メモリー編24 「シャオの正体」
「あった」
進んでいた途中から整備された道は途切れ、道らしき道を歩いて数刻。激しいがけ崩れの起きた場所に新たな記憶の歪みを見つけた。
イリアが足を止めると、後ろにいたイオンとペルセも歩みを止める。歪みに入る前に、二人は軽く辺りを観察した。
「大きく崩れてる…大雨が降った影響みたい」
「この記憶、見ておくべきかな? 話にあった桜の木ってここにはないようだけど?」
ペルセが崖崩れを調べる中、イオンはこの付近に桜の木が無い事に気付く。
それをイリアに指摘するとふむ、と軽く頷く。
「少なくとも、見ておいて損はないだろう。それに、あの先に道はないようだし」
「本当だ、靄がかかって先が見えませんね」
ここから先は白い靄が不自然なほど深く包み込んでいる。こんな所を無理に進めば迷子になってしまいそうな雰囲気だ。ここは諦めて目先の事に向けた方がいいようだ。
イリアのアドバイスもあって方針を決めていると、上空から羽ばたく音が響いた。
「どうにか間に合ったようだな」
その声と共に、囮となって別行動をとっていたクウがその場に舞い降りた。
「「クウさん!」」
着地して翼を消すと、先程イリアが投げた黒い羽根を握ってイオンとペルセに笑いかけるクウ。表情だけ見れば余裕を保っているが、身体は攻撃を受けたのかボロボロになっていた。
「どうしたんですか、その傷!?」
「あー、ちょっとヘマしてな。あいつらはどうにか足止めしておいた」
「回復しますから、じっとしてください!」
そう言うと、イオンはすぐに回復魔法をかける。
見る見るうちにクウの傷が癒えていく中、ペルセは安心したように微笑んだ。
「でも良かった、無事で」
「へぇ、俺の事心配してくれたのか? お世辞でも嬉しいぜ…」
「ク・ウ・さ・ん?」
「悪い、冗談だからキーブレードは仕舞ってくれ」
回復の手を止めて武器を握るイオンに、折角治りかけた傷が開くのを恐れてクウは即座に謝りを入れる。ついでにペルセに伸ばしていた手も途中で止める。
渋々だが武器を仕舞って回復を終えると、イオンは不機嫌そうにペルセの手を握った。
「心配して損しましたよ! さっさと行こう、ペルセ!」
「うん」
イオンに手を引かれるまま、ペルセも歪みへと一緒に入っていく。
そんな二人をクウが見ていると、イリアが無表情のまま視線を送る。しかし、向けられる視線は若干冷ややかだ。
「私、忠告した筈よ。『積み重なればどうにも出来なくなる』って」
「…悪い」
番人であるハートレスを倒した事を見抜かれてしまい、クウは申し訳なさそうに頭を下げる。
「でも、あなたらしい選択ね」
まるで仕方ないと言ったように呟くと、そのままクウの脇を通り過ぎる。
てっきりお咎めの言葉でも飛ぶだろうと身構えていた分、あっさりと話を切り上げたイリアに驚きの目を向ける。
その視線に気づき、イリアは足を止めると振り返った。
「来なさい。その為にここにいるのでしょう」
「ああ」
そうして二人も記憶の中へと足を踏み入れた。
記憶の中に入ると、同じ地点だが夜になっていた。
雨が降った後なのか、地面のあちこちに水溜りが出来ている。
「ダイジョブ…こわくない、こわくない…!」
そんな薄暗い夜道を一人の子供が歩いている。その子は先程のように、輪郭はぼやけてはいなかった。
その姿は肩まである銀髪に水色の瞳。白いワンピースを着た、まだ幼い少女だった。
雨で濡れて地面がぬかるんでいる所為か、少女は何処かおぼつかない足取りで先に進む。
「『―――』!」
すると背後から呼びかける様な何かが聞こえ、振り返る。
そこには、幼いシャオが息を荒くしながら少女を睨んでいた。
