CROSS CAPTURE83 「因縁の襲来・1」
『――よし、防衛組は何とか決まりそうだな』
急遽開催された会議も、討論の末に大分話が纏まり上げてきた。
終わりが見えてきた事にゼツが嬉しそうにする中、アイネアスは徐にクウ達三人へと視線を送る。
『さて、残るは君達側の戦力だ。そちらも何人か防衛組に回してほしい』
『俺達から…か』
『私達三人を含め、今動けるのはリク・ヴェン・オパール・レイア・無轟・ゼロボロスだけですよね?』
『どう分けるか…――そっちは何か要望とかあったりするか?』
自分たちの中で動ける人物を思考するテラとアクア。まずは相手の要望を聞こうとクウが質問を投げつける。
その問いに答えたのは、アルビノーレだった。
『アルシリーズや町の防衛の方はこちらの戦力を注いでいる感じで割り振っている。出来れば君達には、城の方も手薄にならないように配置して欲しい』
『城にもアルシリーズにもそれなりに腕の立つ奴らを、って事か』
この城も今や自分達にとって大事な拠点の一つだ。アルシリーズや町の防衛も大事だが、ここだって潰れてしまえば問題だろう。
とは言え、どちらかの施設に戦力を集中して割り振ってしまえばバランスが崩れる。丁度均衡になるように人数や戦力を割り振るには、共に過ごし戦ってきた自分達が一番分かっている。
『まずオッサンは城に残した方がいいな。戦力云々以前に、重要な所で戦闘させたらあちこち壊しかねないだろ』
『ハハハ、本当にやりかねないから怖いな…』
最初に出たクウからの意見。灼熱の炎を纏って暴れる姿が想像出来たのか、思わず神無が遠目で頷いてしまう。
『そうだな。どうせ城に被害が出る可能性だってあるのだ。一つや二つ、最悪全壊しようが…くぅ…!!』
『アイネアス、本心隠しきれてないわよ?』
『どっちが真の敵か分からなくなってきたな…』
同じく圧倒的な力で暴れまわって半壊する様を想像したようでアイネアスが涙目で蹲り、サイキがすぐさま宥める。何もしてないのに被害者が増える光景に、頭痛を感じたのかチェルも頭を押さえてしまった。
段々と会議室が暗くなり、空気を換えようとアクアとテラが話を進める。
『ヴェン達はこちらに残して置くとして――ここは、私達三人で防衛に向かうのがいいかしら?』
『いや。俺としては防衛にはヴェンも一緒に行動させた方がいい。重要な戦いの際は、出来るだけ息の合った者同士で組んだ方がいいだろ?』
『と言う事は、私・テラ・ヴェン・クウの四人になるのね。それでいい?』
配置を決めてアクアが念の為にクウに確認を仰ぐと、彼は困ったように目を逸らす。
『俺は…その…』
『何かあるのか?』
口籠るクウにオルガが聞くと、目を逸らしながら口を開く。
『俺――出来ればウィドについてやりたい。だからここに残りたいんだが…駄目か?』
『駄目って事はないです。分かりました』
『なら、他に俺達の中で防衛に当たれるのは――ゼロボロスならいいかな?』
クウの提案を受け入れ、すぐにアクアとテラが別の案を考える。
そうして他に腕の立つ人物を思い付くと、異存はないのか神無が頷いた。
『ああ、いいと思うぜ。防衛組の中には紫苑と関係ある奴らもいるしな。寧ろ丁度よさそうだ』
『『紫苑?』』
神無の口から飛び出した聞いた事もない名前に二人が反応する。
しかし、その疑問を無視するようにイリアは話を纏め出す。
『では、そちら側でアルシリーズの防衛に当たるのはテラ・ヴェン・アクア・紫苑の四名で決まりね。残りはこの城を任せるわ』
『分かった』
メンバーの編成が決まり、クウが頷く。勝手に話が進まれてしまい、テラが困惑を見せる。
『待ってくれ。紫苑って誰の事だ?』
『あー。軽くだが説明するよ。実は――』
