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FINAL FANTASY Z

960

INDEX

  • あらすじ
  • 01 序章T 「その戦士、孤独」
  • 02 序章U 「その戦士、焦る」
  • 03  第一話 「ザックス」
  • 04 第二話 「ウータイ」
  • 05 第三話 「灯」
  • 06 第四話 「夢・記憶@」
  • 07 第五話 「曲者揃い」
  • 08 第六話 「対面」
  • 09 第七話 「シスネ」
  • 10 第八話 「黒の訪問者」
  • 11 第九話 「ルシア」
  • 12 第十話 「四人」
  • 13 第十一話 「戯れ」
  • 14 第十二話 「邂逅」
  • 15 第十三話 「エアリス」
  • 16 第十四話 「騒動」
  • 17 第十五話 「神の都市」
  • 18 第十六話 「少女」
  • 19 第十七話 「胎動」
  • 20 第十八話 「虚実」
  • 21 第十九話 「ペア@」
  • 22 第二十話 「ペアA」
  • 23 第二十一話 「夢・記憶A」
  • 24 第二十二話 「夢・記憶B」
  • 25 第二十三話 「宣告」
  • 26 第二十四話 「リバーシ」
  • 27 第二十五話 「接触」
  • 28 第二十六話 「見据える者」
  • 29 第二十七話 「ルーツ」
  • 第十六話 「少女」



     飛空艇が大陸に降り立ったのはそこから間もなくの事だった。
     成程『神の都市』と呼ばれ人類未踏の地という印象は尤も。先刻船内でロゼが発した発言の中に「迎撃システム」といったワードがあったように思うが、体感してみると確かにあれを無傷で潜り抜けるのは至難の業だと言えよう。あまりにも多種多様な魔法陣があれよあれよと瞬く間に展開していっては、信じられない破壊力をもって容赦なく飛空艇に襲い掛かって来るのだ。ヘリや小型機でさえ危ないというのに、大型の飛空艇などどうぞ攻撃してくださいと言わんばかりの大きさがある。最早格好の的であろう。
     自分たちが上陸するのにもかなりの数の攻撃が飛んできたが、船を一旦オートに切り替えた後、すぐさまにロゼが何かしらの魔法を発動させ迎撃システムを停止させた。曰く『アルカナ』と呼ばれるその魔法はロゼ達大陸に住む特定の人種しか使えない固有のものらしく、彼らの同伴なしでの上陸はまず不可能だという。ロゼが魔法を使う場面は戦地に出向けばよく目にする光景だったが、得意のブリザガ以外の魔法を使うのはかなり珍しい。

    「―――さて、到着しましたよ。お客さん。」

     話ではユニゾンレイヴは大陸全土に散らばる都市の中でも最大級のもので、都市起点部には大きな目立つ城が聳え立っているとの事だった。上空から見渡せたそれは巨大な扇状に広がった都市で、これも成程、神羅本社に負けず劣らずの荘厳な城が都市を監視でもするかのように聳え立っていた。そんな巨大な城の城門跡地の手前にグレーの中型飛空艇が一機停泊している。おそらくはクロウ自身が乗ってきたものであろう。

    「俺はこれから城へ行くけど、君はどうする?すごく食い付いてたし、観光してても構わないけど。何もないけど、遺跡探索だと思えばそれなりに面白いかもしれないしね。」

     飛空艇を中型機のすぐ横に泊め、先に地に足を踏み入れたセフィロスをその眼に捉えながらも別段急ぐ気配も見せず悠長に階段を下りながら、ロゼはそう言葉を発した。頭上から降ってきたその声にセフィロスは少々黙り込むが、暫く考え込んだ後、未だ階段中腹で城の前方に広がる街を澄んだブルーで見詰めている白銀の美青年を振り返ると、首を横に振りながら、

