CROSS CAPTURE90 「アル・ファースト防衛戦・1」
神無たちの前に現れたKRとそれらを率いる謎のKR。
有象無象の群体と同時に相手にしなければならない状況の中で攻勢へと仕掛けるKRたちへ黒竜ゼロボロスが迎え撃つ一撃を放つ。
『獄炎弾!』
竜の大口から黒い炎の塊が放たれ、KRらは迎え撃つように鍵剣を掲げる。
攻撃を阻む防壁魔法を繰り出したのか、騎士たちを守り包むバリアとなる。
発動したバリアはまさしく壁となって黒炎の塊を受け止める。
「―――ふん!」
その中でただ一人、リーダー格のKRが手に持つ鍵剣の剣尖を黒竜へ向ける。
黒炎の巨撃を受け止めたバリアが粒子となって、剣に吸収される。剣尖から黒炎が放出、周囲に拡散させていく。
『なんだと!?』
「防御するんだ!」
自身へ襲い来る、跳ね返った攻撃を咄嗟に人の姿に戻り、その前に盾のように現れたブレイズが大剣を振りかざして、拡散した黒炎の攻撃を吸収する。
吸収しきれなかった、遠くへと拡散された攻撃はシンメイやハオスがアル・ファーストにダメージが入らないように防御する。
二人の防御で攻撃は防がれ、シンメイは安堵の一息を零しつつ、
「ゼロボロス! なーに、やっとるか! この阿呆ー!!」
「うるせえ!! 此処まで小回り利くとか聞いてないぞ!」
彼への叱咤に同じく大声で返した。もう、すでに次なる騎士たちの攻勢が始まっていた。
次は氷や、雷、風、果ては光や闇の魔法による砲撃の色めく雨ともいえる大量の魔法が放たれた。
ハオスは攻撃を防ぐ、受け止めるべく剣呑と問いかける。
「シンメイ、防ぎきれるか?」
「誰に問うておる」
どこ吹く風と飄々に応じたシンメイは手にしている白銀の刀身を持つ宝剣を地に刺す。
「――『天津甕星(あまつみかぼし)』」
陶然と唱えるや、刺した地点から大きく陣形のようなものが浮かび、黒金の光壁が立ち上る。
それらは降り注ぐ無数の魔法砲撃を悉く防ぎ、無力化していった。
傍にいたハオスは驚き、唖然とし、どこ吹く風な彼女を見やる。
「ふふ」
唖然と見てきた彼にからかうようにシンメイは小さく笑い返す。
「…魔法技術は基本的なものばかりだけど、数で補ってるみたいだな」
「にしても、数が多すぎるぜ?」
「だったら、減らせばいいんだろうが!」
背後の方が問題ない事を確認しつつ、紫苑が冷静に攻撃を防ぎつつ、敵を分析する。
神無も口では気弱く言うものの、荒げて言ったゼロボロスと一緒に魔法の雨を踏み越えていく。
間合いが近づくとともに、騎士たちは隊列を分けて空中へと飛び上がる。複数に分かれ、空中から同じように魔法による集中砲火を狙おうとしているのだった。
『――そうは、いくかあ!』
再び、黒竜の姿となって飛翔し、砲火に構わず突っ込んだ。
真意は、あえて黒炎を吐き散らさず、その巨躯、爪牙、全てに魔法による強化を施して突撃であった。
猛烈な加速を得た赤黒く輝く巨彗星の如き剛撃に、迎撃や防御の魔法を繰り出したKRたちは、攻防突き破られて、すべて粉砕された。
「……流石に兵士型KRでは荷が重いか」
吹き飛ばされ、降り注ぐ騎士たちの残骸の光雨の中ただ一人、攻撃を見切ったリーダー格のKRが無機質な男の声で淡々と呟く。
そこへ、潜り抜けてきた神無とブレイズ、紫苑が構える。
「…てめえ、随分と余裕だな」
「当然だ。お前たちと戦うために此処に来たのだ」
「既に、お前の部下はあらかた倒したわ」
