CROSS CAPTURE100 「犠牲を糧に」
カルマによって無理やり手に入れた新たな武器――反剣。
彼女はそれを、まるで昔から使っていたかのように軽く振るい、刃を構える。
その瞬間、スピカは赤い残像となってクウへと突っ込んだ。
「っ…!?」
とっさに反応して防御するが、甲高い音を響かせながらふっ飛ばされる。
「クウさん!?」
「あ…あぶねぇ…!!」
立っていた場所からかなり後方に、それこそあと数歩で塔から足を踏み外す位置にまで下がったが、辛うじて踏み止まった。
そのまま鍔迫り合いをしていると、ウィドがスピカの背中に向けて剣を振るう。
「空衝――!」
直後、クウの武器をはじき返すようにスピカが横に銃剣を振るう。そのまま流れるように、ウィドに向かってガンブレードの銃口を合わせて引き金を引く。
発砲と共に銃口から発射されたのは、鉄の塊ではなく、自身の魔力で作った銃弾だ。それでも、ウィドの利き手を貫通するには十分な威力だった。
「ぐ、う…!」
「プロテラ!!」
負傷した腕を抑えるウィド、少しでも攻撃を軽減させるためにレイアは魔法の障壁を三人に張る。
防御を固めてから回復を行う。その方法は間違っていない。
「ファイガ」
だが、スピカはレイアの足元に炎の大爆発を起こす事で彼女を吹き飛ばした。
「うあっ…!」
「レイアァ!?」
地に倒れるレイアに、クウが叫ぶ。出来た隙にスピカは見逃さず赤い残像を纏うように剣で斬りつけるが、クウはとっさに防御する。しかし、逆に身動きが取れなくなってしまう。
再び三人が苦戦する中、遠くにいた神月達もまた歪めていた。
「反剣の力が、これほどとは…!?」
「それだけじゃない…彼女は完全にカルマに支配されている。今までとは非じゃないくらい、強くなってる」
かつて反剣士と戦った事がある神月だけでなく、反剣士であるゼツも不安な眼差しを浮かべる。
一方、クウはキーブレードだけでなく、白の翼も出して防戦で凌ぐ。反射神経はいい方だが、素早さではウィドやスピカには勝てない。幸いレイアの魔法で防御力は上がっているのだから、反撃を仕掛けるよりも少しでも時間稼ぎをして二人の体制が整うのを待った方が勝算はある。
そのつもりだった。
「――【瞬光】」
突然、スピカの身体に光が纏う。
気づいた時にはスピカは背後に移動しており、クウの防御を打ち破るように見えない斬撃が幾多も襲った。
「うわああぁ!?」
何が起きたのか理解出来ず、思わず悲鳴を上げる。
痛みを堪えていると、スピカが剣を床に滑らせていた。
「氷壁破・白――」
「一閃・吹雪!!」
剣技を発動しようとするスピカを、真上に掬うように回復したウィドが斬りつける。
クウを助けると同時に僅かに隙が作られると、ウィドは持てる限りのスピードでスピカへと迫った。
「破魔斬!」
魔力を断ち切る白い斬撃と共に、魔法でスピカにかけられていた強化を打ち破る。
反撃するウィド、同じように傷を治しているレイア。どうやら、クウの行動は無駄ではなかったようだ。
「後は…!」
そう言って、クウはレイアより先に『エリクサー』を使って体力共に魔力も全回復する。ここまで来たら勿体ないとか言ってられない。
攻撃に移る前に、一度レイアに声を掛ける。
「レイア、回復が間に合わないと思ったら『ラストエリクサー』使え。遠慮はいらない」
「で、でも…!」
「…予測しとくべきだったんだよ」
「クウさん?」
