エンディングフェイズ1
エンディングフェイズ1〈鮮血の宴、終幕〉
シーンプレイヤー 海命凍矢
ゼノとの戦闘が終わり、真っ黒だった空が徐々に消えていく。
消えた闇の隙間に見えるのは、夕焼けの空。たった数時間しか経っていなかったようだが、正直事件に巻き込まれてからずっとこの学園にいた者達の体感時間としては何日も過ごしてきたと錯覚してしまう。
「終わった、の?」
恐る恐る、翼が口を開く。それに反応したのは、トドメを刺した蒼空だった。
「ああ…これで依頼完了だ。依頼料忘れるなよ、凍矢」
「はい…ありがとうございます」
蒼空の軽口に、凍矢だけでなく周りの緊張がほぐれる。
上空を飛んでいたヘリが屋上へと着陸する。陸とテレーズが先に降りて皆の元へ駆けつけた。
「とにかくみんな、無事でよかった!」
「来るんじゃねぇクソ親父ぃ!!!」
「ああもう月!! 落ち着いてー!!」
近づいてきた陸を殴りにかかろうとする月を、翼は抑える。
そして、テレーズは凍矢へと近づく。
「よく頑張ったわね、凍矢」
「はい」
今は話をしたい気分ではなく、凍矢は目を逸らす。
その先にあったのは、黒髪に戻っていく蒼空が何処かもの悲しそうにゼノを突き刺した銃剣を見つめていた。
(…宿主)
「相棒、無事に終わったんだ…俺はこの選択に後悔しないさ」
例え、思いが消えてしまっても。そんな心の声が凍矢は聞こえた気がした。
次に純羽へと目を向ける。彼女は全てが終わったからか、父親の腕の中で眠りに就いている。
一瞬、六介と目が合う。彼は凍矢の行いを許していないようで、ギッと睨んで羽粋を庇う様に背を向けてしまう。明らかな拒絶に、凍矢も顔が暗くなる。
「あなたも此度の任務、お疲れ様。カイ・アースト王」
「ガイアスでいい。今の俺は、彼らの担任だ」
「ふあぁ〜、つっかれた〜…」
ガイアスにもテレーズが労いをかける。そこから少し離れた所では、響がへたり込みながら元の制服姿に戻る。
空も完全に闇が晴れて、黄昏の空が広がっている。ゼノが起こした宴は終わったのだ。
「ゼノ…」
凍矢は、自身の義理姉に近付く。嫌な思い出しかないが、それでも家族だったのだ。
ようやく顔が拝める位置まで来た。そして、気づく。
倒れているゼノの近くに、黒コートを着た人物がいるのに。
「っ! いつの間に!?」
凍矢の叫びに、他の人達も新たな敵の存在に気づく。
全員が身構える中、その人物はゼノに突き刺さっている銃剣を無言で引き抜く。
「あ、あぁ…! “盟主”さま…! 妾を、たすけに…!」
まだ、息があったのかゼノは口から血を吐きながら手をのばす。
救いを求めて伸ばした手は…そいつが握った光の銃によって腕ごと吹き飛ばされた。
「な、ぜ…!?」
「やだなぁ、ゼノ。散々扱き使ってきた部下を忘れたの――ま、あんたにとってボクはその程度だったもんね。分からなくて当然か」
一瞬のうちに、黒コートの人物の背丈が縮む。
そして、放たれた声に覚えがある。途中で戦った、エレクトロノイズだ。
「き、さま…!?」
「アハハ、最高だねその顔! 見てて清々しい気分になるよ…恨むなら盟主を恨むんだね。あんたも奴にとって『その程度』の認識。ただの道具さ」
「黙れぇ!! あの方は妾を愛して――!!」
「ふーん、そんなにゼノの事を思ってくれてるんだ。なら、
なんで“お兄ちゃん”をボクに返してくれたんだろうね?」
少女の影から、巨大な何かが飛び出す。
それは瞬く間にゼノを掴み上げ、天高く持ち上げる。
エレクトロノイズと同じ背丈の黒コート。だが、腕は巨大な獣と化していて真っ黒に染まり上がっている。
「グ、アァ…!?」
「あいつは、冷牙が連れていた…!?」
もう一人現れた黒コートを見て、ムーンはかつての記憶を蘇えらせる。
「お腹空いたよね? こういう時しか出してくれなかったもんね――でも、もう心配ないよ。これからはずっと一緒だから。思う存分、お腹一杯食べられるよぉ」
「イタダキマス」
「ヤ、ヤメ――アアアアアアアアアアァ!?」
対峙してから初めて見せた、ゼノの恐怖で歪んだ表情。
やがてゼノの身体が闇と化し、黒い腕に…もう一人の黒コートに吸収されてしまった。
敵を倒せたが、この仲間割れの光景は流石に後味が悪すぎる。一部は顔色を悪くして後ずさりしている。
「う、あ…!」
「あれぇ? 何でそんな顔するの? もっと楽しもうよ?」
思わず漏れた響の呻き声に、エレクトロノイズは楽しそうに笑う。
「恐怖を感じているんならさぁ」
