CROSS CAPTURE104 「最後の足掻き」
「心とは脆い。希望など儚い」
鎖で身体を縛られて混乱する頭で、クウは男と女の混じった声のした上空へと目を向ける。
「絆もまた、千切れるもの」
そこにいたのは、足元まである長髪も身に纏う服も金と銀の色が混じり合い、左目が金で右目が銀のオッドアイの中立な顔をした人物が宙に浮んでいる。
その人物を認識すると共に、鎖に拘束されたままクウの身体が浮かびあがる。
『『『クウ!』』』
誰もが助けようと動いた瞬間、虚空から鎖が現れて全員を地面に縫い付けた。
「からだ、が…!!」
「うご、かない…!?」
アクアと神月が必死で立ち上がろうとするが、自分達を縛る鎖はびくともしない。
その間にも、クウは身動きを封じたであろう人物と同じ位置に到達する。
そして気づく。その人の顔が、彼女と重なる事に。
「シル、ビア…!?」
「彼女は消えた」
クウが呟いた名前に、目の前の人物はハッキリと否定した。
「我は、再生にして、終焉を齎す鍵――χブレード。だが、名を付けるならば…【クロニクルキー】。創世の鍵と呼ぼう」
「χ、ブレード…っ!?」
クウが、他の者達が一瞬で顔を青ざめる。
敵の目的、この世界を壊すもう一つの鍵を完成されてしまったのだから。
そうしていると、こちらに手を伸ばしてくる。明らかに自分を狙っていると分かり、クウは鎖で縛られた身体を動かして抵抗する。
「てめ…はな、せ…っ!」
「光の半身が貴様に埋め込んだ切り札、消させて貰おう」
そう言って右腕に、刻印に触れようとする手にクウは歯軋りする。
「はなせって…言ってんだろうがぁ!!!」
出しっぱなしだった翼を大きく広げながら、無理やり鎖を壊す。壊れた鎖の欠片が伸ばした腕に降り注ぐ。
そのまま地面に降り立たず、キーブレードを双剣の状態で取り出して相手に渾身の一撃をぶつける。が、幾多もの金色と銀色の剣が盾となって二本の刀身を受け止めた。
「っ!」
「無駄だ」
「くそ、力づくでも…ッ!!」
様々な形をした剣をぶち壊そうと、クウは更に両手のキーブレードに力を込める。
直後、刻印が刻まれた部分に一本の金色の剣が突き刺さった。
「っ――!!」
貫かれた部分に、激痛が走る。
しかし次の瞬間、剣が闇となって霧散し――作り出した傷からクウの中に入り込んだ。
「え…う、うあああああああああぁ!!?」
「クウさん!?」
「師匠ぉ!!」
突然苦しみ出したと思えば、翼もキーブレードも消えて地面に落下する。
そうして倒れても尚、クウは右腕を掴んで悶え苦しんでいる。その腕は蠢く闇に覆われている。
「クウに何をした!?」
「我らを仇名す切り札は闇に封じた。もはや我を阻むものは何もない」
睨むテラの問いに返された返答に、思わずリクが叫ぶ。
「おい、クウ!! 意識はあるか!? 心を強く持て!!」
ココロが、震える。
目の前の視界が、霞んでく。
人はこんなに容易く、黒い感情に支配されてしまうものなのか。
「よくも…よくも師匠をぉ!!!」
師匠は強い。本当にそう思う。
だって、
「第二段階、ダーク・モードォ!!!」
理性を失くすほどの衝動を、ちゃんと受け入れて、自分の力に変えるんだから。
「あの姿!?」
「昔のリク…!」
第一段階を飛ばして闇を纏って変化したツバサの姿に、ルキルとカイリが反応する。
今までは赤と黒――ヴァニタスの衣装だったのに、今の彼女はどう言う訳かリクのDモードと同じ衣装になっている。
だが、力を変えても拘束されている状況には変わらない。縛っている鎖を解こうともがくツバサに、敵は無のまま言い放つ。
「姿が変わった所で、その拘束は――」
「「解かせて貰う!! ホーリーウィング!!」」
二人分の声と共に、相手の足元から巨大な光の柱が立ち上る。更に、ここ一帯に閃光が飛び散って全員の鎖が千切れた。
ザッと地面を踏みしめる音が鳴る。振り返ると、ヴェンと共にソラもキーブレードを持ってニッと笑っていた。
『ソラ!!』
闇に消えてしまったあの日からようやく再会出来た、大切な存在にカイリ達の笑顔が綻ぶ。
だが、再会を喜ぶ暇はない。それを物語るように、怒りに燃えたツバサは闇を使って瞬間移動して敵の前に現れる。
そのままキーブレードを振り下ろすが、先程のクウ同様に沢山の剣を何重にも重ね防御される。
