CROSS CAPTURE86 「因縁の襲来・3」
駆けつけてくれた者達は、仮面に支配されたスピカを追いかけた。
レイアは一人取り残されて立ち竦んだまま動かない。
「とりあえず、他に避難が必要な人を――」
「鍛錬所に行けばどうにか――」
後ろでキルレスト達が何か言っているが、会話が耳に入らない。
こんなの嫌なのに。
足手纏いなんてなりたくないのに。
違う――本当は――。
「レイア!」
いつの間にか、キルレストに腕を掴まれている。無意識にみんなの後を追いかけて走っていたようだ。
頭では冷静なのに、湧き上った感情が暴走して止まらない。
「いやっ! 放してください!」
「追う気なら止めて置くんだ! 今の君では足手纏いにしかならない!」
「分かってます!」
分かってる。今の自分の行動が、我儘だってことぐらい。
だけど、止まらない。止めちゃいけない。
どんなに無謀でも、迷惑がかかっても…ここで押し通さないと、きっと私は。
「嫌なんです! 私は――負けたくないんです!!」
叫ぶようにして自分の気持ちを伝えるレイアに、キルレストは驚きを見せる。
思わずキルレストが掴んだ手を緩めると、レイアは逃げる事はせずにゆっくりと話し出した。
「私、見ない振りしてました。クウさんの優しさにずっと甘えて…それで満足してた。クウさんが私を守るのを見て、悲しいけど嬉しかった。特別に思われてる事が幸せだった」
笑ってくれる。守ってくれる。照れてくれる。
自分にだけ向けてくれる感情。それが恋なんだって分かって、同じ気持ちなんだって、そう思ってた。
「でも、クウさんの気持ちは私とは違っていた。一緒だったけど、違っていた。クウさんの事取られるって思って、スピカさんの気持ちを隠しました」
離れないでほしくて、彼女のクウに対する想いである証の羽根を取った。クウの気持ちにも、スピカの気持ちにも、真っ直ぐに向き合うのが怖かった。
自信も、勇気も無い。本当は臆病な自分。
「今のままじゃスピカさんと対等になんてなれない…! クウさんの隣にいる事だって出来ない――だから、だからっ!!」
ここでちゃんと向き合わないといけない。
戦う事になったとしても、消滅されるかもしれなくても。
「私だって、クウさんが好きなんです!! このままスピカさんに負けたくないんです!!」
戦いは好きではない。誰かが傷ついてる姿はあまり見たくないし、戦闘も得意ではない。
そんな自分の中で、確かに芽生えた闘争心。負けたくない、引きたくもない、彼女と真っ向から戦いたいのだ。
そうして全てを吐き出したレイアに、サーヴァンが近づいてもう片方の腕を引いた。
「来い」
「あ、あの…?」
「お前の意思は分かった。だが、一人じゃ危険だ。誰かと合流するまでは、俺達が一緒にいてやろう」
「あ、ありがとうございます!!」
サーヴァンの、いや彼らの心遣いにレイアは思わず頭を下げた。
リリスの奇襲を受けて、水浸しとなった廊下。
奥の方でリクがリリスと戦って注意を引き寄せている間に、逸早く回復薬を飲んだカイリは吹き飛ばされたクウとウィドを揺さぶっていた。
「っ、う…!」
「良かった、無事みたい…! クウはこれ飲んで!」
呻き声を上げて起きたクウに、カイリはポーションを口の中に入れ込んだ。
「むごぉ!?」
いきなり口を塞がれた上に、容赦なく中に液体が流れ込む。
回復の筈が呼吸困難に陥るクウの悲鳴を聞きながら、ウィドも身を起こす。
不意打ちで激しい攻撃を受けたのに、痛みはあまり感じない。自分の身体を見ても、大した怪我は負っていなかった。
「そんなに痛くなかった…?」
不思議に思っていると、クウが銜えていた瓶を放した。
「げほっ…! お前の姉さんに感謝しとけよ…? そのロケット、身に付けるだけで属性の技や魔法を軽減させてくれるからな」
「姉さん…」
先程クウから受け取った姉の品に、ウィドは大事そうに握る。