「ウィドが心剣の力で強化技習得したんだ…反剣って奴でも、姉であるスピカに習得出来ない訳がなかった…!!」
唯でさえカルマの所為で強くなったのに、反剣によって重ね掛けで強化されてるのだ。エンの時のように死力を尽くさないと勝てないかもしれない。
嫌な考えが頭に過ぎっていると、ここでスピカに変化が起こる。
「ぐ、うぅ…!」
「何だ…!?」
「なんだか、苦しそうです…」
クウが警戒する中、レイアはスピカの呻き声に率直な感想を抱く。
苦しそうに声を出して、握っている剣の刀身が鼓動のように赤黒く光る。
「――うあああああああああああぁ!!!」
まるで内から湧き上がる膨大な力に耐え切れないかのように、悲鳴に近い叫びで吼える。
このスピカの反応にクウ達は身構える中、神月達は彼女に何が起こっているのか理解する。
「まさか、暴走してるのか!?」
「カルマの支配に、反剣の暴走…ここまで合わさったら、もう彼女の意識は…!!」
「最悪…無くなってしまう」
シェルリアと王羅の言い分は尤もだろう。反剣は心を無理に引き抜いて生まれる――それだけ心に掛かる負担が大きい。だから反剣士となる大半の人が昏睡や暴走になってしまう。
これだけならまだいいが、今スピカはカルマのSin化を受けており、精神体――心と魂を縛られている状態だ。抑えつけられた状態で、更に大きな負担をかけられては、心が耐え切れず壊れる事も有り得る。
「そんな…! 姉さんっ!!」
「スピカ!! 目を覚ませ、スピカァ!!」
「スピカさん、もう止めてください!!」
呼びかけても無駄だと分かっている。それでも、三人は声を掛けずにはいられなかった。
「ッ、アアアアアァ!!!」
正気には戻らず、寧ろ悪化しており、スピカは三人に向けてガンブレードに引き金を引く。
何度も銃弾が迫り、それぞれ武器と魔法で防ぐと今度は雷の魔法が全体を襲う。
「リフレガ!」
レイアの魔法が一早く届きクウとウィドも一緒に辺り一帯に轟く雷から守られた。
早く戦いを終わらせないとスピカの心が危ない。だが、今の自分達では自分の身を守るので精一杯で、どうにも出来そうにない。
「もう…駄目なのか…?」
レイアの作った障壁が消えると同時に、クウの口から弱音が零れる。
新しい力を授かったのに、想いを託されたのに、助けると誓ったのに。
俺達はずっと、弱いままなのか?
与えてくれた信頼を、返せないのか終わるのか?
また、彼女を見捨てる事しか出来ないのか?
(スピカ…ごめん…)
幼い頃に誓った約束は、果たせそうにないのか…。
《――て…》
「ッ…!?」
「クウさん?」
「次、来ますっ!」
ウィドの一声に、今度は無数の光弾が襲い掛かる。
再びクウは翼で防御して、僅かに聞こえた声に必死で意識を向ける。
《た…す、け――て…》
途切れ途切れだが、今度はちゃんと聞こえた。
この声は間違いなく、スピカの声だ。
何故この声が――彼女の心の声が聞こえるのか、理屈は分からない。だが、そんなのはどうでもいい。
「まだだ…」
「クウ、さん…?」
「まだ…光は残ってるっ!!」
防御のために双剣に変えていたキーブレードを一本に戻し、スピカに駆ける。
放たれた衝撃波で腕を斬られたが、怪我なんて気にしてられない。どうせレイアが回復してくれる。
今はただ、彼女の元まで。
(どうすればいいかなんて、殆ど勘だけど……想いに答えてくれるのが、キーブレードなんだろセヴィルっ!!!)