まだ何も知らないテラとアクアに、事情を知っている神無がゼロボロス――紫苑についての説明を始めた。
「と、言う事だ」
戦場となった通路を走りながら、会議での一部始終をクウが説明し終える。
リクも隣で走りながら、聞いた内容を理解して頷く。
「つまり、俺達はこの城を中心に敵を倒せばいいって事か」
「そういう事を勝手に決めて…!」
「話が出来る大人が俺らしかいなかったんだ。仕方ないだろ、っと!」
ウィドに文句を言いながら、壊れた窓から飛び込むように襲い掛かってきたハートレスをクウは蹴り飛ばす。
敵を倒しながら分かれ道に差し掛かり、全員は足を止める。ウィドも一旦剣を収めると、クウへと向き直った。
「で、これからどうするんです?」
「ねえ! 目的がまだないなら、オパールを探して! もし一人だったら危険だよ!」
「せめて、誰かと合流していればいいんだが…!」
一人だけ行方が知れないオパールを探す事を提案するカイリ。不安になる気持ちは一緒なのかリクも隠しきれない。
今は敵の襲撃に遭い緊迫した状況だ。テラ達は防衛に向かっている、無轟は心配するだけ無駄、レイア、シャオ、ルキルは眠っているが近くに人もいたから何かあっても対処出来る。そうなると、今危険なのはオパールだろう。
まずはオパールと合流をする事を決めると、とりあえず一階から探そうと先に進もうとした。
「見つけた」
そんな四人に、何処からか聞き覚えのある声が響く。
瞬間、クウ、ウィド、カイリの足元から激流が飲み込むように襲い掛かった。
「「ぶわっ!?」」
「ああっ!」
「この水、まさか!?」
突然の水の攻撃に倒れる三人に対し、リクは表情を強張らせる。
声のした方を振り返ると、そこには槍を持った少女が狂気の笑みを浮かべていた。
「やっと会えたわ――リクゥ!!!」
「リリス…っ!!」
所変わって、町外れの草原。あちこち地面が抉れ、ボロボロになったアルガ、ティオン、アガレスが地に伏せられて倒れている。
この場で立っているのは、彼らの中心にいたエン。そして離れた場所で固まっていたソラの二人だけ。
「みんな…!」
「まさか、闇の世界から戻るとは…しかも、こちらの“セカイ”にまで来てしまった」
「この町が襲われてるの、お前の仕業なのか!?」
「そうだ、と言ったら?」
「戦う!」
即答で答え、キーブレードを構えるソラ。
目の前でいきなり襲い掛かった三人を返り討ちにしたにも関わらず、臆する事もないその真っ直ぐな視線。このソラの態度に、エンは呆れ交じりのため息を吐く。
「…もう私と戦った事を忘れましたか? あれだけの人数がいたにも拘らず、私を止める事など出来なかった。なのに、一人で何が出来ると言うのですか?」
「だとしても、何もしないよりマシだ!!」
一度は敗北したのに、そんな事を感じさせない揺るがない意思。
今対峙している少年のソラと、記憶の中にある成長したソラ。二人の年齢は違うのに、重なって見えてしまう。
その重なりが引き金となり、エンの中にある遠い記憶を呼び起こす。
(――本当に“あの時”と同じ目をしている…)
次々と仲間を、戦友を、家族を失った絶望的な状況。それでも諦めず立ち向かい、最終的に心を犠牲にして助けて貰った。
それは不可能を打ち破る可能性。確かに存在する未来の、絆の繋がり。
彼が持つ、繋がる心の力。
「…ならば、軽く勝負でもします?」
「え?」
湧き上った懐旧で相まってか、エンは思わず試すような事を口走る。
一方、予想しなかったエンの問いかけにソラが狼狽える。それでもエンは己が口にした事を取り消さず、懐から勝負に使うある物を取り出す。
それは黒い小さな玉。ソラはそこから《蠢動する何か》を感じ取る。
「それは?」
「一種の蒔き餌の模造品です。破壊すれば、ハートレスを無尽蔵に生み出す闇が作られる」
