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FINAL FANTASY Z

960

INDEX

  • あらすじ
  • 01 序章T 「その戦士、孤独」
  • 02 序章U 「その戦士、焦る」
  • 03  第一話 「ザックス」
  • 04 第二話 「ウータイ」
  • 05 第三話 「灯」
  • 06 第四話 「夢・記憶@」
  • 07 第五話 「曲者揃い」
  • 08 第六話 「対面」
  • 09 第七話 「シスネ」
  • 10 第八話 「黒の訪問者」
  • 11 第九話 「ルシア」
  • 12 第十話 「四人」
  • 13 第十一話 「戯れ」
  • 14 第十二話 「邂逅」
  • 15 第十三話 「エアリス」
  • 16 第十四話 「騒動」
  • 17 第十五話 「神の都市」
  • 18 第十六話 「少女」
  • 19 第十七話 「胎動」
  • 20 第十八話 「虚実」
  • 21 第十九話 「ペア@」
  • 22 第二十話 「ペアA」
  • 23 第二十一話 「夢・記憶A」
  • 24 第二十二話 「夢・記憶B」
  • 25 第二十三話 「宣告」
  • 26 第二十四話 「リバーシ」
  • 27 第二十五話 「接触」
  • 28 第二十六話 「見据える者」
  • 29 第二十七話 「ルーツ」
  • 第九話 「ルシア」

     荒廃した土地を吹き抜ける風が一層その強さを増し、少年の脱ぎ棄てた黒のマントをどこか遠くへと飛ばしていく。先程までは何事もなかった空も、場の雰囲気に同調するかのように曇りはじめ、周辺の壊れた機器類はその子どもの『殺気』に呼応するかのごとく、いや、それにあてられてカタカタと音を立て震えだした。
     1stはそこに属する全てが常人では考えられないほどの何かを有しているとは言われているが、この子どもの持つそれは果たして大気をも支配してしまう程の精神エネルギーか、はたまたこの現象はただの偶然か―――・・・。その異変を感じ取ったルシアは、横目でちらとそれを確認すると、何を思ったのか不気味に笑いながら『殺気』の送り主の方を向き直った。

    「いやぁ、その歳でここまで出来るのは流石天才ってな。でもこれじゃまだ属性も何もあったもんじゃない。一族としてはまだまだ、だ・・。」

     言葉の終わりに金属音が鳴り響いた。
     先程の踏み込みとは段違いの速度・威力で切りかかってきたクロウの斬撃を、まるでこのタイミングでそれが来ると確信していたかのようなそんな速さで、ルシアは手にしていた銃で防ぎ、更にその大刀を力一杯弾き返した。―――が、クロウは怯むことなく、とばされたその体制を立て直すべく空中で一回転すると、今度は手中のレイブレードを一振りの大刀から白と黒の双剣へと換装させ、再びルシア向かって切りかかった。一本の時の単調な攻撃とは一変、両手から繰り出される斬撃にはまるで規則性などなく、隙あらばルシアの胸を貫きにかかる、そんな風に踊る、二匹の蛇のようである。しかし敵もさる者、兄弟の一族を惨殺した張本人であるからして、このレベルの斬撃なら余裕で防いで見せる。実力の程は分からないが、少なくとも最年少記録保持者の息も吐く間もないような攻撃を防いでいるだけでも、十分1stクラスの力は持っていると言えよう。
     金属音が幾度にも渡って響き合うが、この攻防はいつまでたっても平行線、クロウの攻めも、ルシアの防御も、一向に事の転機を見せることはなく、次第にただの体力の消耗戦へとなりつつなっていた。

    「・・・まぁ、少しは落ち着きな、よ――――――ッッッ!!!」

     意味がないと判断したのか、ルシアはクロウの腹部に強烈な蹴りを食らわせ、激しい攻防を一旦収束させる。吹っ飛ばされたクロウは右手の白剣を地に突き刺し衝撃を相殺し、ザックスらに見せていたものとは段違いに冷めた表情でルシアを見詰めた。その瞳はいつもの深みを帯びた蒼ではなく、目の前の仇同様、血に染まった禍々しい鮮血のような色へと変化している。

    「えらく嫌われてるね〜、俺。そんなに殺したかったんだ?」

    「―――――殺す為に神羅に入った。」

     ルシアの余裕そうな表情は相変わらず消えない。それが何だか自分の方が上だと言われているようで、クロウの怒りは限界に達していた。
     目の前の仇を殺す。それが、クロウ・ボルフィードという人間の最大且つ最終目標。復讐さえ遂げられれば―――――こいつさえ殺せれば、あとはどうなったって構わない。そんな覚悟の上、ここにいるのに―――・・・。

