CROSS CAPTURE91「許されぬ本心、密かな策」
中庭の戦闘から離脱し、オパールは城の通路を走っていた。
誰が何処にいるかは分からない。それでも前に進んで、リクやカイリと合流する為に動くしかなかった。
「――リク!」
ようやく見つけた黒コートの大男に、オパールは叫んで駆け寄る。
その声に、リクも気づく。無事に合流を果たして、膝に手を置いて呼吸を整えた。
「良かった、やっと合流出来た…!」
「無事か?」
「とりあえずはね…あ、中庭側は他の人が当たってるわ。あたし達は別の方を当たってくれって」
「そうか」
当たり障りのないように本当の事だけ言うとリクは頷く。
何だか様子がおかしい。オパールにある女の勘が働く。見る限り、焦っている訳でも悲しんでいる訳でもなさそうだ。
じっとリクを見つめるが、すぐに原因が分かった。
「リリスが現れた。今は他の人が抑えてくれている、すぐに来てくれ」
リクから放たれた発言に、オパールは僅かに息を呑む。
こちらも僅かな動揺に気づいたのか反応を待つが、オパールは顔を俯かせたまま動こうとしなかった。
「どうした?」
「戦わなかったの?」
「戦ってたさ。だが、お前が一人でいるって聞いたら居ても経ってもいられなくて」
「…ッ…!」
思った事を口にすると、歯を食い縛って堪えだした。
「オパール?」
「な、何でもない! なら、早く行かなきゃ! 事情を知らない人が万が一リリスを倒したりしたら、リリィを救えないし!」
握ってた手を振り払い、勝手に先に向かおうとするオパール。
そんな彼女の後姿を見て、思い出す。
心の世界で、リリィを味方でも敵でもない中立な立場を取ってた…その事実を問いただした時に。
「なあ――お前はリリィをどう思ってるんだ?」
離れる背中に疑問を投げかけると、オパールの足が止まる。
僅かな静寂が二人を包む。オパールは背中を向けたまま、口を開いた。
「…友達に決まってるでしょ?」
顔を見せずにハッキリと答える。
リクは反射的に彼女の肩を掴み、目と目を合わせた。
「俺の目を見て、そう言えるか?」
「な…なに、急に…! 何で、そんな事を…!」
「…お前が、一番分かっているんじゃないのか?」
理由は言わない…言えない。
あの心の世界で、触れてはいけない部分を垣間見た。そんな事を言えば、きっと彼女の心を傷つかせるから。
だからこそ、じっと待った。オパールの本心を聞くために。
「――複雑なのよっ!!!」
我慢の限界が訪れたようで、ようやく本心を叫んだ。
そのままオパールは、苛立ちを露わにしてリクを睨みつける。
「あんたには絶対分からない!! あたしがどんな思いなのか!! 友達だし救いたいって思ってる!! だけど、だけど…!!」
友達なのは本当。助けたいのも本当。でも嫉妬の感情だって無い訳じゃない。このままいなくなれば…なんて黒い感情だって抱いてるのも本当で。
見ない振りしていた分、様々な感情がごちゃごちゃになっている。泣きそうなのを堪え、リクのコートを掴んだ。
「ねぇ、リク…教えて……どうして、リリィじゃなくてあたしを選んだの…?」
特別に思われているのは嬉しい。だけど、同じだけ辛くて。
期待した分、裏切られるのも分かっているのに。
選ばれなかった。既に決まった事なのに――願わずにはいられない。
「あたしは、あんたの何なの…!」
「…俺は――」
「オパール!」
リクが答えようとした瞬間、後を追ってきたカイリがこちらに駆け寄ってくる。
だが、その後ろからハートレスが地面から現れた。
「カイリ、後ろ!!」
「えっ?」
オパールが叫ぶが、カイリが反応するよりも早くハートレスが迫る。どうあがいても間に合わない。
直後、黒と白の影がハートレスを両断した。
「ったく、無防備な少女を狙うとはとんだ輩だよな」
「こんな奴に言われるとは、相手も終わりましたね」
「どういう意味だ、あぁ?」
気づくと、クウとウィドが現れており口喧嘩をしている。それでもカイリを守るように両側をキープしている。
そうこうしていると、再びハートレスが辺りに現れた。
「急いでるってのに、うじゃうじゃうじゃうじゃ出てきやがって…!!」
「邪魔するならば、斬り捨てるのみ!!」
素早く二人はキーブレードと剣を構え、同時に床を蹴った。
「ソニックレイヴ!!」
「エンジェルハイロゥ!!」
場所は変わり、結界に守られた町の付近。
ハートレスやノーバディが倒されてあちこち地面が抉れた場所で、ソラとエンが戦っていた。
高速の突きが形成した光の輪によって防がれる。互いの攻撃が弾かれ、ソラは一旦距離を取った。
「…どうして飛ばないんだ?」
「飛んで欲しいんですか? 私がより有利になるだけですが」
「うっ! それは困る…!」
翼を使わない事に関して、つい本音で答えてしまうソラ。
あの島での…いや、あの時よりも明らかに手加減して戦っていると、コートに忍ばせておいたカルマの紙から思念が飛んできた。
(エン、何をしているの?)
(ちょっと戯れを。どうせ私は特に何もする事はないのだから、好きに行動してもいいでしょう?)
(何人か、あなたの姿を見て飛び込んでくるけど?)
(好都合ですよ。それに、こうした方があなたに及ぶ危害は遠のくでしょう?)
