CROSS CAPTURE81 「始まりの烽火」
早朝。張り詰めた静寂を突き破る揺れと音が正体を露わになる。
ビフロンスの各地を黒い穴が開かれた。
黒穴からは闇に染まった異形が、更には彷徨う亡霊のように白き異形の者どもが現れた。
同時に、目を描かれた魔法陣がビフロンス各地の空より現れて、出現した群体を監視し始めた。
「――ハートレス、ノーバディを視認したわ」
『うお! いっぱいだな…』
『……撒餌を使ってやがるな。面倒だ』
この『目』の魔法を発動したのはミュロスだった。彼女は発動したカードの効果で索敵した。
彼女がいる場所はビフロンスの城下町。喧噪も人の活気も寝静まった静寂も無い、静謐に包まれている。
その理由は、戦場になる町や城、要所には今、大きなドーム状の結界によって覆われていた。
これら『結界』には住民たちや建造物を特殊な力で内外部と『隔離』する事で被害を最小限に抑えるものだった。
「……奴らは、どこかしら」
ミュロスは『目』を操作して、敵を探り分ける。
今現れた群体は所謂『兵士』だろう。まず『将』と呼べる存在ではない。
本命であるカルマとエン、彼らの率いる敵は、何処から攻め入る、侵入してくるのか。
『群体はどう動いているんだ?』
「各地よ。城、町やそっちの要所にも」
『その様だな。既に見えてる…迎え撃つとしよう』
彼女の周囲に浮かぶ幾つものカードから別々の声が発せられる。
声の主は神無やチェルを始めとした各地にいる防衛の者たちの声だった。
彼女はまず、各地へ赴く彼らに通信が出来るカードを渡して、相互連絡を可能にした。
『カルマたちは?』
最後に問いかけた声の主はイリアドゥスだ。
『目』を凝らすも群体の有象無象に困難の色を表情や声になって返した。
「……現れた敵が多すぎてわからないわ。ごめんなさい」
『いいのよ。こちらこそ無理を言ったわ』
『まずは群体を相手にするしかない、そうだろう』
カードから凛那が淡々と闘志を秘めた声で言う。
「ええ。その通り。町にも迫ってきている。――皆、気を付けて」
ミュロスは連絡を切る。『目』の魔法も一旦解除して、視界を戻した。
町へと迫ってくる黒と白の山―――有象無象のハートレスとノーバディたち―――を睨みすえる。
此処を戦場にはしたくはなかった、そんな慚愧を戦意に変えて口火を切る。
「さて…行くわよ」
彼女以外にも町の防衛を任されたものたちもいる。
ミュロスを始めとした、アルマ、ディアウス、プリティマ、アイギス、
リヒター、ローレライと、半神らシーノ、セイグリット、シュテンの者たちである。
「大技で殲滅した方がいいよね、アレは」
大軍を見やり、直接的な戦闘よりも支援に秀でたシーノが困ったように呟いた。
「――なら、先陣はアタイが頂く!」
彼らの中から気勢の良い声で荒々しい風貌の女性の――ギルティスが言うや我さきと駆けだす。
それを呼び止めるものはいない。気焔に満ち溢れる彼女の雰囲気を察したからだ。
そうして群体は真っ先に突っ込んできた彼女を呑む勢いで進んで来た。
彼女の盾たる手甲が闘志となってより輝く。
「煌輝なる星盾(オーバーレイ・メテオライト)ォッ!!」
吼えるや輝く手甲の何倍もの光の盾が現れ、聳え立つ。巨大な光盾へと群体は勢いのままに突っ込んだ。
その激突により、不動の盾に真っ先にぶつかったハートレスやノーバディは後続の群体に押し潰されていく。
それを見て、半神シュテンが快活に笑う。
「ハッハ! なら……っぷはぁ。――俺も先鋒に加担するぜェ!」
彼は手に持つ瓢箪に入った酒をあおり、武器たる大刀を構えて走り出す。
「ならば俺も続こう!!」
見事な一撃を見た興奮冷めやらぬリヒターもそう言うや駆けだしていった。
「!」
後ろから駆けてきた二人に気付いたギルティスが振り向く。
すでに巨大な盾も群体の押し込みで亀裂を生んでいた。
「同時に行くぜ!」
「無論だァ!」
「ええ!」
その闘志に燃え盛る男たちの声に、ギルティスは強く笑みを深める。
同時に盾が破壊された。
押し破った群体は構わず突き進もうとした刹那―――、
「朱天暴爆風(しゅてんぼうばくふ)!!」
「緋星獄滅撃(ひせいごくめつげき)ッ!!」
「光輝なる煌巨斬(オーバーレイ・ブレイドノヴァ)!」
全力の咆哮、それぞれの武器から巨大な火炎の塊が繚乱する。
そして、ギルティスの振り放つ闘剣の斬光が閃き、何倍もの大きさの光刃となって敵を両断する。
3人の眼前に迫った敵は一瞬で灼熱地獄と巨大光刃に消え去るが、それでも残った群体、更に現れた群体も先ほどの一塊から幾つもの塊となって分散しはじめた。
「……我々も奮戦するぞ!」
いつしか楽しげに笑みを浮かべていたディアウスは残った者らに言い、皆も了承して、迎え撃つ。
彼らの視界の先で輝く光や、燃え盛る二つの炎が荒れ狂っている。
