メモリー編9 「物語の始まり・後編」
微かに、それでいて強い声が響く。
思わずエンが手を止めて振り返ると、スピカがゆっくりと立ち上がっていた。
「私は…まだ、見守っていないといけないの…――クウを、ウィドを、この子を…彼らの生徒達をっ!!!」
スピカの叫びと共に、何かが割れる音と共に魔法陣が跡形もなく消滅した。
「自力で魔法を打ち破ったっ!?」
これにはエンも驚いていると、スピカは再び剣を握って走り込む。
驚いているエンの懐に素早く入り込むと、思いっきり叫んだ。
「クウ、技借りるわよ!! 炎撃嵐舞っ!!!」
そのまま剣を振り上げると、炎の衝撃波をエンにぶつけた。
予想以上に効いたらしく、エンはあちこち燃えながらアウルムを落として後ろへよろめいていく。
スピカが更に攻撃しようと踏み込むと、顔に巻きついている布が燃え尽きた。
―――露わになったエンの素顔に、スピカは目を大きく見開いて足を止めた。
「えっ…!?」
「その顔は…!!」
見せた顔に、スピカだけでなくシルビアも目を見開く。
それもそうだ。露わになった顔は、大人びているがクウと酷似している。自分達の見知ったその顔に、二人は知らないうちに後ずさる。
この二人の様子に、エンは焦りを浮かべて手にダブルセイバーを持ち勢いよく振った。
「テラーバーストっ!!」
すると、暴力的な黒い風が二人に向かって襲い掛かる。
アウルムはすぐにシルビアを放して距離を取ると同時に、黒い暴風が二人を巻き込んだ。
「「きゃあああああああああああ(うあああああああああ)っ!!!」」
悲鳴を上げて、遠くに吹き飛んでいく二人。
不意を突かれたとはいえ、一つの攻撃だけで全身が傷だらけになってしまい受け身も取れずに全身を地面に叩きつけられる。
そして、再びエンとアウルムが近付く。これを見て、スピカは何かを決意する目になって倒れながらシルビアに手を翳した。
「スピカ…?」
「シルビア…あなただけでも、逃げて…!」
その呟きと共に、何かの魔法を唱える。
すると、シルビアが淡白い光に包まれた。
「この魔法は…!?」
「逃がさん!!」
驚くエンに対し、アウルムはすぐに近付く。
その前に、スピカが素早く魔法を唱えた。
「フリーズウォール!!」
冷気が漂うなり、スピカとシルビアの周りに氷の壁が作られる。
そのままスピカが剣を支えに立ち上がっていると、シルビアが叫んだ。
「嫌じゃ!! スピカを残して、『他の世界』へ逃げるなど――!!」
「私なら、大丈夫だから…――それに、その世界にはきっと“私達”がいるし、協力してくれるはずだから」
「スピカ……スピカァ!!!」
シルビアは手を伸ばすが、届く事無く消えてしまう。
それを見送ると、氷が割れる音が響く。見ると、エンがダブルセイバーで壁となる氷を砕いていた。
この様子に、スピカは力無い笑みを浮かべて剣を構え直した。
「さあ…続きと、いきましょうか…?」
「悪いが、私にはボロボロの状態のあなたとは戦えません」
「優しいのね…『彼』と顔が一緒だから?」
「――かも、しれません」
「そう……でもね」
そこで言葉を切ると、足元に魔法陣を浮かべた。
「――私には戦う理由があるのよっ!!!」
エンに向かって叫ぶと、スピカは足元の魔法陣を輝かせる。
決意の篭った瞳で睨みつけると、手を横に翳した。
「手加減しない―――来なさい、《バハムート》っ!!!」
スピカの呼びかけに、闇で包まれた空間の上空から何かが落下する。
それが地面に直撃すると、砂埃が辺りに舞う。その中から甲高い竜の鳴き声が響き渡る。
砂埃が収まると、そこには巨大な竜―――バハムートが仁王立ちで立っている。こうして召喚に成功すると、スピカはエン達に向かって手を翳した。
「これが最高の一撃よ!!! バハムート、ギガフレアァ!!!」
「マイティガード」
バハムートが飛び上がって大きく開けた口に力を溜めると同時に、エンは何処か冷静にアウルムと一緒に魔法の障壁を纏う。
