メモリー編16 「14番目の記憶・2」
あの時計台の上でアクセルは定位置の場所に座り、ロクサスと一緒に何かを話している。
「ミッション、どうだった?」
「ハートレスってのは、何であんなにめんどくせー動きすんだろうな。おかげで腰打っちまった」
「強いんじゃなかったのか?」
「それとこれとは話が別だ。で、お前らはどうだったんだ?」
若干肩を竦めながら、逆にロクサスに問いかける。
すると、ロクサスの後ろで黒い腕を伸ばした。
「じゃ〜ん!」
そんな陽気な声と共に、手の内が光り出す。
すると、キーブレード――ソラと同じキングダムチェーンをその手に出現させた。
「おっ」
「ロクサスとアクセルのおかげだよ」
アクセルが驚いていると、握っていたキーブレードを消して言う。
それを聞いて、アクセルは苦笑を張り付けて目を逸らす
「俺は何もしてないぜ」
「朝、アクセルがふたりで任務に行けるようにしてくれたじゃない」
「アクセルがいなかったら“―――”はキーブレードを取り戻せなかったかもしれない」
ロクサスも続けて言うと、笑顔を浮かべた。
「「ありがとう、アクセル」」
そうして、心の篭ったようにお礼を述べる二人。
この二人に、そっぽを向きながら黙っていたアクセルがようやく口を開いた。
「……シーソルトアイス一本でどうだ?」
「えっ?」
「それで今回の件はチャラだ」
何処か気恥ずかしそうに言うアクセルに、キョトンとなったロクサスと目を合わせる。
だが、すぐに嬉しそうな表情を浮かべた。
「あたし、アイス買ってくる!」
その場で振り返ると、時計台を降りる為に駆け出した。アイスを買う為に…。
「ふふっ…」
映像を見終わると共に、オパールが噴き出す。
嬉しそうに笑っていたが、三人の視線に気づいて慌てて手を振った。
「あ、ごめん…! 笑ってる場合じゃないよね」
「分かってるなら次に行くぞ」
それだけ言うと、ウィドはリュウドラゴンの後を追って次の記憶に向かう。
浮かれていた事に思わず反省していると、リクが元気づけるように軽く肩を叩いた。
「気にするな。ようやくお前の知ってるあいつを見れたんだ、良かったな」
「…うん」
リクの言葉に小さく頷くと、リュウドラゴンがいる次の記憶の歪みへと入った。
自分達がいた場所に似た、無機質な材質で作られた通路。
その場所で、何故かサイクスと向かい合っていた。
「もう一度――お願い!」
必死な様子で頼み込んでいるのが分かるが、サイクスの目はとても冷ややかだ。
「我々はそれほど暇な訳ではない。やはりお前が失敗作だった、と言うだけのことだ」
心無い言葉にショックを受けたのか、視線を足元に落とす。
その間に、サイクスが去って行ったのか無機質な足音が遠ざかっていく。
「“―――”…?」
その時、切り取られた声が後ろから聞こえた。
振り返ると、茫然としてロクサスがこちらを見ている。
直後、まるでロクサスから逃げるようにその場を走り去った。
「今のは…仲間割れの記憶かな?」
「仲間割れとは少し違う気がしますが…これがどう繋がるのか」
今までとは少し違った記憶に、互いに推測を語るシーノとウィド。
二人の邪魔にならないよう黙ってボンヤリと眺めてるリク。
そうしていると、急にオパールが背を向けて自分達から離れていった。
「オパール?」
「…そんなわけ、ないよ…アイザだって、きっと…」
半ば自分に言い聞かせるように、そんな事をブツブツと呟いている。明らかにオパールの様子がおかしい。
声をかける事に戸惑ってしまうが、オパールが呟いた言葉にリクの中である推測が結びついた。
「おい! まさか…お前が言ったリアの親友って――!?」
そこまで言った所で、リュウドラゴンが鳴いて自分達を呼ぶ。
すると、オパールは目を合わせずにリクの横を通り過ぎる。
「呼んでるよ、いこ」
それだけ言うと、リクから逃げるように早足で歩き去った。
再び記憶の歪みに入ると、何故か暗闇が一面に広がる。
しかし、何処となく揺さぶられている感覚と二つの足音が響いている。どうやら横になって運ばれているようだ。
「結局また倒れたのか、失敗作め」
そんな中、急にサイクスの声が聞こえて足音が止む。
姿は見えないが、声色から察するに冷たい目でこちらを見ているのだろう。
「そんな言い方ないだろ…!」
