メモリー編31 「双龍の指輪」
「はあぁ!!」
時計台で対峙する、ソラを模った巨大な人形。
見えない床にいる四人に向けて、連続で巨大なキーブレードを振るう。
「「「ぐッ!?」」」「きゃあ!」
あまりの力強さに衝撃波が広範囲で襲い掛かり、四人は反動で思いっきり後方へと吹き飛ばされる。
「こいつ、なんて威力だ…!!」
「まさか、こんな奴が潜んでいたなんて思わなかったよ…!!」
リクとシーノが態勢を立て直す中、ウィドは剣の切先を人形へと向けて怒鳴る。
「貴様!! ルキルをどうした!! ルキルはどこだ!!」
「それはこっちの台詞。あいつを何処に“隠した”の?」
「隠した?」
逆に質問を返され、オパールが眉をしかめる。
一方、返答が得られない事に対して人形は無機質のままに話し始める。
「あと僅か。あと僅かで『No.i』としての書き換えが完了する。なのに――誰かが隠した。最後の欠片を。彼が彼である為の記憶を」
攻撃せずに語る人形に、リクとウィドが見えない床を同時に蹴る。
「ファイアストライク!!」
「疾突!!」
一斉に人形へと炎を纏ったキーブレードを振るい、剣を突き刺す。
だが、その攻撃は鎧のような部分で防がれ、通る事はなかった。
「だから…あなた達を消せば、現れてくれるよねぇ!!!」
その叫びと共に再びキーブレードを薙ぎ払い、傍にいた二人を吹き飛ばした。
「「ぐあぁ!!」」
「リク、ウィド!?」
「二人とも、これ使って!!」
シーノが声を掛ける中、オパールが夢の世界でも持参していた回復薬を投げつける。
中に入っていた薬が二人の身体にかかる。しかし、人形に付けられた傷は癒えなかった。
「回復薬が効かない!? なんで!?」
「まさか“夢の理”か!?」
「既に人形の大部分は吸収をして記憶を変換している。この世界は既に私の思うままっ!!」
両手に握るキーブレードを重ね、巨大な光を上空へと放つ。すると、辺り一帯に光のレーザーが雨のように降り注いだ。
「ッ、シーノ…!」
「惑わされないで!! まだ逆転できる可能性は残ってる!! そうでなければ――僕達はここに立つ事さえ出来ていない筈だよ!!」
レーザーを避けながら不安がるオパールに助言するシーノ。しかし、不安が拭われないのはリクも一緒か攻撃を避けながら顔を顰めている。
「だが、どうするんだ!?」
「記憶だ! 恐らく、この場所の何処かに“夢の理”であるルキルの意識がいる筈だ! そいつをあいつより前に見つければ…!」
「消えろぉ!!!」
今度はキーブレードを交差し、先端のような物に光が収集し始める。
「オパール!」
「氷壁破!」
オパールが庇うようにリクが前方に立ち闇のシールドを展開させると、ウィドもシーノの前で氷の壁を作り出す。
人形から全体に無数のレーザーが放たれる。が、リクのシールドもウィドの氷壁もどうにか持ちこたえ防御に成功した。
「何よ、こいつ…!! こんな奴、表に出したら…!!」
「世界が混乱するな、別の意味で!!」
改めて目の前の人形に危険性を感じるオパールとリク。
一方で、尚も残っている氷壁の後ろでウィドは剣を収めながら思考を巡らせていた。
(考えろ…考えるんだ…!!)
そう自分に言い聞かせ、悠然と佇む人形を睨む。
(今の所防御は出来る。だが、攻撃も効かないとなると早急にルキルを見つけるしか手はない。一体、何処にいるんだ?)
