メモリー編8 「物語の始まり・前編」
「クウさん、さっきから無口だね」
「もしかして、さっきの記憶の後遺症とか残っているのかな?」
再び移動を始めてから始終口を閉じたまま後ろを付いてくるクウに、イオンとペルセはコソコソと会話をする。
やがて校舎の裏に差し掛かると、前を歩いていたイリアが足を止めた。
「――あの記憶は…」
イリアの視線を追うと、そこには色合いからして他者の記憶が存在している。
次に繋がる記憶なのかと、イオンはすぐにイリアに声をかけた。
「イリアドゥスさん、もしかしてこれですか?」
「そう言う訳ではないわ。ただ…」
そう言って僅かに口籠るが、すぐに三人に振り返った。
「あなた達は見ておいた方がいいかもしれないわね。行きましょう」
「え? あ、あぁ…」
どうもハッキリしないイリアの言い方に、後ろにいたクウは曖昧に頷く。
そしてイオン達は記憶の中へと足を踏み入れた。
時刻は真夜中を過ぎた頃、月の光が照らす町中を一人の少女が歩いていた。
髪は足元まである美しい銀髪、瞳も月を思わせる銀色。衣装は全身を包む布のような白と銀の服だ。
「綺麗な月じゃのう…」
そんな呟きと共に、丸く輝く満月を見上げる。
その姿は幻想的な光を帯びており、見る者を魅了させる美しさを持っている。
空に浮かぶ満月を見て、少女は瞳をキラキラと輝かせると笑みを浮かべた。
「こうして歩くのは、実に何年ぶりじゃろうか…」
懐かしそうに呟いて歩いていると、ふと立ち止まる。
そのまま後ろを振り返ると、悲しそうな目をした。
「本当に、迷惑をかけたの…」
まるで誰かに謝るように、少女は小さい声で詫びる。
そうして再び前を向いて再び歩き出す。と、遠くの建物の屋上に何かを見つけたのか顔を向ける。
「クウ…それに、ラルもおる…!!」
少女にとって知っている人物なのか、表情が少しだけ明るくなる。
すぐに少女は二人の所に行こうと、地面を蹴って走り出した。
「見つけたぞ、『シルビア』」
「―――っ!!?」
だが、突然男性の低い声が少女の耳に届き足を止める。同時に、ここ一帯に闇が包み込む。まるで、少女を逃がさんとするように。
暗闇の空間に閉じ込められた少女は、恐怖の色を浮かべて恐る恐る後ろを振り返る。
空間の中心に、足元まである金髪に金色の瞳をした男が腕を組んでこちらを見ている。服装は、全体を覆う黒と金のローブだ。
「何だ? 折角不完全ながらも融合もして、こうして会えたと言うのにその怯えた目は?」
「な…なぜ、そちが…!!?」
自分を閉じ込めた男に、少女は全身を震わせる。
「お主は、クウとあ奴が破壊したはずじゃ!!! 『アウルム』っ!!!」
銀色の少女―――シルビアが怒鳴りながら睨みつけていると、金色の男―――アウルムが首を傾げた。
「あ奴…? ああ、お前を持っているあの銀髪か。何だ、未だに契約してないのか?」
「当たり前じゃ…スピカと約束したんでの」
そう言うと、シルビアは顔を俯かせて拳を握る。
「あ奴には、絶対に我の《試練》は受けさせぬ。スピカの気持ちを、無駄にせん」
堅い意思を宿しているかのように、シルビアの言葉には重みがある。
やがてシルビアは軽く首を振ると、アウルムを睨みつけた。
「次は我の番じゃ。何故、二人に破壊されたお主がここにいる?」
「私が再生させた。それだけですよ、シルビア」
二人の間に、突然の第三者の声が横から割って入る。
見ると、そこには白い布で全体に顔を巻いた、白いズボンに十字架の入った白のコートを前で止めている青年がいた。布の隙間からは、微かに黒い髪がはみ出しており、空いた左目は金色の瞳だ。
この人物―――エンに、シルビアは警戒心を露わにした。
「お主は…!!」
「名乗るほどの者ではないですよ…――【作られた鍵】」
エンの言葉に、シルビアは驚きを露わに息を呑む。