    「想われてるのはすっっっごい嬉しいけど・・・、お前、その殺意の裏ちょっとは気付いてるんじゃないの?今のままじゃ殺られるのは自分だってコト・・・。」

     言葉の瞬間、憎しみに染まった紅が、その深みを増した。
     ああ、これは挑発か・・・?
     そうして俺の気を乱そうとしているとか、そんな類のものか?
     俺がお前に敵わない?このままじゃ殺られるのは俺の方だと―――?
     だからその表情なのか?
     必死な俺なんか嘲笑うかのような、そんな余裕な面なのか?

    「分かってんだろ?さっきの攻防も、お前の攻撃は全て、完璧に防いで見せた。おまけに銃はぶっ放すこともなく、ぜぇ〜んぶ斬撃を防ぐために使っただけ。これ以上やったとして、俺がお前に本気になることは有り得ない。その証拠に、格下の相手の攻撃を防ぐなんて朝飯前、だからこその魅惑のスマイルなの。」

    「・・・・・・っ・・!」

     ああ、殺したい・・・。
     殺してやりたい・・・。
     何が格下だ。何が朝飯前だ。何が魅惑のスマイルだ。
     こんな・・・っ・・、こんなふざけた奴に・・・っ・・。

     常に冷静・無表情を纏っていたクロウの表情が、どうしようもなくやるせない、そんなものへと変わっていく。今ので全てを出し切ったとは到底言えないが、精神エネルギーを限界値まで高め実力値の過半数を攻撃に乗せたクロウと、その攻撃を全て防ぎ切り、銃を本来の用途ではなくただの壁として使い、実力的にはまだ余裕のあるルシアとでは、実力そのものが桁違いだった。底が測り知れない。今まで積み上げてきたもの全てを壊されたような、そんな気分がクロウの全てを覆った。
     一族―――――その中でも跳び抜けて強かった彼らの父でさえ、結果冷たい世界で眠ることになった程、相手がとんでもない存在だということをクロウは分かっていた。だから半端なプライドなんざ捨て、神羅で0からのスタートを切り、そうして実力を付けて辿り着いたのがこの1stクラスという地位だ。
     もちろん上には上がいる。最高地位に上り詰め、最年少記録を出したからといって、クロウは決して慢心しなかった。
     任務には常に死が付きまとうような高ランクのものばかりを選んだ。周りから止められても、やめることはなかった。付け加え、自主トレーニングの量はどの1stよりも多く、全身の組織が悲鳴をあげる程自らを追い込んだ。
     科学部門の最高責任者―――宝条に頭を下げて薬まで服用して、今の自分があると言うのに。
     この少年の強さは、そんな自分の今までの努力がまるで無駄だったかのような程、圧倒的だった。

    「・・・ったくいじめ甲斐がねーな。そんなんで心折れちゃうワケ?何のための薬だよ?」

     どうすればいいのか、それすら分からないような暗闇が覆っていた矢先、不意に聞こえた言葉に、クロウはハッと我に返った。

    「待て・・・。何故お前が薬の事を知っている・・・?」

    「それは秘密。完敗を喫したお前に俺の素性は教えてやらない。・・・ただし、これじゃあんまりにも惨めだから、ルシアさんがいくつか情報を与えてやろう。」

     口元に人差し指を立て、しーっと言いながら、ルシアはクロウの目の前まで歩を進める。そして彼の耳にささやくようにして、言葉を発し始めた。

    「一族が他の人間とは違って戦闘能力に長けてるのは知っているだろう?個体差はあるが、その能力が全盛期を誇るのは平均して16〜27歳の時。お前がロゼに勝てないのは奴の能力値が最高値を極めているからだ。そんで、15のお前は現段階においてはその潜在能力を開花させることはないが、このまま肉体的な成長を続ければ、お前はそのうち強く“は”なれる。

    ・・・で、ここからが問題。お前の服用してるその薬、お前の外見を見りゃ一体どんなもんなのかの想像は大体つく。ソレ、細胞後退の薬だろ?何を隠したいのかはしらねーが、お前はそれで自分の細胞を10歳の頃へと後退させ今の姿を保っている。街で色々探ったが、“歳を取らない”ソルジャーって言われてんだってな、傑作だわ。けど失敗、俺らの性質上、その薬は強さを求めるお前にとってはただの足枷にしかなってないんだよ。」

