CROSS FRAGMENT3 「襲撃の火種」
古き傷痕と無数の鍵が残る荒野の世界――キーブレード墓場。
荒野の一角。吹き荒ぶ砂埃の中で、金と銀が混ざりあった一本の剣が突き刺さっている。異質さを感じる剣は、時折鼓動するように光り輝く。
そんな剣を、遠くからエンが腕を組んで眺めていた。
「ねぇ――まだχブレードにならないの? 心の扉は開いたのでしょう」
その時、背後から声が掛けられる。
振り返ると、苛立ちを露わにしているカルマが立っていた。
「予想以上にシルビアの抵抗が激しいんですよ。それでも、着々と融合は進んでいる」
「そう…で、どのくらい?」
「――まだ3分の1にも満たしていない」
更にカルマが問いかけると、第三者の男性の声が響く。
剣の刺さっていた場所に、若干銀が混じった金髪に白が斑に入った黒の外套を羽織った男性――アウルムがいた。疲れているのか顔には疲労の色が窺える。
「あら、人型になれるのね。で、あなたはアウルムの人格かしら?」
「融合はあくまでも均等な力で行う行為だ。そして契約はシルビアとの特殊な繋がり故に力を分け与える。邪魔になるものを取り除いたのはいいが…頑丈に心の扉を閉ざしている。多少時間がかかってしまうが、何時かは」
「待てないわ。折角全ての準備が整ったのに、これ以上待ってたら彼らが追いついてしまう。ねえ、どうにかしてシルビアの抵抗を排除できないの?」
説明を遮り、若干苛立ち交じりにカルマが問う。
だが、それも仕方ない。全てが手に入ったのはいいが、既に日にちも経っている。しかも偵察していたクォーツによれば、あちら側は削った戦力を取り戻す所か更なる力を手に入れ始めている。これ以上時間をかければ計画前に乗り込んでくる可能性がある。
しかし、計画を遅らせている本人であるアウルムは困ったように溜息を吐いた。
「それが出来ればそうしている。だが、こうも心を閉ざされては…」
「ふーん…」
打つ手なしとばかりにお手上げ状態のアウルムに、カルマが思考を巡らせる。
「アウルム、シルビアを表に出す事は出来る? 私が試してみるわ」
この申し出に、アウルムだけでなくエンも思わず視線を送る。
いつの間にかカルマは不敵な笑みを浮かべている。この表情に、アウルムは大きく頷いた。
「…面白い。ならばやってみろ」
直後、全身が光り輝き一瞬で少女の姿に変わる。表に出たシルビアは、アウルムと違い幾つもの光の輪で拘束されている。
更にアウルムと対極になっているのか、銀髪に金の色が染まっており、白い服も所々斑の黒に染まっている。
正に囚われた状態のシルビアは無表情のまま顔を俯かせている。そんな彼女に、カルマは真正面に立って話しかけた。
「ごきげんよう、シルビア。気分はどう?」
「…………」
「だんまり? いい加減に諦めなさい、楽になるわよ?」
全く身動ぎもしないシルビアの様子に、呆れたようにカルマが説得する。
すると、シルビアは僅かに口を開き出した。
「―――」
「ん?」
ボソボソとした呟きが聞こえ、不敵な笑みのままカルマが首を傾げる。
その時を狙ってシルビアは顔を上げると、目の前のカルマを睨みながら言い放った。
「――黙れ、仮面で皺くちゃの素肌隠してるいい歳したババアめ」
(ババ…!)
