CROSS FRAGMENT1 「闇に染まりし勇者」
自分達のセカイではなく、別次元のセカイの荒れ果てた荒野。
乾いた風が吹いて砂埃が軽く舞う中に、アルガとティオンがいた。
「――大丈夫かしら、二人とも」
「さあな。俺達に出来る事は、二人を信じて待つ事だけだ」
心配なのかソワソワと落ち着きのないティオンと違い、アルガはどっしりと構えるように腕を組んで岩に背中を凭れている。
もう一つの――シルビアがいた世界へ辿り着き、ティオンは闇の世界への空間を作り出した。その際、アルガは闇の世界に行くアガレスとルシフに『時間による結界』をかけていた。闇の世界は空間だけでなく時間すらも不安な場所。闇側での一日が、光側では一年だったと言う事にもなる。(逆も然り)
いざ準備も終わり、アガレスとルシフを送りだし…――ミュロスから貰った通信用の栞を握り締めて二人の連絡が来るのを待っている。
そうして二人の会話が途絶えると、急に持っていた栞が反応を見せた。
「アガレス! ルシフ! 見つかったか!?」
栞に叫ぶようにアルガが声をかけると、アガレスからの返事が返って来た。
《見つかったには、見つかった…! 二人とも、何時でも私達を転移出来るようにしてくれ!!》
「何かあったの?」
《少々、問題があって――ルシフくん!?》
ティオンに説明しようとした時、悲鳴が上がる。
思わず二人が息を呑むと、今度はルシフの声が聞こえた。
《大丈夫です! それよりアガレスさん、転移の準備を!》
《二人共、頼む!》
「ティオン!」
「分かってる!」
緊急事態だと瞬時に判断し、アルガとティオンは心剣を手に取る。
そうして前方に転移用の大きな魔方陣を浮かび上がらせると、光と共に傷だらけのアガレスと《カオス》に変身したルシフ、その後ろには巨大な黒い球体が現れた。
「はぁ…はぁ…!」
蹲りながら身体を黒い光に包み、元の少年の姿に戻るルシフ。
そんな彼に、アガレスは労わる様に肩に手を置いた。
「ルシフくん、よく頑張った」
「いえ、まだです…! この人をタルタロスに連れて行って、元に戻さないと…!」
若干ふらつきながらも立ち上がると、後ろにある黒い球体に目を向ける。
「なんだ、この黒い球体は?」
「少し手荒ですが、この中に彼らの仲間であるソラさんを閉じ込めているんです」
「閉じ込める? どうして?」
険しい表情を見せるルシフに、立て続けにアルガが質問をする。
その時、球体から何かが引き裂かれるようなけたたましい音が響いた。
「なに、今の音…!?」
ゾクリとした恐怖を感じ、ティオンが球体を見ながら怯えた表情を浮かべる。
オルガも球体から目を離せずに固まっていると、すぐにルシフが説明した。
「…今、あの人は闇に包まれていてハートレスに近い状態になっているんです。だから、僕の力でこうして閉じ込めたんです」
「闇に包まれている? 呑まれてる訳じゃないのか?」
「ええ。今の彼は表面を闇でコーティングしている状態です。思考や姿はハートレスそのものだが、中身まで染まっている訳ではない。恐らく、闇の浸食に対する何かしらの自己防衛でそうなったのだと思うのだが…」
言い方に疑問を感じたアルガに、アガレスも説明に加わる。
原理はよく分からないが、彼は闇に対抗するために自ら闇に染めたのだろう。その辺りは本人に聞かないと分からない問題だ。
「とにかく、ソラさんの闇を払う為にタルタロスに行こうと思っているんです。あの町にある塔の光はハートレスを寄せ付けない。言い換えれば闇を払う光でもありますから」
「彼をこのまま拘束して塔の光を浴びせれば、すぐに元に戻るはずだ。悪いが、タルタロスまで転移を頼む」
「もちろんだ」
「どっちにしろ、この状態の彼を城に連れて帰る訳にはいかないわね。ビフロンスに危険な火種を持ち込むのもそうだし、仲間達はショックを受けかねない」
ルシフとアガレスの提案に、アルガとティオンは快く引き受ける。
