クライマックスフェイズ4
グラッセ「ムーンが終わった事で、再度俺の番です! 俺もマイナーは放棄! メジャーで《癒しの水2》と《狂戦士3》を空さんに使います! 浸食率は119%です!」
回復
2D+3→15
クウ「HPは30か…星華に攻撃するとして、確実にカウンター使われる。出目が悪いから余裕って思っていたけど…」
ツバサ「もう、分からないよね…スピカさんのダイス運、極端に良くなったり悪くなったりだもん。ついでにベルの《支配の領域》もあるし」
SM「あら? かかってきてもいいのよ?」
クウ「――ここまで来たんだ、やるしかねぇ!! 俺の番! マイナーで《赫き剣3》、《破壊の血4》。メジャーで《コンセントレイト3:ブラムストーカー》、《鮮血の一撃2》。更に《始祖の血統3》も組み合わせてもう一度星華を攻撃だ。ダイス数は支援合わせて31個、達成値無し、攻撃力19、浸食率は113%、HPは17、C値は6だ!!」
GM「ヤバイ…これだからブラム=ストーカーって馬鹿に出来ないんだよ。しかも凍矢の支援と戦闘用人格でダイスも増えてるし…」
ツバサ「ダイス運が悪くなければ、火力が凄い事になりそう」
SM「こっちだって負けないわ。最後の《カウンター2》発動! 先程と同じ《コンセントレイト3:エンジェルハイロゥ》、《主の右腕3》、《コンバットシステム1》、《ガラスの剣3》よ。私のダイス数は9個。達成値は無し、攻撃力は20よ」
クウ「来いよ、返り討ちにしてやらぁ!!」
GM「なら、遠慮なく《支配の領域2》発動させて貰うよ!」
対決判定(《支配の領域》発動後)
空27D+3(C値6)→34
星華9D+5(C値7)→46
グラッセ&ムーン&ツバサ「「「クウ(師匠)ーーーーーーっ!!?」」」
SM「ふ、勝ったわね!」
GM「これがオルクスの力だ」
クウ「……うそ、だろ…!?」
グラッセ「お、俺達のダイス運が…!!」
ムーン「何でだよ…この人他人の幸運を根こそぎ吸収する体質か…!?」
ツバサ「もう、ダメだ…これ、終わりだよ…!!」
SM「さーて、ダメージの判定ね。装甲を合わせて、27以上あれば戦闘不能よね」
クウ「あ、終わった…」
ダメージ判定
5D+20→41
クウ「ええい! 狩谷のロイスをタイタス昇華して復活だ!!」
GM(…ハハハ、これ大丈夫か…? 四人ともまだ『あの事』に気づいていないし、クウに至ってはDロイスの効果でバックトラックのダイスは一個分無くなる。GMとしては、少しマズイ気がする…! 仕方ない…予定より早いが、“あれ”をするか…!)
手を振り上げ先程よりも大量の血を纏わせ、再び刃を作り出す。
だが、今までと違って出来上がったのは、細く長い持ち手の先に曲がった巨大な刃…赤き大鎌だった。
『大剣が大鎌に変わった!?』
『うぉらぁ!!』
いつもと違う武器に凍矢が驚く間に、空は大鎌を振り上げて駆ける。
そのまま、立ったまま剣を構えない星華へと刃を振るう。
『遅い』
それは交差した一瞬の出来事だった。
星華の背後で、刈り取った体制で空は鎌の切っ先を下している。対し、星華は全く動いていない。
斬られていたのは――空の方だった。
『な、に…?』
『空さん!?』
『そんな!?』
背中を斬られ倒れる空に、凍矢と翼が悲鳴を上げる。
だが、倒れる寸前で大鎌を杖代わりにして再び立ち上がった。
『まだだ…新しいボスから任務を言い渡されているんだ…! ちゃんと、遂行する為にも寝てられるか…!』
