ミドルフェイズ3(後編)
敵意を見せて動いていたにゃんタンは糸が切れたように動かず、シキもうめき声を上げて倒れたままだ。
そんな一人と一匹(?)を空は何の感情も浮かべず見下ろすと、そのまま背を向けた。
『…トドメは刺さないぜ、無駄な殺生になるからな』
そう空は呟き、作り出した大剣を再び液状の血に変換すると空気に溶かすように消していく。
こうして戦いが終わると、離れた場所から凍矢が走って近づいた。
『ようやく終わった…それより大丈夫ですか!?』
『おいおい、俺はブラム=ストーカーだぞ? 怪我してなんぼの力だろ…って、お前はそう言う事まだ知らないのか?』
『は、はい…恥ずかしながら』
『ま、その内知るだろ。そん時は忘れないように頭に叩き込んどき、なっ!』
馬鹿にしたように言うと、凍矢の額にデコピンを放つ。容赦なく叩かれた所為か、凍矢は思わず頭を押さえてよろめく。
そんな二人を月は横目でチラ見すると、シキに近付きその場でしゃがみこんだ。
『シキ、俺の話聞くか? 聞かないならこれ以上酷い目に遭うぞ?』
『それ脅しじゃない…分かった、ちゃんと聞くよ…』
『実は今俺達は――』
そうして、月はこれまでの説明を始める。
一方、翼も傷だらけの卯月の元にしゃがみこんだ。
『八代さん、狩谷さん達もすぐに来るから。それまで大人しくしてね?』
『アンタ…何でUGNと一緒に行動してるのよ? あいつら敵でしょ…!』
『ボクらブラックスカル団は、与えられた任務はどんな事をしてでも遂行するんでしょ? だからボクは同じように犯人を追ってるUGNの人と協力してるんだよ。それに月は友達だしね』
『あーもー…! そんなのバレたら、アタシの昇進にも響くじゃない…!』
怪我の所為か、苛立ちを露わにするだけで卯月は手を出そうとしない。そんな卯月に、翼は少しだけ踏み込んでみた。
『八代さん、実は狩谷さんの事好きなの?』
『ハァ!? なな、何でそうなるのよ!! 大体、レネゲイドビーイングのアンタに何が分かるのよ!!』
『あはは…ごめんごめん。でもさ、そんなに無理しないでよ。八代さんの頑張りは分かるけど、それで倒れたりいなくなったりしたら狩谷さん悲しむよ? もちろん、ボク達を含めたみんなもさ』
『…アンタなんかに、何が…』
その時、上書きされるように別のワーディングがその場に張られる。
『これは!?』
『いやはや、そのまま同時打ちしてくれれば良かったのに。先程のUGNとFHのようにさ』
凍矢が驚いていると、知らない少女のような声と共に離れた場所に空間が揺らぐ。
そこに現れたのは二人の黒コートの人物。背丈から判断するに一人は子供で、もう一人は大人のようで、その手にはトランクケースが握られている。
大人の方は四人とも見覚えがある。敵だと分かり、月は警戒態勢に入る。
『お前ら!』
『あまりにもしつこいから上手い具合に対立させたのに、結局邪魔される。醜い感情を露わにし潰れる瞬間が一番面白いって言うのに……君もそう思うだろ、七雲空?』
『お前、誰だ? どうして俺の名前を知っている?』
『“彼女”から聞かせて貰ったのさ。どうだい、“シューテングスター”。久々の再会は?』
そう言うと、子供は背の高い方へと振り向く。
『………』
しかし、声をかけられたにも関わらず、女性は何故か黙ったまま空を見ている。
クウ「GM。俺は彼女と顔見知りのようだが、何か感じる事とか出来るか?」
GM「現段階では出来ないかな。君が知るであろう人物は現在、《失われた隣人》の効果で認識出来ない状態だ」
ツバサ(《失われた隣人》…確か、オルクスのエネミーエフェクト…! オルクスが混じっているとなると支援は確実と言う事は今回の敵は攻撃型と支援型の両方を相手しなければいけないそうなると月と空とボクで一方を早急に倒す作戦で行くべきかいやもう片方はハヌマーン持ちだから行動値を上げるエフェクトで真っ先に攻撃されるだろうしそうなるとこの二人の対策は)