シルビアの口から放たれた暴言に、戦慄がエンの中で駆け巡る。
反射的に固まってしまうエン対して、カルマはと言うと。
「…………へぇ?」
張り付けた笑顔は引き攣り、額に青筋を浮かばせていた。
「が、はっ…!!」
強い力を受けたのか、身体のあちこちに黒い光が纏わったシルビアが地面に叩き伏せられる。
そんなシルビアに追撃とばかりに、握ったキーブレードに純白の光を宿すなりカルマが小さな背中を踏みつけた。
「自分が特別な存在だからって、いい気になってるみたいね? こんな子供の身体じゃ何も出来ないくせに」
「ぐぅ…うああああぁ!!?」
踏みつけるカルマからどうにか逃げようと身体を動かした瞬間、キーブレードに宿した光が雷撃となってシルビアの全身に襲い掛かる。
カルマにしてみれば減らず口を叩く輩にお仕置きしているのだろうが、他者から見れば一方的に子供を甚振っている大人にしか見えない。さすがにこの光景に耐えられず、エンが助け舟を出した。
「カルマ、止めてください。相手の思う壺です」
「思う壺? もういいわ、こいつを『Sin化』させれば全部解決する事じゃない」
「その『Sin化』も他者からの干渉に当たり、融合の妨害になるから使えないのでしょう」
「なら、こいつを甚振ってやるわ。消えた方がマシって思う程、徹底的にね…!!」
そう言いながら、ぐったりと倒れているシルビアにキーブレードを構える。
完全に訊く耳を持たないカルマの姿に、エンは頭痛を感じて頭を押さえてしまった。
(もはや怒りで我を忘れてしまっていますね…)
ノーバディになる前にも感じていたが、どうして女性と言うのは歳関係に触れた途端にここまで怒るのだろうか? そんな疑問が過るが口にはしない。言った瞬間こちらに飛び火がくるのは目に見えているし、酷い目に合う経験だってとっくの昔にしている。
完全に呆れ返ってエンが自問自答していると、地面に押し付けられているシルビアが吐き捨てた。
「あぁ…そうしろ…!! いっその事、その怒りで我を消してしまえ…!! それで、貴様らの…愚かな野望が一つ潰えるのなら、消えても悔いはない…!!」
「こいつ…!!」
こんな状況をわざわざ受け入れるシルビアに、カルマの怒りの炎が更に燃え上がる。
もう止められそうにない。無意識にエンの顔が引き攣っていると、こちらに近づく足音が背後から聞こえてきた。
「どうした、何か騒がしいが」
「いい所へ――ッ!?」
目の前で繰り広げられる惨劇からの逃避とばかりに、エンが振り返る。
だが、視界に納めた別の光景に、今度は息を呑んで大きく目を見開いてしまう。
声を掛けてきたのは同士にしたセヴィル。そして、後ろには。
「――目覚めたから連れてきた。あとは好きにしてくれ」
それだけ語ると、セヴィルはその場を離れる。しかし、それはカルマとシルビアのやり取りを見たからではない。エンを気遣っての事と…連れてきた人物と共にする事に彼では耐え切れないからだ。
セヴィルが去ると、ようやくカルマも振り返る。すると、シルビアに向けていた怒りを一気に収めて残された人物へと話しかけた。
「あら、ようやくお目覚め? 何日も眠ってるからもう起きないかと思ったわ」
突然の代わり様に興味を抱き、痛みを堪えてシルビアも顔を上げる。
固まっているエンの後ろにいたのは、顔全体を覆う白と黒の仮面を付けた金髪の女性。
「スピ、カ…!?」
自分が心を許した人物の変わり果てた姿に、シルビアは瞠目してしまう。
その瞬間、シルビアの身体全体が痛みと共に軋み出した。
「っ、くぁ…!」
「あらあら…どうやら弱点は身近にあったようね?」
苦しむのと同時にシルビアの銀髪が僅かに金へと染まっていく様子に、カルマが優越の笑みを浮かべる。
シルビアは弱みを見せまいと、必死で胸を押え浸食を抑えようとする。それを見たカルマは足を退けると、スピカを手招きして傍に近づけた。
「さあ、スピカ…だったわね? あなたは私の手駒。その証として、今ここで忠誠を誓ってみて頂戴」
「はい――この命と剣に懸けて、あなたの手駒となる事を誓います」
「…ッ…!!」
スピカならば決して言わないであろう台詞をスラスラと放ち、剰え剣を作り出すと片膝を付いてカルマに向かって首を垂れる。
この様をまじかで見せつけられ激しく動揺するが、シルビアは強く歯を食い縛って感情を抑えつけた。
「そんな、ふざけた演技…我には効かぬぞ…!! どうせ、我からすれば別の人物じゃからの…!!」
「へぇ? その割には、声震えてるわよ?」
尚も優越を感じながら、隠し切れない感情を指摘するカルマ。反論出来ないのかシルビアは悔しそうに目を逸らしてしまう。
難攻不落かと思った壁が二重の意味で崩れたのだ。これにはカルマも気を良くし、更にシルビアを追い詰めようと未だに膝を付くスピカに目を向ける。
そして、これまでの事を思い出すと妖美な微笑を浮かべカルマは一つの指示を出した。
「そうだわスピカ。あなたには確か弟と恋人がいたのよね? 今からでも、そいつらを始末してきてくれない? ああ、周りの人間もいたらついでにね」