「お兄ちゃん…?」
「『―――』、やっぱりここに来てたんだね! 家にもいないからみんな探してるよ! さ、帰るよ――」
咎めるように話しながら、シャオは少女の手を握る。
そのまま引っ張って返ろうとするが、少女は意外にも抵抗した。
「やー! 『―――』もサクラ見るの!」
ばっとシャオの手を払い除け、逃げるようにその場から駆けた。
「だめだ、『―――』!!」
シャオが後を追いかけるが、少女は嫌だとばかりに走り続ける。
そうして曲り道に差し掛かった瞬間、少女が足を踏み入れた影響かまるで巻きこむ様にして崖崩れが起こった。
「ぇ…?」
「『―――』ァ!!」
崖から落ちようとする少女に、急いでシャオが駆け寄って手を伸ばして掴む。
だが、幼子の力では到底持ち上げる事は叶わず、二人して崖から落ちてしまった…。
記憶は途切れ元の場所に戻るが、今見た光景にイオンとペルセの顔色は蒼白になっていた。
「シャオ…!?」
「い、今…二人が…!」
「この下に行くぞ! 続きがある筈だ!」
焦燥を隠しきれない様子でクウが叫ぶなり、翼を展開させながらイオンとペルセを両脇に抱えた。
「うわわっ!?」「きゃ!」
二人の悲鳴が耳に入ってないのか、そのまま崖から飛び降りるクウ。イリアも浮遊してそれに続く。
こうして崖の下へと移動すると、落下地点らしき場所にさっきと同じ歪みを見つけた。
「イリア! このまま「構わない」よしっ!」
即座に貰った返答に、クウは二人を抱えながら歪みへと一気に飛びこんだ。
『どうせダメって言っても飛び込むくせに…』
その行動にレプキアが呆れながら呟くのを聞きつつ、後に続きながらイリアも歪みの中に入った。
三人が飛びこんだ先は、先程と同じで夜となっている。
崖の下に崩れて出来た土砂の上で、シャオが少女を抱えたまま倒れていた。
「…ぅ…」
やがて少女は目を覚まし、擦り傷だらけの身体を起こす。
少女が起きた際に身体を動かしたからか、シャオも瞼を開ける。
しかしその目に生気は無く、頭を強く打ったからか血を流している。
「『―――』…ぶじ…?」
「お兄ちゃん…?」
さすがに一目でシャオが危ない状況だと見抜き、少女が震えながら手を伸ばす。
シャオも伸びてくる小さな手を掴もうと腕を上げる。
だが、その手は力尽きたように地面に落ち、少女の手を掴む事は叶わなかった。
「おにい、ちゃん…お兄ちゃん…!!」
閉じてしまう瞳に、少女は無我夢中でシャオの身体を揺する。
だが、どんなに呼びかけてもシャオの目は開く事はない。
「『―――』がわるいの…? 『―――』がやくそくまもらなかったから…お兄ちゃん、しんじゃうの…?」
フルフルと首を揺すっていると、急に少女は全ての動きを止めた。
「…やだ…」
今にも掻き消えそうな声が口から漏れる。
「やだ…やだよ…!」
吐き出される思いに感化するように、少女の周りから闇が溢れる。
そうして闇は広がり、二人を包み込む。
「やあああぁぁぁーーーーーー!!!」
悲鳴じみた叫びと共に、画面がブツリと切れるように周りがブラックアウトする。
同時に、四人に得体の知れない浮遊感が起こる。
「この感覚は…っ!?」
「落ち着いて。最深部へ続く記憶を見つけただけ」
突然の事にイオンが慌てるが、イリアが宥める。
そんな中、クウが神妙な面付きで二人には聞こえない音量で話しかけた。
「……イリア、シャオの中にいる奴の正体だが」
「ええ。あなたが思っている通りでしょうね」
何の迷いもなく答えるイリアに、クウは苦虫を噛んだように顔を俯かせる。
やがて浮遊感が収まり、一面が真っ暗な場所へと移動した。下には透明なステンドガラスで出来た床がある。