地面が罅割れながら溜めているエネルギーが最高潮に達すると、二人に向かって一気にエネルギーを放出した。
一筋の光線をバハムートがエンとアウルムにぶつけると、全てを吹き飛ばすかのように強大な爆発を起こして視界を白に染め上げた。
やがて辺りに砂埃が舞った状態でバハムートは何処かに飛び去っていく。スピカはそれを見送るなり、剣を支えにして膝を付いた。
「はぁ…はぁ…」
息を切らし、まるで何かを堪える様にスピカは顔を歪ませる。
「ごめんね…シルビア…」
弱々しく呟くと、ゆっくりと前を見る。
掠れた視界に見えたのは―――平然と立っているエンとアウルムの姿だった。
「やっぱり、無理だった…」
自分では敵わない圧倒的な力に、スピカは逃がしたシルビアに詫びながらその場に倒れた…。
「――これが、あなた達に起こった事件の始まりよ」
二人の戦いの光景が消え、元の場所に戻るなりイリアが今の記憶を説明する。
それに対し、三人は何も言えずに黙って口を閉ざしていた。
「あの人がエン…本当に、クウさんと顔が一緒なんですね…」
「シルビアとアウルム…χブレード…」
どうにかイオンとペルセが声を出していると、クウも困惑とした顔でイリアに視線を向けた。
「イリア…あっちの世界のスピカ、どうしてルキルに…?」
「シャオの世界の彼女は、その世界のあなたに殺された。それでも心残りが合ったから《霊体》になったのでしょう。死後の世界に行かず、彷徨う魂として世界に留まり彼らを見守り続けた」
死しても尚、力になろうとしたスピカ。その心の強さは、生半端な物ではないだろう。
イオンとペルセだけでなく、クウまで黙り込む中でイリアは話を続ける。
「そんな彼女にとって、人形(レプリカ)の身体は『器』にも等しい存在。ルキルの身体を使う事で、彼女はああして行動をする事が出来る……だけど、その分負担がかかる」
「負担?」
スピカの行動に何かしらのデメリットがあった事に、クウが聞き返す。
「強い魔法や技を使うには、それ相当の魔力や精神力が必要になる。あの世界のルキルには彼女の様な強さは身に付いていない。そんな身体で戦い続ければ――」
「すぐに限界が訪れる…ですよね?」
魔法についてそれなりに詳しいようで、イオンが結論をつける。
魔力を捨てたとは言え、本来スピカは剣術も魔法もかなりの使い手だ。強力な攻撃をすればするほど、ルキルの持つ魔力も体力も底をつくし下手をすれば身体が耐えられずに壊れてしまう。
あの竜―――確か『バハムート』と言っていたが―――を呼び出したのも、かなりの負担となっていたはずだ。そうでなければ、攻撃が終わった後に倒れたりなどしない。
「逆に言えば、無茶してでもシルビアを守りたかったんだよな……なのに、俺達は…!」
自分達の不甲斐無さを感じて、クウは罪悪感に苛まれたのか固く拳を握る。
あちら側のスピカはシルビアを守る為に、見ず知らずの自分達に希望を託した。なのに、守るべきシルビアを奪われた事でその思いを踏み倒す行為をしてしまった。
「それでも彼女を取り戻す。あなたはそう決めたのでしょう」
「そう、だけど…」
思い出させるように言ったイリアの言葉に、何処となく困惑の表情を浮かべるクウ。
「――悪い、ちょっと一人にさせてくれ」
「え、あっ! クウさん!?」
突然背中を向けるなり、その場から離れるクウ。
いきなりの単独行動にイオンが呼び止めようとするが、イリアが前に出た。
「私が行く。あなた達は適当に調べていて」
「イリアドゥスさん!?」
そう淡白に言いつつクウを追いかけるイリアに、イオンは手を伸ばす。
しかし、二人の言い知れぬ何かにそれ以上足を踏み出す事が出来なかった。
「はぁ…」
イオン達と別れ校舎の入口に来るなり、クウは思いっきり溜息を吐く。
そうして辛そうに頭を押さえていると、後を追いかけて来たイリアがやってきた。
「さっきから随分と口数が減ってるわね」