「それは…!! その名は…!!」
「そう。作られた時のあなたの名だ。キーブレードに魅入られた資格を持たぬ人達が、光と闇の『キングダムチェーン』を元にあなたと彼を作った時の」
自分の正体を知るエンに、シルビアは僅かに身構えると歯を食い縛って睨みつける。
「何が目的じゃ…!? また我とアウルムを融合させて、擬似的な『χブレード』を作る気か…!?」
純粋な光である自分と、純粋な闇のアウルム。この二つを融合する事で、擬似的だが『χブレード』が作られる。
人工物だが、その威力は凄まじいものだ。だからこそ、製作者はキーブレードの特性である『所有者』を探す権利を自分達に植え付けた。
シルビアが睨みつけると、布で隠されているがエンが笑うのが分かった。
「ええ…――私には大きな目的がある。その為にも、『χブレード』の力は必要なんですよ」
そう言って、手を後ろにやるとある物を取り出す。
それは、シルビアと同じ形をした金色のレイピアだ。
エンは鞘から剣を引き抜くと、その剣先をシルビアに向けた。
「あなたは今具現化して丸腰の状態――…例え不完全な融合だとしても、後で完全にすればいいだけの事だっ!!!」
軽く剣を振ると、シルビアに向けて走り込む。
戦う事も逃げる事も出来ない状況に、シルビアは覚悟を決めたのか目を強く閉じた。
―――だが、突如銀髪の少年が割り込んで悪魔の羽を模った剣でエンの攻撃を防いだ。
「えっ…!?」
「――まったく、こっそりと大事な弟のお見舞いに行こうとした途端にこんな戦闘があるなんて…」
シルビアは目を開けると、目の前には銀色の髪をした悪魔の剣を持つ少年。
そうしてエンを軽く弾き飛ばして間合いを作ると、勢いよく剣を下ろした。
「クウには夢でお仕置きしないとね」
真剣な表情で、シルビアを守るように一歩引くルキル。
だが、その身に纏う雰囲気が明らかに違う。この正体に気付いたのか、シルビアは小さく呟いた。
「スピカ…」
シルビアの呟きに、ルキル―――否、スピカは笑う。
だが、すぐに険しい表情になるとエンを睨みつけた。
「シルビア、離れてて。今から本体に戻るよりは安心だから」
「しかし、スピカ!! その身体では無理があるぞ!?」
「限界が来る前に倒せばいいだけの事よ」
何でもないように言うが、シルビアの不安は拭えないのか表情を歪める。
しかし、心配するシルビアを他所にスピカは剣を構える。この光景にエンはクスリと笑った。
「気の強い方だ。尤も――」
そう言うと、手に持っているレイピア―――アウルムを構えた。
「私には敵わないが」
「やってみる? 私、これでも強いんだから」
このエンの言葉に、不敵な笑みを浮かべるスピカ。
互いに剣を構える二人。そうして先に動いたのは―――スピカだった。
「――空衝撃・牙煉っ!!」
剣を勢いよく振り上げると、大きな衝撃波を放つ。
この攻撃に、エンはすぐに横に移動して衝撃波を避ける。
と、ここでスピカが『瞬羽』を使って距離を縮めると剣を突き出した。
「散桜!!」
そうして、隙の無い連続突きをエンに放つ。
その攻撃をアウルムで受け止めるが、元々は細身の剣で防御出来ずに弾き飛ばされる。
それを狙い、スピカは最後の突きを与えようと腕を伸ばす。
だが、エンは間一髪で黒と赤の刀身のダブルセイバーを取り出して最後の一撃を受け止めた。
「ようやく武器を見せてくれたわね…」
「少し、舐めてましたから。よければ、もっと面白い物を見せましょうか?」
妙な言い方にスピカが思わず眉を潜めた直後、エンの背から白い双翼が現れた。
「白い翼…!?」
スピカが息を呑むのを狙い、エンは剣を上に弾くとクルリと回転する。
この攻撃の動作に、スピカはとっさに空いた手を掲げる。
「リクレク!!」