『その赤い目、その血に染まった体…どうしてかしら、凄くゾクゾクしてくる。欲しい、その赤が欲しいわ…!』
『お前…そんな性格だったか…!』
異常に血を求める星華に、空は力なく笑いながらも気味悪さを覚えた。
ムーン「次は俺の番だ!! マイナーでベルのエンゲージに入る! メジャーで《コンセントレイト3:バロール》、《漆黒の拳3》で攻撃だ! 浸食率は109%! ダイス数は支援含め21個、攻撃力は14、更に装甲無視だ!」
ツバサ「更に《支援射撃4》発動! 月のダイスを25個にするよ! ボクの浸食率は134%!」
命中判定
25D+5(C値7)→39
GM「僕は――リアクション放棄であるエフェクトを二つ発動させる。ムーン、先にダメージを振って」
ムーン「え? あ、ああ」
ダメージ判定
4D+14→42
ムーン「よっしゃ!」
GM「僕が発動したエフェクトは《領域の盾3》と《領域の守護者》だ!! この二つを使い――離れたエンゲージにいる星華をこちらのエンゲージに引き戻し、無理やりカバーリングさせる!!」
四人『…エ…』
『喰らい、やがれぇぇ!!!』
完全に獣と化した腕を振るい、月は漆黒の鉤爪でベルを鎧ごと引き裂こうとする。
『舐めるなぁ!!』
ベルは琴の糸を操り、自分の方へと引っ張る。
何かしようとしている。月は獣の如く直感で感じ取り、思いっきりベルを引き裂いた。
感触はある、当たった。しかし、爪で切り裂いたのは…糸に絡まった状態で前に差し出された星華の身体だった。
『なっ…!』
『か…はっ!』
『星華…星華ぁ!?』
ベルに攻撃が通らず、しかも星華を使って防がれた事に強張る月と空。
星華につけられた明らかに致死量になりえる出血に傷。今まで見た事ない悲痛の光景を目の前にし、知らない内に凍矢も震える。
『仲間を無理やり盾にした…!!』
『仲間? 勘違いも腹立たしいね。こいつは僕にとってはただの“道具”さ』
『お前ぇ!! よくも星華をそんな風に使ってくれたな!! お前は俺が倒す!!』
『へぇ? これを見てもかい?』
思わず騒ぐ空に意味ありげに笑うと、突然星華の身体に闇がまとわりつく。
すると、月が付けた殺傷が塞ぎ出した。
『うそだろ、俺が付けた傷が…!』
『ふふ…こんな時でも心配してくれるなんて。空は優しいわね、何時だってそう…』
こんな状況だと言うのに、星華は戦意を失わない。いや、もう彼女は正気ではない。今ハッキリと理解する。
そしてオーヴァードとは明らかに異なった治癒に、月は目を見開く。
『何がどうなってるんだよ…?』
『彼女の命は無限だ。どれだけ傷つこうと死なないんだから、どう使おうと勝手だろ?』
『お前…!』
『へえ、敵を心配してるのかい? ハッ、くだらないね! オーヴァードになっても人間であろうとしがみ付く心と言う存在! 実に愚かで浅ましいよ!』
心からの罵倒を吐き捨てるベルに、無意識に翼の頬に一筋の冷や汗が垂れる。
『あんた、狂ってる…!!』
『狂ってる? 僕からしてみれば狂ってるのは君らの方だ。敵である上に、致死量の傷を与えても死なないんだから、自責の念に囚われる必要なんてないさ。さあ、僕を倒したければ彼女を殺してから来るんだね。まあ、お前達が幾ら攻撃しようとこいつは殺せないけど』
クウ「…まあ」
ツバサ「なんていうか…」
四人『さっきからGMがめっちゃイキイキしてRPしてる…』
GM「諸君よ、これが悪役ロールと言うものだぁ!!」(グッ!)
