第十五話 「神の都市」
男の手を取り飛空艇に乗り込んだものの、乗員たった2人にこの船はいささか大きすぎる気がする。ハンドルを握り船を操縦する親友の姿を傍目に、英雄はふとそんなことを考えた。別段VIP待遇の空の旅に出るわけでもないのだ。ましてや発進は神羅所有の飛行場だというのだから、人目につくわけにはいかない筈なのに、何を思ってか友が誇る科学技師は小さな小型艇ではなく最新の大型艇を貸し与えてくれた。
「良し。船も軌道に乗ったし、自動操縦にも切り替えたからこれで俺ものんびり出来る!」
そう言って自身の元へと駆けてきたのはこの船旅へと招待した張本人―――――ロゼ。彼は至って平静な様子で船室前方180度に大きく設けられた窓から一望できる景色を見渡した。
船が離陸してからおよそ半時間。この大きな白い巨体はミッドガルから北西の方向へと進んでいた。もうすぐ行けばボーンビレッジの上空に差し掛かるだろう。自動操縦へと切り替えたと言うことは、これから向かうのはそれよりも先ということになるが―――。アイシクルロッジをも越えてしまうと大陸にはもはや大空洞以外目ぼしい場所はなかったように思われる。クロウの居場所に心当たりがあると言っていたが、一体どこに向かっているというのか。
「ロゼ、これから向かう先は一体―――・・・。」
「ん?あぁ、そう言えば行き先まだ伝えてなかったね。『ユニゾンレイヴ』だよ。」
「“神の都市”か―――!」
「そう。結構かかるから、寝るなり何なりしてくれて良いよ。北の大陸を越えて更に先にある都市だからね。」
ユニゾンレイヴ―――通称『神の都市』と呼ばれているその場所は、およそ位置的に固まっている大陸からかなり北西へとかけ離れた場所に、孤立したかのように存在する一つの大陸に存在するとされる伝説の都市だった。伝説やら神やらと神聖めいた呼び名が付けられているのは、大陸自体が未開の土地として有名であるからだ。神羅やウータイといった大組織が過去に侵入を試みたことはあったが、大陸へ入った人間が帰ってきたという情報は一切なかったらしい。それでも明らかに人工的な都市のいくつかが上空からの撮影により確認され、建造物などの異様な白さから見出される畏怖にも似た神々しさは、その存在を『愚かな人間の侵入を断罪する神々の住まう都市』として有名にさせた。ユニゾンレイヴという名もどこに起源を発しているかは定かではないが、神々の住まう都市に相応しい神秘さを踏まえ『ユニゾン(調和)』、人間の侵入を断じて許さない様より『レイヴ(荒れ狂う)』といった言葉を当てはめたものだというのが今や通説となっている。
「―――そんな場所に何故クロウが?」
「言わなかったっけ、里帰りだって。」
「お前たちはあの大陸から来たというのか―――!?」
「エイリアンが来たみたいな言い方するなよぉ。君たち他大陸の人間が故郷のことを一線引いた存在みたいに扱ってるのは知ってるけどさ。住んでたのは神でも何でもない、ちょっと特殊なだけの、同じ人間さ。」
思いのほか英雄の反応が大きかったの対し、ロゼは困ったように眉を寄せていわゆるジト目で彼の方に視線を送る。
「―――特殊な一族だけが住んでる大陸だったんだ。今はもう無人だけどね。その昔に神羅兵やウータイ兵が乗り込んできたときは、俺の父さんやその先代が侵入を阻止してたんだよ。」
今来られたらひとたまりもないけどね。ロゼはそう言って苦笑した。
「それでも迎撃用のシステムはまだ作動してるし、昔のこともあってか組織は乗り込んでくることがなくてね。里帰りした時に依然と状態が変わらないのを確認してたから、何かから隠れたり一人になりたい時にはここしかないと思ったわけ。」
「それで今回・・・。」
「そう。行くのに結構かかる場所だから、一週間クラスで姿が見えないとなれば多分そうだろうって。仮にも1stなわけだし、どこか違う場所へ行くにしろ何かしらの目撃情報が入るでしょ。それもないんじゃね。」
「なるほど。珍しく動揺もしていなかったから何かあるとは思っていたが―――そこは流石兄と言うべきか。それで?何故そんな辺境地に?」
質問にロゼは口を噤んだ。セフィロスの言う通り、クロウの失踪を知っても自分が動揺せずにいられたのはすぐさま故郷の存在が浮かんだからだ。それというのも、ここ最近のうちに自分たちのルーツを見直さなければならない必要性を感じ、頭の中にその存在が浮き沈みしていたせいだ。