昔、修行で習った事を思い出しながらスピカにキーブレードを振るう。
彼女も攻撃されると受け取ったのか、ガンブレードを振るう。
そうして互いに刀身をぶつけあい――クウの意識が反転した。
クウが気が付くと、白黒に塗り潰された黒い空間の場所に立っていた。
「入り、込めた…のか?」
経験上からして、恐らくここはスピカの心の中だろう。
問題は、ここで何をすればいいのかだが…。
「来れたのね、クウ。流石はキーブレード使い」
駆けられた声に、反射的に振り向く。
そこにいたのは、記憶にある…まだ別れる前の少女だった頃のスピカが、沢山の鎖によって地面に縫われるように繋がれていた。
「何だよ、その鎖…!?」
「この鎖は彼女の力その物。“私”が支配によって縛られている限り、私もこうして意思を縛られている」
そう言って、彼女は空間の奥に目を向ける。
そこには、今の姿――大人であるスピカが仮面を付けて同じように沢山の鎖に繋がれて囚われていた。
「スピカ!?」
「私には触れられない。触れたとしても、目覚める事はない。今は彼女によって支配されているから」
「君は…誰なんだ?」
「私は、スピカの心の形。この世界に来た事で生まれた存在…だけど、何れ消える」
「消える?」
「スピカは本来の心である私ではなく、あの人に支配された状態の心を具現化してしまった。それは、心の形としては定まっていない不規則な感情。だから反剣を取ってしまった」
「えーと…?」
「はぁ…つまり、私は他者に干渉されたから、あるべき居場所を奪い取られたの。今はこうして心ごと縛られているからまだ存在出来るけど、この鎖が無くなれば本来の形である私は生まれる場所がないから消えるの。分かった?」
物凄く馬鹿に思われて説明して貰った気がするのは何故だろう。
口を開くが、反論したら余計に馬鹿にされそうで。クウが何も言い返せずにいると、スピカの心はこちらを真剣な眼差しで見つめた。
「クウ、お願いがあるの」
そして、彼女は本題を言う。
「あそこにいる私を――殺して」
余りにも衝撃的で、クウが固まるには十分な言葉だった。
「…なに、いって」
「心配しなくてもいいわ。殺すのは、私の心。心さえ壊してしまえば、私の身体は抜け殻と化す。ハートレスに取られる訳でもないから、身体はノーバディとなる心配もない。だから」
「だから、なんだよ?」
「厳しい事を言うわよ。あなた達は強くなった、だけど私はカルマによって十二分に力を高められたし、反剣を持って何倍も強くなってしまった…このままじゃ勝てない」
彼女が提示する方法は正論で、的確で。
同時に、言い知れぬ怒りが沸いた。
「ふざけんなっ!!! 俺はその為にここに来たんじゃない!! お前を救う為にここに来たんだ!!」
「それは私も一緒よ!! 私だってあなた達が傷つく所なんて見たくないし、したくもなかった!! でも、もうその感覚さえ今の私にはないの!! それに心は失うけど死ぬ訳じゃない!! これが私を倒せる一番良い方法よ!!」
「だったら何で『助けて』って言ったんだよっ!!?」
「え…?」
「スピカだって、本当は俺達と一緒にいたいだろ!? やっと大事にしている弟にだって会えたんだぞ!! エンの事だって分かってたんだろ!! ここで俺がお前を倒して、お前の心が壊れて…何もかも中途半端で終わって、本当にそれでいいのかよっ!!?」
論理を元に話すスピカと違い、クウは心の思いを言葉で伝える。それしか出来ないのもあるが、回りくどいのは苦手だ。
だが、率直な言葉が効いたのかスピカの表情が歪みだし、やがて俯いてしまった。
「もう…本当に…! 大きくなっても、子供なんだから…何の為にクウをここに呼んだのか分からないじゃない…!」
「…悪いな、こんな大人で」
「もう、いいわ――…倒す方法、と言う訳じゃないけど。クウに力を授ける方法なら一つだけある」
俯いたままスピカは涙を拭き、クウの右腕に注目する。