町での戦闘、そして、各地の戦いの烽火が始まった。
時同じくして。
ビフロンスを維持する城壁城郭、それらの要の3か所が「アル」と名の付いた場所であった。
その一つ「アル・ファースト」と呼ばれる町から南に位置する森を抜けた先にある城壁城郭に神無たちはいた。
神無を始めとしたハオス、ブレイズ、シンメイ、ゼロボロス、紫苑がメンバーであった。
「…どうにか間に合ったな」
北の位置する城から反対の位置である南の此処へとゼロボロスが竜となり、一気にたどり着いた。
黒竜の背から降りた神無が安堵と共に呟く。
彼らの視線の先に敵の群体も現れ始めて、こちらへと迫りつつある状況だ。
「皆、先の話は了解しておろうな」
「ああ。シンメイ、ハオス、紫苑は後衛、俺とブレイズ、ゼロボロスで前衛ってやつだろ」
シンメイの確認の問いかけに神無が応じる。
彼らは移動中にこのメンバーでの役割分担の話をした。
神無の言葉に、彼女は頷き返す。
「そうじゃ。任せるぞ神無」
「とはいえ、あれだけの数だ……討ち洩れは頼むぜ?」
嘆息しつつ人の姿になったゼロボロスは敵の方へと見やり、紫苑へ声をかける。
「解っていますよ。――そろそろ迎え撃ちましょう」
紫苑はやり取りを切り上げる。神無たちも心剣や武器を取り出して前衛は迎え撃っていく。
シンメイら後衛の3人も防衛の為にそれぞれ行動する。
「…3人であれだけの数を裁けるのだろうか」
後衛に構えるハオスが不安げに言う。
大軍対少数である以上、言ってもきりがないことは自覚していたが吐露せずにはいられなかった。
そんな言葉に、ほかの二人は別段その言動に感情を示さず落ち着きはらった平淡な様子で応じた。
「何、あの3人だからこそ裁けるだよ」
「そうじゃな。ゼロボロスも竜に戻ったしの」
首肯するシンメイが言うと共に、再度竜へと戻ったゼロボロスが咆哮と共に炎熱の大放射を吐き出す。
群体を焼き払い、その巨躯で真っ向から挑みかかる。
「いくぜ、ブレイズ!」
「言われなくともわかっている、指図するな」
既に竜の背にしがみ付いていた神無とブレイズも同時に飛び出して、戦闘へと加わる。
二つの黒い炎と赤と青の炎が群体を焼き払い、切り裂いていった。
「それ、こっちにも来おった!」
3人の攻勢でも敵は後衛の方にも現れ、流れこむ。
言うやシンメイも戦闘に特化したスタイル『龍武壮麗』となり、手に持つ宝剣で襲い掛かる敵を斬り伏せていく。
紫苑やハオスもそれぞれの武器―――魔法と体術や剣術で敵を迎え撃ち始めた。
「――む」
開戦から少しの時間が経った。
ハートレスやノーバディを黒い心剣バハムートで薙ぎ払い、蹴散らす疲労の色無く戦い抜く。
ふと、蹴散らした事で小さな余裕を得た神無は新たな気配を感じ取る。
カルマたちほどの強大な気配ではないが、別の大きな気配を。
「! ゼロボロス、身を護れ!」
『な!?』
突如、迸るいくつもの雷光、無数に降り注ぐ炎弾、氷塊の礫が黒竜ゼロボロスに集中砲火される。
気づいた神無の叫びに間一髪、防護の魔法陣を発動し、それらを受け止めて、相殺された。
「あれは…」
双炎で周囲の敵を撃破したブレイズ、後衛の3人も気づいて、上空を仰ぐ。
攻撃の始点は彼らの頭上遥か上空からであった。
「――KRか…!」
ハートレスを蹴り飛ばした紫苑が新たに現れた敵勢の名を言う。
鍵状の剣を携えた無機質な鎧の偽りの騎士たち『KR(キーブレード・レプリカ)』だ。
当然現れるであろうと予測していた。
だが、前回の襲撃よりも動きや性能が上昇されている事を攻撃を防いだゼロボロスは感じ取った。
『何?』
怪訝にゼロボロスは紅い双眸を見据える。彼らKRたちの中に際立つ気配が一つ現れる。
騎士たちのが2つの列に分かれ、その間から姿を現した何者か。
何者かは存在感を放ち、その外見は他のKRとは鎧や剣の質、壮麗さは比べ物にならず、際立つものがある。
そんな圧倒的な雰囲気を放つそのKRは銀灰の鍵剣を振るう。まさに指揮者のように、悠々と、厳かに。
「戦闘開始。始めよう……」
そして、発せられる無機質な男の声と共に引き連れたKRたちが一斉に機動する。
敵の動きと共に身構えた神無たちは、更なるKRと統率する謎のKRとの戦闘を開始した。
■作者メッセージ
●町防衛
ミュロス アルマ ディアウス プリティマ アイギス リヒター
ローレライ シーノ セイグリット シュテン
●アル・ファースト防衛(南)
神無 ハオス ブレイズ
シンメイ ゼロボロス 紫苑
となっています。
結界は封絶的なもので防護しているものと思ってください
ミュロス アルマ ディアウス プリティマ アイギス リヒター
ローレライ シーノ セイグリット シュテン
●アル・ファースト防衛(南)
神無 ハオス ブレイズ
シンメイ ゼロボロス 紫苑
となっています。
結界は封絶的なもので防護しているものと思ってください