第六試合(アサシン)
「全く…何を考えているんだ、あのマスターは…」
「あらあら。顔が怖いわよ、フードさん」
「君か…」
「これは命の取りあいじゃない。もっと気楽になってもいいんじゃないかしら?」
「………」
「納得しない、って顔ね」
「そうね…だったら――」
「さーて、第六回戦! ここで勝てば、リズ達の優勝は確実だ!」
英霊勝負もこれで6回目となり、慣れたのか藤丸が試合開始の合図をする。今の結果は、リズチームが3勝、カルデアチームが2勝と言う結果だ。ここでリズ達が勝利を取れば、自動的に勝利となる。
現状を伝えると、マシュも続けてマイクを持って放送をする。
「この試合で戦って貰うのは、暗殺に特化したクラスのアサシン。我がカルデアのアサシン枠の最強は、この方…」
コロシアム内に入ってきたのは、黒い服に赤い外套を纏った、白い髪に褐色の男。彼は指定の位置まで無言で歩き続ける。
「エミヤさんです!」
「エミヤ?」
「エミヤってアサシンでもあるのかー」
「クーフーリンとかアルトリアと同じなのねー」
「言っておくが、アーチャーのエミヤとこのエミヤは別人だからな?」
マシュの説明にグラッセ、ムーン、リズが後ろを向いて会話すると、すかさずスズノヨミが訂正を入れる。
アーチャーのエミヤとアサシンのエミヤ。一体どう違うのか……ぶっちゃけると『Fate/zero』を見た方が早い。
「で、そちらの対戦相手は誰だい? さっさとこんな遊びじみた事は終わらせたいんだ」
「ま、順番から考えたら俺だろうな」
エミヤの問いかけに、前に出てきたのはムーンだ。
右腕を軽く回しながら体をほぐしつつ、エミヤと向かい合う。
そんな光景を観客席から眺める人達がいる。
「ふーん…あの人が出るんだ」
「不満そうだな、クロエ。嫌ならここに来なければいいだけの話じゃないのか?」
「べ、別にいいでしょ! あなたこそ、こんな最前列にいないでキッチンに戻って料理してればいいじゃない!」
「にゃー! やってしまえ、アサシンのエミヤー! そんな奴らバラバラにしてやるにゃー!」
それぞれ反応は違うが、クロエ、エミヤ、そしてジャガーマンの三人が最前列を陣取って今か今かと戦いを心待ちにしている。
逆に最後列では、ある団体が一塊になってコロシアム内にいるエミヤに注目している。
「やれやれ。たかが戦闘に凄い賑わいだな」
「ええ、残念ね。リズとか言う女性が出るなら私が有利だったのに。で、あなたは良かったの? 因縁ある相手が出たのに、自分は補欠扱いされるとか」
「それはあんたの方だろ、カーミラさんよ。そもそも俺が出た所でどうにもなんねーよ。直視の魔眼使った所で、ギリギリの所で避けられそうな気配してるからなあいつら」
文字通り一歩所かかなり後ろから引いた会話をしているのは、両儀式とカーミラだ。
アサシンクラスでは数少ない一軍であるが、式の能力は高確率の即死効果。そしてカーミラは女性に対してならば高い攻撃力で圧倒する。この試合では相性が悪いので、メンバーとして外された。
「対人戦ならば、ジギル殿にお任せした方がよろしかったのでは?」
「君の言う通り、僕の宝具は強化効果だ。けれど、僕自身あいつにはむやみやたらになりたくない。マスターもそれが分かってるから、エミヤに任せたんだろう」
同じように話すのは、忍者と知的な男性と言う両極端な二人の男性…風魔小太郎とジギル・ハイドだ。
そろそろ試合が始まる。ジギルは眼鏡を上げながら、コロシアム…ではなく、解説席にいるマスターへと視線を向ける。
(けれど…こう言った一対一での戦いは僕が、ハイドが向いている。マスターはどうしてエミヤを選んだんだ? 万が一殺しそうになっても、令呪で止めればいいだけの話なのに…)