    「―――いや、観光が目的じゃないからな。」

    と一言言ってのけた。言葉に青年は少し驚いたような表情を見せた後、緩やかに微笑む。真夜中発の旅路だったからか、未だ天に煌々と存在を主張し続けている大きな光は、眼前に佇む白銀を遙かな高みから輝くように照らしていた。後光、とでもいうのか。彼の色素の薄い長髪や肌は後方からの光による逆光で更に薄く、消え入るような儚さを―――――そして同時に、そんな中であるからこそ一際深みを見せたコバルトブルーは自身を飲み込む光でさえも飲み干してしまいそうな力強さを携えている。不思議な光景だ。この大陸の人間だと聞かされたときは少なからず驚いたものだったが、今のこの光景を見ると違和感は払拭され、この男が間違いなくこの都市の住人なのだという確信にも似た思いが湧いてくるのだ。

    「―――本当に女顔だな、お前は。その笑い方、直した方が良いんじゃないのか?」

    「・・・君は俺に喧嘩を吹っかけてきているのかな?切り刻むよ?」

     ―――親しい間柄でよくやったおふざけも交えつつ。使っている様は一度も見たことがないが常に腰に下げている剣に手をかけて、その後呆れたように溜息一つ吐きながら大きく肩をすぼめたロゼは、さっさと階段から降りてくると右方で仁王立ちする巨大な“白”に視線を向けた。

    「・・・まあ良いさ。物怖じしない勇敢な英雄様にはこれから頑張ってもらうとしよう。」

    見る者を恍惚とさせる先程までの微笑はどこへやら。急に神妙な面持ちでそう呟いたロゼの言葉は、前方から突如吹き荒れた風の音によりかき消されてしまう。隣に並び立つこの男が何をもってそのような表情をするのか―――――今のセフィロスには知る由もなかった。





     風は城の中から吹き込めているようだった。神聖な景観に似つかわしくない、荒々しく吹き荒れる暴風にも似たそれは微かな魔力を帯びている。かろうじて目視できる紫色を纏ったそれは、かつて対戦したことのある見知った相手のそれと同質のもので、しかしそれでいて以前の相手からは感じ取れなかった憎悪に満ち溢れていた。
     誰も住んでいないという城内は外観の城とは正反対の暗い雰囲気に包まれ、更に異質な魔力のこもった風が行く手を阻むように吹き荒れ、向かってくるのであるから、事は探し人を連れ戻すという単純なものだけでは済みそうにない事が容易に想像出来る。
     悠長に城の中を見物、というわけにもいかない雰囲気の中歩を進める二人の長身の男はどちらが先立って歩くでもなく、ただ風の吹き荒れる中心を目指してひたすらに進んでいた。肌で直接感じ取れるこの憎悪は殺意にも似た異様な空気で城の内部を支配している。普段の様子でさえ若干の怒気を醸し出しているかの人物は、任務―――――殊更戦場へと赴く場合それを鬼気へと膨張させる傾向があったが、これはその比ではない。兄として、同じ階級に所属する同士として、それぞれが各々に対戦した経験を振り返るが、これほどにまで大きくかつ禍々しい力を見た記憶はなかった。

    「―――――隠していた、というわけじゃないだろう。薬の効果とやらが切れてきているのか?」

    「そう考えて間違いないだろうね。あれの持続時間、ここ最近はもって1週間くらいだとか言ってたし。要は・・・そういうことでしょう。」

     巨大な城の中を一体どのくらい進んだのか。禍々しい空気にあてられてもう随分長い間いるようにも錯覚するが―――――・・・。




     “―――――――う・・ぁ・・・”




