CROSS CAPTURE95 「本領発揮」
「ブラッディ・ウェーブ!!」
「空衝撃・牙煉!!」
開口一番に、スピカに向かってお得意の衝撃波で攻撃するクウとウィド。
黒と白の衝撃波がスピカのいる地点に激しくぶつかる。だが、当のスピカは無傷の状態で剣を居合に構えながらクウの背後に現れる。
「遅い」
「「そうでもねぇよ!!」」
『一閃』を放とうとしたスピカに、神月とゼツが虹色の日本刀と黒炎の鉄拳で襲い掛かる。
この二人に、スピカは即座に剣を上に振るった。
「風破!」
「「「「うおぁあ!?」」」」
風の壁が作られ、触れた瞬間に歪み空気の爆発が起こる。
そこに高所による暴風も合わさって、近くにいた四人が別々に吹き飛ばされる。
「まだまだぁ!! 擂光槍龍衝!!」
「トリプルブリザガ!!」
陣形が崩れるが、シェルリアの雷光を纏った強力な一突きと、レイアが放った三つの氷塊を繰り出す事でスピカを足止めする。
その隙に、王羅はホーリーコスモスを掲げた。
「白天護光陣」
倒れた四人に、防護の結界と共に回復をする。
安全に回復を行う王羅に、神月は立ち上がりながら声をかけた。
「大丈夫だ、王羅。大した怪我はしてない」
「今の技は凝縮した風を繰り出して、近づいてきた相手に対して間合いを作り出す技…この場所で力は増したとはいえ、ダメージはありません。その証拠に」
同じ剣術の使い手であるウィドが説明し、徐に指を差す。
いち早く行動に出たクウが、スピカとキーブレードと剣で打ち合っている。力押しのクウに対抗する為か、片手剣を両手で握り込んで振るっている。
二人が純粋な剣技だけで戦う中、神月は戦いに加わる事はせずにスピカを観察する。
(仮面が半分…力を制限されている状態でも、あの強さ。本気になったらどうなるか…)
中途半端な支配に、自分も恋人と妹と戦う事を強いられた。そう考えると、今の彼女とかつての自分は近い立場にいる。
だから分かる。今の状況はあまりにも辛くて、とても苦しくて…すごく怖い。
洗脳を受け入れた瞬間、本来以上の力が発揮された。その力を大切な人に向けて傷つけた。
そんな未来を、きっと彼女は恐れている。だからまだ全力を出せられないのだ。
「…それでも、やるしかないんだよな。今までのように」
「その通りですよ、神月。君は…いや、ここにいる者達はそうして未来を掴んできたんですから」
独り言を吐いていると、聞こえていたのか王羅が頷き返す。
ここに集まった者達の中には、同じように世界を守った人達がいた。今と言う時間を繋げてくれた。どんな状況にも屈せず、友や仲間を信じてきた。その心さえ忘れなければ、きっと彼女を救えるはずだ。
気持ちを新たにする神月。そんな中で、クウとスピカは互いに押す事も引く事もなくキーブレードと細剣で打ち合い続け、やがて全力で刀身をぶつけて鍔迫り合いに持ち込んだ。
「さすがだよな、スピカ…! 全然腕は鈍ってないじゃねーか…!」
「…今の内に言って置きたい事があるわ」
「何だよ、言ってみろよ?」
「あなたが出て行ってしばらくした頃に、【組織】の仕来りは壊滅させたわ」
「…ッ…!」
その言葉に、クウが動揺を浮かべる。
「あなたが脱走したあの日から…私達、努力したの。更に力を付けて、あなたを始末しようとした頭首達を失脚させて…――今では私が『組織』の頭首の地位に付いてるのよ!!」