「…そんな事ねーよ。いろんな記憶見せられるんだ、疲れも溜まるだろ?」
「そうかしら? 口数が減りだしたのは…別のあなたがスピカに手をかけた記憶を見た時だと思うのだけど」
図星を指され、明らかに顔を歪ませるクウ。
その苛立ちからか、思わず棘のある言い方をしてしまう。
「…神様には何もかもお見通しかよ」
「いいえ、あなたが分かりやすいだけ。恐らく、誰でも見抜けるわ」
淡々と物事を話すイリアに、やがてクウは俯きながらも心の内を吐き出した。
「この世界、そこに住む俺達。別人だってちゃんと分かってる。それでも…簡単に割り切れる訳ねえだろ…!!」
辛そうに声を震わせ、自然と拳を握る。
記憶とは言え、恐れている未来を目の当りにしたのだから。
「エンも、シャオの世界の俺もスピカを失っている。もしそれが定められた『運命』なら…俺もスピカを失うかもしれないだろ…!!」
『Sin化』しても助ける術がある事はもう知っている。しかし、別の世界では自分の所為で彼女を失っているのだ。本当に助けられる事が出来るのか、嫌でも不安になる。
今にも不安で押し潰されそうなクウに対し、イリアは静かに語りかける。
「そうね…彼女を失う事が必然なら、それは運命となる――…だけど、未来の全てが運命で形作られている訳ではない。彼女を失うかどうか…それは、あなたの“選択”によるものじゃないのかしら?」
このイリアの言葉に、クウは失笑を起こす。
「エンも、ここの俺も選択を間違えた…だからスピカを失ったってか? 気休めにも程があるだろ」
「そうは思わないわ」
キッパリと答えると、イリアはまるで遥か遠くを見つめる目を浮かべる。
「この世に生きる者たちは、何時かは死へと辿り着く。その間に、様々な人達と出会い別れる……そんな人達とどう接するか。それは心の赴くままではないかしら?」
遠くを見つめながらもクウに語る蒼天の瞳に、何時しか否定の感情が引いていく。
内容はどう考えても気休め程度にしかならない。だが、イリアは世界を統べるカミだ。語る言葉に重みがある。
「例えば、あなたの仲間である無轟。あなたの世界では孤児だったけど…私達の世界では、彼は家族から冷遇の扱いを受けていた。二人は同じ絶望を体験して、炎産霊神と出会った。どんな生き方であれ、二人が出会う事は必然だったのでしょうね」
こちらの世界では冷遇な扱いを受けて育ち、クウの世界では孤児として乱戦の世界を生きて死にかけた。歩む道は違えど、彼は炎産霊神と出会った事で生きる事が出来た。
誰かと出会う事は必然であり運命。それでも、訪れるであろう別れは“選択”によって未来が変わる事もある。
「様々な出会いをして、これから起こる宿命の中でどんな選択をして生きていくか。全ては、あなた次第よ」
そう言って、真っ直ぐにクウを見据えるイリア。
青く澄んだ彼女の眼差しに、話を聞いていたクウはゆっくりと口を開いた。
「――イリア、一つ頼みがある」
思わずエンが手を止めて振り返ると、スピカがゆっくりと立ち上がっていた。
「私は…まだ、見守っていないといけないの…――クウを、ウィドを、この子を…彼らの生徒達をっ!!!」
スピカの叫びと共に、何かが割れる音と共に魔法陣が跡形もなく消滅した。
「自力で魔法を打ち破ったっ!?」
これにはエンも驚いていると、スピカは再び剣を握って走り込む。
驚いているエンの懐に素早く入り込むと、思いっきり叫んだ。
「クウ、技借りるわよ!! 炎撃嵐舞っ!!!」
そのまま剣を振り上げると、炎の衝撃波をエンにぶつけた。
予想以上に効いたらしく、エンはあちこち燃えながらアウルムを落として後ろへよろめいていく。
スピカが更に攻撃しようと踏み込むと、顔に巻きついている布が燃え尽きた。
―――露わになったエンの素顔に、スピカは目を大きく見開いて足を止めた。
「えっ…!?」
「その顔は…!!」
見せた顔に、スピカだけでなくシルビアも目を見開く。
