第二試合(アーチャー)
「さて。次の対戦相手はアーチャークラスからです」
沖田を医療班に任せて10分後。コロシアム内でマシュの放送が入る。
戦いが再開となり、三人の中で立ち上がったのはグラッセだった。
「アーチャーって事は弓か…遠距離が出来る俺が行こうかな」
「がんばれ、グラッセー!」
「私の分までボコボコにしちゃえー!」
ムーンとリズが声援を送る中、観戦席ではマシュは藤丸の方を見ている。
「先輩。アーチャー代表はどなたですか?」
「それは…この人だ!」
バッと手を挙げると、向こう側からグラッセの対戦相手が歩いてくる。
藤と赤の着物を纏った、長い黒髪に赤い瞳をした女性。その出で立ちから、沖田と同じ日本人だと分かるだろう。
ゆっくりとコロシアムの中央へと歩いてきた彼女は、ニコリとほほ笑んだ。
「浅上藤乃と申します。よろしくお願いします、対戦者さん」
「「「ちょっと待て(待って)!!」」」
「ひゃぁ! エ、エミヤさんにアタランテさん! それにクロエさんも…!」
突然観戦席の後ろから、赤い外套を纏った男性と少女、そして緑の衣装を纏った女性が異議を申し立てる。
思わずマシュが心臓を抑えていると、エミヤ、アタランテ、クロエと言う少女は藤丸に詰め寄った。
「アーチャー代表で、なぜ私を選ばなかったんだ!? 私は星4の中でも扱いやすく、さらに原作を始め、各作品にも出ている有名どころだと思うが!!」
「私なんて、宝具レベルMAXにまで育て上げただろう!! クイック性能においてはアーチャーの中の誰よりも強いと自負してもいい!!」
「私だって、配布だけど『プリズマイリヤ』のサーヴァントよ! 『空の境界』なんかとは訳が違うわよ!!」
それぞれ自分が如何に優秀かを自己アピールしている中、リズは首を傾げる。
「空(そら)の境界?」
「リズ、呼び方は“から”だ。空(から)の境界な? 浅上藤乃は、その作品の登場人物だ」
それなりの人が勘違いする事項を、やんわりと訂正を入れるスズノヨミ。
空の境界――Fate作品を作った原作者が手掛けた作品の一つ。その作品がFGOとコラボとして、イベントも開始された。
彼女はその復刻…二回目のイベントの際に、新サーヴァントとして登場したのだ。本命は別にいたのだが、なぜかゲット出来た。尚、彼女はそのイベント以外今までガチャでは一切登場していない。星4ではあるが、もはや超レアとも呼べる存在である。
ちなみに『空の境界』がどんな話か……グロに耐性があるなら大丈夫でしょうと言っておきます。
「はいはい、マスターを困らせちゃ駄目ですよ。選考漏れした星4のエースの皆さんはあっちに行きましょうねー?」
やけに可愛らしい少年の声が聞こえると、エミヤ、アタランテ、クロエの体に金色の鎖が巻き付かれる。
鎖の先には、金髪の少年がニコニコと笑いながら、周りの空間から鎖を出している。
「「「こら、まだ話は終わって――!」」」
それでも文句をぶつける三人に、少年は鎖を引っ張って無理やりその場を離れていく。
力技でこの場を収めた少年に、リズの興味はそちらに映った。
「誰あの子?」
「ああ。お前らが戦いたいと言っていたギルガメッシュ――の、子供の頃の姿。別名子ギルだ。ちなみに、こいつは星3だ」
「大人のボクの話は止めて貰えませんか? 今のボクはあんな野蛮な性格なんてしてません」
スズノヨミの説明に、ギル…いや、子ギルはむーっとふくれっ面を見せる。
どこからどう見ても礼儀正しく言葉遣いも丁寧な少年だ。だからこそ、リズ達は目を丸くした。
「はああああああ!!? あれがギルガメッシュ!?」
「何て言うか、アルトリアといいこいつと言い、子供の頃がまともなのに大人になると変わっちまうんだな…」
「逆にお前らはなんで子供の頃からそんな破天荒な性格なんだろうな?」
リズとムーンの台詞に、思わずツッコミを入れるスズノヨミ。