その奥には、尋常な闇のオーラに包まれながらあの少女が蹲って泣いている。
「うぇ…ひっく…」
「あの子、さっきの!」
「この子が、シャオの意思を蝕んでいたんですか?」
「――そうだよ、イオン先輩」
声のした方を振り返ると、そこにはさっきイオン達と会合したシャオが立っていた。
「シャオ…」
「お前…本当にシャオ、なのか?」
「うん、ボクはシャオだよ」
イオンとクウが警戒をして聞くと、シャオは笑顔で頷く。
だが、その態度に彼らはより警戒は増す。
「そんな言葉、信じられない…!」
「ペルセの言う通りだよ。だって、あの記憶が正しければ――君は《死んでる存在》じゃないか。君は本当は誰なの?」
念を押してイオンが再度問うと、シャオは頭を下げて口を閉ざした。
だんまりを決めこんだシャオに、成り行きを見ていたイリアが動いた。
「言いたくないなら、私から説明してもいいわよ?」
直後、シャオに向かって突然蒼い影が伸びて頭部を掴みあげる。
この光景を初めて見たクウは驚くが、そんな反応を気にせず今度は蹲っている少女にも同じように蒼い影を伸ばし、そのまま消してしまった。
「なんだよ、今の…!」
「既にあなたとこの子の記憶は取り入れた。これでシャオにあった空白の記憶、あなたが昏睡した理由も理解出来た」
「っ…!」
「イリア、言いたい事はいろいろあるが…説明してくれ。全部」
もう気にしたら負けとばかりに頭を押えつつ、クウは無理矢理現実に目を向ける。そんな彼に同じ被害にあったイオンとペルセは気持ちは分かると言わんばかりに、同情の目を向ける。
そんな事を知らずにイリアは一つ頷くと、シャオを見据えながら説明を始めた。
「まず、単刀直入に言うわ。シャオの正体は、あそこで蹲っているあの少女よ」
会合一番にそんな事を言い放つが、誰もが予想を立てていた事もあり特に驚きの声は上がらなかった。
「あの事故現場で彼が完全に事切れる前に、あの子がシャオの記憶を全て《吸収》した。兄を存在させる為に無意識に行った行動。そしてそれは成功してこの子は“シャオ”として生まれ変わった」
そう言うと、今度はシャオから少女へと視線を移す。
「だけど、幼さ故に完璧に能力を扱う事は出来なかった。微弱ながらも彼女の自我は残ってしまったから、何かしら自分の記憶に綻び――違和感を感じれば、記憶に破綻が起こる。些細な引っ掛かり、すぐに忘れる様な軽い物ならまだいい。けど、今回起きたのは『偽の記憶による破綻』だった。あなたの両親が《ナミネ》によって作り出した家出した記憶に違和感を覚え、壊れた事で本当の記憶まで蘇った。ありとあらゆる矛盾に心が追いつかず、あなたは昏睡してしまった」
「家出の記憶が偽物、って…どういう事だよ?」
途中から思わぬ話になってクウが質問をすると、イリアは答える。
「そのままの意味。シャオは両親と喧嘩してなどいない、その記憶を受けつけられて思い込まされたの。【両親と喧嘩したから家出したのだ】とね」
「何でそんな事!」
「あとで教えるわ――今はそんな場面ではない」
そうイオンに口約束すると、またシャオに視線を戻す。その目は何か遠くを映しているかのように虚ろだ。
「彼は死んでいたとは言え、シャオでもある。彼が“彼”として目覚める方法は一つ――この子の存在を消して記憶を消去する事」
「待ってください! あの子、シャオの妹でしょ? 幾ら何でもそんな事出来ない!」
「ペルセ…」
感情的になるペルセを見て、イオンは思わず彼女に関わる過去を思い出す。
クウも何も言わず黙り込む中、今まで黙っていたシャオが口を開いた。