三人が態勢を立て直すと、激戦を強いられているのかリクはリリスの槍をキーブレードで受け止めて叫んだ。
「おい、誰か援護を――!!」
「殺す…私達の邪魔をする奴は全員殺す…っ!!!」
リクの叫びに被せるように、殺気の籠った目で睨みつけるリリス。
この光景を見て、三人の取るべき行動は決まった。
「「「リク、お前(あなた)(リク)の事は忘れない(ません)(から)…」」」
「全員戦う前から見捨てるかぁ!!?」
「邪魔者は殺すっ!!!」
敬礼しながら笑顔で言い切る三人に、ツッコミのようにリクが怒鳴りつける。
そうこうしていると、聞く耳なしと言わんばかりにリリスが三人へと狙いを定めて迫りかかる。
「――ヴァッサー!!」
リクから離れた直後、鋭い女性の叫びと共にリリスに大量の激流が襲い掛かる。
これには悲鳴を上げる間もなく、リリスは激流と共に窓を壊して外に吹き飛ばされる。
突然の事に誰もが固まっていると、一筋の風と共に緑髪の女性が現れた。
「間一髪って所かしら?」
「え、えーと…あなたは確か…」
目の前に現れた女性の名前をカイリが思い出そうとするが、その前にあちらが答えた。
「シムルグよ。で、今あの女を外に追い出したのはイリシア。こいつはあたし達に任せて、あなた達は反対側の方をお願い!」
「待ってくれ! リリスと因縁があるのは俺なんだ、俺が!」
「あなたのお仲間がいるって言っても?」
シムルグから出た言葉に、カイリが反応する。
「仲間…オパールの事!?」
「ッ…くそっ!!」
「待って、リク!」
迷いを露わにして舌打ちすると、オパールがいるであろう反対側の方へとリクが駆け出す。それをカイリも追いかける。
さっさとその場を去ったリクに対し、シムルグは面白そうな物を見るように見送っていた。
「早いわねー、愛の力ってやつ?」
「かもな。青春って羨ましいなー」
「あなたと同意見なのは癪に障りますが、同感です」
クウとウィドもそんな風に言っていると、思い出したようにシムルグが付け加えた。
「ああ。私の言った仲間は、オパールって子じゃないわ」
「「え?」」
「仮面をつけた敵が出たの。該当するのは、あなたのお仲間以外にいないでしょ?」
この説明に、二人の脳裏に同じ記憶が蘇る。
自分達の身を案じながら、仮面に浸食されていくスピカ。
救いたい人がここにいるのだと。
「「スピカァ(姉さんっ)!!!」」
居ても経ってもいられず、二人はその場を後にして駆け出した。
その様子を見送りながら、シムルグは小さく呆れた溜息を吐く。
「…若いのはそっちも同じじゃない。さてと、そろそろ参戦しましょうか」
そう言うと、壊れた窓の外へと目を向ける。
激流から女性の姿と化したヴァッサーと大人へと成長したイリシア、そんな彼女を忌々し気に睨むリリスが対峙していた。
「う、ううん…」
大部屋となる一室。そのベットの上でようやくルキルが目を覚ました。
最後に倒れたのは、夕日の見える時計台。そこから全く知らない部屋の天井が広がって戸惑いを見せる。
だが、夢の世界で他の人達の記憶を覗いていたおかげで、ここがビフロンスと言う城の中だと理解する。
「戻れた…のか」
横になったまま、右手を天井に掲げるように広げる。
しばらくそうしていると、部屋の外が騒がしい事に気づいた。
「やけに騒がしいな…何かあってるのか?」
ルキルはベットから起きる。なんだか身体が重く感じるが、動けない程ではない。
部屋の外を確認する為に扉を開けると、結界なのか青い膜のようなものが出入り口に張られている。
その先では、あちこち崩れている廊下に紛れて、羽を生やして剣を持つ銀色の生物がいた。
「こいつは、ノーバディか…!?」
目の前に敵がいる。直感で感じてルキルは思わず部屋を飛び出す。
部屋を守っているであろう結界に触れるが、ぶつかる事無く向こう側へとすり抜ける。だが、いきなり走ったからか足元が覚束無くなりそのまま床に転んでしまった。
(くっ、体がやけにだるい…! ハハッ、大分寝すぎたか…?)
