第八話 「黒の訪問者」
引き続き八番街を見て回っていたザックスは、先程知り合った女タークス、シスネが戦闘に入っているのを確認する。しかも状況はさっきとは違い、シスネの方が圧されているように見える。
すぐさま駆け付け敵の様相に目をやると、敵は赤いコートを着た、赤い髪の男―――――ジェネシスだった。ジェネシスコピー程度なら苦にならないほどの腕の持ち主であるシスネがこうも一方的に防戦を強いられる相手―――――となれば、気を引き締めてかかった方が良い、とザックスも警戒心を強める。背の剣を手に構え、ある程度の距離を保ちながら、相手の隙を伺い攻撃の機会を見出そうとする。
「・・・・・・。」
「ちょっとクロウ!!見てないでザックスを手伝ってあげて!!」
そんなザックス同様、事態に駆け付けたクロウにシスネは声を上げて頼み込む―――――が、クロウは身に付けているそのゴーグルの下から敵の姿をまじまじと見詰めると、
「―――コピーなら、お前でも倒せる筈だ。」
と一言言って、シスネが膝をついている近くの煉瓦造りの建物の壁に腕組みしながらもたれかかった。
見立てではあれはジェネシス本人ではなくそのコピーだという。新米1stであるザックスの実力を見極める為か、はたまたただ面倒くさいだけなのか、とかくクロウは何を思ってかは知らないが、ザックスを助けるつもりは毛頭ない様子だ。ついにはあくびまで披露して見せた子ども1stの姿に、敵を警戒しながらも振り返って様子を見ていたザックスは少々苛立ちを覚えたが、そこから彼も一言、
「・・・ったく、その余裕、いつか俺がぶっ壊してやるから覚悟しとけよ!!」
と言ってのける。見ている側からすれば、敵を目の前にして大胆にもそんなことを宣言して見せるザックスにも、かなり余裕があるように見えるが、それは敢えて誰も突っ込まないことにした。
「来い!!」
そうしてコピーが自身の武器を構える。見たところ、銃と剣、両方の機能を併せ持つ特殊武器―――――ガンブレードのようだ。様子を見ていたクロウは表情こそ変えなかったものの、敵の武器を見た瞬間にあれがコピーであることに確信を持つ。そう、ある程度知っているからこそ分かる、当人の癖や仕草などがある。今回決定的だったことは、そもそもジェネシスはガンブレードなど使わない、ということ。
「おりゃあぁああぁぁああああっっっ!!」
大きな声を上げながらザックスが相手向かって剣を振りきっている。いつものことだが、彼は戦う最中もそれ以外もとにかく騒がしい。うるさいことに付け加え、無駄な動きが多く体力も浪費しやすいその戦い方を見ると、思わず溜息を吐きたくなる、とクロウは思う。そうして呆れたのか、クロウがその頭を少々俯かせた瞬間、頭の上を何かが飛び去っていく気配がした。
街灯に照らされ、街路に光が差す中、その僅かな一瞬だけ、自身の影以外の黒い何かが、光を覆うように過ぎ去った。瞬時に街灯の柱を軸に建物の上へと跳び上がったクロウは、戦うザックスにも、自身を振り返るシスネにも目をくれず、その何かの追跡を開始する。
「クロウッ!?」
一瞬の出来事に訳が分からなかったシスネは、自分たちに何の言葉もなく行ってしまったクロウの後ろ姿が視界から消えるまで、ずっとその姿に目をはせていた。
得体の知れない何かは建物上を跳び回り、どんどん人気のないところまで行ってしまう。黒いマントのようなものを被っているため断定こそできないが、俊敏な動きや形からして人間か、或いは人型のモンスターといったところか。クロウはザックスと同じく足にはそれなりに自信がある為、見失うことはしなかったが、それでもなかなか追いつくことは出来ない。
「チッ、埒があかん。」