闇に染まってしまった彼を元に戻し、拠点としているビフロンスに連れて行く。きっとそれだけで彼らに…いや、自分達にも光が生まれる。そんな気がするのだ。
心剣に力を注ぎ、まずは元の次元へ戻る為の魔方陣を自分達の周りに浮かび上がらせる。そのままタルタロスへの転移を行おうと、更に魔方陣を上書きしようとした。
―――直後、黒い球体の一部が破壊されると共に黒い影が飛び出した。
「なんだっ!?」
「っ!?」
突然の事に、二人は同時に振り返る。
飛び出した黒い影は目を光らせて、猛スピードでルシフへと接近してきた。
「ルシフくんっ!!!」
狙われたルシフを見て、即座にアガレスが手を伸ばす。
同時に、バチバチと激しい音が鳴り響いて魔方陣が爆発を起こした…。
タルタロスの町の外れで、大きな爆発音が響く。
辺り一面を覆う爆煙に、魔力による電撃が飛び散っている。
その中から黒い影が素早く現れると、四つん這いの状態で様子を窺うように身構えて出した。
「う、く…!」
呻き声と共に、煙が払われる。
そこには剣を握る腕を押さえるアルガとティオン。その背後には負傷したアガレスを抱えるルシフがいた。
「転移中に、攻撃するなんて…!!」
「おかげで、予定地点より大幅にずれたな…!!」
ティオンが歯を食い縛る横で、アルガは攻撃していた人物を睨みつける。
全身は真っ黒、目は黄色く光っている。全身から影のオーラを立ち上らせており、攻撃する時に見た鋭利的だった手や足は今は人としての形を保っている。一見するとハートレスそのものだが、全体的に少年の形を保っている。
少し前に起きたノーバディに関する事件を知ってる者がいたら、これは【アンチフォーム】となったソラだと分かるだろう。しかし、生憎とここにはその事実を知る者は誰もいない。
二人が起き上ったのを見てか、アンチソラは威嚇するように身構える。この様子に、アルガとティオンも剣を構え直した。
「相手は相当やる気らしい…こうなりゃ力づくで抑えつけるしかないようだな」
「そうね…行くわよ、アルガ!」
そう叫んでティオンが駆け出すと共に、アンチソラも獣の様に飛び掛かる。
こうして二人の戦いが始まるのをルシフは後ろで眺めると、抱えていたアガレスを楽な体制に寝かせて両手を掲げる。
回復魔法である『ケアルガ』を唱えて癒しの光を当てながら、悔やんだ表情を見せた。
「すみません、アガレスさん…僕のせいで…!!」
「気にする、事はない…! 君が傷ついたら…またお姉さんに、殴られるからな…!」
罪悪感を抱くルシフに対し、アガレスは痛みを堪えて笑いかける。
そんなアガレスの宥めが効いたのか、僅かだがルシフの表情に笑みが零れる。
戦いによる音を聞きながらもルシフは回復による魔法に集中し、アガレスも出来るだけ身動ぎしない。ただただ、傷を癒す事だけに専念した。
「しまった!?」
「ルシフ!! アガレスを連れて逃げてっ!!」
しかし、突如起こった二人の悲鳴にルシフはバッと顔を向ける。
そこには空中でアンチソラが手を尖らせ、こちらに飛びかかっている。
「ルシフくん!!」
とっさの事で動けないルシフに、思わずアガレスが起き上ってルシフを抱きかかえる。
ルシフを守るアガレスの背中に向けて、アンチソラは手を振り下ろす。
「ルシフに…手を出すなぁぁぁーーーーーっ!!!!!」
切り裂く直前で、アンチソラに向かって真横から高速の蹴りが飛んできた。
防御出来る訳もなくモロに受けたアンチソラは遠くまで吹っ飛ばされる。その間に、蹴りを入れた人物はシュタっと軽い足取りで地面に着地した。
「あなたは…!!」
「姉さん!?」
現れた助っ人であるフレイアに、思わずアガレスとルシフは驚きの声を上げる。
アルガとティオンもポカンと口を開けていると、更にこちらに駆け付ける足音が聞こえた。
「何が起きたか確認しに来たら…まあ、療養中の身体をリハビリさせるには丁度いい相手だ」
「あなたは…ジェミニ!?」
