エンディングフェイズ2
エンディングフェイズ2 〈後悔の陰り〉
シーンプレイヤー 闇代 月
『戦闘用人格』を使った事件の首謀者を倒した事で、《人変わり》の噂は幕を閉じた。
町中で起こった戦闘もUGN処理班による記憶操作、情報操作が行われ、人々は裏側を知る事無く日常を過ごしている。
凍矢達の通う学校も、生徒達の間で噂されていた《人変わり》の事などすっかり忘れており、今は迫り出したテストに騒いでいる。
放課後、誰もが目の前に迫る難関に対処する為に早々と教室を出る。人もいなくなり喧噪がなくなった教室で、勉強もせずに凍矢と月が残っていた。
「――あれから、もう一週間」
「特殊なαトランスを射ち込まれて、未だに昏睡状態か…」
暗い顔で互いに呟き、大きな溜息を吐く。
急いで黒コート達から逃げた後、入り口で三人を待っていたのは暴力団だった。助けてくれた男――組長の御剣が介入しなければ、誤解したまま戦闘を行っていただろう。
その後、どうにか空を鴻央会の使う裏の病院に運んで治療をしてもらった。だが…一週間経っても尚、空は目覚めないままだ。
「ずっとレネゲイドの浸食率が極端に上がったり下がったりで安定してない。最悪の場合、ジャーム化するって話も出てる…」
「本来はUGNの管理する病院に送った方がいいんだろうが、あいつはFH。しかも元UGN…どう足掻いても抹消される存在だ」
「現状、鴻央会経由での病院でどうにかするしかないんですよね…。ブラックスカル団には拠点となる特定の場所がないから」
「闇医者でも、少しはオーヴァードに通じているんだ。翼も学校を休んで付きっきりで看病している。何もせずに放置するよりはマシだ…その筈だ」
「ムーン…」
まるで自分に言い聞かせる月に、凍矢にも不安が移ってしまう。
月は軽く頭を振り被ると、立ち上がって机に置いていた通学鞄を持った。
「…悪い、先に帰る。今日も支部に寄れそうにない」
「大丈夫、皆に伝えておく…――そうそう。翼、甘い物が好きだって前に話してたよ」
「そっか。ありがとな、グラッセ」
小さく笑うと、ようやく凍矢も笑顔を返してくれた。
月はそのまま校門を出る。裏路地へ向かい、自分の手を見つめる。
「ジャームは始末しないといけない。それが仲間であろうと、家族であろうと…」
UGNに引き取られてから、ずっと教えられてきた事。チルドレンとして、数え切れないほど化け物と化した人をこの手で始末してきた。
空だって同じだ。敵として立ちはだかった彼を、一度は始末しようとした。
だが、あの時の感情を蘇えらせようとすると、笑ってお礼を言ってくれた蒼空まで思い浮かべてしまう。
もし。もしも、この世に神様がいるとしたら。奇跡が起きると言うのならば…。
「まだちゃんと謝ってないんだぞ、俺は……言えないままお別れなんて、もう、嫌なんだよ…!」
何も言えないまま、母親のようにいなくならないで欲しい。
また自分の手が、親しくなった者の血で染まって欲しくない。
微かな希望に縋りながら、月は空が眠っている病院へ歩む。見舞いの為じゃない。ジャームになった際、自分の手で終わらせられる為に。
エンディングフェイズ3 〈恩人との一時〉
シーンプレイヤー 海命 凍矢
この町の支部となる羽狛が経営する喫茶店。
事件も収拾した今、店は営業を再開していた。それに伴い、メンバー達はバイトと称してシフト制で店員として忙しく働いている。
凍矢はイリーガルだが、ここ一週間は月の代わりに学校が終わってからこの店を手伝っている。現在カウンターで次々来る飲み物の注文を捌いていると、エプロンを付けたシキが大声で呼んできた。
「グラッセ、あっちの注文お願ーい! 今手が離せなくて!」
「はい!」
すぐに返事を返すと、凍矢は注文票を手に取ってカウンターを出る。
そのまま店の一番奥の席に近付くと、四人掛けの席に一人の少女が座っている。一人で来たであろうお客様に、凍矢は慣れたように声をかけた。
「お待たせいたしました。ご注文は…」
注文票にペンを付けてメモを走らせる準備をして…凍矢は固まった。