「なに!?」
「さて。これを、町の中心で破壊したらどうなるか…単純な頭でも分かるでしょう?」
にっこりと不気味に笑い、背に白い翼を出す。上空へと飛び立とうとする動作だ。
「待て、エン!!」
ソラが駆けようとするのと、倒れているアガレスの持つ剣が鼓動したのは同時だった。
「――ハゲンティ! フェミニア!」
「ええ!」
「分かっておる!」
アガレスの呼びかけと共に、白のドレスを着た女性と禍々しさを帯びた麗しい銀の剣を手にした和を模した黒衣の女性が現れる。
二人の女性の魂が具現化し、金の十字架と銀の剣を構えてエンを止めようと動く。そんな二人に、エンは球体を握るなり手を掲げる。
「『マーシレスソーン』」
すると、禍々しい闇の茨が地に倒れているアルガ達だけでなく、魂の存在である二人にも纏わりつき拘束した。
「「「ぐああああぁぁ!!?」」」
「ああっ!?」
「ぬぅ…!」
茨に拘束されて一斉に苦痛の表情で蹲る様子に、一人だけ間逃れたソラは魔法を発動させたエンを睨む。
「みんなに何をした!?」
「この玉に込められた闇の力を使って、動きを封じただけですよ。とは言え、拘束しているのは闇の茨。このままでは彼らの体力や精神が痛みで蝕まれるだけ…人質になるには丁度いいでしょう」
「そんな…!」
「助けたければ、これを“キーブレードで封じて”壊す事ですね。まあ、それ以外で破壊も可能ですが、彼らが助かる代わりに町の一部が闇に飲まれハートレスが生み出されますよ?」
その言葉を最後に、エンはその場から飛び立つ。飛び去った方向は襲われている町だ。
「ッ…すぐに助けるから! 少しだけ待ってて!」
拘束された五人にそう言うと、ソラはキーブレードを手に走る。
彼らを助けるため。町を守るために。
そんな思いに駆られ、ソラはエンを追いかける。だから、気づかなかった。
「…ッ! 待て、ソラ…! 罠だ…!」
闇の茨の中で、必死に訴えるようにアルガが手を伸ばしていた事に。
どうにかして引き留めようとソラに手を伸ばすが、気づく事無くエンを追って町へと向かってしまった。
もうどうする事も出来ず、アルガは伸ばしていた手を地面につけた。
「く、そ…!」
「身動きが、取れない…! みんな、に…連絡も…出来ない…!」
ティオンもこの状況を何とかしようとするが、茨だけでなく纏わりついた闇の所為でろくに動けない。
恐らく、町には他の者達が防衛に当たっている筈だ。それをエンが知らない訳がない。
それでもあえてそこをソラとの戦いの場に選んだのは、不利な条件での対決に持ち込めるからだ。
もし万が一、戦っている他の援軍がエンを見つけて攻撃してしまえば――あの黒い玉は壊れ、町がハートレスと闇の巣屈になってしまう。他の人に連絡が出来ない以上、防ぐ方法を知り、尚且つ実行する術はソラしか持っていない。
エンと言う強敵。下手をすれば顔も知らない他の者達と対立しかねない。ソラにとっては明らかに分が悪すぎる戦いだ。
この勝負、本当に勝てるのだろうか…。
目覚めたら、知らない部屋のベットの上にいた。
すごく頭がスッキリしている。それに疲れもないし、気分もいい。ずっと眠っていたからだろうか、それか納得出来る《答え》を選んだからかもしれない。
ベットから出て、ゆっくりと起き上がる。床に足をしっかりとつける事で、少しずつ自分という存在が足から胴体、腕、手、頭、心へと伝わってくる。
そうして身に染みて感じる中で、城の異変に気付きだす。僅かな振動、騒がしい音、肌を刺す緊張感、窓の外に見える黒煙。
瞬時に察する。戦闘が起こっているのだと。
「行かなきゃ――」
発した声は、高いソプラノ調の少女の声色。
寝ている間にずれてしまったニット帽を深く被り直し、銀の髪を整える。
