メモリー編32 「スピカの助言」
中に入り込むと、そこは全てが闇に囲まれた世界だった。
上や下はもちろん、左右を見回しても黒しかない。そんな空間の中でリクは立っていた。
「ここは…あいつの心?」
《…だれ?》
周りを見回していると、別の声が聞こえる。
すぐに振り返ると、そこには短めの銀髪に黄色のシャツと黒のズボンを来た子供の姿――幼い頃の自分が立っていた。
「ニセモノ…って、何でこんなに小さくなってんだ!?」
《ホンモノ、か?》
自分と同じ外見だった筈なのに、子供の姿のまま虚ろな目で見てくるニセモノ。
驚いている場合でないと、リクはルキルの手を掴んだ。
「ニセモノ、来い! お前の力が必要なんだ!」
《俺の?》
「ああ! このままだとお前は消える、それにお前の先生も! みんながお前を待っているんだ!」
《誰の事?》
「え?」
ルキルが呟いた予想外の言葉に、リクは反応出来なかった。
そうして固まっていると、ルキルは表情を消したまま俯く。
《俺、もう何も思い出せない。唯一分かってるのは、俺はお前のレプリカだって事だけ》
まるでルキルの気持ちに感化するかのように、二人の周りから闇が現れ包み込む。
《でも、空っぽなんだ……お前の事以外、何も思い出せない。何も無いんだ、俺には…》
「くっ…! 駄目だ、ニセモノ! 目を覚ませ!」
虚無を抱えたまま闇に呑まれようとするルキルに、リクは必死で叫ぶ。
自分達に迫る闇をキーブレードで払おうとするが、実体を持たない為かすり抜けてしまう。そうしている内に、無情にも二人まとめて闇の中に呑まれてしまった。
(もう…ダメなのか…?)
底の見えない闇に視界と共に意識も黒に染まり、必死で伸ばしていた手をリクはゆっくりと下ろし…。
―――諦めないで!!
暗闇で飛んできた鋭い声と一緒に、指先が細い手で手首を掴まれる。すると力強く引っ張り上げられる。
どうにかルキルと共に闇から脱出すると、そこにいたのはリュウドラゴンだった。呑み込んでいた闇はどう言う訳か自分達から距離を取るように周りを囲んでいる。
「お前…!」
「無事みたいね」
「喋ったぁ!?」
竜の姿にも関わらず人の言葉が飛び出し、リクは仰天する。
そんなリクに気にも留めず、リュウドラゴンは全身に光を放つ。やがて光が収まると、一人の女性が屈んだ状態で現れた。
《おねー…さん…》
「スピカさん!?」
そこにいたのは、前の世界で自分達を助ける為に別れた筈の彼女。服装はどう言う訳か白衣姿に変わっている。
思わぬ再会に唖然としていると、スピカはリクに抱きかかえているルキルに微笑み頭を撫でる。
《お姉さん…“また”来てくれたんだ》
「どう? 苦しくない?」
《うん、苦しい…でも、お姉さんがいればまだ頑張れる気がする》
「そう、本当にあなたはいい子ね。でも、もう大丈夫だから」
そう優しく言うと、スピカはあやすように再び頭を撫でる。まるで母と子のような光景に、リクはようやく口を開いた。
「あの…どうしてあなたがここにいるんですか? あなたは確か、カルマに洗脳されてた筈じゃ…」
最後に別れた時、スピカはカルマと言う人物の服従と戦いながら逃がしてくれた。しかし、今は服従の証として顔を蝕んでいた仮面がない。
リクが疑問をぶつけると、笑顔を消してスピカは顔を逸らした。
「――私は、貴方の知る《スピカ》じゃないの」
「え?」
「私はこことは別世界に存在するスピカ。そして――あなたの世界にシルビアを送り付けた張本人」
「あなたがっ!?」
話だけはシルビアから聞いていた。だが、決して交わる事はないと思っていた。
夢の世界、しかも同じで違う別人の出会いにさすがのリクも開いた口が塞がらない。そんな中、別世界のスピカが頭を下げる。