まるで反論するようにロクサスの怒りの声が聞こえる。
「黙ってろ」
少ししてやけに冷たいアクセルの声がすぐ近くで響くと、再び歩き出したのか足音が響く。
そうしていると、もう一つの足音が追いついた。
「アクセル!」
「何だよ」
「…あんな風に言ってよかったのか?」
「どう言う意味だよ」
「だって…アクセルとサイクスって普通に仲がいいだろ」
若干不安そうにロクサスが話すと、アクセルは平淡に答える。
「別に仲良しな訳じゃねえし、そもそも先に食ってかかったのはお前だろ」
「それはそうだけど――」
そうこう話していたが、やがて二人は無言となってしまう。
しばらくして足音が鳴りやみ、シーツの擦れる音がした。どうやらベットに寝かせられたようだ。
「…アクセルも“―――”が心配なのか?」
「当たり前だ」
ロクサスの問いに、尚もアクセルは低い声で答える。
「何か変な感じがする」
「どう言う意味だよ」
「アクセルって面倒くさいこと嫌いだろ?」
そうロクサスが聞くと、少しだけ沈黙が過った。
「なあ、ロクサス。俺達は何で毎日あんな所で3人、一緒にアイス食べてるんだろうな?」
「…え?」
「これと言って用もねえのにさ、普通に考えたら面倒くさいだけだろ?」
アクセルが聞き返すと、また沈黙が支配する。恐らく、言葉の意味をロクサスが考えているのだろう。
「教えてやろうか?――それは俺達が親友だからだ」
それはノーバディと言う存在にしてみればあり得ないセリフだろう。それでも、言葉には空虚では無い確かな意思が込められていた。
「ちゃんと記憶しとけ、俺達は親友だ」
「そっか……そうだよな…」
「ふふっ…」
ロクサスが納得すると同時に、暗闇に光が灯る。
広がった視界には、白い天井が映る。そのまま横に目を向けると、ロクサスとアクセルがこちらを見ていた。
「ありがとう…アクセル」
「…親友、か」
「リク?」
元の場所に戻るなり意味ありげに呟くリクに、シーノが振り返る。
リクは何処か暗い表情で顔を俯かせていた。
(アクセルとロクサスが親友なのはもう知ったんだ。さすがにロクサスを消した事、話した方がいいだろうな…)
アクセルのもう一人の親友が誰かは分からないが、ロクサスはもういない。
ソラを目覚めさせるために、ロクサスを消したのは他ならぬ自分だ。これを知った時、オパールは多少なりとも悲しむだろう。もしかしたら、自分を卑下するかもしれない。
だからと言って、黙っていても何時かは知ってしまう。それならば、今ここで話しておいた方がいい。
「オパール…俺は――」
勇気を振り絞って、オパールへと顔を向ける。
そうしてオパールを見ると、どう言う訳か顔を青ざめて肩を震わせている。
これには覚悟も薄れ、反射的に肩を掴んだ。
「おい…さっきからおかしいぞ。本当に大丈夫か?」
「…平気」
掻き消えそうな声で呟くと、リクから目を逸らす。
触れて欲しくないとばかりに拒絶の反応を見せるオパールに、リクは少しだけ黙るとゆっくりと呟いた。
「――アイザ」
「っ!?」
ビクリと分かりやすく反応を示すオパールを見て、リクの中にあった考えが確証に変わった。
「お前が言ったリアの親友、サイクスの事なのか? あの二人…親友だったのか?」
「…ッ…!」
逃げ場を作らない様に言葉で攻めると、明らかな動揺を浮かべるオパール。
次の瞬間、リクを払い除けるとその場から走り去った。
「待て、オパール!!」
逃げるオパールに、即座にリクが追いかける。
こうして二人がいなくなるのを見て、ウィドは顔を顰めた。
「あの二人、また…」
「その内戻って来るよ。それにしても、あいつ。女の子に『失敗作』だなんてあまりにも酷過ぎる。ノーバディでもここまで酷い扱いされたら傷つくに決まってるのに…」
先程の記憶を思い返し、シーノがサイクスに対して文句を言っていると唐突にウィドが息を呑んだ。
「失敗作――まさか…」
「どうしたの、もしかして何か分かった? …ウィド?」
何処か様子がおかしくシーノが顔を覗き込むと、ウィドの目は僅かに動揺を浮かべている。
「なん、でもない…行くぞ」
シーノから目を逸らすなり、リュウドラゴンの待つ記憶の歪みへと向かう。
(例え予想が当たっていたとしても…敵ならば倒す、そしてルキルを救う。躊躇も戸惑いもいらない…いらないんだ…!!)