それもそうだ。露わになった顔は、大人びているがクウと酷似している。自分達の見知ったその顔に、二人は知らないうちに後ずさる。
この二人の様子に、エンは焦りを浮かべて手にダブルセイバーを持ち勢いよく振った。
「テラーバーストっ!!」
すると、暴力的な黒い風が二人に向かって襲い掛かる。
アウルムはすぐにシルビアを放して距離を取ると同時に、黒い暴風が二人を巻き込んだ。
「「きゃあああああああああああ(うあああああああああ)っ!!!」」
悲鳴を上げて、遠くに吹き飛んでいく二人。
不意を突かれたとはいえ、一つの攻撃だけで全身が傷だらけになってしまい受け身も取れずに全身を地面に叩きつけられる。
そして、再びエンとアウルムが近付く。これを見て、スピカは何かを決意する目になって倒れながらシルビアに手を翳した。
「スピカ…?」
「シルビア…あなただけでも、逃げて…!」
その呟きと共に、何かの魔法を唱える。
すると、シルビアが淡白い光に包まれた。
「この魔法は…!?」
「逃がさん!!」
驚くエンに対し、アウルムはすぐに近付く。
その前に、スピカが素早く魔法を唱えた。
「フリーズウォール!!」
冷気が漂うなり、スピカとシルビアの周りに氷の壁が作られる。
そのままスピカが剣を支えに立ち上がっていると、シルビアが叫んだ。
「嫌じゃ!! スピカを残して、『他の世界』へ逃げるなど――!!」
「私なら、大丈夫だから…――それに、その世界にはきっと“私達”がいるし、協力してくれるはずだから」
「スピカ……スピカァ!!!」
シルビアは手を伸ばすが、届く事無く消えてしまう。
それを見送ると、氷が割れる音が響く。見ると、エンがダブルセイバーで壁となる氷を砕いていた。
この様子に、スピカは力無い笑みを浮かべて剣を構え直した。
「さあ…続きと、いきましょうか…?」
「悪いが、私にはボロボロの状態のあなたとは戦えません」
「優しいのね…『彼』と顔が一緒だから?」
「――かも、しれません」
「そう……でもね」
そこで言葉を切ると、足元に魔法陣を浮かべた。
「――私には戦う理由があるのよっ!!!」
エンに向かって叫ぶと、スピカは足元の魔法陣を輝かせる。
決意の篭った瞳で睨みつけると、手を横に翳した。
「手加減しない―――来なさい、《バハムート》っ!!!」
スピカの呼びかけに、闇で包まれた空間の上空から何かが落下する。
それが地面に直撃すると、砂埃が辺りに舞う。その中から甲高い竜の鳴き声が響き渡る。
砂埃が収まると、そこには巨大な竜―――バハムートが仁王立ちで立っている。こうして召喚に成功すると、スピカはエン達に向かって手を翳した。
「これが最高の一撃よ!!! バハムート、ギガフレアァ!!!」
「マイティガード」
バハムートが飛び上がって大きく開けた口に力を溜めると同時に、エンは何処か冷静にアウルムと一緒に魔法の障壁を纏う。
地面が罅割れながら溜めているエネルギーが最高潮に達すると、二人に向かって一気にエネルギーを放出した。
一筋の光線をバハムートがエンとアウルムにぶつけると、全てを吹き飛ばすかのように強大な爆発を起こして視界を白に染め上げた。
やがて辺りに砂埃が舞った状態でバハムートは何処かに飛び去っていく。スピカはそれを見送るなり、剣を支えにして膝を付いた。
「はぁ…はぁ…」
息を切らし、まるで何かを堪える様にスピカは顔を歪ませる。
「ごめんね…シルビア…」
弱々しく呟くと、ゆっくりと前を見る。
掠れた視界に見えたのは―――平然と立っているエンとアウルムの姿だった。
「やっぱり、無理だった…」
自分では敵わない圧倒的な力に、スピカは逃がしたシルビアに詫びながらその場に倒れた…。
「――これが、あなた達に起こった事件の始まりよ」
二人の戦いの光景が消え、元の場所に戻るなりイリアが今の記憶を説明する。
それに対し、三人は何も言えずに黙って口を閉ざしていた。
「あの人がエン…本当に、クウさんと顔が一緒なんですね…」
「シルビアとアウルム…χブレード…」