     そう言ってルシアはクロウから離れると大げさに両手を上げて見せ、盛大に高笑いした。
     先程まで震えていた機器類は今は静かにおさまり、暗転していた空もだいぶ回復してきている。風も穏やかだ。そんな中、ルシアの追い打ちとでもいうべき言葉を聞き、遂には戦意を喪失するクロウを見て、ルシアは手に持っていた銃をホルダーへと仕舞い込む。とどめを刺す気がなくなったのか、それとも最初からとどめなど刺す気がなかったのか―――――どちらにせよ、彼の真意が分からず、光景にクロウはただ唖然とするしかなかった。
     そんなクロウの表情が面白いのか、ルシアはプッと吹き出して再び一笑いすると、いつものあの余裕そうな笑みを浮かべ、

    「強くなってからおいで。俺、カワイイコからの挑戦は大歓迎だからさ。」

    と、高らかに言ってのけた。
     雲が晴れ顔を出したのか、彼の背後にある日が彼を照らし、最初のどす黒い漆黒のイメージが、今だけは神々しささえ感じさせるほど眩しいのだから、クロウは何とも言えない胸糞悪さを感じざるを得なかった。そう、これだけを見れば、まるで兄の黒髪バージョンを目の前にしているようで、殺意の裏に何か親近感のようなものを覚えそうで、兎角変な心持がした。
     と、そうこう錯綜していると、どこかからか携帯の着信音が鳴り響き、それがルシアの持っているものからだと分かると、彼はポケットの中でうるさく振動するそれを取り出し、電話の向こうの相手からの言葉に耳を傾けた。

    「もしも〜し?・・・何だ、『アンタ』か・・。」

     そこから先は唐突に二人だけの世界に入ってしまい、いきなりの疎外感を与えられたクロウはこの展開に腹立たしさを覚えるが、ルシアのペースに振り回されている自分が同時に馬鹿らしくも思えたので、目の前の少年から視線を外した。レイブレードを掌から消失させ、先程のルシアの言葉に思考を巡らせる。

     もうメリットはない、か・・・。
     セフィロスにも、知られてしまったしな・・・。

     そうして一つ大きな息を吐くと、電話を切り終えたルシアの方を向き直り、平静さを取り戻したいつもの蒼眼でその姿をしっかり捉えると、口を開いた。

    「いつか!!とどめを刺さなかったことを後悔させてやる。助言をしたことも―――――それがお前の死に繋がる愚行だったということを・・・『私』が・・・ッッッ!!!」

    「・・・楽しみにしてるよ。」

     その宣言に口元にうっすら笑みを浮かべ、ルシアはそれだけ言い残すと背後に現れた魔法陣の中に颯爽と姿を消した。
     一気に静かになったその場に一人残されたクロウは、ズボンのポケットから白い携帯を取り出すと、連絡帳の中から兄の名前を探し出し、コールボタンを押した。相手が出るのにそう時間はかからなかった。電話口の向こうから聞こえる、あの穏やかな声を聴いた時、クロウはルシアが自分にとどめを刺さなかったことに少し感謝した。

    『・・・どうしたの?何か、シスネ曰く任務すっぽかしてどっか行っちゃったんだって?こりゃ後で統括室に呼ばれるね。』

     そう、もしあの男に感謝することがあるとするならそれは二つ。
     一つはこうして今自分が生きながらえていること。
     そうして二つ目は―――――・・・

    「―――兄さん、あのさ・・・。





































    『私』―――――・・・」


     二つ目は、兄さんを生かしておいてくれたこと―――――。




    16/06/05 20:03 960   

    ■作者メッセージ
    お久しぶりです。大学入って一年半、ドタバタしており更新途絶えてましたが、これから復活します。

    今回はクロウは言葉少なく、心情多め、およそクロウ視点になってると思います。その分ルシアにはたくさん喋ってもらいましたが、このキャラはいじわるそうな感じを出したかったし、結構設定的にもおしゃべりなので持ち味出たかな〜と。

    出来ればオリキャラ三人(クロウ、ロゼ、ルシア)の設定画像公開したいと思います。サイズオーバーとかで載らなかったらごめんなさいwww

    感想・意見・質問等々ありましたらどんどん下さいませ!お待ちしています!
    では次回更新までww
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