ミドルフェイズ10(前編)
ミドルフェイズ10 シーン15〈デュアルフェイス〉
シーンプレイヤー 七雲空
GM「では、シーンプレイヤーは空だ。出るのは翼だけ? 二人も出てもいいんだよ?」
ムーン「俺は温存に専念したい…!!」
グラッセ「俺も遠慮します…」
クウ「それじゃ、振るか…!」
《シーン登場》
空1D→9 112%→121%
翼1D→5 75%→80%
クウ「ごふっ!!」(白目)
ツバサ「うわぁ…本格的にヤバイよ、これ。本当にバックトラックまでに150%超えないといいけど…」
クウ「早く俺にロイスを…繋がる心を…!!」
GM「お前ソラじゃないだろ…。では、描写に入るよ」
志武谷の奥にあるストリート。様々なグラフィックが描かれた裏路地のような雰囲気を持つそこは、本来ならばパンプな若者達が屯っている場所だ。
だが、現在《ワーディング》が張られており、若者達はコンクリートの地面に倒れ込んでいる。そんな彼らに目をくれず、空と翼は先を進んでいた。
翼『うーん、確かこの辺りの筈なんだけど…』
空『黒須左京、あの時俺を引き摺り出した男…会って、大丈夫なのか…?』
翼『でも殺す気なら、あの時月と一緒に死んでる。大丈夫だよ』
そうして話していると、向こう側から足音が聞こえる。
二人が足を止めて相手を待っていると、暗がりの中から黒須が現れた。
黒須『来たか、ライトニング』
翼『黒須さん…』
黒須『初めまして、と言うべきなんだろうな。七雲空』
空『あ…あぁ』
黒須『色々と話を聞きたいが――今も符宴の術にかかっているんだろう? どの程度記憶を失ってる?』
空『…他人の事がうまく思い出せない。自分の事なら、どうにか』
黒須『そうか。なら、特調の人間だった事は? オーヴァード排除主義だった事は覚えているか?
七雲空(しちぐもくう)――いや、黒羽蒼空(くろばそら)と呼べばいいか?』
空『その名前…何でお前が知っているんだ!?』
黒須『FHの情報網を舐めない事だ。抹消された記録も、本気を出せば掴める』
翼『ちょ、ちょっと待って!? 空さ…いや、蒼空さんが使ってた名前って偽名なのっ!?』
空『…警察組織から消されたんだ。生まれてずっと使ってきた名前なんて使えないだろ?』
意外な事実に驚く翼に、やれやれと肩を竦める空。対して、全てを知っているであろう黒須は冷静なまま腕を組んでいる。
嘘を吐いたり誤魔化しても、きっと分かるだろう。だから、空は何もかも話す事にした。
己の出自。己の過去を。
「お前の言う通りだ――俺は特調の人間だった」
静かに語りながら空は思い出す。
洗脳がなくても、思い出す事は無い両親との日々を。
「父親は幹部としての地位を築いていた。俺は若き人の見本になるように、行く行くは父親の跡を継ぐ為に、レールに敷かれた人生を送っていた。高学歴の学校に通わされ、警察としての誇りを教えられ、UGNもオーヴァードも人類の敵と叩きこまれて――そうして、訪れた警察…正確には特調の試験に合格。だが念の為、合格者はオーヴァードの適性検査を受けた――そこからだ、俺の人生が狂ったのは」
さっさとやって、終わるはずだった。適性反応に「有性」が出なければ。
父親の地位もあり、最初は誰もが自分を陥れる陰謀かと疑った。しかし、何度か検査をしても変わらない。間違いだと信じ、試しに意識して見た所…オーヴァードとしての力を発揮してしまった。
「オーヴァードに発症したのがいつかは分からない。少なくとも死にかけるような事も、事件に巻き込まれたりだとかはなかった。確かUGNの話では“無知”――物心ついた時から覚醒していたらしい。けど、そんな事は特調にとってはどうでもいい。大事なのは…俺がオーヴァードだった。たったそれだけの事」
決定的な証拠を突きつけられた事で、周りの期待の目が悪意に変わった。
隠していた訳じゃない。それを主張した所で、自分は特調の目の敵である事には変わりないのだから。