すぐに魔法を発動させると、スピカの周りに魔法の障壁が張られる。
それと同時に、エンが回転してダブルセイバーで斬りつける。すると、障壁は消えて光の破片が襲う。
しかし、それをダブルセイバーで上手く防御する。その間にスピカは相手との間合いを取った。
「とっさに防御したのはさすがです。ですが、次はそうもいきませんよ?」
ダブルセイバーを構えると、クルクルと片手で回転させるとそのままスピカの元に近づいた。
「ブラッドクロス」
スピカに向かって振ると同時に、×型の赤黒い衝撃波が飛び出す。
どうにか剣で防御するが、攻撃の余波が強すぎて体中に焼けたような痛みが襲い掛かる。
それでも、このチャンスを無駄にしなかった。
「水皇襲蓮!!」
剣を叩き付け、相手に激しい水流を飛ばす。
その勢いに飲み込まれんとエンが足を踏ん張ると、目の前でスピカが消えた。
「そして――」
後ろから声が聞こえ、振り返る。
そこには、剣に雷を纏わせたスピカが居合抜きの要領で腰を落としていた。
「一閃・雷光!!」
「セイントガード」
スピカが剣を引き抜くと同時に、青年は手を上げる。
すると、エンの周りに黒い薄い障壁が張られる。スピカが気にする事無く白い雷を纏った剣を横に薙ぎ払うように一閃するが、障壁に守られ無傷のままだった。
「あなた…見た目は天使なのに、まるで死神ね…」
「ははっ、よく言われますよ。でも、私は闇から生まれた光のような者ですから…」
「意味ありげな言葉ね。もっと詳しく教えてくれてもいいんじゃないかしら?」
「そうもいかないんですよ。教えたら…――『別の世界』だとしても、あなた方二人はきっと耐えられないでしょうから。それは私にしてみても悲しい事です」
エンの言葉に、スピカだけでなくシルビアも僅かに首を傾げる。
そんな二人に、エンは武器を下ろすと何処か悲しい目で言った。
「出来れば、あなたは傷つけたくない。ここは引いてくれませんか?」
説得をするエンに対し、逆にスピカは剣に握る力を込める。
「そう思うなら、シルビアから手を引いて。彼女は『アウルム』と融合を望んでいないのだから」
「…仕方ないですね」
スピカの言葉に、エンは溜め息を吐いて手を翳す。
何かを仕掛ける動作にスピカがすぐに足を踏み出そうとした瞬間、足元に白い魔法陣が現れた。
「――デット・リターン」
すると、スピカの―――正確にはルキルの体が淡い光に覆われる。
それと同時に、体に妙な脱力が起きてしまい思わず膝を付いてしまう。
思わずスピカは体を抱きしめると、何処か苦しそうに問い掛けた。
「何を…!?」
「これでも、私は特殊な力を持っているんです。その力で、現世に彷徨う魂を死の世界に送る事が出来ます」
「私が、本来の行くべき場所に行ったら…!!」
「ご察しの通り、二度と戻ってこれません。この現世には」
それを聞き、シルビアの目が見開かれる。
「スピカ!!」
シルビアが叫ぶのを聞き、スピカは歯を食い縛って魔法を打ち破ろうとする。
しかし、纏わりついている光が毒となって激痛がその身に襲った。
「うっ…ああっ…!!」
「あんまり抵抗すると、あなたの身体の持ち主が代わりに行く事になりますよ?」
更なる言葉を畳み掛けられ、抵抗していたスピカは顔を俯かせてしまう。
死の世界に行くのは、自分か、彼か。この選択に、スピカだけでなくシルビアも胸が締め付けられる。
そうしてシルビアが茫然としていると、アウルムが近付いて腕を掴まれた。
「シルビア、ようやく一つになれるな」
「忘れたか…? 我にはクウともう一つのスピカの絆が残っておる。それを消さぬ限り――」
「消さなくても完全な融合は出来ますよ。まあ、少々時間がかかりますがね」
シルビアの言葉を遮り、エンはダブルセイバーを消す。
そうして先程弾き飛ばされたアウルムを握ると、シルビアに近付く。