「分かりました。それが、あなたの望みなら」
「や、止めるのじゃ!! 行くな、スピカァ!!」
明らかな狼狽を浮かばせながら、シルビアはスピカを引き止めようとする。
これにはカルマは確かな手ごたえを感じ、今まで黙って成り行きを見ていたエンへと顔を向けた。
「エン。皆に伝言を伝えなさい、少しだけKRも起動させて構わない。ノーバディだけじゃキツいでしょうから」
「何をする気ですか?」
エンが問いかけると、カルマは己の考えを口にした。
「――彼らが現在拠点としている、ビフロンスに強襲をかけるわ」
敵側の世界への襲撃を言い渡すと、地面に倒れていたシルビアを片手で持ち上げた。
「そして、こいつの前で見せてあげるの。信じた奴らが傷ついて、亡骸になる様をね…!」
「あぐぅ…!!」
乱暴にカルマに掴まれ、踏まれていた背中を中心に傷が痛み悲鳴を上げる。
思わずシルビアが目を閉じるが、掴んでいるカルマはもちろんエンも見過ごさなかった。
彼女の左目だけが、銀から金に染まっていたのを。
融合による浸食が、着実に進み始めた事に。
記憶がまた一つ消えていく。
過去の事が忘却の中へと沈んでいく。
それでもまだ、大事な事は忘れてはいない。
忘れたくない人はちゃんと覚えてる。
あの“約束”と共に。
―――おれ、まもるから…
それは、一人の少年と交わした約束であり。
―――わらって…ほしいんだ…
自分だけが知る、かけがえのない思い出。
(…クウ…)
かつて、途方もない恐怖心のままに、一つの過ちを犯した。
罪の意識、決して逃げられない恐怖、自分ではどうしようもなくて深い闇に囚われた。
そんな自分を光へと導いてくれた約束であり、思いであり、言葉であり――大事な記憶。
例え残りの記憶全部を引き換えにしてでも、それだけは忘れない。
忘れたくなんて…――ない。
その瞬間から、彼に惚れてしまったのだから…。
荒野の一角。吹き荒ぶ砂埃の中で、金と銀が混ざりあった一本の剣が突き刺さっている。異質さを感じる剣は、時折鼓動するように光り輝く。
そんな剣を、遠くからエンが腕を組んで眺めていた。
「ねぇ――まだχブレードにならないの? 心の扉は開いたのでしょう」
その時、背後から声が掛けられる。
振り返ると、苛立ちを露わにしているカルマが立っていた。
「予想以上にシルビアの抵抗が激しいんですよ。それでも、着々と融合は進んでいる」
「そう…で、どのくらい?」
「――まだ3分の1にも満たしていない」
更にカルマが問いかけると、第三者の男性の声が響く。
剣の刺さっていた場所に、若干銀が混じった金髪に白が斑に入った黒の外套を羽織った男性――アウルムがいた。疲れているのか顔には疲労の色が窺える。
「あら、人型になれるのね。で、あなたはアウルムの人格かしら?」
「融合はあくまでも均等な力で行う行為だ。そして契約はシルビアとの特殊な繋がり故に力を分け与える。邪魔になるものを取り除いたのはいいが…頑丈に心の扉を閉ざしている。多少時間がかかってしまうが、何時かは」
「待てないわ。折角全ての準備が整ったのに、これ以上待ってたら彼らが追いついてしまう。ねえ、どうにかしてシルビアの抵抗を排除できないの?」
説明を遮り、若干苛立ち交じりにカルマが問う。
だが、それも仕方ない。全てが手に入ったのはいいが、既に日にちも経っている。しかも偵察していたクォーツによれば、あちら側は削った戦力を取り戻す所か更なる力を手に入れ始めている。これ以上時間をかければ計画前に乗り込んでくる可能性がある。
しかし、計画を遅らせている本人であるアウルムは困ったように溜息を吐いた。
「それが出来ればそうしている。だが、こうも心を閉ざされては…」
「ふーん…」
打つ手なしとばかりにお手上げ状態のアウルムに、カルマが思考を巡らせる。
「アウルム、シルビアを表に出す事は出来る? 私が試してみるわ」
この申し出に、アウルムだけでなくエンも思わず視線を送る。
いつの間にかカルマは不敵な笑みを浮かべている。この表情に、アウルムは大きく頷いた。
「…面白い。ならばやってみろ」
直後、全身が光り輝き一瞬で少女の姿に変わる。表に出たシルビアは、アウルムと違い幾つもの光の輪で拘束されている。
更にアウルムと対極になっているのか、銀髪に金の色が染まっており、白い服も所々斑の黒に染まっている。
正に囚われた状態のシルビアは無表情のまま顔を俯かせている。そんな彼女に、カルマは真正面に立って話しかけた。
「ごきげんよう、シルビア。気分はどう?」
「…………」
「だんまり? いい加減に諦めなさい、楽になるわよ?」
全く身動ぎもしないシルビアの様子に、呆れたようにカルマが説得する。
すると、シルビアは僅かに口を開き出した。
「―――」
「ん?」
ボソボソとした呟きが聞こえ、不敵な笑みのままカルマが首を傾げる。
その時を狙ってシルビアは顔を上げると、目の前のカルマを睨みながら言い放った。
「――黙れ、仮面で皺くちゃの素肌隠してるいい歳したババアめ」
(ババ…!)
