外伝・月の決意2(リラさん誕生日作品)
月のいる地点からかなり離れた場所に位置する港区。普段は貨物船の運搬の為に使われる。
この日もまた、巨大な停泊船がある以外は何事もない物静かな夜であった――常人の目で見たら。
別の視点では、停泊船を中心にワーディングが展開されていてあちこちで戦闘が行われていた。
「――おらよぉ!!」
自らの血液で作成した赤き大剣を振り回し、空は周りを取り囲んでいた船の乗員…UGNの戦闘員に反撃を繰り出す。
数で攻めて有利と思っていたからだろう。一気に負傷者が出てしまい、この集団のリーダー格らしき男の顔が歪む。
「ちいぃ…!! 『紅の刃』め!!」
「くそっ、この…裏切り者!!」
見るからに成人に満たない少年――UGNの精鋭でもあるチルドレンだろう――が、炎を纏ったナイフを持って襲い掛かる。
だが、その刃は空に届く事はなかった。
「ごちゃごちゃとうるせえよ」
ガン、と少年の放った突きは大きな音を立てて大剣で受け止められてしまう。
体制を立て直そうとするが、その前に空が力任せに大剣を振るって少年を壁に叩きつける。頭を強く打ったのかその場で崩れ落ちた事で更に戦力が削がれてしまい、リーダーは撤退を命じて残った残党が空から離れて行った。
敵がいなくなった事で、戦闘中黙っていた蒼空が話しかけてきた。
(…陽動はこのくらいでいいだろ)
「だな。囲まれたら面倒だし、とっとと離れるか」
まだ戦闘は終わってない。空は武器は手放さないまま、出来るだけ人のいない場所を目指して走る。
「UGNの保管する研究資料、及び遺産の略奪か…」
(そろそろ奪った頃――いや、たぶんまだだろうな)
「んなもん盗んで、何に使うつもりなんだか」
「――その話、詳しく聞かせて貰いたいもんだな」
誰かが話に割り込んだと思ったら、空の真横に穴が開いた。
「ッ!」
船内の壁が破壊され、潮の臭いが鼻に突く。穴の向こうは暗い海が広がっている。
これをやったであろう人物に振り向く。そこには、いる筈のない人物――月が獣の腕を構えて対峙していた。
(月!? なんでここに!?)
「俺もここでの緊急要請を受けてな、直行で駆けつけたんだ。それよか…お前らが何の仕事してるか、ボコボコにした後に聞かせて貰うぞ」
「…いいぜ、あの時のリベンジといこうじゃねーの」
避けられない戦闘に、空もまた大剣を構え直す。
そうして、二人は同時に床を蹴った。
戦場と化した停泊船から離れた場所で、翼はスマホを弄って作業をしていた。
中は数字とアルファベットの羅列がずらっと並んでおり、所々で『ERROR』の文字が液晶画面に大きく映る。
しかし、それを無視して指を無心に動かす。やがて画面に『OPEN』と映し出されると、翼は大きく背伸びをした。
「んー…これでここらのセキュリティ解除は完了っと」
UGNの管理する停泊船の全セキュリティを解除に成功。ある程度凝りをほぐすと、持っていたスマホをポケットにしまうと大きく欠伸をする。
「あ〜、明日絶対寝不足だよ…授業中眠ちゃっても、成績に支障はないけどさ〜」
普通の学生ならば悩む問題も、ノイマンと言う天才になれるシンドロームを持つ翼にしてみればどこ吹く風と言った所だ。
とは言え、与えられた仕事は終わった。後は実行部隊に任せればいい。こっそりと翼は帰ろうと背を向けたが、すぐに船の方へと振り返った。
「…空さんと蒼空さん、大丈夫かな?」
UGNとFHの争いは激しさを増し、あちこちで火の手すら昇っている。
月と空による二人の激戦もまた、場所を船の甲板へと移していた。
「やるじゃねえか…!」
「へっ、身体が頑丈なのが取り柄だからなぁ!!」
互いに血を流し、牙を剥き、戦意は衰えず。尚も戦い続ける二人。