「ごめんなさい。本当ならあなたやこの子だけでなく、巻き込んでしまった人達全てに謝りたい所だけど……もうそんな時間すらないようね」
直後、周りの闇が揺らぐ。
スピカが小さな光の球を作り出し、ルキルの中へと入れ込む。すると、再び呑み込もうとする闇から遠ざけるように、ルキルを抱えるリクを大きく突き放した。
先程、人形の攻撃を庇ってくれたウィドと同じように。
《お姉さん!?》
「スピカさん!?」
スピカの作った光のおかげか、闇に触れる事なく脱出する事は出来た。しかし、一人取り残されたスピカに二人が叫ぶと、逆に言い返す。
「その子をお願い。私はもう、この《夢》に留まる事は出来そうにない」
《嫌だ! お姉さん!》
「まだ間に合う!! スピカさん、手を!!」
気持ちはルキルと同じなようで、とっさに手を伸ばすリク。が、スピカはその手を伸ばす事はせずに闇の中で首を横に振る。
「無駄よ、私はあなた達が負ってしまったペナルティを背負ってるから。どう足掻いても助ける事は出来ない」
「それって…!」
リクは瞬時に理解する。
あのノーバディを倒した時に起こった自分達のペナルティは、スピカのおかげで消えたと思っていた。だが違う、身代わりとなってその身一つで引き受けたのだ。
ペナルティの所為で四人共動くだけでも大変だった。なのに、リュウドラゴンの状態での彼女はそんな事を微塵にも感じさせなかった。強い部類のドリームイーターだったからか、彼女個人の強さなのか。
真相は分からない。が、そこまでして自分達を助けてくれた彼女にリクが言葉を失っていると、スピカは胸に手を当てて笑いかける。
「それに大丈夫、私は戻るだけ。私の世界のこの子の心に」
「何を言って!?」
「今私は魂だけの存在で、エンの所為でルキルの心の中に眠りによって封じられた。でも、そのおかげでこの世界に来る事が出来た。どんな次元が違うセカイでも夢は繋がっているから。心と同じように、ね」
そんなスピカの言葉は、自然と心の繋がりを大事にしている親友を思い出させる。
「それでも、私は異質の存在。だからあのドリームイーターに姿を変えて、《彼女》と共に出来る限り理(そのこ)を闇の中に隠し守ってきた。彼が彼である為に」
「スピカさん…」
例え交わる事などない、遠くて触れられない場所。きっと関わる必要などないのに、それでも彼女は自分達の事を思って助けようとしてくれた。自分達の世界のスピカと同じように。
その強さを感じていると、スピカの身体はもう顔だけしか見えなくなる。
「来てくれたのがあなたで良かった…この子の闇、解き放ってあげて! それだけで夢の理は傾くわ!」
「待ってくれ! 俺に、そんな事…!」
「出来るわよ。忘れないで――」
自信ありげに宣言すると、最後に見せる。
とびっきりの満面の笑みを。
「この子はあなたから生まれた存在なのよ」
その言葉と同時に、スピカの姿は完全に闇に呑まれてしまった。
そうしてスピカを呑み込んだ闇は収まる事無く、また広がり始める。そんな闇に腕の中にいたルキルが手を伸ばし出す。
《お姉さん! お姉さん!?》
「行くな!! もう手遅れだ!!」
《放せホンモノ! 俺、おれ…あの人に何も出来なかった! ずっと俺のこと、守ってくれたのに…何も…!》
「ニセモノ…」
悔しそうに言いながらも涙は流さない。いや、堪えているのだろう。そこまで弱くないから――いや、本当は…。
幼い姿のルキルをじっと見ていると、唐突に呟く。
《いいよな、ホンモノは…何でも出来て、何でも持ってて…羨ましいよ》
「…そんな事ない。俺は何でも思う通りに出来たと思っていない。寧ろ、あの日から迷惑ばかりかけてきたと思ってる」
一瞬だけ一年前の事を思い返すが、すぐに意識を戻す。今はお互い話し合っている場合ではないのだ。
「それに、俺には今の状況をどうにかする事は出来ない。お前しか出来ないんだ」