かつて自分達と同じでカルマによって洗脳させられていた人物に、ティオンが叫ぶ。
すると、ジェミニはこちらに気付いて一瞬顔を顰めるものの、すぐに笑いかけた。
「久しいな、お前達。レプセキア以来か…お互い、カルマの呪縛から逃れられてなりよりだ」
付けていた仮面が無い事で洗脳を解かれていると分かったらしく、嬉しそうに語りかけるジェミニ。
思わぬ再会に喜びを感じつつも、アルガは疑問を口をした。
「何でここに?」
「傷も大分良くなったから、この町を探索していてな。近くで派手な音がしたから来たんだ。それと、彼女とはたまたま一緒になってしまって」
苦笑を浮かべると、フレイアへと指を差す。
フレイアは怒りを露わにして、遠くで起き上ったアンチソラに向かって拳を構えていた。
「このハートレスがぁ!! ルシフに攻撃した事、身を持って後悔させてやらぁ!!」
「姉さん、待って!! 倒しちゃダメ!!」
「はぁ!? 何言って――!!」
「あの人はハートレスじゃないんだ!! この世界に必要な人だから、助けないとダメなんだ!!」
「ルシフ…なっ!?」
ルシフの言葉に戸惑いを浮かべている間に、アンチソラは猛スピードで近づいてフレイアに攻撃を仕掛けてきた。
どうにか回避を行うと、フレイアは間合いを取るようにアンチソラを誘導する。こうしてフレイアが時間稼ぎしてくれる中、アルガとティオンは作戦を立て始める。
「どうする? 拘束しようにも、こうも暴れられたら…」
「町中に誘き寄せる手もあるけど…二次被害が怖いわ」
少なくとも、今のソラは闇によって強化されている状態だ。スピードが速ければ時間による停止も僅かしか行えない。だからと言って、塔の近くに移動させれば元に戻る前に大暴れして復興しかけの街がまた壊れ住民達にも被害が及ぶ。
二人が思考を巡らせていると、アガレスの腕の中にいたルシフが軽く首を振った。
「いえ、その必要はありません…町中よりは遠いですがちゃんと光は当たっています。少し時間はかかりますが、いずれは元に戻る筈」
そこまで言うと、ルシフはアガレスの腕を押しのけるように前に出ると両手を伸ばす。
手に闇を纏わせると自身の武器でもある二丁のハンドガンを取り出し、アガレスを庇うように銃を構えた。
「とにかく、元の姿に戻るのを早める為にもソラさんの体力は出来るだけ減らしてください!! それが難しいのなら、時間稼ぎだけでも効果は――!!」
「時間稼ぎ? その必要はないさ」
言葉の途中でフレイアがそう呟くと、回避行動を止めてアンチソラに向かって再び蹴りを放つ。
地面を擦りながらアンチソラを吹き飛ばすと、フレイアは拳を手に叩きつけて獰猛な笑みを浮かべ始める。
「大事な弟を狙ったんだ…――こいつは、完膚なきまでにあたしが叩きのめすっ!!! あんたらも手伝いなぁ!!!」
辺りに響くような雄叫びを上げ、フレイアは地面を蹴ってアンチソラに向かって気を篭めた拳を放つ。だが、それを弾くとアンチソラは闇を使って切りかかる。
こうして始まった二人の激しいバトルに、アルガとティオンは動く事も出来ずに唖然とするしかなかった。
「これ…俺達が間に入ってもいいのか?」
「私もそう思うわ…」
「呆けるな。我々も続くぞ」
ジェミニが叱咤するなり、武器である永遠剣を取り出して戦う二人に向かって構える。
気を持ち直してアルガとティオンも再び剣を構えると、闇の姿から元に戻す為にアンチソラに向かって駆け出した。
乾いた風が吹いて砂埃が軽く舞う中に、アルガとティオンがいた。
「――大丈夫かしら、二人とも」
「さあな。俺達に出来る事は、二人を信じて待つ事だけだ」
心配なのかソワソワと落ち着きのないティオンと違い、アルガはどっしりと構えるように腕を組んで岩に背中を凭れている。
もう一つの――シルビアがいた世界へ辿り着き、ティオンは闇の世界への空間を作り出した。その際、アルガは闇の世界に行くアガレスとルシフに『時間による結界』をかけていた。闇の世界は空間だけでなく時間すらも不安な場所。闇側での一日が、光側では一年だったと言う事にもなる。(逆も然り)
