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FINAL FANTASY Z

960

INDEX

  • あらすじ
  • 01 序章T 「その戦士、孤独」
  • 02 序章U 「その戦士、焦る」
  • 03  第一話 「ザックス」
  • 04 第二話 「ウータイ」
  • 05 第三話 「灯」
  • 06 第四話 「夢・記憶@」
  • 07 第五話 「曲者揃い」
  • 08 第六話 「対面」
  • 09 第七話 「シスネ」
  • 10 第八話 「黒の訪問者」
  • 11 第九話 「ルシア」
  • 12 第十話 「四人」
  • 13 第十一話 「戯れ」
  • 14 第十二話 「邂逅」
  • 15 第十三話 「エアリス」
  • 16 第十四話 「騒動」
  • 17 第十五話 「神の都市」
  • 18 第十六話 「少女」
  • 19 第十七話 「胎動」
  • 20 第十八話 「虚実」
  • 21 第十九話 「ペア@」
  • 22 第二十話 「ペアA」
  • 23 第二十一話 「夢・記憶A」
  • 24 第二十二話 「夢・記憶B」
  • 25 第二十三話 「宣告」
  • 26 第二十四話 「リバーシ」
  • 27 第二十五話 「接触」
  • 28 第二十六話 「見据える者」
  • 29 第二十七話 「ルーツ」
  • 第二十三話 「宣告」



    「言っとくが手当は自分でしろよ。そこまでの面倒は見んからな。」

    クロウとの対人訓練を始めて早3日。今日も今日とて見るも無残に敗北したザックスは、立腹してトレーニングルームを出ていった少女の後ろ姿を無言で見送る。前回ロゼに言われた通り、初日の訓練以降、クロウは律義にも兄の言いつけを守り二刀で相手をしてくれている―――――が、大刀一本の時ですら攻撃を受け止めるので精一杯だったのに、それが更に加速するとなれば当然防ぎきれない攻撃が増していく。ここ数日で何となくクロウの戦闘スタイルは掴めてきたが、まだ自分の体が思うようには動かない為、彼女に一撃入れるなんて話は当分先のことになりそうだった。

    「1stは伊達じゃない、か・・・。」

    「―――――どーした?悩める子犬ちゃんよッ!!」

     トレーニングルームを出てすぐの所にある休憩スペースでもの思いに耽っていたら、どこからともなく聞き慣れた声が飛んできた。ここ最近は色々な騒動のせいで会っていなかった所為か、耳に馴染んだこの男の声ですら随分懐かしく感じる。

    「・・・カンセル!」

    「よっ!ザックス!」





     あれから話し出すと止まらなくなり、休憩を兼ねて二人で久し振りに社外へ昼食を取りに行った。男二人でランチなんて色気も何もないが、1st連中の所為で嫌というほど実感させられる実力面での置いてけぼり感を払拭するには良い機会だ。かの少女の暴言によるストレスも、この陽気な男の雰囲気に当てられてどこかへ飛んでいくだろう。
    そのまま何とはなしにイタリアンを食べようということになり、カンセルに案内されるまま店内へと入った。真面目に何で相手がこの男なのだろうと疑問に思えてくるような内装の、所謂お洒落な雰囲気の店内は、どちらかと言えば男女仲良好なカップルで訪れる方が合っている。

    「―――でも実際羨ましいよ、お前が。アンジールさんだけじゃなくて色んな1stに面倒見て貰えてさ。社内じゃ結構色々言われてるぜ?“美人とペアとか羨ましい”とか・・・。」

    「まー、恵まれてるっちゃ恵まれてるけど・・・。でも訓練はきっついんだぞ?今日なんて二十二か所も傷負っちまって・・・。」

    「実力に差があるのは仕方ねーよ。会見の後色んな実績見直したらしいけど、史上最年少で1stになったって記録は本物だったんだもんな。五年もあのクラスにいりゃあな、見てきた世界も違う筈だぜ。」

    そう言ってカンセルは自身の注文したパスタを完食した。口に付いたパスタソースを紙で丁寧に拭いながら、視線は所々にあるザックスの傷へと向ける。

    「・・・焦らなくて良いんじゃねぇの、お前は。実践行きたいのは分かるけどさ、1st相手に毎日訓練するのって、多分そんじょそこらのミッションよりすげぇことだと思うぜ?」

    「そうかもな。でもさ、目の前の相手が俺じゃ役不足だって顔してるとさ、何かもどかしいんだよなぁ。今だって多分セフィロスと訓練してるんだろーし。」

    「へー。あ、そうか。昨日からロゼさん任務行ってるもんな。相手は英雄しかいない、と・・・。厳しいねぇ!」

    そう。カンセルの言う通り、ロゼは昨日から任務に就いていて、今クロウが鬱憤を晴らす相手は実力的にセフィロスしかいない。何でもロゼが向かった先はこれまた大きな戦場で、彼の投入により戦況が大きくこちらに傾くと予想されている重要なものだと聞いた。ジェネシスの件で寝込んでいた人間と同一人物とは思えない活躍ぶりである。そんな重要な任務なら英雄と称されるセフィロスに声がかかってもおかしくはない筈であるが、曰くロゼが出向けば戦場は一瞬にして終戦を迎えるらしい。カンセルは一度ロゼと同行して戦地へと赴いた経験がある為に、この手の話をするとそれはまあ事細かに説明してくれたものだ。