「俺の所為で、幹部としての地位である父親の面目すら丸潰れ。俺でさえ受け入れられないのに、周りからは責め立てられ、すぐに処分を受けて。挙句には存在すらも戸籍から抹消されたよ」
家から勘当され、存在を隠蔽する為に戸籍も消された以上公共の施設も満足に使えない。
状況が状況だけに勉学ばっかりで気のおける友達は作っておらず、頼れる人物も全て警察繋がりだから連絡しても切られる。
何も繋がりがない状態は、レネゲイドにとって何の障害もなく浸食出来る絶好のチャンス。疲労した心に容赦なく襲い掛かる衝動、到底まともな精神でいられる筈がなかった。
「そうして半ば暴走しかけていた俺は、何もかもが憎くて手当たり次第に攻撃していた。そんな俺を最初に落ち着かせてくれたのは、警察にも特調にも目を付けられていた暴力団だった。まあ、落ち着いたと言っても身も心もボロボロだったからな。頭領とは顔見知りな事もあって、FHに引き渡すよりUGNに差し出した方がいい…そう判断して、俺はUGNに保護されたって訳だ――笑えるだろ? 敵って教えられてきた奴に助けられたんだぜ?」
「空さん…」
「でも、そんなUGNにも裏切られてここにいる……裏切られっぱなしの人生だよ、ったく」
暗い話で澱んでしまった空気を、笑って飛ばそうとした。
けど、何故だろう。ちゃんと笑った筈なのに…上手く笑えた気がしなかった。
翼『…黒須さん、本題に入るよ。あなたは空さんの記憶を完全に元に戻す方法を知ってるの?』
黒須『三つ知ってはいる。内一つはあまりオススメしないがな』
翼『どういう事?』
黒須『まず一つは、こいつ抜きで符宴を倒す事だ。奴の洗脳が掛かってないとはいえ何が起こるか分からない。再び意識を押し込めて出てくる可能性もある』
翼『…確かにそれが一番手っ取り早いね。それに、絆を結べない今の状態で空さんを戦わせるのは危険すぎる。勝ててもジャーム化してしまう可能性が高い』
黒須『そうだ。俺としてはお前に消えて欲しくない。安全に術を消すなら、お前抜きで符宴を倒した方がいい』
翼『うん…でも、ボクだけでも厳しい。仲間はいるけど、正直火力不足だ。黒須さんが手伝ってくれるなら嬉しいけど、どうせ手伝う気なんてないでしょ?』
黒須『ああ。オーヴァードを殺せるとは言え、誰とも手を繋ぐつもりはない。例えレネゲイドビーイングでもな』
翼『なら、符宴を倒すにはどうしても空さんの力を借りないとだめだ。空さんの実力は知ってるからね、いるだけで百人力だよ!』
空『あ、ありがと…』
黒須『さて、二つ目だが…これは俺の本題でもある。洗脳が掛かっている“戦闘用人格”を消せばいい。そうすれば洗脳の効果も消えて術も解ける。すぐに記憶を取り戻せるだろう』
翼『それって、もう一人の空さんを消せって事!?』
黒須『戦闘用人格――これはレネゲイドの力に長けており、ウイルスの作用で生まれた副産物でもある。もしこれだけを消す事が出来たら、俺の欲望(ねがい)に近づけるかもしれない。だからお前に接触を仕掛けた。お前の戦闘用人格は一般的な奴らと違い人工物、しかもそれ程時間が経っておらず結び付きが薄い。今なら理論上は人格を消去する事が可能だ。その消去が成功すれば、応用や改良すれば他の戦闘用人格を消せる事に繋がるだろう』
翼『なるほど…オーヴァードとジャームの中間でもある戦闘用人格を消したい、それが黒須さんの目的なんだね。それで空さん、どうしたい? ボクは空さんの意見に従う』
空『…まだ話は終わってない。黒須、もう一つの方法って何だ?』
GM「さて…――条件を満たしているから、何事もなく黒須は教えてくれるよ」
ツバサ「え? 何かあったの?」
GM「ああ。一つは『UGNメンバーがシーン内に出ていない』、もう一つは『トリガーイベントを発生させて、事前に黒須と接触している』。この二つの条件を満たしていない場合、【交渉20】で判定して貰う必要があったんだ。片方満たしていた場合は【交渉10】まで難易度を下げたけど」