《俺が…?》
リクは頷き、今まで腕に抱えていたルキルを地面に下ろす。
そうしてしゃがみ込み、ルキルと目線を合わせて手を差し伸べる。
「力を貸してくれ。このままじゃ俺達は…俺達だけじゃない。沢山の人が傷付けられるかもしれない。お前だけが皆を救えるんだ」
リクの呼びかけに、ルキルは考え込む様に顔を俯かせる。
《俺は、リクじゃない。影なんだ、どう足掻いたってお前みたいになれない》
ようやく口から出たのは、自身を卑下し受け入れない拒絶の言葉。
だが、ルキルの返答は半ば予想はしていた。
だって、俺達は――
「それでも、俺達は一緒なんだ」
そんな台詞を言い切ったリクに、ルキルが弾かれる様に顔を上げる。
忘却の城では決して言わなかった。認めようとしなかった。なのに、今ハッキリと告げた。
自分達は一緒だと。
「お前、どんなにソラの事を嫌っても……あいつを助けようとしてくれただろ? 前の俺と同じように」
《っ!》
リクが過去の事を話すと、ルキルの中で記憶が蘇る。
機関の策略でナミネによってソラと敵対するよう、記憶を植え付けられた。偽の記憶だから矛盾が生じたが、自分の良い様に考えた。
なのに、最後はソラを助けた。本当の自分を思い出したからか、ナミネを助けるついでだったかもう分からないが…信頼を寄せたソラに、答えようと思った。
一つの過去の記憶を思い出すと、リクがスピカがいた闇が蠢く場所へ見つめる。
「スピカさんの言う通りだよ。俺が認めたくなくてもお前と一緒な部分はある、お前は俺の記憶から生まれたんだからさ――けど、同じだからって悪い事ばかりじゃない。そう考えたら……結構不本意だが、一緒なのも悪くない」
《ははっ…――ホンモノ…いや、リク》
若干憎まれ口を叩くが、何だかそれが本心の裏返しに思えてルキルはつい笑ってしまう。
しかし、今やるべき事を思い返し、ルキルは真剣な表情でリクに目を合わせる。意図が伝わったのか、リクも再び手を差し伸べた。
「行くぞ――“ルキル”」
《…ああ》
そうして大きな手に触れるように小さな手が繋がれると、暖かで強い輝きが放たれ闇を霧散した。
上や下はもちろん、左右を見回しても黒しかない。そんな空間の中でリクは立っていた。
「ここは…あいつの心?」
《…だれ?》
周りを見回していると、別の声が聞こえる。
すぐに振り返ると、そこには短めの銀髪に黄色のシャツと黒のズボンを来た子供の姿――幼い頃の自分が立っていた。
「ニセモノ…って、何でこんなに小さくなってんだ!?」
《ホンモノ、か?》
自分と同じ外見だった筈なのに、子供の姿のまま虚ろな目で見てくるニセモノ。
驚いている場合でないと、リクはルキルの手を掴んだ。
「ニセモノ、来い! お前の力が必要なんだ!」
《俺の?》
「ああ! このままだとお前は消える、それにお前の先生も! みんながお前を待っているんだ!」
《誰の事?》
「え?」
ルキルが呟いた予想外の言葉に、リクは反応出来なかった。
そうして固まっていると、ルキルは表情を消したまま俯く。
《俺、もう何も思い出せない。唯一分かってるのは、俺はお前のレプリカだって事だけ》
まるでルキルの気持ちに感化するかのように、二人の周りから闇が現れ包み込む。
《でも、空っぽなんだ……お前の事以外、何も思い出せない。何も無いんだ、俺には…》
「くっ…! 駄目だ、ニセモノ! 目を覚ませ!」
虚無を抱えたまま闇に呑まれようとするルキルに、リクは必死で叫ぶ。
自分達に迫る闇をキーブレードで払おうとするが、実体を持たない為かすり抜けてしまう。そうしている内に、無情にも二人まとめて闇の中に呑まれてしまった。
(もう…ダメなのか…?)
底の見えない闇に視界と共に意識も黒に染まり、必死で伸ばしていた手をリクはゆっくりと下ろし…。
―――諦めないで!!