「私はスピカの心剣となる存在。もうスピカの素質は反剣士へと変わって、私の居場所は無いに等しいけど…ウィドや私と同じようにあなたにも、いいえ。ここに来た人全員に心剣士の素質がある」
「そうなのか?」
「だから、あなたの心剣士としての素質を『分離』して私に『融合』する事で、私は心剣として表に出て来れる。彼女が支配から解放されるまでは、あなたの力になれる」
「なるほど…ってちょっと待て!? 何でシルビアの力の事知っているんだ!?」
「この数日間、教えて貰ったの。睡眠学習って奴でね」
「す、睡眠学習…?」
笑顔で言い切るスピカに、これ以上何も追及出来なくなってしまった。
「ただし、これは一種の賭けよ。私の力を手に入れても、倒せるかどうかはあなた達三人にかかっている。ここにはもう戻れない、あなたは心剣を手に入れる事も出来ない。それでも、する?」
最後に、念を押すようにスピカが問いかける。
心を殺すと言う策は二度と取れない。心剣士の素養すら消える。選べば、やり直しは一切出来ないと。
しかし、クウの答えは最初から決まっていた。
「当たり前だ。スピカが俺達を信じて与えてくれる力なんだ、意地でも勝ってやるよ」
そう言い切ったクウの笑顔は何だか眩しくて。
最善の方法の中で押し殺した本音を見抜いた想い人に、スピカは小さく呟いた。
「――ありがとう…」
彼女はそれを、まるで昔から使っていたかのように軽く振るい、刃を構える。
その瞬間、スピカは赤い残像となってクウへと突っ込んだ。
「っ…!?」
とっさに反応して防御するが、甲高い音を響かせながらふっ飛ばされる。
「クウさん!?」
「あ…あぶねぇ…!!」
立っていた場所からかなり後方に、それこそあと数歩で塔から足を踏み外す位置にまで下がったが、辛うじて踏み止まった。
そのまま鍔迫り合いをしていると、ウィドがスピカの背中に向けて剣を振るう。
「空衝――!」
直後、クウの武器をはじき返すようにスピカが横に銃剣を振るう。そのまま流れるように、ウィドに向かってガンブレードの銃口を合わせて引き金を引く。
発砲と共に銃口から発射されたのは、鉄の塊ではなく、自身の魔力で作った銃弾だ。それでも、ウィドの利き手を貫通するには十分な威力だった。
「ぐ、う…!」
「プロテラ!!」
負傷した腕を抑えるウィド、少しでも攻撃を軽減させるためにレイアは魔法の障壁を三人に張る。
防御を固めてから回復を行う。その方法は間違っていない。
「ファイガ」
だが、スピカはレイアの足元に炎の大爆発を起こす事で彼女を吹き飛ばした。
「うあっ…!」
「レイアァ!?」
地に倒れるレイアに、クウが叫ぶ。出来た隙にスピカは見逃さず赤い残像を纏うように剣で斬りつけるが、クウはとっさに防御する。しかし、逆に身動きが取れなくなってしまう。
再び三人が苦戦する中、遠くにいた神月達もまた歪めていた。
「反剣の力が、これほどとは…!?」
「それだけじゃない…彼女は完全にカルマに支配されている。今までとは非じゃないくらい、強くなってる」
かつて反剣士と戦った事がある神月だけでなく、反剣士であるゼツも不安な眼差しを浮かべる。
一方、クウはキーブレードだけでなく、白の翼も出して防戦で凌ぐ。反射神経はいい方だが、素早さではウィドやスピカには勝てない。幸いレイアの魔法で防御力は上がっているのだから、反撃を仕掛けるよりも少しでも時間稼ぎをして二人の体制が整うのを待った方が勝算はある。
そのつもりだった。
「――【瞬光】」
突然、スピカの身体に光が纏う。
気づいた時にはスピカは背後に移動しており、クウの防御を打ち破るように見えない斬撃が幾多も襲った。
「うわああぁ!?」
何が起きたのか理解出来ず、思わず悲鳴を上げる。
痛みを堪えていると、スピカが剣を床に滑らせていた。
「氷壁破・白――」
「一閃・吹雪!!」
剣技を発動しようとするスピカを、真上に掬うように回復したウィドが斬りつける。
クウを助けると同時に僅かに隙が作られると、ウィドは持てる限りのスピードでスピカへと迫った。
「破魔斬!」