クウ「グラッセ達が出てなくて良かったな…!」
SM「と言う訳で、情報を提示しよう」
・記憶を取り戻す方法
現在は人格が入れ替わった事で『歪んだ囁き』の効果が一時的に無力化されている。しかし『砕け散る絆』の効果は続いており、今までに出会った人物に関する記憶を封印されている。解除するには、『歪んだ囁き』に惑わされない強固な絆――Sロイスを結ぶ必要がある。
尚、記憶を失った状態で他者とロイスを取るのは不可能。
ただし、唯一残っている金符宴のロイスにSロイスを取ると『歪んだ囁き』の効果がより強固になってしまい、クライマックスフェイス時に対象が符宴以外の全員となる解除不能の〈憎悪〉のバッドステータスを受ける。その状態で符宴を戦闘不能にするとロイスがタイタス化してしまい、人との繋がりを失くしてジャーム化してしまう。(事実上キャラロストとなる)
この状態でロイスを結ぶ方法は一つだけ。自分自身――“戦闘用人格”と接触してロイスを結ばなければならない。
ツバサ「ここでSロイスが必要になるんだね!」
クウ「下手すればバッドルートに入ってたな…」
グラッセ「戦闘用人格とロイスを結ぶにあたって、何か判定が必要だったりしますか?」
GM「符宴の洗脳がかかっているから〈交渉〉で判定になる。まあRP次第で難易度を落とそうと考えている」
ツバサ「なるほどね…よし」
翼『戦闘用人格と、か…確かにオススメは出来ないね。好戦的で、本当の空さんを内側に押し込めたんだ。それに符宴の洗脳も解けてない。きっと接触したら空さんを本気で消しにかかるよ』
空『でも…』
翼『空さんの戦闘用人格は裏切られる想いから生まれた存在。言うなれば憎悪だ。それはあなたの衝動であり、闇の部分だよ』
黒須『衝動はレネゲイドが生み出す力――オーヴァードの源にも繋がる。オーヴァードは人類の敵だ、人としての心などない戦闘用人格を消してしまっても問題は無い』
どちらとも助けられる唯一の道なのに、真っ向から否定的な意見を出す二人。
だが、それも当然だ。たった一人で憎悪に塗れた敵に突っ込み、説得して連れて帰れと言う。あまりにも危険すぎるし、リクスも大きすぎる。
空『それでも…俺は、こいつと話し合ってみたい』
黒須『本気か?』
翼『空さん、ボク達の話聞いてた? 厳しい事言うようだけど、説得は簡単じゃないんだよ? 下手したら空さんが消えちゃうんだよ?』
空『だとしても、やってみるさ。俺の記憶をちゃんと取り戻したいし…大事なモノ、ちゃんと取り戻さないとって叫ぶんだ…ココが』
トンっと親指で胸を叩き、笑いかける空。
そんな彼の姿を見て、固かった翼の表情が自然と和らいだ。
翼『…決意は固いんだね。分かった、ならボクは何も言わないよ。正直危険な目には合わせたくないけど…ボクだって、もう一人の空さんを消したくない想いは一緒だから』
黒須『俺は納得したつもりはないが…まあいい。消すにせよ受け入れるにせよ、接触をさせないと何も始まらない。それじゃあ、戦闘用人格と接触をさせる。じっとしてろ』
そう言うなり、黒須は腕を構えて大量の電撃を発生させた。あまりの力に、薄暗かったここ一帯の路地が激しい閃光で白く輝いている。
空『何だその夥しい電撃!?』
黒須『意識と接触するんだ。電流による電気信号を使えばある程度は可能だ。既にUGNの奴で何度も実験しているから安心しろ』
翼『ホ、ホントに安心していいの!? いや実験って何してたのぉ!?』
黒須『意識は飛ぶがトドメは刺さん。安心して逝って来い』
空『おい「いって来い」の字が!! 字が物凄く不吉で無視できな――!!』
思わず放ったツッコミは、即座に黒須の放った雷電の轟音へと呑まれてしまった。
翼『空さーん――…!?』
痺れと衝撃で遠のく意識の中、近くにいる筈の翼の叫び声が遠くから聞こえるように感じていた…。