式やカーミラに比べれば、特化した能力が効かない相手では確かにエミヤに分がある。けれども、自分や小太郎だって負けてはいない筈だ。
悶々とジギルが考えている間に、藤丸は試合開催の合図の為に手を振り上げた。
「それでは…スタート!」
「ふっ!」
開始と同時に、ムーンに対してエミヤがナイフを幾つも投げる。先制攻撃を仕掛けたエミヤだが。
「邪魔くせぇ!!」
なんと、飛んできたナイフをキーブレードで地面に叩きつけると、その衝撃で全て弾き飛ばしてきた。
「くっ!」
すぐにエミヤは後方に引き、ガトリング銃と取り出してムーンへ焦点を合わせる。
狙いを定め、引き金を引く。その動きは手慣れているので無駄がない。
「ダークブロック!」
だが、無数の弾丸は目の前に黒い箱型の盾を作る事で防ぎきる。
「からの――ダークドロップ!」
なんとそのまま強力な回し蹴りをぶつけると、箱が破壊されて破片がエミヤへと襲い掛かる。思わぬ反撃にエミヤもたまらず後退する。
その隙を狙い、ムーンが強力な一撃を叩きこむ。防ぐ術がないエミヤはその攻撃をモロに喰らってしまう。
「ちぃ…!」
どうにか立ち上がるが、ムーンの攻撃に舌打ちを叩きつつ、攻撃を仕掛ける。しかし、ムーンはそれを力づくでねじ伏せて、反撃を繰り返す。
暗殺者は影から対象を始末するのに特化している為、真っ向勝負には向かないクラス…体力も力も高いムーンとの相性は悪すぎるのだ。
更に言えば、エミヤには敵の攻撃を回避するスキルがない。力押しでどうにでも出来てしまう相手だと、出来る事がほぼない。
(ここらが潮時、か…)
エミヤは銃のリロードをしながら、ふと後方に――ある人物に目を向ける。
心が痛む。無いはずの記憶が呼びかけている。
僕は、『誰か』を戦いの前線に出した。英霊だけでない…『誰か』すら駒(おとり)として、敵を殺す。卑怯とも呼べる勝ち方をする為に。
けれど…囮にした『誰か』は、笑って受け入れてくれた…かも、しれない。
心が更に痛む。けれど、なぜだろう。
その痛みは…今だけは、必要な気がする。
「“今度”は…僕の番、か」
それは、無意識に呟いた言葉。意味など本人にすら分からない。
けれども、エミヤは理由を考える事もせずに、目を見開きあるスキルを発動する。
(なんだ…急にあいつの事が見えるようになったぞ!? いや、あいつだけしか見れない…!)
ムーンだけでない。この場にいる全員がエミヤに視線を、注意を強制的に向けられる。
『スケープゴート』――ターゲット集中効果。この間は、エミヤ以外に視線を向ける事が許されない。
これは一対一の対決、相対するのはただ一人。なのに、なぜ彼がわざわざこれを行ったのか理解が出来ない。
「――上等だ!!」
ムーンはあえて、エミヤの策に乗って大技を出す準備をする。
観戦席の藤丸も固唾を呑んでいると、視線を外せないままマシュが不安を浮かべて声をかけた。
「先輩…! エミヤさんは一体何を…!」
「分からないよ。けどさ」
マスターたる彼は、ナイフを構えるエミヤを見て断言する。
「エミヤにはエミヤなりの考えがある。だったら俺は…それを信じる」
机の上に置いた手をギュっと握る藤丸。その目はサーヴァント達を、仲間を信じる目と同じだ。
「卑怯な策でも、英雄とはかけ離れた戦い方でも…俺達がここにこうしていられるのは、エミヤのおかげでもあるんだからさ」
自分達は解説者と言う立場。公平に見つつも、マスターの信頼がマシュにも伝わる。
エミヤのスキルのせいで、藤丸の顔を見る事が出来ない。それでも、特異点を旅している時と同じ顔をきっとしている事だろう。
マシュが納得していると、コロシアムで闘気が爆発する。