グラッセ「でもこれ、どう言う事? 《リザレクト》ならダイスを振るし…」
ツバサ「違う。きっとこれEロイスの『不滅の妄執』だよ。二人のうちどちらか《蘇生復活》を持ってると思っていたけど、厄介な能力入れてきちゃったね…」
ムーン「それ、どう言う効果なんだ?」
ツバサ「《蘇生復活》の場合は、倒しても一度だけHP1で復活する。『不滅の妄執』は発動中はHP1より減ることがないから、解除しないとダメージを与えても倒せないんだ」
クウ「つまり、解除する条件を満たさないと星華を倒せないって事か。けど、条件ってなんだ?」
ツバサ「十中八九、後方にある遺産だと思うよ。Dロイスの『愚者の契約』で星華さんに『不滅の妄執』を与えている代わりに、手下にしているんだよ。「あの時、生きたいと願った」。この最初の会話に重要なヒントが隠されてたんだね」
グラッセ「GM。遺産って壊す事は出来るのか?」
GM「うーん…まあいい、教えようか。ベルと星華の後方にある別エンゲージにトランクケースに入った遺産がある。壊すには合計…20ダメージ与えれば破壊は可能だ」
ツバサ(あ、今考え直した。ボク達のダイス運が酷いから、優遇して貰ったのかな)
ムーン「更にエンゲージを移動か…畜生、マズイな」
クウ「射撃系なら翼、浸食率100%超えたから凍矢も出来る。この二人に頑張ってもらえば、どうにかなりそうだが」
ツバサ「みんな――ボクの正直な感想だけど、もう次のラウンドで倒さないと全員後がないと思うんだよね。ボクに至っては浸食率がヤバイからこれ以上エフェクトは使えないし、空もロイスが4つになってる。凍矢も月も次でどうにかしないとバックトラックでジャーム化の恐れが出てくる」
グラッセ「確かにツバサの言う事は一理ある。もう俺達もマズイ状況だ」
クウ「俺も移動しないと星華達に攻撃出来ないから、どうしても攻撃力が落ちる。ダイス運も役に立ってくれないし…」
ツバサ「で、さ。作戦なんだけど――」
(これは、マズイな…!)
辺りに漂う血の匂い、深まる闇の中で凍矢は自分の身体が熱くなるのに気づく。
掌に違和感を感じて開くと、熱いはずなのに霜が立って冷気が流れている。
凍矢の中に潜むサラマンダーの力が、制御しきれていない証拠だ。
(俺も、みんなもギリギリの状態…これ以上戦ったら、ジャームになってしまう…!)
月は身体から獣の毛が生えて顔付きが鋭いまま、空から流れる血液も意思を持つように小刻みに動いている。翼に至っては時折身体から電撃が迸っている。誰もがシンドロームの力を完全に制御しきれていない。
(勝てるのか、この戦い…?)
圧倒的な強さを見せつける敵、自分の理性を喰い破る衝動。
外と内から責められ、不安に押し潰される。どうしようもない気持ちで拳を握った時だ。
『――凍矢』
唐突に、隣にいた翼が名前を呼んだ。
『な、なに、翼?』
『…ボクはこれ以上レネゲイドの力を発動出来そうにない。支援も次で最後になる』
『そう、か…』
半ば予想していた事に、凍矢は顔を逸らす。
そんな凍矢に、翼は真剣な顔でこの後の作戦を話す。
『だから凍矢、あの《遺産》は君が壊して。それで全てが覆る』
『え…!? な、何言っているんだ!? 俺が、俺にそんな大役…!!』
『君しかいないんだ!! もうボクにはあれを壊せる威力を出すのも厳しいから…ここであいつらを倒せる方法を実行出来るのは、凍矢しかいないんだ!!』
『でも、俺…!』
『出来るさ、凍矢!!』
明るい大声が、凍矢の不安の声を掻き消す。
声の主は、ついさっき表に出てきたばかりの空だった。
『空さん…!?』
『もう一人の俺、何だかんだでお前の事気にかけてた。大丈夫だ、きっとやれる』
『でも、失敗したら…!』
『失敗なんて恐れるな、グラッセ!! お前は出来る奴だ!! だって、お前は――俺の友達だろ!!』
『ムーン…!』
『凍矢、大丈夫。ボク達がいる。君は一人じゃない――ボクらの絆は、上辺だけの単なる繋がりじゃない。日常に変える為の光であり、力でもあるんだ!!』
月が、翼も心の内を叫ぶように怯える凍矢を励ます。
三人の言葉に、やがて凍矢の中で何かが芽生える。
(繋がる…力…!)