声に反応して顔を向けた少女の顔に、見覚えがあったからだ。
「久しぶり、凍矢」
外国人とは思えない程の日本語の話し方。
そんな彼女の膝元には、見えないように隠していたであろう一匹のフクロウ。
UGN中枢評議員の一人であり、凍矢の唯一無二の恩人――天才少女、テレーズ・ブルム本人だった。
「テレーズさん!?」
「座って。店長からは許可を取っているから安心して頂戴」
あまりの驚きに放心していると、テレーズが相席を進める。それと同時に、手が離せないと言っていたシキが二つのジュースを持ってやってきた。どうやら、彼女と自分を引き合わせる為の口実だったらしい。
付けていたエプロンを脱いで、凍矢は向かい側に座る。いつもは電話で近況を話していたし、多忙な事を知っている為に、面と向かって会うのは本当に久しぶりだ。
真っ正面から向き合う形になると、テレーズは飲み物に口を付けてから凍矢へ話しかけた。
「今回も大変な事件に巻き込まれたようね。事件については羽狛支部長から全て聞かせて貰ったわ。一ヵ月前と同じで、前線に出て活躍したんですってね。大丈夫だった?」
「はい、どうにか…」
返事を返すが、何処か味気ない感じがしたのを自覚した。
自分達は無事だった。だが、空は無事かどうか分かっていないのだ。しかし彼はFH側…空や翼に関してはテレーズに話したとはいえ、どこまで内容を伝えればいいのか躊躇しているのだ。
迷いによって口を動かせず、沈黙が二人を包み込む。すると、テレーズから徐に口を開いた。
「あれから私の方で、七雲空について調べてみたの」
相手側から言われた名前に、思わず凍矢は息を呑む。
テレーズは足元に置いていた持参していた鞄から、茶封筒を取り出して凍矢に差し出す。受け取った凍矢はすぐに中身を取り出した。
現れたのは、数枚のファイル。目を通すと、何故かどれも白紙状態だった。
「――やっぱりと言うべきか、彼の情報はUGNの履歴から全て消されていたわ。しかも、《エスケープキラー》まで動いてる。状況は悪化を辿っているわ」
「エスケープキラー?」
「そうね…大まかに説明すると、UGNを離脱してFHへと移ろうとする人物を暗殺する部署の事よ。彼はFHに鞍替えしただけでなく、UGNにとって闇に値する秘密を知った生き証人でもあるから」
「そんな…! 何とかならないんですか!?」
FH側とは言え仲間として自分達を助けてくれたし、何より悪い人ではない。その事を知っているからこそ、凍矢は必死の思いで申し出る。
だが、テレーズは苦悶の表情を浮かべて首を横に振る。
「あなたの気持ちは分かる…だけど、先程の話に加えて、彼はFHに鞍替えしてからと言うものUGNに所属する人間を始末していた。戦闘用人格の仕業だとしても、その事を考えたら難しいわ」
「ですよね…今もその暗殺部隊、空さんの事探してるんですか?」
空は現在昏睡状態だ。翼も付いてるとはいえ今の状態で見つかれば、二人諸共始末される。
そんな恐ろしい未来を思い浮かべる凍矢に、テレーズは言った。
「いいえ。現状が変わったわ」
テレーズの発言を、すぐには飲み込めなかった。
思考が上手く動いていない凍矢に、テレーズは続きを話す。
「この町に黒須左京が公に出現した事で、七雲空から目標を変更したの。彼は現在、志武谷から別の町でUGNのエージェント達を襲っているわ。マスターレイス…FHの重要人物に改革派の人間はこれ幸いと目先の得物を追っているけど、私や霧谷の温和派から見たらまるで目晦ましを行っているみたい。それこそ、自分を目立たせて他から目を逸らさせるように、ね?」
「黒須さん…」
あんな事を言いつつも、陰ながら自分達を守ってくれた黒須に思わず笑みを浮かべる凍矢。
その気持ちはお見通しなようで、テレーズも笑顔を返した。
「彼も元はUGNイリーガルであり、被害者。七雲空と通ずる部分があったんでしょうね…」
「ですね…」
自分達には仲間が、友が、協力者がいる。目には見えない、絆の力があるのだ。