「ははは。子供ってのは純粋であり無邪気だからね。と、星3でも十分に使えるこの僕はアーチャーのダビデさ。ちなみに、このカルデアにはいないけど『メディア・リリィ』と言うそれはもう純粋で可憐な少女のサーヴァントが」
「ルールブレイカーっ!!!」
「アビシャク!?」
どこからか杖を持った緑の青年――ダビデが現れたと思ったら、背後から黒い影が近づいて頭にナイフが突き刺さった。
ダビデを殺った犯人は誰なのか…もはや分かる人は分かるだろう。
「先輩。キャスターであるメディアさんの乱入を皮切りに、アーチャーの皆さんが仲間割れを起こしつつあります」
「アーチャークラスの星3は破格の高性能スペックを秘めているからなぁ」
ワーワーと関係ない所で戦いが始まってしまう光景に、藤丸の目も虚ろになってくる。
アーチャークラスは低レベルでも侮るなかれ。金枠でも劣らずの高性能を秘めているのだ。
例えば先ほどの子ギル。彼のスキルは有能で、宝具を発動させればダメージすら減らせる。エウリュアレと言う女神のサーヴァントも、育てると男性に対して高いダメージを与える。5章までに限界まで引き上げないと、6章は彼女がいないと苦戦どころか詰むくらいだ。そしてダビデ、彼のサポートは本当に章が進んでも役に立つ。育てておくべきサーヴァントだ。
他にも…と言うか、アーチャーのキャラはほぼ全部が高スペックである。低レア=弱いという図式でないのもまた、FGOの魅力である。
「アーチャー代表として選ばれたからには、精一杯頑張らせて頂きますね。余所から来た者同士です、お手柔らかにお願いします」
「あ、はい。よろしくお願いします」
これから戦う相手に敬意をもって接する藤乃に、グラッセも反射的に頭を下げる。
そして、キーブレードを取り出した所で、ふと違和感に気づいた。
(あれ? 武器を何も持ってない?)
こちらが武器を準備したのに、藤乃はそう言った素振りを何も見せない。
アーチャーとは『弓』を意味する。サーヴァントならば弓、もしくは投擲系の武器を扱うと考えればいいだろう。だが、彼女の手も、周りにも、そう言った類の道具は見受けられない。
首を傾げるグラッセに、藤乃はゆっくりと目を細める。
「それでは…」
小さく呟くと同時に、リズがとっさに叫んだ。
「グラッセ、避けろ!」
「――“凶れ”」
藤乃の目の瞳孔が開くと同時に、グラッセも周囲の異変に気付く。
反射的にその場から離れると、破裂音がなって衝撃が襲った。
「なっ、何が起きたんだぁ!?」
「あまり、せわしく動かないでください…」
逃がさないと言わんばかりに、再び目を見開いて何らかの力を収束させてグラッセに襲い掛かる。
何の武器も持たずに敵を追い詰める藤乃の戦い方を、リズとムーンは控えのベンチで観戦していた。
「空間を操っている…って感じかしら? いや、空間を捻じる事であんな破壊力を出せるのかしら?」
「武器を使うとかじゃなく、目で捉えて能力を発動させる感じだな。そうなると、あの女の視界全てがリーチって事か。こんな敵見た事ねーな」
「何呑気に分析してるの!? てか、この作品ぐだぐだな割になんで俺本格的に戦ってる羽目になってるのー!?」
幼なじみ二人にツッコミを入れつつ、防ごうとするグラッセ。だが、どう言う訳か襲い掛かる攻撃は防御をすり抜けて的確に抉りに来ている。
「流石は浅上さんです。魔眼の能力で、相手の防御をすり抜けて攻撃しています」
「確かにエミヤもアタランテもクロエも強いんだが、うちのカルデアでアーチャーのアタッカーとして活躍しているのは藤乃さんだからな」
「空の境界でも、アニメでは屈指の戦闘描写していたからねぇ。グロ満載だから、見る人を選ぶが。あと場合によっちゃホラーも交じるか」
「藤乃さんは、ああ見えて悪属性だからねぇ…」
魔眼と呼ばれる方法でグラッセを追い詰める試合に、マシュと藤丸とスズノヨミは冷静に解説をする。
浅上藤乃。彼女は『歪曲の魔眼』と言う視たものを捉えて捻じ曲げる能力を持っている。物、人、空間…対象がなんであろうと関係なくだ。