逃げようにも、アウルムに腕を掴まれてしまっている。それでも抵抗していると、エンが傍に来た。
「では、完全な融合まで良い一時を」
そう言って、剣を振り上げる。
「…させない」
「もしかして、さっきの記憶の後遺症とか残っているのかな?」
再び移動を始めてから始終口を閉じたまま後ろを付いてくるクウに、イオンとペルセはコソコソと会話をする。
やがて校舎の裏に差し掛かると、前を歩いていたイリアが足を止めた。
「――あの記憶は…」
イリアの視線を追うと、そこには色合いからして他者の記憶が存在している。
次に繋がる記憶なのかと、イオンはすぐにイリアに声をかけた。
「イリアドゥスさん、もしかしてこれですか?」
「そう言う訳ではないわ。ただ…」
そう言って僅かに口籠るが、すぐに三人に振り返った。
「あなた達は見ておいた方がいいかもしれないわね。行きましょう」
「え? あ、あぁ…」
どうもハッキリしないイリアの言い方に、後ろにいたクウは曖昧に頷く。
そしてイオン達は記憶の中へと足を踏み入れた。
時刻は真夜中を過ぎた頃、月の光が照らす町中を一人の少女が歩いていた。
髪は足元まである美しい銀髪、瞳も月を思わせる銀色。衣装は全身を包む布のような白と銀の服だ。
「綺麗な月じゃのう…」
そんな呟きと共に、丸く輝く満月を見上げる。
その姿は幻想的な光を帯びており、見る者を魅了させる美しさを持っている。
空に浮かぶ満月を見て、少女は瞳をキラキラと輝かせると笑みを浮かべた。
「こうして歩くのは、実に何年ぶりじゃろうか…」
懐かしそうに呟いて歩いていると、ふと立ち止まる。
そのまま後ろを振り返ると、悲しそうな目をした。
「本当に、迷惑をかけたの…」
まるで誰かに謝るように、少女は小さい声で詫びる。
そうして再び前を向いて再び歩き出す。と、遠くの建物の屋上に何かを見つけたのか顔を向ける。
「クウ…それに、ラルもおる…!!」
少女にとって知っている人物なのか、表情が少しだけ明るくなる。
すぐに少女は二人の所に行こうと、地面を蹴って走り出した。
「見つけたぞ、『シルビア』」
「―――っ!!?」
だが、突然男性の低い声が少女の耳に届き足を止める。同時に、ここ一帯に闇が包み込む。まるで、少女を逃がさんとするように。
暗闇の空間に閉じ込められた少女は、恐怖の色を浮かべて恐る恐る後ろを振り返る。
空間の中心に、足元まである金髪に金色の瞳をした男が腕を組んでこちらを見ている。服装は、全体を覆う黒と金のローブだ。
「何だ? 折角不完全ながらも融合もして、こうして会えたと言うのにその怯えた目は?」
「な…なぜ、そちが…!!?」
自分を閉じ込めた男に、少女は全身を震わせる。
「お主は、クウとあ奴が破壊したはずじゃ!!! 『アウルム』っ!!!」
銀色の少女―――シルビアが怒鳴りながら睨みつけていると、金色の男―――アウルムが首を傾げた。
「あ奴…? ああ、お前を持っているあの銀髪か。何だ、未だに契約してないのか?」
「当たり前じゃ…スピカと約束したんでの」
そう言うと、シルビアは顔を俯かせて拳を握る。
「あ奴には、絶対に我の《試練》は受けさせぬ。スピカの気持ちを、無駄にせん」
堅い意思を宿しているかのように、シルビアの言葉には重みがある。
やがてシルビアは軽く首を振ると、アウルムを睨みつけた。
「次は我の番じゃ。何故、二人に破壊されたお主がここにいる?」
「私が再生させた。それだけですよ、シルビア」
二人の間に、突然の第三者の声が横から割って入る。
見ると、そこには白い布で全体に顔を巻いた、白いズボンに十字架の入った白のコートを前で止めている青年がいた。布の隙間からは、微かに黒い髪がはみ出しており、空いた左目は金色の瞳だ。
この人物―――エンに、シルビアは警戒心を露わにした。