どうにかイオンとペルセが声を出していると、クウも困惑とした顔でイリアに視線を向けた。
「イリア…あっちの世界のスピカ、どうしてルキルに…?」
「シャオの世界の彼女は、その世界のあなたに殺された。それでも心残りが合ったから《霊体》になったのでしょう。死後の世界に行かず、彷徨う魂として世界に留まり彼らを見守り続けた」
死しても尚、力になろうとしたスピカ。その心の強さは、生半端な物ではないだろう。
イオンとペルセだけでなく、クウまで黙り込む中でイリアは話を続ける。
「そんな彼女にとって、人形(レプリカ)の身体は『器』にも等しい存在。ルキルの身体を使う事で、彼女はああして行動をする事が出来る……だけど、その分負担がかかる」
「負担?」
スピカの行動に何かしらのデメリットがあった事に、クウが聞き返す。
「強い魔法や技を使うには、それ相当の魔力や精神力が必要になる。あの世界のルキルには彼女の様な強さは身に付いていない。そんな身体で戦い続ければ――」
「すぐに限界が訪れる…ですよね?」
魔法についてそれなりに詳しいようで、イオンが結論をつける。
魔力を捨てたとは言え、本来スピカは剣術も魔法もかなりの使い手だ。強力な攻撃をすればするほど、ルキルの持つ魔力も体力も底をつくし下手をすれば身体が耐えられずに壊れてしまう。
あの竜―――確か『バハムート』と言っていたが―――を呼び出したのも、かなりの負担となっていたはずだ。そうでなければ、攻撃が終わった後に倒れたりなどしない。
「逆に言えば、無茶してでもシルビアを守りたかったんだよな……なのに、俺達は…!」
自分達の不甲斐無さを感じて、クウは罪悪感に苛まれたのか固く拳を握る。
あちら側のスピカはシルビアを守る為に、見ず知らずの自分達に希望を託した。なのに、守るべきシルビアを奪われた事でその思いを踏み倒す行為をしてしまった。
「それでも彼女を取り戻す。あなたはそう決めたのでしょう」
「そう、だけど…」
思い出させるように言ったイリアの言葉に、何処となく困惑の表情を浮かべるクウ。
「――悪い、ちょっと一人にさせてくれ」
「え、あっ! クウさん!?」
突然背中を向けるなり、その場から離れるクウ。
いきなりの単独行動にイオンが呼び止めようとするが、イリアが前に出た。
「私が行く。あなた達は適当に調べていて」
「イリアドゥスさん!?」
そう淡白に言いつつクウを追いかけるイリアに、イオンは手を伸ばす。
しかし、二人の言い知れぬ何かにそれ以上足を踏み出す事が出来なかった。
「はぁ…」
イオン達と別れ校舎の入口に来るなり、クウは思いっきり溜息を吐く。
そうして辛そうに頭を押さえていると、後を追いかけて来たイリアがやってきた。
「さっきから随分と口数が減ってるわね」
「…そんな事ねーよ。いろんな記憶見せられるんだ、疲れも溜まるだろ?」
「そうかしら? 口数が減りだしたのは…別のあなたがスピカに手をかけた記憶を見た時だと思うのだけど」
図星を指され、明らかに顔を歪ませるクウ。
その苛立ちからか、思わず棘のある言い方をしてしまう。
「…神様には何もかもお見通しかよ」
「いいえ、あなたが分かりやすいだけ。恐らく、誰でも見抜けるわ」
淡々と物事を話すイリアに、やがてクウは俯きながらも心の内を吐き出した。
「この世界、そこに住む俺達。別人だってちゃんと分かってる。それでも…簡単に割り切れる訳ねえだろ…!!」
辛そうに声を震わせ、自然と拳を握る。
記憶とは言え、恐れている未来を目の当りにしたのだから。
「エンも、シャオの世界の俺もスピカを失っている。もしそれが定められた『運命』なら…俺もスピカを失うかもしれないだろ…!!」
『Sin化』しても助ける術がある事はもう知っている。しかし、別の世界では自分の所為で彼女を失っているのだ。本当に助けられる事が出来るのか、嫌でも不安になる。
今にも不安で押し潰されそうなクウに対し、イリアは静かに語りかける。