「こ、こうなったら!! ブライン!」
「え…! くっ、これでは…!」
解説の発言を聞いていたのだろう。グラッセは暗闇の魔法を唱えて浅上の視界を暗闇で染める。
何も視えなくなった事で攻撃が出来なくなったのだろう。うろたえる浅上に、グラッセはチャンスを見出した。
「手加減なしだ、一撃で終わらせる!!」
「あ」
「メガフレアァ!!」
一瞬スズノヨミが声を漏らしたが、構う事無くグラッセは浅上を巻き込むように極大の焦土の炎をぶつけた。
コロシアム内の半分ほどが爆発し、砂埃が舞う。相手がサーヴァントとはいえ、宝具並みの威力の攻撃を当てたのだ。生きてはいないだろう。
「これで――」
「私の勝ちですね」
砂埃の中から、抑揚のない浅上の声が響く。
しかし、声とは裏腹に彼女は、確かにボロボロだ。服も破れ、傷を負い、血も流している。
死んでも――霊基消失を起こしてもおかしくないのに。彼女は息一つ乱れず、何事もないように立ち…グラッセを視界に捉え、周りの空間を捻じ曲げだ。
「げふぉ…!」
「ご安心を。これは試合のようなものですし、あなたは人間です…命までは、奪いません」
その言葉が終えると、グラッセは膝をついてその場に倒れた。
「勝者、藤乃さん!」
藤丸がジャッジを決め、試合は終了となる。
医療班はすぐにグラッセの回復を。浅上はと言うと、酷いケガにもかからずその場を立ち去っていく。
そんな浅上に、リズが声をかけた。
「ちょっと待ちなさい」
「なんでしょうか? お友達を痛めつけられて、怒っているのですか?」
「そうじゃない。あんたもしかして、痛みを感じてないな?」
リズの問いかけに、少し驚いた顔をする浅上。
「どうして、そう思うんです?」
「それだけの傷を負ってピンピンしているなんて、どう考えてもおかしいからよ。サーヴァントって奴でも、基本は人間と似た構造なんだろ。って事は、そういう事かなって」
「…ええ、まあ。鋭い観察力をお持ちなのですね。隠し立てする気もないので教えますが、あなたの言う通り。私は無痛症――五感を感じる事が困難です。その能力のおかげで、私はこうして動ける…と言っても過言ではありません」
浅上藤乃に隠されたもう一つの能力…『痛覚残留』。この能力のおかげで、限界が来ても彼女は動くことが出来るし、ある程度の痛みにも耐えられる体質なのだ。
「そっか、あんたは攻守ともに万能な相手だったのね。やっぱ世界は広いわ…まだまだ見た事無い相手が沢山いるんだから」
「ふふ、私もです。このカルデアは様々な出会いをさせてくれる…そんな場所です」
「他の相手も気になってきたわ。じゃ、私グラッセの所に行くから。あんたもちゃんと傷治しなさいよ、痛みを感じないとしてもボロボロなんだから」
「そうですね。お気遣いありがとうございます」
そうして、二人は背を向けてその場を立ち去る。
第二試合はサーヴァント勢の勝利となった。
■作者メッセージ
なぜなにFGOコーナー2
藤丸「マスターと!」
マシュ「後輩の!」
藤丸&マシュ「「なぜなにFGO〜!」」
藤丸「このコーナーも第二回! ガチャするための石が欲しいマスター、藤丸と!」
マシュ「前線もサポートもお任せな後輩、マシュがお送りします」
グラッセ「えーと、ゲストとして呼ばれたグラッセです。よろしくお願いします」
藤丸「じゃあ、今回の質問どうぞ」
グラッセ「あ、はい。FGOをやっているんですが、セイバーとかアーチャーとかクラスってあるんですよね。ゲームでいうと属性みたいなもので、相性があるって聞いたんですが…なかなか覚えられなくて」
藤丸「あー、あるある。初心者の頃とか、ワイバーン戦でライダーなのに、間違ってキャスター入れたりしたっけ」
マシュ「セイバーにはアーチャーが有効なのに、間違ってランサー入れたりしてましたね。おかげでクー・フーリンさんが死ぬ思いして叫んでました」