そう語る彼女の話に、耳を疑う。
特別な力を持つと言えども、自分も彼女も組織の一員に過ぎない。上には逆らえず、命令を実行するだけの存在。
そんな彼女が、最高権力…言い換えれば、実権を握る地位についていると言う事になる。
「うそ…だろ…!? じょ、冗談が過ぎるぞ!!」
「ッ――冗談でこんな事言う訳ないでしょ!!」
話を信じないクウに、スピカは苛立ち交じりに押し返す。
「今でもあなたを悪く思う人はいる、でも…――そんな中で、皆であなたの帰る場所作ってたのよ!? あなたを好んでる人はちゃんといるの!! あの場所や絆だって、何もかもが壊れた訳じゃない!! まだ残っているって、そう伝える為にずっと闇の中で待ってたのにどうして見ようともしてくれなかったの!?」
「俺は…!」
それ以上、言葉が紡げない。何か言わなければいけないのに、何も出てこない。
迷いによって僅かに力が緩む。そこを狙いスピカがキーブレードを上に弾き飛ばす。がら空きとなったクウの胴体に、振り被る。
しかし、二人の間で風が切る。気づいた時には、スピカの一撃をウィドが庇うように剣で防いでいた。
「何の話をしているのか私には分からない。だが――大事な話なら姉さんを助けてからにしろぉ!!!」
「そうですよ!! 謝るのも、言い訳するのも、全部終わってからです!!」
「…悪い、二人とも」
二人に叱咤されながら、クウはキーブレードを構えなおしてスピカに向かい合った。
三階部分まで穴が開いた事で吹き抜けとなった城の一階。
リクとオパールは未だに瓦礫の中で動けずにいた。
「…激しくなってるな」
「うん…」
「動かせるか?」
「だめ…瓦礫がモロに圧し掛かって、圧迫してる状態。全然動けない」
「まさに手も足も出ない状況だな…この状況で魔法を使えば危険だし…」
両手は瓦礫の中に埋もれたまま。この状態で魔法を放てば二次被害は免れない。離れた場所にいるカイリも気絶したままだ。
何も出来ないまま助けを待つリクに、不意にオパールが見上げた。
「ねえ、リク…さっきの続き、聞かせて?」
「こんな時にそんな話…!」
「こんな時だから、聞きたい」
いつもの喧嘩腰とは違って、静かに、それでいて強い意思を持ってハッキリと告げる。
「だって、あんた。リリィの事、好きなんでしょ?」
「…ッ…!」
「あはは…普段のポーカーフェイスどこ行ったの、バレバレ」
「からかうな…!」
思わず顔を赤くしてしまい、それを見て笑われてしまった。こんな状態では嫌でも見られてしまう為、目を逸らすしか出来ない。
そうしてリクが羞恥に耐えていると、オパールは顔を背ける。
「なのに、どうしてあたしの所に来たの? リリィに勘違いされても仕方ないよ? あたしなんかに構わず、あの子を大切に…しなきゃ」
「オパール…?」
やけに悲しそう。それが今の会話から感じ取ったリクの抱いた印象だった。
声をかけるが、オパールは顔を向けようとしない。頑なに背けている。
そんな二人の耳に突然、ガチャリ、と通路の奥から鎧の足音がした。
「「――ッ…!」」
慌てて顔を伏せつつ、僅かに目を開ける。
少しすると、通路の奥にある曲がり角からノーバディを引き連れたKRが歩いてきた。そいつは辺りを見回し、瓦礫に埋もれた自分達を見つけて動きを止める。
(頼む…行ってくれ…!)
(あっち行って…!)