トワイライトタウンでの戦いから何日経ったかは分からない。しかし、身体があまり言う事を聞かないのを実感するに、長い間寝ていたのは分かる。
ルキルが起き上がろうとするが、反応はノーバディの方が早い。ルキルに気づいて一番近くにいた一匹が剣で真っ先に突きにかかった。
「――ダークドロップ!!」
剣先がルキルに当たろうとした瞬間、上空から闇の踵落としが放たれる。
その一撃で狙っていたノーバディは消えると、代わりに一人の子供が降り立った。
「す、すまない。助かった」
「…うん」
どうにかルキルが起き上がると、何故か子供は背を向ける。
ニット帽を深く被った銀髪の頭。だが、よく見ると服装がぶかぶかな気がする。
「えーと、お前は? ここで何が起こっているんだ?」
「話は後。すぐに終わらせるから」
そう言うと、子供――声の高さからして、少女だろう――は、自分達を囲む天使型のノーバディを見て両手を広げる。
「苦手意識持った人の技だけど…」
小さく呟きながら、少女の身体に少しずつ光が集まる。
「使わなきゃ損だよね!! 【ミラー・モード】発動!!」
力強く叫ぶと共に、一気に光り輝く。
光が収まると、少女の服装が白のシャツに茶色のジャンバー、茶色の半ズボンにX形のリボンを付けた衣装へと変わっていた。その手には、アクセルのような円形型の武器を両手に持っている。
少女の見せた変化に驚いていると、武器に、身体全体に電撃の魔力を発散させた。
「テンペスタージ!!」
バッと手を掲げるなり、辺り一帯に雷の雨が降り注ぐ。
上級魔法であるサンダガを超える雷魔法の威力に、ルキルは反射的に両腕で顔を覆う。やがて攻撃が収まると、二人を囲んでいたノーバディの姿は霧散するように消えていた。
「凄い…一撃で…!」
「凄くはないよ。これにも制約があるから」
呆然と語るルキルに、少女は尚も背を向けながら再び身体を光らせる。すると、また元のぶかぶかの衣装に戻っていた。
それっきり少女は動こうとしないし、口も開こうとしない。妙な沈黙が続き、ルキルはどうにか話題を口にした。
「えーと…俺はルキルだ。お前は?」
「…ボクは…後で教えちゃダメ?」
「どう言う事だ?」
「名前、一番最初に呼んで欲しい人がいるから。それまでは、ね…」
背を向けたままそう言って、少女は口を閉ざしてしまう。
だが、名前を呼んで欲しいと言う気持ちは少しだけ分かるような気がする。大切な人に、友達に、仲間に《ルキル》と呼ばれる事で、自分だと感じれるから。
まあ、それが少女の考えと一緒かどうかはさて置いてだが。
「分かった。何となくだが、気持ちは分かる」
心のままに思った事を言うと、背中越しに嬉しそうに笑う声が聞こえてきた。
避けてはいるようだが、心を閉ざしている訳ではない。その事が分かり、ルキルは現状に戻る事にした。
「それより、ここ…襲われているのか?」
「みたい。さっき起きたばかりだけど、ボクにもそれは分かる」
「早く先生を――いや、他の皆を探さないとな。とは言え、何処を探せばいいんだ?」
幾ら記憶を覗いたとはいえ、この建物に関しての間取りの把握はしていない。しかも誰が何処にいるのかも知らない状況だ。
困ったようにルキルが頭を掻いていると、少女は振り返る事無く口を開いた。
「だったら、いい方法があるよ?」
レイアは一人取り残されて立ち竦んだまま動かない。
「とりあえず、他に避難が必要な人を――」
「鍛錬所に行けばどうにか――」
後ろでキルレスト達が何か言っているが、会話が耳に入らない。
こんなの嫌なのに。
足手纏いなんてなりたくないのに。
違う――本当は――。
「レイア!」
いつの間にか、キルレストに腕を掴まれている。無意識にみんなの後を追いかけて走っていたようだ。