服装も出来る限り整えると、水色の瞳に決意を浮かべながら部屋の外に出ていった。
急遽開催された会議も、討論の末に大分話が纏まり上げてきた。
終わりが見えてきた事にゼツが嬉しそうにする中、アイネアスは徐にクウ達三人へと視線を送る。
『さて、残るは君達側の戦力だ。そちらも何人か防衛組に回してほしい』
『俺達から…か』
『私達三人を含め、今動けるのはリク・ヴェン・オパール・レイア・無轟・ゼロボロスだけですよね?』
『どう分けるか…――そっちは何か要望とかあったりするか?』
自分たちの中で動ける人物を思考するテラとアクア。まずは相手の要望を聞こうとクウが質問を投げつける。
その問いに答えたのは、アルビノーレだった。
『アルシリーズや町の防衛の方はこちらの戦力を注いでいる感じで割り振っている。出来れば君達には、城の方も手薄にならないように配置して欲しい』
『城にもアルシリーズにもそれなりに腕の立つ奴らを、って事か』
この城も今や自分達にとって大事な拠点の一つだ。アルシリーズや町の防衛も大事だが、ここだって潰れてしまえば問題だろう。
とは言え、どちらかの施設に戦力を集中して割り振ってしまえばバランスが崩れる。丁度均衡になるように人数や戦力を割り振るには、共に過ごし戦ってきた自分達が一番分かっている。
『まずオッサンは城に残した方がいいな。戦力云々以前に、重要な所で戦闘させたらあちこち壊しかねないだろ』
『ハハハ、本当にやりかねないから怖いな…』
最初に出たクウからの意見。灼熱の炎を纏って暴れる姿が想像出来たのか、思わず神無が遠目で頷いてしまう。
『そうだな。どうせ城に被害が出る可能性だってあるのだ。一つや二つ、最悪全壊しようが…くぅ…!!』
『アイネアス、本心隠しきれてないわよ?』
『どっちが真の敵か分からなくなってきたな…』
同じく圧倒的な力で暴れまわって半壊する様を想像したようでアイネアスが涙目で蹲り、サイキがすぐさま宥める。何もしてないのに被害者が増える光景に、頭痛を感じたのかチェルも頭を押さえてしまった。
段々と会議室が暗くなり、空気を換えようとアクアとテラが話を進める。
『ヴェン達はこちらに残して置くとして――ここは、私達三人で防衛に向かうのがいいかしら?』
『いや。俺としては防衛にはヴェンも一緒に行動させた方がいい。重要な戦いの際は、出来るだけ息の合った者同士で組んだ方がいいだろ?』
『と言う事は、私・テラ・ヴェン・クウの四人になるのね。それでいい?』
配置を決めてアクアが念の為にクウに確認を仰ぐと、彼は困ったように目を逸らす。
『俺は…その…』
『何かあるのか?』
口籠るクウにオルガが聞くと、目を逸らしながら口を開く。
『俺――出来ればウィドについてやりたい。だからここに残りたいんだが…駄目か?』
『駄目って事はないです。分かりました』
『なら、他に俺達の中で防衛に当たれるのは――ゼロボロスならいいかな?』
クウの提案を受け入れ、すぐにアクアとテラが別の案を考える。
そうして他に腕の立つ人物を思い付くと、異存はないのか神無が頷いた。
『ああ、いいと思うぜ。防衛組の中には紫苑と関係ある奴らもいるしな。寧ろ丁度よさそうだ』
『『紫苑?』』
神無の口から飛び出した聞いた事もない名前に二人が反応する。
しかし、その疑問を無視するようにイリアは話を纏め出す。
『では、そちら側でアルシリーズの防衛に当たるのはテラ・ヴェン・アクア・紫苑の四名で決まりね。残りはこの城を任せるわ』
『分かった』
メンバーの編成が決まり、クウが頷く。勝手に話が進まれてしまい、テラが困惑を見せる。
『待ってくれ。紫苑って誰の事だ?』
『あー。軽くだが説明するよ。実は――』
まだ何も知らないテラとアクアに、事情を知っている神無がゼロボロス――紫苑についての説明を始めた。