いざ準備も終わり、アガレスとルシフを送りだし…――ミュロスから貰った通信用の栞を握り締めて二人の連絡が来るのを待っている。
そうして二人の会話が途絶えると、急に持っていた栞が反応を見せた。
「アガレス! ルシフ! 見つかったか!?」
栞に叫ぶようにアルガが声をかけると、アガレスからの返事が返って来た。
《見つかったには、見つかった…! 二人とも、何時でも私達を転移出来るようにしてくれ!!》
「何かあったの?」
《少々、問題があって――ルシフくん!?》
ティオンに説明しようとした時、悲鳴が上がる。
思わず二人が息を呑むと、今度はルシフの声が聞こえた。
《大丈夫です! それよりアガレスさん、転移の準備を!》
《二人共、頼む!》
「ティオン!」
「分かってる!」
緊急事態だと瞬時に判断し、アルガとティオンは心剣を手に取る。
そうして前方に転移用の大きな魔方陣を浮かび上がらせると、光と共に傷だらけのアガレスと《カオス》に変身したルシフ、その後ろには巨大な黒い球体が現れた。
「はぁ…はぁ…!」
蹲りながら身体を黒い光に包み、元の少年の姿に戻るルシフ。
そんな彼に、アガレスは労わる様に肩に手を置いた。
「ルシフくん、よく頑張った」
「いえ、まだです…! この人をタルタロスに連れて行って、元に戻さないと…!」
若干ふらつきながらも立ち上がると、後ろにある黒い球体に目を向ける。
「なんだ、この黒い球体は?」
「少し手荒ですが、この中に彼らの仲間であるソラさんを閉じ込めているんです」
「閉じ込める? どうして?」
険しい表情を見せるルシフに、立て続けにアルガが質問をする。
その時、球体から何かが引き裂かれるようなけたたましい音が響いた。
「なに、今の音…!?」
ゾクリとした恐怖を感じ、ティオンが球体を見ながら怯えた表情を浮かべる。
オルガも球体から目を離せずに固まっていると、すぐにルシフが説明した。
「…今、あの人は闇に包まれていてハートレスに近い状態になっているんです。だから、僕の力でこうして閉じ込めたんです」
「闇に包まれている? 呑まれてる訳じゃないのか?」
「ええ。今の彼は表面を闇でコーティングしている状態です。思考や姿はハートレスそのものだが、中身まで染まっている訳ではない。恐らく、闇の浸食に対する何かしらの自己防衛でそうなったのだと思うのだが…」
言い方に疑問を感じたアルガに、アガレスも説明に加わる。
原理はよく分からないが、彼は闇に対抗するために自ら闇に染めたのだろう。その辺りは本人に聞かないと分からない問題だ。
「とにかく、ソラさんの闇を払う為にタルタロスに行こうと思っているんです。あの町にある塔の光はハートレスを寄せ付けない。言い換えれば闇を払う光でもありますから」
「彼をこのまま拘束して塔の光を浴びせれば、すぐに元に戻るはずだ。悪いが、タルタロスまで転移を頼む」
「もちろんだ」
「どっちにしろ、この状態の彼を城に連れて帰る訳にはいかないわね。ビフロンスに危険な火種を持ち込むのもそうだし、仲間達はショックを受けかねない」
ルシフとアガレスの提案に、アルガとティオンは快く引き受ける。
闇に染まってしまった彼を元に戻し、拠点としているビフロンスに連れて行く。きっとそれだけで彼らに…いや、自分達にも光が生まれる。そんな気がするのだ。
心剣に力を注ぎ、まずは元の次元へ戻る為の魔方陣を自分達の周りに浮かび上がらせる。そのままタルタロスへの転移を行おうと、更に魔方陣を上書きしようとした。
―――直後、黒い球体の一部が破壊されると共に黒い影が飛び出した。
「なんだっ!?」
「っ!?」
突然の事に、二人は同時に振り返る。
飛び出した黒い影は目を光らせて、猛スピードでルシフへと接近してきた。
「ルシフくんっ!!!」
狙われたルシフを見て、即座にアガレスが手を伸ばす。