それは、決して手に入らなかったモノ。人間でもオーヴァードでも、手にする事さえ出来なかった、些細でちっぽけで…掛け替えのないモノ。
傷だらけの身体で、凍矢は地面を思いっきり踏みしめる。
こんな自分を信じて、絆を繋げてくれた仲間達の為に。
『――分かった…俺が突破口を作って見せる!! だから、ムーンと空さん、ちゃんとトドメを刺してくれよ!?』
『当たり前だぁ!! この性根悪い女は俺がぶん殴る!!』
『星華!! その呪われた邂逅は俺が断ち切ってやるからな!!』
『さぁて――もう一踏ん張りと行くよ!!』
凍矢の覚悟が伝わったのか、三人も笑みを浮かべて踏みしめる。
この戦いを終わらせる為に。必ず人として生きて帰る為に。
回復
2D+3→15
クウ「HPは30か…星華に攻撃するとして、確実にカウンター使われる。出目が悪いから余裕って思っていたけど…」
ツバサ「もう、分からないよね…スピカさんのダイス運、極端に良くなったり悪くなったりだもん。ついでにベルの《支配の領域》もあるし」
SM「あら? かかってきてもいいのよ?」
クウ「――ここまで来たんだ、やるしかねぇ!! 俺の番! マイナーで《赫き剣3》、《破壊の血4》。メジャーで《コンセントレイト3:ブラムストーカー》、《鮮血の一撃2》。更に《始祖の血統3》も組み合わせてもう一度星華を攻撃だ。ダイス数は支援合わせて31個、達成値無し、攻撃力19、浸食率は113%、HPは17、C値は6だ!!」
GM「ヤバイ…これだからブラム=ストーカーって馬鹿に出来ないんだよ。しかも凍矢の支援と戦闘用人格でダイスも増えてるし…」
ツバサ「ダイス運が悪くなければ、火力が凄い事になりそう」
SM「こっちだって負けないわ。最後の《カウンター2》発動! 先程と同じ《コンセントレイト3:エンジェルハイロゥ》、《主の右腕3》、《コンバットシステム1》、《ガラスの剣3》よ。私のダイス数は9個。達成値は無し、攻撃力は20よ」
クウ「来いよ、返り討ちにしてやらぁ!!」
GM「なら、遠慮なく《支配の領域2》発動させて貰うよ!」
対決判定(《支配の領域》発動後)
空27D+3(C値6)→34
星華9D+5(C値7)→46
グラッセ&ムーン&ツバサ「「「クウ(師匠)ーーーーーーっ!!?」」」
SM「ふ、勝ったわね!」
GM「これがオルクスの力だ」
クウ「……うそ、だろ…!?」
グラッセ「お、俺達のダイス運が…!!」
ムーン「何でだよ…この人他人の幸運を根こそぎ吸収する体質か…!?」
ツバサ「もう、ダメだ…これ、終わりだよ…!!」
SM「さーて、ダメージの判定ね。装甲を合わせて、27以上あれば戦闘不能よね」
クウ「あ、終わった…」
ダメージ判定
5D+20→41
クウ「ええい! 狩谷のロイスをタイタス昇華して復活だ!!」
GM(…ハハハ、これ大丈夫か…? 四人ともまだ『あの事』に気づいていないし、クウに至ってはDロイスの効果でバックトラックのダイスは一個分無くなる。GMとしては、少しマズイ気がする…! 仕方ない…予定より早いが、“あれ”をするか…!)
手を振り上げ先程よりも大量の血を纏わせ、再び刃を作り出す。
だが、今までと違って出来上がったのは、細く長い持ち手の先に曲がった巨大な刃…赤き大鎌だった。
『大剣が大鎌に変わった!?』
『うぉらぁ!!』
いつもと違う武器に凍矢が驚く間に、空は大鎌を振り上げて駆ける。
そのまま、立ったまま剣を構えない星華へと刃を振るう。
『遅い』
それは交差した一瞬の出来事だった。
星華の背後で、刈り取った体制で空は鎌の切っ先を下している。対し、星華は全く動いていない。
斬られていたのは――空の方だった。
『な、に…?』
『空さん!?』
『そんな!?』
背中を斬られ倒れる空に、凍矢と翼が悲鳴を上げる。
だが、倒れる寸前で大鎌を杖代わりにして再び立ち上がった。
『まだだ…新しいボスから任務を言い渡されているんだ…! ちゃんと、遂行する為にも寝てられるか…!』
『その赤い目、その血に染まった体…どうしてかしら、凄くゾクゾクしてくる。欲しい、その赤が欲しいわ…!』
『お前…そんな性格だったか…!』
異常に血を求める星華に、空は力なく笑いながらも気味悪さを覚えた。
ムーン「次は俺の番だ!! マイナーでベルのエンゲージに入る! メジャーで《コンセントレイト3:バロール》、《漆黒の拳3》で攻撃だ! 浸食率は109%! ダイス数は支援含め21個、攻撃力は14、更に装甲無視だ!」
ツバサ「更に《支援射撃4》発動! 月のダイスを25個にするよ! ボクの浸食率は134%!」
命中判定
25D+5(C値7)→39
GM「僕は――リアクション放棄であるエフェクトを二つ発動させる。ムーン、先にダメージを振って」