シーンプレイヤー 七雲空
GM「では、シーンプレイヤーは空だ。出るのは翼だけ? 二人も出てもいいんだよ?」
ムーン「俺は温存に専念したい…!!」
グラッセ「俺も遠慮します…」
クウ「それじゃ、振るか…!」
《シーン登場》
空1D→9 112%→121%
翼1D→5 75%→80%
クウ「ごふっ!!」(白目)
ツバサ「うわぁ…本格的にヤバイよ、これ。本当にバックトラックまでに150%超えないといいけど…」
クウ「早く俺にロイスを…繋がる心を…!!」
GM「お前ソラじゃないだろ…。では、描写に入るよ」
志武谷の奥にあるストリート。様々なグラフィックが描かれた裏路地のような雰囲気を持つそこは、本来ならばパンプな若者達が屯っている場所だ。
だが、現在《ワーディング》が張られており、若者達はコンクリートの地面に倒れ込んでいる。そんな彼らに目をくれず、空と翼は先を進んでいた。
翼『うーん、確かこの辺りの筈なんだけど…』
空『黒須左京、あの時俺を引き摺り出した男…会って、大丈夫なのか…?』
翼『でも殺す気なら、あの時月と一緒に死んでる。大丈夫だよ』
そうして話していると、向こう側から足音が聞こえる。
二人が足を止めて相手を待っていると、暗がりの中から黒須が現れた。
黒須『来たか、ライトニング』
翼『黒須さん…』
黒須『初めまして、と言うべきなんだろうな。七雲空』
空『あ…あぁ』
黒須『色々と話を聞きたいが――今も符宴の術にかかっているんだろう? どの程度記憶を失ってる?』
空『…他人の事がうまく思い出せない。自分の事なら、どうにか』
黒須『そうか。なら、特調の人間だった事は? オーヴァード排除主義だった事は覚えているか?
七雲空(しちぐもくう)――いや、黒羽蒼空(くろばそら)と呼べばいいか?』
空『その名前…何でお前が知っているんだ!?』
黒須『FHの情報網を舐めない事だ。抹消された記録も、本気を出せば掴める』
翼『ちょ、ちょっと待って!? 空さ…いや、蒼空さんが使ってた名前って偽名なのっ!?』
空『…警察組織から消されたんだ。生まれてずっと使ってきた名前なんて使えないだろ?』
意外な事実に驚く翼に、やれやれと肩を竦める空。対して、全てを知っているであろう黒須は冷静なまま腕を組んでいる。
嘘を吐いたり誤魔化しても、きっと分かるだろう。だから、空は何もかも話す事にした。
己の出自。己の過去を。
「お前の言う通りだ――俺は特調の人間だった」
静かに語りながら空は思い出す。
洗脳がなくても、思い出す事は無い両親との日々を。
「父親は幹部としての地位を築いていた。俺は若き人の見本になるように、行く行くは父親の跡を継ぐ為に、レールに敷かれた人生を送っていた。高学歴の学校に通わされ、警察としての誇りを教えられ、UGNもオーヴァードも人類の敵と叩きこまれて――そうして、訪れた警察…正確には特調の試験に合格。だが念の為、合格者はオーヴァードの適性検査を受けた――そこからだ、俺の人生が狂ったのは」
さっさとやって、終わるはずだった。適性反応に「有性」が出なければ。
父親の地位もあり、最初は誰もが自分を陥れる陰謀かと疑った。しかし、何度か検査をしても変わらない。間違いだと信じ、試しに意識して見た所…オーヴァードとしての力を発揮してしまった。
「オーヴァードに発症したのがいつかは分からない。少なくとも死にかけるような事も、事件に巻き込まれたりだとかはなかった。確かUGNの話では“無知”――物心ついた時から覚醒していたらしい。けど、そんな事は特調にとってはどうでもいい。大事なのは…俺がオーヴァードだった。たったそれだけの事」
決定的な証拠を突きつけられた事で、周りの期待の目が悪意に変わった。
隠していた訳じゃない。それを主張した所で、自分は特調の目の敵である事には変わりないのだから。