「お主は…!!」
「名乗るほどの者ではないですよ…――【作られた鍵】」
エンの言葉に、シルビアは驚きを露わに息を呑む。
「それは…!! その名は…!!」
「そう。作られた時のあなたの名だ。キーブレードに魅入られた資格を持たぬ人達が、光と闇の『キングダムチェーン』を元にあなたと彼を作った時の」
自分の正体を知るエンに、シルビアは僅かに身構えると歯を食い縛って睨みつける。
「何が目的じゃ…!? また我とアウルムを融合させて、擬似的な『χブレード』を作る気か…!?」
純粋な光である自分と、純粋な闇のアウルム。この二つを融合する事で、擬似的だが『χブレード』が作られる。
人工物だが、その威力は凄まじいものだ。だからこそ、製作者はキーブレードの特性である『所有者』を探す権利を自分達に植え付けた。
シルビアが睨みつけると、布で隠されているがエンが笑うのが分かった。
「ええ…――私には大きな目的がある。その為にも、『χブレード』の力は必要なんですよ」
そう言って、手を後ろにやるとある物を取り出す。
それは、シルビアと同じ形をした金色のレイピアだ。
エンは鞘から剣を引き抜くと、その剣先をシルビアに向けた。
「あなたは今具現化して丸腰の状態――…例え不完全な融合だとしても、後で完全にすればいいだけの事だっ!!!」
軽く剣を振ると、シルビアに向けて走り込む。
戦う事も逃げる事も出来ない状況に、シルビアは覚悟を決めたのか目を強く閉じた。
―――だが、突如銀髪の少年が割り込んで悪魔の羽を模った剣でエンの攻撃を防いだ。
「えっ…!?」
「――まったく、こっそりと大事な弟のお見舞いに行こうとした途端にこんな戦闘があるなんて…」
シルビアは目を開けると、目の前には銀色の髪をした悪魔の剣を持つ少年。
そうしてエンを軽く弾き飛ばして間合いを作ると、勢いよく剣を下ろした。
「クウには夢でお仕置きしないとね」
真剣な表情で、シルビアを守るように一歩引くルキル。
だが、その身に纏う雰囲気が明らかに違う。この正体に気付いたのか、シルビアは小さく呟いた。
「スピカ…」
シルビアの呟きに、ルキル―――否、スピカは笑う。
だが、すぐに険しい表情になるとエンを睨みつけた。
「シルビア、離れてて。今から本体に戻るよりは安心だから」
「しかし、スピカ!! その身体では無理があるぞ!?」
「限界が来る前に倒せばいいだけの事よ」
何でもないように言うが、シルビアの不安は拭えないのか表情を歪める。
しかし、心配するシルビアを他所にスピカは剣を構える。この光景にエンはクスリと笑った。
「気の強い方だ。尤も――」
そう言うと、手に持っているレイピア―――アウルムを構えた。
「私には敵わないが」
「やってみる? 私、これでも強いんだから」
このエンの言葉に、不敵な笑みを浮かべるスピカ。
互いに剣を構える二人。そうして先に動いたのは―――スピカだった。
「――空衝撃・牙煉っ!!」
剣を勢いよく振り上げると、大きな衝撃波を放つ。
この攻撃に、エンはすぐに横に移動して衝撃波を避ける。
と、ここでスピカが『瞬羽』を使って距離を縮めると剣を突き出した。
「散桜!!」
そうして、隙の無い連続突きをエンに放つ。
その攻撃をアウルムで受け止めるが、元々は細身の剣で防御出来ずに弾き飛ばされる。
それを狙い、スピカは最後の突きを与えようと腕を伸ばす。
だが、エンは間一髪で黒と赤の刀身のダブルセイバーを取り出して最後の一撃を受け止めた。
「ようやく武器を見せてくれたわね…」
「少し、舐めてましたから。よければ、もっと面白い物を見せましょうか?」
妙な言い方にスピカが思わず眉を潜めた直後、エンの背から白い双翼が現れた。
「白い翼…!?」
スピカが息を呑むのを狙い、エンは剣を上に弾くとクルリと回転する。