頭では冷静なのに、湧き上った感情が暴走して止まらない。
「いやっ! 放してください!」
「追う気なら止めて置くんだ! 今の君では足手纏いにしかならない!」
「分かってます!」
分かってる。今の自分の行動が、我儘だってことぐらい。
だけど、止まらない。止めちゃいけない。
どんなに無謀でも、迷惑がかかっても…ここで押し通さないと、きっと私は。
「嫌なんです! 私は――負けたくないんです!!」
叫ぶようにして自分の気持ちを伝えるレイアに、キルレストは驚きを見せる。
思わずキルレストが掴んだ手を緩めると、レイアは逃げる事はせずにゆっくりと話し出した。
「私、見ない振りしてました。クウさんの優しさにずっと甘えて…それで満足してた。クウさんが私を守るのを見て、悲しいけど嬉しかった。特別に思われてる事が幸せだった」
笑ってくれる。守ってくれる。照れてくれる。
自分にだけ向けてくれる感情。それが恋なんだって分かって、同じ気持ちなんだって、そう思ってた。
「でも、クウさんの気持ちは私とは違っていた。一緒だったけど、違っていた。クウさんの事取られるって思って、スピカさんの気持ちを隠しました」
離れないでほしくて、彼女のクウに対する想いである証の羽根を取った。クウの気持ちにも、スピカの気持ちにも、真っ直ぐに向き合うのが怖かった。
自信も、勇気も無い。本当は臆病な自分。
「今のままじゃスピカさんと対等になんてなれない…! クウさんの隣にいる事だって出来ない――だから、だからっ!!」
ここでちゃんと向き合わないといけない。
戦う事になったとしても、消滅されるかもしれなくても。
「私だって、クウさんが好きなんです!! このままスピカさんに負けたくないんです!!」
戦いは好きではない。誰かが傷ついてる姿はあまり見たくないし、戦闘も得意ではない。
そんな自分の中で、確かに芽生えた闘争心。負けたくない、引きたくもない、彼女と真っ向から戦いたいのだ。
そうして全てを吐き出したレイアに、サーヴァンが近づいてもう片方の腕を引いた。
「来い」
「あ、あの…?」
「お前の意思は分かった。だが、一人じゃ危険だ。誰かと合流するまでは、俺達が一緒にいてやろう」
「あ、ありがとうございます!!」
サーヴァンの、いや彼らの心遣いにレイアは思わず頭を下げた。
リリスの奇襲を受けて、水浸しとなった廊下。
奥の方でリクがリリスと戦って注意を引き寄せている間に、逸早く回復薬を飲んだカイリは吹き飛ばされたクウとウィドを揺さぶっていた。
「っ、う…!」
「良かった、無事みたい…! クウはこれ飲んで!」
呻き声を上げて起きたクウに、カイリはポーションを口の中に入れ込んだ。
「むごぉ!?」
いきなり口を塞がれた上に、容赦なく中に液体が流れ込む。
回復の筈が呼吸困難に陥るクウの悲鳴を聞きながら、ウィドも身を起こす。
不意打ちで激しい攻撃を受けたのに、痛みはあまり感じない。自分の身体を見ても、大した怪我は負っていなかった。
「そんなに痛くなかった…?」
不思議に思っていると、クウが銜えていた瓶を放した。
「げほっ…! お前の姉さんに感謝しとけよ…? そのロケット、身に付けるだけで属性の技や魔法を軽減させてくれるからな」
「姉さん…」
先程クウから受け取った姉の品に、ウィドは大事そうに握る。
三人が態勢を立て直すと、激戦を強いられているのかリクはリリスの槍をキーブレードで受け止めて叫んだ。
「おい、誰か援護を――!!」
「殺す…私達の邪魔をする奴は全員殺す…っ!!!」
リクの叫びに被せるように、殺気の籠った目で睨みつけるリリス。
この光景を見て、三人の取るべき行動は決まった。