「俺の所為で、幹部としての地位である父親の面目すら丸潰れ。俺でさえ受け入れられないのに、周りからは責め立てられ、すぐに処分を受けて。挙句には存在すらも戸籍から抹消されたよ」
家から勘当され、存在を隠蔽する為に戸籍も消された以上公共の施設も満足に使えない。
状況が状況だけに勉学ばっかりで気のおける友達は作っておらず、頼れる人物も全て警察繋がりだから連絡しても切られる。
何も繋がりがない状態は、レネゲイドにとって何の障害もなく浸食出来る絶好のチャンス。疲労した心に容赦なく襲い掛かる衝動、到底まともな精神でいられる筈がなかった。
「そうして半ば暴走しかけていた俺は、何もかもが憎くて手当たり次第に攻撃していた。そんな俺を最初に落ち着かせてくれたのは、警察にも特調にも目を付けられていた暴力団だった。まあ、落ち着いたと言っても身も心もボロボロだったからな。頭領とは顔見知りな事もあって、FHに引き渡すよりUGNに差し出した方がいい…そう判断して、俺はUGNに保護されたって訳だ――笑えるだろ? 敵って教えられてきた奴に助けられたんだぜ?」
「空さん…」
「でも、そんなUGNにも裏切られてここにいる……裏切られっぱなしの人生だよ、ったく」
暗い話で澱んでしまった空気を、笑って飛ばそうとした。
けど、何故だろう。ちゃんと笑った筈なのに…上手く笑えた気がしなかった。
翼『…黒須さん、本題に入るよ。あなたは空さんの記憶を完全に元に戻す方法を知ってるの?』
黒須『三つ知ってはいる。内一つはあまりオススメしないがな』
翼『どういう事?』
黒須『まず一つは、こいつ抜きで符宴を倒す事だ。奴の洗脳が掛かってないとはいえ何が起こるか分からない。再び意識を押し込めて出てくる可能性もある』
翼『…確かにそれが一番手っ取り早いね。それに、絆を結べない今の状態で空さんを戦わせるのは危険すぎる。勝ててもジャーム化してしまう可能性が高い』
黒須『そうだ。俺としてはお前に消えて欲しくない。安全に術を消すなら、お前抜きで符宴を倒した方がいい』
翼『うん…でも、ボクだけでも厳しい。仲間はいるけど、正直火力不足だ。黒須さんが手伝ってくれるなら嬉しいけど、どうせ手伝う気なんてないでしょ?』
黒須『ああ。オーヴァードを殺せるとは言え、誰とも手を繋ぐつもりはない。例えレネゲイドビーイングでもな』
翼『なら、符宴を倒すにはどうしても空さんの力を借りないとだめだ。空さんの実力は知ってるからね、いるだけで百人力だよ!』
空『あ、ありがと…』
黒須『さて、二つ目だが…これは俺の本題でもある。洗脳が掛かっている“戦闘用人格”を消せばいい。そうすれば洗脳の効果も消えて術も解ける。すぐに記憶を取り戻せるだろう』
翼『それって、もう一人の空さんを消せって事!?』
黒須『戦闘用人格――これはレネゲイドの力に長けており、ウイルスの作用で生まれた副産物でもある。もしこれだけを消す事が出来たら、俺の欲望(ねがい)に近づけるかもしれない。だからお前に接触を仕掛けた。お前の戦闘用人格は一般的な奴らと違い人工物、しかもそれ程時間が経っておらず結び付きが薄い。今なら理論上は人格を消去する事が可能だ。その消去が成功すれば、応用や改良すれば他の戦闘用人格を消せる事に繋がるだろう』
翼『なるほど…オーヴァードとジャームの中間でもある戦闘用人格を消したい、それが黒須さんの目的なんだね。それで空さん、どうしたい? ボクは空さんの意見に従う』
空『…まだ話は終わってない。黒須、もう一つの方法って何だ?』
GM「さて…――条件を満たしているから、何事もなく黒須は教えてくれるよ」
ツバサ「え? 何かあったの?」
GM「ああ。一つは『UGNメンバーがシーン内に出ていない』、もう一つは『トリガーイベントを発生させて、事前に黒須と接触している』。この二つの条件を満たしていない場合、【交渉20】で判定して貰う必要があったんだ。片方満たしていた場合は【交渉10】まで難易度を下げたけど」
