CROSS CAPTURE84 「アル・セカンド防衛戦・1」
次に、「アル・セカンド」は西方に位置し、アナザを始めにフィフェル、凛那、ヴァイ、アーファ、紗那たちが防衛を任された。
彼女たちは南へ向かう神無たちと同行、黒竜ゼロボロスに運んでもらう形で西方の要所へとたどり着いた。
そうして敵の大群はあと数分で此処へと到達する勢いだ。その動きを見据えていた凛那が他のものらに告げる。
「では、まずは私が前衛となって戦う。後衛は任せた」
「大丈夫、凛那…」
告げた彼女に、ヴァイが不安な眼差しで問いかける。
ヴァイは戦闘に関しては凛那が圧倒的に強者であることを理解していても、前に迫り来る大群を一人で受け止める言葉に大きく動揺した。
そんな不安の眼差しに、晴らすように微笑みを返す。
「心配するな、お前はお前の全力を尽くせ」
そう返した凛那は、有無を言わさず話を強制的に切り上げて、一人前衛として先駆けていった。
ヴァイも、他のものも先駆けた彼女を追いかけるものは居ない。
「――さて、凛那がああ言ってくれたもの。私たちは私たちで頑張りましょうか」
静まりかけた場の空気を、アナザが平淡な声で破り、まずはと、指揮と行動を開始をした。
ヴァイも落ち込んだままではいられないと神妙に頷き返し、それを見た紗那やアーファも安堵しつつ、戦闘への意識を傾ける。
「……これほどの数……フフッ」
一人、先陣を駆けた凛那は迫り来る大群に笑みを浮かべ、込み上げる心の昂揚を胸に秘めた。
それに伴って、身に灼炎が巻き上がり、燃える意志を双眸で敵を見据える。
彼女は炎で圧縮し、具現化した刀を掲げた。
「――火之天照星」
技の名を唱えると掲げた凛那の頭上に炎の奔流が集中し、太陽の如く顕現された。
それでも大群は臆せず凛那を踏み越える勢いで迫った。
このまま炎塊を敵にぶつけて焼き払うが、それでも数が多すぎる。
タイミングを見計らい、機を満たし、掲げた炎刀を振り下ろす。
「火之素戔剣…!」
続けて、太陽は細かく火の粉となって霧散しはじめ、すぐに形を無数の炎刀へと変える。
それらの切っ先が全て群体へと向き、射出された。
降り注ぐ炎の雨。まさしくそう形容するものだった。
鋭い勢いで放たれる炎の刀に貫かれるもの、たとえ刀を回避しても着弾と同時に発生した爆炎に呑みこまれるもの、
一切合切の有象無象に凛那の一撃が降り注いだ。
「……」
ヴァイたちの視線の先にある凛那がいる場所は最早、荒れ狂う炎獄の光景と舞い散る火の粉の吹雪が凄絶なものへと仕立て上げていた。
感慨も何も讃える言葉を紡げず、ただ息を呑むそれしか出来ず、けれど彼女たちはその光景に思わず見惚れた。
そうして、最初に迫り来た第一波は凛那の圧倒的な力に焼き払われた。
だが、それでも続々と現れた敵は火炎地獄をも突破して、彼女や後衛の方へと襲い掛かる。
「流石に――」
襲い来る攻撃を受け流し、流れる動作で敵を握る炎刀で斬り捨てた。
小さな隙を狙い、敵が追撃するも何処から放たれたか、握る刀とは別方向から炎刀が追撃してきた敵を突き刺し、同時に爆炎と共に吹き飛ぶ。
飛来した刀の正体は炎獄の戦場となった降り注ぎ、地へと突き刺さった残存していた無数の刀であった。それらは、この場に於いて彼女の意思で自在に操作できる。
「ヴァイたちにも敵を任せてしまうか…っ」
そう口惜しく吐露する間も、残存した刀は凛那を護る盾、敵を焼き滅ぼす一撃となる。
だが、不安を吐露しても、それでも問題は無いと冷静に思考する己がいる。
現にこの躰は眼前の、襲い来る敵を斬り裂くことに駆動していた。
「大丈夫!!」
「これくらいの数なら――」
「あたしたちでも十分よ!!」
凛那の小さな不安を黒い闘気を纏い、振りはなった拳と共に黒竜が敵ともどもヴァイはそれを打ち破る。
羽衣を纏い、双剣を手繰る紗那と体術で敵を打ち破るアーファ、3人の舞踏のような戦いを繰り広げた。
「フィフェル、一気に仕留めるわよ?」
『はい!』