暗闇で飛んできた鋭い声と一緒に、指先が細い手で手首を掴まれる。すると力強く引っ張り上げられる。
どうにかルキルと共に闇から脱出すると、そこにいたのはリュウドラゴンだった。呑み込んでいた闇はどう言う訳か自分達から距離を取るように周りを囲んでいる。
「お前…!」
「無事みたいね」
「喋ったぁ!?」
竜の姿にも関わらず人の言葉が飛び出し、リクは仰天する。
そんなリクに気にも留めず、リュウドラゴンは全身に光を放つ。やがて光が収まると、一人の女性が屈んだ状態で現れた。
《おねー…さん…》
「スピカさん!?」
そこにいたのは、前の世界で自分達を助ける為に別れた筈の彼女。服装はどう言う訳か白衣姿に変わっている。
思わぬ再会に唖然としていると、スピカはリクに抱きかかえているルキルに微笑み頭を撫でる。
《お姉さん…“また”来てくれたんだ》
「どう? 苦しくない?」
《うん、苦しい…でも、お姉さんがいればまだ頑張れる気がする》
「そう、本当にあなたはいい子ね。でも、もう大丈夫だから」
そう優しく言うと、スピカはあやすように再び頭を撫でる。まるで母と子のような光景に、リクはようやく口を開いた。
「あの…どうしてあなたがここにいるんですか? あなたは確か、カルマに洗脳されてた筈じゃ…」
最後に別れた時、スピカはカルマと言う人物の服従と戦いながら逃がしてくれた。しかし、今は服従の証として顔を蝕んでいた仮面がない。
リクが疑問をぶつけると、笑顔を消してスピカは顔を逸らした。
「――私は、貴方の知る《スピカ》じゃないの」
「え?」
「私はこことは別世界に存在するスピカ。そして――あなたの世界にシルビアを送り付けた張本人」
「あなたがっ!?」
話だけはシルビアから聞いていた。だが、決して交わる事はないと思っていた。
夢の世界、しかも同じで違う別人の出会いにさすがのリクも開いた口が塞がらない。そんな中、別世界のスピカが頭を下げる。
「ごめんなさい。本当ならあなたやこの子だけでなく、巻き込んでしまった人達全てに謝りたい所だけど……もうそんな時間すらないようね」
直後、周りの闇が揺らぐ。
スピカが小さな光の球を作り出し、ルキルの中へと入れ込む。すると、再び呑み込もうとする闇から遠ざけるように、ルキルを抱えるリクを大きく突き放した。
先程、人形の攻撃を庇ってくれたウィドと同じように。
《お姉さん!?》
「スピカさん!?」
スピカの作った光のおかげか、闇に触れる事なく脱出する事は出来た。しかし、一人取り残されたスピカに二人が叫ぶと、逆に言い返す。
「その子をお願い。私はもう、この《夢》に留まる事は出来そうにない」
《嫌だ! お姉さん!》
「まだ間に合う!! スピカさん、手を!!」
気持ちはルキルと同じなようで、とっさに手を伸ばすリク。が、スピカはその手を伸ばす事はせずに闇の中で首を横に振る。
「無駄よ、私はあなた達が負ってしまったペナルティを背負ってるから。どう足掻いても助ける事は出来ない」
「それって…!」
リクは瞬時に理解する。
あのノーバディを倒した時に起こった自分達のペナルティは、スピカのおかげで消えたと思っていた。だが違う、身代わりとなってその身一つで引き受けたのだ。
ペナルティの所為で四人共動くだけでも大変だった。なのに、リュウドラゴンの状態での彼女はそんな事を微塵にも感じさせなかった。強い部類のドリームイーターだったからか、彼女個人の強さなのか。
真相は分からない。が、そこまでして自分達を助けてくれた彼女にリクが言葉を失っていると、スピカは胸に手を当てて笑いかける。
「それに大丈夫、私は戻るだけ。私の世界のこの子の心に」
「何を言って!?」
「今私は魂だけの存在で、エンの所為でルキルの心の中に眠りによって封じられた。でも、そのおかげでこの世界に来る事が出来た。どんな次元が違うセカイでも夢は繋がっているから。心と同じように、ね」
そんなスピカの言葉は、自然と心の繋がりを大事にしている親友を思い出させる。