(ふぅん…そう言う事にしておくわ。なら、しばらくは囮になっておきなさい)
納得せずに半信半疑のまま、カルマは通信を切ってしまった。
しかし、エンは気にしていないのか上空を見上げる。
カルマの言う通り、確かに自分に向かって迫って来る気配を幾多も感じる。
「そろそろ、ですかね」
「何が?」
呟いた言葉に、ソラが首を傾げる。
その瞬間、幾多もの力がその場に降り注いだ。
戦闘の邪魔にならないよう壁際に避難したカイリは、改めて二人の戦いを見ていた。
(凄い、この二人)
クウは敵の攻撃ごと力でねじ伏せ、ウィドは素早さで翻弄して倒す。
言うなれば、剛と柔。正反対の戦い方をしている。
何より、相反する力を二人はお互いにカバーし合っているのだ。
(文句を言いながらだけど、ちゃんと息を合わせてる。肩を並べて戦えてる…)
二人が立ち回る姿は、ソラとリクに似た何かを感じる。親友でも友達でも仲間でもない…だけどそれに近い絆がある。
昨日までこの二人の仲が最悪だったとは思えない。リク達が仲を取り持ってくれたおかげなのか…それとも、これが闇の感情を持たない本来のウィドの姿なのか。
ようやくハートレスを全滅させると、離れた所で爆発が響く。
「何だ!?」
クウが辺りを見回していると、窓の外で爆炎が上がる。
全員が注目すると、向こう側の壁が破壊されている。そこから立ち上る煙を裂きながら、一つの影が飛び出した。
黒い細剣を持ち、仮面を付けた女性が。
「姉さん!?」
ようやく姿を現したスピカ。彼女は壁を伝って城の屋根に飛び移る。その後を神月、ゼツ、シェルリアと王羅が続く。
「くそっ!」
「あ、ちょっと!」
彼らの戦いを眺めていたクウとウィドが後を追って駆け出す。そんな二人にオパールが声をかけながら手を伸ばす。
その時、いきなり天井が罅割れて破壊される。破片は大量の瓦礫となって容赦なく五人に降り注いだ。
「「「うわああああ!?」」」
「「きゃああ!?」」
急に襲い掛かった事に、誰もが悲鳴を上げる。
少しして、出来上がったのは大量の瓦礫の山と三階部分まで吹き抜けた天井。
大量に積まれた瓦礫の下の僅かに膨らむ。その数秒後、クウが翼を使って大きく羽ばたかせ瓦礫をどかす。
翼を使って防いだだけでなく脱出するクウの腕には、とっさに抱えたウィドもいた。
「…ってぇ…! 何なんだよ、急に…!」
「上でも、戦闘が起こっているようですね…! それより早く離れろ…!」
「てめぇ、助けてやってその言い方は…――って、あいつらは?」
暴れながら離れるウィドに悪態を吐くが、人数が足りない事に気づく。
すぐに瓦礫を調べると、逃げ遅れて半分ほど瓦礫に埋もれて気絶しているカイリがいた。その近くには肩まで瓦礫に覆われて身動きが取れないリクとオパールもいる。
「カイリ! おい、大丈夫か!?」
「リク、オパール!?」
「ご、ごめん…逃げ遅れちゃった…!」
痛みがあるのか、オパールが力なく笑う。
逃げ遅れたのはこちらも一緒だ。現にクウが機転を利かしてくれたから脱出出来た、あの状況でとっさの判断が出来なくても仕方ない。
三人をこのままにしておけないと、すぐにクウは瓦礫に手をかける。
「待ってろ、すぐにこいつをどかして」
「それよりクウ、ウィド…先に行け…!!」
助けようとするクウに対し、リクが吐き出したのは先を促す言葉だった。
「リク、お前…!」
「あたし達なら、大丈夫…他にも人はいるから…!」
「大事な人、助けたいんだろ…!! 早く、いけよ…!!」
リクに便乗するように、オパールも二人を先へと急かす。
大事な人と分かっているから。救いたいと望んでいる事を知っているから。
声には出さない二人の気遣いに、クウとウィドは立ち上がると背を向けた。
「…悪い」
「すみません…」
それだけ言うと、リク達を置いてスピカの元へと駆けだす。
大事な人の為に自分達を切り捨てた二人の後ろ姿を、リクとオパールはただただ黙って見送った。
これで良いのだと。
「やるわね、あなた…!!」
「それはどうも…!」
視点は変わり、城の三階――丁度リク達の真上の天井が吹き抜けとなった場所の傍。
息切れを起こしているクェーサーと、出来上がった穴を背に追いつめられているクォーツと言う図面が出来上がっていた。
状況的にクォーツを追いつめている。クェーサーだけでなくアトスとアルビノーレも余裕が出てきている。
対して、クォーツは背後の穴に目を向ける。それは追いつめられて覗いた…からではない。
穴の底――一階で上手い具合に動きを封じたリク、オパール、カイリの姿を捉えたからだ。
(これで三人は脱落ですね…この調子で着々と動ける人数を減らせればいいのですが)
策に嵌ったのは、一体どちらなのか。
表面は焦りを浮かべ、内面は冷静を抱きながらクォーツは鈍色の球体を取り出す。
練りに練った策は知られてはならない。
それが、自分のもう一つの武器なのだから。
■作者メッセージ
こちらの投稿は久しぶりです、NANAです。
リラさんの誕生日作品、そしてTRPGに感け過ぎてここの投稿が疎かになり気味でしたがようやく投稿する事が出来ました。これからペースがどうなるかはちょっとわかりませんが、遅れた分は取り戻したいと思っています。
リラさんの誕生日作品、そしてTRPGに感け過ぎてここの投稿が疎かになり気味でしたがようやく投稿する事が出来ました。これからペースがどうなるかはちょっとわかりませんが、遅れた分は取り戻したいと思っています。