「だから、どうした。下らない脅しだ」
「では――戦う前に、名を名乗ってもらおうか。『ただの』KR、じゃあない筈だ」
「よかろう」
鍵剣を振り払い、その身から力が溢れ出して戦いの始まりを布告する。
「我が名はアーベント。主たるカルマに従う従属するものなり」
同時に地を蹴り駆けだす。その速さは3人の予想を超えるものだった。
振り放たれた神速の一撃を咄嗟に身を引いた神無と紫苑、残るブレイズは真っ向からその一撃を受け止める。
「ッ……この程度!」
刀身に紅と蒼の炎が纏われ、返しの斬撃を繰り出した。
「―――」
双炎纏う剣と異質の鍵剣が激突する。
瞬間、鍵剣の方へと纏った炎が吸収されていく。
「! なに」
「下がるんだ!」
戸惑うブレイズの後方より神無が魔剣を振り放って黒竜の形をした衝撃波を放つ。
間一髪飛び退いたと同時に衝撃波が騎士に直撃したが、
「……」
攻撃を受けた騎士の鎧に吸い込まれ、鍵剣にブレイズの炎、新たに神無の黒竜のオーラが纏う。
その光景を、神無たちは表情を強張らせつつも、戦意を焚き付けるように武器を強く握り、構えなおす。
「だったら―――これはどうだ!!」
隕石の如く騎士へと黒い竜鱗を帯びた烈脚の一撃が叩き込まれた。
飛翔していた竜の姿を青年の姿へと変え、高度より急降下、加速によって得た強烈な一撃を狙った。
だが、その一撃は惜しくも騎士が読んでいたのか、鍵剣により受け止められる。
「ちぃっ」
舌打つ合間に竜鱗纏った両足に力を籠めなおし、斬り返しの一刀を振り払う蹴りで防ぐとともに、神無たちの方へと飛び退った。
「巨大な気配が変わったのだ、容易に気取れるものだ」
騎士は憮然と言い放つとともに、纏った2つの力を螺旋状の放射光線となって彼らへ向けて、解放する。
「ならばこちらも、同じじゃな」
いつの間にか神無たちの前に現れたシンメイが宝剣を振り翳す。
現れたのは先ほどの何倍はあろう黒金の光壁であった。
放たれた光線に受け止め、衝突した光壁は、瞬く間に対消滅する。
消えた双方の攻防、シンメイは剣を下ろして一息零すと共に、余裕な笑みをアーベントへと向けた。
「これでお互い振り出しじゃなあ?」
「その様だが」
アーベントは小さく首を振る。嘆息したのか、フルフェイスからは察することはできない。
それでも彼は鍵剣を振り直し、構えを作り直す。
「純粋な剣技やシンプルな戦いで挑まないと勝てないか」
「みたいだ」
紫苑は拳を強く握りしめ、神無たちも武器を構えなおす。
ゼロボロスはまっすぐ見つめ、声だけをシンメイに投げかける。
「シンメイ、お前は前に出るなよ。ここの守りの要はお前なんだからな」
「わかっておる。ハオス、すまぬがお主に護衛を任せたいのじゃが…」
「問題ない、死力を尽くして護って見せる」
シンメイはゆるりと後ろ足で後方へとハオスの方まで下がり、彼は彼女を守るように身構える。
「行くぜ――!」
構えた彼らは、神無の一声と共に駆けだした。アーベントも地面を蹴り、駆ける。
真っ先に駆け、衝突したのはゼロボロスだった。腕に竜麟の刃を生やして斬打の攻勢に出る。
「確かに、防壁で防がれてしまうが―――それはお前たちを守る盾にはならない」
刃と剣が火花を散らし、拳と蹴りの打撃が騎士の鎧を的確に打ち抜くも呻きすら出さず、淡々と斬り返す。
「…ちぃ!」
言葉の意味を察するも、既に鍵剣の刀身に旋風が巻かれて、それを彼に向けて解き放つ。