あまりにもタイミングが悪く、二人は必至で祈りながら出来る限り動きを止める。
身動きが一切出来ない状況で襲われたら後がない。こうなった以上、死んだフリ、もしくは気絶したフリでやり過ごすしか方法がない。
KRとノーバディの視線が一身に注がれる。それでも忍耐強く耐えていると、ようやく視線を外して他の場所へと向かって、
「…ぅ、うう…」
行こうとした直後、運悪くカイリが目を覚ましてしまった。
足音が忙しなく振り返る音がする。二人が目を開けると、KRとノーバディがカイリに狙いを定めていた。
「あれ…私…」
「逃げろ、カイリ!」
動く事は出来ないと分かっていても、思わずリクが叫ぶ。
その間に、KRとノーバディは二人にも気づいて襲い掛かる。
「――ここで下せっ!!」
聞き覚えのある叫びと共に、何者かが穴の開いた二階から飛び降りる。
その人物はKRの前に立ち塞がり――片足を上げた。
「先生直伝――鉄脚制裁ぃ!!」
腹に向かって蹴りを放つと共に、KRは思いっきり吹き飛ばされる。
蹴りと言い、KRの吹き飛ばされ方と言い、何となーく既視感を覚えつつも、三人だけでなくノーバディも動きを止めてその人物を見る。
それはこちらの世界に来てからもずっと目覚めなかった…銀の髪色に戻ったルキルだった。
「大丈夫か、お前ら?」
「お、まえ…!」
「寝過ぎなのよ、あんた…」
「悪かった。だからこうして助けただろ?」
夢の世界で話したとはいえ、彼と現実で話すのはとても久しぶりだ。
こうして軽く会話を終えると、ルキルは周りを囲むノーバディと再び立ち上がりキーブレードを構えるKRを見据えた。
「贋作、か…お前も、俺と一緒なのかもな」
「ルキル」
「大丈夫だ」
リクが声をかけると、ルキルは背中越しに伝える。
そうして、ゆっくりと手を前に差し出す。
「“俺達”はお前とは違う。例え作られた心でも、記憶のまやかしだとしても――」
思い出すのは、自分と同じ黒髪の少女――シオン。
彼女から奪った力を、貰った武器を、託された想いを、この手に具現化する。
溢れ出る光と共に。
「――俺は、この思いを力にするっ!!!」
一筋の光の中でルキルが掴んだのは、黒い鍵状の剣――キーブレード、『過ぎ去りし思い出』だった。
「「「キーブレード!?」」」
「纏めてかかって来い――」
「はぁ、はぁ…!」
中庭でのキーブレード使い同士の対決、または親子の戦い。
彼らは現在、苦戦を強いられていた。
「カイリさん、こんなに強いなんて…!」
「母さんのキーブレードについて、話は聞いてた。だけど、こんなに強いなんて…!」
「KRにされた、ってのもあるんだろうぜ」
「何より、連携が凄いわ…流石はキーブレード使いって所ね」
ペルセ、イオン、ラクラ、フェンデルが話しながら、目の前の相手――KRのソラ、リク、カイリを見る。
キーブレード使いとしての強さはもちろん、昔からの付き合いからか連携も凄い。
だが、連携はこちらも負けていない。二人で丁度一人は押せる。だが、そうなるとどうしてももう一人が手薄になり、すぐに加勢に入り均衡が崩れるのだ。
そう、要はメンバーのバランスが悪いのだ。
「あと一人、誰かいれば…!」
「それなら――ボクが加わるよ!」
イオンの考えに答えるかのように、少女の声が響く。
同時に、奥からエンジン音が聞こえ――ハングライダーがKRリクへと激突し、地面に擦り付ける形で引き摺ってから動きを止めた。
「ふぅ…こんな状況だから、探せばいると思ったんだよねー。約束通り、協力しに来たよ。先輩!」
辺りに舞った砂埃の中、光と共にハングライダーを消して立ち上がったのは――シャオの服を着た少女だった。
「シャ、シャオ…ううん、君は」
「ごめん、先輩。今はまだ“シャオ”って呼んで」
「でも」
「本当の名前、師匠に呼んで貰いたいんだ。だって、ボクの名前は――師匠がくれたから」
そう言って、少女はイオンに笑いかける。
そんな会話をしていると、我に返ったのかKRカイリが魔法を放とうと切っ先を向ける。
「マズい!? シャオに狙いを定めた!!」
「避けて!!」
ラクラとペルセが叫ぶと、KRカイリが『ファイガ』を放つ。
キーブレードから放たれた巨大な火球はシャオに迫り、
「――舐めないでよね」
着弾して炎の爆発が起こる寸前で、一瞬で避けるようにカイリの背後に移動する。
その手にキーブレードを握って。
「確かに、元の…女の子の姿に戻ったけど――」
より小さくなった身体に、雷と風が纏わりつく。
「弱くなった訳じゃないんだからさっ!!! 斬空電撃波!!」
空中に浮き上がると同時に風と雷の魔力を宿らせ、KRカイリに向かって容赦ない回転攻撃を浴びせる。
そうしてKRソラの元に吹き飛ばすと、シャオはキーブレードの切っ先を二体に向かって構えた。
「ボクと言う存在、そして師匠の弟子として――」
「「――全員ぶっ倒してやるっ!!!」」