     それは突然に。而して必然に。
     空気中の魔力の濃度が一段と濃いその場所は、これまでの通路とは違って広く大きく抜けた大広間だった。ここまで続いた長々としたレッドカーペットの導くその最奥に高々と設けられた玉座は、ここがかつて玉座の間として使用されていたことを静かに物語る。そうしてそんな広間の、赤い道の中央にうずくまり悶える“黒”を視界に捉えると、二人は無言のままに凶器渦巻くコアへと足を進めた。
     近付いてくる足音に気付いたのか、それは震える体を抑え込みながら僅かにこちらを振り返った。乱れたプラチナゴールドの髪の隙間から覗くコバルトブルーが二人の姿を捉える。
     見たところまだ薬は切れてはいないようだった。首筋までの髪にこじんまりとした身体を見る限り、それは確信出来る。しかしこの苦しみ様はその効果が切れかかっていることを示していた。宝条が言っていたという副作用は普通の人間を死に至らしめるほどの激痛だという。おそらくはこれがそれなのだ。効く時は勿論のことであろうが、どうやらこの毒薬は効果が薄れる際にも副作用をもたらすらしい。まったくもって忌まわしい薬だとロゼは思う。

    「・・・ハァ・・・・・・ハァ・・・っ・・・な・・何しに・・・・・・来・・た・・・?」

    息も乱れ途切れ途切れに言葉を紡ぐ姿を前にロゼは片膝をついてしゃがみ込むと、その青をはっきりと見据えて右手を差し伸べた。

    「―――お前を連れ戻しに来た。戻るぞ、クロウ。」


    “帰る”、ではないのか―――――・・・。
    生粋の神羅育ちの自分にとって入社してくる人間があの組織をどう思っているかは正直どうでも良いことではあったが、いざ友の口から言葉となって出てくる本心には少なからず胸が痛む。そう、この兄妹には帰る場所がある。紛れもなく、あそこは二人にとって“戻る”場所ではあれ、“帰る”場所ではないのだ―――――。


     光景をただ棒立ちしながら見ていることしか出来ないセフィロスは心中そう思う。
     一方でクロウは激しい痛みの中こちらを見詰める兄の姿が自身を取り巻く黒い瘴気のせいであの忌まわしい漆黒の少年と重なって見え、一層漏れ出す力が制御出来ずにその場に倒れこんでしまった。

    「ア゛ア゛アァアァァアァアア・・・ッ・・・・・・・・・ぐッ・・・が、ア゛ッ・・ァァアアアアアアアアアアアア―――――ッッッッ!!!!」

    「マズイ、時間がないッ!!セフィロス、俺は替えの服を取ってくるからクロウの事頼んだよ!!」

    「―――!?おい!?」

    そう叫んで左方の扉へと早々と走り去っていくロゼの行動に困惑しながらも、いきなりとんでもない状況を押し付けられたセフィロスは叫び声を上げ続けるクロウの手を取り敢えずといった具合に握る。いつもなら嫌悪の混じった様子で振り払われるであろうその手は状況が状況だからか払われることもなく、セフィロスは無心で小さな子どもの手を精一杯握り締めていた。
     兄弟がいないせいかはたまた子どもと接する機会がなかったせいか、握り締めた手の小さくか細い事に気が付けば、その事実にどうしようもない悲しい思いが込み上げてくる。化物揃いと言われるクラス1stに史上最年少で昇格した鬼才。有する能力や将来性で言えば間違いなく頭一つ抜きん出るだろう。しかし史上最年少であるが故に子どもであるということもまた事実。こんな小さな手が、自分達と同格に戦ってきたのだ。小さい中にも確固として根付く力強さを示してきたのだ。その手が今、享受するしかない痛みの中でもがき苦しみ、自分の手を力の限り握り返している。暗い闇の中に一筋の光を見出したかのように、それにすがろうと必死でもがいている。

    「大丈夫だ、クロウ。ついていてやる。」

    ―――――不器用な言葉をかけた折に不意に視界がその全身を映した時だった。いや下手な励ましに呼応するかのように握り締めていた手に、より一層の力が込められた瞬間だったかもしれない。セフィロスは目の前、そして掌中で起こる変化に気が付く。


     大きくなっている―――――?