シルビアの口から放たれた暴言に、戦慄がエンの中で駆け巡る。
反射的に固まってしまうエン対して、カルマはと言うと。
「…………へぇ?」
張り付けた笑顔は引き攣り、額に青筋を浮かばせていた。
「が、はっ…!!」
強い力を受けたのか、身体のあちこちに黒い光が纏わったシルビアが地面に叩き伏せられる。
そんなシルビアに追撃とばかりに、握ったキーブレードに純白の光を宿すなりカルマが小さな背中を踏みつけた。
「自分が特別な存在だからって、いい気になってるみたいね? こんな子供の身体じゃ何も出来ないくせに」
「ぐぅ…うああああぁ!!?」
踏みつけるカルマからどうにか逃げようと身体を動かした瞬間、キーブレードに宿した光が雷撃となってシルビアの全身に襲い掛かる。
カルマにしてみれば減らず口を叩く輩にお仕置きしているのだろうが、他者から見れば一方的に子供を甚振っている大人にしか見えない。さすがにこの光景に耐えられず、エンが助け舟を出した。
「カルマ、止めてください。相手の思う壺です」
「思う壺? もういいわ、こいつを『Sin化』させれば全部解決する事じゃない」
「その『Sin化』も他者からの干渉に当たり、融合の妨害になるから使えないのでしょう」
「なら、こいつを甚振ってやるわ。消えた方がマシって思う程、徹底的にね…!!」
そう言いながら、ぐったりと倒れているシルビアにキーブレードを構える。
完全に訊く耳を持たないカルマの姿に、エンは頭痛を感じて頭を押さえてしまった。
(もはや怒りで我を忘れてしまっていますね…)
ノーバディになる前にも感じていたが、どうして女性と言うのは歳関係に触れた途端にここまで怒るのだろうか? そんな疑問が過るが口にはしない。言った瞬間こちらに飛び火がくるのは目に見えているし、酷い目に合う経験だってとっくの昔にしている。
完全に呆れ返ってエンが自問自答していると、地面に押し付けられているシルビアが吐き捨てた。
「あぁ…そうしろ…!! いっその事、その怒りで我を消してしまえ…!! それで、貴様らの…愚かな野望が一つ潰えるのなら、消えても悔いはない…!!」
「こいつ…!!」
こんな状況をわざわざ受け入れるシルビアに、カルマの怒りの炎が更に燃え上がる。
もう止められそうにない。無意識にエンの顔が引き攣っていると、こちらに近づく足音が背後から聞こえてきた。
「どうした、何か騒がしいが」
「いい所へ――ッ!?」
目の前で繰り広げられる惨劇からの逃避とばかりに、エンが振り返る。
だが、視界に納めた別の光景に、今度は息を呑んで大きく目を見開いてしまう。
声を掛けてきたのは同士にしたセヴィル。そして、後ろには。
「――目覚めたから連れてきた。あとは好きにしてくれ」
それだけ語ると、セヴィルはその場を離れる。しかし、それはカルマとシルビアのやり取りを見たからではない。エンを気遣っての事と…連れてきた人物と共にする事に彼では耐え切れないからだ。
セヴィルが去ると、ようやくカルマも振り返る。すると、シルビアに向けていた怒りを一気に収めて残された人物へと話しかけた。
「あら、ようやくお目覚め? 何日も眠ってるからもう起きないかと思ったわ」
突然の代わり様に興味を抱き、痛みを堪えてシルビアも顔を上げる。
固まっているエンの後ろにいたのは、顔全体を覆う白と黒の仮面を付けた金髪の女性。
「スピ、カ…!?」
自分が心を許した人物の変わり果てた姿に、シルビアは瞠目してしまう。
その瞬間、シルビアの身体全体が痛みと共に軋み出した。
「っ、くぁ…!」
「あらあら…どうやら弱点は身近にあったようね?」
苦しむのと同時にシルビアの銀髪が僅かに金へと染まっていく様子に、カルマが優越の笑みを浮かべる。
シルビアは弱みを見せまいと、必死で胸を押え浸食を抑えようとする。それを見たカルマは足を退けると、スピカを手招きして傍に近づけた。
「さあ、スピカ…だったわね? あなたは私の手駒。その証として、今ここで忠誠を誓ってみて頂戴」
「はい――この命と剣に懸けて、あなたの手駒となる事を誓います」
「…ッ…!!」