魔力を断ち切る白い斬撃と共に、魔法でスピカにかけられていた強化を打ち破る。
反撃するウィド、同じように傷を治しているレイア。どうやら、クウの行動は無駄ではなかったようだ。
「後は…!」
そう言って、クウはレイアより先に『エリクサー』を使って体力共に魔力も全回復する。ここまで来たら勿体ないとか言ってられない。
攻撃に移る前に、一度レイアに声を掛ける。
「レイア、回復が間に合わないと思ったら『ラストエリクサー』使え。遠慮はいらない」
「で、でも…!」
「…予測しとくべきだったんだよ」
「クウさん?」
「ウィドが心剣の力で強化技習得したんだ…反剣って奴でも、姉であるスピカに習得出来ない訳がなかった…!!」
唯でさえカルマの所為で強くなったのに、反剣によって重ね掛けで強化されてるのだ。エンの時のように死力を尽くさないと勝てないかもしれない。
嫌な考えが頭に過ぎっていると、ここでスピカに変化が起こる。
「ぐ、うぅ…!」
「何だ…!?」
「なんだか、苦しそうです…」
クウが警戒する中、レイアはスピカの呻き声に率直な感想を抱く。
苦しそうに声を出して、握っている剣の刀身が鼓動のように赤黒く光る。
「――うあああああああああああぁ!!!」
まるで内から湧き上がる膨大な力に耐え切れないかのように、悲鳴に近い叫びで吼える。
このスピカの反応にクウ達は身構える中、神月達は彼女に何が起こっているのか理解する。
「まさか、暴走してるのか!?」
「カルマの支配に、反剣の暴走…ここまで合わさったら、もう彼女の意識は…!!」
「最悪…無くなってしまう」
シェルリアと王羅の言い分は尤もだろう。反剣は心を無理に引き抜いて生まれる――それだけ心に掛かる負担が大きい。だから反剣士となる大半の人が昏睡や暴走になってしまう。
これだけならまだいいが、今スピカはカルマのSin化を受けており、精神体――心と魂を縛られている状態だ。抑えつけられた状態で、更に大きな負担をかけられては、心が耐え切れず壊れる事も有り得る。
「そんな…! 姉さんっ!!」
「スピカ!! 目を覚ませ、スピカァ!!」
「スピカさん、もう止めてください!!」
呼びかけても無駄だと分かっている。それでも、三人は声を掛けずにはいられなかった。
「ッ、アアアアアァ!!!」
正気には戻らず、寧ろ悪化しており、スピカは三人に向けてガンブレードに引き金を引く。
何度も銃弾が迫り、それぞれ武器と魔法で防ぐと今度は雷の魔法が全体を襲う。
「リフレガ!」
レイアの魔法が一早く届きクウとウィドも一緒に辺り一帯に轟く雷から守られた。
早く戦いを終わらせないとスピカの心が危ない。だが、今の自分達では自分の身を守るので精一杯で、どうにも出来そうにない。
「もう…駄目なのか…?」
レイアの作った障壁が消えると同時に、クウの口から弱音が零れる。
新しい力を授かったのに、想いを託されたのに、助けると誓ったのに。
俺達はずっと、弱いままなのか?
与えてくれた信頼を、返せないのか終わるのか?
また、彼女を見捨てる事しか出来ないのか?
(スピカ…ごめん…)
幼い頃に誓った約束は、果たせそうにないのか…。
《――て…》
「ッ…!?」
「クウさん?」
「次、来ますっ!」
ウィドの一声に、今度は無数の光弾が襲い掛かる。
再びクウは翼で防御して、僅かに聞こえた声に必死で意識を向ける。
《た…す、け――て…》
途切れ途切れだが、今度はちゃんと聞こえた。
この声は間違いなく、スピカの声だ。
何故この声が――彼女の心の声が聞こえるのか、理屈は分からない。だが、そんなのはどうでもいい。
「まだだ…」
「クウ、さん…?」
「まだ…光は残ってるっ!!」
防御のために双剣に変えていたキーブレードを一本に戻し、スピカに駆ける。
放たれた衝撃波で腕を斬られたが、怪我なんて気にしてられない。どうせレイアが回復してくれる。
今はただ、彼女の元まで。
(どうすればいいかなんて、殆ど勘だけど……想いに答えてくれるのが、キーブレードなんだろセヴィルっ!!!)