    違和感を感じたのは握っていた手が少し大きくなったように感じたからだった。まさかと思いクロウに注意を張り付かせると、それが勘違いではなく紛れもない事実であることを悟る。
     見慣れた少年の髪は確かに首筋のラインまでの短いものだった。だが今、その金色の髪は徐々に肩のラインに到達し、見る見るうちに背中から腰にまで伸びていく。そうして心なしか、小柄な身体が少しずつではあるが大きくなってきているように見えた。クロウが普段トレーニング用に着用しているハイネックのウェアは強度と伸縮性に優れた逸品だと聞いたことがあったが、子ども姿の時にはこれほど余裕ないサイズではなかった筈だ。もっと決定的だったのはボトムの変化であろうか。ソルジャーに配布される戦闘服の一番小さいサイズを渡してもぶかぶかだったそれが、どんどん体のラインを映し出すように膨らんでいく。

    「な・・・、これは・・・。」

    そうしてクロウの声が徐々に小さく治まっていくのと同調して、発せられていた瘴気もどこかへ消え去り、先程の禍々しさは嘘だったかのように閑散とした空間が戻ってきた。
     過去にあったという惨劇の被害が城にまで拡大していたのは所々崩れている壁や柱の様子から想像がついたが、そこから僅かに漏れ出る外気の光がひどく静かになった広間の至る所に差し込む。そうして声が途切れた瞬間力をなくした手が微かに動くのを感知すると、セフィロスは改めてその神秘を前に言葉を失くした。
     元に戻る過程でサイズが合わなくなったのであろう、上下ともに衣服は破れ、露わになった白い肌は兄のそれと同質のもので。ただそれでも、明らかに腫れのレベルを超える丸みを帯びた胸元や腰から足にかけての滑らかな曲線はそういった点では異質さを帯びている。華奢な肢体を彩るプラチナゴールドは日の光を受けて更に輝きを増し―――――、流れる金の川を掻き分けると、長いまつ毛に大きな紺碧の瞳、すっと通った鼻筋にほんのりと赤く染まった唇が見る者の視線を釘付けにする。


     “女の子なんだから―――――・・・”


    ―――――頭では分かっていた。そう口にすることで事実を認識しようとした。
    しかしセフィロスがクロウを一人の少女と認識したのは今、まさにこの瞬間であったのだ―――――・・・。





    16/07/01 10:14 960   

    ■作者メッセージ
    ここ最近ペースが安定していて調子が上がっている960です。
    ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!!
    今回はラストの方の表現にすごく悩みました、書いていいのかとか云々・・・。元々Zシリーズがシリアスと言うか若干放送禁止になりそうな裏を堂々と描いた作風になっているので、私の方もその辺は出来るだけ忠実にしようと思っております。苦手な方はごめんなさい。


    話の方はですね、今回はセフィロスに視点を置きながら兄妹の姿を描いたものとなっております。そういえばやっと『兄弟』から『兄妹』表記へと移行しましたね、長かった←
    ちょこちょこ補足を入れていくと、ロゼは自分が女顔であることにコンプレックスを抱いていて、それに触れられると凄く怒ってしまうという設定が存在します。後々描く予定ですけど、彼が口調のわりに一人称を『俺』にしているのは少しでも男らしくなりたいからであるそうです。
    身長はがっつり男性のそれなんで、コルネオの館とかで万が一女装してもおなご認識はされないでしょうね!( *´艸`)
    体格は巨躯というよりは身長のわりに痩躯の方が適切かも。ヤズーが一番モデルとしては近いのではと思われます。

    因みに都市の異様な白さはギリシャのエーゲ海に面するかの有名な街から発想を受けております。城そのものは完璧にオリジナルですが、今回描写のあった玉座の間はロシアのエカテリーナ宮殿の玉座の間をこれまた白く広くしたような構造だと思っていただけるとイメージしやすいかも・・・?

    それでは次回更新まで!!
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