芽生えた感情を殺す様に、呪詛の言葉を心の中に刷り込ませる。
そんなウィドを、リュウドラゴンは静かに見つめていた。何処かもの悲しげに。
何処となく見覚えのある廊下を走りながら、オパールを追いかける。
彼女の足は確かに早い。今まで直にそれを見て来たし体験している。だが、距離はそんなにない。このまま全力で走れば、確実に追いつく。
やがて廊下を抜けると、外の通路に出る。そこの坂道を一気に駆け下りて、オパールとの距離を縮めて手を伸ばした。
「オパールっ!!」
ようやく追いついて腕を掴むと、そのまま足を止める。
さっきのように払う事はせず、掴んだ状態のままお互いに肩で息をして呼吸を整えた。
「…いよ…」
少しして、顔を俯かせながらもオパールがポツリと呟く。
「信じ、たいよ…リアみたいに、信じたい……アイザの部分、あるって…」
途切れ途切れながらも、心にある感情をどうにか言葉にして伝えようとする。
「なのに、信じられない…――リアと違って、全然…信じきれないよぉ…!」
力無く首を振ると共に、オパールはとうとうその場に座り込んでしまった。
あまりにも弱々しい姿に、リクは知らない内に掴んでいた腕を放してしまう。
「リアとあんなに仲良かったのに…あんなに冷たくなかったのに……どうして、あそこまで変わったの…! なんで、リアも冷たいの…! ノーバディになったら、なにもかも無かった事になるの…!」
最初にアクセルを見た時に近いが、それよりもショックを受けている。
ようやくリアとしての部分が見えたと思ったら、今度はサイクスが変わって、彼女だけが知る二人の絆も無くなっていた。安心した矢先にあの記憶を見せられたから、ショックが何倍にもなって襲い掛かったのだろう。
座り込んだまま泣き出したオパールを見て、リクはそっと抱き締めた。
「え…!?」
「泣きたかったら、泣いていいんだ。こんな俺で良かったら、こうやって幾らでも受け止めてやるから…」
「バカ…こんなの、あたしよりリリィにしなさいよ…」
「あぁ、そうだな…」
脳裏に思い人が思い浮かぶものの、尚もオパールを優しく抱きしめる。
さっきオパールに泣かれた時はどうすればいいか分からず、成すがままだった。しかし、今は違う。どう悲しみを受け止めればいいのかちゃんと分かる。
そうしてリクの優しさが伝わるが、それに伴いオパールにはリリィに対しての罪悪感が芽生え始めた。
「もう、いいでしょ…この手放して…!」
「出来るかよ。俺にとっては、お前も大事な存在だ」
「ぇ――」
耳を疑う言葉に、思わずオパールは目を見開いた時だ。
「キューン」
突然坂の下から、可愛らしい動物の鳴き声が響き渡った。
「ミッション、どうだった?」
「ハートレスってのは、何であんなにめんどくせー動きすんだろうな。おかげで腰打っちまった」
「強いんじゃなかったのか?」
「それとこれとは話が別だ。で、お前らはどうだったんだ?」
若干肩を竦めながら、逆にロクサスに問いかける。
すると、ロクサスの後ろで黒い腕を伸ばした。
「じゃ〜ん!」
そんな陽気な声と共に、手の内が光り出す。
すると、キーブレード――ソラと同じキングダムチェーンをその手に出現させた。
「おっ」
「ロクサスとアクセルのおかげだよ」
アクセルが驚いていると、握っていたキーブレードを消して言う。
それを聞いて、アクセルは苦笑を張り付けて目を逸らす
「俺は何もしてないぜ」
「朝、アクセルがふたりで任務に行けるようにしてくれたじゃない」
「アクセルがいなかったら“―――”はキーブレードを取り戻せなかったかもしれない」
ロクサスも続けて言うと、笑顔を浮かべた。
「「ありがとう、アクセル」」
そうして、心の篭ったようにお礼を述べる二人。