同時に、バチバチと激しい音が鳴り響いて魔方陣が爆発を起こした…。
タルタロスの町の外れで、大きな爆発音が響く。
辺り一面を覆う爆煙に、魔力による電撃が飛び散っている。
その中から黒い影が素早く現れると、四つん這いの状態で様子を窺うように身構えて出した。
「う、く…!」
呻き声と共に、煙が払われる。
そこには剣を握る腕を押さえるアルガとティオン。その背後には負傷したアガレスを抱えるルシフがいた。
「転移中に、攻撃するなんて…!!」
「おかげで、予定地点より大幅にずれたな…!!」
ティオンが歯を食い縛る横で、アルガは攻撃していた人物を睨みつける。
全身は真っ黒、目は黄色く光っている。全身から影のオーラを立ち上らせており、攻撃する時に見た鋭利的だった手や足は今は人としての形を保っている。一見するとハートレスそのものだが、全体的に少年の形を保っている。
少し前に起きたノーバディに関する事件を知ってる者がいたら、これは【アンチフォーム】となったソラだと分かるだろう。しかし、生憎とここにはその事実を知る者は誰もいない。
二人が起き上ったのを見てか、アンチソラは威嚇するように身構える。この様子に、アルガとティオンも剣を構え直した。
「相手は相当やる気らしい…こうなりゃ力づくで抑えつけるしかないようだな」
「そうね…行くわよ、アルガ!」
そう叫んでティオンが駆け出すと共に、アンチソラも獣の様に飛び掛かる。
こうして二人の戦いが始まるのをルシフは後ろで眺めると、抱えていたアガレスを楽な体制に寝かせて両手を掲げる。
回復魔法である『ケアルガ』を唱えて癒しの光を当てながら、悔やんだ表情を見せた。
「すみません、アガレスさん…僕のせいで…!!」
「気にする、事はない…! 君が傷ついたら…またお姉さんに、殴られるからな…!」
罪悪感を抱くルシフに対し、アガレスは痛みを堪えて笑いかける。
そんなアガレスの宥めが効いたのか、僅かだがルシフの表情に笑みが零れる。
戦いによる音を聞きながらもルシフは回復による魔法に集中し、アガレスも出来るだけ身動ぎしない。ただただ、傷を癒す事だけに専念した。
「しまった!?」
「ルシフ!! アガレスを連れて逃げてっ!!」
しかし、突如起こった二人の悲鳴にルシフはバッと顔を向ける。
そこには空中でアンチソラが手を尖らせ、こちらに飛びかかっている。
「ルシフくん!!」
とっさの事で動けないルシフに、思わずアガレスが起き上ってルシフを抱きかかえる。
ルシフを守るアガレスの背中に向けて、アンチソラは手を振り下ろす。
「ルシフに…手を出すなぁぁぁーーーーーっ!!!!!」
切り裂く直前で、アンチソラに向かって真横から高速の蹴りが飛んできた。
防御出来る訳もなくモロに受けたアンチソラは遠くまで吹っ飛ばされる。その間に、蹴りを入れた人物はシュタっと軽い足取りで地面に着地した。
「あなたは…!!」
「姉さん!?」
現れた助っ人であるフレイアに、思わずアガレスとルシフは驚きの声を上げる。
アルガとティオンもポカンと口を開けていると、更にこちらに駆け付ける足音が聞こえた。
「何が起きたか確認しに来たら…まあ、療養中の身体をリハビリさせるには丁度いい相手だ」
「あなたは…ジェミニ!?」
かつて自分達と同じでカルマによって洗脳させられていた人物に、ティオンが叫ぶ。
すると、ジェミニはこちらに気付いて一瞬顔を顰めるものの、すぐに笑いかけた。
「久しいな、お前達。レプセキア以来か…お互い、カルマの呪縛から逃れられてなりよりだ」
付けていた仮面が無い事で洗脳を解かれていると分かったらしく、嬉しそうに語りかけるジェミニ。
思わぬ再会に喜びを感じつつも、アルガは疑問を口をした。
「何でここに?」
「傷も大分良くなったから、この町を探索していてな。近くで派手な音がしたから来たんだ。それと、彼女とはたまたま一緒になってしまって」
苦笑を浮かべると、フレイアへと指を差す。