まるで追いかけっこでもしているかのような感覚、相手もそれなりに足が速い。このままでは距離を縮めることは出来ず、体力が尽きるまで延々と鬼ごっこの繰り返しのようになってしまう。―――――が、しかし、そう思った瞬間に黒い何者かは突然建物上から跳び下り、人気のないガラクタの集積所まで来るとその足を止めた。すかさずクロウも同様に跳び下り辺りを見渡す。おそらくは神羅からはだいぶ離れた辺境の地。周囲の機械類やその他ガラクタが積み上げられているこの情景から推察するに、神羅の技術開発に使われた備品やその他廃棄処分が決定された機器を集積する為の場所のようだ。
「おい、もうそろそろソレ、取っても良いんじゃないか?空気が吸いづらいだろう・・・?」
睨みながらそう告げたクロウの言葉に、黒い物体はくるっとこちら向きに回転すると、一気にそのマントを脱ぎ棄てた。
「―――――なかなか威勢が良い。実に美味そうに育った。」
「―――?」
「いや・・・。」
不気味に笑い声をあげる『それ』は突如現れた。短い黒髪の、兄ロゼと同じように顔面の右側をその漆黒の髪で隠し、露わにしている左目は深みを帯びた紅―――――というよりは、もっと残酷な・・・そう、例えるなら"血"の色。異様に白い肌に端正な顔立ちの『それ』は、声や姿だけではおそらくザックスとそう歳は変わらない。しかし、対峙しただけで身の毛のよだつような禍々しい雰囲気からは、この男がかなりの死線を潜り抜けてきた強者であることが本能的にすぐ分かった。
「俺のことを知っているような口ぶりだな・・・。」
「そう、知ってるよ?俺はお前と同じ年、同じ日に生まれたんだ。何か運命感じるよねぇ・・・?」
「ふざけるな。お前のキモイ妄言など誰が話せと言った。」
「妄言じゃないぜ?お前の名前はクロウ・ボルフィード。XXX年10月14日、ここから遠く離れた"聖地"―――ユニゾンレイヴの最奥に聳える城の中、今は亡き城主、グリフィス・ボルフィードの子として誕生する。英才教育を施され、飲み込みも速い天才だったが、ある年の誕生日に自分と兄以外の同胞全てを惨殺され、その後今を時めく大企業―――神羅カンパニーの軍事部門に所属。類稀なる才能を発揮し今じゃ史上最年少記録を持つ現役ソルジャー・クラス1stだ。」
少年は不気味な笑いをこだまさせながら実に楽しそうにクロウを見詰めながらそう口にする。
「合ってるだろ?」
両手をあげてどうだ?と言って見せる少年を前に、クロウはゴーグルの下、そのただでさえ冷たい目を更に細めた。
合っている、どころではない。これは兄であるロゼと、タークスのツォン以外は誰も知らない事実。社員はおろか、1st、果てには自分達ソルジャーを統括するラザードでさえ知っているはずのない情報だと言うのに、何故こんな得体の知れない男が知っている?内部に潜んでいたスパイか?
「でもおかしいよな。歳が同じならお前の年齢は15歳。でも今のお前はどう見ても10歳そこらにしか見えないんだよなぁ。それともアレ?成長したのにその姿ってこと?おっかしいなぁ・・・。俺の見立てじゃ、15のお前はもうちょっと髪の長いグ―――――――・・・」
「―――――死ね!!」
少年が言葉を紡ぎかけた瞬間、クロウは思い切り地面を蹴って一気に少年まで間合いを詰め、そうして手から白い大剣を召喚しそれで少年に切りかかった。とっさに少年は下げていたホルダーから銃を一丁取り出すと、すかさずそれで剣を受け止める。装甲からするに、かなり強度の高い金属を加工して作られたものらしく、クロウの身長はゆうに超える大刀の太刀筋を受けても、傷一つ付かない。
「お前は何だ?ウータイのスパイか?ジェネシスの手の者か?それともただのストーカーか?」
均衡状態にある状況でクロウはそう言い放つ。言葉に少年は大剣を越えてクロウに顔を近付けると、
「―――ばらされそうになって怒った?」
と囁いた。
普段から機嫌の悪いクロウはその言葉に更に激怒し、大剣を振り上げて少年を後退させる。
「昔はそんなに怒りっぽくなかったのに・・・。まぁいいか、教えてやる。
俺の名前はルシア・キャンベル。何故こうもお前の素性に詳しいのかと言うとぉ―――、実は俺もお前らの一族の一員だからっ。そんでもってぇ―――――・・・