「ほう?」
「許さない!!! あんただけは、ボクが消すぅ!!!」
今の彼女は、大切な存在を傷つけられた事によって生まれた、怒り、悲しみ――闇に心を囚われている。
「そんなに大事か? お前と彼らは違う――なあ、『幻想の住人』よ」
その言葉に、怒りに満ちていた筈のツバサの瞳が揺らぐ。
その隙をつくように、剣に守られながらほんの少し人差し指を動かす。それだけで、ツバサの華奢な身体が吹き飛んだ。
「ぐうぁ!?」
「シャ…ツバサ!!」
飛ばされたツバサを、とっさにテラが割って入り小さな体を受け止める。だが、ツバサの怒りは収まっておらず、フーッと威嚇して睨んだままだ。
「ああ、無様だ。彼女は何故このような奴らに希望を寄せた。キーブレードと言えど人が生み出した紛い物、そんな武器で完全となった我らに勝てる筈もない」
「心にもない事言わないで!!」
力の差を見せつけ、唯一対抗出来る力をも闇に堕ち、力弱き者どもを見下す。圧倒的な存在ともいえる人物に、なんとカイリが対抗するように怒鳴る。
「何を言う、我の本心だ」
「だったら、何で泣いてるの!!」
カイリの口から飛び出した思いがけない言葉に、一瞬で表情を固まらせる。
そして、言われるままに指を目元に伸ばす。触れると湿り気があり、確かに自分が泣いているのだと理解する。
銀の右目――彼女の色である瞳から零れる涙を。
「涙、だと…? 何故だ…何故だ何故だなぜだ!? 記憶も心も感情も全てを昇華しも無に帰った言うのになぜまだ残っている!? それまでにこの男に捧げていると言うのかシルビアァ!!! 紛い物を使う人間を、無力な存在である人間をどうして信用するぅ!!!」
咆哮と共に、クウの腕の闇がより一層濃度を増す。
まるでその意志に反応しているのか、闇は腕から肩、首、胸と全身を覆い出す。
「あぐうううう!!!」
「消えてしまえ!!! 貴様さえいなくなれば、我は完全な」
「そこまでにしてもらえないかしら?」
スピカの冷たい呟きと同時に、銃声が響く。が、飛んできた銃弾は眼下で切り捨てられる。
いつの間にか、スピカはウィドの肩を支えにして反剣のガンブレードを構えている。明らかに無理をしている彼女に、アクアがストップをかける。
「スピカさん、動いちゃ駄目!!」
「攻撃したくもなるわよ――こんな奴にクウを、大切な人を罵倒されたんですもの!!!」
「ただの人間だからなんです!!! キーブレードが何ですかぁ!!!」
「シルビアさんが惚れてて何が悪いのさ――ボク達は師匠に身も心も救われたんだ、惚れこんでるのはボク達だって一緒なんだからねぇ!!!」
スピカを筆頭に、レイアとツバサも武器を構えて相手に立ち向かう。同じ思いを――恋心を持つ者として、これ以上シルビアの気持ちを踏み躙る暴挙は見過ごせない。
そんな相対する彼女達を見て、尚も威厳を持ったままゆっくりと手を翳す。
「ふん。ならば、貴様らから我が力の肥やしに――ぬぐっ!?」
突如、翳した手に一筋の亀裂が走る。そこから光が漏れたのを見て、慌ててそこを押えだす。
「あれは!?」
「どうやら、クウの足掻きは無意味じゃなかったようね…!!」
驚くウィドに、スピカは冷静に相手に起こった事を分析する。
亀裂が走った所は、先程クウが鎖を壊した際に相手に当てた部分だ。鎖を解く力に『分離』の力を使ったから、鎖にその力が残り相手に付加されたのだろう。本当に転んでもただでは起きない性分だ。
「…どんなに強かろうと、切り札がない以上どうする事も出来ぬ。我がこの力を消し去った時、この世界を新たに再生しよう」
そう言い捨て、『分離』の力を抑えながらその場から消え去る。
ようやく敵が引くと共に、クウに纏わりついていた闇も払われる。すると、悲鳴が収まって糸が切れたように気を失ってしまった。
『『『クウっ!!』』』
誰もが叫んで、傍に駆けよる。
いち早くアクアが駆けつけて、回復魔法をかける。リクとルキルでクウの体を起こし、上体を抱える。
レイアも回復魔法をかけようとした所で、腕に刺さった剣の事を思い出す。怪我を確認する為、コートの袖を捲り上げた。
そして、目を見張る物が全員に映った。
「何ですか、この腕…!」
クウの腕に貫かれた怪我はない。血も流れていない。シルビアの刻印もない。