ムーン「え? あ、ああ」
ダメージ判定
4D+14→42
ムーン「よっしゃ!」
GM「僕が発動したエフェクトは《領域の盾3》と《領域の守護者》だ!! この二つを使い――離れたエンゲージにいる星華をこちらのエンゲージに引き戻し、無理やりカバーリングさせる!!」
四人『…エ…』
『喰らい、やがれぇぇ!!!』
完全に獣と化した腕を振るい、月は漆黒の鉤爪でベルを鎧ごと引き裂こうとする。
『舐めるなぁ!!』
ベルは琴の糸を操り、自分の方へと引っ張る。
何かしようとしている。月は獣の如く直感で感じ取り、思いっきりベルを引き裂いた。
感触はある、当たった。しかし、爪で切り裂いたのは…糸に絡まった状態で前に差し出された星華の身体だった。
『なっ…!』
『か…はっ!』
『星華…星華ぁ!?』
ベルに攻撃が通らず、しかも星華を使って防がれた事に強張る月と空。
星華につけられた明らかに致死量になりえる出血に傷。今まで見た事ない悲痛の光景を目の前にし、知らない内に凍矢も震える。
『仲間を無理やり盾にした…!!』
『仲間? 勘違いも腹立たしいね。こいつは僕にとってはただの“道具”さ』
『お前ぇ!! よくも星華をそんな風に使ってくれたな!! お前は俺が倒す!!』
『へぇ? これを見てもかい?』
思わず騒ぐ空に意味ありげに笑うと、突然星華の身体に闇がまとわりつく。
すると、月が付けた殺傷が塞ぎ出した。
『うそだろ、俺が付けた傷が…!』
『ふふ…こんな時でも心配してくれるなんて。空は優しいわね、何時だってそう…』
こんな状況だと言うのに、星華は戦意を失わない。いや、もう彼女は正気ではない。今ハッキリと理解する。
そしてオーヴァードとは明らかに異なった治癒に、月は目を見開く。
『何がどうなってるんだよ…?』
『彼女の命は無限だ。どれだけ傷つこうと死なないんだから、どう使おうと勝手だろ?』
『お前…!』
『へえ、敵を心配してるのかい? ハッ、くだらないね! オーヴァードになっても人間であろうとしがみ付く心と言う存在! 実に愚かで浅ましいよ!』
心からの罵倒を吐き捨てるベルに、無意識に翼の頬に一筋の冷や汗が垂れる。
『あんた、狂ってる…!!』
『狂ってる? 僕からしてみれば狂ってるのは君らの方だ。敵である上に、致死量の傷を与えても死なないんだから、自責の念に囚われる必要なんてないさ。さあ、僕を倒したければ彼女を殺してから来るんだね。まあ、お前達が幾ら攻撃しようとこいつは殺せないけど』
クウ「…まあ」
ツバサ「なんていうか…」
四人『さっきからGMがめっちゃイキイキしてRPしてる…』
GM「諸君よ、これが悪役ロールと言うものだぁ!!」(グッ!)
グラッセ「でもこれ、どう言う事? 《リザレクト》ならダイスを振るし…」
ツバサ「違う。きっとこれEロイスの『不滅の妄執』だよ。二人のうちどちらか《蘇生復活》を持ってると思っていたけど、厄介な能力入れてきちゃったね…」
ムーン「それ、どう言う効果なんだ?」
ツバサ「《蘇生復活》の場合は、倒しても一度だけHP1で復活する。『不滅の妄執』は発動中はHP1より減ることがないから、解除しないとダメージを与えても倒せないんだ」
クウ「つまり、解除する条件を満たさないと星華を倒せないって事か。けど、条件ってなんだ?」
ツバサ「十中八九、後方にある遺産だと思うよ。Dロイスの『愚者の契約』で星華さんに『不滅の妄執』を与えている代わりに、手下にしているんだよ。「あの時、生きたいと願った」。この最初の会話に重要なヒントが隠されてたんだね」
グラッセ「GM。遺産って壊す事は出来るのか?」
GM「うーん…まあいい、教えようか。ベルと星華の後方にある別エンゲージにトランクケースに入った遺産がある。壊すには合計…20ダメージ与えれば破壊は可能だ」
ツバサ(あ、今考え直した。ボク達のダイス運が酷いから、優遇して貰ったのかな)
ムーン「更にエンゲージを移動か…畜生、マズイな」
クウ「射撃系なら翼、浸食率100%超えたから凍矢も出来る。この二人に頑張ってもらえば、どうにかなりそうだが」
ツバサ「みんな――ボクの正直な感想だけど、もう次のラウンドで倒さないと全員後がないと思うんだよね。ボクに至っては浸食率がヤバイからこれ以上エフェクトは使えないし、空もロイスが4つになってる。凍矢も月も次でどうにかしないとバックトラックでジャーム化の恐れが出てくる」
グラッセ「確かにツバサの言う事は一理ある。もう俺達もマズイ状況だ」
クウ「俺も移動しないと星華達に攻撃出来ないから、どうしても攻撃力が落ちる。ダイス運も役に立ってくれないし…」
ツバサ「で、さ。作戦なんだけど――」
(これは、マズイな…!)