紗那たちの舞闘を見て、賞賛の笑みを浮かべながら、武装転成で本来の武器へと戻ったフィフェルと自身の剣とそれぞれで構える。
アナザは集中、高めた力を一気に解放する。
「消し飛びなさいな。――焔天滅獄刃!!」
朱色と闇色に燃え盛る炎を纏った二つの剣で、アナザは迫り来る敵を怒涛の斬撃で両断していく。
そして、第二波ともいえた群体も凛那やヴァイたちの奮戦よって殲滅された。
「……」
敵の気配が薄れつつある事に気付いた凛那は刀を振り上げる。
すると、彼女の周囲に燻る炎が振り上げた刀へ吸収されていった。
回収を終えて、刀を下ろして一息つく。ヴァイたちの方へと戻ろうと思い、その方向へと足を踏み出した瞬間、
「――!」
足元に膨大な闇が広がり、牢獄のように彼女を囲って覆い尽くそうとする。
「凛那!?」
その異変に気づいたヴァイは声を投げ、駆け寄ろうとするが、手を伸ばすが、
「気を、つけろ―――これ、は――ッ!」
手は届かず、ヴァイは間に合わず、凛那は闇に呑まれて消えてしまう。
「凛那…?」
届かず、愕然とヴァイは震えた声で彼女の名を呟く。
同じく紗那たちもただ、驚愕で言葉を失うも、しかし、更なる敵の予兆と、動揺を抑え、警戒を鋭敏にする。
絶句によって生じた静寂を破る音が鳴る。
整然と足並み揃えた足音、新たな敵の来訪の音色であった。
「…KR」
アーファは敵の名を怒気を込めて口にし、彼女をはじめに紗那たちは身構える。
遅れて、動揺していたヴァイも拳を強く握りしめなおす事で動揺を胸中に納め、まずは、臨戦態勢をとる。
一団を従えるリーダー格らしき他とは比べ物にならない強大な気配を宿した異様なKRへ、ヴァイは怒気を抑え、冷静に問いかける。
「凛那を…どうしたのっ」
あくまで彼女が問いかけたのは、洩れ出た恐怖や不安からではない。
先ほどの罠が、間違いなく眼前に現れたKRの一団が仕掛けたものは一目瞭然だ。
別の答えとしては、黒幕のカルマやエン、彼らに組する者の可能性もあった。
真意を確かめるべく、ヴァイは問いかけたのだ。
(…どちらにせよ、どっちでもいいわね)
そんなヴァイの問いかけをアナザは敵が答えを備えているのかすら疑わしいと判断している。
だが、その予測も異質のKRが淡々と破る。
「――凛那は私の闇に送り込んだ。あとはお前たちを、ここを制圧するだけだ」
「へえ…」
女の声で放った異質のKRの宣言に、驚くヴァイたちを置いて、一人アナザが興味深く嘆息する。
その布告に呼応し、KRたちは武器を構えて、戦闘態勢に移っていた。
謎に満ちた敵を前に、ヴァイたちは意を決して、対峙する。
「―――っ」
意識が緩やかに覚醒すると、凛那は身じろごうとするも出来なかった。
四肢を、首根を拘束されていたのだ。更に、力が吸われる感覚もある。
閉じた眼を開き、視界に情報を取り込む。だが、一面には闇しかない。
拘束しているものも、鎖のようなものではなく、同じ闇のそれだ。
「目覚めたか」
突然、彼女の眼前に無機質な声と共に威風に鎧(よろ)った騎士が現れる。
一瞬、戸惑うもその正体が何かなのはすぐに理解した。偽りの鍵の剣を振るう亡霊のような鎧騎士、その名を吐き捨てる。
「KRか…」
「ええ。だが、ただのKRではないわ。私はKRを束ねる3体が1体、『三神機』ナハトよ」
淡々と名乗った三神機ナハトに凛那は続けて問いを投げかける。
「…私は、お前の罠に嵌ったようだな」
今すぐ拘束を無理やりにでも解き、眼前の敵を両断したかった。
が、わざわざ自分の目の前に現れたということは何らかの対策なり、問題は無いのだろう。
つまり、優位という余裕が相手にある。ナハトは首肯する。
「そうだ。能力『闇夜(ドゥンケルハイト)』。対象を我が核へと封じ、その力の片鱗を奪う」
「奪うだと?」
焦燥から身を乗り出す勢いで凛那は問いかける。だが、心の内ではその意味を直感だが、理解している。
敵を取り込み、その力を奪う。つまり、このナハトは今、凛那の力を奪い、戦っている―――ヴァイたちと。
(ヴァイ…皆、此処を脱する手立てを見出すまで持ち堪えてくれ)