後は、その力を信じて空が無事に目覚めれば…。
シーンプレイヤー 闇代 月
『戦闘用人格』を使った事件の首謀者を倒した事で、《人変わり》の噂は幕を閉じた。
町中で起こった戦闘もUGN処理班による記憶操作、情報操作が行われ、人々は裏側を知る事無く日常を過ごしている。
凍矢達の通う学校も、生徒達の間で噂されていた《人変わり》の事などすっかり忘れており、今は迫り出したテストに騒いでいる。
放課後、誰もが目の前に迫る難関に対処する為に早々と教室を出る。人もいなくなり喧噪がなくなった教室で、勉強もせずに凍矢と月が残っていた。
「――あれから、もう一週間」
「特殊なαトランスを射ち込まれて、未だに昏睡状態か…」
暗い顔で互いに呟き、大きな溜息を吐く。
急いで黒コート達から逃げた後、入り口で三人を待っていたのは暴力団だった。助けてくれた男――組長の御剣が介入しなければ、誤解したまま戦闘を行っていただろう。
その後、どうにか空を鴻央会の使う裏の病院に運んで治療をしてもらった。だが…一週間経っても尚、空は目覚めないままだ。
「ずっとレネゲイドの浸食率が極端に上がったり下がったりで安定してない。最悪の場合、ジャーム化するって話も出てる…」
「本来はUGNの管理する病院に送った方がいいんだろうが、あいつはFH。しかも元UGN…どう足掻いても抹消される存在だ」
「現状、鴻央会経由での病院でどうにかするしかないんですよね…。ブラックスカル団には拠点となる特定の場所がないから」
「闇医者でも、少しはオーヴァードに通じているんだ。翼も学校を休んで付きっきりで看病している。何もせずに放置するよりはマシだ…その筈だ」
「ムーン…」
まるで自分に言い聞かせる月に、凍矢にも不安が移ってしまう。
月は軽く頭を振り被ると、立ち上がって机に置いていた通学鞄を持った。
「…悪い、先に帰る。今日も支部に寄れそうにない」
「大丈夫、皆に伝えておく…――そうそう。翼、甘い物が好きだって前に話してたよ」
「そっか。ありがとな、グラッセ」
小さく笑うと、ようやく凍矢も笑顔を返してくれた。
月はそのまま校門を出る。裏路地へ向かい、自分の手を見つめる。
「ジャームは始末しないといけない。それが仲間であろうと、家族であろうと…」
UGNに引き取られてから、ずっと教えられてきた事。チルドレンとして、数え切れないほど化け物と化した人をこの手で始末してきた。
空だって同じだ。敵として立ちはだかった彼を、一度は始末しようとした。
だが、あの時の感情を蘇えらせようとすると、笑ってお礼を言ってくれた蒼空まで思い浮かべてしまう。
もし。もしも、この世に神様がいるとしたら。奇跡が起きると言うのならば…。
「まだちゃんと謝ってないんだぞ、俺は……言えないままお別れなんて、もう、嫌なんだよ…!」
何も言えないまま、母親のようにいなくならないで欲しい。
また自分の手が、親しくなった者の血で染まって欲しくない。
微かな希望に縋りながら、月は空が眠っている病院へ歩む。見舞いの為じゃない。ジャームになった際、自分の手で終わらせられる為に。
エンディングフェイズ3 〈恩人との一時〉
シーンプレイヤー 海命 凍矢
この町の支部となる羽狛が経営する喫茶店。
事件も収拾した今、店は営業を再開していた。それに伴い、メンバー達はバイトと称してシフト制で店員として忙しく働いている。
凍矢はイリーガルだが、ここ一週間は月の代わりに学校が終わってからこの店を手伝っている。現在カウンターで次々来る飲み物の注文を捌いていると、エプロンを付けたシキが大声で呼んできた。
「グラッセ、あっちの注文お願ーい! 今手が離せなくて!」
「はい!」
すぐに返事を返すと、凍矢は注文票を手に取ってカウンターを出る。
そのまま店の一番奥の席に近付くと、四人掛けの席に一人の少女が座っている。一人で来たであろうお客様に、凍矢は慣れたように声をかけた。
「お待たせいたしました。ご注文は…」
注文票にペンを付けてメモを走らせる準備をして…凍矢は固まった。
