第十四話 「騒動」
ジェネシスによる神羅襲撃からほどなくした頃―――――。
神羅共々ミッドガルにも以前と変わらぬ平穏が訪れていた、筈だった。いや、平穏と言えば平穏なのだろう。幾ばくか前にザックスらがウータイの本部を壊滅にまで追い込んだおかげで、ミッドガルに忍び込むウータイ兵の数も減少した。更には『女王』と称される1stの復帰によりその他の敵対勢力もまた壊滅にまで追い込まれ、街は正真正銘の平穏を取り戻しつつあると言える。
しかし、改善の一途を辿っていく街の状態とは裏腹に、市民の表情はどこか暗い影を宿していた。そういった市民の変化で特に著しく目立ったのは女性市民と子どもの様子だ。彼女たちは何か人目が憚られるような、そんな表情で、ひっそりとなりをひそめるように暮らしていた。
事の発端は一週間前。どこからともなく流れてきた噂が原因だった。人々も最初は根も葉もないでたらめだろうと気にも留めていなかったのだが、とある筋から噂は現実味を帯び出した。そこからだ、街に暗雲にも似た空気が漂い始めたのは―――・・・。
さて、少し話は逸れるが、ここミッドガルに住む女性人口の約60%は神羅が誇るソルジャークラス1stの誰かしらのファンクラブに加入している。その年齢層の広いこと。若い者は二桁にも満たないであろう年齢から、高齢層に至るまで、実に様々な年齢層が各々理想のソルジャーの情報を得んとこぞってグループを形成している。英雄贔屓は『セフィロスプレミアムファンクラブ』、女王贔屓は『白銀の氷帝』、アンジール贔屓は『森林の会』、ジェネシス贔屓は『赤い革コート』か『勉強班』、そうしてお子様贔屓には『黒の羽』といった具合に、かなり大規模なファンクラブが存在している。人気、実力共に抜きん出た5人の影響力はミッドガルのみならず神羅の管轄する地域なら更なる辺境地、秘境にまで及んでいる具合だ。ファンクラブだけではない。街で遊ぶ子ども達は決まってこの5人の誰かになりきった遊びを展開し出すのだ。
そんな影響力を持った5人のうち2人が消息を絶った。それだけで神羅は一体どれほどの苦労を強いられたことか。
そして今回の騒動。その中心にいる人物はまたしても1stの一人であった。拡散した噂はこうである。
“クロウ・ボルフィードが失踪した。”
この噂が力を得たのは彼を支持するファンクラブ―――『黒の羽』がここ1週間を超える日数でクロウ本人の情報を得られていないことが原因だった。情報と言ってもクロウについて会員が知っていることは名前と身長、体重くらいのもので、彼の出生に関する情報やその他一切のパーソナルデータは公開されていない為、活動といっても3日に一度の割合で会員bOから送られてくる彼の社内の様子を写した写真を見て現を抜かすだけのものだ。因みにファンクラブのbOは彼の実兄のロゼである。
ロゼと言えば少し前までは体調不良のため少しの間活動を休止していたが、今はそんな影を微塵も感じさせないくらいに元気に動き回っている。『白銀の氷帝』に加入しているメンバーは毎日がお祭り騒ぎのようなものだった。何より実兄である。兄である彼にその動向が掴めないと言うのであれば、これは何かあったに違いないのだ。
そうして情報の根絶、兄の証言、ファンの焦燥と噂を現実にしていく要素は日に日に色濃くなり、遂には神羅側からクロウの姿を見ていないという発表をするものだから、遂にはファン関係なく街全体がこの噂で持ち切りになった。
神羅側としてもこの事態にはほとほと困り果てていた。ただでさえ未解決の大きな事件があるというのに、追い打ちをかけるように再び1stの一人が姿を消したという。ラザードも毎日のようにロゼとセフィロスを部屋へ呼びつけ捜索にあたらせたが、今のところ状況の進展は見られない。
「ジェネシスの本社襲撃の際、彼と最後まで行動を共にしていたのは君だっただろう?その後はどうしたんだね?」
「事を収束させた日は確かに一緒だったよ。翌日早朝トレーニングルームに行ったら当の本人がいなかったから、心配して部屋を訪ねたらもぬけのからだったんだ。何度説明したら納得する?」
「・・・分かったもういい。君達は引き続き彼の行きそうな場所をあたってくれ。本社に押しかけているファンクラブの連中はこちらで何とかしよう。」
連日騒動になっては上役は目頭を押さえてばかりだ。盛大に吐き出されたため息の理由も分からなくはない。疲れ切っているラザードの様子を視界の端に捉え、ロゼは大きく肩を落としながら英雄とともに部屋をあとにした。
「あぁ、ジェネシス達に引き続き今度はクロウか・・・。大概厄日ばかりだね、俺も君も。」
そう言って白銀の柳眉をしかめて見せた麗人は、自身の横に並んで歩く超人向けて視線を送る。そんな友の眼差しを受けてセフィロスは表情一つ変えずに飄々とした口調で続けた。
「―――行き先。見当がついてるんだろう?」