「と、言う事だ」
戦場となった通路を走りながら、会議での一部始終をクウが説明し終える。
リクも隣で走りながら、聞いた内容を理解して頷く。
「つまり、俺達はこの城を中心に敵を倒せばいいって事か」
「そういう事を勝手に決めて…!」
「話が出来る大人が俺らしかいなかったんだ。仕方ないだろ、っと!」
ウィドに文句を言いながら、壊れた窓から飛び込むように襲い掛かってきたハートレスをクウは蹴り飛ばす。
敵を倒しながら分かれ道に差し掛かり、全員は足を止める。ウィドも一旦剣を収めると、クウへと向き直った。
「で、これからどうするんです?」
「ねえ! 目的がまだないなら、オパールを探して! もし一人だったら危険だよ!」
「せめて、誰かと合流していればいいんだが…!」
一人だけ行方が知れないオパールを探す事を提案するカイリ。不安になる気持ちは一緒なのかリクも隠しきれない。
今は敵の襲撃に遭い緊迫した状況だ。テラ達は防衛に向かっている、無轟は心配するだけ無駄、レイア、シャオ、ルキルは眠っているが近くに人もいたから何かあっても対処出来る。そうなると、今危険なのはオパールだろう。
まずはオパールと合流をする事を決めると、とりあえず一階から探そうと先に進もうとした。
「見つけた」
そんな四人に、何処からか聞き覚えのある声が響く。
瞬間、クウ、ウィド、カイリの足元から激流が飲み込むように襲い掛かった。
「「ぶわっ!?」」
「ああっ!」
「この水、まさか!?」
突然の水の攻撃に倒れる三人に対し、リクは表情を強張らせる。
声のした方を振り返ると、そこには槍を持った少女が狂気の笑みを浮かべていた。
「やっと会えたわ――リクゥ!!!」
「リリス…っ!!」
所変わって、町外れの草原。あちこち地面が抉れ、ボロボロになったアルガ、ティオン、アガレスが地に伏せられて倒れている。
この場で立っているのは、彼らの中心にいたエン。そして離れた場所で固まっていたソラの二人だけ。
「みんな…!」
「まさか、闇の世界から戻るとは…しかも、こちらの“セカイ”にまで来てしまった」
「この町が襲われてるの、お前の仕業なのか!?」
「そうだ、と言ったら?」
「戦う!」
即答で答え、キーブレードを構えるソラ。
目の前でいきなり襲い掛かった三人を返り討ちにしたにも関わらず、臆する事もないその真っ直ぐな視線。このソラの態度に、エンは呆れ交じりのため息を吐く。
「…もう私と戦った事を忘れましたか? あれだけの人数がいたにも拘らず、私を止める事など出来なかった。なのに、一人で何が出来ると言うのですか?」
「だとしても、何もしないよりマシだ!!」
一度は敗北したのに、そんな事を感じさせない揺るがない意思。
今対峙している少年のソラと、記憶の中にある成長したソラ。二人の年齢は違うのに、重なって見えてしまう。
その重なりが引き金となり、エンの中にある遠い記憶を呼び起こす。
(――本当に“あの時”と同じ目をしている…)
次々と仲間を、戦友を、家族を失った絶望的な状況。それでも諦めず立ち向かい、最終的に心を犠牲にして助けて貰った。
それは不可能を打ち破る可能性。確かに存在する未来の、絆の繋がり。
彼が持つ、繋がる心の力。
「…ならば、軽く勝負でもします?」
「え?」
湧き上った懐旧で相まってか、エンは思わず試すような事を口走る。
一方、予想しなかったエンの問いかけにソラが狼狽える。それでもエンは己が口にした事を取り消さず、懐から勝負に使うある物を取り出す。
それは黒い小さな玉。ソラはそこから《蠢動する何か》を感じ取る。
「それは?」
「一種の蒔き餌の模造品です。破壊すれば、ハートレスを無尽蔵に生み出す闇が作られる」
「なに!?」