あの日―――――神羅襲撃の前、ミッドガルに攻めてきたジェネシスコピーの討伐に駆り出された時、偶然街で会ったシスネとザックスから、クロウが何者かを追跡してこの先の廃品集積所の方へと向かったのを聞いた。その後小一時間もしないうちにクロウ本人から電話がかかってきたので、無事を確認出来たこともあり一先ずは安心していたが、その声色や口調から何かしらの変化が読み取れた。敵を追っていったと聞いていた割には本人には珍しい、ひどく穏やかな口調だった上、それ以上に決定的だったのは自分のことを『私』と言っていたことだ。そうして襲撃の際、幾日かぶりに見たクロウの目はどこか違うところを見ているような、そんな印象を与えた。
「・・・―――――それを本人に確かめに行くのさ。」
セフィロスに当てていた視線を正面へと戻すと、ロゼは吹き付ける吹雪に対してその眼を細めた。
―――――随分と話し込んでいたらしい。船はもうじきアイシクルロッジ上空へと差し掛かっていた。
その大陸は、白と緑が調和する、広大な自然に溢れた場所だった。ミッドガルのそれとは違い、青々と茂る大木から成る森林、一面に咲き誇る花畑、水底まで見渡せるほど澄んだ湖、空から受ける太陽の日を赤々と受ける岩山と、自然と括られるものが凝縮されたように、この地は生命に満ち溢れていた。
中でもセフィロスの視線を奪ったのは、そんな広大な自然と融合するように点在する白―――――『神の都市』と呼ばれる、白い大理石から作られた古代都市だった。
「・・・驚いた。不思議な光景だ。これら全てがユニゾンレイヴなのか?」
焦点は見渡せる景色に張り付かせたままの状態でセフィロスはそう尋ねた。操縦席へと戻っていたロゼは、ハンドルを操る傍らその視界に窓から見渡せる調和を捉える。
「いや、点在している都市それぞれに違った名称がある。ユニゾンレイヴはそれらの中でも一番大きな古代都市のことで、起点部に目立つ大きな城があるから、一目で分かるよ。規模も他のとは違うしね。」
「そうか。」
「・・・・・・。」
ここまで何かに見とれている英雄の姿を見るのは何年ぶりだろうか。その理由も、まぁ分からなくはないのだけれど。
この大陸の特徴的なところは古代都市とその他の自然がまるで融合したかのように連なり合っている点だ。マーブル模様のように別段区別されていることもなく、都市は自然と絡み合い、住人は人の温もりと自然の恩恵を同時に受け生活を営んでいた。
そうして特徴的な点と言えばもう一つ。ここは―――――この場所は大陸に成る全ての色素が一般と比べて薄い。建造物に関しては言うまでもないが、特に顕著なのはこの地が誇る自然。木々も草花も、湖も、岩山も、そのどれもがまぶしすぎる日の光を受け失色したように芯を失い、透明感に満ちた不思議な状態で時に身を委ねているのだ。そんな自然が、その全てを純白の大理石で構築された都市と混ざり合っているのだ。どこからともなく皆の概念として定着した神々しさは、実はこの景観にあるのではないかと―――――この地を知る者は考えるのだ。
かつて栄えていたであろう都市に最早人の気配は微塵も感じられないが、家や石柱の所々に見受けられる亀裂や、そこに生えた苔の様子でさえも、古び寂びれた印象とはかけ離れた神秘さを生み出す。大陸全土に降り注ぐ太陽光が白く透明なこの地を照らすその光景が、神の都市たる所以。
長くはなくとも、少なくともこの地を見慣れた自分にとってはその思いの丈全てに共感を示すことは出来ないが、それでも何とはなしに理解は出来よう。
「良かったねぇ、ザックス連れてこなくて。こんな子どもっぽい君の姿見たら、きっと笑われちゃうよ。」
そう言って発言者は笑っている。
「いい年した大人のくせにさぁ〜。」
・・・なかなか腹立つ物言いである。が、セフィロスは放っておこうと決心しその後ロゼが何と言ってきても振り返らずに無視することを決めた。
そうして白い巨躯は巨大な城の聳え立つこの地最大の古代都市、ユニゾンレイヴを捉えたのであった。
■作者メッセージ
今回もとんでも設定が繰り広げられております。
まずFFZの世界地図に大陸を一個追加するところから・・・
最初は古代種の神殿のある小さな大陸あたりを想定してたんですが、何分色々とイレギュラーな存在のため大陸から新しく作っちゃいました!(/ω\)
今回は前回に引き続きセフィロスとロゼの会話が多めになってますね!
仲いいんだぞ!ってところを描きたかっただけです、はい。
前回は何気にロゼの航空趣味が暴露され、今回は地味に飛空艇操縦してますからね。
こんな設定過去にはなかったんですけど・・・。
今回は大陸の様子と二人の会話メインに話を進ませました。
本編次回ではクロウの話を動かしていく予定です!
ここまで読んでくださった皆様ありがとうございます!