辺りに漂う血の匂い、深まる闇の中で凍矢は自分の身体が熱くなるのに気づく。
掌に違和感を感じて開くと、熱いはずなのに霜が立って冷気が流れている。
凍矢の中に潜むサラマンダーの力が、制御しきれていない証拠だ。
(俺も、みんなもギリギリの状態…これ以上戦ったら、ジャームになってしまう…!)
月は身体から獣の毛が生えて顔付きが鋭いまま、空から流れる血液も意思を持つように小刻みに動いている。翼に至っては時折身体から電撃が迸っている。誰もがシンドロームの力を完全に制御しきれていない。
(勝てるのか、この戦い…?)
圧倒的な強さを見せつける敵、自分の理性を喰い破る衝動。
外と内から責められ、不安に押し潰される。どうしようもない気持ちで拳を握った時だ。
『――凍矢』
唐突に、隣にいた翼が名前を呼んだ。
『な、なに、翼?』
『…ボクはこれ以上レネゲイドの力を発動出来そうにない。支援も次で最後になる』
『そう、か…』
半ば予想していた事に、凍矢は顔を逸らす。
そんな凍矢に、翼は真剣な顔でこの後の作戦を話す。
『だから凍矢、あの《遺産》は君が壊して。それで全てが覆る』
『え…!? な、何言っているんだ!? 俺が、俺にそんな大役…!!』
『君しかいないんだ!! もうボクにはあれを壊せる威力を出すのも厳しいから…ここであいつらを倒せる方法を実行出来るのは、凍矢しかいないんだ!!』
『でも、俺…!』
『出来るさ、凍矢!!』
明るい大声が、凍矢の不安の声を掻き消す。
声の主は、ついさっき表に出てきたばかりの空だった。
『空さん…!?』
『もう一人の俺、何だかんだでお前の事気にかけてた。大丈夫だ、きっとやれる』
『でも、失敗したら…!』
『失敗なんて恐れるな、グラッセ!! お前は出来る奴だ!! だって、お前は――俺の友達だろ!!』
『ムーン…!』
『凍矢、大丈夫。ボク達がいる。君は一人じゃない――ボクらの絆は、上辺だけの単なる繋がりじゃない。日常に変える為の光であり、力でもあるんだ!!』
月が、翼も心の内を叫ぶように怯える凍矢を励ます。
三人の言葉に、やがて凍矢の中で何かが芽生える。
(繋がる…力…!)
それは、決して手に入らなかったモノ。人間でもオーヴァードでも、手にする事さえ出来なかった、些細でちっぽけで…掛け替えのないモノ。
傷だらけの身体で、凍矢は地面を思いっきり踏みしめる。
こんな自分を信じて、絆を繋げてくれた仲間達の為に。
『――分かった…俺が突破口を作って見せる!! だから、ムーンと空さん、ちゃんとトドメを刺してくれよ!?』
『当たり前だぁ!! この性根悪い女は俺がぶん殴る!!』
『星華!! その呪われた邂逅は俺が断ち切ってやるからな!!』
『さぁて――もう一踏ん張りと行くよ!!』
凍矢の覚悟が伝わったのか、三人も笑みを浮かべて踏みしめる。
この戦いを終わらせる為に。必ず人として生きて帰る為に。