「そうね…彼女を失う事が必然なら、それは運命となる――…だけど、未来の全てが運命で形作られている訳ではない。彼女を失うかどうか…それは、あなたの“選択”によるものじゃないのかしら?」
このイリアの言葉に、クウは失笑を起こす。
「エンも、ここの俺も選択を間違えた…だからスピカを失ったってか? 気休めにも程があるだろ」
「そうは思わないわ」
キッパリと答えると、イリアはまるで遥か遠くを見つめる目を浮かべる。
「この世に生きる者たちは、何時かは死へと辿り着く。その間に、様々な人達と出会い別れる……そんな人達とどう接するか。それは心の赴くままではないかしら?」
遠くを見つめながらもクウに語る蒼天の瞳に、何時しか否定の感情が引いていく。
内容はどう考えても気休め程度にしかならない。だが、イリアは世界を統べるカミだ。語る言葉に重みがある。
「例えば、あなたの仲間である無轟。あなたの世界では孤児だったけど…私達の世界では、彼は家族から冷遇の扱いを受けていた。二人は同じ絶望を体験して、炎産霊神と出会った。どんな生き方であれ、二人が出会う事は必然だったのでしょうね」
こちらの世界では冷遇な扱いを受けて育ち、クウの世界では孤児として乱戦の世界を生きて死にかけた。歩む道は違えど、彼は炎産霊神と出会った事で生きる事が出来た。
誰かと出会う事は必然であり運命。それでも、訪れるであろう別れは“選択”によって未来が変わる事もある。
「様々な出会いをして、これから起こる宿命の中でどんな選択をして生きていくか。全ては、あなた次第よ」
そう言って、真っ直ぐにクウを見据えるイリア。
青く澄んだ彼女の眼差しに、話を聞いていたクウはゆっくりと口を開いた。
「――イリア、一つ頼みがある」
■作者メッセージ
【パーティチャット】(カイリ編)
カイリ「あーあ。みーんなそれぞれ出かけちゃって、私一人留守番状態……暇だなぁ」
ルキル達が眠る部屋。そこで椅子に座って愚痴っていたが…。
カイリ「そうだ!」
菜月「――で、その時オイラは言ってやった訳さ。『名乗る程の者ではございません…』ってさ!」
神月「似合わないセリフだな」
菜月「グサァ!」
ヴァイ「もー、お兄ちゃん。そう正直に言わないの」
紗那「そうそ――…あれ? カイリ、何をしてるの?」(開きっぱなしのドアから覗き見る)
カイリ「あ、みんな丁度いいところに! 見てみてー!」
菜月「何を――ぶふぉ!?」
神月「こ、これは…!!」
カイリ「どう!? リクの前髪、前から邪魔そうだって思ってたの! 折角だからピンやゴムで留めてみたんだけど…ね、こうしたらスッキリしてるでしょ!」
そう言ってカイリが見せるのは…前髪を可愛らしいピンで留め、左右にツインテールしているルキルの顔だった。
ヴァイ「ま、まあスッキリはしてるけど…」
紗那「この状態で本人が起きたら落ち込みそうね…」
カイリ「あーあ。みーんなそれぞれ出かけちゃって、私一人留守番状態……暇だなぁ」
ルキル達が眠る部屋。そこで椅子に座って愚痴っていたが…。
カイリ「そうだ!」
菜月「――で、その時オイラは言ってやった訳さ。『名乗る程の者ではございません…』ってさ!」
神月「似合わないセリフだな」
菜月「グサァ!」
ヴァイ「もー、お兄ちゃん。そう正直に言わないの」
紗那「そうそ――…あれ? カイリ、何をしてるの?」(開きっぱなしのドアから覗き見る)
カイリ「あ、みんな丁度いいところに! 見てみてー!」
菜月「何を――ぶふぉ!?」
神月「こ、これは…!!」
カイリ「どう!? リクの前髪、前から邪魔そうだって思ってたの! 折角だからピンやゴムで留めてみたんだけど…ね、こうしたらスッキリしてるでしょ!」
そう言ってカイリが見せるのは…前髪を可愛らしいピンで留め、左右にツインテールしているルキルの顔だった。
ヴァイ「ま、まあスッキリはしてるけど…」
紗那「この状態で本人が起きたら落ち込みそうね…」