攻撃を与えるのは不可能な上に、強力な攻撃を仕掛け、おまけに回復まで出来ない。シーノの言う夢の理――ルキルを見つけない限り、こちらの勝機は無いに等しい。
ウィドが戦う事を捨て辺りを見回して観察していると、人形が動く。
「これはどう!」
「「「「ッ!?」」」」
突然中央に光の輪が現れ、四人はそこへと引き寄せられてしまう。
「なんだこれ!?」
「引き寄せるだけみたい、けど…」
リクに答えながら、オパールはチラリと人形を見る。
すると、人形は力を込めるように、大きくキーブレードを身動きが取れない自分達に向かって構えている。
「ヤバそうな攻撃してくるぅ!!」
「こうなったら…!」
覚悟を決めるように、シーノが三人を押しのけて前に出る。
同時に、人形がキーブレードを振り下ろした。
「幻舞閃」
心剣を構え、次々と自分達に振り下ろされる巨大なキーブレードを後ろにいる三人にも攻撃が届かないよう受け流す。
しかし、最後の一撃で限界が訪れたのか、受け止めきれずにシーノはキーブレードに弾き飛ばされてしまい、そのまま見えない壁に叩きつけられた。
「うぁぐっ!」
「シーノ!」
「いっ、つ…相手の支配権が高い所為で、完全に受け流しは出来ないみたい…」
すぐにリクが手を貸してシーノを起こす。それを横目で見ながらウィドは透明なタイル状の床に視線を落とす。
(ルキル、何処にいる…! どうすれば出て来てくれるんだ!)
必死でルキルを見つける方法を巡らせていると、不意に自分の手に嵌めている指輪が目につく。
ゼロボロスから貰った双龍の指輪の片割れ。それを見て、以前の出来事を思い出す。
闘技場でルキルが操られた際、指輪の力で彼の心に干渉しある程度自我を戻せた事を。
(確か、今のルキルも指輪を…もしかしてっ!)
一筋の望みを賭け、ウィドは指輪を嵌めた右手を握りしめると祈るような仕草を作る。
「早くあいつを見つけないと。でも、どうすれば――ウィド?」
「ルキル、お願いです。この声が聞こえるなら…」
指輪を通して、眠る彼に語りかけるように念じる。
前に見せてくれた指輪の力を信じて。
―――せん、せ…
「!」
微かだが、ルキルの声がウィドの耳に届く。
即座に声の聞こえた方へと目を凝らす。すると、人形の後ろにある時計盤が一瞬だが歪んでいた。
「あそこかッ!」
剣を抜くなり、『瞬羽』で人形の前へと一気に近づく。
「ナ――ッ」
突然の行動に人形が僅かに狼狽える。その隙にウィドは器用に人形の腕、肩とジャンプして飛び乗り、一気に人形の頭上を飛び越えた。
「風破――飛燕ッ!!」
刃に風の力を纏い、足元にぶつけ大きく爆発させる。
暴風によって更に上昇し、時計盤へと近づいて右手を伸ばす。すると指輪が光り、反応するように歪みが生まれた。
そのままルキルがいるであろう歪みに触れる――直前、人形のキーブレードがウィドの真横から激突した。
「うぐああぁ!?」
「「「ウィド!!」」」
受け身など取れるはずも無く、ウィドは床に叩きつけられる。一方、キーブレードを使って阻止した人形は時計盤に現れた歪みを見ていた。
「こんな所にあったんだ。最後の記憶のカケラ」
「リクッ!」
「分かってる!」
「絶対に行かせるものか!」
本能的にマズイと感じたのだろう。残された三人は負傷したウィドを置いて、それぞれ武器を握って人形へと走り込む。
この三人に、人形は両手のキーブレードを掲げる。同時に、床一面に光の陣が広がる。
「いい加減に消えろォォォ!!!」
そう叫んで両手のキーブレードを叩きつけると、巨大な光の柱が立ち上ってリク達を巻き込んだ。
「「「ぐぅあああああぁ!!!」」」「いやああぁ!!!」
あまりの強大な力に防ぐ術はなく、その身にモロに受けてしまう。
人形が『ファイナルブレイク』を出し終えると、四人は床に倒れてしまっている。誰も立ち上がる力は無いようで、リクも悔しそうに歯を食い縛っている。
「く、そ…ッ!」
「これであたしと言う存在が始まる。そして全てを取り込んで“ソラ”になる!!」
「ダ、ダメェェ!!!」
歪みに手を伸ばす人形に、倒れた状態でオパールが力の限り叫んだ。