GM「……何だろうね、ツバサからノイマンに負けず劣らずの思考を感じるんだが…?」
『空さん、知り合いですか?』
『分からねぇ…くそ、お前誰だ?』
凍矢の問いに答えられず、睨みつける空。そんな二人の様子を見て、子供の方がせせり笑う。
『ははは…分からないか。まあだが、君もこれで満足しただろ? さあ、これ以上無駄な時間を過ごす訳にはいかない。さっさと準備に取り掛かろうじゃないか』
『ええ…“スター・キラー”』
『逃がすかぁ!!』
逃げようとする二人に、再び空が血を使って大剣を作りだす。
だが、武器を作り終えると同時に二人の姿はその場に溶け込むように掻き消えてしまった。
月「ど、どういう事だ!?」
SM「スター・キラーの持つエネミーエフェクト、《見えざる道》よ」
『そこにいるオーヴァードになりたての子供に興味があったが、君の憎悪にも興味が出たよ。君らが人の縛りを断ち切った時が楽しみだ!』
『ど、どう言う事だ!?』
『凍矢、意味ないよ。相手はもう逃げた――ここは一旦戻ろう、怪我人をこのままにしておけないし』
辺りを警戒する凍矢の腕を引っ張り、今後の事について翼が算段を立てる。
とりあえず敵が引いた事は分かり、月は改めてシキを見て手を伸ばした。
『だな…シキ、立てるか?』
『う〜…ちょっと厳しいかも…』
『そうか。じゃあおぶるか』
『ええっ!?』
『怪我させたんだから、それぐらいしないと駄目だろ? ほら、暴れるなよ』
『ちょ、ちょっとムーン!?』
突然の事にシキが慌てるが、無視するように月は彼女を背中におんぶする。
無理やりおぶられて暴れるシキ。しかし、月はパワーでは負けないキュマイラだ。相手をするには分が悪い。
こうしてシキを上手く抑え込むと、羽狛達のいる店へ向かう。凍矢も二人に続いてその場から去ると、空は冷めた目で笑いだした。
『ハッ、ガキは青春楽しんでら』
『八代さんはどうする? もうすぐ狩谷さん達が来るけど』
『い、いいわ! これぐらいあたし一人でも――!』
『一人でどうするんだ、卯月?』
声のした方を向くと、《ディメンジョンゲート》と共に狩谷が現れた。背後には777達のバンドメンバーもいる。
『っ! 狩谷…!』
『ったく、こんなに無茶シテ。ほら、一旦帰るゾ』
『お…俺、おぶります! いえ、おぶらせてください!』
その途端、何やら激しくBJが申し出る。挙手までするほどに。
『いいわよ! これ以上あんたの迷惑にはなりたくないの!』
『やれやれ…卯月、話はセーフハウスで聞ク。だからここは言う通りにシロ』
『八代さん、ここは言う通りにしようよ? 狩谷さん、困ってるよ?』
『わ、分かったわよ…』
狩谷と翼の説得により、卯月は渋々ながらも立ち上がると《ディメンジョンゲード》を開けて一人で中に入り込む。
こんな時でもプライドが高い卯月に苦笑を漏らし、狩谷は再び自分用のゲートに入って戻る。どうやら拠点であるセーフハウスに繋がっているようだ。
狩谷が入ったのに、ゲートはまだ具現化している。残りの人達の事を考えて開けたままにしてくれたようだ。さっそく翼が入り、次に落ち込むBJを宥めながらテンホーが入る。777も入ろうとした所で、未だ動かない空へと声をかけた。
『空も戻ろうぜ。《ワーディング》は解かれちまったし、あちこち怪我してるぞ』
『…ああ』
生返事を返したからか、777は不安そうに空を見てからゲートに入る。
ようやく空もゲートに向かって歩き出すが、もう一度だけ敵がいた方へと振り向いた。
『――シューティングスター、か。誰なんだよ…本当に』
疑問を呟くが、答えは当然返っては来ない。何とも言えない思いを抱えながら空はゲートに入ってその場を去った。