致命傷は負っていない。それもそうだ、二人はオーヴァード――損傷を激しく受けた途端、肉体に宿るレネゲイドが働きかけて傷を治してくれるのだから。しかし、その効果は無限ではない。効果が切れた時こそ、オーヴァードの本番だ。
ジリ、と大剣を握る空に間合いを取る月。本来ならば問答無用で叩きのめすのが一番だ。だが、月はその選択をしなかった。
一撃で、沈める。そんな思いを抱き、深呼吸する。月の決意を感じ取ったのか、空は先手で月に駆けこむ。
月はカウンターを狙って敢えて迎え撃つ。大剣と鉤爪、それぞれの武器が交差する。
この一騎打ちは…空の背から鮮血が飛び散った事で、終わりを迎えた。
「え…!」
「がっ…さっきの、チルドレン…!」
「終わりだ、紅の刃」
意識を取り戻したのだろう。先程空が気絶させた少年は、突き刺したナイフを引き抜くと同時に傷口に爆発を起こす。追撃に耐えられず、空は敢え無く膝をついて倒れる事となった。
敵を倒した事を少年が確認すると、すぐに月へと近づく。
「大丈夫か、お前」
「馬鹿野郎! 背を見せるな!」
助けて貰ったにも関わらず、月は少年を怒鳴りつける。これには少年は不満そうに眉を顰める。
直後、少年の背中に切り裂かれる激痛が襲い掛かった。
「…悪い。寝ててくれ」
「な、ぜ…!」
血を吐きながらも、少年は襲った人物を目にする。
倒した筈の空が、大鎌を振るっていた。傷は僅かながらも塞がっており、黒だった瞳も赤く変色している。
「てめえの所為だぞ…あいつ、余計に強くなりやがった」
悪態を吐きつつも、月は少年を庇う様に前に立つ。
空に対していつものように戦わなかったのは、仲間だからじゃない。『戦闘用人格』――一定の基準値に浸蝕されると、レネゲイドの力を更に引き上げてパワーアップするからだ。こうなってしまえば、倒すのは容易ではない。
目の前の空は申し訳ないように視線を送った後、ポケットからスマホを取り出して何かを確認している。
「月、これからどうする?」
「お前をぶっ飛ばす。俺がやる事はそれしかねえだろ?」
「…こっちの目的は果たしたそうだ。戦う意味はない」
「逃げ道作ってくれるとは嬉しいなぁ――『蒼空』」
この時にしか現れない本来の人格…蒼空に礼を言うものの、月の戦意は失ってない。
「だが、敵を目の前にして引くなんて選択肢、チルドレンの俺にはねえんだよ!!」
「なら、来い」
それだけ言うと、蒼空は血の大鎌を構える。
蒼空はお人好しな性格が災いして、一度仲間としての絆を持つ相手には交戦的でなくなる。しかし、彼もまた元UGN。だからこそ、月の意図を汲み取って再び戦う選択を取る。
もう一度攻撃を仕掛ける蒼空に、月は再度カウンターを決めようと低く構える。5歩、4歩、3歩――互いの距離が僅かとなった。
その時、船全体を覆うように重苦しい“何か”が乗員全員に襲い掛かった。
■作者メッセージ
残面ながら、ここで一旦終了です。誕生日までに間に合わなくて本当にごめんなさい…!! 頑張った、頑張ったんですけどね…!!
誕生日を越す形になりますが、せめて6日後に迎える私の誕生日までには完成を目指します…あとがきもその時に…。
…まあ、国家試験が5日後にあるんですがね。今回の執筆の遅れは、色々と切羽詰まった状況です。簿記やばくね…? あれは計算じゃない、社会だ、国語力必要としてる…! 計算なら得意分野なのにぃ…!!
誕生日を越す形になりますが、せめて6日後に迎える私の誕生日までには完成を目指します…あとがきもその時に…。
…まあ、国家試験が5日後にあるんですがね。今回の執筆の遅れは、色々と切羽詰まった状況です。簿記やばくね…? あれは計算じゃない、社会だ、国語力必要としてる…! 計算なら得意分野なのにぃ…!!