ただただ、闇のように真っ黒に塗り潰されているだけだった。
鎖で身体を縛られて混乱する頭で、クウは男と女の混じった声のした上空へと目を向ける。
「絆もまた、千切れるもの」
そこにいたのは、足元まである長髪も身に纏う服も金と銀の色が混じり合い、左目が金で右目が銀のオッドアイの中立な顔をした人物が宙に浮んでいる。
その人物を認識すると共に、鎖に拘束されたままクウの身体が浮かびあがる。
『『『クウ!』』』
誰もが助けようと動いた瞬間、虚空から鎖が現れて全員を地面に縫い付けた。
「からだ、が…!!」
「うご、かない…!?」
アクアと神月が必死で立ち上がろうとするが、自分達を縛る鎖はびくともしない。
その間にも、クウは身動きを封じたであろう人物と同じ位置に到達する。
そして気づく。その人の顔が、彼女と重なる事に。
「シル、ビア…!?」
「彼女は消えた」
クウが呟いた名前に、目の前の人物はハッキリと否定した。
「我は、再生にして、終焉を齎す鍵――χブレード。だが、名を付けるならば…【クロニクルキー】。創世の鍵と呼ぼう」
「χ、ブレード…っ!?」
クウが、他の者達が一瞬で顔を青ざめる。
敵の目的、この世界を壊すもう一つの鍵を完成されてしまったのだから。
そうしていると、こちらに手を伸ばしてくる。明らかに自分を狙っていると分かり、クウは鎖で縛られた身体を動かして抵抗する。
「てめ…はな、せ…っ!」
「光の半身が貴様に埋め込んだ切り札、消させて貰おう」
そう言って右腕に、刻印に触れようとする手にクウは歯軋りする。
「はなせって…言ってんだろうがぁ!!!」
出しっぱなしだった翼を大きく広げながら、無理やり鎖を壊す。壊れた鎖の欠片が伸ばした腕に降り注ぐ。
そのまま地面に降り立たず、キーブレードを双剣の状態で取り出して相手に渾身の一撃をぶつける。が、幾多もの金色と銀色の剣が盾となって二本の刀身を受け止めた。
「っ!」
「無駄だ」
「くそ、力づくでも…ッ!!」
様々な形をした剣をぶち壊そうと、クウは更に両手のキーブレードに力を込める。
直後、刻印が刻まれた部分に一本の金色の剣が突き刺さった。
「っ――!!」
貫かれた部分に、激痛が走る。
しかし次の瞬間、剣が闇となって霧散し――作り出した傷からクウの中に入り込んだ。
「え…う、うあああああああああぁ!!?」
「クウさん!?」
「師匠ぉ!!」
突然苦しみ出したと思えば、翼もキーブレードも消えて地面に落下する。
そうして倒れても尚、クウは右腕を掴んで悶え苦しんでいる。その腕は蠢く闇に覆われている。
「クウに何をした!?」
「我らを仇名す切り札は闇に封じた。もはや我を阻むものは何もない」
睨むテラの問いに返された返答に、思わずリクが叫ぶ。
「おい、クウ!! 意識はあるか!? 心を強く持て!!」
ココロが、震える。
目の前の視界が、霞んでく。
人はこんなに容易く、黒い感情に支配されてしまうものなのか。
「よくも…よくも師匠をぉ!!!」
師匠は強い。本当にそう思う。
だって、
「第二段階、ダーク・モードォ!!!」
理性を失くすほどの衝動を、ちゃんと受け入れて、自分の力に変えるんだから。
「あの姿!?」
「昔のリク…!」
第一段階を飛ばして闇を纏って変化したツバサの姿に、ルキルとカイリが反応する。
今までは赤と黒――ヴァニタスの衣装だったのに、今の彼女はどう言う訳かリクのDモードと同じ衣装になっている。
だが、力を変えても拘束されている状況には変わらない。縛っている鎖を解こうともがくツバサに、敵は無のまま言い放つ。
「姿が変わった所で、その拘束は――」
「「解かせて貰う!! ホーリーウィング!!」」
二人分の声と共に、相手の足元から巨大な光の柱が立ち上る。更に、ここ一帯に閃光が飛び散って全員の鎖が千切れた。
ザッと地面を踏みしめる音が鳴る。振り返ると、ヴェンと共にソラもキーブレードを持ってニッと笑っていた。
『ソラ!!』
闇に消えてしまったあの日からようやく再会出来た、大切な存在にカイリ達の笑顔が綻ぶ。
だが、再会を喜ぶ暇はない。それを物語るように、怒りに燃えたツバサは闇を使って瞬間移動して敵の前に現れる。
そのままキーブレードを振り下ろすが、先程のクウ同様に沢山の剣を何重にも重ね防御される。
「ほう?」