「悪いけど、ボクが目覚めるにはそれしかないんだ。ボクは知っちゃったから、自分が死んでいる事。ボクが本当はシャオじゃない事も。そんな記憶が残っている限りボクは目覚めても絶望しか残らないよ――自分が【偽物】の存在だったなんて知りたくなかった…!」
「シャオ…」
悲しみを滲ませながら話すシャオに、イオンは何と声をかければいいのか分からなくなってしまう。
真実によって抱いてしまったそれぞれの思いに誰もが口を閉ざす中、シャオは決意にも似た目で四人を見る。
「ボクは師匠達と戦う事を決めた。ちゃんと家族の所に帰るって誓った。このまま何も出来ないなんて嫌なんだ」
そして、シャオは奥にいる少女を睨みつける。
「偽物のボクじゃ、あの子を消す事は出来ない。お願いだよ、みんな」
記憶で出来た少年は、告げる。
現状を打開する、残酷な言葉を。
「あいつを消して」
進んでいた途中から整備された道は途切れ、道らしき道を歩いて数刻。激しいがけ崩れの起きた場所に新たな記憶の歪みを見つけた。
イリアが足を止めると、後ろにいたイオンとペルセも歩みを止める。歪みに入る前に、二人は軽く辺りを観察した。
「大きく崩れてる…大雨が降った影響みたい」
「この記憶、見ておくべきかな? 話にあった桜の木ってここにはないようだけど?」
ペルセが崖崩れを調べる中、イオンはこの付近に桜の木が無い事に気付く。
それをイリアに指摘するとふむ、と軽く頷く。
「少なくとも、見ておいて損はないだろう。それに、あの先に道はないようだし」
「本当だ、靄がかかって先が見えませんね」
ここから先は白い靄が不自然なほど深く包み込んでいる。こんな所を無理に進めば迷子になってしまいそうな雰囲気だ。ここは諦めて目先の事に向けた方がいいようだ。
イリアのアドバイスもあって方針を決めていると、上空から羽ばたく音が響いた。
「どうにか間に合ったようだな」
その声と共に、囮となって別行動をとっていたクウがその場に舞い降りた。
「「クウさん!」」
着地して翼を消すと、先程イリアが投げた黒い羽根を握ってイオンとペルセに笑いかけるクウ。表情だけ見れば余裕を保っているが、身体は攻撃を受けたのかボロボロになっていた。
「どうしたんですか、その傷!?」
「あー、ちょっとヘマしてな。あいつらはどうにか足止めしておいた」
「回復しますから、じっとしてください!」
そう言うと、イオンはすぐに回復魔法をかける。
見る見るうちにクウの傷が癒えていく中、ペルセは安心したように微笑んだ。
「でも良かった、無事で」
「へぇ、俺の事心配してくれたのか? お世辞でも嬉しいぜ…」
「ク・ウ・さ・ん?」
「悪い、冗談だからキーブレードは仕舞ってくれ」
回復の手を止めて武器を握るイオンに、折角治りかけた傷が開くのを恐れてクウは即座に謝りを入れる。ついでにペルセに伸ばしていた手も途中で止める。
渋々だが武器を仕舞って回復を終えると、イオンは不機嫌そうにペルセの手を握った。
「心配して損しましたよ! さっさと行こう、ペルセ!」
「うん」
イオンに手を引かれるまま、ペルセも歪みへと一緒に入っていく。
そんな二人をクウが見ていると、イリアが無表情のまま視線を送る。しかし、向けられる視線は若干冷ややかだ。
「私、忠告した筈よ。『積み重なればどうにも出来なくなる』って」
「…悪い」
番人であるハートレスを倒した事を見抜かれてしまい、クウは申し訳なさそうに頭を下げる。
「でも、あなたらしい選択ね」
まるで仕方ないと言ったように呟くと、そのままクウの脇を通り過ぎる。
てっきりお咎めの言葉でも飛ぶだろうと身構えていた分、あっさりと話を切り上げたイリアに驚きの目を向ける。