「こいつで…終わりだぁ!! ダークオーラァ!!」
闇を纏い、ムーンがキーブレードで力の限り突進する。
突き抜けてはワープし、周りから放たれる彼の怒涛の連続攻撃は。
全て、エミヤに直撃した。
「「あ…!」」
クロエとエミヤの顔が蒼白になる。トドメとばかりに、ムーンが地面から大量の衝撃波を出してエミヤを巻き込んだ。
この光景に、気づけば二人はコロシアムへ降り立とうと駆け出していた。
「待て」
その二人の行く手を黒い聖槍で妨害したのは、アルトリア・オルタ(槍)だ。
急に止められて、クロエが叫ぶ。
「止めないでよ、アルトリア! そこをどいて!」
「お前達、まだ気づかないのか?」
クロエの渾身の怒鳴り声にも繭一つ寄せず、彼女はエミヤを見据えたまま愛馬に騎乗しながら言う。
「真っ先に駆け付けるべき女が、なぜ“この場にいない”のか」
この問いかけに、クロエとエミヤが目を見開く。
「それにあいつは英雄ではない。そんな男が――」
「さあ、ついてこれるか――」
「何の策もなしに、負けの勝負に挑む訳ないだろう?」
ムーンの目の前に、ボロボロながらもエミヤが姿を現す。
動体視力に優れたサーヴァントでも簡単には見えない、高速移動――固有時制御(タイムアルター)による、超連続攻撃をぶつける。
「うわあああああぁ!!?」
「時ある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)!」
ナイフで無数に斬り刻ざみ、ムーンの背後に移動する。
手に持つ銃で背後から引き金を引き、銃弾を貫通させた。
「「ム、ムーン!?」」
銃弾が最後の一撃となったのだろう。ムーンはそのまま膝をついて倒れてしまう。
この結果に、藤丸は立ち上がって宣告した。
「勝者――エミヤ!」
この逆転とも言える勝利に、歓声が起きる。
グラッセはすぐにムーンへと駆け寄って回復しながら、立ち去ろうとするエミヤを見る。
「い、一体何が…」
「あんた、何をした? いや…何をさせた?」
まるで仕込んだタネがあるだろと言わんばかりに、リズが睨みつける。疑いかかるリズに、エミヤは無表情で振り返る。
「卑怯と思うか? なら、それがお前の敗因だ」
「んだと――!」
悪びれもしない彼の態度に、リズが喰ってかかろうと踏み出す。
直後、エミヤに向かって三人の女性――アイリ・ジャガーマン・クロエが一斉に抱き着いて押し潰した。
「やったわね、フードさん!」
「ニャー! これぞ大・逆・転の勝利!! ジャガーは信じてたニャー!」
「あはは! やったやったー! うん、やっぱりどんな勝利でもこうして勝ってくれると嬉しいものだわ!」
わいわいと、自分が勝ったかのように祝福する女性達。その後ろでは、エミヤは静かに腕を組んでアルトリア・オルタに話しかける。
「ふっ…アルトリア。今日はハンバーグを作ろうと思うのだが」
「好きにするがいい。私には関係ない事だ」
さっきまでの殺伐とした空気が一変し、朗らかになってしまう。リズは握った拳を解いて、彼らから背を向けた。
「…グラッセ、ムーンの回復しましょ」
「いいのか? だって、あの人は違反をしたんじゃ…」
「次で勝てばいい話よ。それに……あんな仲の良い家族の姿を見せられたんだもの。そんな気も失せるわよ」
どこか羨ましそうに呟きながら、リズはムーンを担いでベンチへと戻っていった。
「…あの、先輩。よろしかったのでしょうか?」
「何がだい、マシュ?」
「エミヤさんが…いえ、アイリさんが行った方法です。いくらエミヤさんに気を使っているとは言え、流石に試合においては違反行為ではないですか…?」
このコロシアム内には、監視カメラを取り付けている。いくらエミヤが全員の目を向けさせても、解析すればバレてしまう。