    『―――――はえー話、こういった事態には“女王”の方が優秀なのさ。神羅としても、1stなんてどデカい勢力に長い間留守にされても困るしな。出向けば一瞬にして勝利を手にして帰ってくるって点では、ロゼさんも間違いなく“英雄”と称されていい人だよ。二番手なんて言われちゃいるが、二人の戦った記録なんてもう何年も前のモンだろ?今じゃどうなのか分かんねーぞ、ホント。』

     別れ際にカンセルはそう言っていた。確かに、仲が良い印象は強いが、魔晄炉でセフィロスから聞いた思い出話の中でも、ロゼはセフィロスとは戦っていなかった。友達のことで寝込むような性格だから、争いごとは避けているのか。兎にも角にも、上二人よりも先ずはその妹を見返さなければならない。今の自分からすれば、その存在は遙か遠い話だ―――――・・・。





    「―――――日に日にセンスが光ってくるな、お前は。だが、まだまだだ。」

     任務に行っていないのを良いことに、ここ数日、昼過ぎになると必ずと言って良い程クロウが自身の元を訪ねてくる。内容は、「お昼を一緒に」や「お茶しよう」なんて可愛いものではなく―――――・・・。

    「戦え。」

    その一言。思えば仲間意識よりも敵意を抱かれていた印象の方が遙かに勝る。馴れ合いを好まないところは他の1stのことを思えば少し寂しいような気もするが、残ったメンバーの中でこうも自身に対し好戦的な視線を向けてくる相手は最早この少女しかいない。丁度訓練相手に事欠いていたところだ、有難い申し出ではある。

    「そろそろザックスが戻ってくる頃じゃないか?」

    室内の時計を見遣れば時刻は午後の一時を回ったところだった。躾の行き届いた子犬のように、ザックスは半前には必ず元のトレーニングルームまで戻ってくる。嫌だ嫌だとぼやく割には忠実な男である。

    「アレもお前と同じタイプだ。成長速度は違うが日に日にセンスが光ってきている。実践にもじき戻れるだろう。」

    そう言って座り込んでいるクロウに左手を差し伸べると、女扱いするなと見事にはたかれてしまった。今のは別にそんなつもりでしたことではなかったが、言われてみれば確かに、目の前の彼女をもう男として見れないのは事実だった。実際先程までの訓練でさえ、必要最小限の攻撃で彼女を負かすことをどれだけ考えたか。女相手に戦えないわけではなかったが、あまり良い気がしないのが本音だ。俺が全力で戦っていないこともお見通しなのだろう、クロウの視線は鋭さを増すばかりだ。

    「・・・お前が殊の外私を異性として見ていることに腹が立つ。さっきのもそうだ。どうすれば最低限の攻撃で私を負かせるか、お前の思考は終始そればかりだった。違うか?」

    「―――――ああ、矢張りお見通しか。・・・すまなかった。だが今すぐにどうこう出来るものでもない。慣れるまで待ってくれ。」

    「慣れるまで、か。いつまで訓練気分でいるんだか。」

    「そうだな。くれぐれも実践にはしないでくれ。お前と戦うのはどうにも忍びない。」

    「何だそれ。」

    「お前もロゼも、ザックスも。俺にとっての大切な仲間だということだ。」

     そうこう言っているうちに長針は半を回ろうとしていた。クロウは立ち上がると近くに置いてあった簡易栄養食を口の中に放り込み部屋を出ていく。ザックスとのトレーニングに戻るのだろう。あんなもので足りるのかとどうでもいいところに思考を奪われたが、ふと思ったことは、一人になってみるとそれはそれで暇だったりするということだ。ロゼは今任務に出向いている為、帰還には最短でもあと一日はかかる。他にトレーニングの相手になりそうな人物もいない。

    「・・・仕方ない。」

    後輩二人の様子でも見に行くかとセフィロスは先程クロウが出ていった後を追うようにトレーニングルームを後にした。





     午後の訓練も大方予想通りの展開となった。大刀一本でさえ止めるのが難しかったのだ。二刀となり、ほぼ倍の速さで攻撃を仕掛けてくるクロウの斬撃を、たった数日のうちに捌き切れる筈もなく。セフィロスは呆れながら光景をただじっと見詰めていた。
     先程クロウにも話したように、ザックスはどちらかと言えば成長は早い方だ。有り余る体力の大凡全てをトレーニングに費やしているのだろう、他のソルジャーと比較すると彼の呑み込みの早さは流石1stだと言って良いものである。しかし、不幸にも彼は人間関係に恵まれていない。語弊があるかもしれないので補足を入れておくが、彼と拮抗した実力者、つまりはライバル的な関係にある人間が一人としていないということだ。現状在籍する1stの中で一番実力が近しい相手がクロウ、2ndのトップなど最早相手にはならないだろう。互いに研鑽を積み切磋琢磨する相手。自分にはロゼが、ジェネシスにはアンジールがいたように、大方のソルジャーには自己に刺激を与えてくれる存在がある。自己流で実力を付けるには相当のコツが必要となる為、同様にライバルに恵まれなかったクロウはそういった面ではザックスとの相性は良い方だ。ペアを組まされた理由の一つに、おそらくここが挙げられるのだろう。