その視線に気づき、イリアは足を止めると振り返った。
「来なさい。その為にここにいるのでしょう」
「ああ」
そうして二人も記憶の中へと足を踏み入れた。
記憶の中に入ると、同じ地点だが夜になっていた。
雨が降った後なのか、地面のあちこちに水溜りが出来ている。
「ダイジョブ…こわくない、こわくない…!」
そんな薄暗い夜道を一人の子供が歩いている。その子は先程のように、輪郭はぼやけてはいなかった。
その姿は肩まである銀髪に水色の瞳。白いワンピースを着た、まだ幼い少女だった。
雨で濡れて地面がぬかるんでいる所為か、少女は何処かおぼつかない足取りで先に進む。
「『―――』!」
すると背後から呼びかける様な何かが聞こえ、振り返る。
そこには、幼いシャオが息を荒くしながら少女を睨んでいた。
「お兄ちゃん…?」
「『―――』、やっぱりここに来てたんだね! 家にもいないからみんな探してるよ! さ、帰るよ――」
咎めるように話しながら、シャオは少女の手を握る。
そのまま引っ張って返ろうとするが、少女は意外にも抵抗した。
「やー! 『―――』もサクラ見るの!」
ばっとシャオの手を払い除け、逃げるようにその場から駆けた。
「だめだ、『―――』!!」
シャオが後を追いかけるが、少女は嫌だとばかりに走り続ける。
そうして曲り道に差し掛かった瞬間、少女が足を踏み入れた影響かまるで巻きこむ様にして崖崩れが起こった。
「ぇ…?」
「『―――』ァ!!」
崖から落ちようとする少女に、急いでシャオが駆け寄って手を伸ばして掴む。
だが、幼子の力では到底持ち上げる事は叶わず、二人して崖から落ちてしまった…。
記憶は途切れ元の場所に戻るが、今見た光景にイオンとペルセの顔色は蒼白になっていた。
「シャオ…!?」
「い、今…二人が…!」
「この下に行くぞ! 続きがある筈だ!」
焦燥を隠しきれない様子でクウが叫ぶなり、翼を展開させながらイオンとペルセを両脇に抱えた。
「うわわっ!?」「きゃ!」
二人の悲鳴が耳に入ってないのか、そのまま崖から飛び降りるクウ。イリアも浮遊してそれに続く。
こうして崖の下へと移動すると、落下地点らしき場所にさっきと同じ歪みを見つけた。
「イリア! このまま「構わない」よしっ!」
即座に貰った返答に、クウは二人を抱えながら歪みへと一気に飛びこんだ。
『どうせダメって言っても飛び込むくせに…』
その行動にレプキアが呆れながら呟くのを聞きつつ、後に続きながらイリアも歪みの中に入った。
三人が飛びこんだ先は、先程と同じで夜となっている。
崖の下に崩れて出来た土砂の上で、シャオが少女を抱えたまま倒れていた。
「…ぅ…」
やがて少女は目を覚まし、擦り傷だらけの身体を起こす。
少女が起きた際に身体を動かしたからか、シャオも瞼を開ける。
しかしその目に生気は無く、頭を強く打ったからか血を流している。
「『―――』…ぶじ…?」
「お兄ちゃん…?」
さすがに一目でシャオが危ない状況だと見抜き、少女が震えながら手を伸ばす。
シャオも伸びてくる小さな手を掴もうと腕を上げる。
だが、その手は力尽きたように地面に落ち、少女の手を掴む事は叶わなかった。
「おにい、ちゃん…お兄ちゃん…!!」
閉じてしまう瞳に、少女は無我夢中でシャオの身体を揺する。
だが、どんなに呼びかけてもシャオの目は開く事はない。
「『―――』がわるいの…? 『―――』がやくそくまもらなかったから…お兄ちゃん、しんじゃうの…?」
フルフルと首を揺すっていると、急に少女は全ての動きを止めた。
「…やだ…」
今にも掻き消えそうな声が口から漏れる。