「お前に抵抗する力も余裕など与えない。今も力を吸い取り続けているのだから」
そういうや、ナハトの姿は闇に溶け込んで消えた。
「その技は!?」
驚愕するヴァイは敵――三神機ナハト――が繰り出した『茜色の炎』で構築された破壊の灼炎の一撃を、寸での所で躱した。
彼女の戦闘スタイルは格闘、相手の剣筋をどうにか見切って回避する事で精いっぱいだった。
「どんな仕掛けよ、まったく!?」
「見極めるにしても……大変、ねっと!」
アーファが炎を恐れず、隙間を縫うように強化を施した拳と蹴りでナハトを追い払い、彼女は下がると同時に茜色の炎弾を、KRらの魔法攻撃を一斉に放射する。
様々な属性で色めく魔法の弾幕を、紗那が羽衣で防壁として攻撃を遮る。
その合間にアーファがヴァイを助け起こして、終えるとともに防いだ羽衣を伸ばして振り払い、ナハトたちを更に払いのけた。
「…凛那の技、ね」
後衛のこちらへ襲い来るKRの攻撃を防ぎ、斬りつつも、アナザが冷静に呟くも内心では大いに忌々しく吐き捨てる。
(さっきの罠で凛那を捕らえて、どうやってかその力を奪っているみたいね……面倒だわ)
ただでさえ、彼女の力は高い破壊力を有している。間違いなくこの場の誰よりも。
ゆえにその特大な力を信用し、信頼し、過信していた。
だがらこそ、アナザは冷静に戦況を見据えるべく思考を巡らせる。
(現状…凛那の炎を繰り出しているのはあのリーダー格のKRだけね)
「ヴァイ! 紗那、アーファ! あなた達はそのKRに集中して!」
「――ええ、そうしてください!」
アナザの手に持っていた朱色の大剣――フィフェルも元の姿に戻り、彼女を護るべく戦闘に加わった。
「わかった!」
紗那は声だけを投げ返し、二人とともに、KRのリーダー・ナハトと戦闘を続行する。
ナハトは二刀一対の人工キーブレードを持ち構え、兵士型KRたちはアナザたちへと無情の敵意を向け、動き出す。
「へえ、意外ね!」
まず懐に素早く潜り込んだアーファが挑発的に言葉を投げかけつつ、鋭い拳と蹴りのコンボを叩き込む。
その強襲を身を躱すだけで受け流し、応撃の炎を纏った双剣を振り放つ。
「させない、戈風脚!」
「てりゃああ!!」
風の力で加速したヴァイの強化した蹴りと羽衣で刀身の短い双剣を増幅して、二人の同時攻撃が入る。
攻撃を受け、体勢がわずかに崩れたその隙に攻撃を潜り抜けたアーファが拳を何度も打ち込む。
「……」
それでも3人の攻撃に呻き一つあげず、無言のままに双剣に炎熱波を広範囲に放つことで彼女たちを吹き飛ばす。
「っ!」
吹き飛ばされて身を焼く痛みに噛み殺すヴァイたちにナハトが追い討つ。
確実に一人ずつ倒す戦い方を狙っている。
追い討ちされているヴァイもアーファらもそう理解し、ならばと、紗那は再び羽衣を伸ばして防壁のように遮らせる。
だが、構わずナハトは剣を振り下ろす。茜色の波濤を伴った一撃に数秒と持たずに羽衣は焼き払われてしまう。
「さすがに、凛那の炎じゃあそうなっちゃう…!?」
寸暇で、炎の奔流を後方へと飛び退る事で回避した。だが、ナハトは炎の奔流から姿を現す。
「ちょ――!」
「こっちよ!」
ナハトの横を付いたヴァイが黒いオーラを纏った拳の一撃を叩き込む。殴り飛ばされたナハトは空中で体勢を戻す。
続けて、自身の周囲から茜色の炎弾の雨を広範囲に降り注ぐ。
砲弾のような威力の炎弾があちこちに炸裂し、火の海を作り出す。
「……かなり厄介ね」
炎弾の雨を掻い潜ったアーファは吐く息と共に剣呑に言う。ナハトの猛攻は凛那の力も相まって熾烈のそれだ。
紗那もヴァイらと互いで連携することで辛うじて、この戦いを維持している。
3人の誰かが欠ければ、勝利は無い。
「……っ」
そんな中でもヴァイは闘志に満ちた眼差しをナハトへ向ける。
そして、ゆっくりと口火を切る。決意に満ちた言葉を。
■作者メッセージ
●アル・セカンド防衛(西)
アナザ フィフェル ヴァイ 紗那 凛那 アーファ
アナザ フィフェル ヴァイ 紗那 凛那 アーファ