・・・―――――俺がお前の『捜し人』、つまりは、お前らの一族を惨殺した張本人なんだよ・・・。」
すぐさま駆け付け敵の様相に目をやると、敵は赤いコートを着た、赤い髪の男―――――ジェネシスだった。ジェネシスコピー程度なら苦にならないほどの腕の持ち主であるシスネがこうも一方的に防戦を強いられる相手―――――となれば、気を引き締めてかかった方が良い、とザックスも警戒心を強める。背の剣を手に構え、ある程度の距離を保ちながら、相手の隙を伺い攻撃の機会を見出そうとする。
「・・・・・・。」
「ちょっとクロウ!!見てないでザックスを手伝ってあげて!!」
そんなザックス同様、事態に駆け付けたクロウにシスネは声を上げて頼み込む―――――が、クロウは身に付けているそのゴーグルの下から敵の姿をまじまじと見詰めると、
「―――コピーなら、お前でも倒せる筈だ。」
と一言言って、シスネが膝をついている近くの煉瓦造りの建物の壁に腕組みしながらもたれかかった。
見立てではあれはジェネシス本人ではなくそのコピーだという。新米1stであるザックスの実力を見極める為か、はたまたただ面倒くさいだけなのか、とかくクロウは何を思ってかは知らないが、ザックスを助けるつもりは毛頭ない様子だ。ついにはあくびまで披露して見せた子ども1stの姿に、敵を警戒しながらも振り返って様子を見ていたザックスは少々苛立ちを覚えたが、そこから彼も一言、
「・・・ったく、その余裕、いつか俺がぶっ壊してやるから覚悟しとけよ!!」
と言ってのける。見ている側からすれば、敵を目の前にして大胆にもそんなことを宣言して見せるザックスにも、かなり余裕があるように見えるが、それは敢えて誰も突っ込まないことにした。
「来い!!」
そうしてコピーが自身の武器を構える。見たところ、銃と剣、両方の機能を併せ持つ特殊武器―――――ガンブレードのようだ。様子を見ていたクロウは表情こそ変えなかったものの、敵の武器を見た瞬間にあれがコピーであることに確信を持つ。そう、ある程度知っているからこそ分かる、当人の癖や仕草などがある。今回決定的だったことは、そもそもジェネシスはガンブレードなど使わない、ということ。
「おりゃあぁああぁぁああああっっっ!!」
大きな声を上げながらザックスが相手向かって剣を振りきっている。いつものことだが、彼は戦う最中もそれ以外もとにかく騒がしい。うるさいことに付け加え、無駄な動きが多く体力も浪費しやすいその戦い方を見ると、思わず溜息を吐きたくなる、とクロウは思う。そうして呆れたのか、クロウがその頭を少々俯かせた瞬間、頭の上を何かが飛び去っていく気配がした。
街灯に照らされ、街路に光が差す中、その僅かな一瞬だけ、自身の影以外の黒い何かが、光を覆うように過ぎ去った。瞬時に街灯の柱を軸に建物の上へと跳び上がったクロウは、戦うザックスにも、自身を振り返るシスネにも目をくれず、その何かの追跡を開始する。
「クロウッ!?」
一瞬の出来事に訳が分からなかったシスネは、自分たちに何の言葉もなく行ってしまったクロウの後ろ姿が視界から消えるまで、ずっとその姿に目をはせていた。
得体の知れない何かは建物上を跳び回り、どんどん人気のないところまで行ってしまう。黒いマントのようなものを被っているため断定こそできないが、俊敏な動きや形からして人間か、或いは人型のモンスターといったところか。クロウはザックスと同じく足にはそれなりに自信がある為、見失うことはしなかったが、それでもなかなか追いつくことは出来ない。
「チッ、埒があかん。」
まるで追いかけっこでもしているかのような感覚、相手もそれなりに足が速い。このままでは距離を縮めることは出来ず、体力が尽きるまで延々と鬼ごっこの繰り返しのようになってしまう。―――――が、しかし、そう思った瞬間に黒い何者かは突然建物上から跳び下り、人気のないガラクタの集積所まで来るとその足を止めた。すかさずクロウも同様に跳び下り辺りを見渡す。おそらくは神羅からはだいぶ離れた辺境の地。周囲の機械類やその他ガラクタが積み上げられているこの情景から推察するに、神羅の技術開発に使われた備品やその他廃棄処分が決定された機器を集積する為の場所のようだ。