「やだ…やだよ…!」
吐き出される思いに感化するように、少女の周りから闇が溢れる。
そうして闇は広がり、二人を包み込む。
「やあああぁぁぁーーーーーー!!!」
悲鳴じみた叫びと共に、画面がブツリと切れるように周りがブラックアウトする。
同時に、四人に得体の知れない浮遊感が起こる。
「この感覚は…っ!?」
「落ち着いて。最深部へ続く記憶を見つけただけ」
突然の事にイオンが慌てるが、イリアが宥める。
そんな中、クウが神妙な面付きで二人には聞こえない音量で話しかけた。
「……イリア、シャオの中にいる奴の正体だが」
「ええ。あなたが思っている通りでしょうね」
何の迷いもなく答えるイリアに、クウは苦虫を噛んだように顔を俯かせる。
やがて浮遊感が収まり、一面が真っ暗な場所へと移動した。下には透明なステンドガラスで出来た床がある。
その奥には、尋常な闇のオーラに包まれながらあの少女が蹲って泣いている。
「うぇ…ひっく…」
「あの子、さっきの!」
「この子が、シャオの意思を蝕んでいたんですか?」
「――そうだよ、イオン先輩」
声のした方を振り返ると、そこにはさっきイオン達と会合したシャオが立っていた。
「シャオ…」
「お前…本当にシャオ、なのか?」
「うん、ボクはシャオだよ」
イオンとクウが警戒をして聞くと、シャオは笑顔で頷く。
だが、その態度に彼らはより警戒は増す。
「そんな言葉、信じられない…!」
「ペルセの言う通りだよ。だって、あの記憶が正しければ――君は《死んでる存在》じゃないか。君は本当は誰なの?」
念を押してイオンが再度問うと、シャオは頭を下げて口を閉ざした。
だんまりを決めこんだシャオに、成り行きを見ていたイリアが動いた。
「言いたくないなら、私から説明してもいいわよ?」
直後、シャオに向かって突然蒼い影が伸びて頭部を掴みあげる。
この光景を初めて見たクウは驚くが、そんな反応を気にせず今度は蹲っている少女にも同じように蒼い影を伸ばし、そのまま消してしまった。
「なんだよ、今の…!」
「既にあなたとこの子の記憶は取り入れた。これでシャオにあった空白の記憶、あなたが昏睡した理由も理解出来た」
「っ…!」
「イリア、言いたい事はいろいろあるが…説明してくれ。全部」
もう気にしたら負けとばかりに頭を押えつつ、クウは無理矢理現実に目を向ける。そんな彼に同じ被害にあったイオンとペルセは気持ちは分かると言わんばかりに、同情の目を向ける。
そんな事を知らずにイリアは一つ頷くと、シャオを見据えながら説明を始めた。
「まず、単刀直入に言うわ。シャオの正体は、あそこで蹲っているあの少女よ」
会合一番にそんな事を言い放つが、誰もが予想を立てていた事もあり特に驚きの声は上がらなかった。
「あの事故現場で彼が完全に事切れる前に、あの子がシャオの記憶を全て《吸収》した。兄を存在させる為に無意識に行った行動。そしてそれは成功してこの子は“シャオ”として生まれ変わった」
そう言うと、今度はシャオから少女へと視線を移す。
「だけど、幼さ故に完璧に能力を扱う事は出来なかった。微弱ながらも彼女の自我は残ってしまったから、何かしら自分の記憶に綻び――違和感を感じれば、記憶に破綻が起こる。些細な引っ掛かり、すぐに忘れる様な軽い物ならまだいい。けど、今回起きたのは『偽の記憶による破綻』だった。あなたの両親が《ナミネ》によって作り出した家出した記憶に違和感を覚え、壊れた事で本当の記憶まで蘇った。ありとあらゆる矛盾に心が追いつかず、あなたは昏睡してしまった」
「家出の記憶が偽物、って…どういう事だよ?」