この攻撃の動作に、スピカはとっさに空いた手を掲げる。
「リクレク!!」
すぐに魔法を発動させると、スピカの周りに魔法の障壁が張られる。
それと同時に、エンが回転してダブルセイバーで斬りつける。すると、障壁は消えて光の破片が襲う。
しかし、それをダブルセイバーで上手く防御する。その間にスピカは相手との間合いを取った。
「とっさに防御したのはさすがです。ですが、次はそうもいきませんよ?」
ダブルセイバーを構えると、クルクルと片手で回転させるとそのままスピカの元に近づいた。
「ブラッドクロス」
スピカに向かって振ると同時に、×型の赤黒い衝撃波が飛び出す。
どうにか剣で防御するが、攻撃の余波が強すぎて体中に焼けたような痛みが襲い掛かる。
それでも、このチャンスを無駄にしなかった。
「水皇襲蓮!!」
剣を叩き付け、相手に激しい水流を飛ばす。
その勢いに飲み込まれんとエンが足を踏ん張ると、目の前でスピカが消えた。
「そして――」
後ろから声が聞こえ、振り返る。
そこには、剣に雷を纏わせたスピカが居合抜きの要領で腰を落としていた。
「一閃・雷光!!」
「セイントガード」
スピカが剣を引き抜くと同時に、青年は手を上げる。
すると、エンの周りに黒い薄い障壁が張られる。スピカが気にする事無く白い雷を纏った剣を横に薙ぎ払うように一閃するが、障壁に守られ無傷のままだった。
「あなた…見た目は天使なのに、まるで死神ね…」
「ははっ、よく言われますよ。でも、私は闇から生まれた光のような者ですから…」
「意味ありげな言葉ね。もっと詳しく教えてくれてもいいんじゃないかしら?」
「そうもいかないんですよ。教えたら…――『別の世界』だとしても、あなた方二人はきっと耐えられないでしょうから。それは私にしてみても悲しい事です」
エンの言葉に、スピカだけでなくシルビアも僅かに首を傾げる。
そんな二人に、エンは武器を下ろすと何処か悲しい目で言った。
「出来れば、あなたは傷つけたくない。ここは引いてくれませんか?」
説得をするエンに対し、逆にスピカは剣に握る力を込める。
「そう思うなら、シルビアから手を引いて。彼女は『アウルム』と融合を望んでいないのだから」
「…仕方ないですね」
スピカの言葉に、エンは溜め息を吐いて手を翳す。
何かを仕掛ける動作にスピカがすぐに足を踏み出そうとした瞬間、足元に白い魔法陣が現れた。
「――デット・リターン」
すると、スピカの―――正確にはルキルの体が淡い光に覆われる。
それと同時に、体に妙な脱力が起きてしまい思わず膝を付いてしまう。
思わずスピカは体を抱きしめると、何処か苦しそうに問い掛けた。
「何を…!?」
「これでも、私は特殊な力を持っているんです。その力で、現世に彷徨う魂を死の世界に送る事が出来ます」
「私が、本来の行くべき場所に行ったら…!!」
「ご察しの通り、二度と戻ってこれません。この現世には」
それを聞き、シルビアの目が見開かれる。
「スピカ!!」
シルビアが叫ぶのを聞き、スピカは歯を食い縛って魔法を打ち破ろうとする。
しかし、纏わりついている光が毒となって激痛がその身に襲った。
「うっ…ああっ…!!」
「あんまり抵抗すると、あなたの身体の持ち主が代わりに行く事になりますよ?」
更なる言葉を畳み掛けられ、抵抗していたスピカは顔を俯かせてしまう。
死の世界に行くのは、自分か、彼か。この選択に、スピカだけでなくシルビアも胸が締め付けられる。
そうしてシルビアが茫然としていると、アウルムが近付いて腕を掴まれた。
「シルビア、ようやく一つになれるな」
「忘れたか…? 我にはクウともう一つのスピカの絆が残っておる。それを消さぬ限り――」
「消さなくても完全な融合は出来ますよ。まあ、少々時間がかかりますがね」