クウ「グラッセ達が出てなくて良かったな…!」
SM「と言う訳で、情報を提示しよう」
・記憶を取り戻す方法
現在は人格が入れ替わった事で『歪んだ囁き』の効果が一時的に無力化されている。しかし『砕け散る絆』の効果は続いており、今までに出会った人物に関する記憶を封印されている。解除するには、『歪んだ囁き』に惑わされない強固な絆――Sロイスを結ぶ必要がある。
尚、記憶を失った状態で他者とロイスを取るのは不可能。
ただし、唯一残っている金符宴のロイスにSロイスを取ると『歪んだ囁き』の効果がより強固になってしまい、クライマックスフェイス時に対象が符宴以外の全員となる解除不能の〈憎悪〉のバッドステータスを受ける。その状態で符宴を戦闘不能にするとロイスがタイタス化してしまい、人との繋がりを失くしてジャーム化してしまう。(事実上キャラロストとなる)
この状態でロイスを結ぶ方法は一つだけ。自分自身――“戦闘用人格”と接触してロイスを結ばなければならない。
ツバサ「ここでSロイスが必要になるんだね!」
クウ「下手すればバッドルートに入ってたな…」
グラッセ「戦闘用人格とロイスを結ぶにあたって、何か判定が必要だったりしますか?」
GM「符宴の洗脳がかかっているから〈交渉〉で判定になる。まあRP次第で難易度を落とそうと考えている」
ツバサ「なるほどね…よし」
翼『戦闘用人格と、か…確かにオススメは出来ないね。好戦的で、本当の空さんを内側に押し込めたんだ。それに符宴の洗脳も解けてない。きっと接触したら空さんを本気で消しにかかるよ』
空『でも…』
翼『空さんの戦闘用人格は裏切られる想いから生まれた存在。言うなれば憎悪だ。それはあなたの衝動であり、闇の部分だよ』
黒須『衝動はレネゲイドが生み出す力――オーヴァードの源にも繋がる。オーヴァードは人類の敵だ、人としての心などない戦闘用人格を消してしまっても問題は無い』
どちらとも助けられる唯一の道なのに、真っ向から否定的な意見を出す二人。
だが、それも当然だ。たった一人で憎悪に塗れた敵に突っ込み、説得して連れて帰れと言う。あまりにも危険すぎるし、リクスも大きすぎる。
空『それでも…俺は、こいつと話し合ってみたい』
黒須『本気か?』
翼『空さん、ボク達の話聞いてた? 厳しい事言うようだけど、説得は簡単じゃないんだよ? 下手したら空さんが消えちゃうんだよ?』
空『だとしても、やってみるさ。俺の記憶をちゃんと取り戻したいし…大事なモノ、ちゃんと取り戻さないとって叫ぶんだ…ココが』
トンっと親指で胸を叩き、笑いかける空。
そんな彼の姿を見て、固かった翼の表情が自然と和らいだ。
翼『…決意は固いんだね。分かった、ならボクは何も言わないよ。正直危険な目には合わせたくないけど…ボクだって、もう一人の空さんを消したくない想いは一緒だから』
黒須『俺は納得したつもりはないが…まあいい。消すにせよ受け入れるにせよ、接触をさせないと何も始まらない。それじゃあ、戦闘用人格と接触をさせる。じっとしてろ』
そう言うなり、黒須は腕を構えて大量の電撃を発生させた。あまりの力に、薄暗かったここ一帯の路地が激しい閃光で白く輝いている。
空『何だその夥しい電撃!?』
黒須『意識と接触するんだ。電流による電気信号を使えばある程度は可能だ。既にUGNの奴で何度も実験しているから安心しろ』
翼『ホ、ホントに安心していいの!? いや実験って何してたのぉ!?』
黒須『意識は飛ぶがトドメは刺さん。安心して逝って来い』
空『おい「いって来い」の字が!! 字が物凄く不吉で無視できな――!!』
思わず放ったツッコミは、即座に黒須の放った雷電の轟音へと呑まれてしまった。
翼『空さーん――…!?』
痺れと衝撃で遠のく意識の中、近くにいる筈の翼の叫び声が遠くから聞こえるように感じていた…。