声に反応して顔を向けた少女の顔に、見覚えがあったからだ。
「久しぶり、凍矢」
外国人とは思えない程の日本語の話し方。
そんな彼女の膝元には、見えないように隠していたであろう一匹のフクロウ。
UGN中枢評議員の一人であり、凍矢の唯一無二の恩人――天才少女、テレーズ・ブルム本人だった。
「テレーズさん!?」
「座って。店長からは許可を取っているから安心して頂戴」
あまりの驚きに放心していると、テレーズが相席を進める。それと同時に、手が離せないと言っていたシキが二つのジュースを持ってやってきた。どうやら、彼女と自分を引き合わせる為の口実だったらしい。
付けていたエプロンを脱いで、凍矢は向かい側に座る。いつもは電話で近況を話していたし、多忙な事を知っている為に、面と向かって会うのは本当に久しぶりだ。
真っ正面から向き合う形になると、テレーズは飲み物に口を付けてから凍矢へ話しかけた。
「今回も大変な事件に巻き込まれたようね。事件については羽狛支部長から全て聞かせて貰ったわ。一ヵ月前と同じで、前線に出て活躍したんですってね。大丈夫だった?」
「はい、どうにか…」
返事を返すが、何処か味気ない感じがしたのを自覚した。
自分達は無事だった。だが、空は無事かどうか分かっていないのだ。しかし彼はFH側…空や翼に関してはテレーズに話したとはいえ、どこまで内容を伝えればいいのか躊躇しているのだ。
迷いによって口を動かせず、沈黙が二人を包み込む。すると、テレーズから徐に口を開いた。
「あれから私の方で、七雲空について調べてみたの」
相手側から言われた名前に、思わず凍矢は息を呑む。
テレーズは足元に置いていた持参していた鞄から、茶封筒を取り出して凍矢に差し出す。受け取った凍矢はすぐに中身を取り出した。
現れたのは、数枚のファイル。目を通すと、何故かどれも白紙状態だった。
「――やっぱりと言うべきか、彼の情報はUGNの履歴から全て消されていたわ。しかも、《エスケープキラー》まで動いてる。状況は悪化を辿っているわ」
「エスケープキラー?」
「そうね…大まかに説明すると、UGNを離脱してFHへと移ろうとする人物を暗殺する部署の事よ。彼はFHに鞍替えしただけでなく、UGNにとって闇に値する秘密を知った生き証人でもあるから」
「そんな…! 何とかならないんですか!?」
FH側とは言え仲間として自分達を助けてくれたし、何より悪い人ではない。その事を知っているからこそ、凍矢は必死の思いで申し出る。
だが、テレーズは苦悶の表情を浮かべて首を横に振る。
「あなたの気持ちは分かる…だけど、先程の話に加えて、彼はFHに鞍替えしてからと言うものUGNに所属する人間を始末していた。戦闘用人格の仕業だとしても、その事を考えたら難しいわ」
「ですよね…今もその暗殺部隊、空さんの事探してるんですか?」
空は現在昏睡状態だ。翼も付いてるとはいえ今の状態で見つかれば、二人諸共始末される。
そんな恐ろしい未来を思い浮かべる凍矢に、テレーズは言った。
「いいえ。現状が変わったわ」
テレーズの発言を、すぐには飲み込めなかった。
思考が上手く動いていない凍矢に、テレーズは続きを話す。
「この町に黒須左京が公に出現した事で、七雲空から目標を変更したの。彼は現在、志武谷から別の町でUGNのエージェント達を襲っているわ。マスターレイス…FHの重要人物に改革派の人間はこれ幸いと目先の得物を追っているけど、私や霧谷の温和派から見たらまるで目晦ましを行っているみたい。それこそ、自分を目立たせて他から目を逸らさせるように、ね?」
「黒須さん…」
あんな事を言いつつも、陰ながら自分達を守ってくれた黒須に思わず笑みを浮かべる凍矢。
その気持ちはお見通しなようで、テレーズも笑顔を返した。
「彼も元はUGNイリーガルであり、被害者。七雲空と通ずる部分があったんでしょうね…」
「ですね…」
自分達には仲間が、友が、協力者がいる。目には見えない、絆の力があるのだ。
後は、その力を信じて空が無事に目覚めれば…。