    「慣れてきたっちゃ慣れてきたけど、どうにもなぁ〜。目で追えても体がなかなか追い付かないや。」

     動体視力のみで言えば、圧倒的な経験値をこの短期間で詰めてきている分、彼は優秀だ。無論相手が全力かと問われれば、そうではないのが事実であるが。
     ロゼはザックスに挙動の大きさの改善をするようアドバイスしていたが、クロウの攻撃は防御を最小限に留めようとするザックスの動きを無理矢理大きくしている節がある。広範囲からの攻撃により、防ぐという一点においてはどうしても隙が生じやすくなる。実力差があればあるだけ反撃もしにくい。現状は剣術のみの訓練に徹しているが、これが実践となれば魔法、マテリア、何でもアリだ。まるで新人でもいびっているかのような行動だが、反抗しているというよりはむしろ逆、更に高い技術習得を求めてのことだろう。早く実践に出たいからか何なのかは知らないが、無意識のうちに課題のレベルを上げているのが、ザックスが達成感を得られない理由だ。本人が気づいているかは定かではないが、おかげで自身の基礎レベルがここ数日のうちに格段と磨かれているのもまた然り。成程なかなか上層部も考えている。

    「案外早くに実践に戻れるかもしれないぞ。」

     訓練後、そう言ってザックスの機嫌を取ってやる。打ちのめされてばかりだ、少しは褒美も欲しかろう。が、子犬の頭を撫でてやるとその行為が癇に障ったのかもう一方がお冠状態になった。

    「―――――それはこいつが私に一撃入れる日も近いということか?」

    「えっ!?マジ!?マジマジマジっ!?」

    「・・・実践に早く出たいから連日丸一日かけて面倒を見ているんじゃないのか?」

    双方が自身の言葉に食い付く。片方は期待の眼差しを向けながら。もう一方は怒気を全身から吹き出しながら。

    「こいつが私に追いつけると思っているのか…?」

    矢張り訓練中の行動は無意識だったか。ああ、本当に扱いづらい。

    「本気のお前とはまだまだ比べ物にならないのも分かっている。あくまでペア解消までが近いと言っただけだ。」

    「・・・昔からお前のそういうところが気に入らないんだ…。まるで他人事、余裕の所為か一線引いた目で見ては格下扱い。お前の頭の中はこいつが私に追い付く光景は想像出来ても自分が追い付かれる光景なんざ一切浮かんでないっ…。」

     クロウは続けた。慢心している気はない、する気もない。こいつが強くなるのであれば自分はそれを更に超えてやると。そうして次に続いた一言は、この先俺の中に深く根付くものとなった。







    「覚えておけ、お前が咎を背負った際は私がお前を“殺してやる”―――――。」








    17/05/27 13:56 960   

    ■作者メッセージ
     ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。
     GAYMで書いていた時より話数は更新されてるのに、モデオヘイム編にまだ行けないという亀更新ぶり。前回人間関係の描写を入れるとストーリーにより深みが出るとのご指摘をいただきましたので、今作は割とずるずるした内面描写がメインの作風に変わったのかな、と…笑

     今回の補足説明ですが、まぁ特にはありません。敢えて書くとすれば、強くなるための努力をセフィロスから無視されたことについて、クロウが怒ったというところですかね。彼からすれば二人で訓練しているとどうしても思考や観点が『二人』の幅に狭まっちゃうので仕方のないことなんですけれども。
     ザックスとの訓練はあくまで実践へ出る為の必要条件であり、クロウにとって実践へ出ることは強くなる為の必要条件なわけですね。ストイックな彼女のことなので、勿論上ばかり見て下を見ずなんてことはしてないですが、彼女にとっての強さの基準にはセフィロスが少なからず関与しているんです。そんな彼から「ザックスはいずれ追い付く」だとか「お前とザックスは・・・」ってどこか他人事のようなニュアンスを醸し出され、更には自分が追い抜かれるなんて微塵も思ってないような発言されると、まあ短気な彼女のことですから怒るのかなぁと。

     昔はここまで切れる子じゃなかったんですけど、復讐=激情みたいな方程式が個人的にある分面倒くさい子になっちゃいました。セフィロスも思ってますが、扱いづらい相手ですよね。女の子だから余計なのかも。


     それでは次回更新まで!!
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