「許さない!!! あんただけは、ボクが消すぅ!!!」
今の彼女は、大切な存在を傷つけられた事によって生まれた、怒り、悲しみ――闇に心を囚われている。
「そんなに大事か? お前と彼らは違う――なあ、『幻想の住人』よ」
その言葉に、怒りに満ちていた筈のツバサの瞳が揺らぐ。
その隙をつくように、剣に守られながらほんの少し人差し指を動かす。それだけで、ツバサの華奢な身体が吹き飛んだ。
「ぐうぁ!?」
「シャ…ツバサ!!」
飛ばされたツバサを、とっさにテラが割って入り小さな体を受け止める。だが、ツバサの怒りは収まっておらず、フーッと威嚇して睨んだままだ。
「ああ、無様だ。彼女は何故このような奴らに希望を寄せた。キーブレードと言えど人が生み出した紛い物、そんな武器で完全となった我らに勝てる筈もない」
「心にもない事言わないで!!」
力の差を見せつけ、唯一対抗出来る力をも闇に堕ち、力弱き者どもを見下す。圧倒的な存在ともいえる人物に、なんとカイリが対抗するように怒鳴る。
「何を言う、我の本心だ」
「だったら、何で泣いてるの!!」
カイリの口から飛び出した思いがけない言葉に、一瞬で表情を固まらせる。
そして、言われるままに指を目元に伸ばす。触れると湿り気があり、確かに自分が泣いているのだと理解する。
銀の右目――彼女の色である瞳から零れる涙を。
「涙、だと…? 何故だ…何故だ何故だなぜだ!? 記憶も心も感情も全てを昇華しも無に帰った言うのになぜまだ残っている!? それまでにこの男に捧げていると言うのかシルビアァ!!! 紛い物を使う人間を、無力な存在である人間をどうして信用するぅ!!!」
咆哮と共に、クウの腕の闇がより一層濃度を増す。
まるでその意志に反応しているのか、闇は腕から肩、首、胸と全身を覆い出す。
「あぐうううう!!!」
「消えてしまえ!!! 貴様さえいなくなれば、我は完全な」
「そこまでにしてもらえないかしら?」
スピカの冷たい呟きと同時に、銃声が響く。が、飛んできた銃弾は眼下で切り捨てられる。
いつの間にか、スピカはウィドの肩を支えにして反剣のガンブレードを構えている。明らかに無理をしている彼女に、アクアがストップをかける。
「スピカさん、動いちゃ駄目!!」
「攻撃したくもなるわよ――こんな奴にクウを、大切な人を罵倒されたんですもの!!!」
「ただの人間だからなんです!!! キーブレードが何ですかぁ!!!」
「シルビアさんが惚れてて何が悪いのさ――ボク達は師匠に身も心も救われたんだ、惚れこんでるのはボク達だって一緒なんだからねぇ!!!」
スピカを筆頭に、レイアとツバサも武器を構えて相手に立ち向かう。同じ思いを――恋心を持つ者として、これ以上シルビアの気持ちを踏み躙る暴挙は見過ごせない。
そんな相対する彼女達を見て、尚も威厳を持ったままゆっくりと手を翳す。
「ふん。ならば、貴様らから我が力の肥やしに――ぬぐっ!?」
突如、翳した手に一筋の亀裂が走る。そこから光が漏れたのを見て、慌ててそこを押えだす。
「あれは!?」
「どうやら、クウの足掻きは無意味じゃなかったようね…!!」
驚くウィドに、スピカは冷静に相手に起こった事を分析する。
亀裂が走った所は、先程クウが鎖を壊した際に相手に当てた部分だ。鎖を解く力に『分離』の力を使ったから、鎖にその力が残り相手に付加されたのだろう。本当に転んでもただでは起きない性分だ。
「…どんなに強かろうと、切り札がない以上どうする事も出来ぬ。我がこの力を消し去った時、この世界を新たに再生しよう」
そう言い捨て、『分離』の力を抑えながらその場から消え去る。
ようやく敵が引くと共に、クウに纏わりついていた闇も払われる。すると、悲鳴が収まって糸が切れたように気を失ってしまった。
『『『クウっ!!』』』
誰もが叫んで、傍に駆けよる。
いち早くアクアが駆けつけて、回復魔法をかける。リクとルキルでクウの体を起こし、上体を抱える。
レイアも回復魔法をかけようとした所で、腕に刺さった剣の事を思い出す。怪我を確認する為、コートの袖を捲り上げた。
そして、目を見張る物が全員に映った。
「何ですか、この腕…!」
クウの腕に貫かれた怪我はない。血も流れていない。シルビアの刻印もない。
ただただ、闇のように真っ黒に塗り潰されているだけだった。