「おい、もうそろそろソレ、取っても良いんじゃないか?空気が吸いづらいだろう・・・?」
睨みながらそう告げたクロウの言葉に、黒い物体はくるっとこちら向きに回転すると、一気にそのマントを脱ぎ棄てた。
「―――――なかなか威勢が良い。実に美味そうに育った。」
「―――?」
「いや・・・。」
不気味に笑い声をあげる『それ』は突如現れた。短い黒髪の、兄ロゼと同じように顔面の右側をその漆黒の髪で隠し、露わにしている左目は深みを帯びた紅―――――というよりは、もっと残酷な・・・そう、例えるなら"血"の色。異様に白い肌に端正な顔立ちの『それ』は、声や姿だけではおそらくザックスとそう歳は変わらない。しかし、対峙しただけで身の毛のよだつような禍々しい雰囲気からは、この男がかなりの死線を潜り抜けてきた強者であることが本能的にすぐ分かった。
「俺のことを知っているような口ぶりだな・・・。」
「そう、知ってるよ?俺はお前と同じ年、同じ日に生まれたんだ。何か運命感じるよねぇ・・・?」
「ふざけるな。お前のキモイ妄言など誰が話せと言った。」
「妄言じゃないぜ?お前の名前はクロウ・ボルフィード。XXX年10月14日、ここから遠く離れた"聖地"―――ユニゾンレイヴの最奥に聳える城の中、今は亡き城主、グリフィス・ボルフィードの子として誕生する。英才教育を施され、飲み込みも速い天才だったが、ある年の誕生日に自分と兄以外の同胞全てを惨殺され、その後今を時めく大企業―――神羅カンパニーの軍事部門に所属。類稀なる才能を発揮し今じゃ史上最年少記録を持つ現役ソルジャー・クラス1stだ。」
少年は不気味な笑いをこだまさせながら実に楽しそうにクロウを見詰めながらそう口にする。
「合ってるだろ?」
両手をあげてどうだ?と言って見せる少年を前に、クロウはゴーグルの下、そのただでさえ冷たい目を更に細めた。
合っている、どころではない。これは兄であるロゼと、タークスのツォン以外は誰も知らない事実。社員はおろか、1st、果てには自分達ソルジャーを統括するラザードでさえ知っているはずのない情報だと言うのに、何故こんな得体の知れない男が知っている?内部に潜んでいたスパイか?
「でもおかしいよな。歳が同じならお前の年齢は15歳。でも今のお前はどう見ても10歳そこらにしか見えないんだよなぁ。それともアレ?成長したのにその姿ってこと?おっかしいなぁ・・・。俺の見立てじゃ、15のお前はもうちょっと髪の長いグ―――――――・・・」
「―――――死ね!!」
少年が言葉を紡ぎかけた瞬間、クロウは思い切り地面を蹴って一気に少年まで間合いを詰め、そうして手から白い大剣を召喚しそれで少年に切りかかった。とっさに少年は下げていたホルダーから銃を一丁取り出すと、すかさずそれで剣を受け止める。装甲からするに、かなり強度の高い金属を加工して作られたものらしく、クロウの身長はゆうに超える大刀の太刀筋を受けても、傷一つ付かない。
「お前は何だ?ウータイのスパイか?ジェネシスの手の者か?それともただのストーカーか?」
均衡状態にある状況でクロウはそう言い放つ。言葉に少年は大剣を越えてクロウに顔を近付けると、
「―――ばらされそうになって怒った?」
と囁いた。
普段から機嫌の悪いクロウはその言葉に更に激怒し、大剣を振り上げて少年を後退させる。
「昔はそんなに怒りっぽくなかったのに・・・。まぁいいか、教えてやる。
俺の名前はルシア・キャンベル。何故こうもお前の素性に詳しいのかと言うとぉ―――、実は俺もお前らの一族の一員だからっ。そんでもってぇ―――――・・・
・・・―――――俺がお前の『捜し人』、つまりは、お前らの一族を惨殺した張本人なんだよ・・・。」