「はあぁっ!!」
「おらぁ!」
黒い魔剣から白き居合刀に持ち替えていた神無と紫苑が間一髪、騎士の懐に潜り込み、
抜刀による一閃が鍵剣を、振り放たれた鉄拳を騎士の顎へと打ち据えた。
「!」
切っ先がゼロボロスからあらぬ方向へと逸らされ、解放された旋風の破壊砲が空へと霧散する。
「くっ、貴様ァ!」
アーベントは隙を埋めるように虚空から片手にもう一つの同型鍵剣を手に、牽制の一刀で振り下ろす。
紫苑は飛び退ったが、神無は白い居合刀から再び、黒い魔剣に持ち替えて受け止めた。
だが、純粋な力での押し合いでは、徐々に神無が押され始める。
「……!!」
それでも、押し返そうと神無はさらに力を込めて、踏みとどまる。
そこへ、ゼロボロスと紫苑、ブレイズが彼を救い出すべく、強襲した。
「――甘い!」
アーベントは二刀の旋風を纏いなおした鍵剣、自身を回転し、嵐のような斬撃と暴風の衝撃波を放った。
四方より強襲したゼロボロスたち、眼前にいた神無を吹き飛ばす。攻撃を受けた神無やブレイズがさらに、理解した。
(俺やブレイズの力も混ぜやがったか!?)
(ただの衝撃波じゃ、ない…!)
二人は攻撃を受けた時に感じた炎の熱や力の残滓から吸収された自身の力がアーベントの攻撃に上乗せされていたことに気づいた。
強烈な一撃を直撃しても、吹き飛ばされた4人はどうにか余力を振り絞って立ち上がった。
しかし、騎士は憮然と片方の鍵剣を軽く振り下ろす。虚空より、鎖のようなものが神無たちをそれぞれ締め上げて、封じ取ったのだ。
「く、そ――!」
「しまった…!」
「足掻くだけ無駄だ。その鎖はお前たちの力を吸い上げる―――見ろ」
高く掲げた二つの鍵剣が、アーベントの鎧の全身に刻まれた刻印が鳴動し、輝きを発する。
同時に、神無たちの躰から吸い上げられるような、おぞましい感覚が襲い掛かる。
「う、ぐぁ……!!」
神無たちの苦悶の悲鳴も、そよ風とアーベントは彼らを踏み越えて、シンメイらの方へと自身の攻撃が届く範囲まで進んだ。
シンメイは倒れている彼らの方を見やる。身動きを封じられ、アーベントの力としてエネルギーを吸い上げられて苦しんでいる様を、心底から呆れた様子で言う。
「…おぬしら油断しすぎじゃろう。まったく…」
「う、るせえ…!!」
呻くゼロボロスの声に呆れたように首を振り、構えているハオスに告げる。
「仕様がないのう。ハオス、作戦変更じゃ。妾が神無たちを助け出す、ぬしはあやつを抑えてくれ」
そうして、手に持つ宝剣を後方にあるアル・ファーストの入り口に擲った。
刺さった宝剣を起点に黒金の結界が張り巡らされる。
「―――行くぞ」
「ああ」
言葉を交わした瞬間、二人は真っ向からアーベントに挑みかかるように駆けだす。
スピードはシンメイの方が速い。騎士は吸い上げた力を利用して、エネルギーで具現化した漆黒の竜を放つ。
放たれた竜は彼女をかみ砕き、呑みこまん勢いで襲い掛かるが、刹那に両断された。シンメイの振り払った髪が竜尾となって斬り裂いたのだった。
「ならば」
身を翻して、鍵の刀身にブレイズの炎を纏い、助けに向かうシンメイの先―――神無たちへと攻撃を仕掛けようとした。
だが、背後に迫ったハオスの一閃がそれを阻んだ。
やむを得ずと、炎の波濤を阻んできたハオスへと振り放ち、応戦する。
「お前の相手は、私だ!」
「…小賢しい」
黒刀を手に、ハオスは構えて、アーベントへと挑みかかる。