途中から思わぬ話になってクウが質問をすると、イリアは答える。
「そのままの意味。シャオは両親と喧嘩してなどいない、その記憶を受けつけられて思い込まされたの。【両親と喧嘩したから家出したのだ】とね」
「何でそんな事!」
「あとで教えるわ――今はそんな場面ではない」
そうイオンに口約束すると、またシャオに視線を戻す。その目は何か遠くを映しているかのように虚ろだ。
「彼は死んでいたとは言え、シャオでもある。彼が“彼”として目覚める方法は一つ――この子の存在を消して記憶を消去する事」
「待ってください! あの子、シャオの妹でしょ? 幾ら何でもそんな事出来ない!」
「ペルセ…」
感情的になるペルセを見て、イオンは思わず彼女に関わる過去を思い出す。
クウも何も言わず黙り込む中、今まで黙っていたシャオが口を開いた。
「悪いけど、ボクが目覚めるにはそれしかないんだ。ボクは知っちゃったから、自分が死んでいる事。ボクが本当はシャオじゃない事も。そんな記憶が残っている限りボクは目覚めても絶望しか残らないよ――自分が【偽物】の存在だったなんて知りたくなかった…!」
「シャオ…」
悲しみを滲ませながら話すシャオに、イオンは何と声をかければいいのか分からなくなってしまう。
真実によって抱いてしまったそれぞれの思いに誰もが口を閉ざす中、シャオは決意にも似た目で四人を見る。
「ボクは師匠達と戦う事を決めた。ちゃんと家族の所に帰るって誓った。このまま何も出来ないなんて嫌なんだ」
そして、シャオは奥にいる少女を睨みつける。
「偽物のボクじゃ、あの子を消す事は出来ない。お願いだよ、みんな」
記憶で出来た少年は、告げる。
現状を打開する、残酷な言葉を。
「あいつを消して」
■作者メッセージ
クウ「………さて、説明して貰おうか?」
NANA「ひ、久々にここを使ったと思えばいきなり何を…」
クウ「何をじゃねぇぇぇ!!! シャオが実は女で死んでたとかお前どう言う設定作ったんだぁぁぁ!!?」
シャオ「そうだよ!! 結局ボクって一体何者なのさ!?」
NANA「ああもううるさーーーい!!! 説明する!! 読者の人も訳分からんと思ってここで詳しく説明してやるから落ち着けやぁぁぁ!!!」
しばらくお待ちください。
NANA「――と言う訳で、今回の話の補足をここでいろいろとさせて貰います。まず、最初の質問から」
シャオ「まずさ、ボク男の子だよね? 女じゃないよね?」
NANA「はい、性別で言えばシャオは立派な男性です。これは確かです」
シャオ「でも、ボクって本当は妹だって…」
NANA「作中でも説明したでしょう。『元々女だったけど、シャオとしての記憶を取り込んだ事でシャオ本人として作り変えた』って。取り込んだ相手が男なんだから、体もそうなるのは当然でしょう。そもそも、そう言った設定のフラグはずっと前から出しているし」
クウ「お前、要は女から男に変わったって事だろ? とんでもない設定になってるぞそれ」
NANA「失礼な!! 大体この設定はあるKHキャラから直々に取った設定だ!! 文句あるならそのキャラに言いやがれ!!」
クウ「はぁ? 女から男になったキャラなんて…――あ…」(察し)
シャオ「師匠、どうしたの? 急に遠い目なんかして?」
クウ「あー、なー…いたな、そう言う女性キャラ…」
シャオ「うそ!? 誰なのそれ!?」
クウ「…分かる奴には分かると言って置く。俺からも質問だが、確か誕生日企画で出たシャオは女だったよな。って事は…」