選手用の通路。その奥に、アイリスフィールがいた。彼女が宝具『白き聖杯よ、謳え』を使い、エミヤに復活(ガッツ)をつけさせたのだ。
目隠しを行ったとは言え、きっと一部のサーヴァントはこの事に気づいているはずだ。報告をするか迷うマシュに、藤丸はただ笑って見せる。
「確かにさ。でもさ、マシュ。アサシンってのは真正面から勝てる戦いには向かないクラスだろ。だから、裏で戦いやすいように工作・妨害を行っている。それに…」
すっと藤丸が指を差す。
そこには、いまだに笑顔を浮かべる女性達と温かく見守るエミヤとアルトリア・オルタ。エミヤは迷惑だと言う顔をしながらも、引き離したりはせずにされるがままになっている。
「この勝負で俺は…俺達は、エミヤに勝って欲しかった。こんなわがままなマスターでごめんな?」
「もう…先輩、今回だけですよ?」
「うん」
■作者メッセージ
なぜなにFGOコーナー4
ムーン「と言う訳で。みんなを呼んできたぜー!」
リズ「よろしくお願いしますー!」
グラッセ「礼装もとい、カードか…俺達のカード楽しみだなー!」
マシュ「では、礼装作りを始めましょうか」
藤丸「はい。ダヴィンチちゃんに作って貰った礼装用の白紙のカード。これに念じて作ってみて」
グラッセ「じゃ、俺から行きますね。ぐぬぬぬぬ…!」
リズ「あ、何かカードにイラストが浮かび上がってきた!」
ムーン「おお! これは…!」
グラッセ「俺とリズとムーンが一緒に武器を構えてるイラストだ! 効果は…攻撃力・防御力・魔力アップ!?」
マシュ「中々強いカードですね。FGOで言うなら、カード性能アップ効果です」
ムーン「こう言うの面白いな! 次は俺だな! ぬぬぬぬぬ…!」
リズ「あ、ムーンも何か浮かび上がった!」
グラッセ「これは…ウラノスさんとラックさんとジェダイドさんが遺跡のトラップにかかったイラストですね」
リズ「効果は…素早さ&回避アップ。イラストらしいと言えばらしいけど」
藤丸「うーん、少なくとも俺の世界では使えなさそうにないなぁ」
リズ「最後は私ね! おりゃああああああ!!」
ムーン「お、何か浮かび上がって……こ、これは!?」
グラッセ「何が…こ、これは!?」
マシュ「えーと……何でしょうか、この黒い物体は…?」
藤丸「えーと…何だろう、カーミラが作ったチョコが思い浮かぶんだけど…!?」
リズ「あ、暗黒物質…かな? えーと効果は…即死効果付与!?」
ムーン「ああ…暗黒物質なだけに…」
グラッセ「最後の最後に変なの作ってどうするんですか…これレア度低いし」
藤丸「まあまあ。せっかく作ったんだし、試しに使ってみるか。槍ニキー、ちょっとこれ(暗黒物質礼装)つけて修練場回ってー」
クーフーリン「俺かよ! いいけど…大丈夫かこれ? どこぞの麻婆と同じで嫌なんだが俺…」
藤丸「そう言いつつつけてくれる槍ニキは男前だよ! じゃあ…弓の修練所、超上級で」
クーフーリン「おう! ちょっくら行ってくるわ!」
そして――
クーフーリン「おらぁ!」
敵「バシュ!」(即死)
クーフーリン「せいっ!」
シャドウサーヴァント「バシュ!」(即死)
クーフーリン「喰らいなぁ!」
サーヴァント「そんな…」(即死)
クーフーリン「………うそだろ、おい…! サーヴァントまで一発で倒したぞこの礼装…!」
リズ「いやー。さっすがレイシャ達の暗黒物質だわーあはははは」
グラッセ「笑ってる場合か!? なんて装備品を作り出したんだお前はぁぁぁ!!!」
藤丸「……マシュ」
マシュ「な、なんでしょうか、先輩…?」
藤丸「この礼装があれば、異聞帯も簡単にクリア出来るかな?」(虚ろな目)
マシュ「先輩!? 正気になってくださーい!!」