみれば、もう一つの世界に関しては触れられたくない事。だから繋がりのある心を自ら壊したの。そうなった事で、研究者達は焦った。このままにしておけば、極秘裏に進めている計画が公になってしまう。だから彼女を別の実験――別の生物と合成する人体実験に使う事で隠蔽したの。あたかもそれで衰弱したように見せかける為に」
「だけど、それを俺が知った。だから暴れまくってスピカを利用したそいつら闇に沈めて、建物までぶっ壊したんだろ?」
思いがけぬ話の続きが、イリアではなくクウの口から飛び出した。
現状ではイリアとシャオしか知らない筈の記憶に、不可思議な顔をしてクウに目を向ける。
「あなた…」
「何となく、だよ。俺がもし、スピカがああなっているの見たら…絶対許さない、完膚なきまでに破壊する。そう思ったんだ」
あくまでも自分の推測と説明すると、段々と重い話についていけなくなったのかイオンが急に頭を押さえ出した。
「シャオの世界って、一体…」
「見ての通り、特別でありながら何処にでもある世界よ……理やルールが違おうと、光も闇も存在する世界。そして闇の部分でもあるあの施設は『外』からの干渉を直に受けた人間が大勢いた場所だから」
どんな世界にだって、光と闇は存在する。
シャオの世界も、本来の世界では敵が味方…協力者・指導者となっている。一見すれば平和な世界に見えるが、その裏で闇は確かに存在しているのだ。光だけでは困る人達がいたから。
イリアの語る言葉の重みに誰もが口を閉ざしていたが、不意にクウが質問をしてきた。
「なあ…さっき、あのスピカは別の世界のスピカと繋がってるって言ってたよな?」
「ええ」
「もしかして、シルビアの力を持つ俺も別の世界の俺と繋がったりするのか?」
「そうね」
「何だよ、それ…別の俺と繋がって、それで何をさせるんだよ!?」
淡々と質問に答えるイリアに、訳が分からずクウが癇癪を起こす。
すると、イリアは何でもない風に恐るべき答えを放った。
「融合した彼女達を“破壊”するのに必要だからよ」
「は…かい…?」
考えもしなかった言葉に思考が追いつかず、クウは茫然となって固まってしまう。
そんなクウに、イリアはどう言う訳か説明することなく顔を背けた。
「本来なら、ここであなたの力の意味を全て話しておくべきなのでしょうけど止めておく」
未だ茫然とするクウ、いまいち話がついていけないイオンとペルセを差し置いてイリアは勝手に話を収束へと進めていく。
「“破壊”という行為は、あくまでもどうにもならない状況になった際に使うもの。あなたがシルビアを取り戻したいと思うのなら、救える希望があるのならば……それに賭け続けると良い」
そう言って、イリアはクウに対して温かで優しい……まるで我が子を見守る様な笑顔を見せる。
「あなただけではない。世界を闇の脅威から救ったソラ達、テラ達だって…そうやって未来を歩んで来た。時に明らかな無茶をし、時に心から抗い、それでも変えられない運命(さだめ)に嘆くも、未来を諦めず約束にして…――世界を見守り、全てを託される立場である神理であったとしても、あなた達の選ぶ選択は私が決める事ではない」
全ての記憶…沢山の人達のさまざまな道のりを見ているからか、語ってくれた言葉に三人は瞬きすら出来ずにイリアを見る。
この三人の視線を浴びながら、話は終わりとばかりにイリアは背を向けた。
「そろそろ探索に戻りましょう。どうせ破壊する方法も、その時が来れば知る事になる」
「ま、待ってください!」
何の前触れもなく先に進むイリアに、慌ててイオンが追いかける。その後にペルセも続く。
クウも後を追おうとするが、数歩歩いた所で足を止めると刻印が刻まれた右腕に視線を映した。
「シルビア…」
イリアが語った事で分かった、融合と分離に隠された力。
自分の中で嫌な予感が渦巻いていると、ある少女の言葉が脳裏にフラッシュバックする。
(貴方の持つその力で、誰かを救うとな? そんな世界を揺るがす力で何をどうする気だ?)
ソラにそっくりな少女――ゼノの歪んだ笑みを思い浮かべ、思いっきり頭を振る。
それでも、胸の内にある不安はこびり付いて離れない。寧ろ、不安は大きくなっていき恐怖すら感じる。
沸々と湧き上がる闇の感情に、クウは抑えつけるかのように服越しに刻印が刻まれた部分を握り締める。
「なあ、もう一人の俺…繋がってるなら答えてくれよ…!! 俺、本当にシルビアを救えるのか……シャオを助けられるのか……スピカを取り戻せるのか…!? みんなを…――守れるのか…っ!?」
別の世界にいるであろう自分へと念じるが、答えなど返ってはこなかった。
■作者メッセージ
ジャス「解説コーナーのお時間です。今回は本編にも出てきた『組織』について説明しましょう」
ジャス「彼らは世界が闇に呑まれた際、または何らかの闇の影響に巻き込まれ闇の世界に流れ着いた人達の集まりです。知っている方は知っていると思いますが、この世界は意思を強く持っていないと闇に溶けてしまう非常に危険な場所です。そこで、【この場所で光と闇の世界を守ろう】と言う信念を元にして、いろんな世界からこちら側に来た人達を集めて作り上げたと言うのが始まりです。尚、彼らによる総称は特に無く『組織』と言う言い方も特に名前は必要ないとの事でそう呼ぶそうになったとか。さて、次に彼らが持っている統一の能力についてですが――」
クロトスラル「それは、この俺が次回詳しく説明してやるぜ。この作品を読んでる女性のみんな! この堅物と違って、俺の麗しい説明をじっくりと堪能「貫け、ゲイボルク」のわぁ!?」(伸びてきた槍が髪を掠る)
ジャス「貴様、この私のコーナーに勝手に割り込むだけでなく乗っ取る発言をするとは……それ相当の罰が欲しいと見た…!!!」
クロトスラル「おいおい、折角の二枚目が台無しになってるぜ〜? もっと広い心を持とうぜジャッく「その呼び方を止めろ!! ジャッジメント!!」おわっ、あっぶね〜!」(巨大な雷を避ける)
ジャス「ええい、避けるな!! 大人しく私の審判を受けろぉ!!」(魔法連発)
クロトスラル「そんなもの、誰が受けるかっての。ほれほれ、外れてるぞ〜?」(全部避けている)
ジャス「何をぉぉぉ!!!」
スピカ「さすがのジャスも、あの人の前では子供のじゃれ合いになってるわね」
セヴィル「まったく、クロも人が悪い…」
今回はガイムの時に書いていた、打ち切りも同然となってしまった学園作品。その語られなかった部分をこうしてだしてみました。
突然サイトが潰れ、もう5年ぐらいですから、今も尚その頃の古株の人がいるかどうか分かりませんがね…。