声色は楽しそうに。しかし、何処か歪んでいるように感じる。
今まで対峙してきた敵は、どこかしらに人間性が残っていた。理性はなくとも、衝動によって歪んだ精神を隠し持っていた。
だが、エレクトロノイズは違う。その歪みを隠す事なく、前面に出している。
「ちぃ…!」
この異様な敵に、六介が身構える。それを見たエレクトロノイズは急に笑い出す。
「フ、フフフ…!」
「何がおかしい!?」
「歴戦のUGNエージェントとか言うけど、最後まで裏切り者に気づかないなんて意外とマヌケだね!」
「裏切り者だぁ!?」
「そうさ――ねえ、見事に全員出し抜いて“闇”を持ち帰った《ゼノス所属》のライトニング?」
「――!」
「…ハ!?」
敵の口から語られた思わぬ内容に、誰もが翼に目を向ける。
翼はと言うと、どうにか表情を押し殺してコインを持ち出す。
「何を言っているのかな…! 敵の言う事信じる程、みんなバカじゃ」
「証拠、見せてあげようか?」
そう言って、エレクトロノイズはパチンと指を鳴らす。
そうして空に浮かび上がったのは、先程エンジェルハイロゥの力で作られた映像スクリーン。
そこに映し出されたのは…あのカフェで翼がプランナーに“闇”を渡している所だった。
(翼…これは、どう言う事だ?)
見せてくれた証拠に、みんなの言いたい事を空が代弁する。
それに対し、翼は――
ツバサ「――何も答えない」
GM「ほう?」
ツバサ「答えないまま――屋上の床に向けて《雷の槍》を放って目晦ましをする!」
腕に電流を溜めるなり、コインを媒介にせずに床に放つ。
辺り一帯に石礫が飛ぶものだから、予想しない反撃に誰もが腕を覆う。
その隙に翼は駆け出し、再び電撃を飛ばして羽粋のペンダントのチェーンを壊し、そのまま奪い取った。
「あっ…!」
「翼ぁ!?」
羽粋の伸ばした手はすり抜け、月の怒鳴り声も無視する。
ただただ、翼は近くのフェンスに向かって走り、電気によって発生する地場の力で一歩でフェンス柵の上に着地する。
「待てぇ!」
逃亡を阻止しようと、六介が二刀を構えて追いつこうとする。
「させません」
だが、冷たい女の声と共に、六介の前に氷の細剣を携えた女性が進路を妨害した。
「誰!?」
「あんた、さっきの!」
凍矢と蒼空が驚く中、翼は助けてくれた彼女の正体に気づく。
「ミユキさん…!」
先程、プランナーと共に空を助けたゼノスエージェント。それが、敵として彼らの前に立ちふさがる。
六介と対峙すると、ミユキは翼に背を向けたまま言い放つ。
「行ってください。ここは私が食い止めます」
「…ッ…!」
彼女の言葉に、翼は歯を食い縛りながら全員から顔を背ける。
そして、フェンスから飛び降りてその場を去った。
「翼、待て…ぐっ…!」
(宿主、ここが限界だ。悪いな…)
「く、そぉ…!」
人格の交代となったようで、蒼空はその場に膝をついて倒れてしまう。
「……ふん」
一方、エレクトロノイズはこの騒ぎにもう一人の黒コートと共にその場から消えてしまう。
後に残されたのは、ゼノスの青峰ミユキと対峙する六介だけだ。
「そこを退け!!」
「退きません、あなた達が引かない限り。それとも、手負いの状態で私と戦いますか?」
ムーン「なあ、このミユキってどのくらいの強さなんだ?」
GM「例で表すと、FF13のライトニング並みの強さじゃないかな。世界を救った実績持ってるし」
グラッセ「あ、無理だ。返り討ちされる」
「………チッ!」
相手の言葉に、六介は構えを解く。今までずっとゼノ達を相手にしてきたのだ。レネゲイドが落ち着いているとは言え、消費された消耗まで戻っている訳ではない。
だからと言って、全てを納得している訳ではない。陸とテレーズはミユキに疑問をぶつける。
「おい! お前達は“闇”と“光”を使って何をする気だ!!」
「さあ? いくら私でも、京香さんのプランの詳細を知っている訳ではないので」
「あなた達ゼノスは何を企んでいるの!!」
「レネゲイドの可能性。それが、京香さんが動く理由です。私は人間ですが、京香さんの目指す先を知りたい――だから、ゼノスとして協力しているにすぎません」
話は終わりと、ミユキもフェンスに上り出す。ここから立ち去ろうとする彼女に、凍矢が叫ぶ。
「待ってください! 翼は――!」
「彼女の事は忘れてください。それが、お互いの為です」
仲間を信じたい気持ちも、氷のように冷たい声で拒絶されてしまう。
完全に凍矢が何も言えなくなると同時に、ミユキもフェンスを飛び降りた。