この二人に、そっぽを向きながら黙っていたアクセルがようやく口を開いた。
「……シーソルトアイス一本でどうだ?」
「えっ?」
「それで今回の件はチャラだ」
何処か気恥ずかしそうに言うアクセルに、キョトンとなったロクサスと目を合わせる。
だが、すぐに嬉しそうな表情を浮かべた。
「あたし、アイス買ってくる!」
その場で振り返ると、時計台を降りる為に駆け出した。アイスを買う為に…。
「ふふっ…」
映像を見終わると共に、オパールが噴き出す。
嬉しそうに笑っていたが、三人の視線に気づいて慌てて手を振った。
「あ、ごめん…! 笑ってる場合じゃないよね」
「分かってるなら次に行くぞ」
それだけ言うと、ウィドはリュウドラゴンの後を追って次の記憶に向かう。
浮かれていた事に思わず反省していると、リクが元気づけるように軽く肩を叩いた。
「気にするな。ようやくお前の知ってるあいつを見れたんだ、良かったな」
「…うん」
リクの言葉に小さく頷くと、リュウドラゴンがいる次の記憶の歪みへと入った。
自分達がいた場所に似た、無機質な材質で作られた通路。
その場所で、何故かサイクスと向かい合っていた。
「もう一度――お願い!」
必死な様子で頼み込んでいるのが分かるが、サイクスの目はとても冷ややかだ。
「我々はそれほど暇な訳ではない。やはりお前が失敗作だった、と言うだけのことだ」
心無い言葉にショックを受けたのか、視線を足元に落とす。
その間に、サイクスが去って行ったのか無機質な足音が遠ざかっていく。
「“―――”…?」
その時、切り取られた声が後ろから聞こえた。
振り返ると、茫然としてロクサスがこちらを見ている。
直後、まるでロクサスから逃げるようにその場を走り去った。
「今のは…仲間割れの記憶かな?」
「仲間割れとは少し違う気がしますが…これがどう繋がるのか」
今までとは少し違った記憶に、互いに推測を語るシーノとウィド。
二人の邪魔にならないよう黙ってボンヤリと眺めてるリク。
そうしていると、急にオパールが背を向けて自分達から離れていった。
「オパール?」
「…そんなわけ、ないよ…アイザだって、きっと…」
半ば自分に言い聞かせるように、そんな事をブツブツと呟いている。明らかにオパールの様子がおかしい。
声をかける事に戸惑ってしまうが、オパールが呟いた言葉にリクの中である推測が結びついた。
「おい! まさか…お前が言ったリアの親友って――!?」
そこまで言った所で、リュウドラゴンが鳴いて自分達を呼ぶ。
すると、オパールは目を合わせずにリクの横を通り過ぎる。
「呼んでるよ、いこ」
それだけ言うと、リクから逃げるように早足で歩き去った。
再び記憶の歪みに入ると、何故か暗闇が一面に広がる。
しかし、何処となく揺さぶられている感覚と二つの足音が響いている。どうやら横になって運ばれているようだ。
「結局また倒れたのか、失敗作め」
そんな中、急にサイクスの声が聞こえて足音が止む。
姿は見えないが、声色から察するに冷たい目でこちらを見ているのだろう。
「そんな言い方ないだろ…!」
まるで反論するようにロクサスの怒りの声が聞こえる。
「黙ってろ」
少ししてやけに冷たいアクセルの声がすぐ近くで響くと、再び歩き出したのか足音が響く。
そうしていると、もう一つの足音が追いついた。
「アクセル!」
「何だよ」
「…あんな風に言ってよかったのか?」
「どう言う意味だよ」
「だって…アクセルとサイクスって普通に仲がいいだろ」
若干不安そうにロクサスが話すと、アクセルは平淡に答える。
「別に仲良しな訳じゃねえし、そもそも先に食ってかかったのはお前だろ」
「それはそうだけど――」