藤丸「よし、ならクラス相性について説明しよう。とはいえ、実は二種類存在するんだよな。だからクラスの相性、第一弾を紹介しよう」
マシュ「では今回は、セイバー・アーチャー・ランサーの相性についてですね。この三つの相性は、じゃんけんのようになっていまして…」
藤丸「まあ、手っ取り早くダ・ヴィンチちゃんが作成した『誰でもわかる、サーヴァントのクラスの相性! これで君も立派なマスターだ!』を見せればいいんじゃないか?」
グラッセ「なんですか、そのパチモン臭いDVDは!?」
藤丸「細かい事は気にしない! と言う訳で…スタート!」(ピッ)
ダヴィンチ「ダヴィンチちゃんが教えるクラス相性〜! ドンドンパフパフ〜! さーて、ゲームにおいて初心者なら知っておきたい有利に進めるクラス相性。覚えきれない、間違えちゃう〜って人もいるから、分かりやすく解説するよ〜。と言う訳でこのVTRをどうぞ!」
アルトリア『今日のご飯は唐揚げですか…彼の作る唐揚げは懐かしさがあります。では、いただきます。あー(ドンッ)ん!?』(箸で掴んでいた唐揚げが床に落ちる)
クー・フーリン『おっとわりぃ、当たっちまったか』
アルトリア『あ、ああぁ…か、からあげが…私の唐揚げが…!』
クー・フーリン『ん? なんだよ、唐揚げくらいでそんなになるかよ騎士王さま?』
アルトリア『くらい…唐揚げくらい、と言ったか貴様…!!』(聖剣所持)
クー・フーリン『え、は、ちょ!? 待て!? 食堂でそんなのぶっ放したら!』
アルトリア『唐揚げの恨み、思い知るがいい!! エクス…カリバーーーーーーーーーーーー!!!』
ダヴィンチ「このように、セイバーはランサー相手だと有利に取れる。槍(ランサー)には剣(セイバー)と覚えておこう」
クー・フーリン『あぶねぇだろうが、何しやがる!!』(ガッツ発動)
アルトリア『まだ生きているではないですか』(チャキ)
エミヤ『まあまあ、大丈夫だ。一個くらいならばすぐに作ろう』
アルトリア『本当ですか!?』
エミヤ『うちの食堂スタッフは有能だからな。それに引き換え…ケルトの英雄様は女心がまるで分かってないな。少しは君の師匠や愛を寄せてくる女王に教えて貰ったらどうだ』(ハッ)
クー・フーリン『おうやるか贋作野郎? 今日そこはその心臓穿ってやるぞああん?』(槍装備)
エミヤ『果たして幸運Eを持つ貴様に私の心臓が抉れるかな? 犬の如く生き延びるくらいでいい気にならないで欲しいな、星3サーヴァント。トレース・オン』(剣を投げつける)
クー・フーリン『小賢しい!!(剣を全て弾く) てめえが回避スキル持ってようが俺には全く効かないからなぁ!! 今日と言う今日は死にやがれぇぇぇ!!!』
ダヴィンチ「このように、クー・フーリンはエミヤの攻撃を無力化している。ランサー(槍)はアーチャー(弓)に有利だと言う事だね」
エミヤ『ぐ、う…!』(膝をつく)
クー・フーリン『おう、やーっと追い詰めたぜ…一回死んどけぇ!!』
エミヤ『こ、こうなれば…セイバー! 奴を倒したなら、唐揚げを倍増するぞ!』
クー・フーリン『あ、てめ! 卑怯だ『エクスカリバーーーー!!!』ぎゃあああああああああ!!?』(霊基消失)
アルトリア『大丈夫ですか、アーチャー?』
エミヤ『ああ、もちろんだ。約束通り、唐揚げを倍増しよう。すぐ作るから待っていてくれ』
アルトリア『もちろんです! 待っていますよ、アーチャー!』(笑顔)
ブーティカ『やれやれ。君の料理となると、アルトリアは素直に言う事聞くねぇ』
エミヤ『まあいいさ。料理を出す身としても、悪い気分ではないからな。それに、何か騒動を起こしても私の料理一つで収めてくれるからな』
ダヴィンチ「弓(アーチャー)は剣(セイバー)に強い…こんな相互関係が、セイバー・アーチャー・ランサーさ。次はライダー・キャスター・アサシン、バーサーカーの説明に進むよ! てなわけで、続く!」