シルビアの言葉を遮り、エンはダブルセイバーを消す。
そうして先程弾き飛ばされたアウルムを握ると、シルビアに近付く。
逃げようにも、アウルムに腕を掴まれてしまっている。それでも抵抗していると、エンが傍に来た。
「では、完全な融合まで良い一時を」
そう言って、剣を振り上げる。
「…させない」
■作者メッセージ
クロトスラル(以下クロ)「この作品を読んでる美女達、今回からこの俺の解説コーナーが始まったぜ! それじゃあ、さっそく今回の解説を始めるぞ〜」
クロ「今回は組織の人間が使う【具現化】についてだ。この能力は闇の世界で適性を手に入れた者が使える、自分の中の闇の力を操って表に出せる能力なんだ。例えば俺ならワイヤー、バカ弟子(クウ)ならあの黒い翼に黒い羽根、スピカちゃんは武器である細剣だ。闇を操れるからって何でも作れる訳じゃなく、それぞれの個性や性格で作れる物も違うんだぜ。ちなみにセヴィルの場合はだな、バカ弟子のように武器とは違う物を「シャドウフレア」「ペナルティ・オブ・ドロウ」ぬのぉあ!!?」(闇の柱と激流を避ける)
セヴィル「ク・ロ? そこは、まだ、秘密事項だぞ?」(ニッコリ)
ジャス「私がバテている間に本当に乗っ取るとは…――執行猶予は要らないと見た…!!!」(ゴゴゴ…)
クロ「す、すいませーん…」(後退り)
セヴィル「許すと思うなよ、クロ!! 陽陰破邪醒!!」
ジャス「今日こそは貴様を制裁してくれる!!! ゲイボルク!!!」
クロ「だー!! 二人がかりで襲ってくんなーーーー!!?」(逃走)
今回も話に付いて一つ補足を。
このルキル(スピカ)vsエンの対決ですが、ガイム時代に序章として書いていたものです。本来ならこちらを先に出すべきだったのでしょうが、学園世界からが始まりなのであえて出しませんでした。最初から無かった事にして新しく……も考えたりしたんですが、シャオがいるのにそれはさすがになと思ってナシにしたり。
それでも今回ようやく…期間的にはとんでもなく空いてしまったが…このような形で出す事が出来ました。
後半も大まかに訂正は終わっているので、早い段階で出せるとは思います。
クロ「今回は組織の人間が使う【具現化】についてだ。この能力は闇の世界で適性を手に入れた者が使える、自分の中の闇の力を操って表に出せる能力なんだ。例えば俺ならワイヤー、バカ弟子(クウ)ならあの黒い翼に黒い羽根、スピカちゃんは武器である細剣だ。闇を操れるからって何でも作れる訳じゃなく、それぞれの個性や性格で作れる物も違うんだぜ。ちなみにセヴィルの場合はだな、バカ弟子のように武器とは違う物を「シャドウフレア」「ペナルティ・オブ・ドロウ」ぬのぉあ!!?」(闇の柱と激流を避ける)
セヴィル「ク・ロ? そこは、まだ、秘密事項だぞ?」(ニッコリ)
ジャス「私がバテている間に本当に乗っ取るとは…――執行猶予は要らないと見た…!!!」(ゴゴゴ…)
クロ「す、すいませーん…」(後退り)
セヴィル「許すと思うなよ、クロ!! 陽陰破邪醒!!」
ジャス「今日こそは貴様を制裁してくれる!!! ゲイボルク!!!」
クロ「だー!! 二人がかりで襲ってくんなーーーー!!?」(逃走)
今回も話に付いて一つ補足を。
このルキル(スピカ)vsエンの対決ですが、ガイム時代に序章として書いていたものです。本来ならこちらを先に出すべきだったのでしょうが、学園世界からが始まりなのであえて出しませんでした。最初から無かった事にして新しく……も考えたりしたんですが、シャオがいるのにそれはさすがになと思ってナシにしたり。
それでも今回ようやく…期間的にはとんでもなく空いてしまったが…このような形で出す事が出来ました。
後半も大まかに訂正は終わっているので、早い段階で出せるとは思います。