「「「リク、お前(あなた)(リク)の事は忘れない(ません)(から)…」」」
「全員戦う前から見捨てるかぁ!!?」
「邪魔者は殺すっ!!!」
敬礼しながら笑顔で言い切る三人に、ツッコミのようにリクが怒鳴りつける。
そうこうしていると、聞く耳なしと言わんばかりにリリスが三人へと狙いを定めて迫りかかる。
「――ヴァッサー!!」
リクから離れた直後、鋭い女性の叫びと共にリリスに大量の激流が襲い掛かる。
これには悲鳴を上げる間もなく、リリスは激流と共に窓を壊して外に吹き飛ばされる。
突然の事に誰もが固まっていると、一筋の風と共に緑髪の女性が現れた。
「間一髪って所かしら?」
「え、えーと…あなたは確か…」
目の前に現れた女性の名前をカイリが思い出そうとするが、その前にあちらが答えた。
「シムルグよ。で、今あの女を外に追い出したのはイリシア。こいつはあたし達に任せて、あなた達は反対側の方をお願い!」
「待ってくれ! リリスと因縁があるのは俺なんだ、俺が!」
「あなたのお仲間がいるって言っても?」
シムルグから出た言葉に、カイリが反応する。
「仲間…オパールの事!?」
「ッ…くそっ!!」
「待って、リク!」
迷いを露わにして舌打ちすると、オパールがいるであろう反対側の方へとリクが駆け出す。それをカイリも追いかける。
さっさとその場を去ったリクに対し、シムルグは面白そうな物を見るように見送っていた。
「早いわねー、愛の力ってやつ?」
「かもな。青春って羨ましいなー」
「あなたと同意見なのは癪に障りますが、同感です」
クウとウィドもそんな風に言っていると、思い出したようにシムルグが付け加えた。
「ああ。私の言った仲間は、オパールって子じゃないわ」
「「え?」」
「仮面をつけた敵が出たの。該当するのは、あなたのお仲間以外にいないでしょ?」
この説明に、二人の脳裏に同じ記憶が蘇る。
自分達の身を案じながら、仮面に浸食されていくスピカ。
救いたい人がここにいるのだと。
「「スピカァ(姉さんっ)!!!」」
居ても経ってもいられず、二人はその場を後にして駆け出した。
その様子を見送りながら、シムルグは小さく呆れた溜息を吐く。
「…若いのはそっちも同じじゃない。さてと、そろそろ参戦しましょうか」
そう言うと、壊れた窓の外へと目を向ける。
激流から女性の姿と化したヴァッサーと大人へと成長したイリシア、そんな彼女を忌々し気に睨むリリスが対峙していた。
「う、ううん…」
大部屋となる一室。そのベットの上でようやくルキルが目を覚ました。
最後に倒れたのは、夕日の見える時計台。そこから全く知らない部屋の天井が広がって戸惑いを見せる。
だが、夢の世界で他の人達の記憶を覗いていたおかげで、ここがビフロンスと言う城の中だと理解する。
「戻れた…のか」
横になったまま、右手を天井に掲げるように広げる。
しばらくそうしていると、部屋の外が騒がしい事に気づいた。
「やけに騒がしいな…何かあってるのか?」
ルキルはベットから起きる。なんだか身体が重く感じるが、動けない程ではない。
部屋の外を確認する為に扉を開けると、結界なのか青い膜のようなものが出入り口に張られている。
その先では、あちこち崩れている廊下に紛れて、羽を生やして剣を持つ銀色の生物がいた。
「こいつは、ノーバディか…!?」
目の前に敵がいる。直感で感じてルキルは思わず部屋を飛び出す。
部屋を守っているであろう結界に触れるが、ぶつかる事無く向こう側へとすり抜ける。だが、いきなり走ったからか足元が覚束無くなりそのまま床に転んでしまった。
(くっ、体がやけにだるい…! ハハッ、大分寝すぎたか…?)