フレイアは怒りを露わにして、遠くで起き上ったアンチソラに向かって拳を構えていた。
「このハートレスがぁ!! ルシフに攻撃した事、身を持って後悔させてやらぁ!!」
「姉さん、待って!! 倒しちゃダメ!!」
「はぁ!? 何言って――!!」
「あの人はハートレスじゃないんだ!! この世界に必要な人だから、助けないとダメなんだ!!」
「ルシフ…なっ!?」
ルシフの言葉に戸惑いを浮かべている間に、アンチソラは猛スピードで近づいてフレイアに攻撃を仕掛けてきた。
どうにか回避を行うと、フレイアは間合いを取るようにアンチソラを誘導する。こうしてフレイアが時間稼ぎしてくれる中、アルガとティオンは作戦を立て始める。
「どうする? 拘束しようにも、こうも暴れられたら…」
「町中に誘き寄せる手もあるけど…二次被害が怖いわ」
少なくとも、今のソラは闇によって強化されている状態だ。スピードが速ければ時間による停止も僅かしか行えない。だからと言って、塔の近くに移動させれば元に戻る前に大暴れして復興しかけの街がまた壊れ住民達にも被害が及ぶ。
二人が思考を巡らせていると、アガレスの腕の中にいたルシフが軽く首を振った。
「いえ、その必要はありません…町中よりは遠いですがちゃんと光は当たっています。少し時間はかかりますが、いずれは元に戻る筈」
そこまで言うと、ルシフはアガレスの腕を押しのけるように前に出ると両手を伸ばす。
手に闇を纏わせると自身の武器でもある二丁のハンドガンを取り出し、アガレスを庇うように銃を構えた。
「とにかく、元の姿に戻るのを早める為にもソラさんの体力は出来るだけ減らしてください!! それが難しいのなら、時間稼ぎだけでも効果は――!!」
「時間稼ぎ? その必要はないさ」
言葉の途中でフレイアがそう呟くと、回避行動を止めてアンチソラに向かって再び蹴りを放つ。
地面を擦りながらアンチソラを吹き飛ばすと、フレイアは拳を手に叩きつけて獰猛な笑みを浮かべ始める。
「大事な弟を狙ったんだ…――こいつは、完膚なきまでにあたしが叩きのめすっ!!! あんたらも手伝いなぁ!!!」
辺りに響くような雄叫びを上げ、フレイアは地面を蹴ってアンチソラに向かって気を篭めた拳を放つ。だが、それを弾くとアンチソラは闇を使って切りかかる。
こうして始まった二人の激しいバトルに、アルガとティオンは動く事も出来ずに唖然とするしかなかった。
「これ…俺達が間に入ってもいいのか?」
「私もそう思うわ…」
「呆けるな。我々も続くぞ」
ジェミニが叱咤するなり、武器である永遠剣を取り出して戦う二人に向かって構える。
気を持ち直してアルガとティオンも再び剣を構えると、闇の姿から元に戻す為にアンチソラに向かって駆け出した。
■作者メッセージ
えー、今回の話は何と言うか…見て分かる通り断章です。
いや、さすがにこんな中途半端な状態で断章を出すと言うのもどうかなとは思っていたんですが、私の書くメモリー編も夢さんの書く素材編も内容は半分に差し掛かっているので、ちまちまと書いていたソラ救出編を出してもいいかなーと判断したのですが…ね(横目)
正直な本音を言うと、いい加減ソラを出したかったんですはい。夢さんの話はともかく、私は今年中にメモリー編終わるの間に合いそうにない可能性が浮上してきまして…3日目が終わっても、予定ではソラの出番ってまだ先になりますし…。
いや、さすがにこんな中途半端な状態で断章を出すと言うのもどうかなとは思っていたんですが、私の書くメモリー編も夢さんの書く素材編も内容は半分に差し掛かっているので、ちまちまと書いていたソラ救出編を出してもいいかなーと判断したのですが…ね(横目)
正直な本音を言うと、いい加減ソラを出したかったんですはい。夢さんの話はともかく、私は今年中にメモリー編終わるの間に合いそうにない可能性が浮上してきまして…3日目が終わっても、予定ではソラの出番ってまだ先になりますし…。