そうこう話していたが、やがて二人は無言となってしまう。
しばらくして足音が鳴りやみ、シーツの擦れる音がした。どうやらベットに寝かせられたようだ。
「…アクセルも“―――”が心配なのか?」
「当たり前だ」
ロクサスの問いに、尚もアクセルは低い声で答える。
「何か変な感じがする」
「どう言う意味だよ」
「アクセルって面倒くさいこと嫌いだろ?」
そうロクサスが聞くと、少しだけ沈黙が過った。
「なあ、ロクサス。俺達は何で毎日あんな所で3人、一緒にアイス食べてるんだろうな?」
「…え?」
「これと言って用もねえのにさ、普通に考えたら面倒くさいだけだろ?」
アクセルが聞き返すと、また沈黙が支配する。恐らく、言葉の意味をロクサスが考えているのだろう。
「教えてやろうか?――それは俺達が親友だからだ」
それはノーバディと言う存在にしてみればあり得ないセリフだろう。それでも、言葉には空虚では無い確かな意思が込められていた。
「ちゃんと記憶しとけ、俺達は親友だ」
「そっか……そうだよな…」
「ふふっ…」
ロクサスが納得すると同時に、暗闇に光が灯る。
広がった視界には、白い天井が映る。そのまま横に目を向けると、ロクサスとアクセルがこちらを見ていた。
「ありがとう…アクセル」
「…親友、か」
「リク?」
元の場所に戻るなり意味ありげに呟くリクに、シーノが振り返る。
リクは何処か暗い表情で顔を俯かせていた。
(アクセルとロクサスが親友なのはもう知ったんだ。さすがにロクサスを消した事、話した方がいいだろうな…)
アクセルのもう一人の親友が誰かは分からないが、ロクサスはもういない。
ソラを目覚めさせるために、ロクサスを消したのは他ならぬ自分だ。これを知った時、オパールは多少なりとも悲しむだろう。もしかしたら、自分を卑下するかもしれない。
だからと言って、黙っていても何時かは知ってしまう。それならば、今ここで話しておいた方がいい。
「オパール…俺は――」
勇気を振り絞って、オパールへと顔を向ける。
そうしてオパールを見ると、どう言う訳か顔を青ざめて肩を震わせている。
これには覚悟も薄れ、反射的に肩を掴んだ。
「おい…さっきからおかしいぞ。本当に大丈夫か?」
「…平気」
掻き消えそうな声で呟くと、リクから目を逸らす。
触れて欲しくないとばかりに拒絶の反応を見せるオパールに、リクは少しだけ黙るとゆっくりと呟いた。
「――アイザ」
「っ!?」
ビクリと分かりやすく反応を示すオパールを見て、リクの中にあった考えが確証に変わった。
「お前が言ったリアの親友、サイクスの事なのか? あの二人…親友だったのか?」
「…ッ…!」
逃げ場を作らない様に言葉で攻めると、明らかな動揺を浮かべるオパール。
次の瞬間、リクを払い除けるとその場から走り去った。
「待て、オパール!!」
逃げるオパールに、即座にリクが追いかける。
こうして二人がいなくなるのを見て、ウィドは顔を顰めた。
「あの二人、また…」
「その内戻って来るよ。それにしても、あいつ。女の子に『失敗作』だなんてあまりにも酷過ぎる。ノーバディでもここまで酷い扱いされたら傷つくに決まってるのに…」
先程の記憶を思い返し、シーノがサイクスに対して文句を言っていると唐突にウィドが息を呑んだ。
「失敗作――まさか…」
「どうしたの、もしかして何か分かった? …ウィド?」
何処か様子がおかしくシーノが顔を覗き込むと、ウィドの目は僅かに動揺を浮かべている。
「なん、でもない…行くぞ」
シーノから目を逸らすなり、リュウドラゴンの待つ記憶の歪みへと向かう。
(例え予想が当たっていたとしても…敵ならば倒す、そしてルキルを救う。躊躇も戸惑いもいらない…いらないんだ…!!)