「さて。これを、町の中心で破壊したらどうなるか…単純な頭でも分かるでしょう?」
にっこりと不気味に笑い、背に白い翼を出す。上空へと飛び立とうとする動作だ。
「待て、エン!!」
ソラが駆けようとするのと、倒れているアガレスの持つ剣が鼓動したのは同時だった。
「――ハゲンティ! フェミニア!」
「ええ!」
「分かっておる!」
アガレスの呼びかけと共に、白のドレスを着た女性と禍々しさを帯びた麗しい銀の剣を手にした和を模した黒衣の女性が現れる。
二人の女性の魂が具現化し、金の十字架と銀の剣を構えてエンを止めようと動く。そんな二人に、エンは球体を握るなり手を掲げる。
「『マーシレスソーン』」
すると、禍々しい闇の茨が地に倒れているアルガ達だけでなく、魂の存在である二人にも纏わりつき拘束した。
「「「ぐああああぁぁ!!?」」」
「ああっ!?」
「ぬぅ…!」
茨に拘束されて一斉に苦痛の表情で蹲る様子に、一人だけ間逃れたソラは魔法を発動させたエンを睨む。
「みんなに何をした!?」
「この玉に込められた闇の力を使って、動きを封じただけですよ。とは言え、拘束しているのは闇の茨。このままでは彼らの体力や精神が痛みで蝕まれるだけ…人質になるには丁度いいでしょう」
「そんな…!」
「助けたければ、これを“キーブレードで封じて”壊す事ですね。まあ、それ以外で破壊も可能ですが、彼らが助かる代わりに町の一部が闇に飲まれハートレスが生み出されますよ?」
その言葉を最後に、エンはその場から飛び立つ。飛び去った方向は襲われている町だ。
「ッ…すぐに助けるから! 少しだけ待ってて!」
拘束された五人にそう言うと、ソラはキーブレードを手に走る。
彼らを助けるため。町を守るために。
そんな思いに駆られ、ソラはエンを追いかける。だから、気づかなかった。
「…ッ! 待て、ソラ…! 罠だ…!」
闇の茨の中で、必死に訴えるようにアルガが手を伸ばしていた事に。
どうにかして引き留めようとソラに手を伸ばすが、気づく事無くエンを追って町へと向かってしまった。
もうどうする事も出来ず、アルガは伸ばしていた手を地面につけた。
「く、そ…!」
「身動きが、取れない…! みんな、に…連絡も…出来ない…!」
ティオンもこの状況を何とかしようとするが、茨だけでなく纏わりついた闇の所為でろくに動けない。
恐らく、町には他の者達が防衛に当たっている筈だ。それをエンが知らない訳がない。
それでもあえてそこをソラとの戦いの場に選んだのは、不利な条件での対決に持ち込めるからだ。
もし万が一、戦っている他の援軍がエンを見つけて攻撃してしまえば――あの黒い玉は壊れ、町がハートレスと闇の巣屈になってしまう。他の人に連絡が出来ない以上、防ぐ方法を知り、尚且つ実行する術はソラしか持っていない。
エンと言う強敵。下手をすれば顔も知らない他の者達と対立しかねない。ソラにとっては明らかに分が悪すぎる戦いだ。
この勝負、本当に勝てるのだろうか…。
目覚めたら、知らない部屋のベットの上にいた。
すごく頭がスッキリしている。それに疲れもないし、気分もいい。ずっと眠っていたからだろうか、それか納得出来る《答え》を選んだからかもしれない。
ベットから出て、ゆっくりと起き上がる。床に足をしっかりとつける事で、少しずつ自分という存在が足から胴体、腕、手、頭、心へと伝わってくる。
そうして身に染みて感じる中で、城の異変に気付きだす。僅かな振動、騒がしい音、肌を刺す緊張感、窓の外に見える黒煙。
瞬時に察する。戦闘が起こっているのだと。
「行かなきゃ――」
発した声は、高いソプラノ調の少女の声色。
寝ている間にずれてしまったニット帽を深く被り直し、銀の髪を整える。
服装も出来る限り整えると、水色の瞳に決意を浮かべながら部屋の外に出ていった。