NANA「どうでしょうかねー。身体は元に戻ったけど、中身は妹の人格を完全に消して本来のようにシャオとしての記憶しかないかもしれないし、実はシャオの記憶は消えていて妹としての人格が残っているシャオの記憶を頼りに演じているだけかもしれない。両方の人格が消える事無く二重にある可能性もあれば、どちらの記憶も存在しているかもしれない。けどまあ、それは今後のクウ達の選択で決める事です。いやー、リラさんにはこう言う設定話していたけど、上手い具合にその部分覆い隠してくれて良かったよー」
クウ「うっ…! 何気に重要な選択肢の場面に差し掛かっているのか、俺達? 間違った内容選ぶと後味悪いバッドエンドってか…?」(青褪め)
シャオ「バッドエンドって程じゃないと思うけど、仲間の命が掛かってるかの話だよね。でも大丈夫、ボクは師匠を、先輩達を信じているから!」(純粋で期待を込めた眼差し)
クウ(た、唯でさえプレッシャーかかってるのに更にハードルが上がっただと…!? 俺、大丈夫か…!?)(滝汗)
NANA「ひ、久々にここを使ったと思えばいきなり何を…」
クウ「何をじゃねぇぇぇ!!! シャオが実は女で死んでたとかお前どう言う設定作ったんだぁぁぁ!!?」
シャオ「そうだよ!! 結局ボクって一体何者なのさ!?」
NANA「ああもううるさーーーい!!! 説明する!! 読者の人も訳分からんと思ってここで詳しく説明してやるから落ち着けやぁぁぁ!!!」
しばらくお待ちください。
NANA「――と言う訳で、今回の話の補足をここでいろいろとさせて貰います。まず、最初の質問から」
シャオ「まずさ、ボク男の子だよね? 女じゃないよね?」
NANA「はい、性別で言えばシャオは立派な男性です。これは確かです」
シャオ「でも、ボクって本当は妹だって…」
NANA「作中でも説明したでしょう。『元々女だったけど、シャオとしての記憶を取り込んだ事でシャオ本人として作り変えた』って。取り込んだ相手が男なんだから、体もそうなるのは当然でしょう。そもそも、そう言った設定のフラグはずっと前から出しているし」
クウ「お前、要は女から男に変わったって事だろ? とんでもない設定になってるぞそれ」
NANA「失礼な!! 大体この設定はあるKHキャラから直々に取った設定だ!! 文句あるならそのキャラに言いやがれ!!」
クウ「はぁ? 女から男になったキャラなんて…――あ…」(察し)
シャオ「師匠、どうしたの? 急に遠い目なんかして?」
クウ「あー、なー…いたな、そう言う女性キャラ…」
シャオ「うそ!? 誰なのそれ!?」
クウ「…分かる奴には分かると言って置く。俺からも質問だが、確か誕生日企画で出たシャオは女だったよな。って事は…」
NANA「どうでしょうかねー。身体は元に戻ったけど、中身は妹の人格を完全に消して本来のようにシャオとしての記憶しかないかもしれないし、実はシャオの記憶は消えていて妹としての人格が残っているシャオの記憶を頼りに演じているだけかもしれない。両方の人格が消える事無く二重にある可能性もあれば、どちらの記憶も存在しているかもしれない。けどまあ、それは今後のクウ達の選択で決める事です。いやー、リラさんにはこう言う設定話していたけど、上手い具合にその部分覆い隠してくれて良かったよー」
クウ「うっ…! 何気に重要な選択肢の場面に差し掛かっているのか、俺達? 間違った内容選ぶと後味悪いバッドエンドってか…?」(青褪め)
シャオ「バッドエンドって程じゃないと思うけど、仲間の命が掛かってるかの話だよね。でも大丈夫、ボクは師匠を、先輩達を信じているから!」(純粋で期待を込めた眼差し)
クウ(た、唯でさえプレッシャーかかってるのに更にハードルが上がっただと…!? 俺、大丈夫か…!?)(滝汗)