芽生えた感情を殺す様に、呪詛の言葉を心の中に刷り込ませる。
そんなウィドを、リュウドラゴンは静かに見つめていた。何処かもの悲しげに。
何処となく見覚えのある廊下を走りながら、オパールを追いかける。
彼女の足は確かに早い。今まで直にそれを見て来たし体験している。だが、距離はそんなにない。このまま全力で走れば、確実に追いつく。
やがて廊下を抜けると、外の通路に出る。そこの坂道を一気に駆け下りて、オパールとの距離を縮めて手を伸ばした。
「オパールっ!!」
ようやく追いついて腕を掴むと、そのまま足を止める。
さっきのように払う事はせず、掴んだ状態のままお互いに肩で息をして呼吸を整えた。
「…いよ…」
少しして、顔を俯かせながらもオパールがポツリと呟く。
「信じ、たいよ…リアみたいに、信じたい……アイザの部分、あるって…」
途切れ途切れながらも、心にある感情をどうにか言葉にして伝えようとする。
「なのに、信じられない…――リアと違って、全然…信じきれないよぉ…!」
力無く首を振ると共に、オパールはとうとうその場に座り込んでしまった。
あまりにも弱々しい姿に、リクは知らない内に掴んでいた腕を放してしまう。
「リアとあんなに仲良かったのに…あんなに冷たくなかったのに……どうして、あそこまで変わったの…! なんで、リアも冷たいの…! ノーバディになったら、なにもかも無かった事になるの…!」
最初にアクセルを見た時に近いが、それよりもショックを受けている。
ようやくリアとしての部分が見えたと思ったら、今度はサイクスが変わって、彼女だけが知る二人の絆も無くなっていた。安心した矢先にあの記憶を見せられたから、ショックが何倍にもなって襲い掛かったのだろう。
座り込んだまま泣き出したオパールを見て、リクはそっと抱き締めた。
「え…!?」
「泣きたかったら、泣いていいんだ。こんな俺で良かったら、こうやって幾らでも受け止めてやるから…」
「バカ…こんなの、あたしよりリリィにしなさいよ…」
「あぁ、そうだな…」
脳裏に思い人が思い浮かぶものの、尚もオパールを優しく抱きしめる。
さっきオパールに泣かれた時はどうすればいいか分からず、成すがままだった。しかし、今は違う。どう悲しみを受け止めればいいのかちゃんと分かる。
そうしてリクの優しさが伝わるが、それに伴いオパールにはリリィに対しての罪悪感が芽生え始めた。
「もう、いいでしょ…この手放して…!」
「出来るかよ。俺にとっては、お前も大事な存在だ」
「ぇ――」
耳を疑う言葉に、思わずオパールは目を見開いた時だ。
「キューン」
突然坂の下から、可愛らしい動物の鳴き声が響き渡った。
■作者メッセージ
ジャス「今回は、心剣編で登場しましたクォーツの技についての説明です」(ボードを取り出す)
ジャス「心剣編で彼らが遭遇した鏡は【ミラー・コピー】と言う能力の一種です。この技は前作のソラ&アクア編・シャオ編でも登場していて、鏡で相手の姿を映し化けさせる能力です。正体が鏡とは言え、姿形はもちろん能力も一緒に複写してしまいますのでなかなか厄介な戦いとなるでしょうね」
クォーツ「当然です。しかも今回は直接コピーを行いましたので、自我もある状態。どんな戦いを行ってくれるか見物です」
アバタール「ふん。朕の能力と一緒だが、こちらは相手の記憶から最強の人物を呼び出す。まさに人間風情、いや人間にも劣る心も無い抜け殻らしい二番煎じも良い所の能力だ「『ペンタゴン・サファイア』」おぶああああああっ!!!??」(氷流の激流に呑まれる)
クォーツ「心が無いからと言って不快に感じないと言う事はありませんからね。死者はさっさと退場してください」(ギロリ)
アバタール「お、おのれ…!! 人形風情が朕に刃向うと「ゲイボルク」はぐぉ!?」(ギリギリで黒い槍を避ける)
ジャス「ちっ、避けたか。だが、次は外さん…!! 私は神の人種、そしてお前のような傲慢な奴が大っ嫌いだからなぁ…!!」(殺気のオーラ)
アバタール「ハッ、面白い…!! ならば朕の偉大さを思い知れぇ!!! 人間風情がぁ!!!」(武器を取り出す)
ジャス「上等だ!! 来い、貴様のような愚神は私が直々に裁いてくれる!!!」
クォーツ「人間なりに築き上げた力、見せて差し上げます!!!」
ディザイア「…なんだよ、この別キャラ同士の三つ又の戦いは?」
ウィド「三人共、反りが合わないだけでしょう」