瞬間、人形の胴体に閃光が走った。
「――ッ…!!」
人形の身体がガクリと崩れ、伸ばした手が落ちる。
急に起きた人形の身体に四人が反応していると、癒しの光に包まれる。
治せない筈の傷が癒される。同時に、小さな何かが自分達の前に立った。
「キュンキュン!」
「ハナダニャン!?」
ここに来る前の所で待っていた筈の仲間の登場に、シーノが驚く。
その間にも、ハナダニャンは威嚇するように人形を睨むなり思いっきり飛びかかる。
武器を持ってる訳でもなく体格も小さいハナダニャンに対し、人形は何故か目の敵にするように苛立ちを露わにした。
「くっ、このぉ!! “想い”の分際で邪魔を…!!」
ハナダニャンを消そうとキーブレードを矢鱈滅多に振り回すが、体格が小さくすばしっこい為なかなか当たらない。
もはや自分達が眼中に入っていない様子に、リクの中でチャンスを見出した。
「今なら…!!」
「リクっ!?」
立ち上がるなり、リクは治ったばかりの身体で一気に歪みへと駆ける。
しかし、歪みがあるのは時計盤だ。位置的にどうしても人形に見つかってしまう。
「お前ぇ!!」
「リクの邪魔すんじゃないわよ!!」
見つかったリクにキーブレードを振り上げる人形に、オパールは雷の魔石を顔に投げつける。
「無理だ、オパール!! 今の僕達じゃ攻撃しても意味が――!!」
「それでも目くらましにはなるでしょ!!」
思わずシーノが注意するが、遮るようにオパールは本当の目的を述べる。
魔石が発動し、電撃が人形の顔面に広がる。視界を遮る為に使った『サンダーボルト』に何と人形が仰け反るように怯んだ。
「うあっ!?」
「攻撃が効いてる!? この場所は既にあいつが浸食している筈なのに…!!」
明らかにダメージを受けている人形に、信じられないとばかりにシーノは目を見開く。
こうして隙を見せた人形に、リクは先程ウィドがやったように体の部分に足を掛けると一気に飛び上がる。そうして手を伸ばし、歪みに触る。
だが、触れた手は歪みに入る事無くそのまま通り抜けてしまった。
「触れられない…!!」
「消えてしまえェェ!!!」
「リクゥ!!」
人形の叫びと共にオパールの悲鳴が響く。
背後にいる人形が動く音が聞こえる。十中八九攻撃するつもりだろう。空中戦に長けているクウならともかく、自分では防げる方法はない。覚悟を決めてリクは後ろを振り向く。
直後、リクは何かに押された。
「ナ…!?」
目の前で、ウィドが腕を伸ばしている。更に後ろには、キーブレードを振り下ろしている人形。
何が起こったか全てを認識したリクの前で、ウィドの頭上からキーブレードが振り下ろされた。
「がぁ!!」
「ウィドッ!」
攻撃を回避し、とっさにリクは時計盤の針に手を掛けると庇ってくれたウィドに叫ぶ。
床に激しく叩きつけられたウィドは、リクの声に反応してかよろよろと起き上った。
とりあえず大事までには至ってない事に安堵の息を吐く。そんな中、ウィドは傷が酷いようで苦しそうに右手に付けた指輪を外し、握りしめる。
「何を…」
突然の行動にウィドを見続けると、鞘に納めていた剣を抜く。
まるで踏ん張るように歯を食い縛ると、握っていた指輪を上に投げる。そしてリクを見据え、声が出ないのか口だけを動かした。
《つ か え》
ウィドは放り投げた指輪を巻きこむ形で、リクに『空衝撃』を放った。
「つぅ――!」
いきなり衝撃波がぶつけられ、思わず時計盤から手を放す。それでも双龍の指輪はちゃんと手に納めた。
荒々しい形で託してくれたルキルと繋がる方法に、リクは指輪を握りしめて歪みへと触れ――中へと入り込んだ。
■作者メッセージ
9月に入ってからようやく…ようやく出せた…。本当にここも久々の投稿ですハイ…長い間お待たせしましてすいません。特に夢さん、こちらの私情でかなり待たせてしまい本当にすいません。
こちらも全体的には本当にあと少し…予定では4か5話くらいで終わりです。うん、文字数オーバーしなければ…(オイ
こちらも全体的には本当にあと少し…予定では4か5話くらいで終わりです。うん、文字数オーバーしなければ…(オイ