「それでも、私は異質の存在。だからあのドリームイーターに姿を変えて、《彼女》と共に出来る限り理(そのこ)を闇の中に隠し守ってきた。彼が彼である為に」
「スピカさん…」
例え交わる事などない、遠くて触れられない場所。きっと関わる必要などないのに、それでも彼女は自分達の事を思って助けようとしてくれた。自分達の世界のスピカと同じように。
その強さを感じていると、スピカの身体はもう顔だけしか見えなくなる。
「来てくれたのがあなたで良かった…この子の闇、解き放ってあげて! それだけで夢の理は傾くわ!」
「待ってくれ! 俺に、そんな事…!」
「出来るわよ。忘れないで――」
自信ありげに宣言すると、最後に見せる。
とびっきりの満面の笑みを。
「この子はあなたから生まれた存在なのよ」
その言葉と同時に、スピカの姿は完全に闇に呑まれてしまった。
そうしてスピカを呑み込んだ闇は収まる事無く、また広がり始める。そんな闇に腕の中にいたルキルが手を伸ばし出す。
《お姉さん! お姉さん!?》
「行くな!! もう手遅れだ!!」
《放せホンモノ! 俺、おれ…あの人に何も出来なかった! ずっと俺のこと、守ってくれたのに…何も…!》
「ニセモノ…」
悔しそうに言いながらも涙は流さない。いや、堪えているのだろう。そこまで弱くないから――いや、本当は…。
幼い姿のルキルをじっと見ていると、唐突に呟く。
《いいよな、ホンモノは…何でも出来て、何でも持ってて…羨ましいよ》
「…そんな事ない。俺は何でも思う通りに出来たと思っていない。寧ろ、あの日から迷惑ばかりかけてきたと思ってる」
一瞬だけ一年前の事を思い返すが、すぐに意識を戻す。今はお互い話し合っている場合ではないのだ。
「それに、俺には今の状況をどうにかする事は出来ない。お前しか出来ないんだ」
《俺が…?》
リクは頷き、今まで腕に抱えていたルキルを地面に下ろす。
そうしてしゃがみ込み、ルキルと目線を合わせて手を差し伸べる。
「力を貸してくれ。このままじゃ俺達は…俺達だけじゃない。沢山の人が傷付けられるかもしれない。お前だけが皆を救えるんだ」
リクの呼びかけに、ルキルは考え込む様に顔を俯かせる。
《俺は、リクじゃない。影なんだ、どう足掻いたってお前みたいになれない》
ようやく口から出たのは、自身を卑下し受け入れない拒絶の言葉。
だが、ルキルの返答は半ば予想はしていた。
だって、俺達は――
「それでも、俺達は一緒なんだ」
そんな台詞を言い切ったリクに、ルキルが弾かれる様に顔を上げる。
忘却の城では決して言わなかった。認めようとしなかった。なのに、今ハッキリと告げた。
自分達は一緒だと。
「お前、どんなにソラの事を嫌っても……あいつを助けようとしてくれただろ? 前の俺と同じように」
《っ!》
リクが過去の事を話すと、ルキルの中で記憶が蘇る。
機関の策略でナミネによってソラと敵対するよう、記憶を植え付けられた。偽の記憶だから矛盾が生じたが、自分の良い様に考えた。
なのに、最後はソラを助けた。本当の自分を思い出したからか、ナミネを助けるついでだったかもう分からないが…信頼を寄せたソラに、答えようと思った。
一つの過去の記憶を思い出すと、リクがスピカがいた闇が蠢く場所へ見つめる。
「スピカさんの言う通りだよ。俺が認めたくなくてもお前と一緒な部分はある、お前は俺の記憶から生まれたんだからさ――けど、同じだからって悪い事ばかりじゃない。そう考えたら……結構不本意だが、一緒なのも悪くない」
《ははっ…――ホンモノ…いや、リク》
若干憎まれ口を叩くが、何だかそれが本心の裏返しに思えてルキルはつい笑ってしまう。
しかし、今やるべき事を思い返し、ルキルは真剣な表情でリクに目を合わせる。意図が伝わったのか、リクも再び手を差し伸べた。
「行くぞ――“ルキル”」
《…ああ》
そうして大きな手に触れるように小さな手が繋がれると、暖かで強い輝きが放たれ闇を霧散した。