「まあね。」
「良いのか?ラザードに言わなくて。」
「こればかりはね、言えないよ。上にだって内密にしてるパーソナルデータがばれちゃうもんね。」
「で?そんなこと、俺に喋っても大丈夫なのか?」
「“薬”のことも話しちゃったし。何より君は、アンジールらの抹殺に失敗しようと画策したあのセフィロスですから?」
「・・・誰から聞いた?」
「『仲間』。」
「ザックスか。あのお喋りめ。」
「まぁまぁ、俺感動したんだよ?そんな君だからこそ、こうして招待してるんじゃないか。」
促されるまま、というよりはただひたすらにこの美貌を誇る親友に付いていった結果。案内されたのは神羅から少し離れた飛行場だった。それでも本社が管轄する施設内であることには変わりなく、パーソナルデータ云々の件は一体どうしたのかとセフィロスは疑問に思う。
「飛空艇で行くのか?」
「そう。」
「神羅のだぞ。」
「ここにね、信頼できる技師がいるんだ。組織と言うよりは、『夢』に忠実な男がね。」
数々の飛空艇や飛行船の往来発着のせいで吹き荒れる風が、目の前の男の白銀の髪を荒々しく梳き流していく――――――が、この男が振り向いた瞬間に見せたまばゆいほど美しく、それでいてどこか悪戯めいた印象を与える微笑みに、英雄と称されるこの男はほんの僅かながらに目を奪われた。荒々しさなんて忘れさせる、見る者を恍惚とさせる美貌。それもあった。それもあったが、セフィロスが目を奪われたのはもっと別の部分―――――長く伸ばしたせいで普段は見ることのできない彼の右側の部分から、夜の闇のせいで暗く沈んだ、猟奇的ともとれる緑色の瞳が垣間見えたからであった。
「シドー――――っ!!」
その声にふと我に返れば、目の前にあの美貌はもうなく、気付けばロゼは一人の金髪の作業員に声をかけており何やら話し込んでいた。戻ってきた時には満面の笑みを浮かべ、どこかしら楽しそうだった。彼の容貌についての思いなど横へと放り投げ正常に頭を働かせ始めたセフィロスはここに来た当初ぶつかった問題を再度頭の端から抽出する。そう、彼は何と言っても神羅の人間だ。信用できるのか、という思いを胸に先程の作業員に視線を向けると、どこかしら見た覚えのある男であることに気が付いた。はて、どこで見たんだったか。そんな英雄の様子に気が付いたか、親切にもロゼは視線の先―――先程話し込んでいた男について説明してくれた。
「彼はね、神羅が誇る有数の科学技師だよ。宇宙進出計画の核を担っている男で、名前はシド・ハイウインドっていうんだ。本社のエントランスに彼の名前が刻まれた宇宙ロケットのレプリカがあっただろう?あれの製作者だよ。」
ああ、と得心がいった。そうだ、科学部門となると嫌な男の顔ばかりが浮かんでどうにも印象が薄かったが、確かにそんな名前の技師がいたことを思い出す。
「彼の思想には興味があってね、少しばかり援助をしているんだ。里帰りの際も彼の飛空艇の性能を試すという条件付きで秘密裏に力を貸してもらってるんだよ。神羅やタークスが俺たちの情報を掴めないのは彼のおかげと言ってもいい。」
「なるほど。灯台下暗しとはこのことか。」
「そういうこと。さ、共謀者君。未踏の地へついてくるならばこの手を取りたまえよ!まぁここまで話して来ないなんてことはないんだろうけど。」
今回の旅路を支えてくれる白基調の大型の飛空艇の入口階段に足をかけ、振り向きざまに手を差し伸べて見せた友の手を、セフィロスは少年時代に戻ったような心持で掴んだ。少々好奇心が渦巻いている。こんな感じは久し振りだ。
そうして雄二人は空の旅路へ出たのであった。
向かうは、彼ら一族の栄えた古代都市―――――ユニゾンレイヴ
■作者メッセージ
うっは、一気に三話更新か疲れたぁ。
FFZの世界ってあの重層感が半端なく良いんですけどね。
後半一気にファンタジー世界へ旅立っちゃったよ。
この時期はちょうど神羅襲撃からモデオヘイムへいくまでの間の期間として書いております。モデオヘイムにはオリキャラ絡ませていきたいなぁ・・・なんて思ってるので、ロゼはクロウを早く何とかしましょうね(*^-^*)←
それにしてもロゼは一体いつザックスと対面したんでしょうね、それも視点を戻したら書いていきたいなぁ。
読んでくださった皆様ありがとうございました!
FFZの世界ってあの重層感が半端なく良いんですけどね。
後半一気にファンタジー世界へ旅立っちゃったよ。
この時期はちょうど神羅襲撃からモデオヘイムへいくまでの間の期間として書いております。モデオヘイムにはオリキャラ絡ませていきたいなぁ・・・なんて思ってるので、ロゼはクロウを早く何とかしましょうね(*^-^*)←
それにしてもロゼは一体いつザックスと対面したんでしょうね、それも視点を戻したら書いていきたいなぁ。
読んでくださった皆様ありがとうございました!