昔、修行で習った事を思い出しながらスピカにキーブレードを振るう。
彼女も攻撃されると受け取ったのか、ガンブレードを振るう。
そうして互いに刀身をぶつけあい――クウの意識が反転した。
クウが気が付くと、白黒に塗り潰された黒い空間の場所に立っていた。
「入り、込めた…のか?」
経験上からして、恐らくここはスピカの心の中だろう。
問題は、ここで何をすればいいのかだが…。
「来れたのね、クウ。流石はキーブレード使い」
駆けられた声に、反射的に振り向く。
そこにいたのは、記憶にある…まだ別れる前の少女だった頃のスピカが、沢山の鎖によって地面に縫われるように繋がれていた。
「何だよ、その鎖…!?」
「この鎖は彼女の力その物。“私”が支配によって縛られている限り、私もこうして意思を縛られている」
そう言って、彼女は空間の奥に目を向ける。
そこには、今の姿――大人であるスピカが仮面を付けて同じように沢山の鎖に繋がれて囚われていた。
「スピカ!?」
「私には触れられない。触れたとしても、目覚める事はない。今は彼女によって支配されているから」
「君は…誰なんだ?」
「私は、スピカの心の形。この世界に来た事で生まれた存在…だけど、何れ消える」
「消える?」
「スピカは本来の心である私ではなく、あの人に支配された状態の心を具現化してしまった。それは、心の形としては定まっていない不規則な感情。だから反剣を取ってしまった」
「えーと…?」
「はぁ…つまり、私は他者に干渉されたから、あるべき居場所を奪い取られたの。今はこうして心ごと縛られているからまだ存在出来るけど、この鎖が無くなれば本来の形である私は生まれる場所がないから消えるの。分かった?」
物凄く馬鹿に思われて説明して貰った気がするのは何故だろう。
口を開くが、反論したら余計に馬鹿にされそうで。クウが何も言い返せずにいると、スピカの心はこちらを真剣な眼差しで見つめた。
「クウ、お願いがあるの」
そして、彼女は本題を言う。
「あそこにいる私を――殺して」
余りにも衝撃的で、クウが固まるには十分な言葉だった。
「…なに、いって」
「心配しなくてもいいわ。殺すのは、私の心。心さえ壊してしまえば、私の身体は抜け殻と化す。ハートレスに取られる訳でもないから、身体はノーバディとなる心配もない。だから」
「だから、なんだよ?」
「厳しい事を言うわよ。あなた達は強くなった、だけど私はカルマによって十二分に力を高められたし、反剣を持って何倍も強くなってしまった…このままじゃ勝てない」
彼女が提示する方法は正論で、的確で。
同時に、言い知れぬ怒りが沸いた。
「ふざけんなっ!!! 俺はその為にここに来たんじゃない!! お前を救う為にここに来たんだ!!」
「それは私も一緒よ!! 私だってあなた達が傷つく所なんて見たくないし、したくもなかった!! でも、もうその感覚さえ今の私にはないの!! それに心は失うけど死ぬ訳じゃない!! これが私を倒せる一番良い方法よ!!」
「だったら何で『助けて』って言ったんだよっ!!?」
「え…?」
「スピカだって、本当は俺達と一緒にいたいだろ!? やっと大事にしている弟にだって会えたんだぞ!! エンの事だって分かってたんだろ!! ここで俺がお前を倒して、お前の心が壊れて…何もかも中途半端で終わって、本当にそれでいいのかよっ!!?」
論理を元に話すスピカと違い、クウは心の思いを言葉で伝える。それしか出来ないのもあるが、回りくどいのは苦手だ。
だが、率直な言葉が効いたのかスピカの表情が歪みだし、やがて俯いてしまった。
「もう…本当に…! 大きくなっても、子供なんだから…何の為にクウをここに呼んだのか分からないじゃない…!」
「…悪いな、こんな大人で」
「もう、いいわ――…倒す方法、と言う訳じゃないけど。クウに力を授ける方法なら一つだけある」
俯いたままスピカは涙を拭き、クウの右腕に注目する。
「私はスピカの心剣となる存在。もうスピカの素質は反剣士へと変わって、私の居場所は無いに等しいけど…ウィドや私と同じようにあなたにも、いいえ。ここに来た人全員に心剣士の素質がある」
「そうなのか?」