スピカならば決して言わないであろう台詞をスラスラと放ち、剰え剣を作り出すと片膝を付いてカルマに向かって首を垂れる。
この様をまじかで見せつけられ激しく動揺するが、シルビアは強く歯を食い縛って感情を抑えつけた。
「そんな、ふざけた演技…我には効かぬぞ…!! どうせ、我からすれば別の人物じゃからの…!!」
「へぇ? その割には、声震えてるわよ?」
尚も優越を感じながら、隠し切れない感情を指摘するカルマ。反論出来ないのかシルビアは悔しそうに目を逸らしてしまう。
難攻不落かと思った壁が二重の意味で崩れたのだ。これにはカルマも気を良くし、更にシルビアを追い詰めようと未だに膝を付くスピカに目を向ける。
そして、これまでの事を思い出すと妖美な微笑を浮かべカルマは一つの指示を出した。
「そうだわスピカ。あなたには確か弟と恋人がいたのよね? 今からでも、そいつらを始末してきてくれない? ああ、周りの人間もいたらついでにね」
「分かりました。それが、あなたの望みなら」
「や、止めるのじゃ!! 行くな、スピカァ!!」
明らかな狼狽を浮かばせながら、シルビアはスピカを引き止めようとする。
これにはカルマは確かな手ごたえを感じ、今まで黙って成り行きを見ていたエンへと顔を向けた。
「エン。皆に伝言を伝えなさい、少しだけKRも起動させて構わない。ノーバディだけじゃキツいでしょうから」
「何をする気ですか?」
エンが問いかけると、カルマは己の考えを口にした。
「――彼らが現在拠点としている、ビフロンスに強襲をかけるわ」
敵側の世界への襲撃を言い渡すと、地面に倒れていたシルビアを片手で持ち上げた。
「そして、こいつの前で見せてあげるの。信じた奴らが傷ついて、亡骸になる様をね…!」
「あぐぅ…!!」
乱暴にカルマに掴まれ、踏まれていた背中を中心に傷が痛み悲鳴を上げる。
思わずシルビアが目を閉じるが、掴んでいるカルマはもちろんエンも見過ごさなかった。
彼女の左目だけが、銀から金に染まっていたのを。
融合による浸食が、着実に進み始めた事に。
記憶がまた一つ消えていく。
過去の事が忘却の中へと沈んでいく。
それでもまだ、大事な事は忘れてはいない。
忘れたくない人はちゃんと覚えてる。
あの“約束”と共に。
―――おれ、まもるから…
それは、一人の少年と交わした約束であり。
―――わらって…ほしいんだ…
自分だけが知る、かけがえのない思い出。
(…クウ…)
かつて、途方もない恐怖心のままに、一つの過ちを犯した。
罪の意識、決して逃げられない恐怖、自分ではどうしようもなくて深い闇に囚われた。
そんな自分を光へと導いてくれた約束であり、思いであり、言葉であり――大事な記憶。
例え残りの記憶全部を引き換えにしてでも、それだけは忘れない。
忘れたくなんて…――ない。
その瞬間から、彼に惚れてしまったのだから…。
■作者メッセージ
これにて断章は終了! 下書きはあらかた済んでいたとはいえ一日で書き上げたどー!
これは裏話になるんですが、この時点で伏せて置く予定だった設定をここ最近はちょこちょこと出してます。理由は…今の時点で詳しく話すといろいろ支障がきたすので、大雑把に言うと新しい政治政策でねぇ…。まだ完全に決まってないし反対派が大きな活動をしていると言う部分が唯一の救いですが…。
この作品も長く続いてますし、次からはようやく四日目です。ラストまで半分切っている状態ですので、最後まで書き上げたいと言う気持ちは夢旅人共々ありますので頑張っていきたいと思っています。
これは裏話になるんですが、この時点で伏せて置く予定だった設定をここ最近はちょこちょこと出してます。理由は…今の時点で詳しく話すといろいろ支障がきたすので、大雑把に言うと新しい政治政策でねぇ…。まだ完全に決まってないし反対派が大きな活動をしていると言う部分が唯一の救いですが…。
この作品も長く続いてますし、次からはようやく四日目です。ラストまで半分切っている状態ですので、最後まで書き上げたいと言う気持ちは夢旅人共々ありますので頑張っていきたいと思っています。