トワイライトタウンでの戦いから何日経ったかは分からない。しかし、身体があまり言う事を聞かないのを実感するに、長い間寝ていたのは分かる。
ルキルが起き上がろうとするが、反応はノーバディの方が早い。ルキルに気づいて一番近くにいた一匹が剣で真っ先に突きにかかった。
「――ダークドロップ!!」
剣先がルキルに当たろうとした瞬間、上空から闇の踵落としが放たれる。
その一撃で狙っていたノーバディは消えると、代わりに一人の子供が降り立った。
「す、すまない。助かった」
「…うん」
どうにかルキルが起き上がると、何故か子供は背を向ける。
ニット帽を深く被った銀髪の頭。だが、よく見ると服装がぶかぶかな気がする。
「えーと、お前は? ここで何が起こっているんだ?」
「話は後。すぐに終わらせるから」
そう言うと、子供――声の高さからして、少女だろう――は、自分達を囲む天使型のノーバディを見て両手を広げる。
「苦手意識持った人の技だけど…」
小さく呟きながら、少女の身体に少しずつ光が集まる。
「使わなきゃ損だよね!! 【ミラー・モード】発動!!」
力強く叫ぶと共に、一気に光り輝く。
光が収まると、少女の服装が白のシャツに茶色のジャンバー、茶色の半ズボンにX形のリボンを付けた衣装へと変わっていた。その手には、アクセルのような円形型の武器を両手に持っている。
少女の見せた変化に驚いていると、武器に、身体全体に電撃の魔力を発散させた。
「テンペスタージ!!」
バッと手を掲げるなり、辺り一帯に雷の雨が降り注ぐ。
上級魔法であるサンダガを超える雷魔法の威力に、ルキルは反射的に両腕で顔を覆う。やがて攻撃が収まると、二人を囲んでいたノーバディの姿は霧散するように消えていた。
「凄い…一撃で…!」
「凄くはないよ。これにも制約があるから」
呆然と語るルキルに、少女は尚も背を向けながら再び身体を光らせる。すると、また元のぶかぶかの衣装に戻っていた。
それっきり少女は動こうとしないし、口も開こうとしない。妙な沈黙が続き、ルキルはどうにか話題を口にした。
「えーと…俺はルキルだ。お前は?」
「…ボクは…後で教えちゃダメ?」
「どう言う事だ?」
「名前、一番最初に呼んで欲しい人がいるから。それまでは、ね…」
背を向けたままそう言って、少女は口を閉ざしてしまう。
だが、名前を呼んで欲しいと言う気持ちは少しだけ分かるような気がする。大切な人に、友達に、仲間に《ルキル》と呼ばれる事で、自分だと感じれるから。
まあ、それが少女の考えと一緒かどうかはさて置いてだが。
「分かった。何となくだが、気持ちは分かる」
心のままに思った事を言うと、背中越しに嬉しそうに笑う声が聞こえてきた。
避けてはいるようだが、心を閉ざしている訳ではない。その事が分かり、ルキルは現状に戻る事にした。
「それより、ここ…襲われているのか?」
「みたい。さっき起きたばかりだけど、ボクにもそれは分かる」
「早く先生を――いや、他の皆を探さないとな。とは言え、何処を探せばいいんだ?」
幾ら記憶を覗いたとはいえ、この建物に関しての間取りの把握はしていない。しかも誰が何処にいるのかも知らない状況だ。
困ったようにルキルが頭を掻いていると、少女は振り返る事無く口を開いた。
「だったら、いい方法があるよ?」
■作者メッセージ
私はとんでもない過ちを犯していた…。
レイアとのシーンでアルビノーレを出していた…注意を払っていたはずなのに…!!
(2月29日に修正しました)
レイアとのシーンでアルビノーレを出していた…注意を払っていたはずなのに…!!
(2月29日に修正しました)