「だから、あなたの心剣士としての素質を『分離』して私に『融合』する事で、私は心剣として表に出て来れる。彼女が支配から解放されるまでは、あなたの力になれる」
「なるほど…ってちょっと待て!? 何でシルビアの力の事知っているんだ!?」
「この数日間、教えて貰ったの。睡眠学習って奴でね」
「す、睡眠学習…?」
笑顔で言い切るスピカに、これ以上何も追及出来なくなってしまった。
「ただし、これは一種の賭けよ。私の力を手に入れても、倒せるかどうかはあなた達三人にかかっている。ここにはもう戻れない、あなたは心剣を手に入れる事も出来ない。それでも、する?」
最後に、念を押すようにスピカが問いかける。
心を殺すと言う策は二度と取れない。心剣士の素養すら消える。選べば、やり直しは一切出来ないと。
しかし、クウの答えは最初から決まっていた。
「当たり前だ。スピカが俺達を信じて与えてくれる力なんだ、意地でも勝ってやるよ」
そう言い切ったクウの笑顔は何だか眩しくて。
最善の方法の中で押し殺した本音を見抜いた想い人に、スピカは小さく呟いた。
「――ありがとう…」
■作者メッセージ
何だか、こちらの投稿が物凄く久しぶりになってしまいました…。
いえ、原因は嫌って程分かっています。TRPG、何て恐ろしいゲームだ…今では共通の方とクトゥルフとダブルクロスをするようになりました。ネットのおかげでオンラインセッションが本当に便利な世の中になりました…。
今日でKH2.8が発売…本当に時の流れは早くもあり残酷ですね…。きっと来年でKH3発売になるんだろうなぁ。
その前にPS4買わないと二つの作品プレイすら出来ない環境ですがね…。ああ、どうせならFF15もやりたい…夢さんも抜けた今、本当にこの作品終わらせないとって思って頑張ってはいるんですがね…。
そしてKHUX…『WOFF』コラボで10回分メダルを引いたのに、お目当てのライトニングのメダルが来なかった…!! 何故クラウドとスコールばっかり来たんだ…!! あのライト様めっちゃ可愛かったのにーーーーー!!! FF13シリーズで凛々しかった分のギャップ差がヤバい!!! ほっぺとかツンツンしたい頭とか撫で回したいあれ何なの反則だろオイィ!!! FF13シリーズはノエル&セラコンビが一番好きだったがもうあの姿に私の心がクリティカルヒットだよ畜生!!! ソラも可愛いが逆にリクのセイヴァー姿見て見たいライト様であれだぞ絶対可愛くなるよなこん畜生!!! オパールと化してる?それがなんだ可愛いは正義って言葉があるだろう!!! ああこんなにも欲しくてコツコツ溜めた1万5000ジュエル使ったのにぃ!!! 私の運の無さぁ!!!(ダァン!!!
いえ、原因は嫌って程分かっています。TRPG、何て恐ろしいゲームだ…今では共通の方とクトゥルフとダブルクロスをするようになりました。ネットのおかげでオンラインセッションが本当に便利な世の中になりました…。
今日でKH2.8が発売…本当に時の流れは早くもあり残酷ですね…。きっと来年でKH3発売になるんだろうなぁ。
その前にPS4買わないと二つの作品プレイすら出来ない環境ですがね…。ああ、どうせならFF15もやりたい…夢さんも抜けた今、本当にこの作品終わらせないとって思って頑張ってはいるんですがね…。
そしてKHUX…『WOFF』コラボで10回分メダルを引いたのに、お目当てのライトニングのメダルが来なかった…!! 何故クラウドとスコールばっかり来たんだ…!! あのライト様めっちゃ可愛かったのにーーーーー!!! FF13シリーズで凛々しかった分のギャップ差がヤバい!!! ほっぺとかツンツンしたい頭とか撫で回したいあれ何なの反則だろオイィ!!! FF13シリーズはノエル&セラコンビが一番好きだったがもうあの姿に私の心がクリティカルヒットだよ畜生!!! ソラも可愛いが逆にリクのセイヴァー姿見て見たいライト様であれだぞ絶対可愛くなるよなこん畜生!!! オパールと化してる?それがなんだ可愛いは正義って言葉があるだろう!!! ああこんなにも欲しくてコツコツ溜めた1万5000ジュエル使ったのにぃ!!! 私の運の無さぁ!!!(ダァン!!!